1.はじめに 2.虚偽供述自体と証拠隠滅等罪 3.虚偽供述が書面化された場合と証拠隠滅等罪 4.検討
1.はじめに
参考人の虚偽供述と刑法 104 条の証拠隠滅等罪を巡っては、虚偽供述自体に 証拠偽造罪が成立するか、虚偽供述が書面化された場合に証拠偽造罪が成立する かが争われてきた。虚偽供述が証拠偽造罪として問題になり得るケースとしては、 ①公判外で参考人が捜査機関に対して虚偽の供述を行った場合、②虚偽の供述が 録取され、捜査機関によって供述調書が作成された場合、③参考人ら自身が内容 虚偽の上申書等の供述書を作成する場合などがある。裁判例では、③の場合には 証拠偽造罪を認めるが、①の場合に証拠偽造罪を成立させることに消極であり、 また②の場合にも、証拠偽造罪の成立には消極的であった。学説においても、そ れと同様の立場を採るものが多数であったが、①や②でも証拠偽造罪を肯定する 見解も増えてきている。このようななか、特殊な事案ではあるが、最決平成 28 年 3 月 31 日刑集 70 巻 3 号 58 頁が、内容虚偽の調書作成に捜査機関である警 察官が積極的に関与している場合に証拠偽造罪の成立を認める判断を行った。 この平成 28 年決定は(詐欺被告事件でもあるが、証拠偽造被告事件について のみ扱う)、共犯者 A が被告人と相談しながら、D が覚せい剤を所持している状 況を目撃したという虚構の話を作り上げ、二人で警察署へ赴き、A の供述が虚偽 であるとわかっている B 警部補および C 巡査部長に対し、D の覚せい剤所持事中 村 悠 人
参考人の虚偽供述と証拠偽造罪
件の参考人として虚偽の目撃供述をしたうえ、C から覚せい剤所持の目撃時期が 古いと令状請求ができないなどと言われると、「適当に 2 か月ほど前に見たこと で書いとったらええやん」などという B の提案に従い、2 か月前にも D にあっ ていた旨の供述をし、その後も具体的な覚せい剤所持の目撃時期、場所につき被 告人の作り話に従って虚偽供述を重ねて、被告人と A が B、C と相談しながら 虚偽の供述内容を創作し、これに基づき C が供述調書を作成し、被告人と A は その内容を確認して署名押印をして、完成させたという事案である。 第一審は、証拠偽造につき有罪とし、原判決は、参考人である A が情を知ら ない捜査官の C をして内容虚偽の供述調書を作成させたのではなく、「本件供述 調書は、その実態において、供述調書の形式を利用して、被告人ら 4 名が共同 して創作した内容を書面化したものというべき」であり、「参考人が事情を知ら ない捜査官にした虚偽供述を録取した供述調書と同視することは到底できない」 として控訴棄却した1)。 平成 28 年決定は、これに対する上告につき、刑訴法 405 条の上告理由に当た らないとして上告を棄却したが、職権で次のように判断をした。すなわち、「他 人の刑事事件に関し、被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べ(刑訴 法 223 条 1 項)を受けた際、虚偽の供述をしたとしても、刑法 104 条の証拠を 偽造した罪に当たるものではないと解されるところ(大審院大正 3 年(れ)第 1476 号 同 年 6 月 23 日 判 決 ・ 刑 録 20 輯 1324 頁、大 審 院 昭 和 7 年(れ)第 1692 号同 8 年 2 月 14 日判決・刑集 12 巻 1 号 66 頁、大審院昭和 9 年(れ)第 717 号同年 8 月 4 日判決・刑集 13 巻 14 号 1059 頁、最高裁昭和 27 年(あ) 第 1976 号同 28 年 10 月 19 日第二小法廷決定・刑集 7 巻 10 号 1945 頁参照)、 その虚偽の供述内容が供述調書に録取される(刑訴法 223 条 2 項、198 条 3 項 ないし 5 項)などして、書面を含む記録媒体上に記録された場合であっても、 そのことだけをもって、同罪に当たるということはできない。」としつつ、「しか しながら、本件において作成された書面は、参考人 A の C 巡査部長に対する供 述調書という形式をとっているものの、その実質は、被告人、A、B 警部補及び C 巡査部長の 4 名が、D の覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求の 1)大阪高判平成 26 年 11 月 26 日刑集 70 巻 3 号 108 頁以下。
ための証拠を作り出す意図で、各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作、具体 化させて書面にしたものである。このように見ると、本件行為は、単に参考人と して捜査官に対して虚偽の供述をし、それが供述調書に録取されたという事案と は異なり、作成名義人である C 巡査部長を含む被告人ら 4 名が共同して虚偽の 内容が記載された証拠を新たに作り出したものと言え、刑法 104 条の証拠を偽 造した罪に当たる」としたのである2)。 これまで、虚偽供述自体に証拠偽造罪が成立するか、そして、虚偽供述が書面 化された場合に証拠偽造罪が成立するかが問題となる事例で判断を示した最高裁 判例がみられなかったところ、本決定は注目すべき点を多々含んでいる。本稿で は、特に捜査機関に対する参考人の虚偽供述が争点となる事例を中心に検討を行 い、上記①ないし③の問題について検討を行いたい。
2.虚偽供述自体と証拠隠滅等罪
(1)判例・裁判例 (a)他人に虚偽の供述をさせる場合 大審院および最高裁では、他人に虚偽の証言をさせる場合に証拠隠滅等罪(証 憑湮滅等罪)の成立を否定している。まず大審院では、被告人自身またはその親 族が被告人に対する刑事被告事件について取調べられた証人に偽証を教唆した事 案において刑法 104 条の成立を否定してきた。例えば、大判大正 3 年 6 月 23 日刑録 20 輯 1324 頁は、「証憑湮滅の罪に付き所謂証憑の偽造とは証拠自体の 偽造を指称し証人の偽造を包含せざること勿論なり」(一部表現を改めている) としている3)。最高裁でも、最決昭和 28 年 10 月 19 日刑集 7 巻 10 号 1945 頁 2)最決平成 28 年 3 月 31 日刑集 70 巻 3 号 58 頁以下。本決定の評釈としては、前田雅 英「判批」捜査研究 785 号(2016 年)53 頁、門田成人「判批」法学セミナー 738 号 (2016 年)125 頁、成瀬幸典「判批」法学教室 430 号(2016 年)152 頁、永井善之 「判批」神沢法学巻 1 号(2016 年)77 頁、十河太朗「判批」刑事法ジャーナル 50 号 (2016 年)114 頁、同「判批」『平成 28 年度重要判例解説』(有斐閣、2017 年)178 頁等がある。 