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<貢献>と<享受>の概念

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<貢献>と<享受>の概念

G‑N社会学の<一般的方針>について‑

中野秀一郎

1問題の所在

T・パーソンズは,その最近の著書(1)の中で, 「行為の下位体系」と「社会 とその環境」に関する「見事な」整理を完了したようであるが,その基本的発 想は,すでに早くよりかれの諸研究の中で展開されてきたあの全体体系志向の 方向を益々強く推し進めているように思われる(特に,サイバネティック・モ デルによる社会体系‑というよりは,むしろこれをその一部分とする人間行 為の体系‑の統制・秩序の側面が明確に定式化されている).もちろん,か

れの成し遂げた体系一機能主義的分析(System‑Functionalism)の体系化 は,今日のアメリカ社会学における理論的収赦(theoretical convergence) を示しているし,そうした意味でかれの社会学理論への貢献は充分評価されね ばならないが(2)にも拘らず,その体系化の方向に一抹の不安を拭い切れぬの はどうも否定し難いことである.すなわち,そこでは,人間の行為が,一方で

° ° ° ° ° °

は,価値や規範の自我‑の内面化(‑社会化socialization)とそれらの正当化 としての制度化(institutionalization)のメカニズムによって身動きのつかな

° ° ° ° ° ° ° °

いような役割(role)の概念に押し込まれる上に,他方,サンクション(sanction)

° ° ° °

や役割期待でもう一度縛りあげられてしまっているようにみえるからである.

このことは,この理論が対立や闘争を通しての社会変動(social change)の分 析・解明にある種の弱さを否定できぬという理論的欠陥の問題としてのみなら ず,歴史を形成してゆく主体者・創造者としての人間存在を少しも解き明して いないという点で人間観に関する問題をも提起しているのである.、人間観はさ ておくとしても,このような理論化の土壌となっているアメリカ社会学の一般 的傾向‑0)社会一心理的次元‑の偏向(ii) (自然)科学主義, Oii)楽観主

(2)

義(3)は,それ自身知識社会学の興味あるテーマである.しかし,この小論 では,こうした理論化の方向に対する素朴な疑問の提示とこれに代わる理論化 の方向(一般的方針)を示唆することを第一義的な目的としている.しかも, 体系一機能主義的な分析方法は,これを充分継承せんとするのが筆者の基本的

な姿勢である.

(1)T.Parsons,Societies'

.EvolutionaryandComparativePerspectives,Pre‑

ntice‑Hall,Inc.1966

ここでは,行為体系のサイバネティックな位階秩序は,CulturalSystem>

SocialSystem>PersonalitySystem>BehavioralOrganism,また体系機能 のそれは,PatternMaintenance>Integration>GoalAttainment>Adap‑

tationである.

この点に関する考え方の発展については,次の2つの論文を参照せよ.

T.Parsons,≠GeneralTheoryinSociology〝,inR.K.Mertonetals eds.SociologyToday,BasicBooks,Inc.1959PP.3‑38

T.Parsons,uAnOutlineoftheSocialSystem〝,inT.Parsonset alseds.,TheoriesofSociety,TheFreePress1961PP.30‑79

(2)拙稿「T・パ″ソンズの当幾能主義〝について」『ソシオロジ』第13巷第2㌧」

1966PP.98‑110

(3)例えば,G.C.HomamsのTheHumanGroupHarcourt,Brace&CO.

Inc.1950などに明白に表現されている.塊型として参照されたい.

2展開の方向

もともと,<貢献>とく享受>の概念の発想は, T・パrソンズのAGIL理 論を修正した吉田民人の考え方(1)に示唆されたものであるが,筆者の考え方は

この修正を今一度徹底化するということであった.その間の理論的修正の系譜 を整理すれば,それは大略以下の如くである.

