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小売企業多角化の分析視角

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『岡山商大論叢』第28巻第3 1992年12月発行

《論 説≫

小売企業多角化の分析視角

近 藤 公 彦

じ め

総合 スーパー,百貨店 をは じめ とす る大規模小売企業 の多角化が進展 してい るO大規模小売企業 の多角化 の特徴 は,単 にその速度が速 いだけで な く,事業 額域が きわめて広範 にわた っていることである。 ダイエー ・グループやセ ゾ ン・

グルー プにみ られ るように, その事業額域 は小売業 の枠 を大 き く越 え,金融 ・ 保険,外食, レジ ャーをは じめ と してデベ ロ ッパ‑事業 にまで拡大 している。

こう した一連 の多角化行動 は複合小売業 (conglomerchant)1)に向けた事業展 開を示す ものであ る。 しか し, このような現象面での小売企業多角化が急速 に

1)R.Tillman(1971),"RiseofConglomerchant,"Hww dBusinessReznleu), Nov.lD∝.,pp.44‑51.

2)小売企業多角化について議論 した文献としては,中野安(1984b),「巨大小 売業のサ‑ビス分野への進出」 『季刊経済研究』第7巻第2,1‑19ペ‑

ジ ;D.KneeandD.Walters(1985),StrategyinRetailing:Theoryand Practice,PhilipAllanPublishers(小西滋人 ・武内成 ・上埜進訳(1989),

戦略小売経営』同文舘) ;田村正妃(1987),複合化戦略」, El本経済新聞 社編 『新 ・産業論』 日本経済新聞社,370‑373ページ ;向山雅夫(1988),

総合スーパーの動向と流通多角化」 『マーケテイング .ジャーナル』第7 巻第4,19‑26ページ ;森彰(1989),小売企業多角化と業態複合」,流通 政策研究所編 『流通新世紀』 日本経済新聞社,199‑214ページ ;中内潤 (1991),『小売流通企業の戦略デザイン』プレジデン ト社 ;近藤公彦(1992),

小売企業多角化と事業定義」 『岡山商大論叢』第28巻第1号,31‑52ペー ジ,などがあげられる。また製造企業を対象とした多角化論の レビューは, V.RamanujanandP.Varadarajan(1989),"ResearchonCorporate Diversification:A Synthesis,"strategicManagementJoumal,Vol.10, No.6,pp.523‑551,に詳 しい。

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図 1 小売企業多角化の分析視角

進んでいるにもかかわ らず,それを包括的に分析 しうるような理論枠組は依然 として存在 しない。その分析枠組の開発の遅れは,明示的にせよ暗示的にせよ 製造企業を前提 とした多角化理論の膨大な研究蓄積 とは好対照をな している2)0

本稿の 目的は,小売企業の多角化行動を分析す るさいの視角を提供す ること である。小売企業多角化を分析す るためには, どのような視角が設定され るべ きであるのか,そのなかで どのような概念あるいは問題に着 目すべきであるの かを問うことが課題である。その意味で本稿で示され る視角は,体系的な分析 枠組を構築す るための準備作業 となる。なお以下で展開され る議論は,図 1に 要約 され るとお りである。

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小売企業多角化の分析視角 29

Ⅰ 多 角 化 の 要 因

小売企業を多角化へ と促す要因にはさまざまなものが考え られ るが, ここで はそれ を外部環境の変化 にもとづ く外的要因 と内部環境 の変化 に起因す る内的 要因に分けて検討す ることに しよう。

外的要因

1の外的要因は,1973年 に制定 された大規模小売店舗法 (以下,大店法 と いう)による出店規制である。同法の制定 によ ってもっとも大 きな影響 を受け たのが,総合スーパーである。 これ にともな って多店舗化 と店舗大型化 を通 じ て急成長を遂げてきた総合スーパ‑は,従来の量的拡大依存型の成長戦略の変 更を余儀 な くされ るにいた った。 このような外部環境の変化 に対 して総合 スー パーが とった戦略変更は, 2つの方 向で示 された。 1つは内部志 向的な物販体 制の整備,す なわ ち仕入 ・在庫管理の合理化,労働 コス トの抑制,および財務 内容の改善 を柱 と したいわ ゆる減量経営 である3)。そ してもう1つの方 向が外 部志 向的な戦略変更,つ まり既存 の物販事業を越えたサー ビス事業への多角化 であ った4)。小売企業 は長期的 な成長 を確保す る手段 をサー ビス分野へ の展開 に求めてその事業基盤の確立に努め,サー ビス事業は新たなプロフ ィッ ト・セ

