原
著
損益 分岐点分析 による助産院経営の実態分析
Research
on management
of maternity
homes
on the basis
of the break-even
point
analysis
宮
暗
文
子 (Fumiko Miyazaki)*
要 約 【目的 】 本 研 究 の 目的 は,助 産 院 経 営 の3要 素(人 ・物 ・金)の 中 で,主 に金(財 務 面)に 焦 点 を合 わ せ て, 助 産 院経 営 の 実 態 分 析 か ら その 特性 を明 らか に し,具 体 的 な経 営 の 方 向性 を探 る基 礎 資 料 を得 る こ と に あ る。 【方 法 】 調 査対 象 は,助 産 院 を年 間 取 扱 分 娩 件 数(以 下,分 娩 件 数)別 に無 作 為 に抽 出 した6事 例 で あ る。 調 査 内 容 は,財 務 関 連 内容14項 目の 聞 き取 り調 査 お よ び過 去 の 助 産 院 の財 務 デ ー タ を基 に し た も の で あ る。 分析 方 法 とし て は損 益 分 岐 点 分 析 の手 法 を用 いた 。 調 査 期 間 は,平 成12年10月 か ら12月 で あ る。 【結 果 】 1。 事 例 全 体 の 費 用 の 内訳 を み る と,変 動 費 比 率 が 低 く,固 定 費 の 占 め る割 合 が 高 い。 固 定費 で は人 件 費 の比 率 が 高 く,次 い で リー ス料,賃 借 料,減 価 償 却 費 の順 とな っ て い る。 2.収 支 内 容 に つ い て は,分 娩 件 数 が50件 で は院 長 報 酬 を500万 円 前 後 に抑 えれ ば,黒 字 を確 保 で き る とい う結 果 を得 た。 3.必 要 売 上 高 と分 娩 件 数 ・ベ ッ ド稼 働 率 の関 係 で は,分 娩 件 数 が50件 を超 え60件 前 後 で は,ベ ッ ド数 が3床 の とき,赤 字 に な らな いた め のベ ッ ド稼 働 率 が30∼35%以 上 必 要 で あ り,分 娩 件 数90件 近 くに な る と,ベ ッ ド数4床 の と きベ ッ ド稼 働 率 は37%,5床 の と きは30%必 要 と な る。 さ らに 分 娩 件 数 130件 で は,ベ ッ ド数6床 の と きベ ッ ド稼 動 率 は37%で あ る こ とが 示 唆 され た 。 【結 論 】 以 上 よ り,現 在 の助 産 院 経 営 は,売 上 高 が順 調 に伸 び て い っ て い る の で はな く,経 営 規 模 が小 さい た め生 業 的 な 性 格 が 強 く,大 き な経 営 問題 を抱 え るの は健 全 経 営 に とっ て の 阻 害 要 因 とな る こ とが 明 らか とな っ た 。 助 産 院 経 営 に 当 た っ て は,通 常 の事 業 経 営 と同様 の視 点 に 立 ち,あ らか じ め経 営 計 画 を策 定 し,収 益 性の 確 保 を見 込 ん だ上 で実 行 す べ きで あ る。 キ ー ワ ー ド 助 産 院 経 営,固 定 費,変 動 費,損 益 分 岐 点 分 析,ベ ッ ド稼 働 率*大 分県立看護科学大学 (Oita University of Nursing and Health Sciences)
2002年2月12日 受 付2002年6月14日 採 用
Abstract
[object]
Management of maternity homes is built on three factors : persons, goods, and finance. This
paper discusses the main characteristics
of management of maternity homes from financial
point of view, and aims at obtaining basic data for exploring a specific direction for a better
management.
[method]
The object for investigation consists of six sample cases which were randomly selected
from annual delivery cases at maternity homes. This investigation, while utilizing the
break-even point analysis as a mode of approach, drew on hearings on fourteen items relating to
the financial management of maternity homes and on the past financial data. The
investiga-tion was conducted during October-December, 2000.
[result]
1. Breakdown of Expenditure
It now turned out that fixed costs far exceeded movable ones. Of the fixed costs, the
personal costs occupied the highest rate. This was in order followed by lease, rental, and
depreciation expenses.
2. Breakdown of Income
It was also made clear even if, in the case of 50 delivery cases per year, the income
was under 5 million yen, it would be possible to keep the nursery in the black.
3. Relationships among Necessary Sales, the Number of Delivery Cases and the Operation
Rate of Using Bet
It was suggested that supposing there were 50-60 delivery cases per year with three
beds available in a nursery, the operation rate of beds would need to be over 30% —35%.
