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受益圏/受苦圏概念に関する省察 : 可能性と課題

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(1)Title. 受益圏/受苦圏概念に関する省察 : 可能性と課題. Author(s). 角, 一典. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 53(2): 79-89. Issue Date. 2003-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/751. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 平成 15 年. 3巻 第2号 北海道教育大学紀要 (人文科学・社会科学編) 第5 l of Ho jouエ ー由mdo Universiけ of Educadon ー ・a. 旧皿即滅e salld sociaISciences) Vol.53, No. 2. 2 月. Febma ly, 2003. 受益圏/受苦圏概念に関する省察 -可能性と課題-. 角. 一. 典. 北海道教育大学旭川校社会学研究室. 1. は じめ に. 「受益圏/受苦圏論は交通関連の公害紛争 〔新幹線公害, 空港騒音・建設問題〕 や清掃工場建設問題につ いての事例研究を通じて梶田孝道・松橋晴俊・長谷川公一らのグループ研究から関連概念群が創出されたもの )」1 1 38 である (飯島他編, 200 : . 梶田・松橋らのグループによる概念提示からすでに20年以上が経過し, 今 日, 受益圏/受苦圏概念は, 日本の環境社会学の主要なパラダイ ムの一つを構成しているといわれる (堀川, )2 1 999;海野, 2001 . そして, 大規模開発をめぐる紛争の解決困難性を解くための鍵概念であっ た受益圏/ 受苦圏は, 近年, 種々の事例に対する応用例が見られるようになっている. 1 海野は, 受益圏/受苦圏概念の理論的特色を 「論理的明断性」 に見いだしている(海野, 2000 6 5 ) : . 海野 のいうように, 受益圏/受苦圏概念は, 一見論理的な明断性を高度に有しているように見える. しかしなが ら, 後発の研究者によっ て行われた受益圏/受苦圏概念への批判から, 種々の問題点が指摘されており, 概 念の論理的展開を維持する上できわめて深刻な課題が浮かび上がっ てくる. 受益圏/受苦圏概念は, 20年 以上の年月 を経過した今日, 成熟を迎えてよい時期に来ているといえる. そうした状況の下, 概念の応用例 や諸批判を整理し, 受益圏/受苦圏概念の可能性と課題を探ることは, 受益圏/受苦圏概念のさらなる理論 的発展に対して有意味であると思われる. 本稿では, 受益圏/受苦圏概念を展開した主要な論者である梶田孝道および艦橋晴俊による概念の使用を 概観した上で受益圏/受苦圏の持つ主要な含意を把握し (第2章) , その後, 受益圏/受苦圏概念がどのよ うな 「発展」 を見せているかを示し, 受益圏/受苦圏概念に対する諸批判を紹介した上で (第3章) , 受益 圏/受苦圏概念の課題を検討し, 代案を提示する (第4章) .. 2. 受益圏/受苦圏概念の実際 -梶田孝道と艦橋晴俊の議論を手がかりに- { 1 } 梶田孝道における受益圏/受苦圏概念 受益圏/受苦圏概念の登場は, 論文の初出という点からいえば, 梶田 ( ) においてである. 梶田は, 1 9 79 「技術史家中岡哲郎による鹿島コンビナートの分析および艦橋晴俊の発案をふまえて」 , 受益圏/受苦圏を概 念化した (海野2001 ) 1 64 : . 梶田は, 各種の大規模開発が社会紛争を生起させていることに注 目し, それを 解く鍵として受益圏/受苦圏概念を提示する. 大規模開発問題に共通しているのは, 「広範囲な社会システ ムの要請から発せられた形で, 特定の局地的地域に社会的意味をおびた巨大な資本の投下がなされ, その結 ) であり, 「大規模開発問題の解 果, 一部の地域に大きな構造的緊張を生んでいるという点」 (梶田, 1 9 88 3 :. 79.

(3) . 角. 一. 典. 決を困難にしている構造的諸特質の解明」 (梶田, 1 ) のための概念装置として, 受益圏/受苦圏が置 988 4 : か れる の で ある.. 梶田は, 受益圏/受苦圏を① 「欲求」 「機能要件」 の充足・不充足と②範域性の2点によって定義し3 ,大 規模開発問題においては①受益圏と受苦圏とがかなりはっ きり分離していること, ②受益圏は当該地域から. 離れた広範囲な地域へと希薄化されつつ拡大していること, ③受苦圏は局地的な一地域に集中していること が特徴であると述べる (梶田, 1 ) 988 9 : . すなわち, スケールメリ ッ トの追求, 各地域間の相互依存性の増 大によって, 紛争の主流が 「重なり」 型から 「分離」 型へと移行していると指摘するのである. 梶田は, 「重なり」 型紛争の事例としてゴミ清掃工場汚染問題, 「分離」 型紛争の事例として新幹線公害を取り上げて 説明し, 「重なり」 型紛争の場合には, 「紛争の深刻化を阻止するいくつかの論理的条件が備わっており, 相 コンフリクト 対的に解決の可能性が大」 であると述べ, その条件として, ①紛争の原因となる欲求が 「主体内葛 藤」 と してあらわれることと, ②住民同士の社会的・空間的距離が相対的に近いことをあげている (梶田, 1 988 : コンフリクト ) 1 4 . 一方, 「分離」 型紛争においては, 問題の自己完結性がきわめて弱く, 紛争が 「主体間紛 争」 として あらわれ, そのために全体のコンセンサス を形成することが困難であるとする. また, 受益圏と受苦圏の分 離には 「社会的格差」 が介在していることを指摘し, 受苦圏は, 傾向的に社会的に下位に位置する地域とな りやすく, 受益圏の集約的代弁者であるテクノクラートが, 意識的・無意識的に社会的格差を利用しつつ最 適 化 を図 っ て い る と する (梶 田, 1988 ). 22 :. 