日本アニメーションにおける動きの研究
著者
桑原 圭裕
学位名
博士(芸術学)
学位授与機関
関西学院大学
学位授与番号
34504甲第411号
URL
http://hdl.handle.net/10236/00028979
日本 アニ メー シ ョンにおける動 きの研究
2011年
11月
関西 学 院大 学大学 院文学研 究科
目次
1 序 論 _____一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 1 1 は じ め に _____一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 1 2 研 究 の 目 的 と 問 題 意 識 _____一 一 一 一 ― 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 ― 一 ― 一―― 一 一 一 一 ― 一 一 一 3 3 先 行 研 究 と 本 研 究 の 位 置 づ け ________一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 4 論 文 構 成 と 補 足 事 項 _____一 一 一 一 一 一 一 一一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一一 第 1章 戦 前 か ら 戦 後 に お け る ア ニ メ の ス タ イ ル の 変 遷 一 東 映 動 画 を 中 心 に 一 ___ 1 前 期 の 日 本 ア ニ メ _____一 ― 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 1-1 二 つ の 大 き な 問 題 _____一 ― 一 一 ― 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 1-2 切 り 紙 ア ニ メ と セ ル ア ニ メ の ス タ イ ル _____一 一 一 一 ― 一 一 ― 一 一 ― 一 ― 一 一 一 ― 1-3 個 々 の 作 家 の 作 品 分 析 か ら 見 え て く る も の _____一 一 一一 一 一 一 一 一 一 一 一1-4
デイズニーを基準 としたスタイルを身につけること________一
一一―2
戦後 日本アニメの象徴 としての東映動画_____一
一 ―一 一―一 一―一一 一 一一 2-1 動 き に つ い て _______― 一 ― 一 一 ― 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 ― 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一2-2
キ ヤラ クター、テ ンポ、美術、物語構成 について_______一
一一一一一 2-3 作 品 内 容 に つ い て _______一 一 一 一 ― ― 一 ―一 ― 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 ―一 一 2-4 東 映 動 画 の 時 代 性 と そ の 真 価 _____一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 3 日 本 ア ニ メ に お け る 戦 前 と 戦 後 の 非 連 続 性 _____一 一 一 一 一 一 一 一 一 一一 一 第 2章 ア ニ メ ー シ ョ ン に お け る 動 き _________一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 ― 1 戦 後 の 日 本 ア ニ メ に 生 ま れ た 二 つ の 流 派 _____一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一一 ― 一 一 1-1 「 動 き 」 と 「 演 技 」 と い う 考 え _________一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 1-2 動 く ア ニ メ _____一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 1-3 動 か な い ア ニ メ .____一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ‐ 2 動 か す と い う こ と ________一 ―一― 一 一 一一 一 ―一 ― ― 一 ― ―一 一 一 一― 一 一 一 ― 一 一 ― 2-1 タ イ ミ ン グ と ス ペ ー シ ン グ か ら 生 ま れ る も の _____一 一 一 一 一 ― 一 一 一 ― 一 ― 2-2 レ イ ア ウ ト と 動 き の 配 置 _____一 一 一 一 一 ― 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 2-3 コ マ 撮 り の 違 い _________一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ― ― ― 3 第3章
1 「歩 く」 と「走 る」の検証 4 7 8 8 9 ︲0 ︲4 ︲5 ︲5 ︲8 2︲ 22 22 24 24 24 27 29 33 33 36 4。 42 マ ンガ とアニ メー シ ョンの 関係 マ ン ガ の ア ニ メ ー シ ヨ ン 化 _____一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ― ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一-1
マ ンガ表現の特性47
48
48
51-2
マ ンガのアニ メー シ ョン化 の現状1-3
如何 にマ ンガに動 きを与 えるか 『鉄腕 ア トム』検証2-1
『鉄腕 ア トム』の歴史的位置づけ2-2
「火星探険の巻」検証 『 ル バ ン三 世 』 検 証3-1
「動 くアニ メ」の流派 によるテ レビアニ メ3-2
「狼 は狼 を呼ぶ」検証 『 じゃ リン子チエ』検証4-1
マ ンガの忠実 なアニ メ化 に成功 した稀有 な作 品4-2
劇場版『 じや リン子 チエ』検証 第4章
日本的な動 きの感覚1
日本 アニ メの動 き と音の問題-1
アニ メ と音の関係-2
『鉄腕 ア トム』の音 で生み出され る動 き-3
日本文化 における音の感性2
日本文化の本質 と日本 アニ メの動 き2-1
「動 くアニ メ」 と「動 かない アニ メ」 に共通す る感覚2-2
観念化 と日本文化 結 論 _____一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ― お わ り に _____一 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 ― 一 一 一 ― 一 一 一 一3
雑誌 註 _____一 一 ― 一 一 一 ― 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ‐ 参 考 文 献 _____一 ― 一 ― 一 ― 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 1 図 書 _____一 一 ― 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 ‐ 一 一 一 ― 一 一 一 ― 一 一一 一 ― 一 一 一 一一 ― 一 一 ― 一 一 ― 一 一 一 2 図 録 _____― 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ― 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一一 ― 5457
