1
明星大学望遠鏡によるフレア星
EV Lac の観測
2
目次
要旨
1 フレア星と EV Lac p4
2 観測
p6
2.1 使用機材
p6~7
2.2 観測方法
p8
3 画像解析
p10
3.1 画像処理
p10
3.2 光度測定
p11
4 観測結果
p12
5 考察
p18
謝辞
p20
参考文献
p20
3 要旨 本研究ではフレア星 EV Lac のフレアの発生数と大きさについて求めることを目的と し、大学構内にある 40cm リッチー・クレチアン式望遠鏡と CCD カメラを用いてフレア 星のEV Lac の観測を行った。その結果、2014/12/19~2014/12/24 の期間中の 4 日、2~3 時 間ごとのB バンドの光度曲線を得ることができた。ここから、約 9 時間中の全観測時間中、 2 個のフレアを抽出しその中で大きい方のフレアのエネルギーの放出量が1×10!"J である ことがわかった。
4
1 フレア星と EV Lac
―目標のフレア星― 太陽で起きるフレアと同じ爆発現象によって非常に大きく増光する天体がある。このよ うな星をフレア星や閃光星と呼ぶ。フレア星は変光星総合(GCVS)カタログでは、UV Cet 型星と呼ばれる。フレア星はいつ起こるかはわからないので観測の周期は不規則である。 また、フレアが起きてから暗くなるため数分から数時間と短い。 太陽フレアでは太陽の明るさはほとんど変わらないが、フレア星では大きく増光する。 理由はフレア星はふつう太陽より光度がずっと低い星で、太陽フレアと比べてそれほど規 模が大きくないフレアでも星本体の明るさをこえて増光するからである。 太陽フレアは黒点の周辺など磁場が強い活動領域で起こる。フレア星でも同様であるが 太陽と比べてずっと大きな活動領域が存在すると考えられる。 図1.1 の EV Lac の光度曲線 2010 年 10 月 17 日 EV Lac B バンド 京都大学のフレア星EV Lac 超低分散高速分光観測 著者 野上大作, 蔵本哲也5 ―目標星の変光星タイプ― EV Lac 星 EV Lac トカゲ座 等級 : V=10.09:B=11.8 スペクトル型 : M4.5V 距離 : 16.5 光年 半径 : 0.41R◎ 赤経 22:46:49.73 赤緯 +44:20:02.4
Type UV+BY Spec(スペクトル型)
図1.2 フレア星 EVLac のフレア放出予想図 http://win.eanweb.com/prog_maass_monterosso.htm
6
2 観測
2.1 使用機材 ―リッチー・クレチアン式望遠鏡(Ritchey-Chretien telescope)― リッチークレチアン望遠鏡(又はリッチークレティアン)は、RC 望遠鏡と呼ばれている天 体望遠鏡である。カセグレン式望遠鏡の一種で、視野が広くて明るいのが特徴である。凹 面鏡(放物面)で集めた光を凸面鏡(双曲(そうきょく)面)で引きのばし、凹面鏡の後 ろ側で観察する。筒(つつ)の長さの割に焦点距離(しょうてんきょり)が長くできる。 クラシカル(古典的)カセグレンとも呼ばれる。 本研究では大学構内にあるこの型の望遠鏡で観測を行った。 口径40cm 焦点距離 2800mm 図2.1 リッチー・クレチアン式望遠鏡 ―冷却CCD カメラ―CCDとは、「Charge Coupled Device」を略した名称で、日本語では「電荷結合素子」 と呼ばれている。各画素に蓄えられている光量の情報を取り出す方法として、画素ごとの 電荷を結合しながら一列に転送する構造のイメージセンサのことである。電荷の転送方式 にはいくつかの種類があるが、冷却CCDカメラは、基本的にフレーム転送方式と同様で ある。しかし、現在のほとんどの機種が「フルフレーム型」と呼ばれる方式である。一時 的にフレーム・メモリ(マスクをかけた別のCCDなど)に蓄積せずに直接A/D変換さ れる仕組みである。 CCDの性能向上は近年目覚しく、解像度は写真フィルムと同等になっている。大量生 産されるものは価格が安く、イメージセンサとしてビデオカメラなどに多くの家電製品に 使用されており、幅広く一般に普及している。最近のCCDは、非常にノイズが低い製品