大規模開発の進展による受益圏の拡大と受苦圏の局地化という問題情況に対し, 梶田は, 成田空港問題を 例に挙げて, 顕在的敵手である運輸省・空港公団という対立構図のみで問題を理解することを批判し, 潜在 的敵手である利用者, 言い換えれば国民全体を対象とし, 「そうした需要が発生してくる社会構造・産業構 造を変え, 国民の価値意識・欲求構造を変えること」 こそが闘争の真の勝利であるとする (梶田, 1 988 24 : - ) 25 . すなわち, 社会構造や文明価値の変革をもって, こうした問題情況を根本的に解決するための方策と するのである4 . また, 今日の大規模開発を 「受苦忘却型」 「受苦放置型」 の開発とし, 「受苦覚醒型」 「受苦 回収型」 開発への転換を主張する (梶田, 1 ) 262 265 982 ‐ : . 梶田はさらに, 局地化された受苦圏の形態として 「点」 「狭い面」 「広い面」 「線」 の4つの類型, そして, 「事前的」 「事後的」 という2つの類型を示し, 類型の差異によって問題解決の可能性が変化することを指摘 6 している5 . また, 砂田の提示した 「疑似受益圏」 にも言及し, 開発主体が, 受苦圏内部の住民の一部に対 して, 補償などの手段によっ て受苦圏の中に 「疑似受益圏」 を形成することによって 「純受苦圏」 を無力化 する 問 題 につ いて 触 れて いる (梶 田, 1982 243 246;1988 ) 46 47 ‐ ‐ : : .. { 2 } 艦橋晴俊における受益圏/受苦圏概念 松橋によれば, この概念は, 「地域問題, 環境問題の文脈における特定の開発事業と結びついた空間的な 受益圏・受苦圏に則して創出された」 ものであり (松橋, 1 ) 999 467 : , 具体的には 「ある社会資本の建設」 に よ っ て 生 じる も ので ある (艦 橋, 1985 ). 78 :. 艦橋は, 支配システムを形成する契機の一つとして 「閉鎖的受益圏の階層構造」 を挙げ, 平等型・緩格差 型・急格差型・収奪型の4類型を提示する (図1参照) . ここでの受益圏とは, 「主体がその内部にいること によっ て, さまざまな消費=享受的な価値の配分に関して (すなわち欲求の享受機会の配分に関して) ,そ の外部にいる場合には得られない固有の機会を得られるような一定の社会圏」 であり, その対概念としての 「受苦圏」 を 「主体がその内部にいることによっ て, なんらかの欲求充足の否定を, すなわち苦痛や損害を 被らざるを得ないような社会圏」 と定義する. 受益圏は重層的かつ対外参入障壁 (閉鎖性) と対外配分格差 を同時に持ちつつ形成」 され, しばしばその底辺に受苦圏をともなっている. ここにおいては, 受益圏/受. 80.

(4) . . 受益圏/受苦圏概念に関する省察. 苦圏は 「協働連関の両義性」 という一般理論を展開するための概念として提示されているため, 開発問題に 219 限定 せ ず, 社 会 集 団や組 織, 一定 の地域 社 会, 世 代, 階層 な どで 見 ら れる も の と して い る (艦 橋, 1980 : ‐ ). 220. 図1. その後の実証研究では, 受益圏/受苦 圏概念 による分析が展開されている.. 閉鎖的受益圏の階層構造. (松 橋 他, 1985;1988;1998; 松 橋, (斜鏡の渡さは対立の程一度を表す) み垂 直的政治 シ ステ ム. 正当性についての合意 .. 大. . 欠如. . ・ 、 、 .. ・、. 1. 協. 調. -. 交. ;. 渉. 1 王. 対. 決. ′. 圏の拡散と受苦圏の局地化という点に注 目 して いる.. .・. 、.. i. 1 999a). 松橋も, 梶田と同様, 受益圏 ./受苦圏の分離と重なり, そして, 受益. ▲ 、 ’ 、.. ・. ; 抑圧的排除 … .. 室. 松橋は, 名古屋における新幹線騒音公 害の事例から, 新幹線による受益者と騒. 音被害を被る受苦者の間に 「一方的受益 1 ‐. . ・‘. 苦の相殺の欠如」 があり, その理由の一 つに 「受益圏 (加害者) と受苦圏 (被害 t ー‘. . ・. で見 た変革 の方向 b閉 鎖的受益園 の階層 握造 c支配 シ ステ ムの文脈. と一方的受苦」 = 「受益の還流による受. 者) の分離」 があるとする (松橋他, )‐ そ し て, そ の 対 極, す な 1985 78 81 ‐ :. わち受益圏と受苦圏が重なっている例と. . . . ; ( - )< ・ l . 」 ノノ ・ 必要 変革 必 要 革 1 な変 \÷ \ な ‐ ′. してゴミ処理工場建設の事例を紹介し,. . 問題の現状. 「両者 (受益圏と受苦圏) が重なっ てい る場合, 受益の無限拡大的な追求に対し て, 主体内在的な歯止めがかかりやすい」 ということを指摘している (松橋他,. 85 )p 25 1 出典:艦橋他 ( 19. )‐ つ ま り, 受 益 圏 / 受 苦 圏 の 構 1985 80 :. 造が 「重なり型」 の場合, 問題解決が相 対的に容易であるが, 「分離型」 の場合, 問題解決は相対的に困難になるのである. 艦橋はさらに, 新幹線の 「公共性」 についても, 受益圏/受苦圏概念に立脚して議論を展開し, 国鉄が主 張し, 裁判所がそれを認めた, 「広範な共同便益性」 に立脚した 「公共性」 概念が, 大規模開発の下におい ては十分な利害調整機能・合意形成機能を果たし得ないことを指摘した. すなわち, 小規模開発と大規模開 発では, 受益圏と受苦圏の布置連関が重なり・分離という違いを見せ, また, それにともない受益者と受苦 者の同質性と異質性という違いを生じる (艦橋他, 1 ) 985 24 5 246 : ‐ . これを, 先の 「閉鎖的受益圏の階層構 造」 に当てはめると, 新幹線公害にお 、ける共同便益性は, 急格差型もしくは収奪型のそれとなっており, さ まざまな異質性を無視して, 共同便益性を根拠に紛争原因を放置することは, 問題の根本解決を阻害すると 述 べ る (松 橋 他, 1985 ) 251 : .. それでは, 新幹線問題の根本的問題解決はどのようにあるべきか. 松橋は, 東北新幹線建設過程の分析に おいて 「未熟型」 公共事業という概念を提示し, 新幹線建設の 「成熟化」 のためには 「分離型の受益圏/受 苦圏構造自体の変革」 という発想が必要であり, 公害の防止・移転補償などの充実がなされるとともに, 受 益還元施設の建設によっ て成熟化が促進されると指摘する (艦橋他, 1 988 10 1 )7 9 9 : ‐ . しかし, 大規模開発 は, ①受益圏外部への受苦の転嫁, ②効率と公正のトレー ドオフ, ③効率欲求の背後にある社会的需要の正. 81.

