企業の社会的責任と国際貢献 : 国際貢献に有効的なアプローチ
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(2) 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). 120 (290). ⒜ 米国における CSR. 人種差別問題,企業の不祥事などに対する企業. 企業の社会的責任のアイデアは,1900 年代. の責任が問われ始めた.CSR は「地域貢献や,. 初期の米国において誕生したと言われている.. 寄付行為など企業が社会に対して果たすべき社. この当時,企業の権限は巨大で強く,政府とは. 6) 会貢献活動」 という意味合いを持ち, 「国内に. 異なった性質を持ち,世間から批判を買う反社. 7) おける企業活動のあり方」 を示すようになるな. 会的な組織として認識されていた.しかしその. ど企業倫理の概念が重要視された.強制的な権. 後,企業間でその権力や影響力を幅広い社会的. 力ではなく,市民社会を説得するような形で社. 目的のために利用することで,利益向上ととも. 会を基盤とした活動を積極的に展開し,企業は. に社会に対する責任を果たすことが可能である. 市民から信頼を得ることで社会での企業の位置. という考えが普及し,慈善的な行動と管理責任. づけを確立するような企業姿勢を示し始めた8).. 行動の 2 つの軸から企業の社会的責任の枠組み. 1980 年代には寄付や慈善事業,ボランティア. 3). が確立された .この枠組みはこの当時の米国. などの企業による社会的側面からの活動実施や. を支える重要な役割を担うようになった.企業. 企業の能力や技術を社会のために活用する社会. は政府に代わって人々の欲求に応え,自由に活. 貢献活動を積極的に実施することが求められ,. 動できる主要な機関として位置づけられた.米. 企業フィランソロピーとして社会に拡大した9).. 国が抱える諸問題を解決する上で不可欠な存在. 1990 年代には,グローバル化による国境を越. となったのである.. えた交流が盛んとなった.多くの企業が企業の. 1920 年代になると,主に福祉や産業改善を. 誘致や工場移転などを行い,世界経済にますま. 中心に,企業に属する従業員や企業を取り巻く. すの好循環をもたらす一方で,移転先の工場に. コミュニティを対象とした活動がなされた.そ. お け る 児童労働 や 苛酷 な 長時間労働 の 実施 な. の後,教育や法律,医療,金融といった分野ま. ど,人権に反した行為が表面化し,企業は市民. で CSR 活動 の 領域 は 拡大 し た4).1950 年代 に. 社会から批判を受けることとなった.NGO や. なると米国企業における社会貢献活動は,従業. NPO などに代表される市民社会組織活動の活. 員に対する福利厚生などを中心とした社会的. 発化,企業活動が監視・評価される機会の増加,. 義務を果たそうとする姿勢から,社会的責任. CSR を基準とした企業評価による企業投資で. (responsibility)や社会的反応(responsiveness) といった対大衆との社会性や社会関係を重視し. あ る SRI の出現などにより 1990 年代の CSR は,企業の途上国での活動姿勢や企業のサプライ. た姿勢へと変化し,社会的側面や非経済的な側. チェーンにおける人権や労働条件に関わる問題の. 面を焦点として形作られた. 「社会的役割を完. 解決のためのツールとして位置づけられた11).現. 遂している会社が企業市民で」あり, 「企業は. 在では企業が携わることが可能な範囲内におい. 何のために存在し,誰のために活動すべきなの. て,限られた資源を有効活用した社会貢献の実. かについて」注意深く考えながら自社方針を貫. 施が重要視されたり12),「企業市民の概念」を. くと同時に,企業利益だけではなく「地域との. 基盤とした「企業が社会に対して果たすべき社. 5). 10). 共生を指向し,広く社会に貢献しようとする」. 13) 会貢献活動」 に通ずる善い行いへの促進とし. 見解がとられた.富を握っている企業は,社会. ての枠組みが形作られるなど,慈善活動や社会. 市民の一員として社会に対して有益となりうる. 問題への解決が含有した広範な領域へと発展し. 慈善的なニーズを果たす必要があると認識され. ている.. 始めた.. ⒝ 日本における CSR. 1960 年代 か ら 1970 年代頃 は,企業利益 を 優. 日本 に お い て 企業 の 社会的責任 が ク ローズ. 先していたことにより生じた環境問題や社会の. アップされ始めたのは,公害や商品投機,商品.
(3) 企業の社会的責任と国際貢献:国際貢献に有効的なアプローチ(渡耒). (291) 121. の売り惜しみなどの問題が流布した 1970 年代. げられた.証券損失補てんや談合,総会屋など,. 初頭のことである.特に 1973 年に起こったオ. 企業の不祥事に対して消費者や市民の批判が増. イルショック以降,高度経済成長が残した「負. 大し,企業の存続を危ういものにしかねないほ. 13). の遺産」 が社会に蔓延すると,社会に暮らす 人々の健康や生命に大きな悪影響を与えうるそ. どであった.企業は企業経営のあり方やコーポ. れらの問題に対して,企業は社会的責任を問. 改革,企業体質の改善など,自社の存続をかけ. われることとなったのである.1970 年代当時. て積極的に CSR の取り組みを行うようになっ. の 日本企業 の CSR は,法的遵守,納税,積極. た18).1990 年代以降になると企業としての組. 的な社会貢献活動の 3 つの要素から形成され,. 織の多様性や柔軟性,個々人の価値観や創造性. 「企業が社会的に負っている,あるいは負うべ 15). レート・ガバナンスのあり方,企業組織の制度. を活かす上で,従業員に対しボランティア活動. き機能を,責任を持って全うすること」 と定 義されていた.このように 1970 年代を中心と. への積極的な参加を促すなど,社会貢献を意味. した CSR では,単純に社会に迷惑をかけない. 会的な位置づけに変化がみられるようになっ. よう対応することが求められ,財やサービスに. た.さらに 1990 年代後半になると,自社の本. 対する責任や企業が活動する領域への社会貢献. 業とは関連性のない,ほかの経営資源を社会に. など,企業利益を一通り社会に還元するという. 提供しようと考える企業の増加や社会貢献を専. 利益還元型に焦点をあてた狭義な位置づけがな. 門に担当する部署が企業内に設置されるなど,. 16). する言葉として強い認識がなされ,CSR の社. されていた .. 経営戦略の一環として CSR を位置づける意識. 1980 年代になると日本でも企業による CSR. が企業内に芽生えはじめた.日本における現在. 活動の質に変化が見られるようになった.これ. の CSR は,経営戦略型として主流になりつつ. まで社会問題の解決に向けた対応を企業に求め. ある19).. ることは少なく,政府に対して解決を求める声 が 多 かった.し か し 高度成長期 で あった 1980. 1.2 CSR の定義. 年代は,急激な円高に伴った日本企業の海外直. このように CSR が社会において問われる要. 接投資 の 急増 に より,多くの日本企業が海外. 因は,国や地域,企業形態,時代に伴う社会的. 進出を果たしはじめ,日本企業は進出先の現地. 背景によって異なる.しかし ⑴ 企業内の従業. にて企業市民となることを求められた.その結. 員や株主,政府,消費者などの企業を取り巻く. 果,米国企業で一般化されはじめていた企業の. ステークホルダーとの共存・期待に応えるた. 社会的責任の概念が日本企業にも浸透しはじめ. め,彼らとのつながりを大切にしていること,. たのである.さらにバブル経済の影響により,. ⑵ その前提として,企業は最低限守るべき役. 日本企業が多大の貿易黒字を得ていたことを受. 割を果たすことが必要であり, ⑶ その上で社. け,その利益を社会に還元する必要があるとす. 会環境をよりよくするための社会的・環境的問. る意見が世論から高まりを見せた.多くの資金. 題への対応やそれを超えた問題を未然に防ぐた. が文化・芸術分野に投資されるようになり,ボ. めの自主的な活動を実施している,という姿勢. ランティア活動を中心とした貢献活動が CSR. は共通点として列挙することができる.した. 17). の一環として実施されるようになった .1980. がって CSR は,自社活動 に 責任 を 持った 企業. 年代は日本社会や日本企業において,社会貢献. が自社内外のアクターとコミュニケーションを. 活動の必要性を認識させるきっかけとなった.. はかり,彼らの期待に応えながら社会問題・環. しかしながら 1990 年代の日本企業は,企業. 境問題を解決すべく,自発的に参画する活動と. 倫理が問われるほどずさんな企業活動が繰り広. とらえることができる.企業が生産・サービス.
