環境のストレングスとニッチ概念
その他のタイトル Environmental Strength and Social Niches
著者 狭間 香代子
雑誌名 人間健康学研究 : Journal for the study of health and well‑being
巻 1‑2
ページ 11‑20
発行年 2011‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00023289
環境のストレングスとニッチ概念
狭 間 香 代 子
Abstract
The purpose of this paper is to examine the meaning of places with the social niches as a clue. The life model of social work practice regards the person‑envirorunent relationship as the transaction. In addition, it introduced niches as an ecological metaphor.
The strengths model puts social niches at the points where people interact with their envirorunents. This paper showed the significance of places by comparing niches concepts of two models.
はじめに
国際ソーシャルワーカー連盟のソーシャルワーク の定義の中に「人びとがその環境と相互に影響し合
う接点に介入する」
I)という文言が含まれている。
これはソーシャルワークが何に焦点化して、援助す るのかということを明確に示したものである。
人々と環境との接点というのは、ソーシャルワー ク実践において長く論議されている課題の一つであ る。生活問題や課題の解決のための援助に際し、人 と環境のいずれに問題の解決の糸口を見出すのか、
問題が発生する原因はどちらにあるのか、解決のた めの働きかけの対象を何にするのか、といったこと が常に論じられてきた。近年の動向としては、この 人と環境との接点をシステム論と生態学をメタファ ーとするエコシステム視点から把握した捉え方が主 流となっている。
本稿では、エコシステム視点が人と環境との接点 を交互作用という関係性のみに特化して把握する見 方に対して、そこに場の概念を含ませることの重要 性を検討した。そのために、エコシステム視点とス トレングス視点がいう「ニッチ概念」の相違点を明 確にして、その違いからストレングス視点が人と環 境との接点に組み込んだ場の概念の意義を論じた。
第
1節 人一環境の接触面
ド
(Richmond,M.)がケースワークを体系化して 以降、かなりの期間で精神心理的に偏重したアプロ ーチが展開されていた。しかし、その間にあっても、
ソーシャルワークは人と環境の双方に対する関心を 持続させており、人と環境との間に焦点化して、生 活問題の解決を援助する方法を模索してきている。
その潮流は、
1950年代後半に公式化された社会生 活機能
(socialfunctioning)の概念によって、ソー シャルワークの焦点としてまとめられていった。
人と環境との関係を一般システム論に依拠して 社会生活機能を洗練したのは、ゴードン
(Gordon, W.)やバートレット
(Bartlett,H.M.)である。こ
こでは、社会生活機能をソーシャルワークの共通基 盤の核として位置づけたバートレットの所説に基づ いて人と環境との接触面と社会生活機能について述 べる
(Bartlett,1970)。バートレットは、
1950 60 年 代 に か け て ソ ー
シ ャ ル ワ ー ク 領 域 で 台 頭 し て い た 生 活 課 題
(life
tasks)や 対 処
(coping)概 念 を 導 入 し て 、 社 会 生
活機能概念をソーシャルワークの共通基盤の土台に
位置付けた。人が取り巻く環境と相互作用している
ことは一般的には理解できるが、これではあまりに
曖昧である。ソーシャルワーク全般に共通する概念
として位置付けるために、バートレットはこの概念
を環境からの圧力と人々が試みる対処との交換また
1. 社会生活機能への焦点化 は均衡と置き換える。人は生活課題を環境からの圧
ソーシャルワークは、
20世紀初頭にリッチモン カとして経験し、それに対処していくという交換と
12 人間健康学研究第 1•2号 合 併 号
均衡の過程として把握するのである。
ここでいう均衡/交換については一般システム論 を援用する。環境からの要求と人の対処努力との関 係は均衡している場合もあれば、不均衡な場合もあ る。後者の場合には人にも環境にもストレスが発生 する。そのメカニズムをホメオスタシスの概念によ って説明し、さらに、システム論がいうフィードバ ックに基づいて、それらを人と環境が否定的にも肯 定的にも機能する循環的関係と見なした。
以上のように、バートレットは分野ごと、方法ご とに分立していたソーシャルワークの共通基盤を探 究し、共通項として人と環境との接触面である社会 生活機能を明確にしたのである。
2.