(5) . 角. 一. 典. 当性という現代日本社会特有の根本問題を有しているために, 成熟化が困難であるということも同時に指摘 して いる (艦 橋他, 1988 )8 105 106 : ‐ .. ( 3 ) 小括 二者の議論について若干のまとめをしておこう. 当然のことながら, 両者の議論は共通のグループ研究を 基礎にしているため, 多くの共通点が見られる. まず, 双方の議論に共通しているのは9 , 受益圏/受苦圏概念は, 開発問題に限定されない, さまざまな 社会事象の中に見いだすことのできるものであるとする点, そして, 理論の展開においては, 大規模開発問 題を事例として採用している点である. 言い換えれば, 受益圏/受苦圏という概念装置は, 現実の大規模開 発問題や環境問題との対時の過程において構築されたが, その応用に関しては, 、他の社会事象の分析へと開 かれていたということである. それゆえ, 大規模開発もしくは社会資本建設の分析は応用の一例 に過ぎず, 梶田の表現を借りれば, 「『範域性』 が重要な意味を持つような, 受益圏・受苦圏問題の一特殊例」 なのであ る (梶 田, 1988 ). 10 :. 事例分析においては, 受益圏/受苦圏の重なり・分離と, 受益圏の拡散と受苦圏の局地化の二点がきわめ て重要な下位概念として提出される. そして, 重なり・分離に関しては, 前者にゴミ清掃工場問題, 後者に 新幹線公害問題が代表的事例として取り上げられることも共通している. 受益圏/受苦圏の分離および受益 圏の拡散と受苦圏の局地化という事態が, 高度経済成長期以降, 大規模開発の進展によって起こっている. こうした傾向が根本的な問題解決を困難にしていると指摘するのである. こうした, 重要な下位概念の提起という点から, 受益圏/受苦圏概念の持つ特徴が明らかになる. すなわ ち, 多様な下位概念を創出する段階での受益圏/受苦圏概念は, 「固定的なまた細目にわたる概念体系では な」 く, 「方法的志向性, 〔社会の〕 諸現象をとらえる基本的視点」 なのであっ て, それゆえに 「個別事象 o(括弧内は筆者が付加) い 〔もしくは個別のイシューエリ ア〕 に即応した発見力」 を有しているのであるl . わば, 受益圏/受苦圏概念は, 事例分析の中から派生する下位概念群によって, 個別の事例もしくはイシュー エリアにおける問題理解を深化させ, 構造解明を可能にするものであるといえるであろう. また, 受益圏/受苦圏概念の創出においては, 基本的な指向性として, 紛争解決という視点があっ たとい う こ と も 指 摘 で き る だ ろ う. しか しな が ら, こ の点 につ い て, 少 な く と も80年 代 の 時 点 にお い て は, 梶 田. と松橋の間には若干の相違があるように思われる. 両者とも, ①公害防止または補償, ②外部不経済の極小 化・受益還元施設の設置など, ③欲求の制御, によっ て受益を平等化する努力もしくは受苦の発生を防ぐ努 力の必要を主張する点に違いはないが, 船橋は, ②外部不経済の極小化・受益還元施設の設置な ど, 梶田は, ③欲求の制御への偏向がやや強いようであるu .. 3. 受益圏/受苦圏概念の 「発展」 ・拡張・批判 ( 1 ) 受益圏/受苦圏概念の 「発展」 と拡張 梶田・松橋らのグループの他にも, 受益圏/受苦圏概念を応用して分析を進めた事例が散見される. また, 船橋は, 広く環境問題一般を理解するために, 受益圏/受苦圏概念を積極的に展開した. ここでは, それら を概観しよう. 砂田は, 和歌山県古座町の原発建設問題について, 地域住民に対する対面式のアンケートを試み, その結 果, 受苦圏と想定される建設地域付近の住民の中に原発推進の意見があることに注目し, 住民の利害関心い かんによっ ては, 一般に受苦施設と思われる原子力発電所も, 受益施設と認識される場合があり, その意味. 82.

(6) . . 受益圏/受苦圏概念に関する省察. ” では, 建設地域を一概に受苦圏とすることができず, 受苦圏の中に, 「“疑似受益圏 とでも呼びうるもの )」 の 存 在 を認 める こ と が で き る と 指 摘 した. マ ク ロ な 視 野 に立 て ば, 危 険 施 設 による リ ス 71 (砂 田, 1979 :. クを局地的に負わされる受苦圏と見なされる地域においても, ミクロに見れ ば, 危険施設によって得られる 受益を重視する住民の存在も認められ, 地域内での住民同士の対 立が引き起こされるのである (砂田, ). 1979 71 :. 海野は, 「環境問題 と共有地の悲劇をつなぐメカニズムとして 『社会的蟻地獄』 のもとに多くの事例を収 )」 受益圏/受苦圏の検討を行っ 1 16 7 集するとともに, そのメカニ ズムに関連する概念として (海野, 200 : ) 9 82 ている (海野, 1 . ここでは, 個々の人間の即時的な利 益追求が, 結果として社会全体の不利 益, 大き な社会的損失を生じる事象を 「社会的蟻地獄」 と名付け, ギヤ レッ ト・ハーディ ンの 「共有地の悲劇」 をは じめ, 交通公害の事例な ども取り上げている. 受益圏/受苦圏は, これら種々の社会的蟻地獄における圏域 を分類する軸として取り上げられており乾 , 受益圏・受苦圏のあるな しにより, 事例は論理的に①受益圏で あり受苦圏である圏域, ②受益圏であり受苦圏でない圏域, ③受益圏でなく受苦圏である圏域, ④受益圏で なく受苦圏でない圏域の4つに分類することができ, 海野はそれぞれを①ジレンマ圏, ②純受益圏, ③純受 苦圏, ④無関係圏と名付けている. こうした問題意識はその後, 環境問題の社会的ジレンマ論として発展し, 数理モデルを活用して種々の環境問題に応用されている. 松橋は, 社会的ジレンマ論を 「発展」 させ, ハーディンの提起した 「共有地の悲劇」 モデルを社会的ジレ ンマの原型 としながら, 同時にこれを 「自己回帰型」 ジレンマとし, 受益圏/受苦圏概念でいう重なり型を これに当てはめ, 同時に分離型を 「加害型」 ジレンマ, 両者の中間形態を 「格差目損型」 ジレンマと名付け ている (図2参照). ここに至っ て, 受益圏/受苦圏概念は, 社会的ジレンマを類型化するための分類軸の 1 3 ) 7 役割 を果た す こと と なる (松 橋, 1989;1995; 松 橋 / 飯 島編, 1998 :Ch ‐ .. 