3)刑事被告人が自己の刑事責任を免れるため、証人に対して偽証を教唆した事案である。 被告人の親族が被告人に刑事責任を免れさせるために証人に対して偽証を教唆した事案が、被告人が他人を教唆して虚偽の証言をさせた事案において、「刑法 104 条の 証憑の偽造というのは証拠自体の偽造を指称し証人の偽証を包含しないと解すべ き」として証拠偽造罪の成立を否定している4)。 (b)証人の虚偽の陳述 さらに、証人の虚偽の陳述についても、刑法 104 条の成立には否定的である。 大判昭和 9 年 8 月 4 日刑集 13 巻 1059 頁は、被告人が被害者の娘に虚偽の供述 をするよう伝え、自身も予審判事の前で宣誓の上同内容の虚偽の陳述をしたとの 公訴事実について、第二点に偽証罪を認めつつ第一点につき証憑湮滅罪について は犯罪の証明がないとして無罪とした第二審に対する上告につき、上告を棄却し つつ次のように述べた。すなわち、「証人が法律に依り宣誓を為したると否とを 問わず判事に対し虚偽の陳述を為したる場合は勿論同人をして右の如く虚偽の陳 述を為さしめたる場合の如きは共に刑法第 104 条を以って処罰すべきものに非 ず」(一部表現を改めている)として、証拠隠滅等罪の成立を否定している。 (c)参考人への虚偽供述の要求 参考人との関連では、参考人への虚偽供述の要求について、証拠隠滅等罪を否 定している裁判例がある。大阪地判昭和 43 年 3 月 18 日判タ 223 号 244 頁は、 捜査中の被疑事件の参考人に対し逃避を勧め、また参考人に対して虚偽の供述を 求めた事案において、次のように判断している。すなわち、①犯人隠避罪と比較 しつつ参考人が実際に逃避しなかったときは証憑を湮滅したには当たらず、また、 参考人に虚偽の供述を求める行為については、証拠に人証は含むが証拠方法とし ての人証に限られ証拠資料まで包含しない点、②偽証罪の立法趣旨から宣誓をし ない者の虚偽供述を処罰しないと解される点、③出頭や供述を拒む自由を有する として、大判昭和 8 年 2 月 14 日刑集 12 巻 66 頁も参照。 4)もっとも、偽証罪の教唆は認めている。同決定によれば、「被告人自身に黙秘権があ るからといつて、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆の責を免れ」ず、 「本件につき証人 A が所論の如く証言拒絶権があるとしても同証人は拒絶権を拠棄し宣 誓の上虚偽の証言をしたものであるから偽証罪の成立したものというべく被告人が右証 人を教唆して偽証させたときは偽証教唆の責を免れない」とする。なお、最決昭和 27 年 2 月 14 日集刑 60 号 851 頁も参照。
参考人の虚偽供述を刑法 104 条により処罰することができてない点から、証憑 湮滅罪には当たらないとした。また、宮崎地日南支判昭和 44 年 5 月 22 日刑月 1 巻 5 号 535 頁は、参考人に対して虚偽の供述を求めた点につき、④偽証罪に は自白による刑の減免があるが刑法 104 条にはない点、⑤証人等威迫罪は虚偽 の供述を強制する場合にも成立するが刑法 104 条より軽く、強制によらない虚 偽供述の依頼は不可罰と解される点などから、証拠隠滅等罪またはその教唆罪の 成立を否定している5)。 (d)参考人による虚偽供述 裁判所は、参考人による捜査官への虚偽供述自体にも証拠隠滅等罪の成立に消 極的である。千葉地判平成 7 年 6 月 2 日判例時報 1535 号 144 頁は、被告人が、 他人 Y の刑事被疑事件(覚せい剤取締法違反被告事件)につき参考人として取 調べを受けた際、Y から頼まれて、自分が Y に風邪薬だと言って覚せい剤入り のカプセルを渡したと虚偽の事実を述べて、内容虚偽の検察官調書が作成された という事案において、前述の裁判例を参照しつつ、「参考人が捜査官に対して虚 偽の供述をすることは、それが犯人隠避罪に当たり得ることは別として、証憑偽 造罪には当たらないものと解するのが相当である」としている。 また、同事案の Y の刑事被告事件につき、千葉地判平成 8 年 1 月 29 日判例 時報 1583 号 156 頁も、⑥虚偽供述が刑法 104 条の罪に該当するならば処罰範 囲が非常に広範で不明確となる点、⑦宣誓無能力者は宣誓をさせても真実の供述 を期待することができないとして宣誓をさせずに証言させるものであるから、刑 法 104 条の罪の刑罰をもって真実の供述を強制することは妥当ではない点、⑧ 虚偽供述が刑法 104 条の罪に該当するならば、捜査官が参考人から事情聴取を する際に捜査官の見解と異なる供述がなされれば本罪の嫌疑が生じるため、参考 人の記憶に反する供述が導かれる虞がある点、⑨人の供述は不誠実で移ろいやす く往々にして虚偽を含むが、供述は物的証拠と比較して司法作用を侵害する程度 は低いため、刑法は虚偽供述を偽証と虚偽告訴(刑法 172 条)に限って処罰す る趣旨と解される点を挙げて、参考人の虚偽供述自体への証憑湮滅罪の成立を否 5)なお、前述の大判昭和 9 年 8 月 4 日を引用しつつ、刑法 104 条と 169 条を択一関係 としている。
定している。 そして、前述の平成 28 年決定も参考人の虚偽供述自体に刑法 104 条の成立を 認めることに消極的である。以上のように、宣誓をしない証人の偽証や参考人の 虚偽供述自体は、証拠隠滅等罪にはならないというのが判例の傾向と言えよう。 (2)学説 学説でも、参考人の虚偽供述自体に証拠隠滅等罪を成立させることに消極的な 見解が多い6)。理由としては、①刑法 104 条の「証拠」には証拠資料は含まれな い点、②捜査段階における参考人の出頭および供述を拒む自由、③刑法 169 条 の偽証罪との関係、④刑法 105 条の 2 の証人威迫罪との関係が挙げられている。 これに対して、特に検察実務家を中心に7)、上記①から④に反論する形で積極説 6)小野清一郎『新訂刑法講義各論(第 3 版)』(有斐閣、1950 年)34 頁、瀧川幸辰『刑 法各論』(世界思想社、1951 年)280 頁、団藤重光編『注釈刑法(3)各則(1)』(有 斐閣、1965 年)130 頁[香川達夫]、平野龍一『刑法概説』(東京大学出版会、1977 年)287 頁、中谷瑾子「犯人による偽証教唆」西原春夫ほか編『判例刑法研究 7』(有 斐閣、1983 年)70 頁、団藤重光『刑法綱要各論(第 3 版)』(創文社、1990 年)87 頁注 5、前田雅英「参考人の虚偽供述と証拠偽造罪」研修 574 号(1996 年)12 頁、 岩間康夫「判批」松尾浩也ほか編『刑法判例百選 II 各論(第 4 版)』(有斐閣、1997 年)231 頁、井田良「司法作用の刑法的保護」山口厚ほか『理論刑法学の最前線 II』 (2006 年)202 頁、林幹人『刑法各論(第 2 版)』(東京大学出版会、2007 年)465 頁 等。