パーソンズは,ベ‑ルズとの共著『作業論文』(2)以後,社会体系が解決すべ き四つの基本的な機能的課題をA‑G‑I‑Lと区分し,これを「行為体系の 機能的命令」(The Functional Imperatives of a System of Action)と呼

(3)

んで,次のような説明を加えた.すなわち, A次元(Adaptation)は, (0そ の社会体系をinflexibleなす現実的要請〝に適合(accommodate)させ,ま た(ii)系外状況を活発に変形してゆく活動を含み,それは一括して「Adapt‑

ive Instrumental Object Manipulation」と呼ばれる. G次元(Goal Gratification)は,本質的に,欲求充足的活動であり(社会体系では,主と

して共有目標達成のために系内の必要な資源を動員すること),一括して

「Instrumental‑Expressive Consummatory Performance and Gratifi‑

cation」と呼ばれる. I次元(Integration)は,体系が一つの実在としてその 境界維持を図ることで,その成員をして成員たる自覚と結合を促進させる一切 の活動を含み,一括して「Integrative‑Expressive Sign Manipulation」と 呼ばれる.そして, L次元(Latent‑Pattern Maintenance and Tension Management)は,体系がその成員の活動の動機的・文化的形相(Pattern)を 再強化(‑活性化)することで,.(どちらかといえば,成員自身の内部に起る 形相維持のメカニズムであり),一括して「LatenトReceptive Meaning Integration and Energy Regulation Tension build‑up and drain‑Off」

と呼ばれる(3、.吉田は,最初,パ‑ソンズの構造‑機能主義的一般理論をパ‑

ソナリティ系の構造的要件抽出の過程で修正したが(4).その後,集団系のモデ ル構成にこれを展開しO, AGIL理論を次の如くに修正した.すなわち,吉田 は,集団系の構造仮説として四つの変項群を提示したが,それらは(1)共有目 標(成員の間で客観的ないし主体的に共有されている「集団の実現すべき未来 の状態」についての観念), (2)成員要求( 「要員としての」要求で,要求とは パーソナリティ体系の構造要件の意味), (3)成員結合( 「成員としての」結合 で,結合とは他者を肯定して交渉を続けようとする態度),および(4)共有価 値(成員の問で客観的ないし主体的に共有されている「望ましいもの」につい ての観念)である.そして,吉田はこの構造仮説とパーソンズのAGIL図式と の関連について次のように述べている. 「そのI次元が結合変項に重なること は比較的明瞭である. L次元は二分されて「パタンの維持」が価値変項に,

「緊張の処理」が要求変項にそれぞれ対応する.そして, G次元は目標変項に 匹敵し, A次元はその下位カテゴリ‑を意味する,と私は解釈したい.(6)」

(4)

パーソンズの「行為体系の機能的命令」は,例えば, 『作業論文』では,行 為における動機付けに関連した「局面運動」(phase movement)として展開さ れ,論文「社会学における一般理論」あるいは『経済と社会』(7)などでは,社 会体系の機能的下位体系として論じられ,さらに最も新しい著書(8)では,社会 の進化論的発展に伴うや分化′′ (differentiation)として説明されている.従っ て,このようなレベルの飛躍に伴うAGILの具体的内容の変化がやゝわれわ れの理解に混乱を引き起す原因にもなっているようである.例えば, 『作業論 文に』おけるG次元は,A次元が集積・成就した成果を存分にむさぼる(gratify) のであり, 「It (‑対象へのuniversalisticな関係) gives way to a rela‑

tion of particularism where the object is a goal object, to be pos‑

sessed, consumed, enjoyed, or appreciated, and itヾ particular relation

to ego is the important thing. (筆者イタリック)」(9)と述べられているのが, 社会体系のレベルでは,これが, Goal GratificationではなくGoal Attain‑

