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憲法保障機関としてのカナダ法務長官

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(1)

憲法保障機関としてのカナダ法務長官

−付随的違憲審査制の補完?

富 井 幸 雄

目次 1 はじめに

H カナダの法務長官−制度的考察

 ー コモンローにおける法務長官ーイングランド法務長官の継承

  ω イングランドの法務長官       

  ② カナダへ.の継承

  ③ アメリカの法務長官との比較

 2 カナダの法務長官−現行法制度

  ω 二元システム︵旨巴゜・百8日︶の背景と意義

憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六−二︶ =二三

(2)

  ② カナダ連邦政府における法務省と法務長官

  ③ 州の法務長官

 3 わが国との比較−法務省と内閣法制局

皿 合憲性を統制する法務長官

 1 問題の所在

 2 法務長官による法令審査

 3 憲法訴訟に関わる法務長官

  ω 違憲性を主張する法務長官−憲法訴訟の原告適格

  ② 憲法訴訟での法務長官のジレンマ

  ③ 所見

 4 法務長官の憲法訴訟への訴訟参加︵一目一①﹃<①ロ臣O目︶

  ω 制定法による権能

  ② 法務長官への通知の法的性格

  ③ 必要的訴訟参加      ・

  ④ 所見         ︑

 5 小括

W 一九八二年カナダ人権憲章のインパクト

 ー 憲章スクリーニング⁝機能の意義 一三四

(3)

 2 憲章スクリーニングの局面

  ω 憲章スクリーニングの浸透

  ② 憲章スクリーニングの確立の認識

 3 法務長官の位置付け1閣僚として︑憲法保障機関として

V むすび

1 はじめに

 付随的違憲審査制にあっては︑通例︑違憲な状態があっても︑これによって具体的な権利や利益の侵害がなけれ

ば︑その状態は司法過程で除去されることはない︒政治過程でこれを発見し︑取り除いてもらう僥倖を期待するしか

ない︒政権側の人間が現行法令の違憲無効を主張することはまず考えられない︒立憲主義が違憲な国家行為の存在を

否定する︵日本国憲法九八条参照︶のであるなら︑司法審査によってのみこれを果たさせようと期するのは︑必ずし

も十分ではない︒

 付随的違憲審査制では︑具体的な事件があって︑訴訟法領域で訴訟を提起する資格が認められたときでしか︑違憲

性を訴えることができない︒﹁誰にも出訴権がないがゆえにその権限行使が現実化しえないという領域があってもお       ︵1︶ かしくはない﹂のである︒これが憲法上問題とされないままであってよいわけはない︒立憲主義は︑違憲の国家行為

が存在するのを許さないからである︒

 付随的違憲審査制にあって事件性がなくとも︑つまり︑私権保障型の司法審査制の枠外でも︑法務長官に︑違憲状

憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六ー二︶ 二二五

(4)

一三六

態の除去を提起する機能が認められている国がある︒カナダである︒カナダでは︑制定法が個別的利益を保護してい

るとき︑これを侵害された者は当然訴えを提起できる︵①×8音8巴肩&已合8巳を︒そうした個別的利益でない公益に

あっては︑こうした原告適格を持つ者は見出し難いため︑公益の擁護者としての法務長官︵≧8日①ぺ○①目①邑9日︒

能が認められているから︑違憲または違法な状態が放置されたままとなることは少なくなる︒事件性がなくとも法務       

σ。

゚ぼ合き鳥日①宅σ宮巨︒﹃6の﹇︶に︑訴えを提起させる資格を認めている︒法務長官に救済のための訴訟を提起する権

長官には原告適格が認められているのである︒公益に関する訴訟で法務長官がイニシアティブをとりうるのは︑イン

グランド以来の法務長官の伝統である︒

 これには︑法務長官に対するコモンロー特有の位置付けがある︒カナダの法務長官は︑コモンローの法務長官であ

る︒カナダ政府及び各州の法務長官は︑国王の第一位の法務官であり︑公訴を提起することに加えて︑政府の訴訟代

理人となったり︑法サービスを提供したり︑公益の擁護者として働く︒法務長官は憲法の優越性︑法の支配︑公共政

策の交差をはかり︑議会を通して憲法や制定法︑コモンローで付与された権限の行使について︑公民に対し責めを負

︵3︶

・つ︒

 一方で︑法務長官は時の政府の閣僚である︒違憲訴訟を提起することは︑自らの政府の行為が違憲であると糾弾す

ることにほかならない︒これを認める権能もさることながら︑むしろ身内を攻撃することになるから︑法務長官のこ

の機能は発揮されないのではないかと詞しがられる︒後にみるように︑カナダでは法務大臣と法務長官は同一人物な

のである︒

 コモンロー諸国の法務長官は︑一般的には公訴権を行使できる職とされる︒カナダに関する限り︑人権保障に対す

る付随的違憲審査制を採り入れた一九八二年憲法制定以後︑法務長官の役割は大きく変わり︑政府の政策形成に大き     −

(5)

        く関与する役割が現出しているのである︒

 本稿は︑カナダの法務長官のこのユニークな役割が︑付随的違憲審査制度でのカナダの立憲主義にどのように機能

しているのかを検討する︒はじめに︑法務長官のこうした特別の地位がイギリス法︑とりわけがイングランド法に起

源を発していることを検証する︒そして︑現行法で法務長官がどのような地位や権限を与えられているかを︑アメリ

カと︑さらに日本の制度と対比させながら︑うきぼりにする︒そのうえで︑法務長官が憲法保障︑特に憲法訴訟でい

かなる機能を果たしているかを検討し︑一九八二年のカナダ人権憲章︵9§島き9§臼亀口已日き力苗庁邑︵以下﹁憲        ハら  章﹂と略︶の維持と発展に積極的な役割を果たしていることを確認する︒常につきまとう問題は︑法務長官は法務大

臣でもあり︑つまり政権の閣僚であって︑立法を擁護すべき政府の人間であるのに︑かかる人物が︑コモンローの伝

統である法務長官11公益擁護者から︑容易に自らの法律家としての力量に基づいて自らの法解釈を展開しうるか︑と       ハ   くに立法の違憲性を主張しうるか︑である︒

 アメリカを含むコモンロー諸国は︑その母国であるイギリス︵ご巳8工民巨oq口o日︶の法務長官制度を採り入れてい

る︒それらには︑国家最高の法務官という地位は共通して見られるものの︑具体的な権限や地位は同一ではない︒本

稿でカナダの法務長官に特化するのは︑憲法保障機構として︑政権からの独立性が︑人権保障規定違反に関する違憲

法令審査権を確立させた憲章以降︑特に認識されるようになっており︑付随的違憲審査制を採用するとともに︑法務

長官の憲法保障機関としての地位を高めていることに着目するからである︒

 本稿は︑カナダの法務長官に関心を有するのであって︑法務長官制度一般を論じるものではない︒かかる研究は必

要であり︑とりわけカナダと同様のコモンローの国であるオーストラリアとの比較研究は不可欠とも言えるであろ

う︒オーストラリアの議論も参考にはするが︑大きくコミットするものではない︒また︑同じ付随審査制をとるわが

憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六−二︶ 一三七

(6)