伊藤司「判批」平野龍一ほか編『刑法判例百選 II 各論(第 3 版)』(有斐閣、1992 年)223 頁以下、藤岡一郎「判批」西田典之ほか編『刑法判例百選 II 各論(第 5 版)』 (有斐閣、2003 年)242 頁以下も参照。 7)小島吉晴「新判例研究(第 189 回)」研修 518 号(1991 年)30 頁以下、加藤康榮 「参考人の虚偽供述と証憑隠滅罪の成否」研修 526 号(1992 年)97 頁以下、井上宏 「新判例解説(第 231 回)」研修 562 号(1995 年)36 頁、尾﨑道明「判例研究」研修 569 号(1995 年)19 頁、河 村 博「刑 事 判 例 研 究〔281〕」警 察 学 論 集 48 巻 12 号 (1995 年)176 頁等を参照。 8)内田文昭『刑法各論(第 3 版)』(青林書院、1996 年)655 頁、奥村正雄「判批」判 例セレクト ’95(有斐閣、1996 年)40 頁、藤岡・前掲(注 6)243 頁、伊東研祐「参 考人の虚偽供述と証拠偽造罪」現代刑事法 5 巻 10 号(2003 年)35 頁、堀内捷三『刑 法各論』(有斐閣、2003 年)320 頁、只木誠「参考人の虚偽供述と証拠偽造罪」西田 典之ほか編『刑法の争点』(有斐閣、2007 年)256 頁、大塚仁『刑法概説 各論(第 3 補訂版)』(有斐閣、2008 年)598 頁。また、中森喜彦「判批」判例時報 1597 号(判 例評論 460 号)(1997 年)238 頁、山口厚『問題探究刑法各論』(有斐閣、1999 年) 291 頁等も参照。
も主張されている8)。また、基本的には虚偽供述に証拠隠滅等罪が成立すること に消極的ながらも、限定的に証拠隠滅等罪の成立を認める見解もある9)。 まず、①については、刑法 104 条にいう「証拠」は、人証は含むものの、そ れは取り調べの対象となる物理的存在たる証拠方法に限られ、参考人の供述や記 載内容といった証拠方法から認識された無形の内容である証拠資料までは含まれ ないというものである10)。これに対しては、証拠資料も犯罪の成否や刑の量定の 基礎となる以上、「証拠」に含めるべきであるとの反論がなされている11)。すな わち、旧刑法 152 条は「他人ノ罪ヲ免レシメンコトヲ図リ其罪証ト為ル可キ物 件ヲ隠蔽シタル者」だけを処罰対象としていたが、現行刑法は「客体が『物件』 から総ての『証憑』とされ、行為が『隠蔽』ではなく証憑の『湮滅及び偽造・変 造』に拡大されたことからは、『証憑』それ自体の顕出を妨ぐことに加え、その 内容の正確性をも確保することが射程に入れられたと考えるのが素直なように思 われる。そのように考えると、証憑は物理的存在に限るとか、証憑とは証拠方法 を意味し、証拠資料を含まないと解することは、立法者意思に合わないことにな りそうである」とする12)。 9)例えば、藤木英雄『刑法講義各論』(弘文堂、1973 年)42 頁は、「捜査機関に対して 虚偽の供述をするよう申し合わせることは、証憑湮滅にあたると解すべきであろう」と しており、また、江家義男『刑法各論(増補版)』(青林書院新社、1963 年)43 頁以 下は、「宣誓しない証人・参考人を偽作して、つまり、事実の見聞者でない者を見聞者 の如く仕立てて虚偽の陳述をさせたような場合に限り、証憑偽造罪として処罰すべきで ある」とする。さらに、柏木千秋『刑法各論(再版)』(有斐閣、1965 年)109 頁は 「とくに積極的かつ高度の態様の行為に限り本罪となるものと解すべきであろう」とす る。 10)平野・前掲(注 6)287 頁、浅田和茂「犯人蔵匿・隠避罪の保護法益と危険概念」 現代刑事法 5 巻 10 号(2003 年)7 頁。 11)なお、大判明治 44 年 3 月 21 日刑録 17 輯 445 頁では証人を証拠に含めている。 12)井上・前掲(注 7)35 頁。 13)旧刑法のこの規定は、その影響を強く受けたフランス刑法にも存在せず(当時重罪 の不告発罪はあったが、証拠隠滅関係の規定は存在しなかった)、また現行刑法が多く 影響を受けたドイツ刑法でも、犯人庇護罪で反射的に刑事司法作用を保護していたにす ぎず、司法作用を正面から保護法益とする規定は存在しなかったため、証拠隠滅罪はヨ ーロッパ刑法に淵源を持たない、日本独特の規定として成立したとされる(松宮孝明 「捜査機関に対する参考人の虚偽供述と証拠隠滅罪」立命館法学 246 号(1996 年) 502 頁以下)。なお、旧刑法の明治 10 年草案では、刑事事件の証拠となる死体のみに
もっとも、現行刑法 104 条の提案理由によれば、旧刑法からの改正13)で広が ったのは、行為態様のみであり、「証憑」は証拠物件に限られていた。すなわち、 「単に罪証湮滅の場合のみを規定し其適用甚だ狭きに失するを以て本案は之を修 正し総て他人の刑事被告事件に関する有罪若くは無罪の証憑を湮滅し又は偽造、 変造若くは偽造、変造の証憑を使用したる場合に関して広く其規定を設けた」 (一部表現を改めている)ものとされている14)。さらに、「証憑」は、治罪法や明 治刑訴法における「証拠徴憑」と同じであり15)、立案関係者による注釈では「証 憑」について「その湮滅または偽造変造は実質上物件に限り、証人を隠避せしむ る場合のごときは之を包含せざることは論をまたず」(一部表現を改めている) としていた16)。 次に、②については、捜査段階において、参考人は出頭および供述を拒む自由 を有しており、捜査官に対する参考人の虚偽供述に違法性はないという論拠であ る17)。これに対して、証拠隠滅等罪の成立を認める積極説からは、出頭や供述を しないという単なる不作為が許容されているに過ぎず、積極的に虚偽供述まで不 問に付すべき理由とはならないと反論する18)。 この点は、宣誓をしていない単なる参考人に真実供述義務を課すのが適切かと いう問題に関わる。千葉地判平成 8 年 1 月 29 日が指摘したように(前述の(1) (d)、虚偽の供述は、捜査・審判機関に対してだけでなく、弁護人や一般の私人 に対してもなされ得るのであり、関係する民事・行政手続でもなされ得る。その ような供述も当該刑事事件の捜査・審判手続に提出されることはあり得るため、 虚偽供述を証拠隠滅等罪として処罰する範囲が非常に広範囲で不明確なものとな ってしまう。さらに、虚偽供述に証拠隠滅等罪を認めると、捜査官等が既に収集 限定されていた。 14)倉富勇三郎ほか編『増補刑法沿革綜覧』(信山社、1990 年)2170 頁以下。 15)団藤・前掲(注 6(各論))86 頁。 16)田中正身『改正刑法釋義』(西東書房、1908 年)227 頁。 17)前掲大阪地判昭和 43 年 3 月 18 日。 18)加藤・前掲(注 7)90 頁以下。なお、宣誓および証言の強制されている証人の偽証 については法定刑の思い偽証罪が問題となるのに対して、供述を拒む自由を有する参考 人の虚偽の供述については法定刑の軽い証拠隠滅罪が成立するに過ぎないとする。さら に、十河太郎「犯人蔵匿罪と証憑湮滅罪の限界に関する一考察 ― 『隠避』概念の検討