ンターと しての役割を担 うことが要請 されたのである。

2の外的要 因は,消費のサー ビス化である5).1973年 の石油危機 を契機 と して,わが国は60年代 を通 じた高度成長経済か ら低成長経済へ と移行 した。そ れ にともなって耐久消費財を中 L,と した物財への支 出が相対的に低下 し,外食

3)この点についてはたとえば,中野安(1979),「低成長経済と巨大スーパーの 動向」 『季刊経済研究』第2巻第3号,125ペ‑ジ ;同(1981),「80年代小 売業再編成の基本的性格」 『季刊経済研究』第4巻第1,47‑69ページ ; 同(1984a),「巨大小売業における物販体制の整備」 『季刊経済研究』第6 巻第4号,16‑32ページ ;同(1988),「1980年代 日本の巨大小売業」 『季刊 経済研究』第11巻第1号,1‑18ページ,を参照せよ。

4)田村正妃(1987),前掲論文。

5)中野安(1984b),前掲論文 ;田村正妃(1987),前掲論文。

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や レジャーなどのサ‑ ビス財への支出が高まるという消費構造の大 きな変化が 生 まれた6)o こう した消費のサー ビス化 もまた,物販業 と しての小売企業に戦 略パ ターンの変更をせ まる大きな契機 となった。 ミクロ的にみれば, このこと は大規模小売企業の本業である物販事業にもとづ く成長に一定の限界がみえは じめたことを意味する一方で,有望 な事業分野 となりつつあるサー ビス業への 進出を意図させ ることになる。小売業が消費者にもっとも近い位置にあること ともあいまって,サー ビス事業の展開は消費構造の変化に対応 して市場楼会を 的確 に捉え,店舗の集客力を高めるためにも緊急の課題であ った。

3の外的要因は,多角化のモデル ・ケースの存在である7)。わが国の大規 模小売企業が志向 している複合小売業 に向けた事業展開は,決 してモデルなき 多角化ではない。それを早い時期か ら推進 してきたのは,アメ リカのシアーズ・

ローバ ック社 (SearsRoebuck and Co.)である。同社の多角化事業の展開 は,わが国の大規模小売企業が本格的な多角化に着手 した1970年代初めよりも はるかに早 く8),金融 ・保険,デベ ロ ッパーをは じめと して多様 なサー ビス事 業に確固と した地位を築 きあげ,常に先進的な小売企業の 1つのモデルであり 続けてきたO とくにダイエー ・グループやセゾン ・グループは,同社 との事業 提携を模索 しなが ら多角化のモデル ・ケースとして明確に意識 し,複合小売企 業グル‑プの将来像を同社に求めてきたといえる。

内的要因

内的要因と してまずあげ られ るのが,未利用資源 の有効利用である9)。企業 はその 日常活動を通 じて,人的資源,物的資源,資金的資源,あるいは情報的

6)近年における消費構造の変化についてはたとえば,小沢雅子(1985),

階層消費」の時代』日本経済新聞社,を参照せよ。

7)中野安(1984b),前掲論文 ;田村正妃(1987),前掲論文.

8)たとえばシアーズ ・ローバック社の金融事業への進出は1930年代初め,また デベロッパー事業への参入は1960年代初めである。同社の事業展開について は,鳥羽欽一郎(1969),『シア‑ズ ・ローバック』東洋経済新報社;D.R, Katz(1987),TheBigStore:InsidetheCrisisandRevolutionatSears, VikingPenguin(堤清二監訳(1989),『シアーズの革命』ダイヤモンド社), を参照せよ。

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小売企業多角化の分析視角 31

資源など,さまざまな経営資源において既存事業だけでは利用 しきれ ない余剰 資源,す なわ ちスラ ック資源10)を蓄積 している。 このスラ ック資源を他の事業 分野に低 コス トであるいはコス トな しに転用す ることができれば,多大な投資 を行 うことなく新規事業に参入す ることは ヨリ容易 となるだろう。 このとき, 未利用資源は事業多角化の大きな源泉となる。

小売企業多角化においてとくに重要 なスラ ック資源は,物的資源における店 舗内の遊休空間および人的資源における余剰人員であるo一般に小売企業のサー ビス事業への多角化は,小売店舗内の遊休空間を外食 レス トランや金融 ・レジャー などのサー ビス ・カウンターに転用す ることによって行われ るが, これはサー ビス事業 に転用可能 な小売店舗の共通生産要素11)と しての性格を利用 したもの であるO また大店法による出店規制にともなって総合スーパーの成長率が鈍化 す るなかで,役員ポス トの相対的な不足が生 じた12)。彼 らのモチベーシ ョンを 維持す るための受け皿 と して実施 されたのがサー ビス事業への進出であ り,そ