ment (社会体系の共有目標の達成)となり, Egoに対するreferenceが消 えてしまう.また,局面運動では,形相維持エネルギーの活性化過程で緊張処 理が行われるのであるが,構造要件としてのL次元は「形相維持」に代表され たり, 『家族』(w)の場合のように,もっぱら「緊張処理」に当てられたりする 暖味さを示してきた(もっとも,パ‑ソンズの最も新しい定式化は, L次元に Pattern Maintenanceを当て,また社会体系の機能的下位体系G.‑Goal Attainment‑にPolityを配しながら,一般的行為体系の機能としてのG次 元は「人格体系」 Personality Systemに繋がっている).こうした文脈で考 えれば,吉田の修正の意義もまたよく理解される.すなわち,かれは一方で は,パーソンズのL次元の暖味さをただすと同時に,他方では,集団系全体に 係わる変項(すなわち,共有目標と共有価値)と集団系の成員に直接係わる変 項(すなわち,成員要求と成員結合)を区別し,それら両方を合成して集団系

の構造一機能要件を設定したと解釈されるからである.

筆者が吉田から示唆された点は,特にこの後者の部分,なかんずく,成員要 求(パーソナリティ体系の構造一機能要件)を独立させた着眼であり,かねて

より,すでに述べた通,り,パーソニアン型の理論化の方向に疑問をもっていた

(5)

ことからも,この考え方を発展させる必要があると感ずるようになったのであ る.そうした頃,高田保馬の著作の中に, <貢献>と<享受>という概念を発 見したが(もっとも,高田社会学には,こうした基本概念の展開がほとんど見

られぬのでほあるが),そこで博士は次のように書いているのである. 「すべ て各自の社会生活は二面より成る,其‑は貢献の生活にして其二は享楽の生活 なり.社会の成員は其努力を尽して社会に何らかの貢献をさゝげ,ここに社会 全体の享楽し得可き享楽基本を生ず.而して成員は社会の許容し分配する所に 従ひて此基本を分享す.(ll)」また,別の所で社会の分化について次の如く述べ ている, 「即ち社会が其成員をして種々なる永続的活動を営ましめる,此活動 が異なり来る事が自ら,.相互の永続的関係の分化を伴ひ来るのである.此意味 に於ける社会分化は二の方面に於て行われる.人々は自己の活動によりて社会 の存続発展に必要なるものを寄与し,又社会よりして自己の存続発展に有利な るものを享受する.即ち私共の活動には社会に対する貢献の方面と,社会より 受取る享楽の方面との二がある.此二つの方面のそれぞれに於て人々の活動は 相異なるものとなり,従ひて相互の永続的関係は異質的のものとなる.貢献の 生活の方面に於て,人々の関係,従ひて其活動の分化せる姿を分業(division of labour, Arbeitsteilung)と云ひ,享楽の方面に於けるそれを階級(social class, soziale Klasse)と云う.此分業の成立する過程,階級形成の過程 (Klassen bildung),これ即ち社会の分化に外ならぬ欄」こうした人間の社 会的存在としての二面性は,次の二点できわめて興味深いものであった.それ は(i)社会(全体系)と個人(単位系)が各々その存続発展に必要なるもの(級 能要件の充足)を要求する独立した「機能主体」 (放能要件充足の志向が向う 主体)として仮定されていること, (ii)しかも,これが広義の「社会的生産物」

(‑享楽基本)の「生産」と「分配」の問題に繋がっていること,である.そ こで,筆者は,まず分析的出発点として,社会体系に対するにその単位系(仮 りに,人格体系をこれに当てる)を各々独立の「機能主体」として設定してみ ることにした.すなわち,吉田が集団系全体に関する構造一機能要件と集団の 成員に関するそれを区分して,その二つづつをもって集団系の構造一機能要件 を設定したことをさらに一歩押し進めて,集団系の構造一機能要件と成員(パ

(6)

