症例報 告
慢性 血液透析 中 に発症 した急性脊髄硬 膜外血腫 の1例
檜 井
孝 夫
田 中
一 誠
春 田
直 樹
大 段
秀 樹
吉 川
雅 文
中 谷
玉 樹
宮 本
和 明
大 城
久 司*
県立 広 島病院 人工 腎臓 セ ンター 同第1外 科*
key words: acute spinal epidural hematoma, chronic renal failure, MRI, respiratory disturbance, anticoagulant therapy <要 旨> 12年 来, 慢 性 血 液 透 析 を 受 け て い る47歳, 女 性 の 急 性 脊 髄 硬 膜 外 血 腫 (ASEH) の1例 を 報 告 した. 患 者 は, 血 液 透 析 中 に 項 背 部 痛 で 発 症 し, 5時 間 後 に は 下 肢 の 完 全 対 麻 痺 と な っ た. そ の 後, Th4以 下 の 知 覚 障 害, 四 肢 麻 痺, さ らに 肋 間 筋 麻 痺 に よ る 呼 吸 障 害 へ と急 速 に症 状 は 悪 化 した. MRIに よ りC3-Th2の レベ ル で の 背 側 のASEHと 診 断 し, 発 症 後, 約10時 間 後 に 手 術 を 開 始 した. C4-Th3の 椎 弓 切 開 に よ り減 圧 し, 血 腫 を 可 及 的 に 除 去 し, 椎 弓 形 成 術 を追 加 し た. 術 後 の 血 液 透 析 の 際, 抗 凝 固 剤 は 術 後 第7病 日 ま でNafamostat mesilate (フサ ン〓) 20mg/hrを, そ れ 以 後 はヘ パ リ ン を 使 用 した. 術 後 に 上 肢 の 不 全 麻 痺 の み 改 善 した が, 両 下 肢 は, 完 全 麻 痺 と な っ た. また, 肋 間 筋 麻 痺 に よ る 喀 痰 排 出 困 難 か ら左 無 気 肺 とな り気 管 内 挿 管 し, 人 工 呼 吸 器 を一 時 的 に必 要 と した. 最 終 的 に 気 管 切 開 を行 い, 現 在 も生 存 中 で あ る. 慢 性 血 液 透 析 患 者 で のASEHは, 本 邦 で は 自 験 例 を含 め て5例 の 報 告 しか な い. 自験 例 は, 発 症 か ら最 も 早 く手 術 を行 い, 救 命 こ そ した が, そ の 神 経 学 的 予 後 は 不 良 で あ り, 肋 間 筋 麻 痺 を 伴 っ て い た た め 術 後 に呼 吸 管 理 を 必 要 と し た. こ の 要 因 は, 血 腫 が 脊 柱 管 の 比 較 的 狭 い 頸 椎 か ら上 部 胸 椎 に, しか も7椎 体 に わ た る 広 範 囲 に 存 在 した こ と と, 抗 凝 固 剤 を必 要 とす る 血 液 透 析 中 に 発 症 した こ とが 主 な も の と 考 え られ た. MRIは, ASEHの 診 断 や 治 療 方 針 の 決 定 に極 め て 有 用 で あ っ た. 早 期 の 診 断 と適 切 な 治 療 が, ASEHの 予 後 改 善 の た め に は 必 須 で あ り, 日頃 の 血 液 透 析 患 者 の 管 理 に お い て, ASEHも 念 頭 に 置 く必 要 が あ る.
A case
of acute
spinal
epidural
hematoma
in a chronic
hemodialysis
patient
Takao Hinoi, Issei Tanaka, Naoki Haruta, Hideki Ohdan, Masafumi Kikkawa, Tamaki Nakatani, Kazuaki
Miyamoto, Hisashi Ohshiro*
Artificial Kidney Center and First Department of Surgery*, Hiroshima Prefectual Hiroshima Hospital
檜 井 孝 夫 県 立 広 島 病 院 人 工 腎 臓 セ ン タ ー 〒734広 島 市 南 区 宇 品 神 田1-5-54 (082-254-1818) 〔受 付: 平 成5年5月12日, 受 理: 平 成5年9月6日 〕
A 37-year-old female with acute spinal epidural hematoma (ASEH) who had undergone hemodialysis for twelve
years is reported. She complained of neck and back pain just after starting hemodialysis and experienced lower
paraplegia five hours later. She rapidly developed sensory disturbances below the Th4 level, quadriplegia and
respiratory disturbances due to paralysis of the intercostal muscles. MRI examination revealed hematoma on the
posterior side of the spinal epidural space from C3 to Th 2. Under a diagnosis of ASEH, operation was performed
ten hours after the onset. Laminotomy from C4 to Th3 and laminoplasty were performed. As an anticoagulant for
postoperative hemodialysis, Nafamostat mesilate (Futhan_??_) 20mg/hr
was used for the first seven days and
heparin was subsequently used. Only paresis of the upper extremities improved. Other neurological deficits have
remained. Moreover, endotracheal intubation and mechanical ventilation were temporarily indicated because the
paralysis of the intercostal muscles led to atelectasis. Finally, tracheotomy was performed and she survived.
