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小売企業多角化 と事業定義

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(1)

小売企業多角化 と事業定義

近 藤 公 彦

目 次

I は じめに

Ⅱ 小売企業多角化の進展

小売企業多角化の分析枠組

r

V 多角化小売企業における事業定義

V

おわり† こ

は じ め に

1970

年代以降,量販店をは じめ とす る大規模小売企業を中心 に小売企業の多 角化が進展 して いる. その先端的企 業 グルー プであるダ イエー ・グルー プやセ ゾ ン ・グル‑ プは,物販 としての小売業 にとどま らず ,製造 ・卸売段 階へ の垂 直的多角化 に加えて ,外食 ,金融 , レジャ‑,さ らにはデベ ロッパーな ど多様 な事業分野 に進 出 して いるo こうした小売企業 グルー プは もはや 「 小売業」 と い う産業 の枠を越 え

,

「コングロマーチ ャン ト

(conglomerchant)1)

」 に向け た事業多角化を志向 している といえる。

本稿 の 目的は,大規模小売企業のサー ビス分野‑の事業展開 に焦点をあて, その多角化行動を分析す る ことにある。 なぜ′ j 、 売企業は多角化す るのか ,そ こ にどのよ うな論理が存在 してい るのか について考察す るのが ここでの課題であ る。 以下では, まず大規模小売企業 による多角化行動の 展開を跡づける。 次 に,小売企業多角化の分析枠組を批判的 に検討 し,最後 に,事業定義の観点か ら小売企業多角化を議論す る。

1)cf.R.Tillman (197

1 ),

HRiseofConglomerchant

,

HHarvardBusiness Review,Nov.Dec,pp.44‑51;田村正妃 (1987),

「 複合化戦略

,日本経済 新聞社編 『 新 ・産業論』日本経済新聞社, 370

373

ぺ‑i y;同

(1989)

, 「 サー ビス ・情報化.国際化」,宮犀健一編 『 流通Vステムの再構築』商事法務研究会.

162‑169

ぺ‑e ye

(2)

28

巻 第 1号

表1 小売 企業のサー ビス業への展朗状況

( 単位 :%)

「 盲 古 寺 妄 「 盲 五 丁盲 壷 1 妄石 蕗 下 =司 言 両

: ∴ 二

: . . . ∴ ∴ ■ 二∴

)通信 サー ビス業

対 企

、‑ t lI i TJ 情報提供 サー ビス

運輸 ・物流 サー ビス

人材派遣業 自動車販売

15. 3 L I I l. 8 1 4. 1 42. 9 1

不動産販売 : 1 5・ 6 39. 0 芸 LT 3・ 4i

・ √ ・l ・‑

l ・ l・ I . T I J

ス ポ‑ ツ ̲̲ 一山 ̲ ̲し」 三 三

映画 ・演劇

一 結婚紹介業 一 〈 「 . ㌫

墨 〜 還 1 0. 0

0. 0! 0. 0 1. 7: 0. 0

資料 :通商産業省 ア ンケー ト調査O

出所 :通商産業省商政 課編

(1989), 「90

年代の流通 ピi yヨン』通商産業調査会 .

29

ぺ‑ L y。

備考 :対象2

88

,1988

10

月。

(3)

小売企業多角化と事業定義

小売企業多角化の進展

大規模小売企業のサー ビス分野への多角化は,多様 な業種 にわた って広範 に 行われている。 表

1

,1988

10

月時点 における大規模小売企業の多角化の進 展状況を業態別 に示 した ものである。 全体でみ ると,金融 ・保険への進出が も っとも多 く,外食 ,信販 ・クレジ ッ トが これ に続 き,以下,旅行,住宅サー ビ ス, リース ・レンタル等の順 とな って いる。 百貨店では,金融 ・保険 と信販 ・ クレジ ッ トが多 く,旅行 ,住宅サー ビス,運輸 ・物流サー ビスおよび外食が こ れ に続 いて いる。一方,量販店の場合 ,金融 ・保険が きわめて多 く,次いで, 信販 ・クレジッ ト,自動車販売および外食 ,そ して リース ・レンタル等 ,住宅 サー ビス,旅行の順とな っている。 この表か ら明 らか なよ うに,量販店の多角 化は他の小売業態 に比べて ヨ リ広範な業種 にわた って いる。 全体 と比較 して ヨ リ進 出皮が高い業種は,通信サー ビス業を除 く全業種 におよんでお り,百貨店 と比べてみて も,全

22

業種中

16

業種で高 くなっているO この ことは,量販店 に よるサー ビス分野への多角化が他の業態 に比べていか に進行 しているかを端的 に物語 って いる。 以下では, と くに外食 , 金融, デベ ロッパー事業 に注 目 し て,大規模小売企業のサー ビス事業への多角化のプロセスを概観す ることに し よ う2)0

外食産業への進出

大規模小売企業の外食産業への進出は

,1970

年前後の 自社店舗 内への出店 に は じまる

3)a 1969

年, ダイエ‑ ・グループ は ‑ ンバーガー ・チェー ンの ドム

ドム ( 覗 ,ウエ ンコ ・ジャパ ン) な どを設立 し

,74

年 には外食事業本部を設置 して ,外食事業への積極的な展 開を開始 して いる。一方,セゾン ・グループは

70

年, ドーナツ ・チ ェー ンの 日本 ダンキ ン ・ドーナツ ( 覗 , 吉野家 デ ィ‑ ・

2)

大規模小売企業によるサービス事業への多角化プロセスの詳細については,中野 安

(1984b),

「 巨大小売業の サービス分野への進出 」 『 季刊経済研究』第

7

巻 第

2

号 ,1

1

9

ぺ‑L yを参照せよC

3)

後述するように,外食産業への進出も含めて小売企業の多角化には,一般に物的 資源としての店舗が重要な源泉となるOこの点については,中野安

(1984b)

,前 掲論文 ;向山雅夫

(1988),

「 総合 スーパーの動向と流通多角化

『 マ‑ケティ

ング ・e yヤーナル』第

7

巻第

4

,19‑26

ぺ‑i yを参属せよ.

