• 検索結果がありません。

言葉「あなた」の社会的意味 : アンケート結果の 分析

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "言葉「あなた」の社会的意味 : アンケート結果の 分析"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

言葉「あなた」の社会的意味 : アンケート結果の 分析

著者 鈴木 勁介

雑誌名 東西南北

巻 1993

ページ 122‑127

発行年 1993

URL http://id.nii.ac.jp/1073/00003935/

(2)

言 葉

‑ あ な た

﹂ の 社 会 的 意 味

ア ン ケ ー ト 結 果 の 分 析 鈴 木

勤 介

@ 人 間 関 係 者 意

本稿は︑一九九二年に行なわれた和光大学

全学シンポジウム﹁文化としての言葉││あ

なたと私の世界l│﹂に先駆付て︑学生を対

象に行なったアンケート調査の集計結果を分

析したものであり︑右の調査の報告の一部で

ホ り ︐

︒ ︒

単純集計結果の中で興味のあるデ!タとし

て︑﹁あなた﹂の遣い方がある︒目上の他者に

対して﹁あなた﹂は泣い難いという一般的な

通念とは異なり︑﹁あまり抵抗を感じることな

︿遣っている﹂と﹁遣ってよい言葉だと思う﹂

を合わせて一七・九%の回答があったことに

Q

E

A

%

%

︿

%

%

%

社会的規範意識として︑一八%は

E

を少な

いとみるか多いとみるかは論の分かれるとこ

ろであろうが︑﹁非常に抵抗を感じて遣えな

い﹂が半数に達しないことと併せて考えれば︑

年齢の高い者には多いと感じる数値であるよ

若者世代の中に生じている︑言語意識や社

会意識の変化の一つの現れなのではないかと

一 円 ︒ ヨ

122 

以下に︑この現象についての解釈を導き出

すための幾つかの分析を試みる︒

作業としてまず︑他の調査項目と組み合わ

せるクロス集計の結果で考えることとする︒

x o

g

勾の﹁他人に呼びかけられた

ときに︑特に不愉快に思うのは﹂という設問

A

︿

%

E

対等の呼び方をされた

%

%

(3)

選択肢の﹁あまり親し︿ない人に︑なれな

れしく名を呼ばれたとき﹂に反応を示すのは︑

親疎開係に敏感な回答者群と言えよう︒

それに対して﹁目下だと思っている人に呼

ぴ捨てなど︑対等の呼び方をされたとき﹂に

反応するのは︑上下関係に敏感な回答者群と

考えてよいであろう︒

次に﹁特には無い﹂を選択した回答者群を︑

対他関係にやや鈍感で無感覚な回答者群と考

第一の回答者群を親疎グループ︑第二の回

答者群を上下グループ︑第三の回答者群を無

感覚グループと措定してみると︑それぞれ︑

二五・三%︑二九・七%︑四四・九%となっ

これらのグループが﹁あなた﹂に対して︑ た ︒

回答の上で知何なる差異を示すかによって︑

﹁あなた﹂の現在的捉えられ方を見ることが

できるように思う︒

CZ

ヨ包×宏自・勾││検定

N

0

ωω

?

‑ F

有意水準詔ヂカイ二乗値目・

)

﹁非常に抵抗を感じて遣えない﹂について

は︑上下意識が稀薄な親疎グループが最も少

な︿︑それぞれは四一・二%︑五

0

%

0

・三%という割合であった︒

無感覚グループに即して言えば︑﹁非常に

抵抗感あり﹂と﹁遣って良い﹂の両方に高い

数値を示しており︑また﹁あなた﹂の使用に

関して違和感を︒持つ︒か︒持たない︒か︑

という点ではグループの中での統一がとれて

いなくて︑このグループの岡有性を示してい

ると言えるのである︒

そしてこのグループが全体の中で四四・八

%と多数を示しているところに︑社会問題と

して若者の対人関係における無作法さや︑言

葉遣いについての話題を提供する一因がある

のかも知れない︒

それに対して上下グループは︑当然の事な

がら﹁非常に抵抗あり﹂に最も高い数値を示

しているのである︒旧来の大人達の考え方に︑

向調的な傾向を示すタイプとき守えるかも知れ

L

他方︑親疎グループは﹁抵抗を感じるが遣

う﹂に最も高く︑﹁遣って良い﹂に最も低いと

いう形で特徴的である︒

換言すれば︑後述する新しい型の対人関係

認識や言語感覚を持っているタイプというこ

とであろうか︒

x g s ‑ g

﹁名前を知らない相手や目

上の人を呼ぷときに︑うま︿人称が遣えない

と感じたことがありますか﹂という設問との

組合わせの結果で考えてみる︒

%

という無認識派は一四・五%で︑﹁考えたこと

が無い﹂の無自党派は二

0

・三%︑その他

0

三%であり︑きわめて高い数値で困惑を感じ

(

×

5g

g

NF

Ng

'