図2. さらに艦橋は, 「環境負荷の外 部転嫁」 という視点の重要性を強. 社会的ジレンマの7類型 自己回帰型. ( ) 内は関与する主体を示す. 落差目福型. 加害型. 「今日の環境問題をめ ぐる受益圏. 共有地型. 原型 (生産者;消費者) 環境負荷の増大に対する市場メカ. 商業捕鯨型. 地盤沈下型. 工場排水型. ニ ズムによる加速 (空室者). と受苦圏は, 社会の内部に不規則 に 点 在 し て い る の で は な」 く,. 環境虐員面随f 半型の 「緒造化され た選択肢j への 「通常の主体」 の 巻込み (生産者十消費者). 道路渋滞型 観光地散乱 ゴミ 型. [財の配分水準l. 自動車排気ガス 公害型 滑稽工場趨設 問題型. 逗 受 留 錫彩 郷 彩 重なり型. 19 98 ) pl9 9 出典:松橋/飯島編 (. 高速道, 務4 公害型. 放射性 禦魔乗物 問題型. 、ー . - --. 受益因と愛音羽との関係. 調 する に至る. 艦橋 によれ ば,. 格差型. L - - - -. . 分稚型. 「空間的に見 れば, 傾向的に, 中 心部/周辺部の分岐に並行し, そ. の一契機を構成する形で存在して い る (艦 橋 / 飯 島 編, 1998 198 )」. :. ここでは, 廃棄物処理問題が典型 例として取り上げられ, 受益圏が. 作り出す環境負荷が周辺部へと外 部転嫁され, 周辺部に受苦圏を形. 成するという構図が描き出される. さらに, 廃棄物や温室効果ガスの堆積 を例として, 時間的文脈から受益 998 圏/受苦圏を検討し, 将来世代に対する環境負荷の外部転嫁についても言及している (松橋/飯島編, 1 : ). 199 200 ‐. また, 最近の研究では, 渡辺が, 受益圏の構造に着目し, 問題解決の容易さは, 受益圏にある主体の多様 性によっても変動するという点を, 奈良の公園におけるシカによる食害を事例として例証している (渡辺, 1 4 この分析は 松橋の提起した 「閉鎖的受益圏の階層構造」 とはニュアンス を異にしている‐ 言い換 ) 2001 , . 83.

(7) . 角. 一 典. えれば, 受益圏内での利得の格差を前提とした受益の階層性に注目するのではなく 受益圏の中に存在する , , 多様な主体の個別の利害・目的に注目するのである. すなわち, 渡辺は, 受益圏に位置する主体の認識の違 いに注目しており, 受益の階層性は意識していないということである. 2 { ) 受益圏/受苦圏論への二つの批判 これまで, 受益圏/受苦圏論に対しては, いくつかの批判的検討がなされてきている ここでは 2人の , . 論者による批判を再検討してみよう. 横山は, 第三世界における公害輸出の実態などを例に挙げて, 受益と受苦を等質のものとして すなわち , ゼロサム的に把握する視点を批判する. 横山によれば, 時として受苦は絶対的・決定的・致命的なものであ ることがある. この場合, 受苦は経済的な代替によって補い得るものではなく, 何らかの補償によっ ては回 復が不可能な性質を帯びるものであるとする (受苦の不可逆性) . 受益圏/受苦圏の問題設定においては, 梶田のいう事後的受苦圏の問題解決は, 補償による受苦の軽減という形をとるが, 必ずしもそれが 常に有 , 効に機能するわけではないということを主張する のである. 受益圏/受苦圏の概念自体は広範な応用 可能性を持っているものと思われるが 新幹線問題において展開 , しているよう に, 受益が還流することによる解決可能性は, 広義の経済的解決が可能な場合にのみ適合的で ある. 横山は, 生命・健康などの事後的かつ不可逆的受苦に対する広義の経済的補償は, 問題の根本解決に ならないと主張するわ けである. 金菱は, 受益圏と受苦圏が何らかの空間的なものを前提としている限りにおいて, 受苦圏にいる主体の , 個別の状況が看過される点を批判する. すなわち, 受苦圏においては, 個別の救済が不十分なも のに終わる もしくは救済されない可能性, また, 受苦圏の問題解決 によって新たな受苦が発生する可能性も生じるとい う点を組み込み得ない点を批判する. つまり, 問題解決は, 面としては解決の方向に進んでいても 個別に , 5 見た場合にはそうではないという状況を, 受益圏/受苦圏概念は想定できないのである1 . この指摘は, 受益圏/受苦圏概念が, マクロな視野に立って問題解決を志向する立場 にあり, ミクロの個 別状況に対しての応用可能性を欠いている点を鋭く突くものである. 受益圏/受苦圏概念の明断性は, 問題 状況を単純化することによっ て得られるものである. 概念を事例に適用する際には, まず, 受益および受苦 の階層性を捨象した形で受益圏と受苦圏を措定し, 問題状況の原図を描くことからはじまる. 梶田・艦橋グ ルー プによって行われた事例分析では, この原図の段階で有益な知見を獲得することができた. 彼らも, ミ クロレベルでの個別問題について意識していたものの, マクロレベルで与えられた知見を相対的に重視した ものと思われる. 梶田によってなされた, 疑似受益圏を理論へ組み込む努力も, 金菱の提起した問題に十分 答えられているとは言い難い. 鰐 ) 受益圏/受苦圏概念と社会的ジレンマ論との結合による問題点 受益圏/受苦圏論に対する直接の批判ではないが, 井上による社会的ジレンマ論批判にも触れておこう . 井上は, 受益圏と受苦圏の分離した状態である加害型ジレンマを社会的ジレンマ論に発展させた船橋の企図 を批判する. 井上は, ジレンマという言葉の持つ根源的意味を, ゲーム理論をもとにして検討し, ハーディ ンの 「共有地の悲劇」 がゲーム理論的に理にかなった議論であることを論証しつつ, その含意するところが 「社会的ジレンマという場合, 行為者の利得が社会的回路を通じてマイナスに帰結するということを数量と して明示的に示さなければならない (井上, 1 )」 ということであるとし, 資源問題への社会的ジレ 1 995 80 : ンマ論の適用を認めつつ, 環境問題全般への適用については, 「受益者と被害者が分離している場合は社会 的ジレンマではない. また, 行為者の利得と集合財の悪化が同一次元で計れない場合も, 社会的ジレンマで. 84.