こでのポス ト確保である。

2の内的要因は, 目標ギ ャップである。 目標ギャップは,企業が達成 しよ うとす る収益 目標あるいは成長 目標 などが実際の達成水準とどの程度禾離 して いるかを表 したものである。 目標の希求水準と実際の達成水準との間に負のギャッ プが存在す るとき,そのギ ャップは負の 目標ギ ャップとよばれ る。企業は従来

9)E.Penrose(1959),TheThewyoftheGroudhoftheFl'Tm,BasilBlackwell. (末松玄六訳(1980),『会社成長の理論』 ダイヤモ ン ド社。)

10)J.Galbraith(1973),Desigm'ngComplexOrganizatiLm,Addison‑Wesley (梅津祐 良訳(1980),『横断組織 の設計』 ダイヤモ ン ド社) ;ditto(1977), C柏anizationDesign,Addison‑Wesley.

ll)向山(1988)は,小売企業多角化の独自性を共通生産要素としての店舗とそれ にともなう範囲の経済に求めているO(向山雅夫(1988),前掲論文。)またこ れらの概念については,a.C.PanzarandR.D.Willig(1981),"Economies ofScope,"Am Lcan丘momicJaLmal,Vol.71,No.2,pp.268‑272;D.

J.Te∝e(1981),αEconomie50fScopeandtheScopeoftheEnterprise, JcuryuZlofEcmu)micBeham‑w andC>91mizaiim,Vol.1,No.3,pp.223‑

247;A.Wolinsky(1986),"TheNatureofCompetitionandtheScope ofFirms,"jTaLmalofIdustrialEconomics,Vol,76,No.3,pp.247‑259, を参照せよ。

12)田村正妃(1987),前掲論文。

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の戦略パ ター ンでは負の 目標ギ ャップを埋めることができないと知覚すれば, その行動 コースを変更す ることになるだろゲ3).大規模小売企業, とくに総合 スーパ‑における負の目標ギ ャップ発生の大きな契機 となったのが,大店法に よる出店規制であ った。 これ によ って多店舗化 と店舗大型化 という量的拡大 依存型の 成長戦略を とってきた 総合スーパーは,その抜本的な戦略変更を余 儀 なくされた。 こうした負の 目標ギ ャップを埋める方策として設定されたのが , サー ビス分野への多角化であるO

3の内的要因としては,企業規模をあげることができる。企業規模が多角 化の内的要因となるのは,企業を経営資源の総体 とみ な した場合に,企業規模 それ 自体が量的および質的な経営資源蓄黄の指標 となるか らである。企業規模 が大きいほど経営資源の蓄積量は多 くなる。 このことは,第1に蓄積 された経 営資源にサー ビス事業への多角化に転用可能 な未利用資源が含 まれている可能 性が高 くなること,第2にサー ビス事業に割 り当て られ る投資能力が大き くな ることを意味 している。 したが って他の条件を一定 とすれば,企業規模が大き いほどサー ビス事業への多角化の程度は高 くなるだろう14)0

この企業規模に関連 して第4の内的要因と して指摘 され るのが,内部市場の 存在である。大規模小売企業の内部市場は顧客および多角化小売 グループとい 2つの要素か らなる. このうち小売企業多角化の内的要因と してサー ビス事 業への参入に貢献す る内部市場は,顧客である15)。店舗に来店 した顧客の購買 ニ‑ズは商品の購入だけではないO ここに物販に加えてサー ビス事業を付加す れば,単に商品だけでなく外食,金融 ・保険, レジャーなど顧客の多様 なニ‑

13)R.M .Cyertand a.G.March(1963),A BehaviwalThewyofikeFirm, Prentice‑Hall.(松田武彦 ・井上恒夫訳(1967),『企業の行動理論』 ダイヤ モンド社。)

14)もっともGort(1960)によれば,企業規模と多角化度の間には有意な関係 が存在しないことが指摘されているOもしそうであるとすれば,企業規模が 大きいほど多角化の程度は大きいという仮説は支持されないか,あるいは支 持されてるとしても弱いかもしれない。(M .Gor上(1960),Diversification and/niegraiim inAw icanIhdusiry,PrincetonUniversity.)