エコシステム視点と人:環境の適合 今日の様々なソーシャルワーク実践論に影響を与 えている基本的枠組みが、エコシステム視点であ る。これは一般システム論と生態学を援用して、人 と環境との接触面を概念化したものである。この発 展に中心的役割を果たしたジャーメイン
(Germain, C.B.)は、社会生活機能のもつシステム的特徴を発 展させ、生態学をメタファーとした実践モデルであ るライフモデルを提唱した
(Germain& Gitterman, 1996)。生態学は、有機体と環境とがいかに適応的なバラ ンスを保っているか、またはバランスが崩壊してい るかを把握する枠組みを提供し、有機体と環境に含 まれるあらゆる要素の関係をそれぞれが継続的にま た相互補完的にお互いを形作ると捉える。
これをメタファーとしたライフモデルの基礎概 念が、「人:環境の適合」
(person: environment fit)であり、人と環境との交換、交互作用の状態を 表している。適合には好ましい状態もあれば、好ま しくない状態も含まれる。さらに、この適合レベル を高めるための行動的、感覚一知覚的、認知的、変 化志向的過程が適応であり、人と環境は、適応を通 して互いに適合レベルを向上させていくのである。
適合は、生活ストレッサーの概念によっても説明 される。人生の発達段階の移行期で生じる課題や病 気や死別といった出来事、環境からの様々な要求、
対人関係上での機能不全などの生活ストレッサー が、人々に生活ストレスを体験させる。しかし、必
ずしも生活ストレスは否定的な体験ではない。環境 からの要求が肯定的に体験され、挑戦と受け取られ る場合は、人:環境の適合が好ましい状態になる。
一方で、環境の要求や害悪などが否定的に体験され、
人が不安、罪悪感、怒り、孤立感などを感じる時、
適合は好ましくない状態になる。この違いに関わる のが、人の対処能力である。対処能力とは、生活課 題を効果的に解決し、否定的な感情を調整する様々 な努力のことであり、関係力、コンピテンス、自己 評価、自己志向などの内的な力と関係する。
従来のソーシャルワークは、環境に対する働きか けを間接援助と位置づけて、
2次的な取り扱いをす ることが多かった。しかし、ライフモデルは適合の 一方の極である環境も重視している。ジャーメイン は環境を大きく社会的環境と物理的環境に区分し た。前者には社会的ネットワークや様々な社会集団、
組織などが含まれる。後者には、自然界や建造的世 界、また生活空間の影響がある。
アセスメントや介入も、人:環境の適合のレベル でなされる。アセスメントでは、生活ストレッサー の質、それに対する人の認知や対処努力、ストレッ サーを緩和させたり悪化させたりする社会的環境や 物理的環境についての情報収集や分析がなされる。
そして、アセスメントによって導き出された目標に 向かって、対処能力や環境の応答性を高める援助が なされるのである。
環境に関する生態学的メタファーとして特に注目
できるのが、ハビタット
(habitat)とニッチ
(niche)の概念である。ハビタットとは、「有機体が見出さ
れる場。生態学的メタファーとしては、個人や人々
の集団のすべての物理的、社会的場
(settings)」で
あり、ニッチは「生物的コミュニティ内で種によっ
て占められる位置
(position)のこと。生態学的メ
タファーとして、人のコミュニティ内で個人や集団
によって占められる社会的地位
(status)」という意
味で捉えられる。
(Germain& Gitterman, 1996 :20)ェコシステム視点に基づくライフモデルは、きわ
めて包括的な枠組みを構成している。伝統的にソー
シャルワークが蓄積してきた様々な概念を組み込む
とともに、近年に登場した諸概念、例えばライフス
トーリーやライフコースといった考え方、さらには
後述するストレングス視点も積極的に取り込んでお
環境のストレングスとニッチ概念(狭間) 13
り、そこにもこのモデルがもつ包括性を見出すこと ができる。また、ジェネラリスト・ソーシャルワー クという統合的ソーシャルワークを標榜する多くの アプローチの基本的枠組みともなっている。
しかしながら、ライフモデルのいう人一環境の捉 え方に対する批判もある
(Kondrat,2008:350)。こ の中にはストレングス視点からのものも含まれる。
次にストレングス視点の概要を述べて、両者の違い を検討したい。
3.