‑ソナリティ体系)の構造一機能要件を対置させてみるという試みである.〜

般に,われわれがそこに生れ込む社会や参加してゆく集団は通常有機体的個人 を超えて存在しているのが普通であり,しかも,一般的には,パーソナリティ の欲求構造はそうした所属集団の価値‑規範体系を内面化する過程で形成され る要求性向(need‑disposition)の体系ではあるが,このような所属集団の 上位または下位の集団がわれわれの「認知」 (Cognition)の準拠枠(frame of reference)となることが充分可能なので,分析の出発点では,全体系と単位系

の間にいかなる関係をも前提とすることを拒否して,この二者の間の関係はそ の後の分析過程で決めてゆく(どうした条件の場合にどのような関係が生起す るか,という問題を解いてゆく)ことにするのである.こうすれば,この二者

‑全体系と単位系具体的には,社会と人間‑の関係が適合的である場 合も不適合的である場合も,共に理論的には同じ比重をもって扱えるのではな いかと思われる.

(1)吉田民入「AGIL修正理論(その‑)」 『関西大学又学論集』第11巷第6 '!/ 1962 吉田民人「集団系のモデル構成‑機能的系理論の骨子」 『社会学評論』第14巻 第21 1963

(2) T. Parsons, R. F. Bales & E. A. Shils, Working Papers in the Theory of Action The Free press 1953

(3) T. Parsons et als, Working Papers op. cit., PP. 182‑190

T. Parsons and N. J. Smelser, Economy and Society The Free Press 1956 P. 19, PP.46‑51

(4)吉四民人前掲論文「AGIL修正理論(その‑) 」 (5)吉田民人前掲論文「集団系のモデル構成」

(6)吉田民人前掲論又「集団系のモデル構成」 49頁 (7)読(3)の第二番目の著書スメルサ‑との共著, (8) 1の註(1)の著書特に. PP.21‑29

(9) T. Parsons et als, Working Papers op. cit., P. 184

T. Parsons and R. F. Bales, Family; Socialization and Interaction Process, The Free Press 1956

(7)

(ll)高田保馬『社会学原理』大正11年398‑399貢 u2)高田保馬『社会学概論』改訂版昭和17年131‑132貢

3 <貢献>とく享受>の概念

この発想は,いくつかの点で,今日の機能主義的理論と類似性を有している

° °

(しかも,その基本的弱点を補いうると考えられる).その‑は,これが全体

° °

と単位を仮定しつつも,方法論的個人主義の立場から,人間存在を中心的準拠

一°

としてその用語法を設定している点せある.従って,全体(‑社会)の側から みれば, <貢献>とく享受>はこれを逆にしたInputとOutputである.次 に,これは広義の「生産物」 (‑享楽基本)の「生産」と「分配」 (または消

° ° ° °

費)を伴い,その意味では相互交換の過程を内包している.しかも,何よりも そうした交換過程が,個人と社会との間に考えられている,すなわち<貢献>

とは,全体体系の存続・発展にプラスになるような単位の活動(‑機能)であ り, <享受>はそれに対する報酬である.従って,この<貢献>とく享受>の 交換比率の問題が重要なポイントになってくる.高田は, 「原則として貢献の 大きさと享楽の大きさとは相伴う」とするが,この二者が必ずしも比例しな い,その原因こそは「階級の関係」であると述べそいる(1,.

それでは一体,具体的には,全体と単位の間の相互交換というものはどうし て可能になるのであろうか.全体というのは単位に対してどのような関係にお いて成立しているのであろうか.今日の社会学的機能主義では,単なる個人や 集団の総和以上のものとしての全体の概念が一般的であるが,その場合,全体 というタームが本来意味しているものは何か.‥般に,社会的相互作用(一種 の交換過程と考えてよい)は, (i)単位一単位問, (ii)単位一全体間の二極に分 けうるが,方法論的個人主義の立場に立つ限り, (ii)は(i)を腺介にするはずで あり,その場合!全体とは一種の(虚構的)実在である.しかし,本稿では, 全体とは,特に全体を主として代表し(貢献),全体の主たる受益者(享受)