=二八

国にあって︑カナダの法務長官に相当する憲法保障機関があるかにも注意を払いながら︑カナダの法務長官制度の意

義を検討していきたい︒

H カナダの法務長官−制度的考察

ー コモンローにおける法務長官ーイングランド法務長官の継承

ω イングランドの法務長官

 カナダ︵連邦政府︶の法務長官はイングランドの法務長官を継承する︒現在︑イギリスの法務長官は国王の首席法

務官としての地位を暖めている︒ただ︑豊oヨ①∨とは︑古くは一般的な用語で︑申し立て人︵巳︒邑Φ﹃︶とか不出頭正        ヱ 当理由申立て人︵①︒︒︒・oぎ︒﹃︶などと︑併用された︒しだいに呂o日Φぺとは︑本人が出廷できないときの代理人として

使用されるようになる︒そうした場合に個別に令状でもって任じる者とされ︑当初︵十五世紀ごろまで︶はプロフエツ

ショナルな法律の素養は要求されていなかった︒国王は︑自らの法廷での代理人として国王法務官︵≧8日①言゜︒㌘−

。q Wを令状で任じていた︒ベロットによれば︑最初の法務長官︵呂o∋6∨1︒︒①器邑︶は︑一三九八年にノフォーク公爵

が自らの流刑の乗船を証言する四人の法務長官を任じた証書の中に見ら紮・+三世紀から+四世紀にかけて・国王

は事例ごとに国王法務官を任命し︑そのうちの何人かは地方で国王の利益を代表した︒エドワード一世などの法務官

は︑国王上級弁護人︵民目︒︒.︒・︒り旦①芦︷°・︶とされて︑何人かの法務官の上位にある者と区別された︒エドワード四世の

とき︑最初の保安長官︵OりO一﹇O一︷O﹃︵﹈O口O﹃①一︶が任じられ︑実際には法務官補佐として働いた︒一四七二年︑ハッスィー

(7)

      す  ︵宅自巨①日︼声已o力66︶がイングランドの最初の法務長官に任じられ︑この地位は単独で保持されることが確定した︒法

務長官にはもともと法律の素養を必要とされず︑現代のように国王唯一の法務顧問として︑イギリス法苗日界の頭と       エ なっているのは︑歴史的な偶然︵#邑oユ︒巴8否庄o旦だとされている︒

 イングランドの法務長官は制定法に基づいておかれるのではない︒首相の勧告に基づいて国王が任命する︒閣僚で       ハ   はないが︑閣議に要請があれば出席し︑求められた事項について法的観点から内閣に助言を行う︒カナダは内閣の一        ロ 員としての法務長官制度をとり︑制定法によって明確に位置付けた︒この点はアメリカと同じである︒ただ︑アメリ

カは大統領制と厳格な権力分立制をとる︒イングランドの法務長官は︑大法官︵﹇oa9§8 o﹃︶や国務長官︵︒り8﹃甲

§∨昆゜り§①︶を通して議会に近づくことができる︒英米の法務長官の違いは︑立法府や立法過程に直接関わるかど

うかであり・アメリカにはこれがないので曇・もうひとつの大きな違いは︑アメリヵの法務長官は︑連邦の刑事司

法執行制度に直接の責任を持つのに対して︑イングランドの法務長官はこの分野で一切責任を持たず︑別に内務長官

︵=o目①6力︒o器§︶の責任とされている︒アメリヵの法務長官が行政的権限を広汎に有しているのにもかかわらず︑        ぜ イングランドはまったくといってよいほど行政的ではないことである︒

 イギリスの法務長官の重要な権限は︑公訴権である︒イギリスは日本のように国家訴追主義︵刑事訴訟法二四七       ま 条︶をとらず︑スコットランドを除いて私人が刑事訴追を行う建前をとっていた︒﹁一九世紀初頭から︑イギリス法

に具体化されているその変則な状況に繰り返し注意が払われてきた︒そこでは︑責任ある公的な検察官は存在せず︑       び 刑法の執行は被害をうけた当事者の感情の強さやあるいは気まぐれ︵昌目︶に委ねられていた﹂︒法務長官が憲法と       び の関係で焦点となる問題は︑その公訴権の濫用である︒すなわち︑公訴権を行使しなかったり︑政治的配慮から抑制

したりするため︑公訴官︵﹈﹁①已く︹U窪00﹃O吟勺已ぴ一﹂○勺﹃Oo力00已口05︶に対する指揮権の範囲などが︑憲法との関係で問題と

憲法保障⁝機関としてのカナダ法務長官      ︵都法四十六ー二︶ 一三九

(8)

一四〇

されるのである︒

② カナダへの継承

 カナダは︑連邦制を除いて︑イギリスの憲法原理を継承して議会主権と責任内閣制をとった︒カナダの法務長官

は︑イングランド型をとっているといえる︒イングランドの法務長官制度は︑コモンウエルス諸国に継承されたが︑

これが内閣︵国×8巨ぎ百︒芦︒巳に必須の職であるかは︑各国の憲法上の決定に基づくのであって︑独立した職をお       ぜ いて公訴権を設定する国もある︒ただ︑イングランドでは公訴は私人が行うのが一般であるのに対して︑アッパー・

カナダ︵⊂唱2P§合⁚オンタリオ州に相当︶と沿海州︵忌畳己日9⁚ノヴァスコシア︑ニュー・ブランズウィック︑

プリンス.エドワード島の三州のこと︶の法務長官は︑スコットランドの法務長官型をとり︑公訴権を認められてい

︵19︶

た︒

 カナダは︑一八六七年に成文憲法︵正確には英領北米法︵b目ユ募庁Z︒尋﹀日豊8>・︷︶であるが︑一九八二年に制定

された憲法で一八六七年憲法と呼ばれるようになる︵一九八二年憲法六〇条︶︶を制定し︑連邦制度と議院内閣制を

原理とする立憲君主制を樹立した︒執行権の淵源はイギリス国王にあるとし︵一八六七年憲法七条︶︑その顧問機関

としてカナダ枢密院︵09①ロ.︒・勺口遷no旨︒自∂﹃0き①9︶が置かれ︑カナダ総督によって任命された枢密院顧問官で

構成される︵一一条︶︒内閣については︑一八六七年憲法も含めカナダ憲法に規定はない︒もっとも︑法務長官とい

う職は一八六七年憲法にすでに規定されている︒すなわち︑オンタリオ州とケベック州政府の内閣は︑州総督︵二〇〒

§芦再O︒<①日自O︒器邑︶が認める者で構成されるとしたうえで︑﹁差し当たりは︑法務長官︑州文書・登録長官︑州

財務長官︑王室土地管理者および農業.公共事業長官︑さらにケベックにあっては︑これらに加えて立法院︵﹇︒︒Q広㌣

(9)

︹オ゜no旨゜邑議長及び法務副長官で構成される﹂としている︵六三条︶︒そして︑両州の立法府が別に法を制定する

まで︑法務長官をはじめ︑これらの職︵ケベックの立法院議長や法務副長官は除く︒ただしケベックの場合︑保安長

官︵0力O一︷0︷一〇h︵︸O白①﹃曽一︶が入る︶はその州の州総督が任命するものとされた︵=二四条︶︒同様に︑法務長官をはじめ

これらの職の権限や責任は︑この憲法が制定されたどき︵一八六七年︶に有していたものを︑州の立法府が法の規定

を設けるまで︑そのまま継承するとされた︵一三五条︶︒

 カナダ法務長官は︑国家警察︵肉Q≦勺︶や矯正︑仮出所などの司法行政も所掌した︒しかし︑一九六六年の法律で

保安長官省に移管された︒これはイギリスの保安長官︵°りo宮﹈§08①邑︶にならったもので︑連邦と︑ノヴァスコシ

ア︑ニュー・ブランズウィック︑オンタリオ︑アルバータ︑ブリティシュ・コロンビア︑ケベックの六州で︑保安長         ︵20︶ 官が警察を管轄する︒ちなみに︑保安長官省は︑二〇〇三年三二月以降︑新たに設置された公共安全緊急事態対処省