(8) . 受益圏/受苦圏概念に関する省察 )」 と して, 加 害型 ジ レ ンマ を社 会 的 ジ レ ンマ の一 類型 とす る こ と を否 定する (井 はな い (井 上, 1995:182 6 上, 1995;1996)1 .. 一. 井上の批判は, 社会的ジレンマ論への批判であり, 受益圏/受苦圏概念への批判ではないが, 受益圏/受 苦圏概念を検討する上でもきわめて重要な指 摘を含んでいる. 大規模開発・社会資本建設というイシューエ リアについてい えば, 重なり型の受益圏・受苦圏では, 問題解決が相対的に容易であるという仮説 が導き出 されているが, 社会的ジレンマ論の範騰では, 重なり型は自己回帰型に当たるわけで, 自己回帰型 ジレンマ は問題解決が相対的に容易であるという結論になる が, ゴミ問題や地球温暖化問題など, 自己回帰型ジレン 7 マの典型ともい える事例はきわめて問題解決が困難な状況に置かれているのが現実である1 . 受益圏/受苦圏概念から見ると, これは明らかな分析力の低下である. これは, おそらく梶田のいう 「範 域性」 の問題を, 社会的ジレンマ論への 「発展」 の過程で捨象してしまっていることによるものと思われる. つまり, 初期の段階では, 受益圏が中小規模のコミュニティ の範域に収まっ ている場合には, 問題解決が比 較的容易である が, 受益圏が拡大・希薄化することによって問題解決を困難にするという視点が重要であっ た. しかし, 社会的ジレンマ論への 「発展」 の過程において, この視点は欠落する. 受益圏/受苦圏概念か ら見れば, 社会的ジレンマ論への 「発展」 は, 範域性という重要な視点 を欠落させているために, 分析能力 8 を著 しく 低 下 さ せて い る ので ある1 .. また, 初期の段階で重要であった 「閉鎖的受益圏の階層構造」 という視点も, 社会的ジレンマ論への 「発 展」 の段階で欠落している ように思われる. 閉鎖的受益圏の階層構造は, たとえば, 地球温暖化問題を, 国 内問題の視点からは緩格差型と把握できる が, 国際問題としてとらえるなら ば急格差型, もしくは収奪型と して把握できるように, 今日においても有益な視点を提供可能である. これらを総合する と‐ 受益圏/受苦圏概念そのものには, いまだ多様な分析機会が開かれているように思 われるが, これが社会的ジレンマ論の範時に取り込まれた形になると, 少なくとも現在の社会的 ジレンマ論 の枠組みの中において は, 分析力が低下すると結論づ けざるを得ない‐ 先に指摘したとおり, 本来分析概念 であるはずの受益圏/受苦圏概念も, 社会的ジレンマ論においては, 分類軸でしかないのである. 受益圏/ 受苦圏概念の, 分析概念としての可能性を維持するためには, 社会的ジレンマ論とは分離させて考える方が 適切である. 言い換えれば, 受益圏/受苦圏概念は, 社会的ジレンマ論との接合を前提とする必要 はないと い う こ とで ある.. 4. 受益圏/受苦圏概念の課題 ( 1 ) 受益圏/受苦圏・受益/受苦の定義に関する問題 受益圏/受苦圏概念にとっ てもっ とも大きな問題と思われる点として, これまでの議論においては, 受益 圏/受苦圏および受益/受苦がどのように定義されるのかということについて, 深く議論されていないとい う点である‐ 梶田は, 社会資本の持つ機能要件によって受益圏/受苦圏を定義することを主張した. この定 義は, 受益圏の定義については有効に作用するものの, 受苦圏の定義については問題を多分に含んでいる. 砂田や金菱 が指摘するように, マクロな視点 から見た受苦圏とミクロな視点で感じる受苦とは常に完全に- )」 で 988 4 6 致するものではない. 梶田も認めるように, 受益/受苦は 「多分に 『主観的』 なもの (梶田, 1 : ある. 受益圏/受苦圏概念は暗黙に紛争状態を前提としている が, 紛争状態は客観的な状況だけでなく, 当 事者の主観的な認識に依存するものであるがゆえに, 主観を抜きにした定義は困難である. その一方で, 圏という言葉を採用 している点に鑑みれば, 何らかの集合的なものを想定すべきであり, そ れゆえ, 受益圏/受苦圏における主観の問題は, 単に個々人の主観の集積としてとらえるのではなく, いわ 85.