57
1 1 1 58 62 62 64 66 66 67 75 75 76 79 83 84 85 86 9 1 3 8 9 999
99
103 103序 論
1
は じめ に
今 日、 ア ニ メ は 日本 を 代 表 す る文 化 産 業 に成 長 し、 常 に そ の 動 向 と影 響 は 世 界 的 な 注 目 を 集 め て い る 。 そ の 背 景 に は 、 文 化 、 商 業 、 芸 術 な どの 多 角 度 の 側 面 か らみ て も、 日本 の 独 自性 に よ っ て 成 り立 っ て き た こ とが うか が わ れ る。 海 外 に お い て 「 ア ニ メ」<Anime>は
「 ア ニ メ ー シ ョ ン」<Animation>の
省 略 語 で は な く、 日本 の 一 部 の ア ニ メ を 限 定 して 指 し示 す 造 語 で あ る よ う に 、 日本 の ア ニ メ 独 自 の 表 現 や 世 界 観 が 世 界 的 人 気 の根 幹 に あ る。 ま た 、 映 画 と 同 様 に ア ニ メ ー シ ョ ン の 歴 史 は 、 約 一 世 紀 程 度 の 短 い 期 間 に大 き な 発 展 を 遂 げ 、 殊 に 近 年 は テ レ ビや コ ン ピ ュー タ 。グ ラ フ ィ ッ ク ス 、 イ ン タ ー ネ ッ トの 登 場 と と も に 、 映 像 産 業 の 媒 体 が 激 変 し、 ア ニ メ ー シ ョ ン 自体 も 急 速 な 変 革 を 遂 げ て い る 。 そ の よ うな 急 進 的 な ア ニ メ ー シ ョ ン業 界 の 中 で も、 日本 特 有 の 文 化 と して 確 固 た る 存 在 を 確 立 して い る功 績 を ま ず 念 頭 に置 か な け れ ば な らな い で あ ろ う。 しか し、 そ の よ うな 世 界 的 な 発 展 は 主 に外 観 上 の 繁 栄 で あ つ て 、 ア ニ メ作 品 とそ の 業 界 が 抱 え る 問 題 は 山 積 して い る。 まず 、 地 域 に よ つ て は 週 に100本
も の テ レ ビ ア ニ メ が 放 映 さ れ る とい う ア ニ メ 飽 和 状 態 は 、 冷 静 に見 れ ば 異 常 とい う他 は な い 。 そ の 時 間 帯 も早 朝 の 再 放 送 枠 、 そ して 夕 方 あ る い は ゴー ル デ ン タ イ ム の 最 新 作 枠 、 そ して 深 夜 の 青 年 成 人 向 け 作 品 枠 な ど、 民 放 だ け もお 笑 い 0 バ ラ エ テ ィ番 組 以 上 に テ レ ビ ア ニ メ の放 送 は 多 い 。 ま た 、 テ レ ビ だ け で で は な くDVDな
どの 個 人 所 有 の た め のOVA(オ
リ ジ ナ ル 0ビ デ オ・ ア ニ メ)作
品 な ど、 コ ン テ ン ツ 販 売 とい う近 年 の 興 行 形 態 ま で も が ア ニ メ 制 作 に拍 車 を か け て い る。 そ の た め 、 需 要 と供 給 の バ ラ ン ス が 崩 れ 、 ア ニ メ ー タ ー の 低 賃 金 化 に よ る職 業 不 安 と若 手 ア ニ メー タ ー 育 成 の 問 題 も指 摘 さ れ は じめ た1。 ま た 、青 年0成
人 向 け ア ニ メ とい う世 代 別 の ア ニ メ・ ジ ャ ン ル が 存 在 す る こ とで 、 性 的 ま た バ イ オ レ ン ス 的 描 写 が 増 え 、 内容 の 過 激 さ も道 徳 的 問 題 の 対 象 とな っ て い る。 海 外 、 あ るい は 日本 で も半 世 紀 前 ま で 、 ア ニ メ は 子 供 の も の だ っ た の が 、 青 年 あ る い は 成 人 が 主 た る需 要 者 とな る こ と で オ タ ク文 化 の 地 盤 を 形 成 し、 純 粋 な 作 品 鑑 賞 以 外 に新 た な 価 値 を も生 み 出 して い る 。 これ らの す べ て を 悲 観 的 に と ら え る わ け で は な い が 、 何 よ りも作 品 の 内容 や 表 現 以 外 の と こ ろ に 一 般 的 な 問 題 意 識 が集 中 す る傾 向 に あ る と指 摘 で き る だ ろ う。 本 論 は そ の よ うな 多 種 多 様 の 問 題 を 抱 え る 日本 の ア ニ メ に お い て 、 芸 術 的 視 点 か ら作 品 そ の も の の 表 現 に 関 して 目 を 向 け た も の で あ る。2
研 究 の 目的 と問題 意 識
本 研 究 の 目的 は 、 ア ニ メ ー シ ョ ン の 最 も根 本 的 な 魅 力 で あ る 「 絵 が 動 く」 と い う観 点 か ら、 日本 の ア ニ メ を 再 考 す る こ とに あ る。 そ も そ も 、 国 内 外 の ア ニ メ ー シ ョ ン の 誕 生 や 初 期 の 開 発 に 関 わ つ た 多 くの アニ メー シ ョ ン作 家 達 が 、元 来 漫 画 家 や 画 家 を 本 職 と して お り、「 自身 の絵 を動 か して み た い 」 とい う好 奇 心 に よ リア ニ メ ー シ ョ ン技 術 の 開発 は 進 め られ た 。 ま た 「 ア ニ メ ー シ ョ ン 」 とい う語 彙 に お い て も 「 動 き 」 とい う概 念 は 共 通 して お り、animationと は
animateの
名 詞 形 で あ り、 そ の 語 源 は ラ テ ン語 の anima「生 命 を 与 え る」「 生 き返 らせ る」 の 意 味 が あ る。 した が つ て 、 ア ニ メー シ ョ ン とは 動 か な い 絵 に 動 き を 与 え る こ と で 、 生 命 を も た せ る とい う こ とが も っ と も基 本 的 な 概 念 と考 え て よ い だ ろ う。 しか し、 世 界 か ら も注 目 さ れ る現 在 の 日本 の ア ニ メ は 動 い て い る だ ろ うか 。 テ レ ビ ア ニ メ と劇 場 版 長 編 作 品 との 違 い は あ る も の の 、 そ の 大 半 は 愛 嬌 の あ る キ ャ ラ ク タ ー の ク ロ ー ス ア ッ プ や 格 好 の 良 い ポ ー ズ な どの 静 止 した 絵 が 、 数 秒 の 短 い カ ッ トで 繋 が れ て い く演 出 が 目立 つ 。 確 か に 、 短 時 間 で カ ツ トが 変 わ つ て い く こ と で 、 画 面 自体 は 動 い て い る よ う に見 え る が 、 画 面 内 の キ ャ ラ ク タ ー が 、 ま る で 実 写 映 画 の 俳 優 の よ う に 、 心 を 魅 了 さ れ る ほ どの 演 技 を 行 つ て い る とは い え な い 。 逆 に 、 目 を 見 張 る演 技 を して い る の は 画 面 内 の キ ャ ラ ク タ ー で は な く声 優 で あ り、 エ ン ドク レ ジ ッ トに お い て 作 画 陣 よ り も先 に 声 優 の 名 前 が 登 場 す る こ とか ら も 、 如 何 に 「 動 き」 を 生 み 出 す 作 画 作 業 が 軽 視 さ れ て い る か が わ か る。 こ の よ うな 「 動 か な い ア ニ メ」 が 日本 に定 着 した の は 、1963年