If there were approximately 90 delivery cases per year with four beds available, its
opera-tion rate would need to be 37%. If five beds were available with the same number of
delivery cases, its operation rate would require 30%.
[conclusion]
The research stated above has revealed that a serious financial problem produces impeding
factors for sound management, because the sales of maternity
homes at present do not
increase satisfactorily and running a maternity home assumes a family-like-business
charac-ter due to the management scale. Macharac-ternity homes should be managed afcharac-ter business plans
are made and certain profits are estimated from the same viewpoint as other ordinary
busineses.
Key Words Management of maternity homes, fixed charges, variable charges, break-even
point analysis, operation rate of using beds.
Iは じ め に 助 産 所(以 下,こ こで は 「助 産 院 」 と称 す)の 存 在 意 義 は,出 産 を中 心 に した母 子 の健 全 育 成 に 貢 献 す る こ と にあ る。 これ は助 産 院 の 主 た る 開業 動 機 とな っ て い る 「社 会 貢 献 」 に通 じ る もの で あ る(宮 崎,2001)。 そ の実 現 の た め に は,助 産 院 が 地 域 の 中 に存 在 し続 け な け れ ば な らな い 。 存 続 す るた め に は,助 産 院 事 業 を収 益 事 業 と して成 り立 たせ る こ とが 必 要 で あ る 。 そ の た め に は 企 業 経 営 の視 点 が 求 め ら 36 日本助 産 学 会誌 第16巻 第1号(2002.8)
れ る。 す なわ ち,助 産 院 経 営者 は,専 門 職 業 務 と 経 営 者 とい うそ れ ぞ れ の役 割 を ど う克服 して い け ば良 いか が 問 わ れ る の で あ る 。 これ まで の助 産 院 経 営 に は勘 と経 験 の み に基 づ くもの が 多 くみ られ <宮崎,2001>,こ れ に関す る経 営 管理(Plan.Do. See)の 視 点 か らの研 究 は皆 無 に等 しい。 また,世 界 的 に み て も,近 年 開業 助 産 師 が増 加 傾 向 に あ る 米 国 に お い て さ え も,ほ とん ど研 究 が行 わ れ て い な い領 域 と してcost-effectiveness(対 費 用効 果) が 指 摘 さ れ て い る(Jeanne Raisler,2000)。 この よ うな 背景 か ら,本 研 究 は,過 去 の助 産 院 の財 務 デ ー タ を基 に,利 益 管 理 に お け る最 も有 効 な 分 析 用 具 と し て 重 要 視 さ れ て い る(高 橋, 1982)損 益 分 岐 点 分析 の手 法 を用 い て,主 に財 務 面 か ら み た 助 産 院 の 経 営 内 容 の 特 性 を 明 らか に し,具 体 的経 営 の 方 向性 を探 る基 礎 資 料 とす る こ とを 目 的 とす る。 II研 究 方 法 こ こで は,助 産 院 経 営 の概 念 枠 組 み を経 営 の3 要 素 の観 点 か ら提 示 し(図1),財 務 につ い て の 調 査 を行 った 。 調 査対 象 は過 去 の 損 益 計 算 書 の公 開 に承 諾 を得 られ た 助 産 院 とした 。 そ の事 例 と して は,分 娩 件 数規 模 別 に6事 例 を選 択 した。 