(9) . 角. 一. 典. 9 各種の公害問題が住民のクレームによっ て社会的 ば集合意識としての主観として把握されるべきである1 . に顕在化していった過去を想起すれば, 受苦は, 社会資本の機能要件のような形で, 所与として規定可能な ものではなく, むしろ社会的に構築されるものであるとしなければならず 受苦圏の形成には 一定程度の , , パブリックアテンションが必要となる. それゆえ 受苦は時代背景や社会認識などと密接な関係を有してい , る.. 横山の批判の部分で問題となった, 経済的代替性の有無に関する 問題も, 時代背景を抜きにして語ること はできない. 例えば原発問題において, さまざまな補助金交付の仕組みにより地域社会に受益がもたらされ るということは, 艦橋の指摘した 「受益の還流の仕組み」 に他ならない. 7 0年代中頃までは, そうした受益 還流の仕組みが地域社会の抵抗を弱め, 多くの原子力発電所の建設を可能にしていた しかし スリーマイ . , ル島やチェルノブイリにおける事故は, 経済的価値では代替不可能な, 原子力発電所の持つリスクの大きさ を社会的に再認識させた. 90年代の終わりに問題となっ たゴミ焼却場周辺のダイオキシン汚染問題も同様 の構造をもっており, 人々の持つリスク認識は, 受苦圏の性質そのものをも変化させてしまう . 塑 ) 受益圏/受苦圏の範域の問題 社会的ジレンマ論の分類においては, 従来重なり型の典型例として紹介されていたゴミ清掃工場問題が格 差目損型の類型にされている. この変更は, 受益圏/受苦圏概念 にとって重要な意味を持っ ている . 受益圏/受苦圏を鍵概念として分析を行う際は, 重なり・分離が重要な分析視角となっている こうした . 下位概念の創出に寄与したのは, ゴミ清掃工場の事例と新幹線公害の事例であり, 前者が重なり型 後者が , 分離型の典型とされるわ けである. ここで問題になるのが, 受益圏の定義である. 梶田は, 受益圏を 「加害者ないしは受益者の集合体」 とし , 新幹線の受益圏を 「全社会的需要」 とする (梶田, 1 「 ) また 988 艦橋は 受益圏を ある社会資本の建設 , . , による受益者の集合」 と定義し, 拡散的は受益圏として乗客を挙げる (松橋他, 198 ) 5 . これらの定義は, 2 0 いわゆる受苦圏の住民が受益者となる可能性を排除していない . そもそも, 「受益圏の拡散・希薄化」 の含 意は, 受益可能性の拡散・希薄化であり, 受益圏の拡散を論じることは, 受苦圏にいる人間さえも受益可能 性を常に有するということであり, 論理的に受益圏と受苦圏が分離するということはあり得なくなる . むしろ, 受益可能性という点を重視し, 受益と受苦の トータルバランスを, 圏域を分ける指標とすべきで はないだろうか. すなわち, 各主体は何らかの事象によって受益と受苦を受 ける可能性を有している この . 際, 主体によって受益者と受苦者が明確に分けられるわ けではなく, 一人の主体が同時に受益者と受苦者と になる可能性を有している. ここでの問題は, 地域というカ テゴリーにおいて受益と受苦の和がどのように なるかということである. 原発立地の問題にしても, 我々は電力なしには文化的生活を営むことのできない 「構造化された選択肢」 の中に組み込まれており なおかつ使用する電気の履歴を追うことができない以上 , , たとえ居住地域の近くに原発を建設された住民といえども原発からの受益可能性を否定することはできない . このように, 現実にはかなりの事例が社会的ジレンマの分類における格差目損型 に分類されるものと思われ , 典型例としてあげられている2事例も, 格差目損型にはいるべきも のである より重要な問題は 受益と受 . , 苦のアンバランスの程度にある. “受苦によるマイナスがきわめて大きい集合体= 「受苦圏」 ” の局地化と 言い換えることによって, 大きな問題が生じるとは思えない. むしろ, こうすることにより 初期の問題設 , 定に重要な下位概念として提示されていた 「閉鎖的受益圏の階層構造」 という視点を生かす可能性を広げる のではないだろうか. この視点は, たとえば, ゴミ問題や地球温暖化問題など, 「自分で自分の首を絞める」 , いわゆる社会的ジレンマの問題に関しても, 「閉鎖的受益圏の階層 構造」 の視点から批判的に検討すること を可能とする. 例えば, ゴミ問題や地球環境問題においては, 先進国や企業の受益が著しく大きいことなど. 86.

(10) . 受益圏/受苦圏概念に関する省察. を指摘することが可能となるのである. 5. おわりに. 問題の 整理と今後の可能性. 本稿では, 受益圏/受苦圏概念について, 概念提起者である梶田と松橋の初発の議論と, その後の概念の 「展開」 ・拡張・批判を概観しながら, 受益圏/受苦圏概念の持つ課題 について論じた. 本稿では, 受益圏 /受苦圏概念の問題点として, 社会的 ジレンマ論との結合による, 概念自体の説明力の低下と, 初期におい て看過されていたと思われる, 定義の問題と範域性の問題 を指摘し, それに対する当座の対案を提示した. 当座と表現したのは, 筆者の示した対案が, あらゆる事例に対して対応可能であることを検証する手続き が 今後必要となると考えるからである. 特に, 地域住民の主観による受苦と受苦圏の定義には, さまざまな問 題点が浮上してくる可能性がある. この点に関して当面は, 受益圏は社会資本の持つ 機能要件によって, そ して, 受苦圏は集合的な意識 として表出される主観によって定義されるとするのが妥当であるという 「問題 提起」 にとどめておきたい. 最後に, 受益圏/受苦圏概念の今後の可能性について触れておこう. 梶田・船橋 が, 様々な社会問題に対 する概念の応用可能性を示唆したように, もともと受益圏/受苦圏概念は広範な社会事象の分析に応用可能 なように設計されていた. 艦橋独自の, 社会的ジレンマ論の展開の中で, 受益圏/受苦圏概念を分類に利用 したのにも見られるように, 確かに概念の応用可能性自体は広範である. しかし, 概念の応用可能性と分析可能性とは異なるようにも思われる. 大規模開発以外の事例研究が少な い現状で は, 分析可能性 が他の事象・イシューエリアに対して開かれているかどうかに答 えることはできな い. この点について は, 今後の応用例の豊富化が, それに答えることとなるだろう. これまでの研究では, 受益と受苦の過剰なアンバランスが存在する事例において, この概念はもっ とも有 効性を発揮しているといえる. 理論形成の段階において, 受益と受苦のアンバランス が顕著な事例が前提と なっ ているがゆえに, アンバランスが顕著であるほどに概念の有効性 を発揮するのかもしれない. これを逆 説的にとらえれば, 受益圏/受苦圏概念は, 一 見自己回帰型 ジレンマ状況と思える事例に対して, 受益の階 層性を明らかにする分析枠組みであり, この点にこそこの概念の積極的な意義がある, と筆者は考えている. 2002年5月19日/於:法政大学) での (付記) 本稿は, 2002年度第2回環境社会学会関東地区研究例会 ( 報告原稿に加筆・修正を加 えたものである. 報告の際に提起されたフロアからの批判や意見が, 改稿の過程 で非常に有益な示唆を与えてくれた. 発言者の方々にこの場を借りて感謝申し上げる. また, 本稿は, 文部. 科学省科学研究費補助金 (課題名 「社会制御システム論に基づく環境政策の総合的研究」 , 研究代表者艦橋 晴俊) による研究成果の一部である.. 87.