一° ° ° ° °

である全体の主体者として概念化しておきたい.それは,具体的な社会関係レ ベルでは,行為主体(‑単位)に対して「他者」として立ち現われるが,しか し,全体の主体者は即他者ではなく,それは「一般化された他者」である.ま

(8)

た,人間の社会的行為としての相互作用は,必ず相互交換過程であるが,この 場合の交換比率は広義の「勢力関係」 (当事者間の)によって定まるといえ る.全体の主体者(以下,全体系,社会体系,全体などと呼ぶ)の構造一機能 要件は, (i) 「生産性」. (ii) 「安定性」, (Hi) 「連帯性」 (iv) 「規律性」とい う全体系outputを生み出すことに係わっており,これを総括してthG〝と 記号化しておきたい.単位系(一応パ‑ソナリティ体系を想定しておく)の構 造一機能要件も略々≠G〝に対応した(equivalent)もので総括してtlN〝と 記号化しておく.しかるに,機能要件(やG〝とthN〝)の充足は広義の「社会 的生産物」 (G) 「物財およびサービス」, (ii) 「政治力」, (iii) 「連帯」および

° °

(iv) 「価値」 )の消費によってなされる(21.そして,こうした「生産物」は一

°

定の時空間を取れば,その場合の単位間の相互作用の量と質とによって一定量 であると考えられる.また,社会体系の成員は,社会体系の下位機能分化体系

° °

の一つで,主として上記のうちの一つの「生産物」の生産に当り,その過程で

° °

他の「生産物」 (他の機能下位体系での「生産物」 )を資源として利用してい

° °

る.同時に,かれはそうした活動(貢献)の対価として一定量の「生産物」を

° ° ° °

報酬として受け取る.資源は主として全体系の機能要件充足に,報酬は主とし て単位系の機能要件の充足に向けられる広義の「社会的生産物」に対する呼び

° h

名である.その意味では,資源とは,全体系としての「生産量」の総量をより

° ° ° ° ° °一

増大させるために再投資される「生産物」であり,資源と報酬の関係は,経済

° °

学における生産と消費に対応している.

以上の点を,さらに新しい概念をも加えながら要約し,次いで具体例を用い て例記してみよう.

(1)全体としての社会体系は,広義の「社会的生産物」が産出される四つの下 位機能分化領域に分かたれ,単位系は,主にそのうちの一つで生産に従事する (貢献)が,その場合,かれは他の下位機能分化領域における「生産物」を

° ° ° ° ° °

資源(resources)として配分(allocate)され,それを使う(invest)と同時に

° ° ° °

その反対給付として一定の「生産物」を報酬'rewardsとして分配(distribute)

° t

され,それを自らの機能要件充足のために消費(consume)する.

(2)全体としての社会体系の機能要件は, (系外・系内要因によってその階統

(9)

° °

性・緊急性は異なるが),結局, 「社会的生産物」のオプティマムな生産のた

° °

めの投資であると考えることができるが,それは上記四つのoutputによっ て測られる.他方,単位系の機能要件は, 「社会的生産物」のオプティマム な消費である.従って,一定の時空間点では,全体系のためのinvsetと単 位系のためのconsumeをめぐる「社会的生産物」はゼロサム的存在であ る.

(3)社会過程は,結局,単位間の相互作用(相互交換過程)となって現出する が,それは(i)同一の下位機能領域内部で,同一の(その領域内で生産され た) 「生産物」が交換される場合(純粋交換), (ii)同一の下位機能領域内部

t e ▼

で,異った(主としてその領域で生産されたものと他の領域で生産されたも

° ° °

の) 「生産物」が交換される場合(第二次混成交換) , (iii)異った下位機能

° ° °

領域間で異った(主として各々の領域で生産されたもの) 「生産物」が交換 される場合(第一次混成交換)を区別しうる(3、.もちろん,組合せからゆけ ば,これ以外の交換形態も可能であるが,分析上煩墳を避けるために上のよ うに三種に限定した.ただ,現実には,例えば,貨幣の如き「一般化された 交換手段」が交換を媒介している場合が多いが,しかし,分析的には,これ をその一般性のゆえに無視することが許されよう.