その規 模 の 内訳 は, 分娩 件 数49件 以 下,50∼69件,70∼89件,90∼109 件,110∼129件,130件 以 上 に 区 分 し,そ れ に 該 当 す る6か 所 を九 州 の 助 産 院 か ら選 択 し,協 力 が 得 られ た 事 例 を 分 析 対 象 と し た。 調 査 に際 し て は,筆 者 に よ る訪 問 聞 き取 り調 査(1999年 の 実 情)を 行 っ た。 聞 き取 り内容 は,経 営 に関 す る観 点 か ら,分 娩 件 数,外 来 受 診 件 数,ベ ッ ド数,入 院 分 娩 費,健 診 お よ び 指 導 料 金 の 単 価,入 院 日 図1助 産 所経 営 の概 念枠組 み (経営の3要 素 の視点か ら) 日本 助 産 学会 誌 第16巻 第1号(2002.8) 37
表1事 例概 要(1999年) 数,人 員 構 成,設 備 資 産 の 状 況,初 期 投 資 の状 況,損 益 計 算 書 に よ る収 支 状 況 な らび に 院 長 の 年 齢,経 営 理 念,戦 略 内 容,開 業 年 数 の14項 目 とし た。 調 査 期 間 は2000年10月 ∼12月 で あ る 。 そ の事 例 の概 要 に つ い て は,表1に 示 した。 な お,院 長 報 酬 につ い て は,今 回 の6つ の 事 例 で は 約160万 円 か ら1,500万 円(事 例Aで は157万 円,事 例Bで は314万 円,事 例Cで は933万 円,事 例Dで は881万 円,事 例Eで は1,500万 円,事 例F で は633万 円)で 大 き な 差 が み られ た 。 個 人 事 業 表2業 種別 役 員報酬 一覧(黒 字企 業平 均) (単位:千 円) 資 料)TKC全 国 会 シ ス テ ム委 員 会 編 集:TKC経 営 指 標,1002-1006,2001よ り。 注)た だ し,平 均 年 俸 額 は役 員 報 酬 額 で あ る が,1事 業 所 に 何人 役員 がい るか の記 載 はな い。 業 種 別 財 務 諸 表 一 覧(黒 字 企 業 平 均)よ り役 員 報 酬 項 目の み 抜 粋 して 筆者 作成 。 所 に お い て は,院 長 報 酬 が 損 益 計 算 書 上 で は経 費 に計 上 され て い な い た め,こ こで は経 営管 理 の 視 点 か ら,院 長 報 酬 を 設定 し費 用 に含 め て 実 態 分 析 を行 っ た 。 損 益 分 岐 点 売 上 高 の算 出 に 当 た り,次 の よ うな 条 件 を設 定 した 。 ① 個 人事 業 で の助 産院 にお ける事 業 主給 料 手 当(院 長 報 酬)の 額 は1,000万 円 と し,費 用 と して計 上 した。 院 長 報 酬 額 の設 定 に つ い て は,助 産 院 経 営 者 の責 任 の 重 さ と業 務 の24時 間 拘 束 とい う事 情 は あ るが,そ の 額 が サ ラ リー マ ン の平 均 年 収 を相 当上 回 るの で,こ れ を 若 者 等 の 開業 へ の意 欲 を引 き出 す 要 素 の1つ と した 。 そ こで,院 長 報 酬 につ い て は表2を 参 考 に して 年 俸1,000万 円 とい う基 本 額 を設 定 した 。 ② 固 定 費 の諸 管 理 運 営 費 と して は,衛 生 管 理 費, 新 聞 図 書 費,修 繕 費,事 務 用 品 費,サ ー ク ル運 営 費,職 員 被服 費 を計 上 した 。 ③ 法 人 税 は,個 人 事 業 所,会 社 法 人 共 に35%で 算 出 した 。 ④ 外 来 の収 入 につ い て は,外 来1と2に 区分 した。 外 来1と は,外 来 妊 婦 健 康 診 査 料,外 来2は そ の 他 の外 来 収 入 で あ る。 III損 益 分 岐 点 分 析 の 考 え 方 と 意 義 損 益 分 岐 点 と は,収 益 と費 用 とが等 し くな っ て 損 益 が ゼ ロ に な る売 上(金 額 で は売 上 高,数 量 で は販 売 量:こ こで は分 娩 費 用 と分 娩 件 数,外 来 健 38 日本助 産 学会 誌 第16巻 第1号(2002.8)
