表題
身体の部分質量比及び内分質量比の測定
~身体を「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」に2分割することを想定して~
弘前大学大学院教育学研究科教科教育専攻保健体育科専修 著者 川端 良介
指導教官 大島 義晴
目次
目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅰ:はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
Ⅱ:方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 1.身体を1つの剛体モデルとして考える
2.身体を「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」に2分割した剛体モデルを考える 3.「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の質量比及び内分質量比を推定する
Ⅲ:結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 1.数値モデルによる検証
2.人体モデルによる検証
Ⅳ:まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
Ⅰ:はじめに
動画や静止画像をもとに身体運動にかかわる力学量を算出したり、モデルを介してヒト の運動様相をシミュレーションするためには、演算の基礎データとして身体の部分質量と その重心位置がわからなければならない。しかし、分析の対象となる個体の部分質量と重 心位置を調べることは容易ではなく、現状でこの種の実験や研究を行うときは先行研究の データに頼らざるを得ない。
当初、身体の部分質量と重心位置の測定は、氷結した死体を切断してバランスシートや 物理振り子法を用い、直接測定する方法がとられていた4)10)。しかし、この方法は、極めて 高精度な測定ができる反面、屍体標本を使っているため標本数が少なく、計測データも高 齢者に偏っているという問題があった。そこで、生体標本を使い間接的に測定する方法が 提唱され、松井6)の研究がその先駆けとなった。この間接法は実験のプロセスによって2つ に分けられる。
1つは、身体部分の慣性モーメントを測定して求める方法
11)で、物理振り子 法、急速解放法、振動法などがある。もう1
つは、体積と密度を予測し部分質量と重心位 置を求める方法で、これには水置換法8)や放射線照射法9)、核磁気共鳴映像法(MRI)3)、数学 リンクモデル法1)5)などがある。しかしながら、これら先行研究をみると、慣性モーメントを求める方法と水置換法は被 験者の拘束性が高く正確な測定が困難であり、身体部分の体積と密度を調べる方法も基本 的には予測と近似からなっており、計測時の誤差も少ないとは言えない。そして、全ての 方法に共通しているのは、測定自体が複雑で1個体のデータを得るまでに相当な時間を要す ることである。
身体の部分質量と重心位置を簡便な方法で高精度に測定するには、古くから行われてい る重心測定板法2)により生体標本を直接測定することが望ましい。これは、測定自体がシン プルで、実験における誤差の出現要素が他の測定法に比べ少ないからである。しかし、重 心測定板法がこれまで採り上げられなかったのは、実験値の精度が高いといわれるが所以、
これに含まれる測定誤差を考慮せず、単に数学的手法によってのみ部分質量と重心位置を 求めようとしていたからではないかと考える。
上述したことを踏まえ、重心測定板を利用して部分質量比及び内分質量比の測定を行っ た研究7)では、身体を上体(頭部、胴、両上肢)と下体(両下肢)に2分割した人体モデル を作成し、各質量比を実験的に求め、2分割法の方法論的妥当性について考察した。この2 分割法は原理的には分割する対象を変えることでからだのすべての部分に応用可能である。
そこで、本研究では下肢の内分質量比及び部分質量比と同様に、身体運動の力学的分析 にかかせない上肢の各質量比を2分割法によって推定可能であるか検証する。
Ⅱ:方法
本研究では、身体を「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」に2分割した剛体モデルを想定し
(2分割法)、重心測定板法を用いて、それぞれの部分質量比と内分質量比を求める。その 解析手順を以下に述べる。
1.身体を1つの剛体モデルとして考える。(図1参照)
図1:重心測定板法による重心の測定 図1において、身体の重心位置
G
支点Oから重心までの距離
X
被験体の重量W
力量計の反力
F
測定板の支点間の距離
L
とすれば、支点Oまわりの力のモーメントのつりあいから、