した資料から一定の見解をもって取調べや事情聴取を行う場合、捜査官等の見解 とは異なる供述がなされたときには、証拠隠滅等罪の嫌疑が生じることになり、 参考人の記憶に反する供述が導かれるおそれがある19)。供述は不誠実で移ろいや すいのであり、司法作用が解される程度は高いものではない20)。このような点か らは、参考人に真実供述義務を課すのは適切ではないであろう。 さらに、刑訴法上、捜査機関が参考人に真実供述義務を課して供述を得たい場 合には、第 1 回公判期日前に限り、裁判官に証人尋問を請求し、宣誓の上で証 言を求めることができる(刑訴法 226 条、227 条)。また、被告人、被害者また は弁護人は、証拠保全として、第 1 回公判期日前に限り、同様に裁判官に証人 尋問を請求することができる(同法 179 条)。さらに、刑訴法 350 条の 2 第 1 項の合意制度は、真実の供述をすることの合意を認め、同法 350 条の 15 第 1 項で合意に違反して虚偽の供述をしたときの罰則がある。これらの規定からする と、刑訴法上、参考人に刑罰で担保された真実供述義務が課されてはいないこと を前提にしていると理解するのが相当となる21)。 また、③ついては、偽証罪(刑法 169 条)が宣誓をした証人の偽証のみを対 象としている以上、宣誓をしていない証人による虚偽供述はもちろん、参考人が 捜査官に対して為した虚偽供述も不可罰とするべきというものである22)。さらに、 偽証罪における自白による刑の減免規定(刑法 170 条)があるが、それより可 罰性の低い証拠隠滅等罪で相応する規定がないことからすれば、刑法 104 条は 虚偽供述自体を対象としておらず、そうでなければ不均衡が生じることになる23)。 そして、④については、証人威迫罪は虚偽供述を強制する行為をも処罰するが、 を中心として ― 」同志社法学 46 巻 5 号(1995 年)116 頁も参照。 19)伊東研祐・松宮孝明編『新・コンメンタール刑法』(日本評論社、2013 年)201 頁 [三島聡]を参照。 20)前掲千葉地判平成 8 年 1 月 29 日、岩間・前掲(注 6)231 頁、林・前掲(注 6) 465 頁。 21)野原俊郎「最高裁判所判例解説」法曹時報 69 巻 10 号(2017 年)370 頁注 10 を参 照。 22)前掲大阪地判昭和 43 年 3 月 18 日。香川達夫『刑法講義(各論)(第 3 版)』(成文 堂、1996 年)86 頁や中谷・前掲(注 6)70 頁は、この場合、偽証罪と証拠隠滅罪は 択一関係になるとする。 23)前掲宮崎地日南支判昭和 44 年 5 月 22 日。
本罪の法定刑は証拠隠滅等罪よりも軽いことからすれば、虚偽供述を求める行為 は強制の要素が加わってはじめて可罰的足り得ることになる(強制の要素のない 単なる虚偽供述の依頼は不可罰と解さなくてはならない)というものである24)。 これに対しては、証人が宣誓により証言する場合は重い法定刑の偽証罪が、宣 誓なしに証言する場合は軽い証拠隠滅等罪で処罰されると解することも可能であ るから、偽証罪の存在が必ずしも参考人の虚偽供述を不可罰とする根拠となるわ けではないと反論されている25)。証人に偽証させる場合も証拠隠滅行為の一種で あるとするならば、偽証罪が成立する場合は、法条競合の特別関係によって証拠 隠滅等罪が成立しなくなるに過ぎないことになる26)。そして、偽証罪の自白によ る刑の減免規定は、証拠隠滅等罪に比して罪質の重い偽証罪が実行されるのを未 然に防ごうとする政策的理由によるものであり、偽証罪における自白による刑の 免除規定と証拠隠滅等罪の成立範囲とは次元の異なる問題であるとする27)。また、 証人威迫罪についても、その保護法益は刑事司法作用だけでなく、刑事事件の証 人、参考人またはその親族の私生活の平穏をも含んでおり、証人威迫罪と証拠隠 滅等罪とは罪質を異にするとする28)。 偽証罪との関係では、自己の刑事事件の証拠を隠滅しても刑法 104 条の正犯 として処罰されず、同法 105 条で親族による特例が存在する(現在では任意的 な刑の免除事由だが、かつては処罰阻却事由であった)ため、供述が証拠に含ま れると、偽証を教唆した被告人らを不処罰とするか、または刑の免除をするかと いう問題も生じてしまう29)。その意味では、証拠を証拠方法に限り、証拠資料を 含めない方が良いように思われる。もっとも、供述それ自体が刑法 104 条の 「証拠」とはならないとしても、それ以外の刑事事件の処理に関する一切の資料 24)前掲宮崎地日南支判昭和 44 年 5 月 22 日。 25)小島・前掲(注 7)30 頁。 26)江家・前掲(注 9)43 頁、大塚・前掲(注 8)598 頁、大谷實『刑法講義各論(新 版第 4 版補訂版)』(成文堂、2015 年)605 頁。 27)加藤・前掲(注 7)91 頁。 28)加藤・前掲(注 7)92 頁。 29)証人に自己または親族の刑事事件に関する偽証を教唆したという裁判例で、供述を 証拠から除外するのは、偽証教唆で有罪とされた被告人側からの上告を斥ける意味を持 っていることになる(松宮・前掲(注 13)503 頁以下)。
は含まれる30)。 この点で、証拠隠滅等罪の保護法益を「公判における裁判の判断の適正さ」と 理解したうえで、「証拠」を「あくまでも裁判官の判断に影響を与える形態、す なわち公判廷に顕出される形態でなければならない」として、捜査段階における 供述それ自体は刑法 104 条にいう証拠にはならないとする見解がある31)。刑訴 法上、裁判所による事実認定に供することができるとする証拠には厳格な資格要 件が存在するにもかかわらず、捜査機関や訴追機関による事実の確認については 同様の制約を設けていないことからすると、この見解にも理由がある32)。 確かに、起訴・不起訴の判断も司法作用の重要な一部分であり、この妨害も同 様の可罰性が認められるべきという批判もあり得る33)。しかし、刑事裁判におけ る一方当事者である捜査機関により採取される供述に、捜査機関によって採取さ れてもそのまま証拠としての価値が認められる非供述の非伝聞証拠と同様の刑法 的保護を与えることは疑問である34)。この点は、後述するが、供述が書面にまと められた場合でも共通の問題である。そこで、次に、虚偽の供述が書面化された 30)大判昭和 10 年 9 月 28 日刑集 14 巻 997 頁。 31)深町晋也「司法に対する罪」山口厚ほか編『クローズアップ刑法各論』(成文堂、 2007 年)104 頁以下。