HN

'

$

N

H

0

)

ところで﹁ない﹂の無認識派の場合でも︑

﹁あなた﹂の使用に関しては四七・六%が﹁非

常に抵抗を感じる﹂し︑﹁考えたことがない﹂

無自覚派でも四五・三%と︑それぞれ半数近

︿は﹁非常に抵抗を感じる﹂のである︒

そして﹁あなた﹂を遣って良いとするもの

は︑それぞれ五・七%︑八・四%︑九・五%

と︑﹁考えたことがない﹂無自党派が最も高い

数値を示したのであった︒

先の﹁他人に呼びかけられたときに︑特に

不愉快に思うのは﹂のクロス集計でみた無感

覚グループとここでの無自党派は︑対人関係

や言語の使用に当たって留意することな︿生

(4)

活している層と言えなくもない︒そして無感 覚グループは四四・八%であり︑無自党派は

0

・三%を占めるのであった︒

更に一件︒ヨ主の﹁学生は一般に教師に対して

e

と呼びかけることが多いですが︑あ なたの意見は次の

E

れに該当しますか﹂につ

いて考えてみる︒

A .

大人同士だから﹁先生﹂は必要なく姓か

名に﹁さん﹂をつけるだけでよい0

%

慣習だから﹁先生﹂と呼んでもいいが大人の

世界だから﹁さん﹂と呼んだ方がいいと思う

五・三%︑教師でも本来は﹁さん﹂でいいは

ずだが慣習的に﹁先生﹂と呼ぶ方が認当であ

る三一了五%︑教える側と教えられる側とい

う関係にある限り﹁先生﹂と呼んだ方がいい

五三・九%︑教師だからといって特に気をつ

かわない四・五%︑教師とは言葉を交わさな

%

﹁教える側と教えられる側という関係にあ る限り︐先生︒と呼んだ方がいい﹂という秩

序順応型が五三・九%と過半数であったが︑

﹁教師でも本来は

Jc

ん︒でいいはずだが︑

慣習的に︐先生︒と呼ぶ方が穏当である﹂と

いう慣習的穏当型が三二・五%あったので︑

両者を対比してみよう︒

﹁あなた﹂を追う事に関しては︑秩序順応型

の五・七%に対して慣習的穏当型は八・二%

が﹁追って良い﹂としており︑ことに﹁抵抗 を感じずに遣う﹂は前者の八・三%に比べて 後者は一四・五%と︑倍近︿の聞きを示して

(

S

・ お

p

・ a

NC '

有意水準$デ

2

0

)

回答者群の性向として秩序順応型は上下グ

ループに近似し︑慣習的穏当型は親疎グルー

プに近似する︒

以上を要約すれば︑以下の三点に整理し得 よ "

ω

フ ︒

言語の規範意識や言語行動において︑無 感覚であったり無自覚である層が存在してい

ると考えられる︒

ω

目上・目下という秩序認識を基準におい

ている層とは別に︑親疎を規範意識にしてい

る層が︑割合としてはまだ少ないが存在して

い ︐ ︒ ︒

ω

上下グループと異なり︑親疎グループと

無感覚グループは﹁あなた﹂を﹁遣ってよい﹂

には現段階では抵抗感を示しつつも︑上下意

識が稀薄という事から相互の言語認識のあり

方が近似しており︑敬語的用法としての﹁あ なた﹂の意味の変容に関わって︑両者が接近

してい︿可能性がある︑の三点である︒

124 

無感覚グループや無自覚派の存在は︑単に

Eう呼ぶか﹂という言葉遣いの問題

ばかりではな︿︑現代の社会状況や若者世代

がおかれている現状の一局面を照射している

ように思うのである︒

それは言語コミュニケーションというもの

が︑本来的には対面を前提とする形でなされ

ていたのに対して︑パソコン通信や電話ファ

ックスな

E

匿名的通信手段の増大により︑他 者をおしなべて一様な受信者と見なして︑汎 化してしまうという現象と通底するからであ

︐ ︒ ︒ 匿名であったり︑あるいは非対面的な状況

であれば本音が語れたり話す・﹄とに不安を感

じない︑な

E

という認識のあり方と通じるの

若い世代に多い電話の長話しも︑このよう

な視点から捉え直しをしてみる事ができるの

(5)