7 が開発されている。特にデジタルカメラの 冷却CCDカメラによる一部製品では、3~5 分間の露出まではノイズがあまり目立たず、天体撮像に十分実用できるものが開発された。 これは、発生ノイズが極端に少ないCCDを採用しており、さらに自動で補正される、優 れたノイズ・リダクション機能を持っているからである。 CCDは、冷却することにより暗電流が減る特性がある。そこで考案されたのが冷却C CDカメラである。低温になるにつれ暗電流ノイズが少なくなるので、その分、長時間露 出が可能となる。ただし、温度を下げるだけではノイズは完全にはなくならない。 今、研究で使用したCCD カメラはジョンソンフィルターが装填されており、そのうち波 長域が最適であるB フィルターを使用した。 図2.2 冷却 CCD カメラ 【BITRAN BN-52E】
8 2.2 観測方法
―目標星観測用星図―
目標天体は、フレアが観測しやすいEV Lac と決定した。
参考文献「恒星の世界」においてUV Cet 型フレア星として、UV Cet を含め 5 つの星の 名があげられていた。その候補として観測可能性を調べたものが、UV Cet、AD Leo、Yz CMi、 61 Cyg と EV Lac の5つである。この 5 つをステラナビで調べた結果、UV Cet は高度が 低かったので明星大学の望遠鏡による観測に適さなかった。AD Leo と Yz CMi と 61cyg は11~2 月の中で観測可能な時間が昼間の時間だったので観測が不可能であった。残る EV Lac は、観測時間が夜の時間帯で高度が高かったのでこれを観測した。 次にAAVSO(アメリカ変光星観測者協会:変光星に興味を持つアマチュアとプロの天文 学者らによる国際的な非営利団体)のウェブサイトから目標天体の星図を手に入れ、これ を基準に観測を行った。 観測を行う前に、その星図の中から目標天体の同視野内のできるだけ近い位置にある、 変光しないまたは、変光が少ない恒星を比較星(標準星)として2 つ選定した。 星の明るさは地上で観測する際に、地球大気層の状態の変化により画像ごとに明るさが 変化することがあり得る。そのため、目標星だけでは光度変化がわからないという問題が 発生してしまう。フレア星の明るさの変化を観測するためには、その近くにある変光しな い星の明るさと相対的に光度を比較する手法をとる必要がある。したがって、比較星選び は厳密に行わなければならない。 今回観測に使用した比較星は、図2.3 の AAVSO にある 107 と 98 である。比較星の等級 もAAVSO にて入手できる。
9
10
3 画像解析
3.1 画像処理 3.1.1 ダークフレーム補正 冷却CCDは、光が全く当たっていない状態でも、暗電流と呼ばれる熱的に発生する電 流が生じ、画素ごとにレベルが異なる電荷信号が出力され、画像には主に白点のノイズと して現れる。この暗電流によるノイズを「暗電流ノイズ(ダーク・カレント・ノイズ)」と いう。露出時間が長くなるほど、たくさんのノイズが出現し、常温では、数秒間以上の露 出をかけると、画像全体がノイズに埋もれてしまう。よってCCD 面を冷却しなければなら ない。そのノイズを軽減する構造を持つのが冷却CCD である。この暗電流の画像を引いて やらなくてはいけない。暗電流の画像をダークフレームという。このダークフレームを得 るには、CCD 表面に全く光が当たらないようにし、ライトフレームを撮像したときと同じ 露出時間と冷却温度で撮像すればよい。 3.1.2 フラットフレーム補正 本来の画像(ライトフレーム)にはデジタルノイズと周辺減光やホコリの影やCCD 各ピ クセルの感度のムラや、CCD 表面に付着したゴミ等が存在する。また、冷却 CCD で撮っ た画像の端は中央に対して輝度値の減少があり、画像内の光の量は使用した光学系によっ て均一ではないという問題がある。これらのものを補正するために、均一な光源を撮像し たものが必要になる。これをフラットフレーム画像という。 そして、このフラットフレーム画像でライトフレーム画像を除算する。 図.3.1 .フラットフレーム11 3.2 光度測定 画像処理及び測光にはステライメージを使用した。SKY 他の設定値は自動とし、測光値 はExcel によって検証した。 図3.2 ステライメージによる光度測定
12
4 観測結果