(4)

28

巻 第 1号

ア ン ド・シー) を 設 立 し

,74

年 には , 外 食事業の中核を 担 う レス トラン西武 ( 堤 ,西洋 フー ド ・システムズ) を設 立 した。 また ,ニ チ イは

72

年 に和食 の フ ァー ス ト・フー ド店 ,ニ チ イ ・フー ズを , イ ト‑ ヨ‑ カ堂 も 73年 ,ア メ リカの デニー ズ社 と提携 して フ ァ ミリー ・レス トランを運営す るデニー ズ ・ジ ャパ ン を設 立 し,外食産業へ の進 出に着 手 した。 自社店舗 内への 出店で経営 ノウ‑ ウ を蓄積 した 外食事業 4)は

, 1970

年代末 頓か ら, ア メ リカの 外食企 業 との提携 を模索 しなが ら, 自社店舗 外への独立店の チ ェー ン展開を志 向 しは じめ る。 ダ イエ‑ ・グル ー プは

,70

年 にア メ リカの‑ ンバー ガー ・チ ェ‑ ン, ウェンデ ィ ー ズ社 との提携 によ って外食 産業へ の浸透を はか る一方

,80

年か らはパ ブ ・レ ス トランの全国展 開 に着手 して いる。 セ ゾ ン ・グル ー プでは

,77

年 に 日本 ダ ン キ ン ・ドー ナツが 自社店舗 外へ の 出店を開始 し

,79

年 には レス トラン西武が ア メ リカの チ ャー チ ス ・フ ライ ド ・チキ ン社 と提携 し, フ ァー ス ト・フー ド店 の 全 国展 開を行 って いる。 ニ チ イ もニ チ イ ・フー ズが

79

年 , フ ァ ミリー ・レス ト

ランの ラ ・フ ォ リを展 開 しは じめ

,81

年 にはニ チ イとニ チ イ ・フー ズが ア メ リ カの ア‑ ビー ズ社 との提携 によ り, ロー ス ト・ビーフ ・サ ン ドイ ッチ店の チ ェ ー ン展 開 に乗 り出 して いる。

1970

年代前半 に外食産業 に進 出 した大規模′ J 、 売企業が事 業の拡充 に向か った この時期 ,後発の小売企業が参入をは じめて いる。 ユニ‑ ドは77年 に ラ ・パ ー ル を設立 して郊外 レス トランを展 開 し,ユニーは

78

年 にア メ リカの ウ ィンチ ェ ル 社 と提携 して ウィンチ ェル ・ジ ャパ ンを設立 し, 多店舗展 開を 開始 して い る。 また ジ ャス コは

79

年 ,国内外の大手飲食 企業

2

社 と提携 し,外食産業 に本 格的 に参 7 \す る休制 を固 め

,81

年 には ア メ リカのゼ ネ ラル ・ミル ズ社 との提携 によ り, シー ・フー ド・レス トランの展 開 に向けて動 きだ した。 さ らに忠実屋 は

78

年 ‥ 忠実屋 フー ド ・サー ビスの設立 によ り外食 産業 に進 出 し,翌

79

年 には ハ ンバー ガー ・チ ェ‑ ンのモ ス ・7‑ ドの フ ランチ ャイジー とな って いる0

1980

年代 に入 ると,他 の外食企業 との業務提携 や合弁 ,そ して提携解消 な ど

4)Kelly=George(1982)紘, サービス業の事業運営 には小売業とは 異なった経

営ノウ‑クが 必要であることを指摘しており, そのノウ‑ウをいかに蓄積する

かが大きな課題となる。(

J・P・Kellyand W .R.George(1982)

,

=Strategic ManagemantlssuesfortheRetallirlgOfServices,=JournalofRetailing

,

Vol58,No

,

2,pp.26‑43.)

(5)

小売企業多角化と事業定義 の外食事業の再編が進行 した. ダイエー ・グループは

82

年,伯養軒か らフ ァ ミ

リー ・レス トラン部門を 買収 す るとともに, 第一 ホテルの レス トラン部門テ ー ・エ ッチ ・フー ズと提携 し

,84

年には,ほ っかほ っか亭総本部 と提携 して ダ イエ‑ ・グル‑プの傘下 にいれた. セゾ ン ・グループでは80 年,吉野屋を グル ープ傘下 において再建 にかかわ り

,84

年 には 日本 ダンキ ン ・ドーナツが不採算 店の整理を終え,積極的出店 に乗 り出 した

。86

年, レス トラン西武が フ ァ ミリ

‑ ・レス トラン,カーサの フ ランチ ャイズ店展開をは じめ,87 年 には吉野屋 と 日本 ダンキ ン ・ド‑ナツを運営す るデ ィー ・ア ン ド・シ・ ‑の合併を決定 した0

84

年には, イ トー ヨー カ堂のデニーズ ・ジャパ ンが アメ リカ ・デニ・ ‑ズ社 との 提携を解消す る一方 ,ニ チ イは同年,アメ リカの フ ァ ドラッカー社 と提携 し, フ ァース ト・フー ド・レス トランの全国展開を開始 して いる。 また忠実屋 は83 年 に持 ち帰 り寿 司の甚兵衛 に,ジ ャスコは87 年, うどんチェー ンの得 々に資本 参加 して いる。

金融業への進 出

小売企業の金融業への進 出は

, 1970

年代後半 に は じまる

5)0 1975

年, ダイ エー ・グループは,金融子会社,朝 日クレジ ッ トを設立 し,金融事業への多角 化 に着手 した. 78 年,朝 日クレジ ッ トはダイエー ・メンバ‑ズ ・カ‑ ドを発行 し,83 年のオ レンジ ・メンバー ズ ・カー ド発行へ とつなが って い く

。 81

年 ,同 社はキ ャッシ ング ( 小 口消費者金融)業務を開始 し

,84

年 には朝 日クレジッ ト と月賦百貨店の丸興が合併 して新会社,丸輿 ( 項 ,ダイエー ・フ ァイナ ンス) が発足 し,オ レンジ ・メンバーズ ・カー ド顧客を対象 とした消費者金融事業 に 進 出 した0 ‑万 , セゾン ・グループは75 年 , アメ リカの シアーズ ・ロ‑バ ッ ク ・グループのオール ・ステー ト社 との合弁 によ り西武オール ・ステー ト生命

5)小売企業の金融業への進出の詳細については,小山周三 ・福田順子 (1987)『

通業の金融化大作戦』 日本経済新聞社 ;松村雅之

(1989)

, 「 流通系ノンバンク

の金融 リーテイル戦略と生保分野への進出

『 生命保険経営』第

57

巻 第5 号,

2546

ぺ‑t 7, を参照せよ。 また中野

(1984b)紘,大規模小売企業の金融業へ

の多角化の 目的として,消費者信用の市場規模がきわめて大きくなっているこ

と,アメ リカの大規模小売企業の金融業への進出がわが国の小売企業のモデル ・

ケ‑スになっていること,金融サービス業が長期的に重要な戦略的地位を占める

可能性が高まったこと,の

3

点をあげている。 ( 中野安

(1984b)