15)田村(1987)は,多角化小売企業クループにおける内部市場の存在を多角化小 売企業の競争優位の源泉として指摘している。(田村正妃(1987),前掲論文。)

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小売企業多角化の分析視角 33

ズに対応 し,結果 と して店舗忠誠度 を高め集客力をあげ ることができる。店舗 顧客はその多様 なニーズを可能 なか ぎ り店舗 内で吸収 しようとす る小売企業 に と って,徹底 して利用すべ き内部市場であ る。

Ⅰ 多 角 化 モ ー ド

以上のような多角化 の外的 ・内的要 因を契機 と して,小売企業 はサー ビス事 業へ の多角化 を推進す る。 しか し小売企業が実際 に こう した 内的 ・外的要因を どのように解釈 し,それ を どのような多角化 の意思決定 に結 びっけ るかは一様 では な く, い くっかのモー ドに分けて考 え る必要が ある。多角化 モー ドとは, 小売企業 多角化 の外的 ・内的要 因を多角化 の実際の意思決定 に結 びっけ る過程 であ り,次 の3つ に類型化す ることがで きる16)0

1の多角化 モー ドは,問題発生型多角化で あるO この タイプの多角化 は外 的要因 と してあげた ような外部環境 の変化, と くに大店法制定 にともなう出店 規制 お よび消費のサ ー ビス化 を直接 的 な要 因 と して生 じる。Knight (1967) によれば,外部環境 の変化 によ って企業 の業績が低下す る場合, これ に対す る 不満足が生 じ,その解決策 と して製品市場 のイ ノベーシ ョン,す なわ ち多角化 が行われ る17)。 このモー ドの特徴 は,企業 を多角化へ と向かわせ るような外部 環境の変化があ っては じめて多角化 の意思決定が行われ ることである。 したが っ て多角化 に必要 な経営資源が十分 に蓄積 され ないままに実行 され ることが多 く, その意味で失敗 の危険性 をは らんで いるか,あるいは学習のための ヨ リ長期的 な経験が必要であるといえ る。

先 に述べた ように,大店法 による出店規制 は多店舗化 と店舗大型化 を通 じて 急成長 してきた総合 ス‑パーに対 して,その基本戦略 の変更 を迫 るものであ っ た。 こう した量的拡大依存型 の成長 に大 きな制約 を課せ られた総合 スーパ ‑に

16)吉原英樹 ・佐久間昭光 ・伊丹敬之 ・加護野忠男(1984),『日本企業の多角化 戦略』 日本経済新聞社,79‑82ページ。

17)K.E.Knight(1967),"A DescriptiveModelofthelntra‑Firm Innovation Process,"JomwlofBLSiness,Vol.40,No.4,pp.478‑496.

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とって,成長を確保す るための新たな方策が求め られた。その1つの方向が従 来の物販事業に代わるサー ビス事業への多角化である。一方で消費構造は安定 成長経済への移行にともなってサ‑ ビス化が進んでお り,サー ビス事業の展開 は消費のサ‑ ビス化にも対応す るものであ った。一般的にいえば,サ‑ ビス事 業への本格的な多角化は総合スーパーが早 く1970年代初めであるのに対 し,百 貨店は1980年代に入 ってか らと約10年遅れている。 このことはある意味で,紘 合スーパ‑の多角化が大店法制定にともなう出店規制を直接的な契機 と して進 め られたのに対 し,百貨店のそれは消費のサー ビス化 という比較的ゆっくりと

した環境変化に対応 したことを物語 っているのかも しれない。

2の多角化モー ドは資源適応型多角化 とよばれ,企業内部に蓄積 された未 利用資源を有効に活用 しようとする動機か ら生まれる。 このタイプの多角化は, そのもてる豊かな経営資源を新規事業に投入す ることによって推進されるスラッ ク ・イノベーシ ョン型の多角化18)である. この多角化モー ドは,未利用資源の 有効利用を 目的 としているために,問題発生型多角化 に比べて多角化のための 経営資源が存在 していること,その意思決定が外部の環境変化による多角化 と は直接的な関連をもたないために, ヨリ効果的なタイ ミングで実施できること を特徴 と している。

小売企業多角化において,もっとも重要 な経営資源は小売店舗である。経営 資源 と しての小売店舗は単に物販だけではなく,その空間をサー ビス事業 に転 用できる共通生産要素の性格をもっている。資源 と しての小売店舗にかぎって いえば,小売企業は店舗内に外食 レス トランや さまざまなサー ビスを提供す る サー ビス ・カウンターを併設す ることによって,比較的容易にサー ビス事業に 参入す ることができる。 したが って,たとえば外食 レス トランや旅行代理店 な どのサー ビス専門店を新たに独立店舗 と して設置 して顧客を吸引す る必要はな く,店舗顧客をサー ビス事業の標的と して設定 しうるために, ヨリ低 コス トで の参入が可能であるとともに当初か らある程度の需要を見込む ことができる。