この見解の前提には、証拠隠滅罪の保護法益が抽象的なものと して把握されたことから、証拠概念を規定する機能を果たさなかったという問題意識が ある。この見解からは、捜査段階における参考人の虚偽供述自体は刑法 104 条の「証 拠」とならないが、供述調書として書面化されれば同条の「証拠」となるとし、また公 判における供述も同条の「証拠」となるとする(106 頁)。この点、杉本一敏「司法作 用に対する罪」曽根威彦・松原芳博編『重点課題 刑法各論』(成文堂、2008 年)237 頁以下も「証拠」を「事実を証明するための根拠」として、刑法 104 条の「証拠」を 「本犯の刑事被告事件において公判廷に提出され得る証拠」と解し、法廷に直接登場し ない虚偽供述は「証拠」の偽造ではないが、供述録取書や上申書等の書面はそのままの 形で法廷に登場し得ることから「証拠」となるという(247 頁。なお、248 頁注 14 に おいて、捜査官に対する口頭での虚偽供述を聴取した捜査官が証人として内容を法廷で 証言する場合(刑訴法 324 条 2 項参照)は、証拠偽造罪の成立を否定する。)。 32)佐川友佳子「虚偽供述と証拠偽造」井田良ほか編『山中敬一先生古稀祝賀論文集 [下巻]』(成文堂、2017 年)346 頁。 33)阿部純二「判批」警察研究 34 巻 3 号(1963 年)105 頁。 34)安田拓人「司法に対する罪」法学教室 305 号(2006 年)75 頁以下、伊藤渉ほか 『アクチュアル刑法各論』(弘文堂、2007 年)485 頁[安田拓人]。また、伊東研祐 『現代社会と刑法各論(第 2 版))』(成文堂、2002 年)459 頁も参照。
場合を検討する。
3.虚偽供述が書面化された場合と証拠隠滅等罪
(1)判例・裁判例 虚偽供述が書面化されるのは、自らで内容虚偽の供述書、上申書等を作成する 場合もあれば、捜査機関によって虚偽の供述が録取されて書面化される場合もあ る。判例は、参考人が自ら虚偽の内容の上申書を口頭による陳述に代えて作成し、 捜査機関に提出したような場合、証拠隠滅等罪を認めている。東京高判昭和 36 年 7 月 18 日東京高裁判決時報(刑事)12 巻 8 号 13 頁は同種の事案で、証拠隠 滅等罪を認めている。また、東京高判昭和 40 年 3 月 29 日高刑集 18 巻 2 号 126 頁は、他人の刑事事件の参考人として検察官から上申書の作成、提出を求 められた被告人が、虚偽の内容を記載した上申書を作成、提出した事案において、 「たとえ虚偽の内容を記載した文書の作成名義にいつわりがなく又その文書の作 成が口頭による陳述に代えてなされた場合であるとしても、本件のように参考人 が虚偽の内容を記載した上申書を作成しこれを検察官に提出すれば、刑法第 104 条にいう証憑を偽造使用したことになる」としている。 これに対して、参考人が捜査官に虚偽供述をして、それに基づき内容虚偽の供 述調書を作成させた場合につき、証拠隠滅等罪の成立に消極的な裁判例として、 いずれも前述の千葉地判平成 7 年 6 月 2 日と千葉地判平成 8 年 1 月 29 日があ る。平成 7 年判決は、「形式的には、捜査官を利用して同人をして供述調書とい う証憑を偽造させたものと解することができるように思われる。しかし、この供 述調書は、参考人の捜査官に対する供述を録取したにすぎないものであるから (供述調書は、これを供述者に読み聞かせるなどして、供述者がそれに誤りのな いことを申し立てたときは、これを署名押印することを求めることができるとこ ろ、本件にあっても、被告人が供述調書を読み聞かせられて誤りがないことを申 し立て署名押印しているが)、参考人が捜査官に対して虚偽供述をすることそれ 自体が、証憑湮滅罪に当たらないと同様に、供述調書が作成されるに至った場合 であっても、やはり、それが証憑偽造罪を構成することはあり得ないものと解す べきである」とする。そして、平成 8 年も、前述(2.(1)(d)の理由をあげて、積極説を前提とすると、参考人の記憶に反し捜査官に迎合するような供述が導か れるおそれがあるとして、証拠隠滅等罪の成立を否定した。 なお、捜査機関に対する虚偽供述についての先例ではないが、大判昭和 12 年 4 月 7 日刑集 16 巻 517 頁は、民事裁判の被告が、他人の刑事裁判の証拠に利用 するため、虚偽の債務の請求を認諾し、これを口頭弁論調書に記載させた場合に、 証拠偽造罪を認めたものがある。これは、公判廷での訴訟行為としての認諾の事 案であり、民事原告である被告人の虚偽の請求に対し、民事被告である共犯者が 虚偽の認諾をして裁判所書記官に認諾調書を作成させた事案である。 このように、判例の傾向としては、供述に代えて自ら虚偽の上申書等の供述書 を作成して提出する場合には証拠隠滅等罪に当たるが、参考人が捜査官に虚偽供 述をして供述調書を作成させる行為については、基本的には消極的である35)。こ の点で、前述の平成 28 年決定は、被告人、A、B 警部補及び C 巡査部長の 4 名 が、D の覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り 出す意図で、各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作、具体化させて書面にし た場合、「4 名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したもの と言え、刑法 104 条の証拠を偽造した罪に当たる」とした36)。 本件は、参考人として取調べを受けた際に虚偽の供述をしても証拠隠滅等罪に ならず、またその虚偽の供述内容が供述調書に録取される等書面を含む記録媒体 上に記録された場合でも、そのことだけをもって、刑法 104 条にはならないと いう基本的立場を、傍論ではあるが最高裁が明確にしており、これについては従 前の裁判例の動向とも合致する。他方で、裁判例は捜査官が供述を聴取する供述 録取書と、参考人らが自ら作成する供述書とは異なるものとして評価してきた。 千葉地裁平成 8 年判決も、なお書きにおいて、参考人自身による内容虚偽の供 述書の作成のような事案は「供述が書面等に転化した場合ではない」とし、虚偽 供述が書面化された場合とは異なるために矛盾するものではないとしている。平 35)大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第 6 巻(第 3 版)』(青林書院、2015 年) 368 頁[仲家暢彦]は、供述に代えて書面を作成した場合や、単なる供述録取書を超 えて、執行力等を備えて請求認諾書のようにそれ自体として独立した価値を有する書面 が作成された場合には、「証拠を偽造した」に該当すると理解する。 36)最決平成 28 年 3 月 31 日刑集 70 巻 3 号 58 頁以下。