ではないかと考える︒

少なくともダイヤル

Q

2

の︑線数で会話を

楽しめるという﹁パーティーライン﹂のプ

l

ムは︑電話の使用目的を変化させた象徴的な

出来事だったように思う︒

そしてこれらの若者は︑少女育成ストーリ

ーのパソコンゲ

l

ムに熱中したりもするので

ある︒そニでは彼は英雄であり︑少女の良き

指導者であり監督であり得る︒

これらのゲl

逮は︑彼らが作り出した疑似的社会の中でシ

ミュレーションしているだけであったから︑

実際の社会の中では生きにくいのである︒

そういう現象の一つとして︑さしたる理由 もなく卒業延期を図る学生達や逆に確たる目 的もなく退学希望する学生が増加しているこ

とを奉げることができる︒

また︑大学の女子トイレの落書きに過激な 内容の身の上相談があり︑何名かの手で幾つ

かの回答が寄せられている事例が挙げられる︒

身の上相談の一つの形態なのではあるが︑

場所柄から想像されるものとは異なって︑相 談を持ちかりた側はともかく相談に乗ってや

った側の反応は大人達が考える以上に真剣な

のであり︑単なる落書きと言って済ませられ

る問題ではないように思う︒

同様に︑﹁おた︿﹂という呼びかけの表現形

式の始まりは︑孤独に劇画を描いていた若者

達の世界で交わされたものからとされるが︑

それは匿名的で一歩距離をおいた認識に裏打 ちきれた言葉であって︑相互が踏み込み合わ

ないことの安心感を象徴していたのである︒

無感覚グループや無自党派の若者逮は︑性 向として︑自己と他者との位置関係や間隔の 取り方が掴みとれず︑生身の人間関係の中に 自己を位置づけ得な︿なっていると考えられ

るのである︒

一方で親疎グループは︑一見すれば現代の

都市生活を円滑に生きているように見えるが︑

実態は自らのアイデンティティの不確かさを 軽口や冗談に紛らせて︑仮構の﹁あなたと私 の世界﹂を創りだす事によって孤独の影を払

いの付ようとしているのかもしれない︒

﹁あなた﹂が最も多用されている世界はと考

えてみれば︑夫婦問における妻から夫へであ

る︒妻が夫に追う﹁あなた﹂は習慣的であり︑ 固定した一対一の聞の﹁あなた﹂である︒

もっとも︑多くの家庭では子供があるため

に︑子を中心とした地位名称を用いる事とな

eh

v

.

に呼んでいますか﹂における︑﹁母が父に対し

て﹂の結果は以下の通りである︒

A .

l

四・六%︑名前の呼ぴ捨て一・一

%︑名前+さん(ちゃん)七・三%︑ちょっ

%

0%

= 7

七%︑とうさん二・九%︑おとうちゃん

0%0

%

八%︑態度で示す二・一%︑その他五・八

一 ︒

O

﹁母が父に対して﹂の呼びかけでは︑六八・

一%が﹁おとうさん﹂﹁とうさん﹂﹁パパ﹂の

類であり︑﹁あなた﹂は八・八%という結果で

だが一般的に遣われる﹁あなた﹂にはよそ

よそしきがあり︑隔てを意識させるものがあ

るから︑子が親に反発するときや同世代聞で

も異性に用いられる言葉になるのである︒

この﹁あなた﹂は男女・老若を問わず用い

る事ができるから︑合意している意味の変容

(6)