,前掲論文. )

(6)

第28 巻 第 1号

保険 ( 覗 ,セゾ ン生命保険)を設立 し,ヨ三 命保険事業 に 参入 している。 翌

76

年, 月賦 百貨店の緑屋 ( 覗 , クレデ ィ ・セゾ ン)の買収によ りクレジ ッ ト事業 に進 出 し ,78 年 ,同社をつ うじて消費者金融を開始 した 。 82 年のセゾ ン ・カー ド発 行を契機 と して,同社はセ ゾン ・グループの金融事業の中核を担 う企業 とな る。

ダ イエ‑ ・グルー プおよびセゾ ン ・グループは,金融業への多角化 において 先行 したが

,1980

年代に入 ると,他の大規模量販店が この分野 に進出 しは じめ た

。81

年にはニチ イの金融子会社 ,ニ チ イ ・クレジ ッ ト・サー ビスおよびユニ ーが進 出 し, イズ ミヤは 自動車 ロー ンを 開始 して いる。 さらに

80

年代前半 に は,ニチ イ,ジ ャスコ,ユニー ドな ど,ほ とん どの後発 大規模量販店が 自社 カ ー ドの発行 に踏み切 っている。

1980

年代,金融業への先行企業は, ヨ リ積極的な展開を図ろ うとす る企業 と 事業縮小 に 向か う 企業 に 分かれた。 前者 には ダイエー ・グループおよびセゾ ン ・グループが ,後者 には イ トー ヨー カ堂が 含まれ る。 セゾ ン ・グループは

76

年の西武バー クレイズ ・フ ァイナ ンス設立以降 ,82 年の西武 ファイナ ンス,オ

‑ル ・ステ‑ ト自動車 ・火災保険

,83

年のエース ・フ ァイナ ンス

,84

年の西武 抵 当証券

,85

年の東京 シテ ィ ・フ ァイナ ンス, 日本社員融資

,86

年の西武オー ト・リー ス,西友投資顧 問な どの相次 ぐ新会社設立 によ り,消費者金融 にとど ま らず ,企業金融を も含 めた総合金融サー ビス業 に向けて急速な事業拡大を図 って いる. ダイエー ・グループは

85

年,ダイエ‑投資顧 問の設立 によってダイ エー ・グループ内の資金の調整 ・管理業務を行 う企業金融事業 に参入 し

,86

年 には抵 当証券 , 損害保険の店頭販売を開始 し保険 ・証券事業に着手 して いるO さ らに両 グループは

84

年か ら自社店舗 内において さまざまな金融商品を扱 い, 総合的な家計 ・貯蓄サー ビスを行 うサー ビス ・カウンターの展開を開始 した。

こうした動 きに対 して イ トー ヨー カ堂は

84

年 ,消費者金融事業の不拡大方針を 打 ち. + JL,本業である小売業を事業基盤 とす る姿勢を明確に して いる.

デベ ロッノヾ一事業への進出

大規模小売企業の事業多角化は,大型複合小売施設 あるいは街づ くりへの全 面的関与を背景 と して , デベ ロッパー事業へ も 広が りを みせて いる。 ダイエ

‑ ・グループは

1984

年,デベ ロッパー事業本郡を不動産関連の対外折衝 とデベ

(7)

小売企業多角化と事業定義 ロッパ‑事業 に専任 させ ,翌85 年,船橋 エ ヌ ・シー開発を母体 に してデベ ロッ パ‑事業の企画 ・運営を担 うダイエ‑ ・リアル ・エステ‑ トを設立 し,さらに 施設内装工事を担 当させ る ことを 目的 に第一建設を グループ傘下 に収めた。 ダ イエー ・リアル ・エステー トは, 「 ニ ュー ・ホ‑ム ・コンビナー ト・シテ ィ浦 安」第 2 期工事 , 「ヨコスカ ・シー ・ウィン ドウ」, 「ららぽ‑ と」 な ど, い ずれ も小売を核 としなが ら,オフィス,ホテル , レジャ‑,カル チャーな どの 生清須城全般 に わた る 「 街づ くり」 を志 向 した 複合施設の開発を 手掛 けて い る。 ダイエ‑ ・グル‑プによる商業施設開発にともな って蓄積 された同社のデ ベ ロッパー事業の ノウ‑ ウは,8

8

年の 「 新神戸 オ リエ ンタル ・パー ク ・アベニ ュー

・OPA

」 に結実 し,さ らに 「 福岡 ツイン ・ドー ム ・シテ ィ」 では総合 レ ジャ‑施設の建設が予定 されてお り,グル‑プの枠を越 えた事業展開が構想 さ れて いる。

こうしたデベ ロッパー事業への参入は,セゾ ン ・グル‑プにおいて も同様 な 経緯をた どって いる。 セゾ ン ・グループの街づ くりの ノウ‑ ウは,85 年に建設 された大規模複合商業施設 「つか しん」 に結集 され ,西武百貨店 ,西友の商業 施設 , 西洋環境開発の リゾ‑ ト開発, ホテル事業 , レス トラン西武の 飲食施 設 ,西武オール ・ステー ト生命保険の生命保険 ・損害保険 ,西武 クレジッ トの クレジッ ト事業な ど,グループ各社の専門事業が投入 されて いる。 このよ うな グル‑プ全体にわた る街づ くり‑の参画は,その後 も 「 長浜楽市」 な どにみ ら れ る。 またニチ イ

マ イカル ・グループは,8

8

年 に中堅ゼ ネコンの 日産建設を グループ傘下 におき

,89

年に開業 した大型複合商業施設 「マ イカル本牧」 の建 設 にさい して獲得 したデベ ロッパ ー事業の ノウ‑ ウを集中的 に同社に蓄積 し, 今後のデベ ロッパー事業の中核企業 と位置づけている。

小売企業多角化の分析枠組

以上概観 して きたよ うに,大規模ノ J 、 売企業はその事業分野を急速に拡大 しな が ら,小売業 とサー ビス業を融合 した コングロマ‑チ ャン トの性格を強めて い る。一見す ると 「 総花的多角化」 とも思 える大規模小売企業の多角化は,どの よ うな枠組の もとで捉 えることがで きるのであろ うか。