︵曽呂o◎り①宮せ芦合団日窪oq⑦白否∨印巷碧o合o°・°・○芦①合︵勺゜り団勺百︶︶に統合されている︒

 法務長官の地位は一八六七年以来︑内閣の頭角たることは変わらず︑今日もこの職は︑連邦と州の両政府にあっ       ︵21︶ て︑より上級の閣僚とみなされている︒カナダの連邦レヴェルでは︑一八六八年の法務省法で法務長官が国王の第一

の法務官としての地位を明確にされて以来︑それは揺るぎがないものとなっている︒州の法務長官にもこの原理はそ

のまま継承されているので︑法務長官の地位を論じるのに連邦の州も含めて一つにして観察しても︑大きな相違はな

  ︵22︶ かろう︒本稿では以下断りのない限り︑連邦の法務長官を指す︒

③ アメリカの法務長官との比較

 コモンローのアメリカ合衆国の法務長官は︑合衆国政府が創設されたと同時に︑一七八九年の司法法︵汀O惹3

憲法保障⁝機関としてのカナダ法務長官      ︵都法四十六ー二︶ 一四一

(10)

一四二

       ︵23︶ ﹀臼︶で設けられた︒最初の法務長官は︑同年にワシントン大統領によって任命されたランドルフ︵団ユ日已巳力③〒

△巳官︶である︒この時法務省は設置されなかったが︑政府の扱う法律問題は増大かつ複雑化していった︒一八四五

年︑ポーク大統領は連邦レヴェルの法務省設置を議会に提案したが︑認められなかった︒しかし︑一八七〇年︑議会

は法務省を設置し︑法務長官は︑大統領の閣僚の一員であり︑法務省︵06喝§∋︒巨o叶旨゜・90︶の主務大臣とされるよ

うになった︒アメリカの法務長官は︑コモンロー国家のそれと同様に︑政府第一の法務官であり︑大統領や議会の法

務顧問である︒さらに︑アメリカ全体の司法制度をつかさどり︑アメリカを被告とする訴訟を担当し監視する職であ

る︒  アメリヵの法務省がイギリスのそれと大きく異なるのは︑警察権の執行である︒アメリカでは︑警察は主に州の管

轄とされる︒限定的な連邦の警察機関はあの連邦捜査局︵国go︼︶である︒アメリカ法務省は九・一一同時多発テロ後

の通称愛国者法︵ご゜り㊥﹀↓田O﹃﹀旦体制の下で︑犯罪者を察知し投獄させる連邦法を執行することから︑アメリカ       ︵24︶ 内外でのテロリストを捕獲しテロを抑止することに力点が移ってきている︒国家の安全保障は法務長官の関心事であ

る︒アシュクロフト法務長官は︑テロの脅威からアメリカを防衛するために法改正を提案した︒アメリカ法務省は国

内の情報収集分析の主務官庁であった︒これも愛国者法で︑国内の治安情報収集の調整機関が法務省から中央情報局         ︵25︶ ︵○一﹀︶に移管された︒

 カナダの警察は︑連邦の中央集権である︒法務省は警察には関与せず︑別途︑保安長官︵ψりO一一6一一〇﹃︵︸6口6﹃①一︶省を設       ︵26︶ 置し︑そこに警察機関︵戸Ω≦勺︶や諜報機関︵カナダ安全保障情報局︵0°り拐︶︶を置いた︒カナダもアメリカの影響         を受けて︑九・一一から二ヶ月後︑カナダ初の包括的反テロ法︵﹀コロー﹃OqOユo◎日﹀臼︶を制定した︒しかし︑法務省

がアメリヵのように力点を移すことはない︒カナダ法務省と法務長官は︑イギリスの伝統を遵守しているといえる︒

(11)

テロ政策では保安長官省が主務官庁となっている︒ちなみに︑アメリカが新たに創設した国土安全保障省︵O唱§日①巨        ︵28︶ 亀国o日6巨巳゜り08巨∨︶に田﹈などを移管したのに符合させるかのように︑カナダも︑二〇〇三年一二月︑新たに公

共安全緊急事態対処省︵勺脇の胃ひ︶を創設させ︑そこに戸0ζ勺や∩シリ拐を統合移管させている︒カナダ法務省が警察の

執行とは切り離されている原則を見ることができる︒

 ちなみに︑わが国の法務省は︑アメリカ型に近いといえる︒すなわち︑犯罪の取締り等の司法警察に関する事項を

管理執行するとともに︑公安調査庁を外局としてもち︵法務省設置法二六条︑二九条︶︑仮釈放や保護観察等の司法

矯正に関する事務をも処理する︒これらはカナダにあっては︑保安長官省︵現在は㊥゜り団㊥○︶の事務であり︑法務省

ではない︒

 なお︑アメリカ連邦政府の法務長官は︑大統領の任命のみならず︑上院司法委員会︵°力9§甘O惹30°日目声︷oo︶

で︑一八人の各三〇分︵一通り終わればさらに三〇分ずつ質問できる︶の審問と︑承認を経なければならない︒そこ

で三分の二以上の賛成がなければ承認されない︒カナダでは法務長官は国王の顧問であり︑総督が任命する︒カナダ

同様アメリカも︑強固な法学のバックグランドが法務長官には必要である︒アメリヵの場合︑これまで一〇人の法務

長官が連邦最高裁判事になり︑テイニー︵男OooO﹃od°一﹃①口6ぺ︶とストーン︵口邑芦恒゜り8田︒︶は最高裁長官となっている︒

2 カナダの法務長官−現行法制度

ω 二元システム︵旨巴︒・ぺ︒・g日︶の背景と意義

 カナダの法務長官の地位は︑カナダ憲法と制定法とコモンローの原理に基づく︒主たる法的基盤は法務省法︵06       ︵29︶ 弓呂日①旨︒叶旨゜・巳①︑﹀臼︶である︒こうした法体系でのカナダの特徴は︑二元システム︵合巴ユ忌Φ゜・︶をとっていること

憲法保障⁝機関としてのカナダ法務長官      ︵都法四十六ー二︶ 一四三

(12)

一四四

である︒同一人物に法務大臣と法務長官を兼任させているのである︒法務長官は連邦政府︵百﹃o≦ロ︶の首席法務官で

あり︑法務大臣は司法制度に関与し政策問題を処理する︒法務副大臣と法務副長官も同様である︒法務大臣と法務長

官を同一人にするのは︑イギリス本国では聞いたことがない︒

 この二元システムは︑法によってというよりも慣習によって形成されたといえる︒一八六七年憲法によってカナダ

政府︵自治領﹈︶o日戸巳o口︶ができるが︑初代首相マクドナルドは法務長官を兼任した︒一八七三年まで続いたこの先

例︑つまり首相の責務を法務大臣と法務長官を任命された者の責務に結びつけたことが︑法務大臣が職務上当然︵6×        ︵30︶ ︒白︒δ︶法務長官を兼ねることを異常と見させなくした︒この慣行は︑法務長官職に付随する特別な職務を負うのに       ︵31︶ ふさわしい資格のある法律家が少なかったことに起因するという︒この法務長官を閣僚のランクの中に入れるという