に放 送 が 開 始 さ れ た 『 鉄 腕 ア トム 』 か ら始 ま る テ レ ビ ア ニ メ の 普 及 に よ る 。 一 方 で 、 海 外 に お い て も人 気 の 高 い ス タ ジ オ ジ ブ リ株 式 会 社 の 作 品 は 、 高 畑 勲 や 宮 崎 駿 の 世 界 観 や 演 出 術 だ け で は な く、 そ の キ ャ ラ ク タ ー の 動 き に 関 して もそ の 評 価 は 高 い 。こ の 作 画 技 術 は 、東 映 動 画 株 式 会 社2が戦 後 の 日本 に お い て 、 海 外 の 作 品 とは質 の 違 う動 き の 表 現 を 模 索 した こ と に は じ ま る。 そ の 一 役 を 担 つ た 大 塚 康 生 は 、直 接 の 取 材 調 査 3に お い て 、現 在 の 日本 の ア ニ メ に 関 して最 も 危 惧 して い る こ とは 、「 動 き の な い ア ニ メ が 定 着 す る こ とで あ る」 と語 つ た 。 し か し、 見 方 に よ れ ば 「 動 か な い ア ニ メ」 が 、 これ ほ ど ま で に 広 く視 聴 者 に受 け 入 れ られ 一 般 化 して しい る現 状 は 、 日本 の 文 化 的 性 質 に 根 ざ した 固 有 の 感 性 や 習 慣 と深 く関 連 して い る よ う に 思 わ れ る 。 そ こ で 問 題 とな る の は 、 この よ うな 動 き の な い ア ニ メ を 「 ア ニ メー シ ョ ン」 の 本 質 か ら外 れ る も の と して 否 定 す る か 、 あ るい は 日本 特 有 の 表 現 を 持 っ た 独 自 の ア ニ メ と して 肯 定 す る の か 、 現 在 の ア ニ メ ー シ ョ ン研 究 に お い て も そ の 意 見 は 大 き く分 か れ て い る。 しか し、 こ れ ま で 日本 ア ニ メ の 個 々 の 作 品 や 作 家 に よ る部 分 的 な 動 き の 表 現 を 分 析 した 研 究 は あ っ て も、 動 き とい う視 点 に 限 定 し て 日本 ア ニ メ の 表 現 を 体 系 立 て た 研 究 は な さ れ て こ な か っ た 。 した が っ て 、 本 論 で は ア ニ メー シ ョ ン の 動 き とい う観 点 か ら 日本 の ア ニ メ を 振 り返 る こ とで 、 そ の 歴 史 的 流 れ と時 代 背 景 、 動 き の 法 則 論 と方 法 論 、 他 の メ デ ィ ア と の 関 係 な どか ら浮 き 彫 りに な る 、 ア ニ メ 特 有 の 動 か す 技 術 、 そ の 根 底 に 隠 れ て い る 日本 的 な 感 覚 と は 如 何 な る も の か を 考 察 す る。3
先 行 研 究 と本 研 究 の位 置 づ け
本 論 に入 る前 に 、 本 研 究 と 同 じ く作 品 の 内容 や 表 現 、 あ るい は 日本 ア ニ メ の 特 殊 性 に 関 した先 行 研 究 の 状 況 を 踏 ま え て 本 研 究 の 位 置 づ け を して お き た い 。 ま ず 、 唯 一 とい つ て よ い 日本 ア ニ メ の 本 格 的 な 歴 史 書 と して 、 山 口 且 訓/渡
辺 泰 『 日本 ア ニ メー シ ョ ン 映 画 史 』 が 挙 げ られ る。 次 章 で も述 べ る が 、 日本 ア ニ メ の 歴 史 的 研 究 は 、 戦 前 と戦 後 の 発 展 の 違 い に よ り これ ま で 主 に 戦 後 の 東 映 動 画 を 起 点 と して 考 察 さ れ る ケ ー ス が 多 い 。 そ の 原 因 は 戦 前 の ア ニ メ作 品 が 主 に 教 育 映 画 と して 映 画 館 以 外 の 場 で 上 映 さ れ て い た こ と に よ り、 日本 映 画 史 か ら も そ の 存 在 が 欠 落 し て い る こ と に あ る。 しか し、 本 書 は 日本 ア ニ メ の 始 ま りか ら戦 後 の70年
代 ま で の 、そ の 動 向 を とて も詳 細 に記 録 した も の で あ る。た だ し、1977年
に 出 版 さ れ て い る こ とか ら も、 近 年 の 日本 ア ニ メ の 黄 金 期 に は 及 ば ず 、 ま た 、 個 々 の 作 品 の 年 代 や 最 近 に な っ て 戦 前 の 作 品 が 発 見 さ れ る こ とで わ か つ た 詳 細 な 情 報 や 内容 に 関 して は 誤 りも見 られ る。 次 に 、 近 年 の 日本 ア ニ メ の 総 体 的 な 特 徴 を 海 外 とい う視 点 か ら客 観 的 に と らえ た も の に 、 ス ー ザ ン・J・ ネ イ ピ ア 『 現 代 日本 の ア ニ メ ー ー 『AKIRA』 か ら『 千 と千 尋 の神 隠 し』 ま で一 ― 』 と草 薙 聡 志『 ア メ リカ で 日本 の ア ニ メ は 、ど う見 られ て き た か?』、そ して ワ ダ 。 ミ ツ ヨ・ マ ル シ ア ー ノ 「「 個 人 的 な 」 ア ニ メ ー シ ョ ン」(『デ ジ タ ル 時 代 の 日本 映 画 ― ― 新 しい 映 画 の た め に― ― 』 所 収)が
挙 げ られ る。 これ らは 海 外 か らみ た 日本 の ア ニ メ と し て 、 そ の 特 徴 と客 観 的 な 見 解 が 記 さ れ て は い る が 、 主 に 戦 後 か ら近 年 の 作 品 を 中 心 に そ の 外 観 と 内 容 表 現 を考 察 す る こ と に徹 して お り、 ア ニ メー シ ョ ン の 本 質 で あ る動 き に 関 した 分 析 に は 乏 しい 。 で は 、 ア ニ メ の 動 き に 関 した 先 行 研 究 と して は ど うだ ろ うか 。 現 在 の ア ニ メ ー シ ョ ン研 究 に お い て動 き の 問題 は 、殊 に フ ル・ ア ニ メ ー シ ョ ンか リ ミテ ッ ド0 ア ニ メ ー シ ョ ン か の 違 い に集 約 さ れ て い る。 そ の 中 で も、 朴 紀 玲 の 「 一 九 六 〇 年 代 の 日本 ア ニ メ ー シ ョ ン に お け る リ ミ テ ッ ド技 法 の創 造 的 進 化 」 (山 田 幸 平 編 『 現 代 映 画 思 想 論 の 行 方 ― ― ベ ンヤ ミ ン、 ジ ョイ ス か ら黒 澤 明 、 宮 崎 駿 ま で一 ― 』 所 収)は
、 戦 後 の 日本 ア ニ メ に 新 た な 動 き の 表 現 ス タ イ ル が 誕 生 した そ の 経 緯 を リ ミテ ッ ド・ ア ニ メ ー シ ョ ン の 技 法 を 中 心 に考 察 さ れ た も の で あ る。 しか し、 こ の リ ミテ ッ ド・ ア ニ メ ー シ ョ ン とい う語 彙 は 、 第2章
で も詳 述 す る が 、 現 在 三 つ の意 味 が 混 在 した ま ま 曖 昧 な 語 と して 使 わ れ て い る。 第 一 に1コ
マ撮 りか2コ
マ 撮 りを基 調 と した フ ル 0アニ メー シ ョン に対 す る、3コ