(4) 122 (292). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). などを提供する社会的意義のある組織であると. 動を展開する必要がある.. いうこと,社会の一市民であるということを企. 谷本(2006)は使命,責任,貢献の 3 つのカ. 業内外に属するステークホルダーから認識して. テゴリーに類似した観点として, ⑴ 経営のあ. もらう上で,CSR は重要な活動アプローチと. り か た, ⑵ 社会的事業, ⑶ 社会貢献活動 の. なっている.. 3 つの次元から CSR 活動の範囲について述べ. 1.3 CSR 活動の範囲. ている .倫理性や社会的構成性など,企業が 社会において活動する上で最低限守るべきとさ. では CSR は,社会においてどの領域まで活. れる考えを企業経営の基盤として組み込むこと. 動展開をする必要があるのだろうか.水尾と田. で,企業の本業や企業の経営資源を活用し,社. 中(2004)は,CSR の枠組みを企業や社会にとっ. 会が抱える課題の解決に向けた社会的事業とし. て悪影響となる可能性のあるマイナス要因を. て社会に積極的な姿勢を示していく.これら. CSR によって未然に防ごうとする領域と,マ. 3 つの次元は,ステークホルダーから企業活動. イナス要因を取り除き,プラスの要因をより多. に対して期待された社会に果たすべき役割であ. く生み出すために行動を起こす積極性のある領. り,このとらえ方は,企業と社会の相互関係を. 域の 2 つに区分している.そしてその中で法的 責任,経済的責任,倫理的責任,社会貢献的責. とらえる上で不可欠であるとしている .梅田 (2006)も,80 年代は社会に迷惑をかけないと. 任の 4 つの責任に分類し,段階的に CSR の枠. いう意味合いで使用されていた企業の社会的責. 組みを定めている20).また欧州における CSR. 任が,現在では社会貢献を強く意味するものと. 活動の基盤となっているトリプルボトムライ. して意識されるようになり,包括的な意味内容. ンは, 「企業が法令遵守にとどまらず,自ら市. を含んだ言葉として解釈され始めていると述べ. 民,地域および社会に利するような形で, 『経. ている28).さらにバグワティ(2005)は,CSR. 済』 , 『環境』 , 『社会』に か か わ る 諸問題 に 対. の基盤は「企業は何をすべきか」という利他主. し,バランスのとれたアプローチを行うことに. 義的な考えと「何をすべきでないか」という規. 21) より,事業を成功させること」 を目的として. 則との 2 つの側面から成り立っている必要があ. いる.このアプローチは, 「基本的な経済活動. るとし,これら 2 つの側面から構築された CSR. のプロセスにおいて問われる責任」 であり, 「本. の基盤は,社会規範や企業の自発的基準,国か. 26). 22). 27). 業のプロセスそのもののあり方を問う」 もの として CSR の本質を位置づけている背景から. らの義務的基準というカテゴリーによって補完. 来ている.またトリプルボトムラインアプロー. 業が CSR を用いて包括的なアプローチをとる. チは,水尾・田中が述べている段階的に捉える. のは,時代の潮流やステークホルダーとの関わ. ピラミッド型の CSR を実践する限界という側. りの変化により,CSR 領域が変化するからであ. 面からも提案されている.しかし双方とも目指. る30).また社会に対して多面的にかかわること. すべき方向性は,社会的向上や経済成長,問題. で,企業を取り巻くすべてのステークホルダー. 解決を導くことで,ステークホルダーにとって. の意向をこれまで以上に重視でき,結果的に企. よい影響を与え,経営活動を実施することが可. 業の保全と企業価値の向上,長期的な利益に通. 能な企業を確立するなど,企業にとっても社会. ずる.社会的責任の範囲は企業の経済活動領域. に存在するすべてのアクターに対してもプラス. を超え,企業を取り巻くステークホルダーとの. の役割を果たす持続可能な社会構築を可能にす. 共存といった非経済活動領域も含まれた広義的. ることである23).そのためには企業の社会的役. な解釈ができると考えられている31).. 割を使命,責任24),貢献 25)の 3 つの側面から活. この包括的な枠組みを支えるアプローチがコ. される必要があるとしている29).このように企.
(5) 企業の社会的責任と国際貢献:国際貢献に有効的なアプローチ(渡耒). (293) 123. ンプライアンスや企業倫理である.企業,特に. 運営・活動の展開が求められており,社会に. 大企業 が 展開 す る 事業活動 は,経済的・社会. とってのプラスを創出し,社会にとってのマイ. 的・政治的な側面から現代社会に対してさまざ. ナス要因を削減する努力を行うことでマイナス. まな影響を与える.企業活動により労働力や資. 影響の回避や最小化,結果としてさらなるプラ. 本, 情報ネットワークが構築され, 企業とステー. スの創出が求められている35).しかしながら,. クホルダーにとってもプラスの影響となる反. 倫理性そのものが抽象的で曖昧なものであるた. 面,マイナスの影響を与えていることも事実で. め,社会全体が納得し,かつ許容可能な範囲で. ある.企業にとって社会からの評価や信頼は,. 基準を定めた倫理的価値を持った企業内部のシ. 企業が社会に存続し,ステークホルダーとより. ステムを構築することが必要になる.このシス. よい関係を作り,持続可能な社会を築き上げて. テム構築が結果として倫理性を伴った法令遵守. いく上で不可欠である.企業の経営活動のあり. の基盤,つまりコンプライアンスとなる36).. 方,つまり企業という組織が一定のルールや規. ⒝ コンプライアンス. 則を守って,健全な経営を実施していくことが. ス テーク ホ ル ダーの 中 で SRI な ど の 企業 の. 社会との関わりにおいて企業が重要視している. CSR 活動を評価するツールが普及し始めた 1990. 点だからこそ,CSR はさまざまな領域・分野を. 年代,社会において最低限のルールを遵守する. 含んだ包括的な枠組みを用いて実施されている. 必要性,社会に迷惑をかけた行為を行うことの. のである.. ない仕組みの構築の重要性が企業にとって不可. ⒜ 企業倫理. 避となった.コンプライアンスは,企業として. 企業倫理とは,1)何が正しいことで何が間. の組織が一丸となって健全な企業経営実施を促. 違ったことであるかを示す基準や,2)基準に. すアプローチで,法令に限定された枠組みのみ. 反す行為によって責任追及された場合に責任. ではなく,何に従うのかを限定していない広範. をとる行為である32).この概念が誕生したのは. 囲な領域を対象とした枠組みである.健全で公. 1970 年代 の 米国 で あ る.そ の 当時,各企業 の. 正なルールを守り,ステークホルダーの信頼を. 株主だけではなく,ステークホルダーの利益も. 獲得することを前提に,ステークホルダーが期. 考慮した活動を展開する必要があるという,ど. 待するものごとに対して誠実に対応しようとす. ちらかというと現在のコーポレート・ガバナン. ることで,永続的な成長が期待できる企業へと. 33). 寄りの考えが端を発しており,企業が主体. 成長することができる37).このように企業倫理. となる倫理を広く意味していた.現在の企業倫. やコンプライアンスなどの法令をしっかりと守. 理は企業が国内のみならず世界経済を支え,繁. り,社会に迷惑をかけない企業経営の範囲内を. 栄させる上で重要な役割を担っていると同時に. 対象としていた CSR は,社会の流れの変化と. 少なからず社会にマイナス影響を与えることも. ともに企業倫理を含有したコンプライアンスが. あるという背景から多岐にわたる広範なものと. CSR を支える包括的な基盤として位置づけられ. なっている34).. ている38).. ス. ステークホルダーはよりよい生活環境が整っ た市民社会を求めている.そのため,企業がも. 1.4 小 括. たらすさまざまな害が社会に悪影響をおよぼす. 時代の移りかわりとともに企業が属する社会. 可能性やすでに問題が発生した場合,企業は予. の形式も変化しつつある.その中でいかに企業. 防措置あるいは最小限に食い止める活動を行う. を存続させていくかということは,企業を取り. 必要がある.現代企業は,ステークホルダーか. 巻く外部アクターや企業の一員として働く従業. ら社会に好ましい影響をもたらすような事業 ・. 員の存在を十分に認識し,彼らの動向や要求を.