/ J 、 売企業多角化の分析枠組 には,少 な くとも次のよ うな

2

つの アプ ロ‑ チが

(8)

28

巻 第

1

号 存在す る。

第 1の アプ ローチは, 製造企業を前提 と した

Ansoff(1965)

の製品一市場 モデル に依拠 し

6)

, 小売企業の多角化を 製造企業の それ と 同 じかあるいは類 似の枠組で捉 えよ うとす る ものである

. Ansof

fは,企業の成長 と存続を達成 す る方向を成長ベ ク トル と して定 式化 し,製品‑市場における拡大化 と多角化 の 2 つのルー トを 指摘 して いる7 ). 拡大化 とは 既存の製品一市場 に新たな製 品あるいは市場を追加す る方向であ り,多角化 とは新たな製品‑市場 に参入す る方向である。

Knee‑Walters(1985)

は, Ans

of

fの製品一市場モデルを小売企業 にあて はめ

8)

, 図 1のよ うな 枠組を提示 している. 彼 らによれ ば多角化 とは,企業 あるいは事業部門が これまで関係 して いない ( あるいは関係 して いると顧客が 考えて いない)坂城 あるいは 活動 に進 出す る ことで ある9)O 図

1

に示 され る よ うに.小売企業の製品一市場は小売製品パ ッケー ジと顧客ベースの市場セ グ メン トの

2

次元か らなる。製品

ッケージとは,製品の品揃えに加えて,店舗 立地 ,規模 , トレ‑デ ィング ・スタイルな どを含み,企業が顧客満足を実現す るためのあ らゆる手段か らな り,また顧客ベースの市場セ グメン トとは企業の 競争力が 小売戦略の 実施を可能 にす る一連の 市場 セグメン トである。 多角化 紘,既存の顧客ベースの市場 セグメ ン トに対 して新規の小売製品パ ッケー ジを 提供す る製品

ッケー ジ主導型の多角化 ,既存の小売製品パ ッケー ジを新規の 顧客ベースの市場セ グメン トに拡張す る市場主導型の多角化,そ して小売製品 パ ッケ‑ ジ,顧客ベースの市場セ グメン トともに新規の総体的小売多角化の

3

つのベ ク トルか ら構成 され る。 さらに事業多角化 に ともな う リス クは,製品

ッケー ジ主導型の多角化および市場主導型の多角化 に比べて,総体的多角化が もっとも高 くなる ことが指摘 されて いる。

6)

また森

(1989)

紘, 小売企業の多角化の枠組を

Kotler(1980)

の成長戦略モデ ルに求めているO ( 森彰

(1989),

小売企業の多角化と業態複合」,流通政策研 所編 『 流通新世紀』日本経済新聞社

,199‑214

ぺ‑i y o )

7 )H.

.Ansoff(1965),CorporateStratβgy,McGraw‑H

i l t . ( 広 田 寿 亮 訳

(196

1 )

,

F 企業戦略論』産業能率大学出版部。 )

8)D・Kneeand D.Waiters(1985),Strategy in Retailing:Theoryand Practice,PhilipAllanPublishers

・( 小西滋人 ・武内成 ・上埜進訳

(1989)

,

『 戦略小売経営』同文舘。 )

9)1bid.(

同訳書

,239

ぺ‑S y 。 )

(9)

小売企業多角化 と事業定義

図 1 小売企業の製品一市場戦略の理論的枠組 顧客ベースの市場セグメン ト

既 存 関 連 新 規

関 連

小 売 製

品パッケージ

浸 透 市場指導型の開発 市場指導型 の多角化

低い リスク

N

I.隈 ク

I

製品パ ッケージ 緒導型の開発

注 :矢尻の数はリスクの程度を示 し, リスクのレベルが高くなる程,数が多くなる。

出所 :

Knee=Walters(1985),StrategyinRetailing,PhilipAlanPublishers・

( 小西鞍人 ・武内成 ・上埜 進訳

(1989),

『 戦略小売経営』 同文舘

,62

ページ. )

Knee‑W alters

の モ デル は

Ansof

f の それ とは い くつ か の 相 違 点 が あ る が

10)

, 彼 らの モ デル は

Ansof

f モ デ ル に大 き く依 存 して お り, そ の モ デ ル が 前 提 と して い る製 造 企 業 の 多 角 化 の枠 組 を 小 売 企 業 の それ に直 接 的 に援 用 した

10)

た とえば

,Anso

f fモデルの 製品 と 市場の

2

次元 は

, Knee=Walters

モデル

では 小売製品パ ッケーL yと顧客ベースの 市場セグメ ン トに 置き換 えられ , また

Anso

f fモデルが製品 と市場の各次元において既存 と新規の

2

分類であるのに対

して

,Knee=Walers

モデルでは,小売製品バ ッケ‑i 7と顧客ベースの市場 セグ

メ ン トの各次元で既存 ,関連,新規の

3

分類が用い られ るCさらに

Anso

f fモデ

ルの多角化が 新製品かつ新市場にのみ対応す るのに 対 して

,Knee=Walters

デルでは,小売製品バ ッグーL yと顧客べ‑スの市場 セグメ ン トともに新規の総体

的多角化だけでな く,既存の小売製品パ ッケ‑ i yと新規の顧客ベースの市場 セグ

メ ン ト, 新規の 小売製品パ ッケ‑ L yと 新規の顧 客ベースの 市場 セグメ. / トもま

た,それぞれ市場主導型多角化 ,製品パ ッケ‑ L y 主導型多角化 として多角化の類

型に含 まれ ている0

(10)

第2

8

巻 第

1

号 もの といえる。

しか し彼 らの多角化モデル には, と くに製品

ッケージの概念 に関 して次の よ うな問題があるo前述 のよ うに製品パ ッケー ジには,製品の品揃え,店舗立 地 ,規模 , トレーデ ィング ・ス タイル などが含 まれ るが ,小売企業の多角化 は こう した意思決定領域をはるか に越 えて展開 されて いる。わが国の大規模小売 企業 によるサー ビス事業への多角化は,すで に単なる物販への付随的な位置づ けか ら脱却 して,小売事業を中心 と しなが らも金融 ・保険 ,外食 ,信販 ・クレ ジ ッ ト,旅行,さらにはデベ ロッパーな どの多様 な事業分野 にきわめて広範囲 におよんでいる。 このよ うな小売企業の多角化行動は,製品パ ッケー ジの概念 では十分 に捉 えることはできない. 製品パ ッケー ジは,た とえば大規模量販店 による百貨店 ,専門店 ,コ ンビニエ ンス ・ス トア,デ ィスカウン ト・ス トア, 通信販売な どへの小売多業態化 にかかわ る概念であ って .それを越 えた コング ロマーチ ャン トに向けた多角化行動には適用す ることはで きない. したが って

Knee‑Walters

のモデル は, 小売事業内部の多業態化の説明には 有効である が ,サ‑ ビス事業への多角化 については説明力を欠 くことになる.