カナダの制度は︑他のコモンウエルス諸国には見られない︒法務長官と保安長官︵OウO一一〇一一〇﹃︵︸OOO﹃O一︶を内閣にいれる       ︵32︶ ことによってその独立性がぼかされてはならないと考えるのが︑英国憲法理論に適合するからである︒カナダではす        ︵33︶ でに︑一八六八年の法務省設置法で︑法務大臣は職務上当然法務長官であると規定されていた︒

 では︑法務大臣と法務長官でその職と権限はどのように異なるのか︒州の法務長官と法務大臣も連邦と同様︑同一       ︵34︶ の政治家に任じられるものとなっているが︑職務の分別に定型があるわけではない︒連邦の法務省法では︑連邦政府

に法務省が設置され︑法務大臣が統轄することが規定される︵二条一項︶︒そして法務大臣は職務上当然カナダの法

務長官を兼ねるとされる︵同条二項︶︒法務副大臣と法務副長官も同様に規定される︵三条一項二項︶︒法務大臣とし

ては︑総督の公式の法務顧問でありカナダ枢密院の法務官である︵四条︶︒法務長官は︑基本的にイギリス本国の法

務長官の地位と権限を継承するものとされる︵五条︶︒この五条の規定は︑コモンローによる法務長官の地位や権能

もとりこまれることを意味し︑一般に法務長官がコモンローに基づいてそうであるように︑公益を擁護する責務を有

(13)

       ︵35︶ していることを示していると解されている︒

 法務大臣は︑法務長官と同一人物であるが︑政府内にあって憲法保障を担保するとともに監視する機能を果たして

いる︒これは︑一九八二年の憲章以前から認められているものである︒法務省法四条は︑法務大臣を総督の公式の法

務顧問︵冨巴且≦°・6﹃︶とし︑その任務は︑㈲公務の運営が法律に適合しているかを監視する︑㈲州政府の管轄以外

の︑カナダにおける裁判の運営に関連するすべての事柄を監督する︑㈲連邦立法府の法律および州立法府の法律制定

に関して助言を行い︑一般的に︑国王によって大臣に付託された法律に関するすべての事柄について︑国王に助言す

る︑㈲その他︑総督が大臣に付与した任務を遂行する︒この場合の総督は枢密院の中での総督であり︑内閣の助言に

基づいてこの権限を行使する︒同法の原型である一八六八年に制定された法務省設置法︵﹀目﹀臼戸霧層9日㏄日ΦOo

喝§日6臥ぽ言゜・巳6︶では︑法務長官は総督及び内閣の正式法務顧問であって︑公務の適法性を監視し︑連邦司法行政        に関わるすべての事項を監督し︑州立法府の立法に対して助言を行う権限を認めていた︒

 法務長官は︑次の五つの任務を負う︵五条︶︒⑧イングランドの法務長官の権限をカナダに適用される限り引継ぎ︑

いくつかの州の法務長官の権限を一八六七年憲法がそこで実効される時まで行使する︑㈲いくつかの省の長に対し

て︑当該省に関連する法律問題すべてについて助言する︑㈲国璽︵ρ︒讐゜り︒邑のもとでのすべての委任立法の承認

と制定︵゜・9己o目o巨︶の任を負う︑㈲連邦が管轄権を有する事項について︑国王若しくは連邦政府機関が訴訟当事者

となっている訴訟すべてを規制し指揮をする︑㈲その他︑総督が大臣に付与した任務を遂行する︒         このように制定法では︑法務長官︵法務大臣でもある︶は二つの地位を持つと換言することができる︒一つは︑政

治家︵国家議員︶である閣僚としての地位で︑その責務は政府の第一の法律家として法的助言を与えたり︑公訴権を

行使したり︑法廷で政府を弁護したりすることである︒もう一つは︑公益の擁護者としての地位で︑公益や公権︵宅●

憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六ー二︶ 一四五

(14)

一四六

陪ユ︒︒ロ旦に関わる民事訴訟に関して広汎な権限を持つ︒この背景には﹁保護者としての国﹂心ミ§㎏盲ミミ︶の原          理があるという︒また︑オンタリオ州政府は︑これは﹁公益が十分かつ独立して代表されるのを確保する憲法上の責        任として特徴付けられてきたものである﹂としている︒政府の法律家としての地位が強調されるのは法務大臣の場合

であり︑公益の擁護者としての地位が強調されるのは法務長官という印象を持つが︑同一人物であり︑この区別はあ

まり意味がないかもしれない︒法的に厳格な使い分けがなされているようには思われない︒

② カナダ連邦政府における法務省と法務長官       ロ   カナダ法務省は︑三つの主要な任務を有する︒第一に︑身近で効率のよい公平な裁判制度を有し︑公正で法を遵守

するカナダ社会を確保する法務大臣職を支援する︒第二に︑連邦政府や中央省庁や機関に対して︑高度の法的助言や

サービスを行う︒第三に︑権利と自由︑法と憲法の尊重を促進させる︒

 法務長官は連邦が被告となる訴訟すべての遂行の責任を負う︒無論︑長官一人ですべてやるわけではない︒法務省

の法務職︵一署∨⑦﹃の︶は︑カナダ全土と各省庁に広汎かつ横断的に配置されていて︑おもに三つの部署が訴訟を遂行

 た  する︒第一は地方支分部局︵戸ooq日口巴O日8°・︶である︒先住民法などの専門の分課を有し︑カナダのいくつかの都市

にある︒ここがほとんどの訴訟を仕切る︒第二が中央部局︵出o邑昔目o邑であり︑専門法部局に比較的少数の公職

で構成される︒訴訟も担当するが︑一般には政策形成や司法管理行政に追われている︒第三が︑司法局︵﹇①︒q巴゜り︒隅

冨゜・ご昌言︶で︑裁判での弁論や助言をなす法務省の弁護士からなる︒地方支部分局の法務官とたびたび連携する︒

 カナダ法務長官は︑連邦政府が被告となる訴訟の被告適格を持つことと︑刑事事犯に対して公訴を提起する資格を

有する︒共に政府の利害を代表し︑勝訴するように訴訟を運営し遂行していく︒ただし︑すべての刑事事犯をカナダ

(15)

法務長官が公訴するのではない︒刑事法を制定するのは連邦政府の権限である︵一八六七年憲法九一条二六号︶︒一

般法として連邦法である刑法︵○ユ巨口①一〇〇ユO︶がある︒しかし︑この刑事法事犯について連邦法務長官がすべて公訴       ゼ 権を有するのではない︒一八六七年憲法九二条一四号は︑州の権限として刑事裁判権をあげている︒刑法上の公訴は

州の法務長官の責務である︒連邦法務長官の公訴権は︑競争法や国税犯則︑麻薬の密売などの︑刑事法以外の事犯に

ついて有する︒

 このように︑カナダは法務大臣11法務長官の二元システムをとる︒﹁同一の大臣と省が︑カナダがアクセスしやす

い︑効率的で衡平な司法制度をもった正当かつ遵法な社会であることを確証させ︑政府に対して高質の法サービスと

助言を提供し︑省庁の司法代理人となり︑権利と自由︑法︑憲法を尊重することを促進させるために︑働かなければ

なら蕊﹂・もつとも・こうした多元的な機能が利害衝突を生まないとは限らないのである︒

③ 州の法務長官

 カナダの州レベルでの法務長官も連邦の法務長官と同じ役割を果たしている︒これは︑カナダの州もイングランド

の法制度を基本的に踏襲したことに端を発するからといえよう︒州の法務長官職と州法務大臣との同一性を一瞥して

おこう︒  オンタリオ州法務長官は︑同州法務長官省法五条では︑内閣法務官︵﹇ω≦○白︒自昆葺6団×06巨く︒百︒已口︒邑であり︑         同省を統轄するとされる︵a︑b︑c項︶︒イングランドの法務長官及び保安長官︵︒︒oま声§Oo器巨︶に属していた