ストレングス視点の概要
ストレングス視点は、
1980年代の後半に登場し たソーシャルワーク実践における基本的枠組みの一 つであり、カンザス大学ソーシャルワーク学部のス タッフを中心とした研究の成果である。
この視点の基本的な考えは、ソーシャルワークが 援助の対象を問題の欠陥、病理に向けていることへ の批判にある。生活問題や課題を抱えている人や家 族に面した時、多くの援助専門職は何がこの問題の 背景にあり、どんな原因でこのような状態になって いるのかということを考える。そのために、利用者 から様々な情報を得て、その複雑化している問題や 課題の原因を特定化しようとする。その見かたを根 底から覆そうとするのが、ストレングス視点である。
ストレングスとは、一般的には、強さ、長所など と訳されるが、ストレングス視点における意味は、
すべての人々が保有する広範な才能、能力、力量、
スキル、資源、願望などで、それらの潜在的な可能 性も含むものである。それらは人に属するだけでな く、コミュニティにも存在する。
ストレングス視点提唱の中心的立場にあるサレイ ベイ
(Saleebey,D.)は、この視点の基本原理を
5つ挙げている
(Saleebey,1997:12‑15)。第
1は、すべ ての個人、家族、集団、コミュニティはストレング スをもっということ。第
2は、病気などの経験は苦 しみであるが、一方で挑戦の対象ともなるというこ と。第
3は個人、集団などの願望に上限はないとい うこと。第
4は援助者と利用者は協働的関係である ということ。第
5に、すべての環境が資源に充ちているということが挙げられる。ストレングス視点は、
従来の援助が病理や欠陥に偏った見方であったこと に対して、問題ではなく可能性、病気ではなく健康、
強制ではなく選択を見るようにした実践を提起して いるのである。
(Rapp& Goscha, 2006: 59)援助の 目標は、利用者の希望、願望の実現にある。利用者 がごく普通に仕事に就き、教育を受け、自宅で生活 できるようなことができる援助を目指すのである。
ストレングス視点とエコシステム視点に基づく援 助の大きな違いは、病理欠陥的視点の有無にある。
確かに、エコシステム視点においても、ストレング ス視点が導入されているが、対処能力の弱さや環境 の応答性などに働きかけていく援助には病理的見か たの存在を否定できない。ストレングス視点は欠陥 や弱さがあることを否定する訳ではない。私たちの ものの見かたの特徴は「図と地の知覚」にあると言 われる。その意味では、何を図とするのかという違 いであって、ストレングス視点は徹底してストレン グスを図にしようとする立場である。
両者の大きな違いは以上のような点にあるが、本 稿では別な側面から両者の違いを論じたい。それは、
人と環境との接触面に関する概念の違いである。上 述のようにライフモデルは、それを交互作用に基づ
<適合として捉えた。一方、ストレングス視点は、
ニッチ概念を軸とした「場」から人と環境との関係 を概念化している。この捉え方は従来のソーシャル ワーク実践論では十分に取り上げられていない面で ある。
第
2節 ストレングス視点とニッチ概念
1.ライフモデルのいうニッチ概念
ストレングス視点に立つ実践は、アセスメントに おいてニッチ概念を用いることが多い。これはテイ ラー
(J.B . T
aylor)が提起した概念であり、ライフ モデルにおいて、生態学メタファーとして取り上げ たハビタットやニッチの概念とは異なる意味で捉え られる。ストレングス視点に導入されたニッチ概念 の特徴は、人と環境との接触面を単に交互作用とい う関係性のみで捉えるのではなく、場の概念を包含 したことにある。
第
1節で既述したが、ライフモデルはエコシステ ム視点からソーシャルワーク実践を考察し、特に環 境の意味を深めるために生態学がいう「ハビタッ ト」と「ニッチ」の概念を組み込んだ
(Germain&Gitterman, 1996: 20)
。これらの
2つの概念は、コ
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ミュニティヘの働きかけで特に有効な概念と位置付 けられる。生態学的には、ハビタットとは有機体が 見出される場であり、巣や生息地や縄張りといった ものである。これは人間にとっては物理的、社会的 な場
(setting)をいう。物理的ハビタットとは田舎 や都会といったものであり、そこには住居、輸送シ ステム、学校、病院、娯楽施設、公園、社会的機関 などが含まれる。
一方、ニッチとは生物的コミュニティ内での種に よって占められる位置である。ハビタットは住所、
ニッチは職業に喩えられる。ライフモデルは、ニッ チをコミュニティの社会的構造内で集団や個人によ って占められる社会的地位と捉えたが、ジャーメイ ンは、具体的に何が成長を支え健康を促進するよう な人のニッチを構成するかは、それぞれの文化など によって異なるとした上で、アメリカでは機会平等 の権利を含む諸権利によってニッチが形成されると 捉える。多くの個人や集団が、その属性や経済的状 態などによって、諸権利を保障されないニッチに追 いやられているのである。
これらのニーズや権利が保障されないようなニッ チを占める人々がその抑圧を回復できるように支援 するのがソーシャルワークの役割であり、ワーカー には地方自治体や州、政府などの政策に働きかける ことに参与することが求められる。
2.