2

のアプローチは,小売企業の多角化 と製造企業のそれ とは本質的 に異な ってお り,小売企業の多角化は独 自の理論化が必要であるという認識 に もとづ いて いるo 向山

(1988)

は範囲の経 済

(econoTr.iesofscope)

に注 目 し,小売 企業の 多角化 には この範囲の経済が 大 き く影響 して いると指摘 して いる

l】) 。

範囲の経済 とは,複数の製品を 1つの企業が 同時 に生産す るほ うが ,それぞれ 異 な る企業が単独で 生産す るよ りもヨ リ低 コス トで すむ ことを いい

12)

, ある 生産物の生産 プロセスのなか に他の生産物の生産 にコス トな しで転用可能な共 通生産要素が含 まれて いるときに生 じる。 向山は この共通生産要素を店舗 に求 める。すなわ ち,店舗 は多角化 にさい して他の事業分野 に転用可能な共通生産

ll)

向山雅夫

(1988)

,前掲論文。

12)

範囲の経済については ,D

J・Teece(198

1 ),"

Economi esofScopeandthe ScopeoftheEnterpri

s e

,

"

JournalofEconomicBehaviorandOTgqniza‑

tion,Vol.1.No.3,pp・223247;J・C.PanZarand R.D,Willig (198

1 ),

"

EconomiesofScope,

"

AmericanEconomicJournal,Vol.71,No.2,pp・

268‑272;A,Wolinsky(1986)"TheNatureofCompetitionandtheScope ofFirms,HTheJournalofIndustrialEconomics,Vol76,No・3,pp・247 259

を参府せ よ0

40

(11)

小売企業多角化と事業定義 要素 とな り,この共通生産要素としての店舗を複数の事業分野に多重利用す る

ことによって小売企業は多角化を推進す る。

こうした点に着 目 して ,彼は小売企業の多角化の発展 メカニズムについて次 のような

3

段 階仮説を提示 している。

第 1 段階は,共通生産要素 としての店舗を利用 したスター ト・ア ップ期であ る。小売企業 は店舗内に生 じた遊休 スペースを レス トランやファース ト・7‑

ド店などの外食サ‑ ビス,サ‑ ビス ・カウンタ‑での レジャー ・旅行サー ビス や金融サー ビス,カルチ ャー ・セ ンターや映画館,劇場などの文化サ‑ ビス事 業などに転用 し,店舗を多様なサ‑ ビス事業 に多重利用す ることで多角化を図 る。第

2

段階は,多角化 にともな う情報蓄積期である。物販業 と しての小売事 業か らサー ビス事業への多角化は,小売企業にこれまで見えなか った顧客の さ まざまなニーズを明 らかにす る. ここで重要な役割を担 っているのが,顧客デ ー タベースであるC近年,小売企業 によるクレジッ ト・カー ドの発行が急速 に 進んでいるが ,この背景 には顧客情報の収集を 目的 と した顧客デ‑ タベースの 構築がある。顧客デー タベ‑スを構築す ることによって多角化にともな う情報 のスパ イラル効果が発生 し,多様な側面か ら顧客ニーズを分析 し,ヨ リ一層の 市場浸透 とともに新たな市場機会を捉えることが可能 となる。第

3

段階は,独 立展開期である。前段階 までの多角化が基本的に既存店舗内でのサ‑ ビス事業 の展開であったのに対 し, この段 階では自社店舗か らアウ トシ ョップ化す る。

この段 階において多店舗化 した店舗内での経営資源蓄積が終了 し,独立の店舗 展開が行われ,その事業は新たな利益セ ンター と して位置づけ られ ることにな る.すでに外食事業が この段 階に達 しており,金融事業 もこの段階に近づきつ つある。

向山の研究は, 小売企業の多角化の 源泉を 共通生産要素 としての 店舗 に求

め,その発展 メカニズムを説明 しようと した ものであ り,小売企業が どのよう

なプロセスを経て多角化 してい くか ,そ こにおいて店舗が共通生産要素 と して

いか に決定的役割を果た しているか に関 しては,示唆にとむ仮説を提示 してい

る。 しか し,それぞれの発展段階において小売企業が どのような市場にどのよ

うな事業分野で多角化 してい くかについては明 らかではな く,その意味では,

Knee‑walters

が示 したような多角化の枠組を提示す るにはいた っていない。

(12)

28

巻 第 1号

以上では

, Knee‑Walters

の多角化モ

ル および 向山の発展段 階モデルを 検討 して きたが, これ らのモデル に共通す るさらに本質的な問題 は,多角化 に よる事業分野の拡大が本業である小売企業 に対 して どのよ うに位置づ けられ る か

(KIee‑Walters

モデル),あるいは多角化が どのよ うな メカニズムで進展 す るのか とい う多角化の発展段 階 (向山モデル) につ いては示唆す るが ,なぜ 小売企業 は多角化す るのか とい う多角化の 目的 ,そ して小売企業が多角化を通 じて どの よ うな方向に向か いつつあるのか とい う多角化の方向性 については多 くを語 らないとい う点である。小売企業の多角化を分析す るためには,なぜ こ れ ほ ど多様 な事業分野 に多角化す るのかを検討 しなければな らない。

多角化小売企業 における事業定義

1970

年代 には じまった小売企業の多角化 は,本業であ る小売業を大 き く越 え て広範な事業分野 にわた って推進 されて いる。前述 の小売企業多角化の分析枠 組 は,多角化の目的 と方向性 の分析 には不十分なモデルである。小売企業の多 角化を考察す るさいに ヨ リ重要な視角 は,なぜ小売企業 は多角化す るのか とい う多角化の目的 と その方向性を 明 らか に す る ことである。 ノ J 、 売企業多角化の

「なぜ」 とい う問題設定 に対す る有効な回答 は,事業定義の観点か ら検討す る ことによって与 え られ るD

一般 に事業定義 は , 「われわれの事業 は何か」 という企業の事業額域の設定 にかかわ る 問題である

13)0 Abell‑Hammond(1979)

および

Abell(1980)