成 28 年決定は、どのように位置づけるのが適切かを検討するために、次に学説 の状況を整理したい。 (2)学説 虚偽の内容の供述が供述調書や供述書として書面化された場合に、証拠隠滅等 罪を認める積極説は多い。この結論は、参考人の虚偽供述自体につき証拠隠滅等 罪の成立を認める見解から主張されることもあれば、虚偽供述自体に証拠隠滅等 罪を否定する立場からも主張されることもある。また、虚偽供述が書面化された 場合にのみ刑法 104 条の成立を認める見解や、自ら内容虚偽の上申書等の供述 書を作成した場合にのみ同条の成立を認める見解もある。 (a)積極説 まず、参考人の虚偽供述も書面化された場合もいずれも証拠隠滅等罪となると いう見解は37)、刑法 104 条の「証拠」を一切の証拠資料と理解し、虚偽供述を 自己の記憶・体験に即した供述の顕出を妨げるという意味において証拠の「隠 滅」行為に他ならないとする38)。そして、目撃者や参考人からの事情聴取が捜査 活動の中心となっている現在の捜査実務の下では、捜査官に対する虚偽供述は刑 事司法作用に対する重大な侵害行為であり。これを不可罰とするのは相当ではな い、つまり、供述自体であれ供述書であれ虚偽の内容を含むものであれば適正な 刑事司法作用への侵害が程度の差こそあれ発生しているとする39)。さらに、刑訴 法上も供述書と供述調書は同一に扱われており、捜査への影響を考えても可罰性 に決定的違いがあるとは言えないため、供述調書に限定することは疑問であり、 他方、供述は供述調書にとられるのが通例であるところ、書面化された場合に限 定して両者の間に処罰範囲の限界を画する見解にも疑問があるとする。 積極説からは、平成 28 年決定の事案では証拠偽造罪が認められることになろ うが、書面化されていなかったとしても虚偽供述をしている点で、証拠偽造罪と なろう。そうすると、虚偽供述自体は刑法 104 条の罪に当たらないという平成 37)さしあたり、奥村・前掲(注 8)40 頁、只木・前掲(注 8)256 頁。 38)小島・前掲(注 7)30 頁、井上・前掲(注 7)34 頁以下。 39)尾崎・前掲(注 7)15 頁。
28 年決定のスタンス(もっとも、傍論ではある)とは異なることになる。 (b)限定積極説 これに対し、(i)書面に限定して、あるいは(ii)供述書に限定して証拠隠滅 等罪の成立を認める見解がある。 まず、(i)書面限定説は、偽証罪に該当しない虚偽供述の全てを処罰の対象か ら外すべきではないとし、虚偽供述が文書化された場合には証拠として否定し難 い重要性を獲得するのであり、積極的に内容虚偽の供述書を作成し提出する行為 と、虚偽供述が録取された供述調書に署名押印する行為とを区別する理由はない とする40)。もっとも、虚偽供述自体につき証拠隠滅等罪を消極に考える立場から 主張される場合と、理論的には虚偽供述自体を証拠隠滅等罪と解する余地もある が限定をかけるという積極説の立場から主張される場合がある。これは宣誓をし ていない単なる参考人に真実供述義務を課すことに肯定的か、否定的かの相違に 関連する。 積極説からは、虚偽供述自体が証拠隠滅等罪になり得ることを認めつつ、処罰 範囲を限定するという観点から、虚偽供述が文書化されて客観的存在となった場 合だけ、証拠隠滅等罪の成立を認める41)。他方で、消極説からは、積極説では参 考人が捜査官に供述する場合も一般的に真実義務が課されることになり、処罰範 囲の拡大と不明確化を招くから、証拠隠滅等罪の客体としての証拠は有体物とし ての証拠方法に限られるべきであるとする。そして、虚偽供述が捜査官によって 録取され、供述調書が作成されたときに署名をすることで、供述調書という証拠 を偽造したことになるとする42)。 40)河村・前掲(注 7)176 頁、中森・前掲(注 8)241 頁、杉本・前掲(注 31)247 頁以下、曽根威彦『刑法各論(第 5 版)』(弘文堂、2012 年)303 頁、山中敬一『刑法 各論(第 3 版)』(成文堂、2015 年)806 頁、髙橋則夫『刑法各論(第 3 版)』(成文堂、 2018 年)649 頁。なお、深町・前掲(注 31)106 頁以下も参照。 41)十 河 ・ 前 掲(注 18)119 頁、今 井 猛 嘉 ほ か 編『LEGAL QUEST 刑 法 各 論(第 2 版)』(有斐閣、2013 年)434 頁[今井猛嘉]、大谷・前掲(注 26)606 頁、山口厚 『刑法各論(第 2 版)』(有斐閣、2010 年)588 頁、西田典之『刑法各論(第 6 版)』 (弘文堂、2012 年)464 頁、同(橋爪隆補訂)『刑法各論(第 7 版)』(弘文堂、2018 年)488 頁。 42)井田・前掲(注 6)203 頁、同『講義刑法学・各論』(有斐閣、2016 年)561 頁。
次に、(ii)供述書限定説は、虚偽供述が行われたにとどまる場合や供述調書 が作成された場合には証拠隠滅等罪は成立しないが、自ら内容虚偽の供述書を作 成した場合には同罪が成立するという見解である43)。この見解は、基本的に虚偽 供述自体への証拠隠滅等罪の成立も消極的であるが、虚偽の上申書等の供述書に ついては、供述とは異なることを強調する。すなわち、供述調書は供述を確認し たに過ぎない受け身的色彩が濃く、これを処罰することは虚偽自体を処罰するの に等しいこと、他方で、供述書は内容における明確性、確実性、再認の容易性、 変更の困難性といった点で供述とは異なり、自ら文書にしたという積極的な行為 の場合には、不真正の証拠を作出したと解釈しやすく、また保護法益の侵害性の 程度も高い点、その処罰によって捜査協力を委縮させる程度は低い点を挙げる44)。 さらに、取調べ中に供述書を作成する場合、迎合的な内容の供述書が作成され る虞があるため、「証拠偽造罪の成立する範囲は、『取調べ以外の場で』内容虚偽 の供述書が作成された場合に限定すべきであろう」という見解もある45)。 限定積極説からは、平成 28 年決定の事案につき、(i)書面限定説では刑法 104 条は成立しよう。また、(ii)供述書限定説では否定される余地はあろうが、 当該事案では供述調書が受け身的色彩の濃い供述を確認したに過ぎないものでは なお、飯島暢「判批」西田典之ほか編『刑法判例百選 II 各論(第 6 版)』(有斐閣、 2008 年)257 頁も参照。 43)前田・前掲(注 6)8 頁、斎藤信治『刑法各論(第 4 版)』(有斐閣、2014 年)319 頁以下。 44)同上。 45)亀井源太郎「判批」山口厚・佐伯仁志編『刑法判例百選 II 各論(第 7 版)』(有斐閣、 2014 年)246 頁。