X×W=L×F・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
の基本式が導かれる。2.身体を「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」に2分割した剛体モデルを考える。
(図2参照)
図2:直立姿勢時の身体を2分割にしたときの模式図
図3:両上肢挙上姿勢時の身体を2分割にしたときの模式図
図2は直立姿勢を想定して図1の剛体を2分割したときの模式図である。また、図3は両 上肢挙上姿勢を想定した模式図である。これをヒトのからだを「頭部+胴+両下肢」と「両 上肢」に2分割したモデルと考え、
図2、3において「頭部+胴+両下肢」の重心位置
G1
「頭部+胴+両下肢」の質量比
mr1(=W1/W)
「頭部+胴+両下肢」の長さl1
「頭部+胴+両下肢」の中枢端から重心までの距離
l3
「頭部+胴+両下肢」の中枢端からの内分質量比lr1(=l3/l1)
両上肢の重心位置
G2
両上肢の質量比
mr2(=W2/W)
上肢長
l2
両上肢の中枢端から重心までの距離
l4
両上肢の中枢端からの内分質量比lr2(=l4/l2)
頭頂から肩峯までの距離
l5
とすれば、(1)式同様、支点
O
まわりの力のモーメントのつりあいから 直立姿勢の剛体モデル(図2)では、L×F=(l1-l1×lr1)×mr1×W+{l1-(l2×lr2+l5)×mr2}×W・・・・・(2)
が成り立ち、F=[(l1-l1×lr1)×mr1+{l1-(l2×lr2+l5)}×mr2]×W/L・・・・・・(3)
の関係が導かれる。また、両上肢挙上姿勢の剛体モデル(図3)では、
L×F=(l1-l1×lr1)×mr1×W+〔(l1-l5)+l2×lr2〕×mr2×W・・・・・(4)
が成り立ち、F=[(l1-l1×lr1)×mr1+{(l1-l5)+l2×lr2}×mr2]×W/L・・・・・・(5)
の関係が導かれる。(3),(5)式は重心測定板法による実験値(F,W,L)と本実験で求めるべき部分質量比(mr1,mr2)及
び内分質量比(lr1,lr2)との関係を示すものであり、本研究ではこれを数値解析の基本式とした。3.「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の質量比及び内分質量比を推定する。
まず、「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の質量比(mr1,mr2)及び内分質量比(lr1,lr2)の予想 される出現範囲と増分値を決める。(表1参照)
ここでいう出現範囲とは、被験者の体型が標準的な体型から隔たりがあっても、予想し た範囲を超えることはないだろうという各質量比の下限値と上限値のことである。本研究 では松井6)の値をもとに決定した。また、増分値とは
mr1,mr2, lr1,lr2
の値を下限値から増減 値まで増分するときのステップ値のことで、これをもとに上記出現範囲における4つの質量 比すべての組み合わせを考える。表1:「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の質量比(mr1,mr2)と 内分質量比(lr1,lr2)の出現範囲と増分値
比 下限値 上限値 増分値
mr1 0.8790 0.9190 0.0001
lr1 0.420 0.480 0.001
mr2 0.0810 0.1210 0.0001
lr2 0.440 0.500 0.001
次に、その全ての組み合わせについて、(3)式より「仮想値」を求める。このとき表1の 条件で計算される組み合わせの総数
n
は、n=〔(0.9190-0.8790)/0.0001+1〕×〔(0.480-0.420)/0.001+1〕
×〔(0.1210-0.0810)/0.0001+1〕×〔(0.500-0.440)/0.001+1〕・・・・・(6)
となるが、このうち、mr1+mr2=1
の条件を満たさない組み合わせを除外すると、実質「仮想F
値」を求める組み合わせは1,492,121
通りとなる。そして、実験で得られる2つの剛体モデルの床反力
F
値と仮想F
値との差の二乗(実験F
値-仮想F
値)2の和が最も小さいmr1,lr1,mr2,lr2
の組み合わせを抽出し、これを各質量比 の推定値とする。なお、本研究の計算処理は、国際規格の
JISFullBASIC
に準拠した「(仮称)十進BASIC」
12)により行う。この言語は、計算精度を設定することができ、本研究で扱う数値は、浮動 小数点
10
進数で計算され、1000
桁の計算精度が保たれる。作成したプログラムとそのフロ ーチャートは本論文の巻末に付した(資料1、2参照)。Ⅲ:結果及び考察
1.数値モデルによる検証