によれ ば, 事業 は, 顧客層 , 顧客機能 , 技術の

3

次元か ら構成 され る。顧客

13)

事業定義は,全社レベル,事業レベル,およびプログラム・レベルの複数のVベ ルで理解されるが,小売企業の多角化を分析するさいには, ヨリ上位のグルー プ ・Vベルでの事業定義を考える必要が あるO事業定義のレベルについては,

D.F.Abel

l

(1980),Defs'ning theBusiness:TheStarling Pointof SZrategicPlanning,PrenticeHa

l l( 石井淳蔵訳

(1984),

『 事業の定義一戦 略計画策走の出発点‑』千倉書房。 );石井淳蔵

(1983)

, 「 戦略計画の出発点と しての事業定義

『 同志社商学』第

34

巻第

5

,7799

ぺ‑i yを参照せよ。また事 業定義を対象市場範囲にかかわらせた概念に戦略 ドメインがある。戦略 ドメイン については,嶋口充輝

(1984),

『 戦略的マーケテイングの論理』誠文堂新光社,

224233

ぺ‑L l;嶋口充輝 ・石井淳蔵

(1987),

『 現代マーケテイング』有斐閣,

189208

ぺ‑i y:野中郁次郎

(1985)

, 「ドメインの設定

,石井淳蔵 ・奥村昭博 ・ 加護野忠男 ・野中郁次郎

,

『 経営戦略論』有斐閣

,17145

ぺ‑8 7を参照せよ。

42

(13)

小売企業多角化と事業定義 層 ,顧客機能 ,技術 はそれぞれ, 対象 は誰か とい う次元

(who)

, 満たされて いるニーズは何か という次元

(what)

,顧客ニーズが どのように満た されてい るのか という次元

(how)である14)

。 この

3

次元 に したが って , 事業は 「あ る顧客層 に対す るある機能充足のためのある技術の応用」 というかたちで定義 され ることにな る

15)

. / ト売企業多角化に関連づけて 事業定義を 考える場合 , 進出事業分野 ,すなわちどのよ うな業種 に事業分野が広が って いるかが問題 と なる。 この点に注 目す ると,小売企業 における事業定義の次元 は次のように解 釈す ることができよう。 まず顧客層 は,特定の業種 によって小売企業が訴求 し

ようとす る顧客セグメン トに対応す る。顧客機能 は,特定の業種 によって小売 企業が充足 しようとす る顧客ニーズであるO技術は,ヨ リ広 く顧客ニーズを満 たすための手段 と して捉えると,特定の顧客層 と特定の顧客機能に対 して どの ような業種を通 じて訴求す るか とい う点 にかかわ るものである。 したが って小 売企業における事業定義 は , 「ある顧客 セグメン トに対す るある顧客ニーズ充 足のためのある業種の展開」 と定式化す ることができよう。

小売企業における事業を,顧客セグメン ト,顧客ニーズ,および業種か ら定 義できるとすれば,多角化に関 して ここで検討すべきことは次の 2 点である。

第 1は,小売企業は これ らの次元の うちどの次元を中心に事業を定義す るの が好 ま しいのか とい う点である

この点について事業定義 は多 くの要因に依存 し,絶対的な次元が存在す るわけではないが ,少な くとも顧客層あるいは顧客 ニーズか らの事業定義の有効性は示唆 されて きた。 た とえば

Drucker (1954)

は,企業 にとって最適な事業定義は顧客が決定す るものであ り,市場における 顧客の立場か ら事業を眺めることに よっては じめて得 られ ると述べており

16)

,

Levitt(1960)

もまた.顧客中心の事業定義が望 ま しい ことを指摘 している

】7)

0

14)D.F・Abelland J.S. Hammond (1979),StrategicMarketPlanning

,

prentice‑Ha

l l( 片岡一郎 ・古川公成 ・滝沢茂 ・嶋口充輝 ・和田克夫訳

(1982)

,

『 戦略市場計画』 ダイヤモン ド社。 );

D.F,Abe

l l

(1980)

,

oP.cit.

( 前掲訳書)

15)D.F.Abe

l l

(1980),oP.cit.

( 前掲訳書

,1823,222226

ぺ‑S yo )

16)P.F.Drucker(1954),ThePracticeofManagement,Harper&Brothers Publishers.

( 現代研究全訳

(1965)

,『 現代の経営 上』 ダイヤモ ン ド

札 67168

ぺ‑ 汐。 )

17)T. Le vit

t(

1960)

,

I.Marketing Myopia

.

=Haruard Business ReZ)lew

,

July‑Aug・,pp.45‑56.

( 土岐坤訳

(1982), 「

マ‑ケティング近視眼」 『ダ イヤ

モン ド・‑‑バー ド・ビ汐ネス

』 3‑4

月号

,1卜29

ぺ‑ L y。 )

(14)

28

巻 第 1号

とりわ け,消費者に もっとも近接 した位置 にある小売企業 にとって ,顧客中心 の事業定義 ,す なわ ち顧客層 と顧客ニーズか ら事業を定義す ることが有効 とな ろ う1 8 )O っま り, 行為主体であ る小売企業の 業種か らよ りも行為対象である 顧客か らの事業定義が ヨ リ望 ま しく,顧客 に もとづ く事業定義 は業種 にもとづ

くそれに優先すべ きである。

2は,小売企業の事業定義 は環境変化 にどのよ うに適応 させ るべ きか とい

う点である。 ある小売企業 にとってのある期間での事業定義は,環境の変化 と ともに最適ではな くなる。 したが って ,環境が変化す るとともに企業の事業定 義 もまた経時的 に適応 させ る必要が生 じる1 9 )

0 Abell(1980)

は,事業定義の 変更 に影響す る基本的要因 と して ,顧客の購買行動 ,必要資源 ,コス ト行動 , および会社の 独 自能力の 4 点を 指摘 している

20)

。 小売企業の事業 は 顧客次元 か ら定義す ることが ヨ リ望ま しいとい うことか らすれば, これ らのなかで もっ とも重要な要因は,顧客 の購買行動である。小売企業 にとって もっとも重要な 環境要素である顧客の購買行動の変化 は,小売企業の行動に直接的な影響をお よぼ し,顧客の購買行動が どのよ うに変化 し,それに対 して どのよ うに対処す べ きか とい う問題は,小売企業 にとって最大の戦略的課題 とな る。