Only five cases, including ours, of ASEH in hemodialysis patients have been reported in the Japanese literature.
Because of massive hematoma and systemic heparinization neurological recovery was poor and respiratory
management was required in our case, although the interval between the onset and operation was brief. MRI
図1 入 院時 脊 椎MRI, 矢状 断T1強 調 像 (SE 法TR400/TE26): 胸 椎 脊 柱 管 の背 側 に Th1お よびTh2を 中心 とした 等信 号 領域 (矢印) が見 られ, 脊髄 を腹 側 に圧 排 して い る. その範 囲 は, C3か らTh2で あ った. られ, 早 期 診 断 と外 科 的 治 療 を 要 す る比 較 的 稀 な疾 患 で あ る. 今 回 我 々 は, 血 液 透 析 施 行 中 に発 症 し, MRIで 頸 胸 椎 硬 膜 外 血 腫 と診 断 後, 椎 弓 形 成 術 を施 行 し, 救 命 し え た 症 例 を 経 験 し た の で 若 干 の 文 献 的 考 察 を加 え て 報 告 す る. 症 例 症 例: 47歳, 女 性. 主 訴: 項 背 部 痛, 四肢 麻 痺, 呼 吸 困 難 . 既 往 歴: 25歳 時, 腎 盂 腎 炎. 35歳 の 時, 慢 性 腎不 全 と な り血 液 透 析 導 入. 以 後, 近 医 に お い て 週3回, 4時 間 の 維 持 透 析 を受 け て い た . 現 病 歴: 平 成3年1月9日, 午 前10時, 近 医 にお い て 血 液 透 析 開 始 直 後 よ り項 部 痛 出 現 し, 徐 々 に 背 部 の放 散 痛 が 出現 し た. 鎮 痛 薬 の 投 与 を 受 け な が ら透 析 を継 続, 疼 痛 は緩 和 し た が, 午 後3時 頃 よ り徐 々 に両 下 肢 の 麻 痺 が 出 現 した た め, 午 後4時 頃, 当 科 紹 介 さ れ 緊 急 入 院 と な っ た. 入 院 時 現 症: 意 識 清 明, 脈 拍64/分, 血 圧106/56 mmHg, 体 温34 .1℃, 呼 吸 は腹 式 呼 吸 の み で 胸 式 呼 吸 が 不 可 能 で あ っ た. 眼 瞼 結 膜 に軽 度 の 貧 血 を 認 め た . 神 経 学 的 所 見 で は, 精 神 機 能 正 常 で 髄 膜 刺 激 症 状, 脳 神 経 症 状 は認 め な か っ た. Th4の レ ベ ル 以 下 の 両 側 性 全 知 覚 消 失 を認 め た. 両 下 肢 は完 全 麻 痺, 肘 に わ ず か な 動 き を 残 した 両 上 肢 の 不 全 麻 痺 を認 め た. 深 部 反 射 は上 肢 は正 常, 下 肢 で 消 失 し て い た. 病 的 反 射 は 認 め な か っ た . 入 院 時 検 査 成 績: WBC 7,600/mm3, RBC225×104/ mm3, Hb 7.9g/dl, Ht 23.3% , Plt 17.9×104/mm3, BUN 37.2mg/dl, Cr 5.5mg/dl , Na 134mEq/l, K 3.9mEq/l, Cl 103mEq/l, 肝 機 能 は正 常 , T. P 5.99/dl, Alb 3.29/ dl, CRP 0.4mg/dl以 下 , 出血 時 間4分, PT時 間10.8 秒 (活 性 度90%), APTT36.5秒 で あ っ た. 腎 性 貧 血 を 認 め た が, 血 小 板 数, 出 血 時 間 は正 常 で 凝 固 系 に も異 常 を認 め な か っ た. 入 院 後 経 過: 入 院 後, 神 経 症 状 は さ ら に 悪 化 し, 両 上 肢 も完 全 麻 痺 とな り四 肢 麻 痺 を 呈 し, 午 後4時30分 頃 よ り呼 吸 も徐 々 に 努 力 様 と な っ た. 