も激しいのである︒

他者を指示するために転用された空間指示

詞の﹁あなた﹂は︑当初は高い敬意を含んだ

語集であった︒

だが時間の経過の中で︑佐久間鼎の言う﹁敬

語の水準転移﹂の法則通りに次第にその価値

を失い︑現在の通念として目上には用いがた

︿なったのであった︒

それでは若者の一部で︑﹁遣ってよい言葉

t

思う﹂ようになったのは何故なのであろ

ζJ

か ︒

一つの解釈として想定したのは︑大人達が

用いなくなったが故に稀少価値が生じて水準

転移の逆転が起きたという考えである︒だが

これは全てを説明し得ないようにも思うので

ある︒マスメディアのさまざまな場面で︑現

実に多用されてもいるからである︒

第二に考えられるのは︑敬意はなくなって

いても隔ての意識は喚起し得るということで

ホ り ︐ ︒

先述の子が親に反発するときや︑同世代の

異性への発話に見られる使用法である︒

﹁あなた﹂は︑従来の敬語的価値のあり方

としてではなく︑隔ての言葉としての丁寧語

という意識で用いられるようになったという

見方である︒

若者の最も重要な情報源であり︑また教育

機関でもあるマスメディアの世界で︑誰彼な

しに汎化して遣われている﹁あなた﹂を︑若

者逮は適当な距離感を保ちつつも︑相互性を

生みだす便利な言葉というように解釈して受

付とめているのかも知れない︒

そのように考えれば︑目上に丁寧に話すと

いう認識のもとで︑一八%の回答者は﹁あな

た﹂は﹁追ってよい言葉﹂だと思った︑と言

えるのである︒

B ω 宮 山

∞の﹁日常のやり取りの中で︑どんな

話題が楽しいですか﹂についての回答結果は

現代の若者気質を現す一つの指標であろう︒

ROSSA冗競や軽口をいうときが楽しい四

八・九%︑小説やドラマ︑映画等について語り合

うのが楽しい一四・一%︑国際問題や社会の出来

事について意見を言い合うのが楽しい五・六%︑

自分の内面的なこ

t

が話せるから楽しいど=.一

%︑その他一

0

%

初めに︑調査票作成の過程で選択股に入れ る予定であった﹁議論﹂という言葉を︑調査に協力してくれた若者から﹁拒絶反応がある﹂と指摘されたために削除した︑という経緯があったことをことわっておきたい︒

回答順位では﹁冗談や軽口を言うときが楽

しい﹂が四九・O%で第一位であり︑二位以

下を大き︿引き離している︒第二位は一二・

O%の﹁自分の内面的な事が話せるから楽し

それに対して﹁国際問題や社会の出来事に

ついて意見を言い合うのが楽しい﹂は僅かに

五・四%である︒

﹁冗談や軽口﹂は︑相互が立ち入ることなく

また相互が傷つ︿こともな︿︑一定程度の距

離を保ちつつ関係をもてる話題である︒

後者の﹁国際問題や社会の出来事﹂の話題

は︑当然のことながら相互に意見の対立を生

みだし︑議論にたち至る話題である︒

前者が好まれ後者が好まれないことと︑﹁あ

なた﹂への反応は微妙に相関するのである︒

青年達が基準としている親疎という関係認

識のありょうは︑相互が権利や義務を分かち

合わなければならない運命共同体的な濃密で

辛気︿さい関係ではなく︑冗談や軽口が言え

126 

(7)

る程度の乾いた関係であるように思う︒それ は一見すればスマートであり︑都全的である

ように見える︒

﹁あなた﹂は︑子の無い家庭の妻から夫への

習慣的用法を除外すれば︑対面場面では一般 的に大人達には遣い難い言楽である︒それは 隔て感覚と敬語意識の両方を意識の上に喚起

させるからであろう︒

しかし︑若者の一部の者の﹁あなた﹂には それらの意識は働かず︑本来は深刻に語り合 うべき話題を冗談や軽口で流してしまうよう に︑物理的には対面していても心理的に対面 していないという︑匿名的な関係性を象徴す る一つの表現形式になっているのかも知れな それに対して︑第二位になった﹁自分の内 面的な事が話せる﹂は女子学生の提言を採用

して取り入れた選択肢であったが︑男性の一

三・九%に対して女性は二九・九%が選択し

て倍以上の聞きとなっている︒

この辺りに先述の女子トイレとの関わりも

あるのであろうし︑﹁あなたと私の世界﹂を構

築する際の性差のありょうの違いも潜んでい るのであろうが︑これは別の機会の課題とし 時代を常に先取りし︑時代の様態を行動の

中に反映させるのは︑いつの時代でも若者世

このこ

t

からすれば︑一八%とはいえ言葉

﹁あなた﹂が合意していた上下の秩序認識の

欠落の背景に︑匿名化社会の現実が投影して

いるように思う︒ おしなべて他者を汎化するという現象には︑

テレビジョンを中心としたマスメディアが語

る相手を常に不特定多数に求めざるを得ない︑

という事とも関わっていると言えるのである︒

﹁あなた﹂の遣い方を通して浮上してきたも

のは︑本来が匿名的であった都市型社会の中

で︑追い打ちを懸付るかのようにして提供さ

れる︑より匿名化が可能な通信機器や︑指向

性の不明確なマスコミの発する言葉の洪水に

よって︑自己のアイデンティティを見失ない︑

自我不安にさいなまれつつ魂の訪飽を余儀な

くされている若者の姿でもある︒

そして言葉﹁あなた﹂は︑元来担ってきた

はずの敬語的意味基盤を失ない︑腕曲表現と

しての社交語的意味を担う言葉へと変質しつ

つあるのかも知れない︒

参照

関連したドキュメント

諸君には,国家の一員として,地球市民として,そして企

喫煙者のなかには,喫煙の有害性を熟知してい

それでは,従来一般的であった見方はどのように正されるべきか。焦点を

なぜ、窓口担当者はこのような対応をしたのかというと、実は「正確な取

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

しかしながら、世の中には相当情報がはんらんしておりまして、中には怪しいような情 報もあります。先ほど芳住先生からお話があったのは

断するだけではなく︑遺言者の真意を探求すべきものであ

いてもらう権利﹂に関するものである︒また︑多数意見は本件の争点を歪曲した︒というのは︑第一に︑多数意見は