診 単 価 と外 来 受 診 数)で あ り,ち ょ う ど採 算 が 取 れ る売 上 高,い わ ば採 算 点 を い う。 そ の 役 割 は,狭 義 で は経 営 の採 算 点 に 関 す る情 報 を得 る こ とで あ り,広 義 で は採 算 点 だ け で な く 売 上 高 や 費 用 の 変 化 が 損 益 に及 ぼ す影 響 を把 握 し 損 益 を予 測 す る と と もに,将 来 期 待 す る利 益 を実 現 す るた め の収 支 計 画 や 資 金 計 画 な どの事 業 計 画 を立 て て い く上 で重 要 な情 報 を得 る こ とに あ る。 損 益 分 岐 点 分 析 で は,売 上 が 増 減 す る と損 益 が どの よ う に な るか,一 定 の利 益 を上 げ るた め に は 売 上 が い く らな けれ ば な らな い のか な どが 分 析 さ れ る。 つ ま り,費 用 を固 定 費 と変 動 費 に分 け て, 売 上 ・費 用 ・損 益 の 関 係 な ど,採 算 の 関 係 を分 析 す る こ と を損 益 分 岐 点 分 析(break-even point analysis)と い う。損 益 分 岐点 図表(break-even point chart)を 用 い て 損 益 分 岐 点 分 析 を 行 う こ と もで き る。 固定 費 と は,売 上 の増 減 にか か わ りな く固 定 的 に発 生 す る費 用 をい い,変 動 費 と は,売 上 の増 減 に伴 っ て増 減 す る費 用 をい う。 こ こで は中 小企 業 庁 方 式 を 参 考 に して,固 定 費 は人 件 費,地 代 家 賃,通 信 費,租 税 公 課,設 備 ・リー ス料,減 価 償 却 費,保 険 料,支 払 利 息,広 告宣 伝 費,交 際費, 旅 費 交 通 費,消 耗 品費,諸 管 理 運 営 費 と し,変 動 費 は医 療 消 耗 品 費,給 食 費,水 道 光 熱 費,検 査 費,外 注 費,雑 費 と した(筒 井,1994)。 損 益 分 岐 点 図 表 は,費 用 を固 定 費 と変 動 費 に整 理 す る と,販 売(こ こで は 分 娩 件 数 と外 来 受 診 数)が 増 減 す る と,利 益 が どの よ う に増 減 す るか を示 す。 す な わ ち,図2の よ うな もの にな る。 損 益 分 岐 点 は① と② が 交 わ る点 で あ る。 図2損 益分 岐 点図 表 IV結 果 助 産 院 の6つ の 事 例 を取 り上 げ,そ の 財 務 内容 に つ い て規 模 や 設 備,収 支 状 況 な どか ら経 営 実 態 分 析 を行 っ た。 1.事 例 にみ る有 床 助 産 院 の 経 営 実態(表3) 1)人 事 体 制 に つ い て ベ ッ ド数 や分 娩 件 数 に か か わ らず,助 産 師 の常 勤 とパ ー トの合 計 人 数 は,ほ ぼ3名 とな っ て い る が,分 娩 件 数 が 最 も多 い事 例Fで は常 勤 が2名, パ ー トが1名 と常 勤 助 産 師 の数 が増 えて い る。 看 護 師 や 炊 事 婦,掃 除 婦,事 務 員 に つ い て は,そ れ ぞ れ の 助 産 院 の 実 情 に応 じて雇 用 形 態 や人 数 に若 干 の ば らつ きが み られ るが,常 勤 よ り もパ ー トの 人 数 が 総 じて 多 くな って い る。 助 産 師以 外 の職 員 を含 めた 全 体 的 な人 員 に つ い て み る と,分 娩 件 数 が85件 以下 の3事 例(A,B, C)で は,常 勤 の 助 産 師 が1名(院 長),分 娩 件 数100件 前 後 の2事 例(D,E)で は,常 勤 が2 名(助 産 師1名 とそ の 他 の 職 員1名),分 娩 件 数 が130件 と最 も多 い 事 例(F)で は,常 勤 が5名 (助産 師2名 と その 他 の 職 員3名)と な っ て お り, 分 娩 件 数 の規 模 に応 じて常 勤 の職 員 数 が 多 くな る と とも に,あ る一 定 の分 娩 件 数 を超 え る と,そ の 他 の 常 勤 職 員 が 加 速 度 的 に増 加 して い る。 2)設 備 資 産 の 状 況 と初 期 投 資 につ い て こ こで い う設 備 投 資 とは,貸 借 対 照 表 の 固定 資 産 に計 上 され る土 地 や 建 物,機 器 ・備 品 を さす 。 土 地 につ い て は事 例Eの み が 賃借 とな って お り, 建 物 に つ い て は 事 例Fを 除 く5つ の助 産 院 で所 有 とな って い る。 機 器 ・備 品 は5 年 間 の 買 い取 り リー ス(実 質 的 に は割 賦 に よる購 入)に よ る もの が 半 数,所 有 に よ る もの が半 数 とな って い る。 分 娩 件 数 が100件 未 満 の事 例(A,B, C,D)で は,ベ ッ ド数3床 以 下 に, 100件 を超 え る事 例(E,F)で は ベ ッ ド数 が5床 以 上 とな って い る。 また,初 期 投 資 の 内 容 をみ る と,分 娩 件 数100件 を 区 切 り に投 資 額 が 大 き くな っ て い る こ とが わ か る。 日本 助 産学 会 誌 第16巻 第1号(2002.8) 39