任務と権限をオンタリオ州に適用される限りにおいて遂行する︵d項︶︒政府に対して立法に関するすべての法問題

に助言を行い︑政府によって付託された法事項についても同様である︵e︑f項︶︒政府の諸機関や諸大臣によって

︑  憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六⊥一︶ 一四七

(16)

一四八

付託された場合も同様である︵9項︶︒さらに︑政府やその諸機関に対する訴訟すべてを統御する︵h項︶︒司法官職

に関するすべての事項を監督するほか︵i項︶︑州法や州総督令によって付与された職務を行う︵・﹂項︶︒

ブリティシニコ・ンビア州では︑同州の法務長官法に捻・オンタリオと同様に・州響の法務官として法務長

官省を統轄する︵一条︶︒任務と権限も同様である︒州総督の正式の法務顧問であり︑内閣の法務員︵厨巴日︒日σ︒﹃︶

として位置付けられる︵二条a項︶︒公的事象が適法であるかを監視し︵b項︶︑連邦以外の司法行政を監督し︵c

項︶︑立法行為や手続について助言を行い︑一般に法務長官に付託された法的事項に関して政府に助言を行い︵d

項︶︑大臣にすべての法律問題に関する助言を行う︵f項︶︒法律や慣例によって︑イングランドの法務長官及び保安

長官︵OりO一一〇一︹O﹃︵︸Φ00﹃曽一︶の職務を引き継ぐ︵e項︶︒州政府の権限の下で発せられるすべての法文書の発効の責めを

負い︵g項︶︑州政府に対する訴訟すべてを遂行する︵i項︶︒その他︑法律や州総督令によって︑与えられた職務を

遂行する︵ー項︶︒アルバータ州は︑政府組織法の一覧で法務長官の設置と任務の根拠規定があり︑ブリティシュ・        ︵46︶ コロンビアとほぼ同じ規定をもうけている︒

 サスカチュワン州とマニトバ州は︑連邦の法務省法と同じ規定振りである︒サスカチュワンでは︑州法務省が州法        ゼ 務長官省を受け継ぐものとして設置される︵三条︶︒そして︑州法務大臣は州法務長官を︑州法務副大臣は州法務副

長官を職務上兼ねる︵六条︶︒州法務大臣は︑⑧内閣︵団×60呂くoひ8口○芭の法務官であり︑㈲公行政が法律に従って

いるかを監視し︑回州の司法行政に関連するすべての事項を監督し︑同州立法府の手続や立法行為について助言を行

い︑総督から付託された法律問題について総督に助言し︑⑧州政府の長に法律問題に関して助言し︑㊦その他︑法律

又は州総督によって課せられた任を負う︵九条︶︒法務長官は︑㈲州総督の公式の法務顧問であり︑㈲イギリスの法

務長官及び訟務長官の任務を受け継ぎ︑州に適用されるかぎりでそれを遂行し︑㈲州政府を訴えるすべての訴訟を処

(17)

理し︑④州の法文書の作成と承認を行い︑㈲その他︑法律又は州総督によって任じられた職務を負う︵一〇条︶︒マ         ニトバの法務省法も同様に規定している︒

 連邦の法務長官と同様︑州の法務長官も憲法訴訟に関与できる︒アルバータ州裁判所は︑司法法︵臼已△一〇①ゴ﹄﹃O>O︷︶

で︑他に訴えが提起されていないにもかかわらず︑立法府の法制定行為の有効性の宣言を求める︑連邦の法務長官又

はアルバータ州の法務大臣及び法務長官の訴えを管轄するとして︑法務長官の違憲立法審査の原告適格を認めてい ︵紗︒また・連邦法務長官が違憲審査に関わる権能として︑州総督による州控訴裁判所︵O°旨゜㌣﹀毛゜巴︶への照会︵8や

o器⇒8︶がなされたとき︑それがアルバータ州法の合憲性に関わっているなら︑連邦法務長官に聴聞の機会が与えら        れることが適当であると判断されるように︑州法務長官に聴聞の通知がなされなければならないとしている︒

3 わが国との比較ー法務省と内閣法制局      

 カナダでは︑国王︵連邦又は州︶に対する訴訟は法務長官︵連邦又は州︶が被告となる︒行政訴訟の事件名の一方

当事者は法務長官ということになる︒法務長官は︑被告適格を有するのであって︑政府に対する訴訟の当事者となる

のである︒

 わが国では︑﹁国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律﹂︵以下﹁権限法﹂という︶に        ハむ より︑﹁国を当事者又は参加人とする訴訟については︑法務大臣が︑国を代表する﹂︵一条︶︒このとき︑所部の職員

でその指定する者に訴訟を行わせることができる︵二条一項︶︒また︑法務大臣が弁護士を訴訟代理人に選任させて

行わせることもできる︵三条︶︒なお行政庁も所部の職員でその指定する者に訴訟を行わせることができる︵五条一

項︶︒ただしこの場合でも︑当該行政庁は法務大臣の指揮を受ける︵六条一項︶︒

憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六−二︶ 一四九

(18)

一五〇

 周知のように︑二〇〇四年に行政事件訴訟法が改正され︑被告適格が処分庁又は裁決庁から︑それらが帰属する行

政主体︑つまり国又は公共団体に整理された︵一.条一項︶︒これをうけて︑権限法五条一項が︑行政庁だけであっ

たものに︑一一条一項の規定による国を被告とする訴訟を当事者または参加人とする訴訟を行わせることができる旨

の改正がなされた︒これは︑被告行政庁を特定する国民の負担を軽減させ︑また︑抗告訴訟から当事者訴訟への変更

を容易にさせ︑同法をより利用しやすく︑わかりやすくするためのものである︒同条六項によって︑当該処分庁又は

裁決庁が裁判上の一切の行為をする権限は維持されたのであり︑行政庁の訴訟遂行権を実質的に変化させたものでは

 ︵52︶ ない︒

 わが国の行政訴訟及び国を当事者とする訴訟に法務大臣が代表となり︑かかる訴訟の実質的責任を法務大臣の下に

一元化させる仕組みは︑訴訟追行を第一次的には行政庁の責任としたうえで法務大臣にこれを指揮監督する権限を認

め︑行政権内部での法律解釈の一義性と処分の統一性を確保させて︑法律による行政を実現しようとするものとされ

︵53︶

る︒行政事件訴訟法の今次改正は︑国民の救済拡大や利用しやすい行政訴訟を目途になされた︒権限法で法務省︵訟

務局︶がこれをどのように運用していくかによっては︑これらの目的を有名無実化してしまうことにならないかの危

   ︵54︶ 慎はある︒

 さて︑わが国の法務省は︑﹁基本法制の維持及び整備︑法秩序の維持︑国民の権利保護︑国の利害に関係のある争

訟の統一的かつ適正な処理並びに出入国の公正な管理を図ること﹂を任務としている︵法務省設置法三条︶︒所掌事

務︵四条︶を見ると︑移民等に関する業務や司法に関連する法律や政策の立案︑執行︑仮出獄︑司法警察に関連する

事務と︑多様である︒カナダ法務省︵州も含む︶がわが国の法務省と異なるのは︑政府全般に対する法的助言やサー

ビスを行う役割をカナダは有していることである︒これは︑カナダ法務省は法律や憲法を尊重する社会を形成する任

(19)