新たなニッチ概念の応用
テイラーは、ジャーメインらが導入した生態学の 枠組みを評価しているが、一方でそれが単にエコロ ジカル視点として、概念的枠組みを提起したにとど まり、具体的な実践に応用できないと述べている。
実際にジャーメインらのライフモデルは、ストレス とコーピング、アタッチメント理論を土台とする関 係性、自己評価などの概念を中心として構成されて おり、ジャーメインが批判してきた医学モデルがい
う概念を引き継いでいると思われる。
そこでテイラーはエコシステム視点を排除するの ではなく、具体的に実践に応用できる方法を検討し、
ニッチとハビタットの概念を取り上げてエコシステ ム視点の拡大を試みた。ここでいう拡大とは、ジャ ーメインらの考え方に基づく展開ではなく、生態学 から直接にアイデアを応用するという意味で用いら
れている。
生態学においても、ニッチの定義は多様である が、テイラーはいくつかの定義を検証して、「ニッ チとは環境の中にあるものとして存在する。また、
ニッチを記述するには、種が見出され場所と条件に ついての詳細さ、種が常に自らを維持できる資源、
種が他の種と持つ関係性が必要である」としている
(Tailor, 1997:218)。この生物学的ニッチ概念を土台 にして、人という種に応用する時に、当然ながらそ のままでの導入は難しい。人は他の種とは異なり、
言語を使用し、それが世代間での文化の伝達を可能 にしている。そこで、生物学的ニッチの中心とな る「種」に替えて、「人のカテゴリー
(categoriesof persons)」を人間にとってのニッチの説明の中核に 据える。
ここでいう人のカテゴリーとは、次のような条件 を満たすものである。第
1に資源の入手に関わって おり、第
2に補完するカテゴリーの存在である。こ の存在は支援の資源となることもあれば、資源を得 るための対抗者になるかもしれないカテゴリーであ るが、つながりを形成できる人々でもある。具体的 な例として、テイラーは「生活保護受給の母親」「バ
ッグレディ」「大学教師」「CEO」などを挙げる。
さらに、人のニッチ概念を構成するために不可欠 な要素がハビタットである。ライフモデルは、ニッ チとハビタットを別々に捉えていたが、テイラーは ニッチの説明要素として組み込んだ。上述のように、
生物学的ニッチ概念は、場所と条件を含む。この要 件は維持されて、人のニッチに適応される。場所は、
住宅や店などを指すが、さらにあるカテゴリーの人 が必要な資源を利用できるような場という意味も含 む。人にとっての資源とは一つには金銭であり、そ れを獲得する手段としての仕事などである。もう一 つは情報の利用である。このようなハビタットの特 性を含めて、テイラーはニッチを次のように定義す
る
(Tailor,1997: 219)。「人のカテゴリーの環境的ハビタットであり、
それはかれらが利用できる資源、およびかれら
が繋がることのできる他のカテゴリーの人が利
用できる資源を含む」。
環境のストレングスとニッチ概念(狭間) 15
この定義は、ニッチに場所と資源の概念を含ませ ており、そこにライフモデルのいうニッチ概念との 相違がある。さらに、その違いは環境と個人との接 触面の捉え方にも関わってくるのである。
3.