設 備 に か か わ る初 期 投 資 は,そ の 規 模 や 内容, 立 地 な ど に よ っ て大 き く異 な って い る。 また,設 備 資 産 を購 入 す る か,賃 借(地 代,家 賃)や リー ス(機 械 器 具,設 備,備 品)に す るか に よ り,投 資 額 が 異 な る。 な お,借 入 金 に よ り設 備 投 資 を行 う場 合 は,基 本 的 に は減 価 償 却 費 と税 引 後 利 益 で 借 入 金 の返 済 原 資(返 済 の 資 金 源)を 確 保 す る こ とが 望 ま しい と考 え られ る(久 保 田,1994)。 また,賃 借 の場 合 は賃 借 料 とし て,リ ー ス の場 合 は リー ス料 と して費 用計 上 す る こ と とな る。 た だ し,機 器 ・備 品 の 買 い取 り リー ス(実 質 的 に は 割 賦 に よ る購 入)の 場 合 は,固 定 資 産 に計 上 し減 価 償 却 す る こ とが で き る(中 村,2000)。 3)収 支 状 況 売 上 高 は,当 然 の こ とな が ら分 娩 件 数 に ほ ぼ比 例 して い る が,分 娩 費 や妊 婦 健 診 ・指 導 料 金 の単 価 に差 が あ り,売 上 高 に も影 響 し て い る。 分 娩 費 や 健 診 ・指 導料 金 の 単 価 は,地 域 性 お よ び消 費 者 ニ ー ズ や競 合 状 態 な どを考 慮 して設 定 さ れ て い る◇ 全 体 的 な費 用 の 内訳 につ い て み る と,変 動 費比 率 が 低 く,固 定 費 の 占 め る割 合 が 大 き い もの とな っ て い る。 固定 費 で は,人 件 費 の比 率 が 高 く,次 い で リー ス料,賃 借 料,減 価 償 却 費 の経 費 率 が 高 い◎ な お,こ こ で は 院 長 報 酬 を1,000万 円 以 上 と し て い る た め に,固 定費 増 加 の大 き な要 因 とな っ て い るが,こ の1,000万 円 を 除 い た 場 合 で も,固 定 費 が 変 動 費 を上 回 る もの とな っ て い る。 収 支 内容 を み る と,分 娩 件 数 が50件 まで は,例 え ば 院 長 報 酬 を500万 円 前 後 に 抑 え れ ば黒 字 を 確 保 で きる と考 え られ るが,事 例 の 中 で 分娩 件 数 の 最 も低 い事 例(A)で は,減 価 償 却 費 を計 上 しな い場 合 で も,院 長 報 酬 を約300万 円 まで 抑 え な い と赤 字 を解 消 で きな い 。 分 娩 件 数 が100件 前 後 の3つ の 事 例(C,D, E)で は,院 長 報 酬 が1,000万 円(事 例Eで は1,512 万 円〉 の場 合 で も黒 字 を確 保 し,な お か つ 年 間 返 済 金 額 を上 回 る減 価 償 却 前 純 利 益(減 価 償 却 費+ 税 引 後 利 益)を 計 上 して い る。 2.必 要 売 上 高 と分 娩 件 数,ベ ッ ド稼 働 率 との 関 係 分 娩 件 数 や ベ ッ ド数 別 稼 働 率 を算 出 す る に当 た っ て,こ こで は次 の よ う に条 件 を設 定 す る。 ① 入 院 日数 は1件 当 た り6日 とす る(事 例 よ り)。 ② 分 娩 収 入 は1件 当 た り30万 円(健 康 ・社 会保 険 よ り産 婦 に支 払 わ れ る平 均 額 〉 とす る。 ③ 外 来 受 診 件 数 お よ び収 入 は,妊 婦 健 診 に よる外 来1(1回 の 妊 婦 健 診 料3,000円 とす る)と そ の他 の外 来2(指 導 ・相 談)に 区 分 す る。 ・外 来1:妊 婦1人 の外 来 健 診 回 数 は10回 とす る(宮 崎,1999)。 ・外 来2:収 入 は,外 来1の 収 入 と同額 とす る。 ま た,そ れ ぞ れ の 算 式 は次 の よ う に な る。 ① ベ ッ ド稼 働 率 =(分 娩 件 数 ×6)÷(ベ ッ ド数 ×365)×100% ② 外 来1の 件 数=分 娩 件 数 ×10回 ③ 必 要 分 娩 件 数 =必 要 売 上 高/(300 ,000+3,000×10×2) 1)損 益 分 岐点 売 上 高 と分 娩 件 数,ベ ッ ド稼 働 率 6つ の事 例 そ れ ぞ れ の 損 益 分 岐 点 売 上 高 を満 た す た め に必 要 な 分 娩 件 数 を算 出 す る。 その 場 合 の ベ ッ ド数 別 稼 働 率 は表4に 示 す とお りで あ る。 この表 か ら,必 要 な分 娩 件 数 が50件 を超 え60件 前 後 で はベ ッ ド数 が3床 の と きに,赤 字 に な らな いた め に は ベ ッ ドの 稼 働 率 が 約30∼35%以 上 必 要 で あ り,分 娩 件 数 が90件 近 くに な る と,ベ ッ ド数 が4床 の と き にベ ッ ドの稼 働 率 は37%,5床 の と き に は30%の 稼 働 率 が 必 要 とな り,分 娩 件 数 が最 も多 い130件 で は,ベ ッ ド数 が6床 の とき に ベ ッ ドの稼 働 率 は37%,7床 の と き に32%の 稼 働 率 が 必 要 とな る。 2)借 入金 返 済 に必 要 な 売上 高 と分 娩 件 数,ベ ッ ド稼 働 率 損 益 分 岐 点 売 上 高 の考 え方 を も とに借 入 金 を返 済 して い くた め に必 要 な 売 上 高 を算 出 し,そ れ を 満 た す 分娩 件 数 とそ の場 合 の ベ ッ ド稼 働 率 の 関 係 に つ い て,借 入 金 返 済 額 分 を減 価 償 却 費 で賄 え る 場 合 と,税 引 後 利 益 で返 済 す る場 合 とに 分 けて, 表5に 示 す 。 な お,こ こで の必 要 売 上 高 の算 式 は 次 の とお り で あ る。 ・返 済 額 分 を減 価 償 却 費 計 上 で き る場 合 42 日本 助 産学 会 誌 第16巻 第1号(2002.8)
必 要 売 上 高=(固 定 費+減 価 償 却 費)/(1-変 動費 比 率) ・税 引後 利 益 で返 済 す る場 合 必 要 売 上 高=(固 定 費+税 引 後 利 益/(1-税 率))/(1-変 動 費 比 率) 分 娩 件 数 が50件 程 度 で は,ベ ッ ド数 が3床 の と き赤字 にな らな いた め に は,ベ ッ ドの稼 働 率 が 約 30%,分 娩 件 数 が60件 台 で は,ベ ッ ド数 が3床 の と きベ ッ ドの 稼 働 率 が 約35%必 要 で あ り,分 娩 件 数 が100件 近 くに な る と,ベ ッ ド数 が5床 の と き に ベ ッ ドの 稼 働 率 が32%必 要 とな り,分 娩 件 数 が 150件 前 後 に な る と,ベ ッ ド数 が7床 の と き にベ ッ ドの 稼 働 率 が35%必 要 とな る。 言 い 換 えれ ば,ベ ッ ドの稼 働 率 を35%前 後 と想 定 した 場 合 に,必 要 な売 上 高 を満 た す た めの 必 要 な ベ ッ ド数 は,分 娩 件 数 が50∼60件 台 な ら ば3 床,100件 近 くに な る と5床,150件 前 後 で は7床 必 要 とな る。 V考 察 上 述 の 結 果 を踏 ま えて,助 産 院 の 経 営 パ ター ン と財 務 面 か らみ た そ の特 性 を明 らか に しな が ら, 助 産 院 の経 営力 を向 上 させ るた め の 方策 を探 る。 助 産 院 が そ の経 営力 を高 め存 続 ・成 長 して い くた め に は,助 産 院 の存 在 意 義 を高 め な が ら,市 場, 消 費 者 ニ ー ズ に対 応 し,経 営 の安 定 を図 る こ とが 必 要 で あ る。 1助 産 院 の 経 営 内 容 の 特 性 と経 営 計 画 策 定 6事 例 の 人 事 体 制 の実 態 を も とに,分 娩 件 数 と 常勤 助 産 師 お よ びパ ー ト助 産 師 数 の関 係 を推 測 す る と,分 娩 件 数50件 まで が 常 勤 の 助 産 師1名 とパ ー ト助 産 師 が1名 ,分 娩 件 数 が50件 を超 え100件 表6事 例 にみ る年 間取 扱分 娩件数 規模 別経 営パ ター ン まで は常 勤 の 助 産 師1名 とパ ー ト助 産 師 が2名, 分 娩件 数 が100件 を超 え150件 前 後 まで は常 勤 の助 産 師 が2名 で パ ー ト助 産 師 が1名 の 体 制 が 助 産 院 の基 本 パ タ ー ンで あ る と考 え られ る(表6)。 