午 後5時 頃 よ りMRI を施 行 した. 矢 状 断T1強 調 像 で は, C3-Th2の レベ ル で 脊 柱 管 が 前 方 に圧 迫 され, 硬 膜 外 腔 に 等 信 号 領 域 を認 め た (図1). ま た水 平 断 面 像 で は椎 骨 弓 と硬 膜 の 間 の 右 背 側 に や や 厚 く等 信 号 領 域 を 認 め た. 以 上 よ りC3-Th2 の レベ ル で の 背 側 の 急 性 脊 髄 硬 膜 外 血 腫 と診 断 し た . 手 術 は, 初 発 症 状 か ら約10時 間 後 の 午 後8時35分 に, 当 院 整 形 外 科 医 に よ り開 始 さ れ た. 手 術 所 見: 全 身 麻 酔 下 に, C4-Th3の 椎 弓 右 側 を切 開 し た. C3下 縁 か らTh3の 背 側 硬 膜 外 腔 に, 被 膜 を有 す る血 腫 を 認 め た (図2) が, 明 らか な 出 血 点 は見 出 し得 なか っ た. 正 常 な硬 膜 が 露 出 さ れ る ま で 被 膜 と血 腫 を 除 去 し, 椎 弓 形 成 術 を 追 加 し た. 術 後 経 過: 中 心 静 脈 栄 養 に よ り電 解 質, 栄 養 管 理 を 行 っ た. 術 後 の 血 液 透 析 は, 第2, 3, 5, 7病 日 に は 抗 凝 固 剤 と し てNafamostat mesilate (フ サ ン〓) 20 mg/hrを 使 用 し, そ れ 以 後 は ヘ パ リ ン を 使 用 し て 行 っ
た. 術 後 の 神 経 学 的 な状 態 と して は, 両 上 肢 の麻 痺 は改 善 した が 下 肢 の完 全 対 麻 痺 が 残 り, Th7以 下 の全 知 覚 消 失 が 残 っ た. し か し, 術 後 に 問 題 と な っ た の は, 呼 吸 器 系 の 合 併 症 で あ っ た. 横 隔 膜 に よ る腹 式 呼 吸 は 可 能 で あ っ た が, 肋 間 筋 麻 痺 の た め 胸 壁 が 固 定 せ ず, flail chest (胸 壁 動 揺) 様 とな り, 喀 痰 排 出 困 難 と軽 度 の換 気 障 害 を き た した. こ の た め術 後 第4病 日に は, 呼 吸 困 難 とチ ア ノ ー ゼ を 呈 し, 左 呼 吸 音 が 消 失, 胸 部X線 所 見 よ り左 無 気 肺 を認 め た. 経 鼻 挿 管 を行 っ て, 喀 痰 を 吸 引 除 去 し症 状 は 改 善 した が, 人 工 呼 吸 器 に よ る呼 吸 管 理 を2日 間 ほ ど必 要 と した. 術 後 第7病 日 に は, 気 管 切 開 を 施 行 し, 以 後 人 工 呼 吸 器 は不 要 と な る も, 現 在 に至 る まで 気 管 カ ニ ュ ラ か らの 喀 痰 吸 引 を 余 儀 な く さ れ て い る. 両 下 肢 の 完 全 麻 痺 は そ の ま まで あ る が, 両 上 肢 の 不 全 麻 痺 は リハ ビ リ テ ー シ ョ ン に よ り改 善 傾 向 が 認 め られ, 自力 で の 食 事 摂 取 が 可 能 と な っ た. 術 後2年 間 を経 た 現 在 も生 存 中 で, 維 持 血 液 透 析 を行 っ て い る. 図2 術 中 所 見: 椎 弓右側 をC4か らTh3ま で切 除 し, 内部 に被膜 を有 す る 血 腫 を認 め (矢印), Th1とTh2の レベ ル で腫 大 して い る. 考 察 急 性 脊 髄 硬 膜 外 血 腫 (本症) は1869年, Jackson1) に よ り初 め て 報 告 さ れ て 以 来, 多 数 の報 告 が な さ れ て い る. 本 疾 患 は, そ の 原 因 か ら, 自然 発 生 的 (spontaneous) ま た は特 発 性 (idiopathic) な も の と, 二 次 性 (secondary) の も の とに分 類 さ れ る2). 後 者 に は, 外 傷, 抗 凝 固 療 法, 医 原 性 の 合 併 症 な ど に 引 き 続 き発 症 し た もの が 含 ま れ る. 