(6) 124 (294). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). しっかりととらえることが重要となってくる. これまで企業は,企業が社会で活動する上での. 2.1 グ ローバリゼーションが引き起こした影 響や批判に対する対応措置. 責務という意識からの義務的側面や,ボラン. グローバリゼーションの高まりとともに,世. ティア的な側面からの CSR,つまり水尾・田. 界中で事業展開を図る多国籍企業の増加やヒト. 中が述べているようなピラミッド型の予防倫. やモノ,カネが世界規模での移動が可能とな. 理と積極的倫理による CSR 活動を行っていた.. り,世界規模で経済成長に大きな影響を与えて. しかしグローバリゼーションに伴い,企業が海. いる.しかしながらグローバリゼーションに伴. 外進出を果たし始めると,そういった観点から. い,企業が市場を拡大することで商品の製造や. だけでは CSR 活動を実施しづらくなってきた.. 流通,販売に影響を与え,先進国と途上国との. またステークホルダーとの関わりの中で,さま. 経済的・社会的な格差や環境問題の悪化など,. ざまなステークホルダーの要求に応え,彼らと. これまでの社会・経済構造によい意味でも悪い. うまくつきあっていくために,社会の中の企業. 意味でも複雑に富んだ変化をもたらしている.. という意識が芽生えていることも事実である.. 一国家の政府や行政といった単一アクターだけ. したがって企業にとって CSR 活動は,ステー. では企業のコントロールや問題解決ができなく. クホルダーや社会に対するボランティア活動で. なっている39).そのため利便性のある市場シス. はなく,企業経営を円滑に実施し,かつステー. テムの確立や利益追求を最優先する経営姿勢に. クホルダーの要望にも応えるための企業戦略の. 対する批判,既存の社会経済システムの代替的. 1 つなのである.しかしながら CSR ばかりに. なシステムの模索・提言など,企業の利益とマ. 気を取られてしまうと,企業本来の目的である. イナス影響を被る地域の健全性との関連性を意. 利益追求を損ねた経営になってしまう.そうす. 識した考えがなされるようになり40),また IT. ると企業活動を支える投資家や株主に対しての. 技術の発展41)により,CSR 活動の支援や強力. 説明責任が滞ることになり,企業を支えるアク. な推進力となった.さらに消費者による企業評. ターに対しての責務,つまり CSR 活動ができ. 価の変化も CSR を企業が実施する要因の 1 つ. なくなってしまう.企業の利益追求が結果とし. となっている.世界中で起こった一連の企業の. て社会に役立つことも考慮し,企業本来の利益. 不祥事は,企業活動に対する消費者の不満や,. 追求という目的と企業経営の戦略の一環として. 企業を一市民としてとらえ,社会に迷惑をかけ. の CSR 活動をいかにバランスよく両立した実. ない企業経営を実施する企業に信頼をよせる消. 施ができるかということが企業にとっての課題. 費者42)の増加など,企業が引き起こした影響を. となる.. 受ける消費者の存在感が社会において大きくな. 2.企業が CSR を必要とする背景 今や CSR は企業運営には欠かせないツール. りつつある.そのため彼らの要求や利害性,期 待などに応えるべく,よりよい対応として CSR を用いることが不可欠となっている43).. となっている.世界に広がる経済市場は企業が 中心となって動いている.企業は,グローバル. 2.2 企業評価手段. 化により生じたさまざまな問題を解決し,人々. 経済発展に貢献する企業活動は企業が関わる. が安心して生活できる環境作り,同時に企業も. アクターやセクター領域の拡大・増加により,. 存続することができるような持続可能な社会経. 国別や地域別に当てはまる課題,共通の課題と. 済システムを構築することを求められている.. いうものが生じ,意図していないところであっ. その背景にはグローバル化に伴った多様な環境. ても環境や社会に与えるインパクトは大きい.. や側面が関係している.. そのため企業活動のあり方,つまり生産プロセ.
(7) 企業の社会的責任と国際貢献:国際貢献に有効的なアプローチ(渡耒). (295) 125. スや企業の経営体制などが問われ,包括的に企. 2.4 国際的な流れ. 業のパフォーマンスを向上させる経営戦略とし. このような CSR ブームの流れに乗り,国際. て CSR を組み込む企業が増加している.社会. 的な企業の行動規範や評価基準などが登場し始. 的責任投資(Social Responsible Investment/以. めたことも企業が CSR に携わる上で大きな関. 下 SRI)は,投資家個人や機関投資家が企業に. 連性がある.日本の企業に関して言えば,日本. 投資をする際,企業の収益性や成長性などの経. 企業が CSR に注目しはじめたのは海外の CSR. 済的パフォーマンスの観点からではなく,社会. ブームや国内における企業不祥事の質的な変. 的責任を十分に果たしているかどうかという社. 化が大きな要因となっている.国際的な流れ. 会的な指標からの視点の双方を考慮した企業を 判断するツールである.社会的・倫理的観点や. としては,欧州における CSR 意識の高まり も CSR ブームにつながる直接的な契機として. 環境への配慮の有無など,持続可能な社会を生. 考えられるが,産業・セクター領域を超えた世. み出そうとしている企業を支援する判断材料と. 界共通の行動規範の確立も同様に今日の CSR. なる44).日本企業においては,1990 年代以降に. ブームの火付け役となっている48).. 米国より紹介されているが,それ以前は「企業. ⒜ グローバル・コンパクト49). から一方的に売り込むビジネスモデル」を通じ. グローバルコンパクト(Global Compact/以. た「大量生産・大量消費・大量廃棄」の「生産. 下 GC)とは,1999 年 1 月にスイスで開催され. 者優位の社会」であった.しかし SRI の導入以. たダボス会議にてコフィー・アナン国連事務総. 降,消費者が企業の経営プロセスを評価する 「消. 長が提唱した CSR 規範である.国連が初めて. 45). 47). 費者優位の社会」に変革を遂げ始めている .. 直接的に企業に対して提唱したもので,2000 年. このように持続可能な社会を生み出すための企. に国連本部にて発足,活動が開始された.人権,. 業を評価する投資行動の誕生は,CSR を必要と. 労働,環境,腐敗防止の 4 つの分野からなる世. する要因の 1 つとして企業運営に影響を与えて. 界的に確立された原則である.GC に参加して. いる.. いる多国籍企業に対し,国際社会における「企 業市民」としての適切な行動の実践やその責務. 2.3 生態系保護および環境問題への取り組み. を求め50),戦略的で持続可能な活動を行ってい. 生態系保護および環境に対する問題は,時間. こうとする高い志を持つことを定めた,CSR. の経過とともに深刻なものとなっている.人々. を含んだ自立的な行動規範である51).参加企業. は生活する上で地球資源を採取し,活用しやす. が自発的なイニシアティブをとり,「⑴ GC と. いように工夫し,消費している.消費されたも. その原則を企業は自社の企業戦略および企業運. のは廃棄物として地球環境に戻される.このよ. 営に取り組む, ⑵ 多様なステークホルダー間. うな資源の循環は,地球資源の枯渇を引き起こ. の協力とパートナーシップにより,問題解決を. す可能性を高めているだけではなく,大気や水. 容易にする」52)という側面から持続可能な成長. 質,土壌の汚染を招くこととなり,人々が持続. を促す世界経済の実現を目指す.GC 自体が企. 46). 可能に生活していくことを困難にしている .. 業の自発性によって倫理性の保った企業行動に. 特に一昔前の企業は,大量生産と大量消費社会. 誘導しようとするアプローチであると同時に,. の先導を切っていた.現在においてもそのよう. 一企業市民としての果たす役割の重要性や世界. な傾向があるため,企業は事業の代償として持. が抱えている諸問題の解決に向けて,企業の協. 続可能な社会が脅威にさらされないように生態. 力も不可欠であることを示している.. 系を保護したり,環境を配慮したビジネス展開. ⒝ Ethical Trade Initiatives/ ETI53). が求められている.. 1998 年 に 設立 さ れ た ETI(Ethical Trade.