マ撮 り 以 上 を基 調 と した 作 品 と して の 意 味 。 第 二 に テ レ ビ ア ニ メ の た め に 手 塚 が 考 案 した止 め 絵 や 引 き セ ル や 繰 り返 しな どの 動 画 作 業 を 省 力 化 し た 手 法 全 般 と して の 意 味 。 第 三 に手 塚 の 省 力 化 の 手 法 の な か で も、 ロ パ ク に代 表 さ れ る腕 や 足 な どの 身 体 の 一 部 だ け を 動 か す 技 法 と して の 意 味 。 一 般 的 な ア ニ メ ー シ ョ ン研 究 の 場 合 は 、 第 一 の 意 味 で 使 用 さ れ る こ と で 広 義 な 意 味 とさ れ て い る が 、 殊 に 日 本 の ア ニ メ研 究 に な る と第 二 や 第 三 の 意 味 を 混 在 さ せ て 使 わ れ て い る現 状 が う か が え る。 ま た 、 第 二 の 意 味 で の 手 塚 の 省 力 化 さ れ た ア ニ メ ス タ イ ル は 、 同 時 代 に ア メ リカ で も、 具 体 的 に はUPA作
品 な ど に 同様 の 技 法 が 使 わ れ 始 め た こ と か ら、 そ れ らを 総 じ て 「 リ ミテ ッ ド技 法 」 と呼 ぶ 場 合 も あ る 。 そ の た め 、 顔 暁暉 は 「 セ レ ク テ ィ ブ・ ア ニ メー シ ョ ン とい う概 念 技 法 一 一 「 リ ミテ ッ ド0ア ニ メー シ ョ ン」の 限 界 を 超 え て一 ― 」 (加 藤 幹 郎 編『 ア ニ メ ー シ ョ ン の 映 画 学 』 所 収
)で
、 第 二 と第 三 の 意 味 を 包 含 した 技 術 分 析 を して 、 そ れ らを 「 セ レ ク テ ィ ブ 0ア ニ メ ー シ ョ ン」 とす る斬 新 な 概 念 規 定 を お こな っ た 。 そ の 意 義 に つ い て は 疑 間 も残 る が 、 い ず れ に し て も戦 後 の 「 動 か な い ア ニ メ」 の 表 現 に 特 化 し た 論 考 で あ り、 戦 前 の ア ニ メ や 戦 後 の 「 動 くア ニ メ 」 を含 め た 総 体 的 な 日本 の ア ニ メ の動 き に 関 す る分 析 は な さ れ て い な い 。 「動 き」 とい う観 点 か ら 日本 の ア ニ メ を 実 践 的 に 語 つ た 著 書 と して は 、 大 塚 康 生 『 作 画 汗 ま み れ 増 補 改 訂 版 』 と大 塚 康 生/森
遊 机 『 大 塚 康 生 イ ン タ ビ ュ ー ア ニ メ ー シ ョ ン縦 横 無 尽 』 が 挙 げ られ る。 ま た 、 具 体 的 な ア ニ メー シ ョ ン の 制 作 手 法 とそ の動 き を創 出 す る技 術 論 と して は 、富 野 由悠 季『 映 像 の原 則 ― ― ビギ ナ ー か らプ ロ ま で の コ ン テ 主 義 ― ― 』、 フ ラ ン ク 0ト ー マ ス/オ
ー リー 0ジ ョ ン ス トン『Disney Animation The 11lusion of Life生 命 を 吹 き込 む 魔 法 』、 リ チ ャー ド0ウ ィ リア ム ズ 『 増 補 ア ニ メー タ ー ズ 。サ バ イ バ ル キ ッ ト』 が 挙 げ ら れ る。 これ らは 実 制 作 者 と して の 体 験 を も と に した 技 術 解 説 が 詳 細 に ま とめ ら れ て お り、 本 論 を 執 筆 す る に あ た り教 科 書 的 な 役 割 を 果 た し た 。 しか し、 当 然 研 究 や 論 文 と して の 明 確 な 問 題 意 識 を も っ て 、 他 者 の 作 品 や 日本 の ア ニ メ全 体 を通 した客 観 的 か つ 実 証 的 な 分 析 は な さ れ て い な い 。 以 上 の こ とを 踏 ま え て 、 本 研 究 の 位 置 づ け と特 徴 は下 記 の
4点
に あ る。1
動 き とい う観 点 か ら 日本 ア ニ メ を 総 体 的 に 再 考 す る。2
日本 の ア ニ メ を 時 代 背 景 と文 化 状 況 を 踏 ま え て 、 そ の 始 ま りか ら歴 史 を た ど る。3
動 き の 表 現 、 そ して そ の 映 像 効 果 を 実 証 的 に分 析 し、 日本 の ア ニ メ の 動 き の 方 法 論 を 体 系 化 す る。4
上 記 の 結 果 か ら浮 き 彫 り とな っ た 特 徴 か ら 日本 的 な 動 き の表 現 の 本 質 に せ ま る。4
論 文 構 成 と補 足 事 項
以 下 、 本 論 の 構 成 を簡 単 に の べ る 。 ま ず 第1章
で は 、 日本 の ア ニ メー シ ョ ン の 歴 史 的 問 題 点 と し て 、 戦 前 と戦 後 を そ の発 展 的 外 観 の 違 い か ら非 連 続 的 に と ら え る こ と に 疑 間 符 を な げ か け 、 戦 前 の 日本 ア ニ メ を 代 表 す る 作 家 の 作 品 を 個 々 に分 析 しそ の 時 代 特 有 の 表 現 ス タ イ ル を考 察 す る。 そ れ らの 戦 前 の 技 術 を 継 承 し、日本 ア ニ メ に お け る戦 後 の 象 徴 と して 、ま た 本 質 的 な ス ター トと して 、 東 映 動 画 が 如 何 な る 制 作 手 法 を 確 立 し、 独 自 の 表 現 ス タ イ ル に 昇 華 さ せ た の か を み て い き た い 。 そ の 変 遷 を 分 析 す る 中 で 動 き とい う観 点 か ら見 た 東 映 動 画 の 時 代 的 な 真 価 を 問 う。 第2章
で は 、 ア ニ メ ー シ ョ ン に お け る動 き の 表 現 と して デ イ ズ ニ ー の 制 作 手 法 に手 本 を お き 、 ア ニ メ ー ト技 術 、 レイ ア ウ ト、 コ マ 撮 り、 の 三 つ の 工 程 を 再 認 識 す る。 そ こか ら生 ま れ る法 則 論 と方 法 論 とい う観 点 か ら、 戦 後 の 日本 ア ニ メ に誕 生 した 動 き に 関 す る 二 つ の 流 派 ― 「 動 くア ニ メ」 と「 動 か な い ア ニ メ」の表 現 の違 い を 浮 き彫 りに し、 実 証 的 に 比 較 分 析 を 行 う。 第
3章
で は 、「 動 か な い ア ニ メ」 の 成 立 とそ の発 展 に 深 く関 係 して い るマ ン ガ の 表 現 構 造 を も と に 、 原 作 マ ン ガ が どの よ う に ア ニ メ 化 さ れ て い る の か を考 察 す る。 そ の 方 法 と し て 、 原 作 の オ リ ジ ナ リテ ィ とア ニ メ の 動 き とい う要 素 を 二 軸 に した 、 三 つ の パ タ ー ン を 比 較 検 証 す る。 ま ず 原 作 の オ リ ジ ナ リテ ィ を 大 切 に し、 ア ニ メ の 動 き を 排 除 し た例 と して 『 鉄 腕 ア トム 』 (手 塚 治 虫 監 督 、1963
年 、 テ レ ビ ア ニ メ 0フ アー ス トシ リー ズ)。 次 に ア ニ メ の動 き を 重 視 す る こ とで 原 作 を 大 幅 に改 変 した 例 と して 『 ル バ ン三 世 』 (大 隅 正 秋 監 督 、1971年
、 テ レ ビ ア ニ メ 0フ アー ス トシ リー ズ)。 最 後 に原 作 の オ リ ジ ナ リテ ィ を大 切 に しな が ら動 き の表 現 を も再 現 した希 有 な 例 と して『 劇 場 版 じ や リン子 チ エ 』 (高 畑 勲 監 督 、1981年
)で
あ る。 第4章