観測データをステライメージで測光し、テキストデータを Excel に比較入力して比較星 2 つの等級を入力し、目標天体である EV Lac の光度を算出する。その後、比較星2つのカ ウント数と EV Lac 星のカウント数を使い、求めた光度の精度について B バンドのデータ をグラフ化する。今回使用した比較星の等級はB バンドで 107 は 10.950 等級、98 は 11.250 等級である。 等級 図4.1 2014/12/19 EV Lac B バンド 光度曲線 11.3 11.4 11.5 11.6 11.7 11.8 11.9 12 12.1 0.42 0.44 0.46 0.48 0.5 0.5213 等級 図4.2 2014/12/22 EV Lac B バンド 光度曲線 等級 図4.3 2014/12/23 EV Lac B バンド 光度曲線 11.3 11.4 11.5 11.6 11.7 11.8 11.9 12 12.1 0.38 0.4 0.42 0.44 0.46 0.48 0.5 11.3 11.4 11.5 11.6 11.7 11.8 11.9 12 12.1 0.38 0.4 0.42 0.44 0.46 0.48 0.5
14 等級 図4.4 2014/12/24 EV Lac B バンド 光度曲線 フレア候補の抽出 今回の観測でフレアと思われる光度曲線を観測した。しかし、本当にフレアによって光 度が上がったかどうかはわからないので今回フレア候補について有意性を検定するために 以下の方法をとった。まずEV Lac のカウント数と比較星1のカウント数を用いて調べるこ とにした。 使用した検定法は、検定する数値の平均からのずれを標本全体の標準偏差で割った量で 見る方法である。まず、大気の状態変化の影響を打ち消すためにEV Lac のカウント数と比 較星1のカウント数の比を使うことにした。Ei を EV Lac のカウント数、Ci を比較星1の カウント数とすると、EV Lac のカウント数を比較星1のカウント数で割った値𝑋𝑖は 、(i は五秒ごとに取った一連のデータのi 番目である。) 𝑋𝑖=𝐸𝑖/𝐶𝑖 である。 そして、この Xi から平均 Xm と標準偏差σを計算し、平均からのずれの度合いをみる量、 Yi を以下のように計算する。、 𝑌𝑖=(𝑋𝑖−𝑋m)/𝜎 この量が3以上になると、カウント数の増加はデータの標準的なばらつきとは考えにく く、フレアが起きていると言える。 この結果、図4.5 と図 4.6 に赤丸で囲んだ2箇所がフレアの可能性が高いと判定された。 図4.5 のものは 2014/12/22 のもので、高い有意性が示されており、十分な自信を持って 11.3 11.4 11.5 11.6 11.7 11.8 11.9 12 12.1 0.36 0.38 0.4 0.42 0.44 0.46 0.48 0.5
15 フレアであると言える。 図4.6 は 2014/12/23 のもので、有意性はあまり高いとは言えない。しかし、値が上がり かけているので観測を続けていればもう少し大きなフレアを見つけることができたかもし れない。 Yi 図4.5 2014/12/22 EV Lac B バンド フレア候補の有意性の検定 Yi 図4.6 2014/12/23 EV Lac B バンド フレア候補の有意性の検定 有意性の高かった2014/12/22 のフレアについて、EV Lac の明るさを等級に直した光度 曲線を、図4.7 に示した。EV Lac がこのフレアの時、11.3 等近くまで明るくなったことが 見てとれる。なお、フレアの最後に、むしろ減光しているように見える部分があるが、有 -10 -5 0 5 10 15 20 25 0.4 0.42 0.44 0.46 0.48 0.5 -10 -5 0 5 10 15 20 25 0.35 0.37 0.39 0.41 0.43 0.45 0.47 0.49 0.51 UT{day} UT{day}
16 意度Yi は3を超えるものではなかった。また、この時間帯はちょうど大気の状態が悪く 比較星2つの明るさも影響を受けていた。これらのことからこの減光は有意なものではな いと考えられる。 等級 UT{day} 図4.7 2014/12/22 EV Lac B バンド 光度曲線 今回観測したフレアの中で最大のもの である。このフレアの放出量を求める。 今回の観測で確認されたフレアの中で最大のフレアの放出されたエネルギー量について 求める。先ほどのフレアの有意性から求めた式の一部を使って説明する。まず、EV Lac の カウント数を比較星1のカウント数で割った値Xi を使う。この Xi の平均量を Xm とすると このXi の平均からの増加量をΔX と表すことができる。これを式で表すと、 ΔX= !(𝑋𝑖 − 𝑋𝑚) ! となる。ΔX は 2.4 という値を取る。 そして、フレアのカウント数の増加をΔE とし、C を比較星1のカウント数として、 ΔE=ΔX×C で表される。 このままであると、フレア時に、EV Lac 自身の定常時のカウント数からどれくらいカウ ントが増えたのかがわからないので、比較星1のカウント数を、EV Lac の定常時のカウン ト数におきかえることにする。比較星1のカウント数C は、EV Lac の定常時のカウント数 Es のα倍であるとすると、 C= α Es となる。このとき、α は 2 である。これを先ほどのフレアのカウント数の増光と比較星1の カウント数の式に代入すると、 ΔE=ΔX× α ×Es 11.3 11.4 11.5 11.6 11.7 11.8 11.9 12 0.472 0.474 0.476 0.478 0.48 0.482