もっとも,以上の命題は,基本的にはやG〝と"N〝とを独立の「機能主体」

と仮定したことを前提にしているから,この二者の関係が明らかになるに従っ て,それらが意味するところに変化が生じる可能性がある.しかし,この点に 入る前に,上の諸命題を具体例で考えてみたい.

大学で研究をしたり,教育に携わったりする「教師」は, 「価値」という

「生産物」の生産に従事したり,またその伝達という作業を行っているので, その場合のかれの第一義的な活動は社会体系の一定の下位機能分化領域(これ を便宜的にL殻域と呼ぶ)に位置付けられる.かれはこの自らの第一義的活動

° ° ° °

(貢献)を行うために大学という集団(この集団自体がまたその第一義的機能 によってL次元に位置付けられる)を通して,または自ら直接に他次元の「生 産物」を使用する.例えば,かれが通勤のためにバスに乗るとすれば,かれは かれ自身の貢献に対する反対給付として受け取った貨幣でもってバスの運転手

(10)

° °

(かれは,こうした労働サービスの生産を第一義的活動とするあるバス会社 (‑集団)に所属しているわけで,そのことによってかれ,およびかれの会社 はまた一定の社会体系の下位機能頚城に属する.この韻域をA次元と呼ぼう) の「生産物」を買う.しかるに,交換手段である貨幣を取り去れば明らかな ように,そこに展開されている単位問の相互交換過程は,第一次混成交換で ある.しかし,この場合,大学教師は自らの貢献的活動のために他次元の資源 を動具したのであるから,例えば,日曜日に家族を伴って海水浴に行くために バスに乗った場合とは事情が異なる.従って,厳密にいえば,かれが給料のう

° I

ちから学校‑来るためのバス代としてさいた部分は報酬の範噂からは除外され なければならない.また,かれは研究仲間と対等に研究成果の交換をし合うで あろう.この相互的交換過程は純粋交換である、ーしかし,かれの仲間がきわめ て優秀でかれが無能である場合には,例えば, (i)かれは仲間の与えてくれる 研究情報に対してある種の尊敬の念(これも生産物「価値」の一部である)を もつかも知れないし(一種の純粋交換),また(ii)盆・正月に金品を提供するこ とによってこれに報いるかも知れない(第二次混成交換).かれが知識を提供

・伝達する当の相手である学生との関係も複雑である.制度レベルでは,知識 の伝達は授業料の納入で完結した相互交換過程となるわけだが,かれは学生と の相互作用から,尊敬や威信を得るかも知れず,また新たな研究情報を得るか も知れない.時には,信頼や支持をさえ獲得するであろう.もっともこうした 場合には,かれが学生に提供するものも単に知識だけではなく,就職の世話や 私的な悩みごとの相談に対するアドバイスであるかも知れない.

こうして眺めてみると,現実の相互作用関係はきわめて複雑多岐に亘り,上 のような分析も錯綜・重層した交換過程を解きほぐす有効な手段であるかどう かが疑問でさえある.例えば,第一次的機能によって分けかつ一定の領域‑位置

° °

付けた集団それ自身がすでに多様な交換の網の目である.しかし,学内における 政治的権力の分布や行使,また威信の階統などは,大学がその本来の機能を遂 行する手段として外から(他次元)から「生産物」を導入してきた結果である

と解釈するのがここでの立場である.同様に,その一単位である個々の教師が

▼ °

貢献あるいは享受の両レベルで用いうる「生産物」もこの次元のものと他次元の

(11)

° ° °

ものを共に含む.大事な点は,こうした「生産物」の分有に,貢献の側面と享 受の側面があるということ,さらに,交換一般を秩序付ける「原理」や「標準」

° °

(交換の比率‑これはさらに基底的には,交換されるもの(‑生産物)自身 の評価<重み付け>をも含んでいる)が存在して,それが同時に交換過程にあ

° ° ° ° ° ° ° I ° °

る種の永続性と一貫性をもたらしている(社会関係の生起)ということであ る.