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また人的資源 も小売企業多角化に一定の役割を果た している。とくに大店法 による出店規制にともなって成長に大 きな制約を受けた総合スーパーでは,役 員ポス トの相対的な不足が生 じた。小売企業多角化はこうした人的資源 におけ るスラ ック ・イノベーシ ョンでもある。顧客サー ビスという点で共通す る物販 の経営 ノウハ ウをサー ビス業におけるそれに転用す ることで,人的資源の有効 利用をはかろうとす るものであるいえる19)0

3の多角化モー ドは,企業者塑多角化である。企業者塑多角化は,長期的 な視野にた って企業の将来 と環境の変化を分析 し,有望 な事業分野に進出 しよ うとす るきわめて企業家精神にとんだ動棟を背景としている。 したが って外部 環境に大きな変化が生 じる以前に多角化を行 う点で問題発生型多角化 とは異な り,また多角化に必要 な経営資源を意図的に蓄積 してい くという点で資源適応 型の多角化 とは異なる。

このタイプの多角化にもっともよく当てはまるのが,現在の多角化の先端企 業 グループであるダイエー ・グループとセゾン ・グル‑プである。 ダイエー ・

グループの中内功,セゾン ・グループの堤清二は,いずれ も強烈 な個性 と リー ダーシ ップをもって短期間にわが国を代表す る企業 グル‑プに育てあげた企業 家である20)。 これ らの企業 グル‑プは 自らの事業をどのように考え,その事業 領域をどのように定義す るかという彼 らの長期的なビジ ョンの投影でもある。

さらにそこにはシア‑ズ ・ローバ ック社 という多角化のモデル ・ケ‑スがあっ た。複合小売企業 と しての同社の存在は,中内や堤にとって小売企業のあるべ き姿を映 し出す ものである。その具体化が小売業を総合生活産業 と捉え,顧客

19)もっとも,サービス業の事業運営には小売業と異なった独自の経営ノウハウ が必要であるという問題も考慮 しなければならない。この点については, J.P.KellyandW.R.George(1982),"StrategicManagementIssuesfor the Retailing of Services,"Joumalof Retailing,Vol.58,No.2, pp.26‑43,を参照せよ。

20)川(1992a,19921))は,こうした小売企業の成長を経営者用役に求めて説 明している。(川進(1992a),小売商の企業家行動と成長機会国民経 済雑誌』第165巻第1,71‑94ページ ;同(1992b),流通企業成長と経営 神戸大学経営学部研究年報』第38,225‑257ページO)

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の多様 なニーズにグループと して対応できるような広範 なサー ビス事業の展開 である。 ダイエー ・グループやセゾン ・グル‑プにみ られ るようなダイナ ミッ クな事業展開は,企業家と しての彼 らの理念を忠実に反映 した多角化であると いえる。

ところで以上みてきたような問題発生型,資源適応型,企業者型の3つの多 角化モー ドは必ず しも完全に相互背反的なものではない。実際の小売企業多角 化にはこうしたモー ドが混在 しているだろう. したが って多角化モー ドの類型 は,ある特定の企業のある期間の多角化においてどのモー ドが支配的であった か,それはどのような要因にもとづ くものであるかについて問わなければなら ない。

ある戦略の遂行には,それを有効かつ効率的に支える組織を構築 しなければ ならない。小売企業多角化に関 していえば,多角化小売企業はどのような組織 構造をとっているのか,それが多角化戦略とどのように結びついているのか, そ して組織 と戦略 との相互適合性をはかるうえで, どのようなコン トロール方 法を採用 しているのか,といった点を検討す る必要がある。

多角化小売企業 グループにおける組織構造で注 目しなければならないのは, 次の 2点である。

1は,個 々の事業領域を担当す る部門が本社組織の事業部ではなく,制度 上独立 した組織を構成 している点である。 グループを構成す る個 々の企業はい わゆる分社型組織をなしてお り,それにもとづいて一定の分社型経営が行われ ている。分社塾経営とは,「既存の会社の全部または一部を分割 し,あるいは 新規事業部門を新会社 とし, これ らの親会社,子会社および事実上子会社に等 しい関連会社の関係を有す る複数の会社が,それぞれの会社の事業領域の独立 採算と事業責任を強化す る分権経営方式21)」をいう。分社塑組織 の核心は事業

21)遠藤泰弘(1988),分社経営の実際』日本経済新聞社,29ペ‑ジo

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小売企業多角化の分析視角 37

の独立採算制 と意思決定の分権化 にあ り,多角化小売企業 グループはこの分社 型組織 を採用す ることによ って個 々の企業の事業領域 を確定 し,そ こにある程 度の意思決定の 自律性を与えている。組織論的にいえば, これは企業 グループ・