を有していることが明記されていることから︑政府がこれを果たすべく︑監視と調整の任を持っていることによる︒

わが国でこれに類するのは内閣法制局であろう︒カナダには内閣法制局はなく︑法務省がこれを果たしている︒カナ

ダは政府機関に対する憲法及び法律の適合性の調整を︑法務省が行っている︒

 この点では︑カナダ法務長官省に相当する日本の機関は︑内閣法制局であろう︒ただし︑内閣法制局は内閣に置か

れる補助機関であり︵内閣法一二条四項︑内閣法制局設置法一条︶︑行政官庁ではない︒内閣法制局長官は法制局の

事務を統括するものの︑外部に対して独立して意思表示を行うのではない︵内閣法制局設置法二条二項︑七条︶︒法

制審査事務を独立の行政事務として行うのではなく︑内閣の機能を助けるために行うにすぎない︒憲法訴訟に参加す

る当事者能力は当然なく︑その任務は︑法律問題に関して内閣に対し助言を行うにとどまる︵同三条︶︒すなわち︑

﹁閣議に附される法律案︑政令案及び条約案を審査し︑これに意見を附し︑及び所要の修正を加えて︑内閣に上申す

ること﹂︑﹁法律案及び政令案を立案し︑内閣に上申すること﹂︑﹁法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大

臣に対し意見を述べること﹂︑﹁内外及び国際法制並びにその運用に関する調査研究を行うこと﹂︑﹁その他法制一般に

関すること﹂︵同条一号から五号︶を所掌する︒これらを意見事務と審査事務に整理する者もあるが︑閣法はもちろ

ん政令等も︑憲法をはじめ国法体系との整合性が審査され︑①法律にする必要性︑②既存の法体系との整合性︑③表       ま  現の統一性︑④条文配列の論理性︑⑤法文の表現︑が厳格に審査される︒閣議に付される前に︑省庁が立案した法案        ヨ ︵毎年百件を超える︶︑政令︵例年四百件ほど︶︑条約のすべてが内閣法制局で審査される︒

 内閣法制局が︑憲法解釈を行う憲法保障機関として位置付けられることは︑法律上特に意図されたものではない︒        ぼ  しかし︑事実上︑とりわけ憲法九条の解釈をめぐって︑憲法の規範的意味を明確にする機関として君臨し︑有権解釈         を形成してきた︒内閣法制局の意見事務は︑法令の解釈等に関して各省庁間で疑義があったり︑争いがあったりした

憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六ー二︶ 一五一

(20)

一五二

とき︑求めに応じて法律問題について意見を述べる︒これは対世的効力をもたない︒法令の解釈というものは裁判所

によって最終的になされる︒ただし実際には︑﹁少なくとも行政部内においては︑内閣法制局の意見が出されること       ︵59︶ によって︑その解釈が統一されることにな﹂る︒内閣法制局は内閣の補助機関で︑行政権の一部であるから︑立法の

言語的表現など技術的審査にとどまるべきで︑憲法判断を含め法律の実体的問題を判断すべきではないとの批判があ

る︒内閣法制局担当者によれば︑政策問題には立入っておらず︑中立的に憲法等の国法体系との整合性を審査してい

   ︵60︶ るとする︒そうであるからこそ︑内閣法制局の審査は違憲等︑国法体系との整合性に関する攻撃から強固であり︑審        ︵61︶ 査の無謬性と権威を維持しているとも言える︒﹁内閣法制局は︑法律を立案する段階においては︑過去の歴史や現在

の法制度︑憲法との関連といったものなど︑あらゆる視点から検討を加えて︑その法律ができた場合に現在の法制度

と矛盾が生じないようにするという役割を︑また︑法律の枠の中で政令や省令︑通達を策定する段階においては︑そ       ︵62︶ の合理性や適法性を精査するという役割を果たしている﹂︒

 内閣法制局は内閣の機関として︑意図するしないにかかわらず︑実質的に法令等の事前の違憲審査を行っている︒

事件性を要求しない立法過程での事前の審査ということでは︑カナダで制度化されている勧告の制度︵﹃6寂﹃0500︶を        ︵63︶ 髪髭させる︒わが国でも法律によって︑裁判所による違憲審査制での勧告制度は可能であるとする議論がある︒憲法

問題に関する法制局の助言が実質的にカナダの勧告制度に匹敵しうるとまではいかないまでも︑政府が法令の憲法適

合性に配慮するメカニズムを内包していると評することはできるかもしれない︒

 わが国の法務大臣は︑国を当事者とする訴訟に参加し︑必要であるならば憲法問題について意見を述べることがで

きる︒しかし︑法務大臣がこうした憲法解釈を政権から独立して行なうことができるかは疑問である︒これが問題と        ︵64︶ なったり︑カナダのように法務大臣の内閣からの独立性などが問題となることは︑これまでにない︒法務大臣を政府

(21)

第一の法務官と見て︑法律専門家を当てるという慣例も発想もない︒法務大臣の適格性の判断は︑ひとえに内閣総理

大臣の自由な国務大臣任免権︵日本国憲法六八条︶のなかに解消されてしまっている︒法務大臣を法律専門家とみる

者もいな唖・訴訟で自ら国家行為を違憲とする意見を提出することなど考えられない︒行政府が法律を実施している         ことにその法律は合憲であるとの黙示的解釈や判断がすでになされているとみられるのは︑無理もないであろう︒

 なお︑カナダ法務長官︵法務大臣︶の重要な職務として︑公訴の提起がある︒わが国では︑公訴は法務大臣ではな

く検察官が行う︒すなわち︑﹁検察官は︑刑事について︑公訴を行い︑裁判所に法の正当な適用を請求し︑且つ︑裁

判の執行を監督し︑また︑裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは︑裁判所に︑通

知を求め︑又は意見を述べ︑又︑公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う﹂︵検察庁法四条︶︒         これはカナダではまさに法務大臣の職務である︒検察庁法が検察官を公益の代表者と明文で規定している点は︑カナ

ダ法務長官︵大臣︶11公益の擁護者を髪髭させる︒

 わが国では︑この検察官の職務遂行に法務大臣は関与しないのか︒検察官には犯罪捜査というもう一つの重要な職

務がある︒それともども︑検察官の事務に関して︑法務大臣はコ般に指揮監督する﹂︵同法一四条本文︶︒個々の事

件の取調べや処分は︑検事総長のみ指揮することができる︵同条但書︶︒検察庁は国家行政組織法︵八条の三︶上︑

法務省の特別の機関とされ︑主務大臣は法務大臣であるからその統括に服する︒したがって法務大臣は会計や人事な

どの検察行政事務はもちろんのこと︑検察事務にも指揮監督権を有する︒しかし︑一四条は個々の取調べや処分につ

いてはこの指揮監督権を制限し︑検事総長を通してのみ指揮権を行使できるとした︒法務大臣がこれを行使すること

を指揮権発動という︒一方で︑伊藤栄樹氏が言うように︑検察は司法権と深いかかわりを持ち︑その適正な実現に責

任を有し︑検察権が中立妥当に行使されねばならないのであって︑司法権の独立の前提として検察権の政治︵立法や

憲法保障機関としてのカナダ法務長官      ︵都法四十六ー二︶ 一五三

(22)