出 血 は 静 脈 性 で, 部 位 は 内 椎 骨 静 脈 叢 が 多 い とい わ れ て い る3). 内 椎 骨 静 脈 叢 は, 硬 膜 内 で は血 管 壁 筋 層 を 欠 い て 薄 く, 弁 を も た な い と い う解 剖 学 的 特 微 を 有 し4), 腹 腔 内, 胸 腔 内 の 圧 上 昇 が, 出 血 を誘 発 しや す い と考 え られ る. 脳 血 管 障 害 の頻 度 が 健 常 人 よ り高 い と い わ れ る慢 性 血 液 透 析 患 者 は, 元 来 の 出 血 傾 向 に 加 え, 血 液 透 析 時 に使 用 す る抗 凝 固 剤 は そ の危 険 性 を一 層 高 め て お り, 本 症 の high risk groupと 考 え られ る. し か し な が ら, 脳 血 管 障 害 に よ り死 亡 した 透 析 患 者135例 の 剖 検 報 告5) で は, 脊 髄 硬 膜 外 血 腫 は2例 (2.2%) と比 較 的 稀 で あ る. 本 邦 の 血 液 透 析 患 者 に お け る本 症 の 報 告 は, 我 々 の 調 べ た か ぎ りで は, 表 に示 す ご と く, 自験 例 を含 め5例 の み6∼9) で あ っ た. これ ら5例 は25歳 か ら60歳 (平 均44歳) ま で の 男 性 3例, 女 性2例 で 透 析 歴 は10か 月 か ら16年 ま で (平 均 8年2か 月) で あ っ た. 自験 例 の発 症 は血 液 透 析 の 開 始 直 後 で あ っ た. 抗 凝 固 剤 と し て ヘ パ リ ン を使 用 して い た こ と よ り, 出血 は 二 次 性 の もの と考 え られ た. 症 状 は, 背 部 痛 や 根 性 放 散 痛 が 前 駆 し, そ の 後 ほ ぼ完 全 な脊 髄 横 断 症 状 を 示 す. 自 験 例 で は, 急 速 な 進 行 を呈 し, 5時 間 後 に は 四 肢 麻 痺 と な っ た (表). 症 例1お よ び 2で は, 発 症 か ら手 術 ま で10日 前 後 を要 し て お り, い わ ゆ る亜 急 性 と もい え る経 過 を 辿 っ て い る. 本 疾 患 の 診 断 に は, 発 症 時 の症 状 と, そ の後 の 経 過 か ら急 性 脊 髄 硬 膜 外 血 腫 を ま ず 疑 う こ とが 重 要 で あ る. 他 の 脊 髄 血 管 障 害 の 疾 患, 多 発 性 硬 化 症 な ど の脱 髄 性 疾 患, 脊 髄 硬 膜 外 膿 瘍, 脊 髄 腫 瘍, 脊 髄 空 洞 症 の 出 血 な ど急 性 に 脊 髄 横 断 症 状 を き た す 疾 患 な ど と の 鑑 別 が 必 要 で あ
る. 確 定診 断 に は, 以 前 は髄 液検 査, 脊髄 造 影 な どが有
用 と され て いたが, 近 年で はMRI検
査 が最 も有 力 な手
段 で あ り,
非侵 襲 的で 良 い10).
MRIは, 血 腫 の存在 部位 ・
範 囲, お よび脊髄圧 迫 の程度 が詳 細 か つ的確 に把 握で き
るな ど診 断上 の有 用性 のみ な らず, 手 術 適応 や椎 弓切 除
範 囲 の決定 な ど治療 す る上 で も極 めて有 用で あ る. 本邦
報 告例 で も,
症 例3以 降MRIを
併 用 し,
自験例 で はMRI
のみ で診 断 した (表).
保存 的治 療 で の 自然 治癒例 の報 告11)
もあ るが, 基 本 的
に は外 科 的治療 が最優 先 され る. 硬膜 外腔 で は血腫 が拡
が りに くく, 限局 的 な脊 髄圧 迫 が持続 す るた め12)
早 期 の
減 圧が 必要 で あ る.
血 液 透析 患者 の周術 期 の管 理 にお け る大 きな 問題 点
は, 術 前 と術 後 の透 析 であ る. 術 前透 析 を短 時間 で も行
うこ とは原 則 で あ るが, 自験例 の場合 は, 幸 い に もその
必 要が なか った. いず れ に して も, 血 液透 析 を必要 とす
る ので, 抗 凝 固剤 につ いて神 経質 にな らざ る を得 ない.