社会学理論の伝統の中には,人間関係(その総体としての社会)をこのよう な相互作用(相互交換過程)として捉える考え方は比較的一般的であった.例 えば,マリノフスキーの「give‑and‑take」の原則(*>,モースの「le systとme der presentations totales( 」,さらにモ‑スを受け継いだレグィ‑シュトラ ウスの「相互性」の原則(e),新しくほ, S‑R理論,フィ‑ド・バック理論,さら にinpuトoutput理論がすべてこの系列に並ぶ.そして,単位一単位問のミ クロ・レベルでこうした交換の理論を展開した最近のプラウの著作は興味ある 研究である(71.けれども,これらの理論に欠落しているのは,全体と単位の間 の相互交換過程に関する分析であり,また交換の比率に関する考察である.こ れらを欠くと,例えば,国家権力や階級の問題を見落してしまうし,また絶え ずこうした交換関係を自己の有利に展開せんと意図している行為主体の基本的 性格やエネルギーを見過してしまうであろう. <貢献>とく享受>の概念は, 以上のような体系一機能主義的な分析枠組を継承しつつも,結局, 「生産物」

° ヽ ° °

分布に資源として配分される側面と報酬として分配される側面のあることを強 調し,少なくとも分析の出発点ではこれをゼロサム的に把える必要を主張する のである.この視点を抜かしたために,今日までの階級論や権力論が,一方で は"全体系機能適合的〝な楽観論に,他方では"単位系機能適合的〝な悲観論 へ走ってしまったのであり(s),状況や条件をふまえて,この両面を理論化のなか で統合する試みがほとんど生れなかったと思われる.また, <貢献>と<享 受>の概念は,すでに明らかな通り, ≠G〝と"N〝の概念を人間の社会的存在

の平面で云いなおしたものであるから, ≠G〝と≠N〝の方がより一般的なこの 命題の記号化であろう.ちなみに,補足を加えれば,上に示したように相互交 換過程として人間の行為・関係・集団を理解する立場をとれば,一般的問題と

(12)

してほ,すでに述べた「交換比率」の外に, (i) 「生産物」総量の増加・減少 に関する要因の分析,また総量の変化に伴う交換過程の在り方へのインパクト やその変化の問題, (ii)社会体系全体としての「生産物」の分布・布置(‑究 極的な意味での「社会構造」 )の姿およびその特徴に関する「比較」の問題な どが重要となってくるはずである.

(1)高田保馬『社会学原理』前掲書400頁

(2)拙稿「階級構造の要因分析に関する一考察」 『社会学評論』第17巻第1号1966 全体系のoutputや広義の「社会的生産物」の概念などについて論じてある.な お, 4つ目の「生産物」は先には「威信」とし,ここでは「価値」としたが,いず れにしろ,タームについては別の機会に検討しなおすつもりである.

・・・・

(3)交換されるもの(柏互作用説より)と交換の起る次元(体系論より)を組合せた のが,この分類の新しさである.呼称は未だ漸定的なものである.なお,交換関係 はこうした分類によると68適区別しうるが,その網羅的な分析は別の機会に譲る.

(4) B. Malinowski, Crime & Custom in Savage Society Routledge & Kegan Paul Ltd. 1926 PP 39‑45

(5) M. Mauss, Sociologie et Anthropolcgie Presses Universitaires de Fra・

nee 1950 PP. 145‑171

C. Levi‑Strauss, ≠The Principle of Reciprocity′′ in L. A. Coser & B.

Roesnberg eds. Sociological Theory The Macmillan Company 1957 PP.