可能性の閉ざされたニッチと 可能性の開かれたニッチ
人々の生活をニッチに焦点化してみると、その状 態には大きく
2つある。一つは可能性の閉じられた ニッチ
(entrappingniches)であり、他は可能性の 開かれたニッチ
(enablingniches)である。テイラ ーは可能性の閉ざされたニッチの特徴を次のように 説明する
(Tailor,1997:220‑224)。そこにはスティ グマが存在し、人はそこにから簡単には逃げ出すこ とができない。外部からは、かれらはホームレスと か統合失調症などのカテゴリーとして見られる。さ らに、この場には報酬や地位といったものも存在せ ず、将来に対する目標を生みだす機会もない。それ は技術を習得して自己を磨く機会のないことでもあ り、長期的視点も欠如している。また、ここでは経 済的資源が全くなく、これがさらなるストレスとな る 。
一方で、可能性に開かれたニッチは次のような特 徴をもつ。ステイグマは存在せず、他の人々との交 流や支えがあって、その中で自分自身を確認するこ とができる。人は単なるカテゴリーではなく、全人 的に見られる。段階的に認められていくので、将来 の展望をもつことができる。また、よいフィードバ ックが周りから得られるので、偏った解釈をしない。
様々なスキルを学ぶ機会が提供されるとともに、経 済的な資源も豊富である。
ソーシャルワークは、閉じられたニッチにいる 人々が開かれたニッチ、生活の場を作り出すことが できるように援助することである。ストレングス視 点に立つ実践とは、生活の場であるニッチの質を向 上させることである。
4.
人と環境の接触面にあるニッチ
テイラーがいうニッチの概念は、ストレングス視 点に立つ実践モデルやアプローチにおいて、具体 的に応用されている。例えば、ラップとゴッチャ
(Rapp, C.A.& Goscha, R.J.)は「ストレングスモデル」
を提唱し、ニッチ概念を個人と環境との接触面を 具体的に示す概念として導入する
(Rapp& Goscha, 2006: 37)。ストレングスモデルは、利用者が生活上の目標を 達成できるように支援することを目指すものであ る。それらの目標とは、適応や対処能力の向上とい ったものではなく、仕事に就く、友人を作る、アパ ートに住む、様々な娯楽を楽しむという生活上の具 体的な事柄である。したがって、援助はこのような 具体的な生活上の目標を達成できるようになされ る。利用者の具体的な生活をワーカーと利用者がと もに理解できるために、ニッチ概念が活用される。
利用者の生活上の目標を具体的に捉え、それを達 成して生活の質を向上させるためには、ニッチ概念 を具体化する必要がある。そのために、ラップらは ニッチを①居住整備
(livingarrangement)②娯楽
(recreation)③ 仕 事
(work)④ 教 育
(education)⑤社会関係
(socialrelationships)の
5つの要素で 表す。これらの中でそれぞれの目標達成を目指すこ とで、生活の質、達成、有能感、生活の満足、エン パワメントという「望まれる成果」に導くのである。
具体的に示されたニッチは人と環境との接触面に 位置付けられる。ストレングスモデルでは、人と環 境とのストレングスの集約する領域としてニッチを 捉える。その関係性は図式化して示され、個人のス トレングスを構成する 3つの要素である熱望・能カ・
自信、および資源・社会関係・機会といった環境ス トレングスの構成要素が収倣する場として視覚的に 表される(図 1 ) 。
図
1個人のストレングス
ニッチ(生酒の場)
居住整備 娯楽 仕事 教育 社会関係
環坦のストレングス
Rapp & Goscha (2006) p. 49より作成
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ストレングスモデルでは、ニッチの質を「どの人 にとっても、個人の熱望、能力、自信、環境資源、
機会、個人を支援する人々の関数」として捉える
(Rapp & Goscha.2006:52)。具体的なニッチはその 質の向上が援助の目的として示されるとともに、実 践方法の具体的ツールとして、アセスメントのワー
クシートにも導入されている。
第
3節 アセスメントツールにみる「場」の概念