(8) 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). 126 (296). 表 1 OECD 多国籍企業ガイドラインの重要ポイント ・多国籍企業を対象とした包括的で多数国が指示している行動規範であること ・情報開示,雇用,労使関係,環境,汚職,消費者利益,科学技術,競争,税など企業倫理に関する広範な問題をカバーする 原則を定めている ・多国籍企業と国内企業との扱いの相違を提案しているわけではなく,企業すべてにとって望ましい行動規範を提案している ・企業,労働団体,政府,社会全体に存在する誤解を防止し,信頼できる環境を構築する ・OECD 加盟国のみならず,非加盟国一部にも指示されているガイドラインである ・企業,労働団体,NGO にも指示されたガイドラインである [OECD 2001:7 をもとに作成]. Initiatives/以 下 ETI) は, 企 業,NGO, 労 働. ターからの賛同を得ることで適切な行動規範の. 組合と連携をとって貧しい労働者の生活向上を. 策定・実施に貢献を果たしている.多国籍企業. 目指し,企業,特に食糧品を販売する英国の小. が経済,環境,社会を進展させ,さまざまな経. 売業者を中心に行動規範の実践を普及,向上・. 営(オペレーション)に対する混乱を最低限に. 促進させる活動を行っている.ETI は労働に. するための積極的な貢献を促進させ,すべての. 関する規範として,労働基準に賛同している国. 人々の生活基盤や福祉の向上に向け,国内外双. 内法 や 国際法 を 基準 と し,企業,NGO,労働. 方における政策が持続的に改善されることを促. 組合の 3 つのアクターとの連携を通してよりよ. している.. い労働環境と人権の促進を目指している.実際 規範を実施した際の教訓を提供し,持続可能な. 2.5 小 括. 労働環境の改善・向上に焦点を当てた活動を実. 世界で企業活動を行っている企業にとって,. 施することを特徴として持っている.企業に対. 持続可能な市場システムの構築に向けたこのよ. しては ETI が定めた規範をサプライチェーン. うな国際的な基準は,各企業のその後の存続に. にも対応することを促し,その規範を実施した. 関わることである.遵守することが半ば強制的. か否かを年次報告書として提出する義務を課し. に求められており,企業市民として果たす役割. ている.. の重要性が社会から問われていることが理解で. ⒞ Guidelines for Multinational Enterprises. きる.. of the OECD54). このように企業が CSR を必要とする背景は,. OECD 多国籍企業ガイドラインは, 「雇用及び. NGO・消費者からの批判・提言,SRI の誕生,. 労使関係,人権,環境,情報開示,競争,税,. 国際的な評価基準・ガイドラインの制定などか. 科学技術」といった広範な領域において企業が. ら企業を取り巻くステークホルダーやグローバ. 責任ある行動を実施するための基準や原則を定. ル化された現代社会と大きな関わりから引き起. 55). めたものである .法的拘束力はないが, ⑴. こされたものである.これまでのライフスタイ. 企業と社会間の相互信頼を強化し, ⑵ 外国投. ルを見直し,環境問題を配慮し,貧困を生み出. 資を向上させ, ⑶ 多国籍企業によって生み出. す循環を是正するため,CSR は持続可能な発. された持続可能な開発に対する貢献を増進させ. 展を築き,経済的・社会的動向も考慮して形作. るなど,企業の自発性を促した包括的な行動規. られたツールである.. 範となっている. このガイドラインは企業活動に焦点をあてた ものであるが,NGO や労働組合などの他アク.
(9) 企業の社会的責任と国際貢献:国際貢献に有効的なアプローチ(渡耒). 3.企業を取り巻くアクター : ステークホルダー との関わり 外部社会や外部環境との交流と調和を通して 「社会・市場・顧客の要請に応える」ことは,組 織や集団にとって基本的な課題である56).これ が適切に機能しないと組織や集団の存続は危う いものとなる.Frederick(1988)は,現存する すべての生物や組織はそれらが存在するもとも との環境と互いに影響しあい,またその環境に 影響されるという一般的なシステム理論を述べ た上で,経営思考もこのシステム理論に似てい るため,企業と社会の関わり合いをなくすこと はできないと示唆している.企業と社会の関わ り合いにはさまざまな要因がある.その 1 つで ある市場変化は,市場外による企業への影響力 や企業による社会への影響力によるもので,企 業は社会に対してプラスとマイナス双方のイン パクトを与えることができる.しかしながらイ ンパクトを与えられた社会も企業と同様に,企 業の社会に対する行動や態度によって企業がど のような影響を受けるのか,今後の行く末を決 定することができる.つまり企業は社会を構成 する組織の一部であるがゆえ,自身を取り巻く 環境の変化を敏感に察知し,社会の変化に対す る柔軟な対応が必要なのである57).グローバリ ゼーションの進行や企業経営に影響を与えかね ない社会問題の増加などにより外部との交流や 調和は,1970 年代を境にして,その内容や特徴, 意味などに変化が生じている.企業は自社の存 続にかけ,そして社会との相互関係を築いてい くために社会と積極的に関わっていかなければ ならない状況に迫られているのである. かつて企業を取り巻くステークホルダーは, 従業員や株主,消費者などごく狭義的な枠組み 内に焦点を当てたものが主流であった58).企業 活動を通して経済的側面・社会的側面から継続 的な影響を受けており,直接的に企業と関わり を持っていたステークホルダーである.これら のアクターとの関係性においてのみ,できるだ. (297) 127. け効率よく効果的に財とサービスを市場に提供 できるか否かということに焦点をあてた企業経 営のあり方が考えられてきた.特に株主は企業 を支えるアクターであるがゆえ,企業は株主に 対する利益還元を優先した特徴を持っていた. しかし現在では,これまで企業が株主と培って きた直接的な影響力を与える関係性を,その他 のステークホルダーにも同様に配慮する必要 性が生じるなど,ステークホルダー59)は他領 域に存在している60).ステークホルダーには, 第 1 次ステークホルダーと第 2 次ステークホル ダーの区別61)や市場的/非市場的な側面からの ス テーク ホ ル ダー分類62),社会的/非社会的 ス テークホルダー63)という分類がある.双方と もに企業との利害関係性が直接的であるか間接 的であるかを基準としているが,直接的・間接 的な関係性であったとしても企業のステークホ ルダーの規模は拡大し続けている.したがって 広範にわたる多様なステークホルダーから信頼 を得ることは,企業経営にとっても企業の存続 にとっても重要なカギになりつつある.彼らと の関係性は各企業によって異なっているため, どのステークホルダーとの関係性を最も構築し ていくべきかという具体的なアプローチも考慮 する必要はある.しかし企業とステークホル ダーとの関係性において共通していることは, コミュニケーションを密に図り,企業に対する 期待や要求に耳を傾け,彼らのニーズに適切に 対応し,アカウンタビリティを果たすこと,ま 64) た「人々の価値観の多様化」 に伴い,企業も. 柔軟に変化していくことである.企業にとっ て,多様なステークホルダーが存在している社 会と相互に信頼関係を持つことは重要なのであ る65). 3.1 企業と消費者行動 世界の経済成長や技術の普及,雇用創出など を生み出す多国籍企業は,世界の貿易市場にお いて,さまざまなサービスや商品を生み出して いる.その規模は大きく,市場をほぼ独占して.