一五四

          他の行政権︶からの独立が不可欠である︒︑四条はこの観点から制限を設けたのである︒

   わが国の場合︑公訴権も含めて︑司法権の適正な運営は法務大臣︵政治家︶よりもむしろ検察官︵官僚︶に重心を

  置いているようにも読める︒また︑法務大臣は完全な政党政治の枠内のみの人物であると描いているともいえよう︒

  カナダでは公訴権の政党政治的利害からの独立が真剣に議論されるに対して︑わが国では法務大臣の政権との関係や

  独立性などは議論されえない︒その一因がここにもあるように思われる︒法務大臣は政権与党の政治家としかみられ

 ないのである︒

4 小括

 カナダでは︑州︑連邦ともに︑法務長官は︑それぞれの管轄において国王︵政府︶の首席法務官であり︑政府機関

︵省庁︶や立法府の法務顧問であり︑公益の擁護者である︒これは︑イングランドの伝統を継承したことに起因し︑

その後の立憲主義の展開の中で維持されてきた︒この崇高な職である法務長官︵法務大臣でもある︶は︑憲章による

人権保障と付随的違憲審査制度を核とする立憲主義の確立で︑憲法保障機関にまで高められる可能性を持つに至って

いる︒  憲法保障機関としての法務長官の法的枠組を具体的に検討することにしよう︒

(23)

皿 合憲性を統制する法務長官

1 問題の所在

 カナダの法務長官は︑主に二つの権能で憲法保障機能を果たし得るといえる︒第一に︑憲法問題を司法過程にのせ

うることである︒これには次の二つの手法がある︒一つは︑公益擁護者として制定法や国家行為の違憲性を主張する

訴訟を提起することである︒もう一つは︑憲法訴訟に政府として参加して︑また︑政府の訴訟代理人として︑憲法問

題にコミットし得ることである︒第二に︑政府内にあって唯一︑政府提出の法案や総督令等の命令︵°・巨耳o頃︸5巨−

目Φ邑に︑憲法をはじめ国法体系との整合性を審査する権限をもっていることである︒

 執行府によっても憲法保障を担わせていくとのカナダの立憲主義を見ることができる︒これは憲章制定後︑それが

人権の憲法的保障と司法審査制をビルトインしたものであるために︑顕著になっている︒一九八二年憲法︵憲章を内

包する︶はアメリヵのように司法権による憲法保障を強化させた︵二四条︶︒法務長官のコミットは司法審査のよう

に拘束力を持つのではない︒違憲審査というチェックが認められていることには︑司法権によるのと異なり︑根本的

な問題がある︒法務長官は政府の人間であり︑しかも閣僚であって︑国王の顧問でもある︒それが︑政府の行為を憲

法違反であると訴えることができるのか︑何の制約もないのかということである︒

 閣僚であることを重視すれば︑政権に楯突くことになりかねないから︑忠誠の問題が生じるとともに︑内閣︵閣僚︶

の統一性が疑われることになる︒首相の権限としてこうした法務長官︵法務大臣︶を罷免できるかの問題になる︒一     

憲法保障機関としてのカナダ法務長官       ︵都法四十六⊥一︶ 一五五

(24)

一五六

方で︑これまでみたようにコモンローでの法務長官の地位を考えれば︑法への忠実性が遵守され︑中立的立場あるい

は国民よりの公益代表者としての地位から︑むしろ積極的に違憲の行為を排除して行く使命があるといえる︒閣僚で

あるが︑政府の行為を違憲性の観点から攻撃できるという﹁特権﹂を認めるべきということになる︒カナダの法務長

官の憲法保障機能には︑こうしたジレンマがある︒これをどのように考えるべきかを検討しなければなるまい︒

         2 法務長官による法令審査

 法務省法四条b項とc項にしたがって︑カナダの連邦法務大臣は︑司法制度を監督するとともに︑立法過程で立法

に関する助言や諮問に対する答申を行う︒憲章制定前は︑立法についての憲法上の論点は︑行政組織や権限にかかわ

るか︑州と連邦︑あるいは権力分立上の権限の配分に関するかのどちらかであり︑法務長官は政府の政策目的を適切        に執行するための法案を起草した︒それが憲章制定以後︑人権の立憲主義的保障が確立されて︑立法や政策に関して

人権を中心とする憲法問題が相当数出現し︑適憲性の観点から法務長官︵法務大臣︶が法案審査に関与する局面が多

くなってくるのである︒

 議院内閣制をとるカナダは︑政府によって法案が作成され提出されることが多い︒この場合︑内閣は全体として提

出法案に同意することが必要である︒政府の立法活動は主に三つの段階からなる︒第一段階は︑さまざまな省の法案

申出を調整し優先順位をつける︑全政府過程である︒第二段階は︑省でそれぞれ主務機関に応じて法案作成を割り当

てる過程である︒第三段階は︑各省の企画の過程であり︑必要な資源が割り当てられる︒これには一年ほど費やされ

るという︒立法計画が必要であるとの内閣の判断がなければならない︒それがなされると︑当該法案を所轄する省

は︑政策の承認と法案のドラフトのための法務省立法部︵﹇ooq邑呂8°り①合8︶への授権を求める内閣メモ︵ζ①目自芦−

(25)

合日8仔Φ0①●日9︵﹈≦○︶︶を提出することとなる︒省内で大臣によって法案が承認されれば︑法務省立法部は︑枢密

院立法議会計画顧問官︵ピ︒ぬ邑呂8き巳出05①勺一き巳漏\百8自巳︒り①臼9呂90ご冨臣磯Oo巨邑︶に送付するために︑印

刷やコピーを行う︒その後︑下院政府代表︵﹈﹁0①OO﹃O﹃﹇庁O︵︸O<0ゴロ日6目︷一口古庁Φ=O已o力⑦O㌣︹UO日日O目o自︶によって審査される︒

政府の法案は担当大臣によって議会に提出される︒両院でそれぞれ三回の読会と委員会の審理が行われる︒

 法務大臣は︑公的な事象が法律に適合しているかを監視し︑とりわけ憲章適合性には関心を払う︒それには二つの

       ︵71︶ メヵニズムがある︒一つは︑内閣での支援システムである︒憲法問題が法案審査に適切に勘酌されるように︑枢密院

書記官が法務省の支援をうけて内閣支援システム︵日09σ日g︒り毛廿o口︒り∨°︒﹇6日︶を立ち上げている︒その目的は︑法

案が立法化されたとき︑憲法違反で無効とされないようにするとともに︑連邦と州の管轄に関して憲法問題が生じる

のを避けることにある︒ζ○にはこうした点が明確に示されていなければならない︒省に属する法律専門家がかかる

分析をなすとともに︑法務省公法中央行政機関職︵勺昌ま9≦芦巳09胃巴﹀σ︒8°5勺゜口宣8鳥日゜OΦ唱§日︒巨゜﹃旨゜︒

9Φ︶もサポートする︒これは︑憲法問題の特別の専門家を擁し︑詳細な評価を提供する︒

 もう一つは︑政府提出法案の厳格なチェックである︒法案の条文が憲章や連邦法たる権利章典︵o︒巨o﹃家︒︒庁邑に

抵触していないかを判断するためである︒法務大臣は︑問題を見つければ早い段階で下院にその旨を報告するよう︑

要請されている︒これは︑逐条ごとの審査から対外的な趣旨説明等のための論点整理にまで及ぶ︒下院の書記官

︵Ω自丙︶が法案のコピー二部を法務大臣に送付する︒法務省立法部の職員が審査し︑立法顧問主幹︵○巨隅﹇°σq巨昌<①

0859が法務副大臣に代わって︑当該法案を審査したことを証する署名を行う︒       ︵72︶  命令︵﹃①oq已呂o自︶についても︑法務省の命令部︵問①σQ巳豊o自゜り①昆8︶による審査や整理がなされる︒一口に命令