1.エコマップと「人と環境との接触面」
本節では、エコシステム視点とストレングス視点 のそれぞれが主に使用するアセスメントツールを比 較することで、ストレングス視点に立つ実践が重要 視する「ニッチ概念」の意義を検討したい。
ェコシステム視点に立つライフモデルは、エコマ ップをアセスメントや介入計画のために用いる。こ れは利用者の全体的な特性を描き出すためのツール としての図解であり、その目的は利用者とその家族 を中心とした環境内でのサポートと生活ストレスに 関するデータを整理して明らかにすることである
(Hartman, 1978)。図解は、利用者とその家族のジノグラムが中心円 となり、周囲にその利用者や家族に影響するメゾレ ベルでの主要な社会的システムが円で描かれて位置 づけられるというものである。メゾレベルの社会シ ステムとは、学校、仕事、教会、娯楽などの地域社 会にある社会資源をいう。描かれる様々な円は、家 族との関係の質を表す線でその関係性が示される。
具体的には、強い関係は直線、ストレスフルな関係 はかぎ裂き線、薄い関係は点線で書きこまれるので ある。利用者との面談を通して、その時点でのエコ マップが利用者とワーカーの両者によって描かれて いく。エコマップという視覚化された図を用いて、
ワーカーは地域社会の中で既に存在するサポートネ ットワークに利用者や家族をつなげるように援助し ていくのである(岡本他、
1992)。
このようにエコマップは図解を用いることで、
利用者と取り巻く環境、特に地域社会レベルの環 境内にある社会資源との交互作用の質を描き、そ の質の改善を図ることで、適応へと援助していく。
しかし、ここで焦点化されているものは、関係性 の質であり、良好か良好でないか、全く関係性が
欠如しているかなどがアセスメントされ、介入の 目標となる。ここには、利用者が生活する場が顕 在化されていない。エコシステム思考には、当初 から人と環境との交互作用が中心となっており、
関係性そのものが常に問われる。
2.
ストレングスアセスメントと生活領域 ストレングス視点に立つアセスメントで用いられ るワークシートまたはインベントリーシートは次の ような特徴をもつ。一つは、ストレングスアセスメ ントの中心に生活領域を位置付けていることであ る。他の一つは、時間的な 3区分である。時間の経 緯によって現在の状態、これからの個人の希望・願 望、過去に利用した資源の
3つで構成されている。
生活領域で取り上げられる構成要素は固定して いる訳ではない。例えば、ラップらのストレング スモデルは、アセスメントのワークシートとして、
日常生活状況
(dailyliving situation)、経済/保険
(financial / insurance)、 職 業 / 教 育
(vocational / education)、 社 会 的 支 援
(socialsupport)、健康
(health)、レジャー/余暇
Oeisure/ recreational)、 精神性/文化
(spirituality/ culture)という
7つの 生活領域を設定する
(Rapp& Gotcha, 2006:99‑100)。
キストハード
(Kisthardt,W.E.)は、ストレング スアセスメントの一覧表の中で、住居、移動手段、
経済/保険、職業、社会的支援・人間関係・親しい 関係・精神性、健康、余暇時間などを挙げている
(Kisthardt, 1997: 97‑113)。また、高齢者のストレン グスアセスメントでは、ラップらの挙げる生活領域 から職業の項目が除かれており、利用者の特性に応
じて柔軟に設定しているといえる。
これらは、第
1に住まう場に関すること、第
2に暮らし向きに関すること、第 3に人との関わりのこ
と、第
4に生きがいに関すること、という
4項目に まとめることができる。
さらに、これらの生活領域は現在、未来、過去と いう時間軸に対応して、「今、何ができるか」「今、
何を利用できるか」という現在の状態、「何がした いか」「何を希望するか」などの将来の希望や願望、
「今までにどのような資源を使ったか」という過去
の資源利用の実態などを探索していくように構成さ
れている。
環境のストレングスとニッチ概念(狭間) 17