(10) 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). 128 (298). いる.消費者らは,そういった市場で生み出さ. 活協同組合型,1920 年代におけるアメリカの. れた多国籍企業のサービス・商品から恩恵を受. 情報提供型を経て,1920 年代におけるアメリ. けている.しかし同時に,貿易市場で生じてい. カの告発型へと発展した68).政治的な関係性を. るマイナスインパクトの影響を受けていること. 持った問題を解決し,消費者優位の位置づけを. も事実である.物流のボーダレス化に伴う市場. 築くため,消費者は組織体としてさまざまな対. 経済システムの国際化,企業の海外進出の増大. 応策や消費者の権利を普遍的なものにするため. により,消費者が手に入れる商品の生産・工程. の運動を展開した.オルタナティブな貿易シス. プロセスが目に見えず不安を駆り立てており. テム69)の推進や先進国と途上国の格差問題に. 66). ,消費者の権利が尊重されていない状況など. 向けた取り組み,国際政治への参加,多国籍企. である.この状況は残念ながら現在でも変わる. 業に対する反発など,「消費者が生活の自己決. ことなく, あまりよい兆しは見受けられないが,. 定権を企業や政治」70)などの国際レジームから. 近年消費者の消費・購買行動に変化が見られる. 取り戻し,「消費者の権利を確立し,生活の自. ようになったことは事実である.企業の不祥事. 71) 己決定権を拡大する」 ことで,消費社会を世. やそれに伴った信頼性の欠如などにより,社会. 界中に新たに築き上げた.このような消費者運. に対してマイナス影響を及ぼした企業のサービ. 動は,消費者を含む企業のステークホルダーが. スや商品はできるだけ購入しないように心が. 属する世界に対してマイナス影響を与えないた. け,社会貢献や環境問題などの世界的な課題に. めにも一定の規制を設ける役割を果たしたと同. 対して積極的な行動を示す企業を指示する傾向. 時に,NGO・NPO といった消費者や市民の声. にある.これは消費者自身,安全な生活が確保. を代弁する市民社会組織が社会に誕生した契機. され,また自分自身を取り巻く環境の整備など. になったともいえるのではないだろうか.. を通して,自身の満足が満たされることを期待. 企業と NGO の関わりは 1960 年代前後の公害. していると言うことができよう.したがって企. 問題から始まっているが,1990 年代から 2000. 業が消費者に支持され,存続した組織として社. 年以降にかけて,時代の流れとともにグローバ. 会で生き残っていくためには,企業のネガティ. ル化の波が押し寄せ,CSR に対する社会的関心. ブな行動を減少させると同時に,積極的な消費. の高まりにより,企業の社会的役割は大きく変. 者満足を生み出すことが不可欠となってくる.. 化している.現代社会における CSR の普及は,. このような消費者の行動は,今後の企業経営に. これまでの利益追求を基盤とした企業中心の. 対して新しいアプローチの形成,つまり企業の. 経営から社会の多様な価値観を基盤とした社会. 積極的な CSR 活動を促し,同時に消費者視点. に貢献できるような企業経営に改めることを求. も含む企業を取り巻くステークホルダーを中核. められているということである.企業には自身. とした,経営活動を実践する重要性を認識させ. を取り巻くさまざまなステークホルダーとの関. 67). る結果となっている .. わりがあること,そして彼らから企業市民とし て社会を構成する一市民であると考えられてい. 3.2 企業と NGO 活動. るからである.こういった社会的潮流の中で企. このような個々人としての消費者が消費者問. 業が存続していくためには,企業を取り巻くス. 題の解決に向けて組織化すると社会運動的な規. テークホルダーと共感し,彼らからの信頼を築. 模となる.消費者運動となると,消費者が個別. く必要がある.その上で CSR は重要な役割を. 的に取り組んできたものよりも企業に対して大. 果たしている.. きなインパクトを与えることが可能となる.消. CSR は,「企業が日常的な経営判断や事業活. 費者運動は,1840 年代におけるイギリスの生. 動において,法律を守るだけではなく,倫理的.