レベルにおける組織の水平分化,す なわ ち自己充足的 な情報処理単位への分化 である。 自己充足的情報処理単位 とは, 「一定のサブタスクに関連す る問題 の 発見,情報の探求,組織 内伝達,意思決定を他 の単位 とは独立に行 いうるだけ の資源 を保有す る情報処理 の単位22)」 をさす。多角化小売企業 グループを構成 す る各企業は, こう したサブタスクについて一定の 自律的 な意思決定を行 う自 己充足的情報処理単位 と して位置づけ られ る23)0

しか し第2に,だた単 に意思決定権 限を各企業 に委譲す るだけでは, グルー プ全体 の戦略の方向性 を欠き, グループ全体 にわた る求心力を失いかね ない。

グル‑プ企業間相互のシナジー効果 を最大限に引き出すためには, グループ全 体 の戦略 と資源配分 を方 向づけ る統括検閲 を設置す る必要が ある24). これは企 業 グループ ・レベルにおける垂直分化,す なわ ち戦略的決定のための情報処理 単位 と業務的決定のための情報処理単位への分化 にかかわ るものである25)。 グ ル‑プ戦略統括機関は戦略的決定のための情報処理単位 に, グループ構成企業 は業務的決定のための情報処理単位 にそれぞれ対応 している。 グループ構成企 業が,業務 目標,生産量,価格,生産 ・在庫計画,マーケテ ィング戦略 に関す る業務的決定において責任をもつ一方,グループ戦略統括機関は,製品市場ポー トフ ォリオの変更,資源配分 ・取得 に関す る戦略的決定機関 と しての役割 を担

22)加護野忠男(1980),経営組織の環境適応』白桃書房,202ページ。

23)また戦略論的にいえば, グループ構成企業は戦略事業単位 (strategic businessunit)でもある。すなわち個々の企業は特定の市場を標的とし, そこで明確な競争企業をもち,自律的に戦略を策定する独立した利益センター である。(嶋口充輝 ・石井淳蔵(1987),『現代マーケテイング』有斐閣,58ペー ジ。)

24)M.E.Poter(1985),ComPelltlWAdwntage,FreePress(土岐坤 ・中辻寓治・

小野寺武夫訳(1985),『競争慶位の戦略』ダイヤモンド社 431‑496ページ);

田村正妃(1987),前掲論文。また多角化小売企業グループにおいてこうした 戦略統括機関の役割を担っているのは,たとえばダイエー ・グループでは経 営戦略会議,セゾン・グループではセゾン・コーポレーションである。

25)加護野忠男(1980),前掲書,203ページ。

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う26)。 こう した グ)i,‑ プ構成企業 とグループ戦略統括機関 との間に意思決定領 域を分割す ることによ って, ヨリ有効かつ効率的 な戦略の遂行 と資源の配分を 実現す ることがで きる。

ところで, グループ戦略統括機関は多事業 にわた るグループ構成企業 を どの ようにコン トロールす るのか。その方法は大 きく2つに分けることができる27)

1つは, グループ構成企業の行動を監視 し,それが一定の行動基準を満た して いるかを評価す ることによって構成企業の行動を コン トロールす る行動 コン ト ロ‑ルである。他の1つは,構成企業が生み出 した成果 にもとづいてその構成 企業 をコン トロールす るアウ トプ ッ ト・コン トロールである。個 々の企業の業 務 目標,生産量,価格,生産 ・在庫計画,マ‑ケテ ィング戦略 に関す る業務的 決定 にまでグループ戦略統括楼関が介入す る場合 は行動 コン トローJI/であ り, そ こでは業務的決定 についての 自律性がある程度失われ ることになる。 これ に 対 して構成企業の業務的決定 に本社機構が介入せず,その売上高利益率,営業 利益成長率,あるいはマーケ ッ ト・シ ェア成長率 な どの諸 目標が どの程度達成 され ているかにもとづいて構成企業 を コン トロールす る場合はアウ トプ ッ ト・

コン トロールであ り, ここでは構成企業の 自律的意思決定が保証 され ることに なる。 も しグループ全体の統一的 な戦略の方 向性 と効率的 な資源配分が重視 さ れ るならば,行動 コン トロールが採用 され るであろう。逆 に個 々の企業 レベル における部分最適が志向され るな らば,アウ トプ ッ ト・コン トロールが行われ るであろう。

もちろん こう した コン トロールの2類型は純粋型であ って,現実 には両者が 混在 しているかも しれ ない。 したが って問題 は,多角化小売企業 グループがい

26)遠藤(1988)は,ヨリ具体的なグ)i,‑プ戦略統括機関の役割として,企業グルー プ全体としての トップ ・マネジメント,統合 ・参謀本部,持株会社,不動産 管理会社,人材開発センター,金融株能,製品 ・技術開発,情報センタ‑, 管理間接業務の一括代行処理,および購買 ・物流管理をあげている。 (遠藤 (1988),前掲書,120‑131ペ‑ジO)

27)W.G.Ouchi(1977),"TheRelationshipbetweenOrganizationalStructure andOrganizationControl,"AdministrativeScie7iCeQua71erly,Vol.22, No.4,pp.95‑113.