以 上 に よ り,分 娩 件 数 が100件,50件,さ ら に 25件 を大 きな 区切 りと し て,そ の経 営 内容 は 異 な っ て くる と推 測 され る(表6)。 また,費 用 に 占め る人 件 費 の割 合 が 高 い こ とか ら,常 勤 助 産 師 等 の人 件 費 に応 じた 一 定 以 上 の 売 上 高 の確 保 が必 要 で あ る。 言 い 換 えれ ば,予 測 さ れ る分 娩 件 数 に よ り適 正 な人 員 数 を考 え る こ とが 求 め られ る。 これ に よ り,分 娩 件 数 の見 込 み が立 て ば,年 間 売 上 高 の 予 測 が で き,固 定 費 や変 動費 の それ ぞれ の 大 まか な費 用 内訳 の算 出 とい っ た収 支計 画 や 業 務 別 の 要 員 計 画,さ らに はベ ッ ド数別 の稼 働 率 を 考 慮 した ベ ッ ド数 ・部 屋 数 な どか ら設 備 投 資 計 画 まで連 動 して策 定 す る こ とが 可 能 とな る。 また,逆 に初 期 投 資 の た め の資 金 調 達 額 が定 ま り設備 投 資計 画 が策 定 され れ ば,用 意 す るベ ッ ド 数 を も とに ベ ッ ド稼 働 率 を考 慮 して年 間売 上 高 見 込 み を算 出 し,収 支 計 画,要 員 計 画 が 策 定 で き る こ と とな る。 2助 産 院 経 営 力 向上 の た め の 方 策 1)損 益 分 岐 点 を上 回 る売 上 高 の 確 保 助 産 院 の存 在 意 義 と して の 地域 社 会 貢 献 を念 頭 に置 き なが ら,妊 産 婦 の ニ ー ズ に合 致 した サ ー ビ ス の提 供 に よ り,分 娩 費 と健 診 料 の 単 価 お よ び件 数 の確 保 を 図 る こ とが必 要 で あ る。 2)費 用 圧 縮 に よ る利 益 確 保 前 述 した 財 務 面 か ら見 た助 産 院 経 営 の 特 質 を踏 ま えて,費 用 圧 縮 の 方 向 を探 る。 (1)固 定 費 ① 固 定 費 の なか で 最 大 の課 題 とな る人 件 費 に つ い てみ る と,6事 例 の うち5事 例 にお い て,助 産 院 長 が 唯 一 の 常 勤 助 産 師 と して す べ て の 分 娩 に 携 わ って い る。 この 結 果 か ら,こ れ か らの 若 者 の 助 産 院 参 入 推 進 を考 え る と き,助 産 院 長 の 労 働 過 重 を軽 減 す るた め の方 策 と して,助 産 師 の 適 正 雇 用 数 を分 娩 件 数(市 場 規 模)と の 関 係 に お い て標 準 化 す る必 要 が あ る。 また,分 娩件 数 が 一 定 数 を超 え る と,常 勤 職 日本 助産 学 会誌 第16巻 第1号(2002.8) 45
員(助 産 師 お よび そ の 他 の 職 員)が 加 速 度 的 に 増 加 す る傾 向 に あ る こ とか ら,分 娩 件 数 の 時 期 的 変 動 に対 応 して,人 件 費 の 固 定 化 を最 小 限 に 抑 え変 動 費 化 す るた め に,パ ー トの助 産 師 を有 効 活 用 す る こ と も重 要 で あ る。 ② 費 用対 効 果 を考 えて,無 駄 な経 費 や 業 務 の 見 直 し を行 う。 ③ 助 産 院 を適 正 規 模 に す る こ とに よ り,リ ー ス料 や 賃 借 料 を最 小 限 に抑 え る。 (2)変 動 費 ① 費 用対 効 果 を考 え て,無 駄 な 経 費 を見 直 す。 ② 薬 品 や 衛 生 材 料 等 の 仕入 れ値 は妥 当か,必 要 量 以 上 に仕 入 れ て い な い か を確 認 す る。 (3)設 備 投 資 ① 売上 高 に影 響 を及 ぼ す諸 要 因,す なわ ち,設 備 の 規 模 ・内 容,立 地 環 境 や 市場 等 を調 査 ・把 握 し,投 資 可 能 額 や ベ ッ ド稼 働 率 を考 慮 し なが ら 投 資 額 を判 断 す る。 ② 設 備 は適 正 規模 と し,過 剰 投 資 を避 け るた め に 調 達 資 金 額 を考 え な が ら 「購 入 す る」 の か, 「賃 借 す る 」 の か検 討 す る。 (4)ベ ッ ド稼 働 率 売 上 高 とベ ッ ド稼 働 率,設 備 投 資(ベ ッ ド数) は相 互 に関連 して お り,分 娩 件 数 に対 し過 剰 投 資 とな らな い ベ ッ ド数 で 必 要 な売 上 高 を確保 す るた め に は,ベ ッ ドの 稼 働 率 が30∼37%は 必 要 で あ る。 VI今 後 の 課 題 以 上 に よ り,特 に現 在 の助 産 院 経 営 は,売 上 高 が 順 調 に伸 び て い って い る の で は な く,経 営規 模 が小 さい た め 生 業 的 な性 格 が強 く,大 きな 経 営 問 題 を抱 え る の は健 全 経 営 に とっ て の重 大 な 阻 害 要 因 とな る こ とが 明 らか に な っ た。 助 産 院 経 営 に当 た っ て は,通 常 の事 業 経 営 と同 様 の視 点 に立 ち, あ らか じめ経 営計 画 を策 定 し,収 益 性 の確 保 を見 込 ん だ 上 で実 行 す べ きで あ る と考 え る。 な お,今 回 の研 究 で は,6つ の助 産 院 の事 例 を 基 に分 析 を行 っ た が,6事 例 で は普 遍 的 な結 論 を 導 き出 す に は限 界 が あ る。 しか しなが ら,本 研 究 の 目的 で あ る助 産 院 経 営 の 方 向 性 を探 る た め の最 低 限 の 基 礎 資 料 を得 る こ と はで きた と思 う。 そ こで,今 後 さ らに助 産 院 の新 規 開 業 や 経 営 の 安 定 化 に資 す る た め,労 働 時 間 を考 慮 した 常 勤 助 産 師 の適 正 雇 用 人 数 と市 場 規 模(開 業 地 域 の 分 娩 件 数 予 測 〉 との 関 係 に お け る標 準 化 モ デ ル,さ ら に は取 扱 分 娩 件 数 規 模 別 の経 営 モ デル の 開 発 を 目 指 した い。 VII結 論 以 上,6事 例 の 財 務 分 析 の結 果,以 下 の知 見 を 得 た 。 1.費 用 の 内訳 は,変 動 費 比 率 が低 く,固 定 費 の 占 め る割 合 が 高 い 。 2.売 上 高 は,分 娩 件 数 に ほ ぼ比 例 す るが,分 娩 費 や 妊 婦 健 診 ・指 導料 金 の 単 価 に か な りの 差 が み られ る(分 娩 費 最 高33万 円,最 低25万 円)。 3.収 支 につ い て,分 娩 件 数50件 で は院長 報 酬 を 500万 円 前 後 に 抑 え れ ば,黒 字 を確 保 で き る。 ま た,分 娩 件 数 が100件 前 後 で は 院 長 報 酬 が 1,000万 円 の場 合 で も黒 字 を確 保 で き る。 4.必 要 売 上 高 と分 娩 件 数,ベ ッ ド稼 働 率 の 関 係 で は,分 娩 件 数 が50を 超 え60件 前 後 で は,ベ ッ ド数3床 の とき赤 字 に な らな い た め の ベ ッ ド稼 働 率 は 約30∼35%以 上 必 要 と な る。 分 娩 件 数90 件 前 後 で は,ベ ッ ド数4床 の ときベ ッ ド稼 働 率 は37%,5床 の と きは30%必 要 で あ る。 分娩 件 数130件 で は,ベ ッ ド数6床 の と きベ ッ ド稼 働 率 が37%,7床 の と きは32%必 要 とな る こ とが 示 唆 され た 。 5.借 入 金返 済 に必 要 な売 上 高 と分 娩 件 数,ベ ッ ド稼 働 率 の 関 係 で は,ベ ッ ドの 稼 働 率 を35%前 後 と想 定 した場 合,必 要 売 上 高 を満 た す た め に 必 要 な ベ ッ ド数 は,分 娩 件 数 が50∼60件 前後 な らば3床,100件 近 くな る と5床,150件 前後 で は7床 とな る。 謝辞 本 調査 に あた り ご協 力 い た だ いた6施 設 の助 産 院 長様 に心 よ りお礼 を申 し上 げ ます 。 なお,こ の研 究 は,平 成12年 度 日本 助 産 学 会 学術 研究 奨励助 成金 によ る もの であ る。 46 日本 助産 学 会誌 第16巻 第1号(2002.8)
引用文献
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