本研究ではまず、以下に示す標準的体型の被験者モデル(松井の値6)を参照)を考え、部 分質量比及び内分質量比を推定する方法が理論的に成立するかを検証する。
表
2:数値モデル(身長: 1.7m
、上肢長:0.67 m、頭頂から肩峯までの長さ:0.3m)
頭部+胴+両下肢 両上肢
体質量
(kg・重)
質量比 内分質量比 質量比 内分質量比
60 0.9000 0.450 0.1000 0.450
松井の研究6)では部分質量比及び内分質量比の値をそれぞれ小数点以下3桁と2桁を基準 値としている。しかし、数値モデルの内分質量比を小数点以下2桁に設定すると、「頭部+
胴+両下肢」の重心位置は質量比が
0.01
変化するごとに0.017m、上肢の重心位置は 0.0067m
ずつ変化する。同様に、内分質量比を小数点以下3桁に設定すると「頭部+胴+両下肢」及 び上肢の重心位置は質量比が0.001
変化するごとにそれぞれ0.0017m、0.00067m
ずつ変化す ることになる。これは、小数点以下の桁数が増すごとに各質量比の末端の数の影響が少な くなることを意味しており、質量比の桁数をあげれば解析精度が高くなることが考えられ る。そこで、本研究では松井の研究で基準値とした部分質量比及び内分質量比の小数点以 下の桁数を1桁ずつ増やし、それぞれ4桁、3桁の数値で検証を行うこととした。なお、数値モデルによる検証では、部分質量比と内分質量比の出現範囲と増分値を表3 のように設定した。これは、出現範囲を広げることで、検証の信頼性を高めるためである。
表3:数値モデルの解析で設定した「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の 質量比(mr1,mr2)と内分質量比(lr1,lr2)の出現範囲と増分値
比 下限値 上限値 増分値
mr1 0.8750 0.9250 0.0001
lr1 0.400 0.500 0.001
mr2 0.0750 0.1250 0.0001
lr2 0.400 0.500 0.001
(1)検証1
永澤の研究7)では直立姿勢を想定した人体モデルのみを解析の対象とした。これに従って、
本研究でも数値モデルを直立姿勢の関係式である(3)式に代入し、床反力
F
値を求めた。そ の結果、F=28.5405kg・重が得られた。これを床反力の実験F
値として、mr1,lr1,mr2,lr2の値 を変化させ、(実験F
値-仮想F
値)2の小さい順に各質量比の組み合わせを抽出すると、以 下の出力結果が得られた。(結果の出力例):直立姿勢の床反力
F
値を〔F=28.5405〕とした場合の上位5位までを記載No. 1 mr1=0.8750 lr1=0.455 mr2=0.1250 lr2=0.410 e=0.0000000000000000E+00 No. 2 mr1=0.9000 lr1=0.450 mr2=0.1000 lr2=0.450 e=0.0000000000000000E+00 No. 3 mr1=0.9001 lr1=0.452 mr2=0.0999 lr2=0.404 e=4.4675856000000000E-09 No. 4 mr1=0.8999 lr1=0.449 mr2=0.1001 lr2=0.473 e=1.1918088900000000E-08 No. 5 mr1=0.8750 lr1=0.451 mr2=0.1250 lr2=0.481 e=1.2656250000000000E-08
上記出力結果は、設定した数値モデルの他に「(実験
F
値-仮想F
値)2=0」の条件を満た
すもう1
つの組み合わせが存在することを示している。このため、本研究では、想定外の 組み合わせを除外するための方法として直立姿勢と両上肢挙上姿勢の2つの測定姿勢を想 定した(3)式と(5)式を併用し、解析を行うことにした。また、永澤の研究7)では直立姿勢を想 定した人体モデルのみを解析の対象としていたが、上述したように「誤差=0」の組み合わせ が複数抽出される可能性があるため、解析する姿勢の数を増やす必要があると考えられる。(2)検証2
上述したことを踏まえ、数値モデルを(3)、(5)式に代入し、床反力
F
値を求めた。その結果F=28.5405kg
・重、30.3495kg・重が得られた。これを床反力の実験 F
値として、mr1,lr1,mr2,lr2
の値を変化させ、(実験F
値-仮想F
値)2の和が小さい順に各質量比の組み合わせを抽出す ると、以下の出力結果が得られた。(結果の出力例):直立姿勢の床反力
F
値を〔F=28.5405〕、両上肢挙上姿勢のF
値を〔F=30.3495〕とした場合の上位 5
位までを記載No. 1 mr1=0.9000 lr1=0.450 mr2=0.1000 lr2=0.450 e=0.0000000000000000E+00