先 にみたよ うな一見す ると総花的な大規模小売企業の積極的な事業展開 は, こう した事業定義の再編 と密接 に関連 している。図

2は,多角化小売企業 の事

業定義を業種 ,顧客ニ‑ズ,および顧客 セグメン トの

3

次元か ら仮設的に示 し た ものであ る. 事業分野が きわ めて 広範E E l に わた って いる ダイエ‑ ・グル ー プ,セゾ ン ・グループな どの先端的 な企業 グル‑プの事業定義 は これ と同水準 にあ り,ニチイ ・マ イカル ・グループ もこれ に近づきつつあるo

ところで ,大規模小売企業 は実際 にどのよ うな事業定義を行 って いるのであ ろ うかO ダイエ‑ ・グル‑プとセゾ ン ・グル ‑プを ケースと してみてみ よ う。

大規模小売企業は

1980

年代は じめに急激 な 業績不振 に陥 り, それ までの店 舗大規模化 と 多店舗展開 による 量的拡大依存型戦略の 大幅な変更を 強い られ

18)中内(199

1 )においても, 同様の指摘が なされているO ( 中内潤

(199

1 )

,

『 小

売流通企業の戦略デザイン』プレL yデント社。 )

19)石井 (1983)紘,これを事業定義の条件適合性とよんでいるo(

石井淳蔵

(1983)

, 前掲論文,9

0

べ‑㌔. )

20)D.F.Abe

l l

(1980),oP.cii.(

前掲訳書,2

32241

ぺ‑L yo )

44

(15)

小売企業多角化 と事 業定 義

2

多角化小売 企業 グルー プの事 業定義 ( 仮設例) 小売

金融 ・保険 信販 ・ク L /L yッ ト

証券 リース ・レンタル 通信 サー ビス 情報処理サー ビス 情報提供 サー ビス 運輸 ・物 流サー ビス デベ ロッパー 人材派遣 自動車販売 種 自動車修理 サー ビス 不動産販売 住宅サー ビス 教育 ・文化 旅行

ス ポー ツ

ホテル 映画 ・演劇 劇 場 結婚紹介

商品購入 資産形成 ・運用 金融取 引 資産形成 ・運用

使用 通信 情報処 理 情報提供

輸 送

商業施設開発 人材 移動 ・娯楽

自動車 のメ インテナ ンス

住宅購入 ズ

住宅のメ インテナ ンス 教育 ・娯楽

娯楽

健康 ・娯楽 宿泊 ・娯楽 娯楽 娯楽

結婚

消費者 企業

顧 客 セグメ ン ト

21)

。 この 過 程 で , 従 来 の 事 業 定 義 は 抜 本 的 に見 直 され る こ と に な る。

ダ イエ ー ・グル ー プ は1985 年 に は じま る 「第

2

次 構 造 改 善

3

力年 計 画」 に お い て , グル ー プ を 「総 合 生 活 文 化 情 報 提 供 企 業 集 団 」 と定 義 し,従 来 の 事 業 多 角 化 で 創 出 され て き た グル ー プ の 事 業 分 野 を

4

部 門 に整 理 ・統 合 した

0 「4

セ ク ター ・ビ ジ ョ ン」 の 名 の も と に 行 わ れ た この 組 織 改 革 に よ り , ダ イエ ー .グ ル ー プ の 事 業 分 野 は リテ イル 分 野 (百 貨 店 事 業

,GMS

事 業 , ス ー パ ー マ ー ケ

21

) この点につ いては.た とえば , 中野安

(1979)

, 「 低成長経済 と 巨大 スーパーの 動 向

『季刊経済研究』第

2

巻第

3

, 125

ぺ‑ i 7;同

(198

1 ),

80

年代小売 業再編成 の基本的性格」『 季刊経済研究』第

4

巻第

1

号,

47‑69

ぺ‑ J ;同(1

984a)

,

「巨大小売業に おけ る 物 販休制の整備

『 季刊経済研 究』 第

6

巻第

4

,1632

ぺ ‑ L y;同

(1988)

,

「1980

年代 日本の 巨大小売業

『 季刊 経済研究』 第11 巻第

1

号,1

‑18

ぺ‑ e y.な どを参照せ よ0

(16)

第2

8

巻 第 1号

ッ ト事業 ,デ ィスカウン ト・ス トア事業 ,コンビニエ ンス ・ス トア事業 ,ダイ レク ト・マーケテ ィング事業 , 専門店事業), サー ビス分野 (フー ド・サ‑ ビ ス事業 , サ‑ ビス事業), フ ァイナ ンス分野,およびデベ ロッノヾ‑分野の

4

部 門か ら構成 され る ことにな ったo この

4

セ クター ・ビジ ョンに ついて, 中内 潤 ・ダイエ‑代表取締役副社長 は次のよ うに述べてい る . 「タテ割 りが整備で きた といって も,それだけではグループ としてのダイナ ミズムを発揮す ること はで きない。 シナジー効果をあげるためには,いか に ヨコ割 りの仕組みを作 り 上 げてい くかが ポイン トにな る。物販 と非物販が個 々バ ラバ ラに事業展開を行

うのではな く,その もて る力を活発 に交流 させて い く。 そのなかか ら,われわ れのお客様のニーズにあ った ものを生み出 して いきたい . 2 2 )」

一方 ,セゾ ン ・グループは

1970

年の 「 西武流通 グループ」 の成立 によ り,西 武百貨店 ,西友 ス トアー ( 覗,西友),西武化学工業 ( 現 ,朝 日工業),西武都 市開発 ( 覗 ,西洋環境開発) の

4

基幹会社体制 とな り,グループの事業を 「 市 民産業」 と定義 した。 その後 ,事業分野の拡大 とともに

85

年 にグループの名称 を 「 西武セゾ ン ・グループ」 に変更 し,事業定義を 「 総合生活産業」 と し,冒 貨店の西武百貨店 ,量販店の西友 ,製造加工の朝 日工業 ,不動産 ・観光 の西洋 環境開発 , クレジッ ト・フ ァイナ ンスの西武 クレジッ ト ( 現 , クレデ ィ ・セゾ ン),外食 サー ビスの レス トラン西武 ( 覗 ,西洋 7‑ ド・システムズ),航空励 流 の朝 日航洋,保険の西武 オール ・ステー ト生命保険 ( 覗 ,セゾ ン生命保険) か らなる