17 となる。
次に、フレアで放出された全エネルギー、ΔU を計算する。 ここで Us は、EV Lac が定常 的の露出時間(5秒内)ごとに放出しているエネルギーとする。そして、
ΔE: ΔU =Es:Us を仮定すると ΔU =ΔX× α×Us と表すことができる。 EV Lac の定常的な光度~4×10!"J𝑠!!を考慮してΔU を計算すると(ΔX は 2.4、α は 2 である。) ΔU=2.4×2×5s×4×10!"J𝑠!! ~1×10!"J を得る。 よって今回の観測で確認された EV Lac の中で最大のフレアのエネルギー放出量は、 1×10!"Jとなる。
18
5 考察
今回観測したフレアのプロファイルと京都大学グループによるフレア観測の結果(図1.1) との比較を行った。その結果、フレアの増光の大きさはどちらもほぼ0.5 等とよく似ていた。 しかし、今回の明星大学の結果ではフレアの継続時間が約90 秒であったのに対し、京都大 学のものは、継続時間がおよそ430 秒であった。 明星大学の望遠鏡は大学の望遠鏡としては小さくないが、口径 1.5 m の広島大学の望遠 鏡と比べるとかなり小さい。また、広島大学 の望遠鏡は、観測波長域 360-1000nm、波長 分解能R~20、時間分解能1秒という高速分光装置を持つ高性能な望遠鏡である。さらに、 明星大学望遠鏡は同時多波長観測ができないため、明星大学の望遠鏡では一つの波長でし か観測できなかった。 フレアの頻度について今回の明星大学の望遠鏡による観測では、9 時間の観測中確認され たフレアとみられるものが2個であった。これまでの観測論文によれば47 時間当たり、31 個との記録がある。今回観測したフレア頻度は、その論文の頻度と比べて少なかったが、 もともとばらつきがあるためそれほど矛盾していないと言えるだろう。 今回観測した中で最大のフレアの放出エネルギー量はおよそ 1×10!"J であった。太陽で は、10!" J 程度のフレアは平均して 10 日から数 10 日に 1 度起こる。EV Lac においてこ の程度のフレアが起こる頻度は、太陽よりかなり高いと推定される。 今回の観測でフレア星の出しているフレアが太陽フレアと比べてそれほど変わりないエ ネルギーを出している点は興味深いものであった。 これらの観測結果は、総じて、これまでの観測による結果と矛盾のないものであった。 最後に今回の観測を行った感想と反省を述べる。 正直なところ、今回は卒業研究ではじめて行う分野の観測だったのでかなり手こずって しまった。 今回の観測は、B バンドで観測を行ったが本来であるならば U バンドで観測を行うのが 好ましい。なぜなら、EV Lac は M 型星であり赤い波長域の光が優勢であるのに対し、フ レアは青いほうの光が優勢であるので、フレア検出には可視光中一番青い波長域の U バン ドが有利だからである。しかし、明星大学の冷却 CCD カメラには U バンドがなかったの で次に青に近いB バンドを選んだ。 今回、観測時間が不十分であり、明星大学の望遠鏡では時間分解能が高くなかったので、 もっと精度の高い望遠鏡で観測を行えば結果は変わっていた可能性が高い。さらに、EV Lac を観測したときにデータ量が多くステライメージを使った整約に時間がかかって、すべて のデータを処理することができなかった。もし、次回観測するなら専用のプログラムを作 って観測したデータを自動的に走らせるようにすれば、より正確に、またより多くのデー タを処理することができるだろう。19 今回はEV Lac 星だけの観測であったが、次回は別のフレア星を観測してフレア星の発生 頻度に対する違いを見たり、もっと長期にデータを取って長期的な活動を見ることもよい かもしれない。 今回はデータ処理で時間がかかってしまったが、もっとフレアを検出できるようにすれば、 太陽や恒星ごとのフレアの違いもわかるようになり、太陽も含めた恒星のフレア現象の総 合的理解をもっと高めることができるだろう。
20