なく、自ら文書にしたに等しいとして、積極に解することになろう。平成 28 年 決定は、(傍論ながら)参考人が虚偽供述をしてそれに基づき供述調書が作成さ れた場合には証拠偽造罪は成立しない旨を示しており、この点は供述書限定説の 方が親和的である。他方で、平成 28 年決定のいう被告人ら「4 名が、D の覚せ い剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で、各 人が相談しながら虚偽の供述内容を創作、具体化させて書面にしたものである。 このように見ると、本件行為は、単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述を し、それが供述調書に録取されたという事案とは異なり、作成名義人である C 巡査部長を含む被告人ら 4 名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに 作り出したもの」であるとの理解も、供述書限定説に親和的であろう。 (c)消極説 参考人の虚偽供述自体につき証拠隠滅等罪の成立を否定する消極説を徹底する 場合、虚偽供述はもちろん、それが供述調書や供述書として書面化された場合で あっても、証拠隠滅等罪は成立しないとする見解が主張されている46)。消極説に もいくつかのヴァリエーションがあるが、真実供述義務を刑罰で担保することを 疑問視しつつ、公判期日外の供述が伝聞証拠として原則的に証拠能力が否定され ていることを重視している47)。供述には虚偽の内容が類型的に紛れ込んでいるも のであり48)、それを処罰すると捜査への不協力や捜査官に迎合的な供述をするこ と49)、伝聞法則や直接主義、口頭主義といった刑訴法の理念からすれば捜査段階 での虚偽供述を処罰する必要性がないこと50)が理由としてあげられる。 また、刑法 104 条の偽造を文書偽造と同じく「有形偽造」と解し、証拠隠滅 46)松原芳博『刑法各論』(日本評論社、2016 年)568 頁以下。なお、刑事手続外で作 成された書面については、日記や業務日誌、公的文書等の類型的に証拠価値の高い証拠 方法の作出に限って「証拠」の偽造に当たると解すべきであるとする(569 頁)。 47)香川達夫・川端博編著『新判例マニュアル 刑法 II[各論]』(三省堂、1998 年)251 頁[酒井安行]。 48)岩間・前掲(注 6)231 頁、林・前掲(注 6)465 頁。 49)飯島・前掲(注 42)257 頁を参照。 50)伊藤司「判批」『平成 7 年度重版』(有斐閣、1996 年)142 頁、伊東・前掲(注 34) 459 頁。
等罪の成立を否定する見解も主張されている51)。これは、刑訴法の観点からすれ ば捜査機関の判断をそのまま保護することは訴訟構造に反することから、証拠偽 造罪の射程を裁判官に対するものに限定するものである。 消極説からは、平成 28 年決定の事案でも証拠偽造罪の成立を否定することに なろう。参考人の虚偽供述が供述調書にまとめられただけでは、同罪とならない としている点では平成 28 年決定と共通するものの、結論において証拠偽造罪を 認めている点では矛盾する。もっとも、消極説からは、刑法 104 条の罪の成立 が否定されても、後述のように他罪の余地は残る。
4.検討
虚偽供述自体もそれが書面化された場合も可罰性を認める積極説は、証拠隠滅 等罪にいう「証拠」を証拠方法のみならず証拠資料も含む。証拠隠滅等罪の保護 法益を捜査、審判段階までの次元における国家の刑事司法作用の適正かつ円滑な 機能ないし運営とし、それを「証拠」の適正利用の確保を通じて保護しようとす るという、目的論的解釈を行っている52)。もっとも、前述のように(2.(2))、 証拠に証拠資料を含める場合、処罰範囲が格段に広がることになる。そこで、故 意の要件で限定をかける見解53)や、「証拠偽造罪が成立するには国の刑事司法作 用という法益を侵害する抽象的危険を生ぜしめたことが必要となる」という制限 をかける見解54)、「『偽造』等というに相応しい不法実体を伴う態様の虚偽供述の みを捕捉する為の要件を定立する必要がある」として同一の法定刑の刑法 103 条の犯人蔵匿等罪と同程度の法益侵害の危険性を有し得る態様のものとする見 51)松宮・前掲(注 13)505 頁以下。 52)伊東・前掲(注 8)32 頁。「犯罪の複雑化・広域化・国際化・多発化等々の進む現在 の状況下においては、また、供述の記録/記憶方法等の進む現在の状況下においては」、 捜査活動の適正かつ円滑な運営ないし機能の保護を証拠隠滅等罪が担うべきとする (35 頁)。 53)中森・前掲(注 8)240 頁は、「虚偽供述が証拠偽造罪に当たるとすれば処罰範囲が 広範で不明確になるとする点は、供述者には刑事事件に用いられることの故意を要する 以上、大きな意味を持ち得ないであろう」とする。 54)十河太郎「内容虚偽の供述書と証拠偽造罪」同志社法学 49 巻 2 号(1998 年)47 頁 以下。解55)がある56)。 そのような限定をかける試み自体は適切であるとしても、問題は刑訴法におけ る供述証拠と非供述証拠の扱いの違いである57)。供述証拠は58)、体験した事実に つき、供述過程(知覚・記憶・表現・叙述)を経て事実認定者に到達するところ、 その各過程には誤謬が入り込むおそれがあるため、いわゆる伝聞法則(刑訴法 320 条 1 項)として59)、法は、①宣誓と偽証罪による処罰の予告、②不利益を 受ける相手方当事者による反対尋問、③裁判所による供述態度の観察によりその 信用性の検討・確認を得ている「公判期日における供述」に代えて、そのような 信用性の検討・確認を経ていない公判期日外の供述を、裁判所による事実認定の 基礎たり得る証拠として用いることを原則として禁じている60)。このことからす れば、参考人の供述は、少なくともそれが裁判において用いられる局面を考えれ ば、否定的な見解に至ることになる61)。 そうすると、刑法 104 条の「証拠」に「証拠資料」を含めたとしても、それ は「裁判官に認識ないし知覚された証拠の内容」に過ぎないから、裁判官の面前 55)伊東・前掲(注 8)36 頁。只木・前掲(注 8)257 頁も同旨。 56)なお、故意による限定に対しては、未必の故意まで含めれば成立範囲の限定には限 界があり、抽象的危険の発生を要求する見解に対しては、内用虚偽の供述調書が作成さ れながら抽象的危険が否定される事例はあまり想定することができないとの批判(野 原・前掲(注 21)388 頁注 52 を参照)がある。 57)安田・前掲(注 34(法教))75 頁。 