74‑84

(7) P. M. Blau, Exchange & Power in Social Life Wiley 1964

(8)階級論に対する反省は,拙稿「階級構造‑」前掲論文参照,また勢力論に対す る反省は,拙稿「社会的勢力の構造」 『ソシオロジ』第12巷第1号1965参照

4 G‑N社会学の可能性

G‑N社会学は,すでに明らかなように, 「個」と「全体」の社会学であり, とりわけ広義の「社会的生産物」の分布をめぐって, selトoriented対collec‑

tivity‑orientedまた・, 「個別主義」(particularism)対「普遍主義」 (univer‑

sahsm)という形相変数がどのように展開するかという点に深い関心をもって

(13)

いる.その理論的意義は,寸G〝の一方的な≠N〝規定を根本的発想とする"坐 体系適合的〝なこれまでの体系‑機能主義を修正し,やG〝と≠N〝との相互規

° ° °

定関係を,集団や社会の置かれた歴史的状況の中で考察する方向を示唆すると ころに存する.もちろん,ここでは紙面の都合で,その理論的含意を充分展開 することは不可能であるから,次に要約的にその可能的方向を示すことでこの 小論をしめくくりたい.

(i)まず,集団や社会(全体系として概念化される)は,通常,その上位(系 外)または下位(系内)の諸集団と併存しているので,(a)個人や下位集団(早 位系として概念化される)の行為や価値判断のreferenceは,常に全体系に あるとは限らぬし一準拠集団理論‑また(b)全体系の置かれた状況(堤)が系

l

内に機能要件の階統性として踏ねかえるのが普通であるから, 「G‑N関係」

も条件抜きで定式化すえことはできない.全体系として把えられた今日の「全 体社会」は国民社会であるが,この場合, "G〝機能を具体的に背負っているの

は国家権力または「政府」であり, ≠N〝は国民であると考えてよい. G‑N社 会学は,マクロ・レベルでは,特に,このようにして現われる, 「政治一経済 社会学」 (Politico‑Economic Sociology)として,全体社会の全体連関的理 解に関心をもつ.

(ii)しかるに,歴史的には,全体社会の構造変動の方向がtlN〝の漸次的拡 大とthG〝 ‑の同一化(社会の"G''化)に向って動いているかにみえる. <貢 献>におけるやG〝化は「代表性」の拡大であり,<享受>におけるそれは「受 益性」の拡大である‑この過程を総称して「民主化」 (democratization)と呼 ぶ‑.しかし,こうしたマクロ・レベルでのやG〝と"N〝の接近と平行して,

「私的な」領域の拡大・個性の自由な展開といった"N〝の"G〝に対する独 立化が起りまた主張されている.パ‑ソンズは書いている, 「より進んだ社会 では,個人的パーソナリティの幅はづっと広くなろう,その反面,社会の構造 や過程が個人的特性(idiosyncracies)に依存することは益々少なくなろう」(1)

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と.シュンベータ‑はまた,社会主義の青写真を描いたときに, 「商業社会の ように,私的領域と公的領域が併存している社会は不能率きわまる」という意 味のことを述べている. G‑N社会学はこうした問題に興味をもち,同時に

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やN〝が≠G〝から疎外される過程で特定の個人(または集団)のや特性〝が全 体系に大きな影響をもち始める可能性を予想する.

(iii)さらにまた,前節の終りで述べた体系一機能理論による社会体系の構造 や過程に関する一般的問題に, (i), (ii)のようなG‑N社会学的分析をかちま せて展開してゆくことも,当然重要な課題の一つとなるであろう.

(1) T. Parsons, Societies op‑ cit., P. 10

(2) J. A. Schumpeter, Capitalism Socialism and Democracy中山・東畑訳

『資本主義・社会主義・民主主義』東洋経済中巻

付.言己

「<貢献>とく享受>の概念」は最初, 1965年度の関西社会学会大会で発表 したが,本稿はそれをもとにして今回書き改めたものである.

(昭和42年9月27日受理)

参照

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