(11) 企業の社会的責任と国際貢献:国際貢献に有効的なアプローチ(渡耒). (299) 129. 価値観に基づき,人間,社会,環境などに配慮. きなものとなっている.現場重視の活動が中心. しながら事業を展開していく」ことで, 「会社. の NGO は,市民がどういったモノやことがら. が提供する商品やサービスの質だけではなく,. を必要としているのか,それらをどのように提. それらがどのような考えに基づいてどのように. 供すればよいのかについての専門性や革新性を. つくられたのかという,会社そのものの質を. 持っている.NGO の現場における専門性やノウ. 72). 問うもの」 である.これまで社会経済市場に. ハウ,知識,経験は,企業における CSR 活動の. おいて有利な立場にいた企業は,CSR 活動に. 効率化と企業の専門性の実のある活用を可能に. よって消費者や投資家,従業員などの社会に存. している.つまり企業単独で行うよりも企業内. 在するステークホルダーから選択される立場に. 部における強力な意識改革が生じるなど,企業. 位置づけが変化しはじめている.企業が実施す. にとって学ぶ機会を得ることができる74).NGO. る CSR 活動が実際適切なものであるのか,企. とのパートナーシップは CSR 活動がよりよく. 業を選択する権利を持つ消費者らを対象とした. 機能することを促し,双方の関係を「多様な市. CSR 活動の実態に関する情報提供,そして企. 民社会構築の担い手」 , 「社会貢献活動のパート. 業に対して積極的な CSR 活動への実施を促す. 75) ナー」 として相互に歩み寄った新たな関係に. 上で NGO もまた大きな役割を担っている.. 変化させる役割を果たしている.. これまで NGO と企業の関係は,共感も信頼 もできないような対立関係にあった.企業活動. 3.3 企業と公的機関との関わり. は社会に恩恵を与えないという偏った見解しか. ここでは政府などの公的機関というステーク. 示さない,一方的な反発や抗議,意見が多いな. ホルダーと企業との関係性について述べる.企. ど NGO 活動に対してマイナスイメージが大き. 業の企業活動が円滑に実施されるため,政府は. かったからである.しかしながら競争社会の激. 企業に対して,助成金の提供や政府からの税制. 化により,企業だけの価値観を推し進めてきた. 優遇措置の許可を行っている.しかし同時に政. 結果,企業の不祥事が相次いだ.社会に多くの. 府は企業に対し,納税の義務を課すなどの企業. 迷惑をかけ,ステークホルダーとの共感や信頼. 活動に関する規制の設置や企業のビジネスノウ. を失う行為など,企業行動において反省すべき. ハウを利用した公共サービス提供における効率. 点が多く示されるようになった.企業を取り囲. 性,社会問題の回避なども行っており,国家の. むステークホルダーからの信頼が得られなく. 長期的な経済的繁栄に向けた可能性を高めるた. なっては企業自身,社会に存続することが困難. めにさまざまな企業向けの活動に取り組んでい. になることは事実である.さらに企業が築き上. る.こ の よ う に 政府・行政・自治体 と い う ス. げた大量生産・大量消費の産業社会市場は,経. テークホルダーにとって企業というアクターと. 済市場に格差をもたらし,資源の枯渇問題を引. の関わりは,国家や地域を繁栄させるためにも. き起こした.こういったマイナスの影響が持続. 不可欠である76).. 可能な社会の構築という新たな目標を見いだす. CSR 活動 も 同様 に 公的機関 や 国際機関 に よ. こととなった.そして新たな目的を達成する上. る公正な規制がないとなかなか社会に浸透しに. で,企業行動を監視・評価する NGO の役割は,. くい部分を持っている.政府は積極的に CSR. グ ローバ ル 化 に よ る IT 技術 の 発達 も 手伝っ. に関する研究会や委員会,調査などを実施し,. て,企業にとって企業活動を修正する上で大き. 今後どういった持続可能な社会経済システムを. 73). な影響をもたらし始めたのである .. 目指していこうとしているのかを他のアクター. CSR 活動や CSR 活動を通じた社会貢献を企. と共有するために,国家のビジョンとして掲げ. 業が実施していく中で,NGO の存在意義は大. る役割を担っている.また CSR 支援の施策と.
(12) 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). 130 (300). して,企業が社会的な課題に積極的に取り組む. 売りまで一貫して扱う一流コーヒー専門会社」. ことを支援する仕組みを築いていく.国によっ. というミッションを掲げ,現在世界に 1 万店舗. て施策が異なることはあるが,公的機関がイニ. を超えるまで成長を遂げた国際的な企業であ. シアティブをとることによって,社会的責任を. る.スターバックスの CSR 活動の一環として. もった企業活動が社会に普及し,新しい価値を. 国際貢献活動 を 開始 す る きっか け と なった の. 77). 見いだすことを可能にする .また通信網や公. 82). 共交通機関 な ど の政府による社会基盤の整備. が,国際 NGO である CARE の存在である. ス ターバック ス の コーヒー産出国 と 自身 が. も,企業が円滑な活動をする上で重要な要素で. 行っていた支援活動地域が重なっていたことを. ある78).このように政府は企業の CSR 活動を社. 知った CARE は 1989 年,ス ターバック ス に 協. 会に促進させるための環境整備において重要な. 働活動の話をもちかけた.高品質なコーヒー農. 役割を担っている.グローバル・コンパクトに. 家を援助することは高品質なコーヒー栽培技術. 代表される国際機関による企業行動指針が作成. が向上するとともに,地域経済の成長,コーヒー. され,CSR に関連した問題が G8 サミットでも. 生産者の生活向上に寄与する可能性を考えたス. 取り上げられるようになるなど,企業の CSR 活. ターバックスは 1991 年,最低でも年間 10 万ド. 動に対する関心は高まりと同時に,企業に対し. ルの寄付金支援を約束し,翌年から本格的な協. て CSR 活動を促進させ,また世界に普及させる. 働活動が正式に始まった.その後スターバック. といった役割を担っている.. スは国際 NGO,Conservation International と連. 4.ケーススタディ:企業とステークホルダーと の関わりによって生じた CSR 活動の事例79). 携83)し,2001 年に社会・環境・経済的側面に焦 点を当て,高品質なコーヒー豆を継続した生産 を可能にするためのコーヒー取引における独自. 最近,CSR 活動 を 通 じ て 国際協力 の 分野 で. の支援ガイドライン,CAFÉ プラクティス84)を. 国際貢献を実施する企業が増加しているとい. 作成した.このガイドラインを通してスターバッ. 80). う背景から ,本章では国外での CSR 活動に. クスは,生産者と相互利益を生み出すことを可. ついて焦点をあてる.ここで取り上げるスター. 能とする長期的で有効な関係を築いている.. バック ス,IKEA,ユ ニ リーバ は,外部 ア ク. ま た ス ターバック ス で は 2000 年 10 月 よ り. ターからのさまざまな圧力や刺激により,他ア. フェアトレードコーヒーを扱う新たな企業活動. クターとの連携を築き上げた活動を展開してお り, 結果としてよい成果を現地に提供している.. アプローチを開始した.フェアトレードとは, 「発展途上国の,交易貿易に恵まれていない生. 企業の CSR 活動は企業自身だけではなく,政. 産者や労働者の生活状況や労働環境を改善し,. 府や行政,NGO など,企業を取り巻く他アク. 彼らの自立や人権の促進につながり,また環境. ターとの連携によってよりよい効果や成果を現. にも十分配慮した,従来とは異なった新しい取. 地に提供することができるということを導きた. 引」85)である.コーヒー豆の場合,取引市場で. い.そして,企業利益と社会貢献のバランスを. 売買されるため価格が変動する危険性を持って. 維持し続けるために必要な要素であることを示. いる.そのため価格の下落や焙煎業者を介した. したく,以下に記載している 3 企業を本論文で. 取引による不公平な利益還元などにより,望ま. は扱いたい.. しい利益還元が生産者にもたらされず,コー ヒー生産者の生活がますます貧しくなってい 81). 4.1 スターバックス. る.この現状を受け,収穫から加工,出荷のプ. 1971 年シアトルにオープンしたスターバッ. ロセスにおいて仲介者を通さず,市場価格より. クスは, 「世界の最高級コーヒーを加工から小. も高い価格で購入することでその利益を直接的.