8

基幹会社体制 に移行 した. そ して

90

年 にはグループの名称を 「セゾ ン ・グル‑プ」 に変更 し,さらに

91

年には,小売 ,ホテル ・レジャー ,デベ ロ ッパー, 外食, 金融 , その他の

6

グルー プ体制 にグルー プの 再編 を行 って い る。堤清二 ・セゾ ン ・グルー プ代表 (当時) は,次のよ うに述べている 。 「 経 済社会 の成熟化が進み ,激 しく変化す るなかでは,企業の単一樺能の成果だけ では十分な対応ができな くな って いる。 そ こで ,グルー プの企業 の多様 な機能 と,企業間の連携 プレーを柔軟な発想で組み合わせてい くことが成果を高 めて い くことにな る

。 23)

ダイエ‑ ・グル ー プの 「 総合生活文化情報提供企業集団」 やセゾ ン ・グルー

22)林薫 (1989),

『ビッグス トアの挑戦』商業界

,79

ぺ‑汐。

23)

麻生国男

(199

1 )

,

『 セゾン・グ) E , ‑プのすべて」日本実業出版社

,28

ぺ‑i y 。

(17)

小売企業多角化と事業定義 プの 「 生活総合産業」 な どにみ られ るよ うに, これ らの企業 グルー プの事業定 義 把は,顧客 の さまざまなニー ズにグルー プ各企業が個別的に対応 しなが ら, グルー プ全体で これ を吸収 しよ うとい う明確な姿勢が反映 されて いるo

Lか しここで注意 しなけれ ばな らないのは, これ ら企業 グルー プの事業定義 変更 の時期 と事業多角化 の開始時期 とが必ず しも明確 に対応 して お らず ,む し ろ,実際 の事業多角化 は事業 の再定義 に先行 して いる ことであ る。 これ はと く にダイエー ・グルー プに当て はまる。 ダ イエー ・グルー プにおいて は

,1985

年 に 「 総合生活文化情報提供企業集団」 とい う明示的な事業定義の変更を行 う以 前か ら,すで にその事業分野 は広範 にわた って いた。 この ことは逆 にいえば, 小売企業 の事業展開を方 向づけ る明確な事業定義が行われないままに多角化が 推進 され ,確固 と した資源配分 のルールが存在 しなか った ことを意味す る。近 年 における既存多角化事業を前提 と した理念後づけ型 あるいは事実先行型 の事 業定義 は, これ までの多角化路線 を再検討す る一方で,将来の事業展開 に一定 の方向づ けを与 える ことによって資源配分 のルール を確立 しよ うとい う動 きの 現れ といえる。

このよ うな小売企業 の事後的な事業定義変更 を うながす 直接の契機 とな った のが ,消費者の変化であ る。 その もっとも本質的な変化 は , 「 単 に生産者か ら 供給 され るものを受動的 に消費す るのではな く,安全性 や精神的 ・文化的価値 を も重視 しつつよ り主体性 を もって 自 らの生活を豊か に しよ うとす る

24)

」 生 活者への移行であ った。小売企業 は こう した消費者の変化 を捉え,生活者 と し ての顧客が何を求 めて いるか ,そのニーズを満たすためにはどのよ うな事業 を 展開すべ きであ るか について視点転換 を行 った。生活者 と して顧客を捉 えると き,そ こにはさまざまな生活 シー ンが想定 され る。 それ はたとえば,外食であ り, レジ ャーであ り,カル チ ャー ・ス ク‑ルであ り,健康 であ り,家計管理で ある. こうした消費者の変化 に対 して小売企業 はグル‑ プ全体 と して顧客 セ グ メ ン トと顧客ニーズか ら事業 を ヨ リ広 く定義 し,それを通 じて顧客 のあ らゆ る ニーズに対応す るための資源配分 の枠組 を設定 したのであ る2 5 )0

24)

通商産業省産業政策局 ・中小企業庁編

(1984), 『80

年代の流通産業 ビL yヨン』

通商産業局

, 5

ぺ‑i y o

25)

この点については,あわせて中内

(199

1 ),前掲書,1

54‑170

ぺ‑i yを参照せよ0

(18)

第2

8

巻 第 1号

小売企業多角化が 「 総花的」 といわれ るのは,実は このよ うな事業定義が理 念後づけ型あるいは事実先行型であることによる.一見す ると総花的な大規模 小売企業 の積極的な多角化 は,それ に先立 って明確な事業定義がな されないま まに進行 し,事業定義の変更は事後的であ った。 その結果,小売企業の多角化 は確固 と した資源配分のルールを欠 き,その成功 とと もに多 くの失歓を重 ねる ことになった。1

980

年代 に入 って従来の多角化事業を再検討 し,さ らに将来的 な事業展開, したが って資源配分のルール を方向づける枠組 と して明示的な事 業定義が必要 とされ るよ うになったのである。 しか し, このよ うな事実先行型 の事業定義の存在 は,決 して小売企業の多角化行動 に事業定義の観点か らの説 明が有効ではないとい うことを意味す るものではない. 問題 は,事業多角化 に さい して明確 に事業が定義 され ることな く,多角化が推進 されて きた ことにあ る。 その結果 として ,小売企業 は多 くの失敗 を経験す ることになった。 そ うで あるか らこそ,資源配分のルールを決定す る戦略策定 の出発点 と しての事業定 義が焦点 となるので ある。

いずれ に して も,なぜ小売企業が多角化す るのか という問題は

,

われわれ

の事業 は何か」 とい う事業の目的 と方向性 を明 らかにす る事業定義の観点か ら 考察す ることが有効であろ うo

V

おわ りに

1980

年代にはいって, 大規模小売企業の 多角イ ヒ が急速 に 進展 している。 金 融 ・保険 ,外食,信販 ・クレジ ッ ト,旅行 ,デベ ロッパーをは じめと して .小 売企業の活動は小売業の枠組を大 き く越 え,広範な事業分野 にわたって いる。

なぜ小売企業 は多角化す るのか とい う問題 につ いて ,本稿では事業定義 に注 目 しなが ら検討 した。

小売企業多角化は,明示的 にせ よ暗黙的 にせ よ,事業定義の変更が背景 にあ

る。 その さいに重要な契機 になったのが,消費者の変化で あった。小売企業 は

こうした変化 に対 して ,顧客 を生活者 として捉 えなおす とい う視点転換 によっ

て対応 しよ うと したCすなわ ち,顧客を生活者 と して捉えた ときに生 じるさま

ざまな生活 シー ンのなか に市場機会を探求す る ことか ら従来の多角化戦略を再

考 し,明示的な事業定義の変更 を行 った。近年 ,小売企業 の 「 総合生活文化産

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