で は 、これ ま で ア ニ メ の 動 き を創 出 す る方 法 論 の実 証 的 分 析 か ら離 れ 、 そ こか ら見 え た 日本 的 な 音 の 感 覚 と動 き の 問 題 を 導 入 日 と して 、 日本 人 の 習 慣 や 感 性 に根 ざ した 動 き の 概 念 か ら 日本 的 な ア ニ メ の 動 か し方 とは どの よ うな も の な の か を考 察 す る 。 で は 、 最 後 に本 論 に 入 る前 に 、 い くつ か の 語 句 の 使 用 に つ い て 補 足 を して お く。 ま ず 、「 ア ニ メー シ ョ ン」 とい う語 彙 自体 、 本 来 は 映 画 の 制 作 手 法 の 一 つ で あ り、正 確 に は 実 写 映 画 に対 す る ア ニ メ ー シ ョ ン映 画 と表 記 す る こ とが 正 しい 。 しか し、 そ の 定 義 は これ ま で 一 般 的 に 「1コ
マ 撮 りで撮 影 さ れ る こ と」 が そ の 核 とな っ て い た が 、現 在 はCGの
技 術 が 実 写 映 画 や ア ニ メー シ ョ ン映 画 、あ る い は ゲ ー ム に ま で 実 用 さ れ る こ と で 、 ア ニ メ ー シ ョ ン を 明 確 に 定 義 す る こ とは 難 しい 。 ま た ア ニ メ ー シ ョ ン に も 、 セ ル ア ニ メ に 代 表 さ れ る絵 を 素 材 とす る も の か ら、 人 形 や 粘 土 や 写 真 を 素 材 とす る様 々 な ジ ャ ンル が あ り、 そ れ らを 含 め た 総 称 と して の 「 ア ニ メ ー シ ョ ン」 とい う認 識 も持 た な け れ ば な らな い だ ろ う。 さ ら に は 、 前 述 した よ う に 「 ア ニ メ」 と は 、 単 な る 「 ア ニ メ ー シ ョ ン」 の 省 略 語 か 、 あ る い は セ ル ア ニ メ や 正 確 に は 現 在 は セ ル を 使 用 して い な い た め セ ル ア ニ メ と 同 じ様 式 の 表 現 を 主 体 と した 日本 の テ レ ビ ア ニ メ や 劇 場 版 ア ニ メ に 限 定 した 意 味 か 、 そ の 違 い も 明 確 に して お か な け れ ば な らな い 。 そ こ で 、 本 論 は 絵 を素 材 と した 作 品 に 限 定 して い る こ とか ら、劇 場 版 や テ レ ビ版 に 関 係 な く、「 ア ニ メー シ ョ ン」は セ ル ア ニ メ に代 表 さ れ る人 の手 あ るい はCGで
描 か れ た 絵 を 素 材 と した 作 品 の こ とを 指 す こ と とす る。 ま た 、「 ア ニ メ」 とは 前 後 に文 脈 上 の 指 示 が な い 限 り、 日本 の ア ニ メ作 品 を 示 す こ と とす る。 次 に 、 前 述 した 三 つ の 意 味 が あ る 「 リ ミテ ッ ド0ア
ニ メ ー シ ョ ン」 は 、 海 外 の 特 に デ ィ ズ ニ ー の フ ル ・ ア ニ メ ー シ ョ ン を 対 比 と して 論 じ て い く こ とが 多 い た め 、 本 論 で は 第 一 の 意 味 と して の3コ
マ 撮 り以 上 の 作 品 を 示 す こ とす る。 し た が っ て 、 第 二 の 意 味 と して は ア メ リカ も含 め た 世 界 的 な 基 準 で の 省 力 化 の 手 法 を「 リ ミテ ッ ド技 法 」、日本 に お け る手 塚 の 技 法 に 関 して は「 省 力 化 の ア ニ メ」 で 表 記 し、 第 三 の 意 味 と して は 「 部 分 的 な 動 き」 な どの 説 明 的 な 語 句 を も っ て 表 記 す る。た だ し、引 用 文 で 第 一 の 意 味 以 外 で「 リ ミテ ッ ド0アニ メー シ ョン」 の 語 句 が 使 用 さ れ て い た 場 合 、 も ち ろ ん そ の ま ま で 表 記 す る が 、 注 釈 に て どの意 味 で の リ ミテ ッ ド・ ア ニ メ ー シ ョン か を 補 足 す る。
な お 、 本 論 で は 一 度 表 記 した 人 名 や 会 社 名 な どの 固 有 名 詞 と作 品 タ イ トル に つ い て は 、 筆 者 の任 意 で 省 略 した 表 記 を 使 用 す る こ とを お 許 しい た だ き た い 。
第
1章
戦 前 か ら戦 後 に お け る ア ニ メ の ス タイ ル の 変 遷 一 東 映
動 画 を 中 心 に一
今 日の 日本 映 画 界 に お い て 、 唯 一 顕 著 な 繁 栄 を み せ る ア ニ メ 。 そ の 歴 史 を 概 観 す る と、 戦 前 と戦 後 で は全 く別 の 様 相 を 呈 して お り、 具 体 的 に は1956年
に 設 立 さ れ た 東 映 動 画 を 境 に そ の 前 後 で 大 き な発 展 の 違 い が 見 られ る。1917年
に 、 下 川 凹 天 、 幸 内純 一 、 北 川 清 太 郎 の 三 人 に よ つ て 初 の 国 産 ア ニ メ が 制 作 さ れ 、 実 質 的 な 日本 ア ニ メ の「 始 ま り」 を 迎 え て か らの 約40年
間 は 、先 進 技 術 に よ る 良 質 で 安 価 な 海 外 の ア ニ メ ー シ ョ ン作 品 の 人 気 に お さ れ 、 国 産 ア ニ メ の 主 な 興 行 ル ー トは 政 府 や 教 育 団 体 が 発 注 す る教 育 映 画 で あ つ た 。 そ の た め 、 日本 映 画 史 の 中 で も こ の 時 期 の 国 産 ア ニ メ作 品 の 多 くが 見 落 とさ れ 、 そ の 存 在 は 片 隅 に 追 い や れ て き た の が 実 情 で あ る。 ま た 、終 戦 後 か ら 占領 期 を 終 え て 東 映 動 画 が 発 足 す る ま で の10年
間 は 、主 だ っ た ア ニ メ 作 品 の 制 作 は あ ま りお こな わ れ ず 、 あ る種 の 空 白 期 間 と して み る こ とが で き る 。 そ の 実 情 は 、 戦 前 の ア ニ メ ー タ ー の ほ とん どが こ の 時 期 に ア ニ メ 業 界 か ら引 退 し、 終 戦 前 後 に 生 ま れ た 新 た な 世 代 が 台 頭 し て く る の と と も に 、 「 ア ニ メー シ ョ ンニ 人 の 会 」 な どの ア ニ メ分 野 以 外 か らの 作 家 に よ る新 しい ア ニ メー シ ョ ン の 方 向 性 も示 さ れ て い た 。 これ らを総 括 す れ ば 、 こ の 空 白 期 間 と は 日本 ア ニ メ史 を 前 期 と後 期 に 分 断 し、 そ れ は ま た 発 展 の 差 異 か らみ た 表 (後 期)と
裏 (前 期)、 あ るい は 明 (後期)と
暗 (前 期)に
分 か つ 端 境 期 で あ つ た と と らえ るべ き で あ ろ う。 そ の よ う な 不 遇 の 時 代 に 終 わ りを つ げ 、 海 外 の ア ニ メー シ ョ ン作 品 に 匹 敵 す る作 品 づ く りを 目標 に掲 げ て発 足 した 東 映 動 画 は 、東 映 とい う 巨大 資 本 の も と、 日本 に お い て 近 代 的 な ア ニ メ 制 作 の 環 境 を 整 え て い つ た 。高 畑 勲 に よ れ ば 、「60
年 代 頃 の 東 映 動 画 が 日本 ア ニ メ ー シ ョ ン に も た ら した も の 」 と して 以 下 の 三 点 を挙 げ て い る。1
何 本 も の面 白 い 娯 楽 ア ニ メー シ ョ ン映 画 を 生 み 出 し、 さ ま ざ ま な 技 術 を 発 展 さ せ 、 人 材 を 育 成 した 。2