といっても︑命令や規則や委任立法などと分かれる︒どんなカテゴリーかは委任立法法︵︒力§葺o蔓甘︒︒巨日o昌>g︶

憲法保障機関としてのカナダ法務長官      ︵都法四十六ー二︶ 一五七

(26)

一五八

に照らして︑法務省が整理する︒条文作成等は当該行政機関が自らの法律家の補佐を得て作成するが︑法務省の助け

を得ることもある︒

 かくて︑一九八二年の憲章制定以後︑法務省による法案審査は︑憲章の維持発展の観点から重要性を増しつつあ        ︵73︶ る︒わが国の法制局とオーバーラップするところもあり︑事実上法令の憲法審査機関となっているといえる︒ただ︑

法務大臣の法案審査での意見は︑内部的な助言であり︑法的拘束力があるわけではない︒法務長官のそうした助言が     ・

内閣や大臣から拒否されたらどうなるかを考えるには︑やはり政権からの独立性をどのように解するかが明確にされ

なければなるまい︒法務長官は意見を自由に表明できるが︑内閣の一体責任の慣習に従うとする考えや︑公訴裁量権

と同じ独立的立場に立ち得るとするものまであって︑法案審査では自らの法的判断を表明できるとすることには争い       ︑      ︵74︶ がないものの︑この二つの立場もどちらかが憲法に適合していないと即断することもできないといえよう︒

3 憲法訴訟に関わる法務長官

ω 違憲性を主張する法務長官ー憲法訴訟の原告適格

 付随的違憲審査制をとるカナダでは︑民事訴訟や刑事訴訟に付随して︑私人が憲法問題を提起することができる︒

制定法や政府の行為の違憲性の宣言のみを求める訴訟では︑原告適格は制限されるのであって︑当該制定法や国家行

為によって一般の私人とは異なる特別の損害を蒙った者でなければ︑違憲性を訴える原告適格は認められない︒原告        ︵75︶ となるべき個人には︑﹁例外的侵害︵︒×8℃江895唱旦ロ合80︶﹂がなければならないのである︒もっとも︑原告適格に

関して一般的なルールはない︒カナダは︑アメリカと異なり︑厳格な権力分立に司法権が縛られることなく︑機能的

に判断する傾向にある︒個人的な利益といった伝統的な概念に縛られるよりも︑当該訴訟で原告が救済を提供される

(27)

       ︵76︶ 地位にあるかどうかが基準とされるようになっているともいわれる︒

 こうしたなかで︑﹁法務長官は公益の番人︵︒︒⊆碧ユξo㌣旨①宅窪︒芦吟o﹃2︶であり︑法務長官だけが公益を擁護する       ︵77︶ ための訴訟を提起する原告適格を有する﹂とされる︒法務長官が︑違憲性を司法過程に訴えるのは︑自ら職務権限と

して訴えを提起するか︑︑私人の訴訟に法務長官の権威のもとに﹁関連人訴訟︵﹃0一①︷O﹃90︷⌒O旨︶﹂を提起する私人に同意        ︵78︶ を与えるかの︑どちらかでなす︒関連人訴訟は︑私人の原告︵関連人﹃o巨︒﹃︶に﹁関連して﹂法務長官によって提起        ︵79︶ されたことが明言され︑関連人が訴訟費用を供出するなどして︑訴訟を遂行していく︒

 このように︑法務長官は事件性・争訟性の要件を要求されることなく︑職務上当然に憲法訴訟を提起できる︑ある

いは憲法訴訟に参加できる︒この制度は︑コモンロー諸国の伝統であり︑カナダの場合は制定法で確認され確立して       パレンスひバトリァェ いる︒法務長官は︑公益の擁護者であり国王の首席法務官であるから︑喝胃︒自窟ぼ器として公民の権利を執行し保護

する権限が与えられ︑法過程での公民を代表する職務を行うのである︒その結果︑法務長官のみが公権に関する原告       ︵80︶ 適格を有することになる︒法務長官が憲法訴訟に関わるのは︑いまみたように職務上当然︑若しくは関連訴訟人とし

ての同意を得て︑多くは刑事訴訟で法務長官の名を借りて訴える︵災ミ昌§・︶︒関連人訴訟︵﹃o巨o;合8︶とは︑

いかなる私権も侵害されておらず︑特別の損害も蒙っていない状況で︑個人が法廷に訴えを提起できるとする仕組み       ︵81︶ で︑当該私人は一切原告適格は持たないが︑法務長官の助けで︵日巴匹︶訴訟を遂行できる︒関連人訴訟は法務長官        ︵82︶ の同意によるが︑同意をなすかどうかは︑法務長官の裁量であって︑司法審査は及ばないとされる︵通説︶︒その背

景には︑かかる法務長官の判断は政治的なものであって︑司法は政治に介入しないとの考えがある︒法務長官のこの

裁量の濫用は統制できないのか︒法務長官は議会に対して責任を負っているから︑議会によるチェックが働くであろ       ︵83︶ う︒司法統制は立法的解決の事案であるとの主張もある︒

憲法保障機関としてのカナダ法務長官      ︵都法四十六ー二︶ 一五九

(28)

一六〇

② 憲法訴訟での法務長官のジレンマ

 公益の番人としての法務長官が訴訟で私人の原告側に立つのは︑イングランド以来の法務長官の伝統である︒そこ

では公害や︑水路や高速道路の妨害や年金基金の誤運用など︑法務長官が属する政権の政策が争点となっていないも       ︵84︶ ので︑法務長官が訴訟を提起するかどうかは︑その賢明な裁量に委ねられうる︒しかし︑﹁問題は法務長官が政府の

メンバーであることで︑その他の閣僚と同様︑彼︵女︶は政府の諸政策に絡み︑通常はそうした政策が合法であるの        ︵85︶ を防御するように余儀なくされるものなのである﹂︒公益と憲法の擁護者としての立場と︑政府閣僚の一員であるこ

とをどう調整すべきか︒これに対する考えが異なれば︑憲法訴訟提起者としての権能行使にいかなる影響がでるのか

が︑考察されなければならない︒憲法訴訟に参加するかは法務長官の裁量であるとしても︑その限界はどのように考

えられるべきか︒

 カナダ最高裁判所︵以下﹁最高裁﹂︶は︑法務長官は政権の人間であることをまず認識しているといえる︒それは︑

一九七四年のソーンソン事件にみることができる︒これは︑原告適格に関する例外的侵害の理論を緩和させた意義で

     ︵86︶ も言及される︒元判事の一般の納税者が︑トルドー政権のニカ国語政策を攻撃するべく︑連邦の公用語法︵O自n﹇巴        ︵87︶ ピ芦︒q9σq6>臼︶が違憲であるとの宣言的判決を求めた事件である︒原告は従来の例外的な侵害を受けているとはいえ

ないけれども︑六対三で原告適格は認められた︒判決︵ラスキン︵Uoo日﹇霧置o︶判事︶は︑原告適格の判断は裁判所

が一次的に判断できる裁量の範囲にあるとして︑次の二つの要素を勘酌すべきとした︒第一は︑本質的に憲法上の争        ︵88︶ 点が提起されている訴訟は司法判断適合性05⇔惹蚤一旨︶に疑いがかけられることはない︒第二に︑他に適切な救済

手段があるか︑そして問題となっている制定法が規制的であるか宣言的であるかをみなければならない︒原告は納税

者であるが︑税金は本件の必須問題ではない︒公金の無駄遣いだけが訴えられているのではなく︑むしろ市民が議会

参照

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