No. 2 mr1=0.9001 lr1=0.450 mr2=0.0999 lr2=0.450 e=5.5282905000000000E-06
No. 3 mr1=0.8999 lr1=0.450 mr2=0.1001 lr2=0.450 e=5.5282905000000000E-06
No. 4 mr1=0.9001 lr1=0.450 mr2=0.0999 lr2=0.451 e=6.3274303602000000E-06
No. 5 mr1=0.8999 lr1=0.450 mr2=0.1001 lr2=0.449 e=6.3452068002000000E-06
この結果は、想定した数値モデルの「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の質量比及び内 分質量比を「誤差=0」の組み合わせとして抽出しており、本研究で提示した推定方法が数値 解析上、理論的に正しいことを示唆するものと考える。
ただ、実際の重心測定板法による実験では、身体の部分長や質量、床反力などの計測値 には誤差が含まれる。このため、今回提示した部分質量比と内分質量比を推定する方法の 実用的精度については、人体モデルを作製して、実験的に確認しなければならないと考え る。
2.人体モデルによる検証
そこで、ヒトのからだを「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」に2分割した人体モデルを作 製し、本研究の方法論的妥当性を検証する。この人体モデルは、「頭部+胴+両下肢」と「両 上肢」を想定した平面にバーベルプレートを乗せることによって、それぞれの質量と重心 位置を調整できるようにしたものである。また、演算時間の短縮のため、人体モデルの部 分質量比及び内分質量比の測定では先の表1に示した範囲を設定した。
検証の手順は以下の通りである。
まず、作製した「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の人体部分モデルの質量比及び内分 質量比を重心測定板法により測定する(写真1、写真2、表4)。
写真1:「頭部+胴+両下肢」モデルの測定
写真2:「両上肢」モデルの測定
次に、「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」モデルを合体させた人体モデルを想定して、同 じく重心測定板法により床反力F値を測定する(写真3、写真4、表4)。
写真3:直立姿勢を想定した人体モデルの測定
写真4:両上肢挙上姿勢を想定した人体モデルの測定 これらの手順を経て、得られた人体モデルの実験値を表4に示す。
表4:人体モデルの実験値(身長:
1.7m
、上肢長:0.7 m、頭頂から肩峯までの長さ:0.3m)
頭部+胴+両下肢 両上肢
F
値(kg・重)
体質量(kg・重)
質量比 内分質量比 質量比 内分質量比 直立 挙上
86.72 0.8962 0.459 0.1038 0.457 35.47 38.02
表5は、表4の人体モデルの床反力F値を実験F値とし、前節の「方法」で述べた手法に より、各モデルの「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の質量比及び内分質量比を求めたも のである。また、同表には人体モデル各質量比の実験値(表4)に対する推定値の誤差率を 示した。
表5からわかるように、人体モデルを使った検証の結果、推定誤差は「頭部+胴+両上 肢」の部分質量比と内分質量比は
0.2%未満、
「両上肢」では部分質量比は1.54%、内分質量
比は
0.3%未満の値を得た。この結果は本研究で提示した「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」
の質量比及び内分質量比を推定するための重心測定板による2分割法が、十分実用に耐え うることを示している。
一方、表5にもあるように、「頭部+胴+両下肢」の推定誤差に比べ、「両上肢」の推定 誤差は部分質量比、内分質量比ともに値が大きくなっている。これは「頭部+胴+両下肢」
と「両上肢」の長さの計測においても、「両上肢」は「頭部+胴+両下肢」に比べ値が小さ く、測定誤差が同じであれば誤差の割合は「両上肢」が大きくなる。このように測定上の 誤差の問題が相乗した結果、「両上肢」の推定誤差が「頭部+胴+両下肢」に比べ大きい値 を示したものと考えられる。
表5:人体モデルの推定値及び実測値に対する推定誤差(%)
頭部+胴+両下肢 両上肢
質量比 内分質量比 質量比 内分質量比 人体モデル
0.8946 0.459 0.1054 0.456
推定誤差
(%) 0.18 0 1.54 0.22
なお、本研究では被験者の体質量と床反力F値は、最小計測単位が
10g・重の電子天秤
AD-6201(エー・アンド・デイ社)を使用した。