示された生活領域は、毎日の人々の生活そのもの に対応するものであるとともに、上に述べたニッチ の特徴に基づいている。繰り返しになるが、テイラ ーはニッチ概念には、場所と条件、および利用でき る資源をめぐって関わりのある人々のつながりが不 可欠だと述べた。それらがストレングスアセスメン トの生活領域に反映されている。つまり、日常生活 状況のなかに場所としての住居や移動手段、また、
生活の条件として経済/保険、職業などが含まれて いることである。
ここで特に強調したいことは、場所の要素を明確 に位置付けたことである。生活領域の一つである日 常生活状況の中には、利用者が今住んでいる場だけ でなく、どんな場に住みたいか、住みたくないかと いった側面も含む。さらに、利用者にとっての「住 まいの場 (home)」とは、どのようなもので形作ら れるのかということも重要である。単に、アパート、
公営集合住宅、グループホームといった住居の様式 だけではなく、どんな家具、絵、写真、窓、水槽等々 が、その人にとっての住まいの場をつくるのかとい ったことも強調しているのである。
例えば、ストレングスモデルでは、次のような例 が挙げられている。ケースマネジャーが最初に利用 者がギターをもっていることを見つける。そして、
実際にかれがギターを演奏するのが上手であり、後 でわかったことだが、かれがフォークソングの演奏 が好きで、かつては演奏して稼いでいたのである。
今ではお金のために演奏することはないが、教会や 孫が訪ねてきた時に弾いたりするのである。このよ うに一つのギターから生活の質の向上を図る支援が 展開される。
(Rapp& Goscha, 2006: 97‑98)環境ストレングス、個人的特性、オ能や技術、関 心や熱望といった様々なストレングスは、まさに生 活領域の中から発見される。このように、生活領域 を主軸としたアセスメントは、利用者の生活そのも のに密着した場のストレングスを手掛かりにして、
生活の質の向上をめざして活用されていくのであ る 。
3.
ストレングスアセスメントにおける 場の重要性
ェコシステム視点に基づくエコマップとストレン
グスモデルでのワークシートを比較することで、ス トレングスアセスメントに見出される特徴を検討す ると、以下の
2点が導き出される。
第
1に、人と環境との接触面を、関係性だけでな く場の概念も含めて捉えるということである。エコ システム視点では、人と環境との接触面を交互作用 として捉え、それを人と環境との適合の質の状態と して表す。エコマップは、交互作用を視覚化して、
関係性の質を線の違いによって示した。ここで私た ちが理解できるのは、システム間、つまり利用者や その家族と地域社会で利用している、または利用可 能な社会資源との関係の質である。そこには、社会 資源との距離や利用者の住まう場といった要素を見 出すことはできない。確かに、ライフモデルは環境 の要素として、住まいの場を挙げているが、その取
り上げ方は控えめである。
一方、ストレングス視点にたつアプローチやモデ ルは、ニッチ概念を土台にした生活領域を中心にし たアセスメントに、人々や集団との関係性、相互作 用だけでなく、住まいの場とそれを構成する様々な 物を組み込んでいる。この場からこそ、ストレング
スの発見が始まるのである。
第
2に、ストレングスアセスメントが目標の設定 を生活の質の向上ということで、具体的に提示して いることである。確かに、エコマップを継続的に活 用していくことは目指す方向を視覚化させることが できる。しかし、その方向は顕在化している社会資 源の範疇での目標である。
ストレングスアセスメントは、閉ざされたニッチ から可能性のあるニッチヘと生活の質を向上させる という具体的な目標をワーカーも利用者もともに共 有できる。
ェコシステム視点が交互作用を軸とした関係性に 焦点化することは、他のシステムをコミュニティ内 の資源に設定したとしても、そこには距離がある。
しかし、ニッチを足場にしたアセスメントは、生活 そのものから離れることはできない。したがって、
生活に密着した中でのストレングスの発見と創造で
ある。逆に言うと、ストレングスは生活の中からし
か見いだせないということである。
18 人 間 健 康 学 研 究 第I・2号 合 併 号
第
4節ニッチ概念と場の意味
1.身近な場がもつカ