(11) . 角. -. 典. 註 1 艦橋はさらに 注において 「受益圏・受苦圏論は特定の個人の発案ではなくグループ研究から生まれたも のである」 とことわっている (飯 , 島他編, 2 ) 0 0 1 5 7 : . 2 たとえば 堀川は 受益圏/受苦圏概念を 日本における環境社会学の主要な4つ の方法論の一つにあげている (堀川,1 , , 99 9 2 5 ) 1 , : . 3 梶田は同時に 範域性以外に 「社会階層」 「年齢」 「人種・民族」 などによる定義の可能性にも言及してお り, 「開発問題とは, 『範域性』 が , 重要な意味を持つような, 受益圏・受苦圏問題の一特殊例」 と述べている (梶田 1 8 ) 8 1 0 : , 9 - 4 別のところで 梶田は大規模開発問題の解決策として①補償 ②外部不経済の極小 化, ③欲求の制御の3つを示し, ②③を理想の解決手段 , , と して いる (梶田, 1982 258‐ 260;1988 ). 50 53 : : …. 5 梶田によれば 点形態の場合 いわゆる重なり型の受苦圏であるために コミ ニテ ュ ィレベルでの解決可能性が存在し, それ以外の3つの , , , 型では, コミュニティレベルでの解決が困難であるとする‐ そして, 線形態と面形態を比較した場合 線形態は行政区画とのずれが著しいた , めに, 自治体レベルでは受苦者が少数派にとどまってしまい, 問題解決への住民の関与が難しく 反対に 面形態では 行政区画とのずれが , , , 相対的に少ない上に, さらに面が広くなることによって関係自治体のバックアップが得られるために 受苦者たちにとって有利であると述べ , る (梶田, 1982 246 ) 247 : ‐ ‐. また, 事前と事後に関しては, 事前の場合には, 事前防止型もしくは作為阻止型の住民運動が可能であるが 事後の場合には事後救済型の , 住民運動にとどまり, 両者を比較した場合に, 前者の方が 受苦者の交換力が著しく大きく 相対的に有利であるとしている (梶田 1 8 2 , : , , 9 235 236;1988 34 ) ‐ : .. 疑似受益圏については第3章第1節を参照のこと. 船橋は, 移転補償に関しては, 補償による受益が受苦を上回るものと認識された場合に有効性を持ち得るが 必ずしもそうならないことも , あるということを指摘する‐ それゆえ, 受益還元施設の建設等による さらなる受益の平等化努力が必要となるのである , . これらのうち, ③の点に関連して, 「今後の社会資本の建設事業の成熟化のためには 社会的需要の節度あるいは抑制ということが必要に , な っ ている よう に思われる」 としている点は 梶田と立場を同じくしているといえるだろう (松橋他 1 ) 8 8 1 0 6 : , , 9 . 艦橋は, 再三受益圏/受苦圏概念がグループ研究の産物であることを強調しているが 受益圏/受苦圏概念を駆使した 「公共性」 批判は , , 船橋独自の視点といってよいだろう‐ 0 これは 松橋が戦略分析を紹介した文章 (松橋 2 0 ) をもとにした‐ しかし, 松橋が, 受益圏/受苦圏概念に対して上記のように論 0 1 4 0 : , , 0 じたわけではない‐ 1 こうした差異は 多様な事例を引用して 比較的一般理論体系としての受益圏/受苦圏論を展開し ようとした梶田と, 特定の事例研究から , , 得られたデータを重視して論を展開した艦橋との差によるものかもしれない‐ ただし, 海野は, 受苦圏の語を使わずに被害圏という語を採用している ‐ しかし, 環境問題の社会的ジレンマ論の 「提起者」 である海野は, 自己回帰型ジレンマに分析を限定しており (海野 20 ) 1 1 7 3 : , 0 , 船橋の 展開した社会的ジレンマ論が共通理解を得ているわけではないこと, そして, 後に述べるように 井上 ( 1 9 9 5 ) 9 96 による批判も存在する ;1 , ことも指摘しておく必要があるだろう‐ 他方, 松橋の社会的ジレンマ論への井上の批判に対し 堀川が 「 『加害型ジレンマ』 の可能性と限界 , 性に関する議論はまだこれからの課題だと思われる (堀川,1 99 9 2 ) 1 9 」 と述べていることも付け加えておく. : 渡辺の談論は, 奈良のシカをめぐる受益圏そのものが多様であることを示しており, 単一の受益圏の中における主体の多様性という議論に なっていない. 梶田 ( 1 ) では, 受苦圏の重層性について言及されているが, これは, 渡辺の議論と通じるものがある すなわち 受益圏 9 8 0 ‐ , /受苦圏概念は, 一つのイシューについて複数の受益圏もしくは受苦圏を想定できるという立場である 面としての圏を細分化するという試 ‐ みの妥当性は慎重に判断されるべきものである. 面の細分化は, 分析過程の複雑化を必然的に生じさせ, 分析力の低下を招くおそれがあるか らである‐ この批判は, 砂田の提起した疑似受益圏の発想と根幹を同じくしている‐ 個別の主体に着目する視野から こうした批判や発想が提起され , るのは至極当然のことといえる. また, 個別の受苦についての言及は, 松橋も行っている (船橋他, 1 ) 9 8 8 1 00 : . 個別の問題解決の側面においては, 受苦の認識は受苦圏に おいて均質ではなく, 提示された解決案に対する対応も, 置かれている状況によって異なってしまう ‐ そもそも井上は, 環境問題を社会的ジレンマとして把握することに反対している. 艦橋は, ゴミ問題や地球温暖化問題などは格差目損型ジレンマにはいるべき事例であるという認識を有している 筆者がゴミ問題および地 ‐ 球温暖化問題を自己回帰型ジレンマとしたのは, いわゆる生活型公害と呼ばれるものが, 海野の提起した社会的ジレンマ論の主たる対象になっ ているという理由による‐ 社会的ジレンマ論に 「範域性」 を導入するということも可能性として考えられるが それがうまくいくかどうかは定かではない , . それゆえ, 受益圏/受苦圏は, 面的な解決志向を有するものであり, 個別状況の解決についてはその分析の鞄時にはないということを再度 確認しておく必要がある‐ 梶田は, 受益と受苦の定義を, 間接的影響や非日常的利用をも考慮して厳密に定義するよりも, 直接的影響というレヴェルで定義した方 が有意味であるとしている‐ しかし, こうした考えは, 彼らの例示した分離型の構造の説明に役立つとしても 結局は受益圏の範域を暖昧に , する効果しかもたらさない.. 88.