欧 米 とは異 な る 日本 的 娯 楽 ア ニ メ ー シ ョ ン の 方 向 を 決 定 づ け た。3
日本 型 作 画 制 作 シ ス テ ム を模 索 し、 そ の 確 立 に寄 与 した 。4 これ らが 示 す 東 映 動 画 の功 績 とは 、 日本 の ア ニ メ を そ れ ま で とは 異 な っ た 新 た な 境 地 へ 押 上 げ た こ とで あ ろ う。 こ こ で 模 索 さ れ た 技 術 や ス タ イ ル を 身 に つ け た ス タ ッ フ が 、 や が で 虫 プ ロ ダ ク シ ョ ンや ス タ ジ オ ジ ブ リ の発 展 へ の 原 動 力 とな っ て い っ た こ と を考 え れ ば 、 東 映 動 画 こそ が 日本 ア ニ メ史 に お け る本 質 的 な 「 始 ま り」 を意 味 し、 ま た 戦 後 とい う新 しい 時 代 を 象 徴 す る存 在 とさ れ て い る こ とは 当 然 の 見 方 で あ ろ う。 しか し、 確 か に東 映 動 画 を 日本 ア ニ メ の 戦 前 と戦 後 の 非 連 続 的 な 象 徴 とす る 見 方 が で き る 一 方 で 、 東 映 動 画 こそ 戦 前 と戦 後 の ア ニ メ ー シ ョ ン技 術 の 橋 渡 し 役 を担 っ た 会 社 で あ る との 見 方 も で き る 。 終 戦 後 わ ず か ニ ケ 月 で そ れ ま で の 日本 ア ニ メ を 支 え て き た 山 本 早 苗 や 村 田 安 司 、 政 岡憲 三 を 中 心 に 、 戦 前 の ア ニ メ ー ター が
100名
程 集 ま っ て 新 日本 動 画 社 が 設 立 さ れ た 。 そ れ を 機 転 に 幾 度 か の 人 員 の 整 理 や 解 体 合 併 を 経 て 、1948年
に政 岡 と山 本 に よ つ て 設 立 さ れ た の が 日 本 動 画 株 式 会 社 で あ り、1952年
に 日動 映 画 株 式 会 社 と改 称 す る。東 映 動 画 は そ の 日動 を 買 収 す る こ とで 発 足 し、 そ こ で 新 規 採 用 さ れ た 若 い 世 代 の ア ニ メ ー タ ー は 、 政 岡 や 山本 の 弟 子 に あ た る数 下 泰 司 や 熊 川 正 雄 、 大 工 原 章 や 森 康 二 ら に よ っ て 新 入 教 育 を さ れ た こ とか ら、 戦 前 か らの 日本 ア ニ メ の 技 術 的 継 承 が い く らか で もな さ れ た と考 え る こ と も否 定 は で き な い 。 そ こ で 、 本 章 で は 日本 ア ニ メ に お い て 、 東 映 動 画 を 戦 前 と戦 後 の 連 続 性 と と らえ る か 非 連 続 性 と と らえ る か 、 今 一 度 そ の 表 現 ス タ イ ル を 中 心 に考 察 す る こ とで 、 新 た に東 映 動 画 の 戦 後 とい う時 代 的 な 真 価 を 問 い た い 。1
前 期 の 日本 アニ メ
現 在 、 多 くの 研 究 者 の 中 で も 、 日本 ア ニ メ 史 に お け る東 映 動 画 以 前 の 時 代 は 様 々 な 問 題 を 抱 え 、 総 じて そ の 発 展 が 遅 れ て い た とい う見 解 が 一 般 的 で あ る。 も ち ろ ん そ れ は 海 外 作 品 と比 較 して の こ とで あ り、 端 的 に い え ば こ の 時 期 の 日 本 ア ニ メ の 制 作 体 制 や そ の 手 法 そ の も の が 海 外 の そ れ と異 な っ て い た こ と に 起 因 す る。 純 粋 に 日本 ア ニ メ の 技 術 面 の発 達 だ け で 見 れ ば 、 確 か に 先 進 的 な 制 作 手 法 で は な い か も しれ な い が 、 そ れ は そ れ で 着 実 な 進 歩 を 遂 げ て い た た め 、 い わ ば不 遇 の 時 代 で あ っ た とみ る の が 適 切 で あ ろ う。1-1
二 つ の 大 き な 問 題 で は 、 具 体 的 に こ の 時 代 の 日本 ア ニ メ が 抱 え て い た 問 題 と は 何 だ っ た の か 、 そ れ は 大 き く二 点 に集 約 さ れ る 。 ま ず 一 点 目 と して は 、 先 に も少 し触 れ た が 、 圧 倒 的 な 質 の 高 さ と人 気 を誇 つ て い た 海 外 ア ニ メ の 存 在 が 、 何 よ りも 日本 ア ニ メ の発 展 に 第 一 の 障 害 とな っ て い た 。 海 外 ア ニ メ の 人 気 は 、 国 産 ア ニ メ の 制 作 が ス タ ー トす る前 に 、 既 に エ ミー ル・ コ ー ル の 「 フ ア ン トー シ ュ」 シ リー ズ を 中 心 と した 『 凸 坊 新 画 帳 』 か ら始 ま っ て お り、 そ の 後 は セ ル ア ニ メ の 開 発 と と も に デ ィ ズ ニ ー の 黄 金 時 代 を 迎 え る。 こ の デ ィ ズ ニ ー を 筆 頭 に 、 海 外 ア ニ メ は 集 団 分 業 作 業 に よ る ア ニ メ 制 作 体 制 を 確 立 し、 トー キ ー や カ ラ ー フ イル ム の 使 用 とい つ た 技 術 革 新 を 次 々 と行 い 、優 れ た 品質 の 作 品 を 大 量 生 産 して い た の で 、 日本 で も安 価 に興 行 す る こ とが 可 能 で あ つ た 。 日本 で も 映 画 が トー キ ー の 時 代 を迎 え た1930年
代 に は 、 技 術 的 に も ま だ ま だ不 十 分 な 国 産 トー キ ー ア ニ メ の 一 本 の 制 作 費 で 良 質 な デ ィ ズ ニ ー 作 品 が 二 本 も買 え る ま で に、 そ の 格 差 は 広 が っ て い た 。 そ の た め 、 こ の 頃 に は 映 画 館 で 国 産 ア ニ メ が 公 開 さ れ る こ とが ほ と ん どな くな り、 ま た ア ニ メ の 主 た る観 客 で あ っ た 子 供 も 映 画 法 の 規 制 に よ り映 画 館 か ら閉 め 出 さ れ た結 果 、 戦 前 の 日本 ア ニ メ は 主 に教 育 映 画 と して 、 映 画 館 以 外 の 場 、 例 え ば 新 聞 社 の 販 売 促 進 イ ベ ン ト等 の 集 ま りや 子 供 の た め の 映 画 鑑 賞 日 に 学 校 や 地 域 の 講 堂 で 巡 回 上 映 さ れ る こ とで 細 々 と生 き な が らえ て き た ので あ る。こ の こ とは こ の 時 代 の 作 品 の 大 半 が 桃 太 郎 や 浦 島 太 郎 、一 寸 法 師 な ど、 童 話 や 昔 話 を 題 材 に 、 子 供 向 け の 道 徳 心 を 説 い た 内 容 で あ つ た こ とか ら もす ぐ に わ か る だ ろ う。 こ の 時 代 の 日本 ア ニ メ が 抱 え て い た も う一 つ の 問 題 は 、 海 外 とは 異 な っ た 制 作 体 制 に あ っ た 。 国 産 ア ニ メ が ス タ ー トして 、 日本 に も ア ニ メ 制 作 の場 が 急 増 した の だ が 、 そ れ は 国 産 ア ニ メ の 需 要 が 増 大 した わ け で は な く、 そ の 実 態 は 新 人 ア ニ メー タ ー が 師 匠 の 門 下 に 入 つ て も、 一 通 りの 基 礎 を 学 ボ とす ぐに 独 立 し て 個 人 プ ロ ダ ク シ ョ ン を 設 立 して い っ た こ と に よ る 。 