ソーシャルワーク実践ではリッチモンドが理論的 体系化を図って以来、環境が人に様々に影響してい ることは共通に認識されている。しかし、生活問題 の原因を探し出してその解消を図ることで問題を解 決しようとする立場からは、環境は常に原因に関わ るものとして捉えられてきた。エコシステム視点は 原因を直接的因果関係に求める医学モデルから生活 モデルに転換し、社会資源としての環境を再認識さ せた。しかしながら、サレイベイは、ライフモデル がいう環境はサポートとしてよりも、応答性の弱さ などで表現されるように、環境の欠陥を強調したも のだという。そして、利用者の身近な場のもつ意義 について論じている
(Saleebey,2004 :7)。
ストレングス視点は環境がいかに人々のチャレン ジを促し、資源を提供するかという見かたを提供し た。上述のようにストレングス視点では場と生活条 件を含むニッチを土台にした生活領域からアセスメ ントを行う。それは利用者の生活に密着したアセス メントであった。
生活に密着した環境の意義について、サレイベイ はエコシステム視点があまり取り上げていない、身 近な小さな場に着目する。かれによれば、命は子宮 という小さな場から始まり、それは適度な刺激と滋 養のある環境である。成長過程においても、適度 な資源と滋養が安定した生活をつくる。私たちが 生活する身近な場である、アパート、住まい、施 設、通りなどが良好な生活状態に影孵しているので ある。このような視点から、人々の暮しの身近な小 さいものの力
(thepower of small)に注目し、ソ ーシャルワーク実践における意義を検討している
(Saleebey, 2004: 8‑9)。
まず、サレイベイは身近な小さなものの意義を 3 つ挙げる。第
1は、個人や家族の行動を理解するた めに、より身近な物理的、社会的環境に着目するこ とである。ここでの具体的な例として母子家庭が挙 げられている。その家族を依存的な貧困、人種差別、
公的資源の欠如といったより大きな社会制度という 枠から理解することも大切だが、かれらの住まいの 中にある様々な身近な物である家族写真、菜園、古 い椅子といった物で理解することも同様に重要だと
v
ヽ う 。
第
2は、小さいものを取り巻く力についてであり、
子どもが健全に育っために環境に必要な適度さを挙 げる。取り巻く環境が人、物、音、刺激、広さ等に おいて過剰であることは子どもの発達にとっても、
人の暮らしにも不適当である。暮しには穏やかさを 表出する小さなものの力が不可欠なのである。
第 3は、行動の背最にある身近な隠れ場の重要性 である。それらは人の生活の一部となっており、行 動の背景を理解するには、それらが促す相互作用や 参加の観点から理解することも必要である。
さらに、サレイベイは近隣における小さなものの 力についても取り上げている。近隣がもつ象徴性、
相互作用性、構造性に見られる肯定的で穏やかな側 面に焦点化した時、私たちは小さなものの力を見出 すことができる。
近隣にある小さなものからの変化について、サレ イベイは荒れた学校での取り組みを紹介している。
その取り組みは、学校の校庭から始まる。大部分の 教室から見える校庭の一部に花を植えたり、野菜を 育てたり、池を掘ったりといった環境の変化を起こ させた。多くの生徒たちは身近な環境の変化には敏 感であり、この小さな取り組みがかれらの学校生活 の質を向上させていったのである。
人の行動の背景を考える時、多くの場合に私たち は内面性から推測しがちである。しかし、行動の背 景には、生得的な側面と経験的な側面があり、特に 後者は人が過ごした環境の機能である。人の行動に 影響する環境として、対人関係、規範、役割獲得な どの力が大きいことは認識されている。しかし、同 様に重要なものが、環境の中で多くの意味をもつ小
さなものである。
2.
住まう場と意味付与
なぜ、身近な物理的な環境の小さな変化が利用者 本人、家族、またコミュニティが抱える問題の解消 を導くのであろうか。この点について、場の意味か ら考察したい。
ストレングス視点は、利用者の生活領域にある身
近な目立たないモノに着目した。換言すると、これ
は身近なモノに対して利用者が与える意味から生活
の質の向上を図ろうというものである。それは多く
環境のストレングスとニッチ概念(狭間) 19