(13) 企業の社会的責任と国際貢献:国際貢献に有効的なアプローチ(渡耒). (301) 131. に生産者へ還元することをフェアトレードコー. るステークホルダーすべてに対して,また環境. ヒーは目的としている.生産者がコーヒーの正. に対してさまざまな専門家によって構築され. 当な価格を受け取り,生産者が継続して成長す. た IKEA のビジネス方針を通じて,プラスの. るための手助けを行いたいとスターバックスが. インパクトを提供することに努めている.特に. 考えていたこと,そしてこの考えはフェアト. IKEA では自身のサプライチェーンに対して児. レード運動と共通した目標であったということ. 童労働の禁止を積極的に働きかけている90).こ. から,フェアトレード認証コーヒー販売の資格. の きっか け と なった の は,自社 が 契約 す る 工. を 持 つ 唯一 の 企業 と し て,倫理性・持続性 の. 場 に お い て 児童労働違反 と さ れ る 調査結果 が. 側面からフェアトレードコーヒーの取り扱い86). NGO から浮上したという経緯があったためで. が実施された.このようなスターバックスの取. ある.これを受け IKEA では,1989 年に採択さ. り組みにより,生産者にとって大きな貢献に. れた国連子どもの権利条約や 1973 年に採択さ. なっているだけではなく,フェアトレードコー. れた ILO の最低年齢条約,1989 年に採択された. ヒーが市場に出回ることにより,消費者のフェ. ILO の最悪の形態の児童労働条約を支持し,独. アトレードという運動に対する認識の拡大にも. 自の行動規範の設定やサプライチェーンを対象. 大きな影響を与えている.フェアトレードコー. とした管理基準の設置,抜き打ち監査を実施す. ヒーのスターバックスにおける 2005 年のフェ. るなど企業の社会的責任を果たす役割として,. ア ト レード 認定 コーヒーの 輸入額 は,世界 の. 子どもたちがよりよい環境の中で安心して生活. フェア ト レード 認定 コーヒー輸入額 の 約 10%. することができる環境作りを行っている.. を占め,スターバックスが店舗で扱うコーヒー. このミッションを達成する上で IKEA では,. 全体の 6% 以上(2006 年時点)を占めており,. 他アクターとのパートナーシップを通して活動. 世界でフェアトレードコーヒーを買い取ってい. を展開している.社会と環境に対する責任とし. る 1 番の企業となっている.また米国の 400 校. てユニセフ89)やセーブザチルドレンとのパー. 以上の大学や短大にて飲料されている.. トナーシップを通じた活動では,IKEA 経営の. このように,コーヒー豆の品質向上,環境改. 中核となる児童労働に関する活動を展開してい. 善の確保やコーヒー農家に対して継続した生産. る.売り上げの一部を双方の活動に寄付し,児. と収入を可能にするガイドラインの適用,フェ. 童労働の禁止の促進や学校建設など子どもたち. アトレード認証コーヒーの販売など,コーヒー. の生活を向上させるための支援が行われてい. 事業に関連した側面からの CSR 活動の実施は,. る.また自然災害時には緊急支援として物資支. CARE や Conservation International,そ の 他. 給も実施している.WWF(世界自然保護基金). のアクターとの協力によりコーヒー生産者のエ. とのパートナーシップでは責任ある森林管理や. ンパワメントおよび生活向上を支える大きな役. 持続可能な環境を目指した活動が展開されてい. 割を担っているとともに,コーヒー購入や販売. る90).このように IKEA のビジネスには社会・. 市場の拡大に寄与する可能性を秘めている.. 環境に優しいアプローチが組み込まれ,パート ナーとともにこのイニシアティブを継続的に実. 4.2 IKEA87). 施している.NGO による IKEA の経営戦略に. 1943 年に設立され,グローバルに展開する家. 対する批判が,IKEA による積極的な CSR 活. 具小売業である IKEA は,多くの人々にとって. 動の取り組みを生む影響力となった.. よりよい毎日を創造することを掲げている.そ のため消費者のみならず,従業員,IKEA の商. 4.3 ユニリーバ 91). 品を生産するサプライヤーなど IKEA に関わ. 1930 年,イギリスの石けんメーカー,リー.
(14) 132 (302). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). バ・ブラザーズとオランダのマーガリン製造会. 度の年間利益は 5 万ユーロ以上の増加を見込ん. 社のマーガリン・ユニが合併して誕生したユ. でいる.また 2006 年前半期では,4000 本のア. ニリーバは,世界 100 ヵ国以上においてパーソ. ランブラッキア・ナッツの木の植林が森林地域. ナルケア,ホームケア,食品の分野で 400 のブ. の再興にも貢献しており,自然保全や自然の多. ランドを提供している世界最大級の消費財メー. 様性の向上が期待されている.. カーである.2003 年より UNDP や国際 NGO, 地域 NGO とともに開始されているプロジェク. 5.国際貢献に注目する企業. トは,UNDP が民間企業の協力をあおいでいる. 5.1 国際貢献に注目する要因. GSB(Growing Sustainable Business/ 持続可能. 企業の CSR は国際協力や国際貢献にどのよ. なビジネス育成)プログラムと呼ばれるもので. うな役割を果たしているのだろうか.CSR を. ある92).アランブラッキア・ナッツから採取で. 通じた企業の国際貢献には,収益の一部を提供. きるオイルは,石けんやマーガリンといった商. する社会貢献型と企業の本業に関連した国際貢. 品生産において有効に利用できるほか,さまざ. 献を行うビジネス活動型があるが,双方を見. まな場合において高品質の商品を生産すること. ても国際貢献や国際協力の実施は,企業からの. が可能であるという調査結果から,アランブ. 支援受け入れ国や地域に対しプラスの影響を与. ラッキア・ナッツ栽培支援,ナッツ油の供給と. えることができる.国連のグローバル・コンパ. 販売網の確立の支援を実施し,生物多様性を促. クトでも, ⑴ 企業の中核となるビジネス活. 進させ,アフリカが抱える貧困問題の解決を目. 動, ⑵ 社会投資やフィランソロピー, ⑶ 政. 指している.. 策対話やアドボカシー活動,の 3 点を通して社. これまでのナッツオイルが市場に出回るまで. 会貢献が可能であるとしている.企業活動を支. のプロセスは,輸送会社が種を購入し,仲介者. えるビジネスの視点では,途上国に多く存在す. を通して行われており,明確な供給・販売網が. る中小企業との連携やアウトソーシングを通じ. 存在していなかった.そこでユニリーバは保証. た雇用促進,人々のニーズから生み出す商品,. された公正な価格でオイルを購入し,農家の雇. 官民パートナーシップによる,財・サービス提. 用促進や地元のビジネス支援を開始した.まず. 供の拡大などの可能性がある.このようなイン. 農家に対してアランブラッキアの木からナッツ. パクトを創出する企業がビジネス経営を行う上. を収穫し,種を販売する支援を実施した.そし. で環境や社会,ガバナンスが抱える問題に対し. て休耕や貧弱な土地にアランブラッキアの木の. てよい実践を行うことは,安定的で包括的な市. 植林を行った.また農業組合の設立や技術訓練. 場を築くための直接的な貢献になる.社会投資. を行うなど,地元のコミュニティを参加させる. やフィランソロピーにおいても同様に,パート. ことによって供給・販売網の構築強化を促す環. ナーシップの重要性を述べている.政府だけで. 境を整えた.. はなく他領域のアクターとの結びつきによっ. このプロジェクトには 48 の村,3000 人の農. て,企業活動が開発支援や災害復興などに大き. 家が参加している.新たな換金作物開発として. な貢献を果たすことが可能である.この結びつ. のアランブラッキア・ナッツオイルが地元の経. きは政策対話やアドボカシーにおいても有効的. 済開発の向上に寄与し,農家の人々の収入向上. であり,適切なビジネス活動が行える環境整備. を促すなど,プロジェクト実施のコミュニティ. や持続的な経済成長を生み出す構造的な変革に. 収入となりうる追加的資源となっている.最初. 寄与する.このようなプラスの影響は,企業が. の 1 年 で 3300 ユーロ の 利益 が あった.2 年目. 資源流通,技術移転,食料供給など国際社会の. には 1 万 2500 ユーロの増加が見られ,2006 年. 安全と発展に寄与するとされている経営資源を.