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小売企業多角化の分析視角 39

ずれの コン トロ‑ル法 を採用 しているか とい う2分法では な く, いずれ の コン トロール法 に ヨ リ重点 を置 いているか を明 らか にす ることであ る。 これ を通 じ て多角化 に関す るグルー プの戦略姿勢 を分析 し,それが グルー プ全体 の成果 に どのように影響 しているか を示す ことがで きるだろう。

多角化小売企業 は物販 と しての小売業 の枠 を越 えて広範 な分野 のサ‑ ビス事 業 を展 開 してお り,そのサ‑ ビス事業 は単 に物販 に付随す る顧客 サー ビスとい う位置づけを脱 して,小売業 と並列 におかれ る事業 にまで成長 している。 こう した事業領域 の多様性 は,多角化小売企業がその グルー プ全体 にわた る事業領 域 を どのように捉 えているか,す なわ ちグルー プ全体 の事業 を どのように定義 す るか とい う問題 と密接 にかかわ ってい る28)。 それ は事業定義が グルー プ全体 にわた る戦略 ドメイ ン (strategicdomain)29)と資源配分 ルールの確定 に大 き な役割 を果たす か らである。

小売企業 におけ る事業定義 は, 3つ の次元か ら捉 える ことがで き る30)。第1 は,誰 を標的 とす るか という whoの次元 に関す る顧客セ グメ ン トである。顧 客セ グメ ン トは消費者 と企業 に大別 され,た とえば金融 サー ビス業の場合,潤

28)一般的な事業定義については,D.F,Abelland∫.S.HammoJld(1979), StrategicMwketPlanning,Prentice‑Hall(片岡一郎 ・古川公成 ・滝沢茂・

嶋口充輝 ・和田充夫訳(1982),戦略市場計画』 ダイヤモン ド社) ;D.F.

Abell(1980),DefiningtheBusiness:TheStarimgPointofSiraieglC Plannmg,Prentice‑Hall(石井淳蔵訳(1984),事業の定義一戦略計画策定 の出発点‑』千倉書房) ;石井淳蔵(1983),「戦略計画の出発点としての事 業定義 『同志社商学』第34巻第5,77‑99ページ ;嶋口充輝 ・石井淳蔵 (1987),『現代マーケテイング』有斐閣,を参照せよ。また小売企業におけ る事業定義問題を論 じたものと して,D.KneeandD.Walters(1985), op.cil(小西滋人 ・武内成 ・上埜進訳(1989),前掲書) ;中内潤(1991),前 掲吾 ;近藤公彦(1992),前掲論文,がある。

29)戦略 ドメインについては,嶋口充輝(1984),『戦略的マーケテイングの論理』

誠文堂新光社,2241233ページ ;野中郁次郎(1985),「ドメインの設定」,石 井淳蔵 ・奥村昭博 ・加護野忠男 ・野中郁次郎,経営戦略論』有斐閣,17‑4 5ページ ;嶋口充輝 ・石井淳蔵(1987),前掲論文,を参照せよ。

30)近藤公彦(1992),前掲論文。

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費者を対象とす る消費者金融と企業向けの融資業務 などを行 う企業金融に分け られ る。さらにこれに加えて,消費者 と企業それぞれのセグメン トもヨリ細か いセグメン トに分解す ることができるだろう。第2は,顧客の どのようなニー ズを充足す るか という whatにかかわ る顧客ニーズである。た とえば金融サ ー ビス業が充足す る顧客ニーズは資産の形成 ・運用であ り,またスポーツ事業 が充足す るニーズは 健康 ・娯楽である。第3は,特定の顧客セグメ ン トの特 定 の顧 客 ニーズに対 して どの ような手段 を も って訴求す るか とい う how の次元についての業種であるo消費者セグメン トの資産形成 ・運用ニーズに対 す る訴求手段 と しての金融サ‑ ビス業がその例である。小売企業多角化におけ る事業定義はこれ ら3つの次元か ら, 「ある顧客セグメン トに対す るある顧客 ニーズ充足のためのある業種の展開」 と定式化す ることができる。