58)辻本典央「参考人の虚偽供述と証拠偽造罪(証拠法の研究)」近代法学 65 巻 3・4 号(2018 年)14 頁は、供述書および供述録取書(刑訴法 321 条 1 項 3 号)はその作 成によって証拠として成立するのであり、「捜査段階での取調べによって参考人が虚偽 の供述をした場合、それだけで処罰されないのは、供述が証拠資料だからではなく、ま だこの段階では『証拠』が存在していないからなのである」とする。 59)さしあたり、酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、2015 年)530 頁以下を参照。 60)松田岳士『刑事手続の基本問題』(成文堂、2010 年)1 頁以下を参照。公判期日に おける供述採取の特徴として重視しているのは、その過程において「公判の対審」が保 障されているからであり、「公判の対審」の保障は、「事実認定の正確性」の担保の観点 からというより、むしろ、第一義的には、裁判所による「事実認定」の基礎となる供述 の採取過程の「適正性」ないし「公正性」の担保という観点からその尊重が要請される ものとされる(12 頁)。 61)伊東・前掲(注 34)459 頁、安田・前掲(注 34(法教))75 頁、永井・前掲(注 2)88 頁以下。
でなされたものではない供述は「証拠資料」にもなり得ないという解釈も可能で ある62)。捜査機関に対する供述を、法廷での供述と同じく「証拠資料」であると いうには、捜査機関に対して、裁判官に引き継がれて判決に結実するような心証 形成の権限を認めることになるのである63)。 積極説からは、供述した参考人の署名押印によりその供述の内容が書面化、固 定化されることによって供述自体に比べて内容の信用度が増し、刑事裁判の証拠 として利用される可能性も高まるとして、単なる虚偽供述にとどまる場合よりも 刑事司法作用を侵害する危険は大きく、当罰性があるとされるが、捜査段階では 様々な証拠を広く収集し、虚偽や誤謬が含まれていることを前提に、取捨選択し ながら操作を進めるのであって、一般的に当罰性が高いとは言えないであろう64)。 そして、供述調書への署名押印は、自らの供述が正確に録取されていることを承 認したことを意味するにとどまり、その供述の内容自体が真実であることを承認 したものではない65)。 さらに、「偽造」概念も問題となり得る。ここでの「偽造」は、不真正な証拠 (真実に合致しない証拠)を新たにつくりだすことであるとの理解が多いが66)、 このような理解からは、(参考人は証拠方法であるとの理解を前提にして)参考 人が虚偽を供述する行為は、真実の記憶の顕出を妨げ、あるいは虚偽の外観上の 記憶をつくりだすものであって、不真正な証拠を新たに作り出したことに変わり なく、「偽造」と評価し得ることになる67)。しかし、偽造だけでなく、隠滅も変 造も、物理的な働きかけを含意するものであって68)、口頭による供述を偽造等に 当たるとするには無理があろう69)。 62)松宮・前掲(注 13)510 頁。 63)同上。それでは、司法権の担い手が、憲法 76 条の明文に反して、裁判所ではなく捜 査機関にあるとすることになると批判する(511 頁)。 64)野原・前掲(注 21)382 頁。 65)同上。さらに、偽証罪における事後の宣誓(民訴規則 112 条 1 項)の場合とは異な るとする。 66)団藤・前掲(注 6(各論))87 頁、大塚・前掲(注 8)589 頁等。 67)尾﨑・前掲(注 7)19 頁、中森・前掲(注 8)240 頁、山口・前掲(注 8)291 頁。 68)浅田・前掲(注 10)7 頁を参照。なお、尾崎・前掲(注 7)19 頁、中森・前掲(注 8)240 頁も参照。 69)松原・前掲(注 46)568 頁。
このように考えてくると、基本的に消極説が妥当である。平成 28 年決定が、 傍論であるが、単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし、それに基づき 供述調書が作成された場合には刑法 104 条の成立を否定する点は適切である。 もっとも、同決定は、当該事案はそれとは異なる事案であり、参考人が捜査官に 虚偽供述をしてそれに基づき供述調書が作成された場合に刑法 104 条は成立し ないという基本的立場が当てはまるものではない(あるいは参考人が捜査官に虚 偽供述をしてそれが供述調書となった場合でも証拠偽造罪が成立する場合があ る)ことを示している。その意味では、平成 28 年決定は、供述調書の形態をと っていても、単に受け身的に虚偽供述が供述調書として録取されたのではなく、 自らが供述書を作成した場合と同視し得るような事例にも及び得ることにはなろ う。しかしながら、この点は、前述の検討のように証拠偽造罪を成立させるべき ではなかったように思われる。もっとも、同決定の事案において刑法 104 条の 成立が否定されても、刑法 156 条の虚偽公文書作成罪(被告人はその共犯)の 余地は残るであろう70)。供述調書は、供述の通りに捜査官が調書として録取すれ ば真正な供述調書であるが、本件のように捜査官の提案もあって被告人や A の 供述とは異なる内容を文書化したような事案においては、虚偽公文書作成罪(の 共犯)で対応すべきであったように思われる。 最後に、証拠隠滅等罪と犯人蔵匿等罪との関係に言及しておきたい。消極説に 対しては、参考人の虚偽供述等の捜査妨害的行動に対しては、刑法 103 条の犯 人蔵匿等罪で対応してきたことが指摘されることがある71)。これは、積極説から、 証拠隠滅等罪を捜査妨害を取り締まるいわば一般法として機能させるべきという 主張である72)。これに対しては、消極説から、「証拠」概念を拡張して、参考人 の虚偽供述を証拠偽造罪で処罰するよりは、「隠避」概念を従来通り緩やかに理 解して隠避罪によって捉える方が無理がないから、証拠偽造罪よりは犯人隠避罪 を処罰妨害罪の一般法と解する方が妥当であるとの主張もある73)。同一の法定刑 である点は措くとしても、実質的に捜査妨害罪として機能させることが適切であ 70)松宮・前掲(注 13)506 頁、永井・前掲(注 2)92 頁。 71)伊東・前掲(注 34)459 頁。 72)伊東・前掲(注 8)35 頁。 73)安田・前掲(注 34(法教))77 頁。
るかは別である74)。紙幅の関係で、この点は犯人蔵匿等罪の検討もあわせて別に 行いたいが、一般法と解するよりは、断片的に、偽証罪は証言を、証拠隠滅等罪 は証拠を、犯人蔵匿等罪は犯人と逃走者の身柄の確保をそれぞれ保護対象してい るとした方が適切なのではないかとの指摘には留意する必要がある75)。 74)井田良「判批」『平成元年度重要判例解説』(有斐閣、1990 年)163 頁。浅田・前掲 (注 10)6 頁は、現在の日本の刑事司法作用に対する罪は断片的であり、捜査妨害、処 罰妨害一般を処罰対象とするものではないとする。 75)原田國男「判解」ジュリスト 943 号(1989 年)87 頁を参照。