そ の た め 師 匠 も、 や が て す ぐに ラ イ バ ル に な る こ とが 予 想 さ れ る弟 子 に 自身 の 技 術 を 全 て 教 え る こ とは な く、 重 層 的 な 技 術 の 継 承 や 教 育 の 積 み 重 ね は ほ とん どな さ れ な か っ た の だ ろ ぅ5。 っ ま り当 時 の 日本 の ア ニ メ 制 作 者 に と つ て 、ア ニ メ とは 一 人 で 制 作 す る も の で あ り、 そ の 技 術 も独 自 の 研 究 と発 達 に た よ る とい う考 え が 一 般 的 に 広 く根 付 い て い た の で あ る。 これ らの 問 題 を 取 払 い 、 日本 ア ニ メ が 最 初 の 息 吹 を 受 け た の は 皮 肉 に も第 二 次 世 界 大 戦 の 開 戦 に よ る とい え る。 海 外 ア ニ メ の 上 映 禁 止 に 加 え 、 そ れ ま で 文 部 省 等 の 政 府 と密 接 に 関 係 して い た 興 行 ル ー トは 、 セ ル や フ ィ ル ム 等 の 物 資 が 軍 部 の 管 理 下 に お か れ る こ とで 、 初 め て 日本 ア ニ メ に安 定 し た 制 作 環 境 が も た らさ れ た 。 しか しそ の 反 面 、 戦 争 映 画 や ニ ュー ス 映 画 と と も に 、 ロ ケ撮 影 を 必 要 とせ ず 教 育 映 画 と して 実 績 の あ っ た ア ニ メ作 品 は 戦 意 高 揚 映 画 と して 重 宝 さ れ た の で あ り、 限 られ た 興 行 ル ー トとそ の 目的 に よ つ て の み ア ニ メ 制 作 が 可 能 で あ っ た 。 い わ ば 日本 ア ニ メ に と っ て 戦 争 とは 諸 刃 の 剣 で は あ つ た が 、 作 品 内 容 は 別 に して そ の 表 現 ス タ イ ル だ け と っ て み れ ば 、 政 岡憲 三 の 『 く も と ち ゅ― りっぶ 』
(1943年
)や
瀬 尾 光 世 の 『 海 の神 兵 』(1945年
)な
ど、 こ の 時 期 に よ うや く海 外 の ア ニ メ に 匹 敵 す る作 品 が 誕 生 した の で あ る。1-2
切 り紙 ア ニ メ と セ ル ア ニ メ の ス タ イ ル
これ らの 日本 ア ニ メ が 抱 え て い た 問 題 が 、 も っ と も直 接 的 に影 響 を与 え た の が 制 作 手 法 で あ っ た 。 海 外 で は1914年
に ア メ リカ の ジ ョ ン 。ラ ン ドル フ・ ブ レイ が セ ル ア ニ メ を 開 発 し、 早 々 に そ の ス タ イ ル が 普 及 した の に対 し、 日本 で は そ の 高 価 な セ ル を 使 う こ とは 、 技 術 的 問 題 とい う よ りも興 行 的 採 算 上 の 問 題 に よ っ て敬 遠 さ れ て い た 。 日本 で 初 め て セ ル が 使 用 さ れ た の は 、1927年
の大 藤 信 郎 の 『 く じ ら』 と さ れ 、 全 面 的 に使 用 した作 品 と して は1932年
の政 岡憲 三 に よ る 『 力 と女 の 世 の 中 』 とさ れ て い る 。 そ の 後 も完 全 な る 普 及 とい う よ りは 部 分 的 な 使 用 や 使 い 回 し とい う の が 一 般 的 で あ っ た 。 セ ル ア ニ メ の 長 所 は 、 全 て の 動 画 を 一 枚 一 枚 描 く推 稿 法 とい うパ ラ バ ラ マ ン ガ の原 理 を 利 用 す る と こ ろ に あ り、 そ の 動 き は 空 間 的 な 広 が りを 自 由 自在 に し、 さ らに は 滑 らか で 自然 な 動 き の 再 現 も可 能 に した 。 そ の ア ニ メー ト技 術 は 制 作 会 社 や ア ニ メ ー タ ー 個 人 に よ っ て 様 々 で あ る が 、 当 時 そ の 王 道 を 極 め て い た の が デ ィ ズ ニ ー だ っ た こ と は い う ま で も な い 。 一 方 、 日本 ア ニ メ に お い て セ ル ア ニ メ が 普 及 す る ま で の 主 た る制 作 手 法 は 、切 り紙 ア ニ メ に よ る切 り抜 き 法 で あ つ た 。 切 り抜 き 法 と は そ の 名 の 通 り、 紙 に 描 い た キ ヤ ラ ク ター を 綺 麗 に 切 り取 り、 別 の 背 景 画 な どの 上 に お い て 、 顔 や 胴 体 の 一 部 だ け を 紙 人 形 の よ うに 水 平 方 向 に 少 しず つ 動 か した り、 あ る い は 他 の 動 画 に 置 き 換 え た り して 一 コ マ 撮 りす る 手 法 で あ る 。 そ の 特 性 は 、 動 き の 創 作 が 簡 単 で は あ る が 、 動 き が 平 面 的 で 限 定 的 に な っ て し ま う こ とで あ つ た 。 そ の た め 動 か し方 の 原 理 と して は 、 次 章 で 詳 述 す る が 戦 後 の 手 塚 ア ニ メ の 引 き セ ル や バ ン ク シ ス テ ム と共 通 した 手 法 とい え る か も しれ な い 。 た だ 、 厳 密 に 言 え ば 切 り紙 ア ニ メ で の 推 稿 法 は 可 能 で は あ る の だ が 、 何 よ り も 当 時 の ア ニ メ 制 作 者 は 質 よ り量 で 稼 が ぎ る を え な い 興 行 形 態 で あ つ た こ と、 そ れ に 個 人 制 作 に よ る 手 間 を 嫌 っ た 制 作 環 境 とい う悪 循 環 が 推 稿 法 とい う考 え を 排 除 して い た の で あ る。 この 切 り紙 ア ニ メ の 代 表 的 な 作 家 が 山 本 早 苗 、 村 田 安 司 、 大 藤 信 郎 で あ り、 一 方 日本 に お い て 戦 中 か ら終 戦 間 際 に か け て 、 セ ル ア ニ メ の 普 及 に 尽 力 した の が 政 岡 憲 三 と瀬 尾 光 世 で あ る 。 しか し制 作 手 法 の 相 違 に か か わ らず 、 彼 らの 作 品 に は 、 先 に 述 べ た 個 人 主 義 に よ る独 自 の 制 作 ス タ イ ル か らや は り少 な か らず 違 い が 見 られ る 。 た だ し、 そ れ らが 総 じて 目指 した 先 に は 、 海 外 ア ニ メ 、 特 に ア メ リカ の デ ィズ ニ ー の ス タイ ル が据 え られ て い た よ うだ。 この デ ィズ ニ ー の ス タイ ル や 日米 で の アニ メ表 現 に 関 す る違 い は、 次 章 で動 き とい う感 覚 を 中心 に詳 し く述 べ た い。 で は、 彼 らが独 自に確 立 した ス タイ ル を 具 体 的 にみ て い こ う。 図 1:山本 早 苗『 日本 一 桃 太 郎 』 (出 典 :DVD『日 本 ア ニ メ ク ラ シ ッ ク コ レ ク シ ョン』 第 一 巻 、デ ジ タル・ ミー ム 、2007年)
1-3
個 々の作 家 の作 品分 析 か ら見 えて くる もの
山 本 早 苗 は 、 北 山 清 太 郎 の も とで ア ニ メ 制 作 を 学 び 、 東 映 動 画 の ス タ ジ オ 所 次 長 ま で つ とめ た こ とで 、 前 期 の 日本 ア ニ メ界 の 中 で は 最 重 要 な 作 家 の 一 人 で あ る 。 山 本 の 初 期 の 切 り紙 ア ニ メ 作 品 『 日本 一 桃 太 郎 』(1928