顧客セグメン ト,顧客ニーズ,および業種の3次元において事業定義が異な れば, どの事業に参入すべきか, どの事業に資源を重点的に配分すべきかに関 して,企業 グループ間で一定の違いが生 じるであろう。たとえば先端的な多角 化小売企業 グループであるダイエー ・グループやセゾン ・グループは,それぞ れ 「総合生活文化情報提案企業集団」,生活総合産業」といったきわめて広範 な事業定義を行 っている31)o この広範 な事業定義を反映 してダイエー ・グル‑

プやセゾン ・グループは,外食,金融,旋行,ホテル,スポーツ,さらにはデ ベロ ッパー事業 など多様 なサー ビス事業に多角化 している0‑万 ダイエ‑,セ ゾン両グループに対 して2番手集団を形成す るニチイ ・マイカル ・グループの 事業定義は 「ヤ ング ・マイン ド・カジュアル ・ライフスタイル (YoungMind CasualLifestyle)」 とやや狭 く, 両 グループとは差別化 した ドメイ ンを設定

している32)O このような事業定義の相違 は, ダイエー ・グループやセゾン ・グ ループの事業定義がさまざまな側面で生 じる多様 なニーズに多様 な業種を配す

31)ダイエー ・グループおよびセゾン・グループの事業展開については,たとえ ば丸山高行(1987),『ダイエー解剖』ぼる出版 ;麻生国夫(1991),セゾン・

グループのすべて』日本実業出版社,を参照せよ。

32)ニチイ ・マイカル ・グループの事業展開については,山崎聖文(1988),『ニ チイMYCALグループの挑戦』ダイヤモンド社,を参照せよ。

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ることによってグループ全体で対応 していこうという姿勢を反映 しているのに 対 して,ニチイ ・マイカル ・グループでは ヨリ限 られたニーズとヨリ限 られた 事業分野を自己の ドメインとす るという意図が映 し出されていることを示 して いる。 こうした事業定義の相違によって, どの事業に参入すべきか, どの事業 に重点的に資源を配分すべ きかに関 して小売企業の多角化行動は一定の枠組を 与え られることになる。

さ らに事業定 義 の相違 は,小 売企業 にお け る戦略 グルー プ (strategic group)を識別す る基準 となるか も しれ ない。小売業 の総合生活産業化33) が指摘され,その動向は多角化 と密接 に関連 しているが, これに向けた小売企 業の行動は一様ではない。小売事業を本業 と して,あ くまでそれに立脚 しよう とす る企業 も存在す る。総合生活産業をどのように解釈 し実際の多角化行動に 結びっけてい くかは,それぞれの小売企業が どのように事業を定義 しどのよう な ドメインを設定す るかに依存 している。 こう した事業定義の仕方に応 じて多 角化の範囲が異なるとすれば,事業定義は非多角化小売企業をも含む小売企業 における戦略 グループを識別す る基準 となりうるだろう。

多角化戦略の成果

小売企業多角化の成果 に関 してまず留意 しなければならないのは,その指標 にかかわ る問題であるO小売企業多角化の成果は どのような指標で評価され る のか。現在の多 くの多角化小売企業は,各事業分野において独立 した事業主体 を配す る分社型経営組織をとっている。 このことは単に各構成企業の成果だけ でなく, グループ ・レベルにおける成果をも考慮す る必要があることを意味 し ている。マ‑ケテ ィング成果についていえば,たとえば個 々の企業 レベルにお ける売上高利益率,営業利益成長率,マーケ ッ ト・シェア成長率 とともに, グ ループ売上高成長率,グループ営業利益成長率なども指標 として取 り上げる必 要がある。さ らに実際に多角化小売企業が どのような基準でグル‑プ構成企業

33)小売企業の総合生活産業化への動きについては,日経流通新聞編(1989),

小売業 攻めの時代』日本経済新聞社,を参照せよ。

図 1 小売企業多角化の分析視角 進んでいるにもかかわ らず,それを包括的に分析 しうるような理論枠組は依然 として存在 しない。その分析枠組の開発の遅れは,明示的にせよ暗示的にせよ 製造企業を前提 とした多角化理論の膨大な研究蓄積 とは好対照をな している2 ) 0 本稿の 目的は,小売企業の多角化行動を分析す るさいの視角を提供す ること である。小売企業多角化を分析す るためには, どのような視角が設定され るべ きであるのか,そのなかで どのような概念あるいは問題に着 目すべきであるの かを問うこと

参照

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