(12) . 受益圏/受苦圏概念に関する省察 参考文献 0 1 * 飯島伸子/鳥越浩之/長谷川公-/艦橋暗俊編, 20 ,『講座環境社会学1 環境社会学の視点』 有斐閣‐ 1 4 1 * 池田正敏,1 9 8 8 : ‐ . , 『東洋大学社会学研究報告集』7 , 「千歳川放水路計画をめぐる住民運動 (その1) 「 』1 1 1 4 『 』 7 8 8 『 の批判的検討 環境社会学研究 社会的ジレンマとしての環境問題 9 9 5 * 井上孝夫,1 : - 」 ‐ , 2 1 1 )」『環境社会学研究』2 1 4 4 7 ‐ * 井上孝夫,1 9 9 6 : ‐ , 「『社会的ジレンマとしての環境問題』 の批判的検討( 「 』4 して 『 5 9 3 1 0 4 関西学院大学社会学部紀要 からの脱出 『 社会的蟻地獄 』 共感能力の獲得を目指 * 海野道郎,1 9 8 2 」 ‐ : . , 1 00 1 * 海野道郎, 2 0 0 , 『講座 , 飯島伸子/鳥越陪之/長谷川公一/松橋晴俊編, 2 , 「現代社会学と環境社会学を繋ぐもの 相互交流の現状と課題」 86 1 5 5 1 環境社 会学1 環境社会学の視点』 有斐閣, pp ‐ ‐ . 1 3 * 梶田孝道, 1 99 1 9 7 6 : - . , 「社会問題の新しい特質とテクノクラシー」『現代社会学』6 * 梶田孝道, 1 9 7 9 , 「紛争の社会学. 9 7 9 受益圏と受苦圏 『大規模開発問題』 におけるテクノクラートと生活者」『経済評論』1 ‐5‐ 道編 4 年度文部省科学研 『 「 5 2 5 昭和 馬場伸也/梶田孝 地域問題の新しい展開 』 『 受苦圏 』 の局地化 」 * 梶田孝道, 1 ‐ 9 8 0a , 『受益圏 の拡大と 究費助成総合研究 非国家的行為主体のトランスナショナルな活動とその相互行為の分析による国際社会学』 津田塾大学国際関係研究所, 49 60 ‐ pp ‐ .. 9 8 0 8 0b * 梶田孝道, 1 9 .6. , 「国家・地域社会問題の日本的展開 地域紛争としてみた国際空港問題」『経済評論』1 「 』 2 2 遂 『 ニテ の社会設計 有斐閣 奥田道大他 コミ ニテ 受益圏・受苦圏とコミ * 梶田孝道, 1 9 8 2 ィ 」 ュ ュ ィ pp . ‐ 269 , * 梶田孝道, 1 9 8 8 ,『テクノクラシーと社会運動 対抗的相補性の社会学』 束京大学出版会‐ 9 9 20 2 1 5 * 金菱清, 2 0 0 1 : ‐ . , 「受苦圏の潜在化に伴う受苦と空港問題の視座 受益圏・受苦圏モデルを使って」『関西学院大学社会学部紀要』8 * 砂田一郎, 1 8 9 0 , 「原発誘致問題への国際的インパクトとその政治的解決の方式についての考察 地域問題の新しい展開」 馬場伸也/梶田孝. 4年度文部省科学研究費助成総合研究 非国家的行為主体のトランスナショナルな活動とその相互行為の分析による国際社会 道編 『昭和5 2 5 ‐ 学』 津田塾大学国際関係研究所, pp 6 1 7 6 ‐ . ‐ 「 -経営システムと支配システム- * 艦橋晴俊, 1 9 8 0 協働連関の両義性 」 現代社会問題研究会編 『現代社会の社会学 社会生活への新しい , 2 2 3 1 視角』 川島書店pp 0 9 - ‐ . ‐ 4 2 3 5 5 3 0 * 艦橋晴俊, 1 9 8 9 ( ) : ‐ ‐ , 「社会的ジレンマとしての環境問題」『社会労働研究』3 5 2 0 * 松橋晴俊, 1 9 9 5 」『環境社会学研究』1 ‐ : . , 「環境問題への社会学的視座 『社会的ジレンマ論』 と 『社会制御システム』 * 松橋晴後, 1 9 9 9a , 「加害過程の特質」 飯島伸子/艦橋暗俊編 『新潟水俣病問題. 加害と被害の社会学』 束信堂: 3 4 1 7 - . 「 * 松橋晴後, 1 4 6 7 99 9 9 9 9b , 『福祉社会事典』 弘文堂p ‐ ‐ , 受益圏・受苦圏」 , 庄司洋子/木下康仁/武川正吾藤き村正之編, 1 「 相関 社会学会有志編 『 ヴ 熊本水俣病の発生拡大過程における行政組織の無責任性のメカニズム 0 00 * 松橋晴俊, 2 」 ェーバー・デュルケー , , ム・日本社会 社会学の古典と現代』 ハーベスト社. 高速文明の社会問題』 有斐閣‐ 『 9 8 8 * 松橋晴倭/長谷川公一/畠中宗一/梶田孝道, 1 , 高速文明の地域問題 東北新幹線の建設・紛争と社会的影響』 有斐閣. * 艦橋晴俊/長谷川公一/畠中宗一/勝田晴美, 1 9 8 5 , 『新幹線公害. * 松橋晴俊/飯島伸子編, 1 2 環境』 東京大学出版会. 99 8 , 『講座社会学1 * 堀川三郎, 1 9 99 , 「戦後日本の社会学的環境問題研究の軌跡. 2 1 1 2 2 3 環境社会学の制度化と今後の課題」『環境社会学研究』5 ‐ : ‐. * 横山正樹, 1 9 4 9 , 「環境破壊にみる開発の暴か性と被害住民の自力更生 梶田孝道の受益圏・受苦圏概念をめぐって」『四国学院大学論集』 86 1 9 30 ‐ : . * 渡辺伸一, 2 1 0 0 , 「保護獣による農業被害への対応. 2 『奈良のシカ』 の事例」『環境社会学研究』7 1 9 1 44 : ‐ ‐. 89.

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