(15) 企業の社会的責任と国際貢献:国際貢献に有効的なアプローチ(渡耒). (303) 133. 豊富に持っているからであり,結果として途上. として持続可能性を導こうと試みている.企業. 国の自立性や持続可能性を生み出す可能性を秘. に関与するアクターに関して言えば,アクター. 93). めている .企業誘致に関して,マイナスの影. は単純に CSR 活動の実施を企業に強制するの. 響を企業の進出先にもたらすとされてはいる. ではなく,さまざまな形式をした支援や協働活. が,誘致することで途上国における雇用機会に. 動から企業の CSR 活動を支えている.そういっ. 貢献することができるなど,少なくとも経済成. た中で企業は,企業活動の影響を受ける直接的. 長に寄与するような事業が展開されていると見. なアクターと間接的なアクター双方にとってよ. ることもできる.この姿勢は結果として相互的. りよいメリットを生み出しうる活動を展開しな. な協力体制を築き,国際秩序の維持に寄与する. ければならない.こういったアプローチは,企. 相互浸透を築くことを可能にしている.また技. 業が企業体という社会に属する組織として社会. 術協力や経営スタイルを提供する際,自分の意. に存続する上で不可欠な戦略の 1 つであると同. 思を伝え,相手を理解する相互理解が発達し,. 時に,企業の専門性や企業規模を活かした社会. 異文化交流の促進となる.異文化間の無意味な. 的役割に対する他アクターの期待に応えた形式. 誤解や偏見を取り除く作用が働く.さらに倫理. である.結果として国際貢献領域の拡大を導く. 的観点などを組み込んだ自国の経営スタイルの. ものと考えることができる.. 提供は,倫理やコンプライアンスなどがその進. 企業を取り巻く他アクターが企業との協働活. 出国先の子会社に導入される.進出先のビジネ. 動に積極的であると同時に有効的な姿勢を示し. ス界において経営する上での意識改革がなさ. ているという点は,慈善的な貢献活動や事業を. れ,文化移転の促進が進出国にとってプラスの. 有効利用した貢献活動において共通している点. 影響につながる.そしてこの子会社が進出先地. であると捉えることができる.企業が強みとす. 域の一市民として,文化支援や交互理解,ボラ. る専門技術や事業を有効的に活用し,また貢献. ンティア活動,助成金・奨学金などの社会貢献. 活動の受益地域や国が経済成長・社会的向上が. 活動を実施することも可能となる.経済成長や. できるような協働活動を積極的に実施すること. 平和の維持,異文化交流,倫理性を通じた社会. で,活動に関わるすべてのアクターにとってプ. 的正義の向上など,多様な側面からプラスの影. ラスとなりうる可能性を築き上げている.. 響を与えることが可能である94).. ステークホルダーの関わりや実施される取り 組みからもわかるように,企業という存在が世. 5.2 ケーススタディ分析. 界にとって大きなものとなりつつあり,その存. ケーススタディから明らかになったことは,. 在感が企業の CSR 活動を通して明確になって. ⑴ 企業の CSR 活動は社会貢献型とビジネス. いる.事実,企業によっては一国の GDP と同. 型に分類されていること, ⑵ 他アクターから. 等の経済力を持っている.そういった中でス. の圧力や要請が大きく関与していること,そし. テークホルダーの企業活動に対する期待の高ま. てその背景には ⑶ 社会問題として捉えられて. りや企業におけるさらなる経営力,活動範囲や. いる課題の種類によって CSR 活動の使い分け. ステークホルダーとの関わりの拡大などから企. がなされている,ということである.収益の一. 業経営を見直し,持続可能な社会経済の構築に. 部を NGO 活動資金として寄付する形としての. 向けた活動を実施している.企業を取り巻くア. 貢献活動は,天災などが引き起こした課題に対. クターの存在やその活動実態が,企業に対して. する緊急支援として実施され,自社事業を有効. CSR 活動を実践させるような方向付けを行う. 的に実践する貢献活動は,支援を受益する国や. 重要な役割を担うこととなり,結果として現在. 地域,人々の経済・社会的向上を目指し,結果. の CSR 活動の範囲は国境を越えたグローバル.
(16) 134 (304). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 3 号(2008 年 8 月). な領域へと開拓しているのではないだろうか.. 部を NGO 活動資金として寄付する形としての 貢献活動は,天災などが引き起こした課題に対. 5.3 小 括. する緊急支援として実施され,自社事業を有効. このように現代社会における企業は,一般的. 的に実践する貢献活動は,支援を受益する国や. にス テーク ホ ル ダーからの抵抗や要望,期待. 地域,人々の経済・社会的向上を目指し,結果. を通じて社会的責任を実施しようと試みてい. として持続可能性を導こうと試みている.. る.企業が,社会的責任を企業活動の中核に取. CSR 活動を実践する企業の多くは世界中に. り入れるためには,社会が抱えている課題や社. 拠点を置き,サプライチェーンが世界中に点在. 会における達成目標をステークホルダーと共通. するような多国籍企業が多い.そういった企業. の認識・意識として持つことが重要である.そ. は同じ社会に暮らす政府や NGO,消費者など. のためには企業自身がステークホルダーの声に. のアクターからの活動評価を考慮し,効果的な. 耳を傾け,ステークホルダーとのコミュニケー. 社会的責任を果たそうと努めている.そのた. ションを図ることが不可欠である.この点にお. めには企業を取り巻くステークホルダーとのコ. い て 特 に 消費者 や NGO は CSR 活動実施 に 際. ミュニケーションを密に行うことが不可欠であ. して大きな役割を果たしている.これまで企業. る.このコミュニケーションは結果として企業. 優位であった世界市場も,グローバリゼーショ. が CSR 活動を実施する上でのネットワーク構. ンに伴う国境を越えた物流や IT 技術の発展に. 築に寄与し,持続的な国際貢献の実施を可能に. より,企業活動に関する情報が日常的に習得す. する.そういった意味では,企業・ステークホ. ることが可能になってきている.こういった企. ルダー双方にとって企業の CSR 活動は将来を. 業のアカウンタビリティは,企業を取り巻くス. 見据えた社会への投資,自分自身への投資と捉. テークホルダーによる企業活動の判断や評価な. えることもできよう.しかしそのためには,ス. どに影響を及ぼし,広大なエリアにおいて企業. テークホルダーが積極的に参加できるステーク. が果たすべき社会に迷惑をかけない対応を生み. ホルダー型のコーポレート・ガバナンスの確. 出している.. 立,そして国際貢献を実施する支援者側の企業 おわりに. と支援を受ける側のアクターにとって対等な立 場を築くことが必要である.このような基盤を. 本論文では企業の CSR 活動の歴史的変遷を. 築くアクターとして,社会起業家(ソーシャル・. も と に,CSR 活動 の 範囲 や CSR 活動 の 基盤,. アントレプレナー)を提示したい.社会起業家. 企業を取り巻くステークホルダーとの関わりを. とは,企業のような形態を持つ組織ではある.. 経て,CSR 活動を展開する企業活動の意義や. しかし営利目的の企業とは異なり,社会貢献の. 企業の CSR 活動が国際貢献活動をどういった. ためにビジネス形態をとった活動を実施する.. 側面から実施し,どういった効果を与えている. これは企業の CSR 活動のビジネス型に類似し. のかについて見てきた.企業の CSR 活動は社. た部分がある.社会起業家のような新たなアク. 会貢献型とビジネス型に分類されており,また. ターの誕生は,持続可能な開発や経済的なバラ. CSR 活動 は 各業界 や 企業 の 規模,国家,社会. ンスを目指したグローバル社会を築き,国際機. 的背景などにより異なっている.この異なりは. 関・公的機関,企業,NGO 各 ア ク ターと の 連. 視点を変えてみると CSR が多様的であると捉. 携を今以上に強化する役割を担っているものと. えることができ,社会問題として捉えられてい. 考える.社会起業家の持続可能な経済・社会に. る課題の種類によって CSR 活動の使い分けを. 果たす役割,グローバル社会における存在意義. 可能にしていると言うことができる.収益の一. などについては,今後の研究課題としたい..
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