Ⅳ:まとめ
身体の部分質量比及び内分質量比の測定には、死体標本を用いる直接法と生体標本を用 いる間接法がある。前者の直接法は、高精度の測定ができる反面、標本数は少なく計測デ ータも高齢者に偏る傾向がある。一方、間接法は、測定時の被験者の拘束性が高く、身体 部分の密度を予測し体積を近似することが基本的手法であり、計測時の誤差は少ないとは 言えない。
重心測定板を利用して部分質量比及び内分質量比の測定を行った研究7)では、上体と下 体に2分割した人体モデルを作成し、各質量比を実験的に求め、2分割法の方法論的妥当性 について考察した。
また、2分割法は、原理的には分割する対象を変えることでからだのすべての部分に応用 可能であることから、本研究では下肢の内分質量比及び部分質量比と同様に、身体運動の 力学的分析にかかせない上肢の各質量比を2分割法によって推定可能であるか検証する。
以下に測定の手順と方法を記す。
1.まず、身体を「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」に2分割した剛体モデル(モデル
A、
モデル
B)を考える(2分割法)
2.このとき、モデルの全重量を
W、重心測定台の支点間距離を L、分割したモデル A
とB
の長軸長、モデルA、B
の中枢端間の距離、部分質量比、内分質量比をそれぞれl1、l3、
l5、mr1、mr2、lr1、lr2
とし、重心測定板法によって得られる床反力をF
とすれば次式が得られる。
【直立姿勢】
F=[(l1 - lr1 × l1) × mr1 + {l1 - (l2 × lr2 + l5)} × mr2] × W/L
【両上肢挙上姿勢】F=[(l1-l1×lr1)×mr1+{(l1-l5)+l2×lr2}×mr2]×W/L
3.この式は重心測定板法による実測値(F、
W、 L)と実験で求めるべき部分質量比(mr1、
mr2)及び内分質量比(lr1、lr2)との関係を示すものであり、本研究ではこれを数値解析の基
本式とした。4.次に、松井の値6)をもとにモデル
A
とモデルB
の質量比(mr1、mr2)及び内分質量比(lr1、lr2)の予測される出現範囲と増分値で変化させたときのすべての組み合わせについて、上
記した2式より「仮想F
値」を求める。5.そして、実験で得られる直立姿勢と両上肢挙上姿勢の床反力
F
値と仮想F
値との差の2 乗(実験F
値-仮想F
値)2の和が最も小さいmr1、mr2、lr1、lr2
の組み合わせを抽出し、こ れを求める各質量比の推定値とする。なお、本研究では、国際規格のJISFullBASIC
に準 拠した「(仮称)十進BASIC」
12)を用いて数値解析を行った。6.本研究では解析精度を上げるため、松井の研究6)で基準値とされていた部分質量比及 び内分質量比の桁数を1つずつ増やし、それぞれ小数点以下4桁、3桁に設定した。
7.永澤の研究7)では直立姿勢を想定した人体モデルのみを解析の対象とした。これに従っ て、本研究では標準的体型の被験者と重心測定板法による実験値の数値モデルを考え、
直立姿勢の関係式を使用し、部分質量比と内分質量比が抽出できるか解析を試みた。そ の結果、数値モデルの「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の各質量比は「誤差=0」の組み合わ せが2通り抽出された。
8.これは、設定した数値モデルの他に「(実験
F
値-仮想F
値)2=0」の条件を満たすもう 1
つの組み合わせが存在することを示している。そのため、本研究では直立姿勢と両上肢 挙上姿勢の関係式を併用し、想定外の組み合わせを除外した。9.また、上記の結果から永澤の研究7)では直立姿勢を想定した人体モデルを解析の対象と していたが、上述したように「誤差=0」の組み合わせが複数推定される可能性があるため、
解析する姿勢の数を増やす必要があると考えられる。
10.上述したことを踏まえ、直立姿勢と両上肢挙上姿勢の関係式を併用し、解析を行っ た。この結果、数値モデルの「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の各質量比は「誤差=0」の 組み合わせが抽出できた。
11.次に、ヒトのからだを「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」に2分割した人体モデルを 作製し、それぞれの部分質量比と内分質量比を求めた結果、「頭部+胴+両下肢」の部 分質量比と内分質量比は
0.3%未満、
「両上肢」については両質量比共に2%未満の誤差
率で推定できた。12.これらの結果は、「頭部+胴+両下肢」と「両上肢」の部分質量比及び内分質量比を 求める測定手段として、重心測定板法を用いる2分割法が有効であることを示唆するも のと考える。