Nafamostat mesilate (フサ ン〓) な どの作 用 時間 の短 い
抗 凝 固 剤 が 選択 され るべ きで あ る. そ の投 与 量 は, 40
mg/hrが
推 奨 され て い る が, 出 血 性 症 例 で は10∼30
mg/hrで
安 全 かつ 十 分 な抗凝 固が 可能 で あ る と され て
い る13). 自験 例 で も20mg/hrで
使用 し, 術後1週 目か
らは通 常 のヘ パ リン を使 用 したが, 特 に問題 なか った.
その他 の合併 症 として, 術 後 の肋 間筋麻 痺 に よる呼吸
不 全が 重要 で あ る. 頸椎 か ら上部 胸椎 にか けて血腫 が存
在 した症例, すな わち 自験例 お よび症 例4で は, 術 後,
一 時 的 に気 管 内挿管 によ る呼 吸管 理 を必要 として い る
.
主 た る原因 は, 喀痰排 出困難 によ る無 気肺 か ら低 酸 素血
症 を きた した もの と思 われ る. 症 例4で は呼 吸筋 機 能 の
回復 に よ り, 抜 管が 可能 で あ ったが, 自験例 で は気 管切
開 を行 い, そ の後 も喀痰 の吸 引除 去 を必要 と した.
術 後 成績 に関与 す る因 子 として, 発 症 よ り脊髄 麻 痺 出
現 まで の時 間, 脊髄麻 痺 出現 よ り手術 までの時 間, 術 前
の脊髄 麻痺 の程度, 年齢, 血 腫 の発生 部位, 血腫 の大 き
さな どが挙 げ られ る. 血 腫 が腹側 で, よ り脊髄 上部 に近
い もの ほ ど, また血 腫 が大 き く圧 迫症 状 が強 く, 圧 迫 除
去 まで時間 を要 した もの ほ ど予後 不良 とされ て い る14).
本 邦例 (表) で は, 主 要 な出血部 位 が, 頸椎3例 (60%),
胸 椎1例 (20%), 腰 椎1例 (20%) で あった. 脊髄腹 側
で の 出血 は, 症例4の1例
のみ で あった. 術 後 の機能 回
復 は自験 例 を除 い てほ ぼ完 全 に 回復 して い る. 自験例 で
は, 他 の4例 に比 べ発 症 か ら最 も短時 間 に手 術 を開始 し
たに もかか わ らず, C3-5の 機 能 は回復 したが, C5-7に
一部 障 害 を残 し
, Th1以 下 で は完 全 な麻痺 を残 した. 救
命 は した ものの, 十分 な回復 が得 られ なか っ た. その原
因 として は,
血 腫 が7椎 体 にわ た る広範 囲 であ った こと,
か つ血腫 の部 位 が頸椎 か ら上部胸 椎 で あ り脊 椎管 が最 も
狭 い部 位 で あ った こ とが原 因 と思 われ る. また, 本疾 患
の発症 時期 も重大 な要 素 と考 え られ る. 血液 透析 中 の発
症 は 自験例 と症例2の2例
の みで あっ た (表). 透析 中つ
ま り抗 凝 固剤 の使 用下 の発症 は, 予後 不 良 の重大 な因 子
とい えよ う.
手術 後 の機 能 の回復度 は, 診 断 と治療 の迅速 さに大 き
く左右 され るた め, 血液 透析 患者 で は常 に本症 を念 頭 に
お き, 脊髄 横 断症状 な どの急 性 な神経 症状 の出現 した場
合 に は,
MRIに
よ る適切 な診 断 と迅速 な手 術 が必要 と考
え られ る.
結語
慢性 血液 透析 中 に発 症 した, 急 性硬膜 外 血腫 の1例 を
報 告 した. MRIは,
本 症 の診 断, 手 術 適応, 手術 方 針 を
決 定す るう えで極 めて有 用 な検 査 法で あ った. 自験例 の
よ うに, 頸椎 か ら上部 胸 椎 に発症 した場 合 に は, 術後 の
呼 吸管 理 も重 要 で あ る. 血 液透 析 患者 で は抗 凝 固剤 を使
用 す るた め, 本症 を念 頭 に入 れて の患者 管理 が必 要 で あ
り, これが疑 わ れ る場 合 に は, 適切 な診 断 と迅速 な手術
が必 要 で ある.
本稿 を終 えるにあた り, 当院整形外科 渡 捷一先生 ほか諸
先 生 方 に深 謝 い た し ます.
文 献