年 、 図1)は
、 そ の 冒 頭 か ら一 貫 して 、 と に か くキ ャ ラ ク タ ー を 動 か そ う とい う意 志 が ひ しひ し と伝 わ っ て くる 。 しか し、 切 り抜 き 法 の 特 性 で あ る 部 分 的 な 動 き とい う よ りは 、 キ ャ ラ ク タ ー の 全 身 を 動 か す こ とに 重 点 を お き 、 そ の タ イ ミ ン グ も と て も早 い 。 た だ し、 そ の 動 き 自体 は や は り ど こ か カ タ カ タ と して 柔 らか さ が な く、 所 作 や 移 動 も水 平 な 動 き が 日立 っ て い る 。 これ は 、 海 外 ア ニ メ が す で に セ ル を 使 用 した 推 稿 法 に よ る 滑 らか な 動 き を 実 現 して い た た め 、 そ れ を な ん とか 切 り紙 ア ニ メ に よ る 自然 な 表 現 と して 模 索 して い た結 果 で あ ろ う。 実 際 に 山 本 の 後 期 の 作 品 と思 わ れ る『 動 物 村 の 大 騒 動 』6で は 、 種 々 の 動 物 達 、 しか も群 衆 シ ー ン や 複 数 の キ ャ ラ ク タ ー を 同 一 画 面 に配 し、 そ れ らの 全 て が 柔 らか く滑 らか な 動 き で 描 か れ て い る 。 そ れ で も な お 、 ス ピー ド 感 は 少 しゆ つ く り と して お り、 平 面 的 な 横 移 動 が 基 本 とな っ て い る こ と は 、 当 時 の 技 術 的 な 限 界 の 一 端 とみ て とれ る。 山 本 早 苗 の 友 人 で あ り、 彼 か ら ア ニ メ 制 作 の ノ ウハ ウ を 学 ん だ 村 田 安 司 は 、 こ の 時 期 に切 り紙 ア ニ メ を 最 も 多 く制 作 し、 そ の 技 術 と して も お そ ら く突 出 し た作 家 とい え る。彼 が 描 くキ ャ ラ ク タ ー の所 作 は 、山 本 の全 身 的 な 動 き と違 い 、 手 や 顔 な ど の 体 の 一 部 を ふ りま わ す 、 い わ ば 回 転 の 動 き が 特 徴 的 で あ る 。 ま た そ の 移 動 の 表 現 と して 具 体 的 に 『 お い 等 の 野 球 』
(1931年 )で
は 、 兎 の キ ャ ラ ク ター が 野 球 場 を 縦 横 無 尽 に 走 り回 り、 そ れ らは 全 て 常 に 平 面 的 な 横 移 動 で あ る が 、 ア ン グル を 俯llMの 構 図 に す る こ と で 横 移 動 な が ら も 広 大 な 球 場 の 空 間 把 握 を 可 能 に して い る演 出 も み られ る 。 こ の よ うな カ ッ ト割 りや 大 胆 な 構 図 を 利 用 した カ メ ラ ワ ー ク の 手 法 は 『 空 の 桃 太 郎 』(1931年 )の
荒 鷲 との 空 戦 シ ー ン な ど他 の 作 品 で も効 果 的 に 使 わ れ て い る 。 ま た 、 あ る作 品 で 使 用 した キ ヤ ラ ク ター を 他 の 作 品 で も再 利 用 して い る こ と も特 徴 の 一 つ で あ る7。 こ の よ うな 、切 り紙 ア ニ メ の 手 間 を 省 く とい う特 性 を い か した 村 田 の 作 品 は 、 そ の 省 力 的 か つ 多 産 な ス タ イ ル か ら戦 後 の 手 塚 ア ニ メ と重 な る部 分 も多 い た め 、 普 遍 的 な 日本 の 動 き の 感 覚 と して も言 及 さ れ るべ き対 象 で は あ る の だ が 、 こ こ で は あ え て 空 間 を 意 識 し た 構 図 や カ ッ ト割 り とい う点 で 、 直 接 的 に は 海 外 ア ニ メ と結 び つ け た い 。 そ の こ と の 裏 付 け とな る の が 、 セ ル ア ニ メ を 開発 した ブ レイ 作 品 で あ る。 ブ レイ 作 品 は 村 田 が ア ニ メ業 界 に 興 味 を も っ た き っ か け とな る作 品 で も あ り、 さ ら に そ れ ら を 研 究 して 海 外 ア ニ メ の 表 現 を 自作 に 反 映 して い た とい わ れ て い る 8。 具 体 的 に村 田 が どの ブ レイ 作 品 を 見 て い た か は わ か らな い が 、彼 が デ ビ ュー す る1927年
頃 に は 、 既 に ブ レイ 作 品 の ほ とん どが セ ル ア ニ メ で 、 キ ャ ラ ク タ ー の 全 身 の 動 き や 空 間 的 な 奥 行 き の移 動 は存 分 に み られ 、 村 田 に そ の イ メー ジ が な か っ た とは考 え に くい 。 そ の 証 拠 に 、 セ ル ア ニ メ に よ る推 稿 法 の 特 色 とな る奥 行 きへ の 移 動 は 、実 際 に切 り紙 ア ニ メ の『猿 正 宗 』(1930年 )の
冒頭 や『 動 物 村 の ス ポ ー ツ デ ー 』(1932年 )の
シ ロ ク マ が 高 飛 び 込 み す る シ ー ン な ど、 ほ ん の 一 部 だ け 描 か れ て い る。 そ れ で も、 村 田 作 品 の ほ とん どが 、 平 面 的 な 動 き で 構 成 さ れ て い る の は 、 前 述 し た よ うな 当 時 の 日本 ア ニ メ の 悪 循 環 な 制 作 環 境 に よ る も の で あ ろ う。 しか し、 山 本 や 村 田 の よ う に い わ ば 海 外 ア ニ メ の 追 従 で は な く、 切 り紙 ア ニ メ を 日本 的 な ア ニ メ と して 認 識 して い た 作 家 と して 、 大 藤 信 郎 が あ げ られ る 。 大 藤 の 代 名 詞 とな っ た 千 代 紙 ア ニ メ は 、 切 り紙 ア ニ メ の 素 材 と して 日本 的 な 柄 の 千 代 紙 を 使 う こ と で 日本 ら し さ を 追 求 して い た 姿 勢 が うか が わ れ る。 こ の 千 代 紙 ア ニ メ 自体 、 日本 の 紙 芝 居 を イ メー ジ して 制 作 して い た とい うか ら9、 彼 の 作 品 は 画 面 の 平 面 さ は も ち ろ ん そ の 動 き や 展 開 に も 、 日本 的 な 感 覚 を 重 視 した 動 か し方 を 意 識 して い た よ うだ 。そ の 一 例 と して 、『 黒 ニ ヤ ゴ』(1929年
)や『 村
祭 』
(1930年
)や
『 国 歌 君 が 代 』(1931年
)な
ど に み られ る よ う に 、 日本 的 な 音 楽 に テ ン ポ を合 わ せ た動 き を 独 自 に 追 求 して い た 痕 跡 が み られ る。 こ の よ うに大 藤 作 品 を 概 観 す る と、彼 が 如 何 に保 守 的 な 人 物 で あ つた か が 推 察 で き る。 こ の こ とは セ ル ア ニ メ の 導 入 に 関 した 大 藤 の 以 下 の 見 解 か ら も そ の 一 端 が うか が え る だ ろ う。 外 国 で は 白 い 紙 とセ ル ロ イ ド板 とを 巧 み に利 用 して 作 つ て い る よ う で す け れ ど、 日本 に は こ う した 仕 事 に 利 用 で き る ほ ど、 無 色 透 明 に して 且 つ 均 等 に 扁 平 な セ ル ロ イ ド板 が 得 られ ま せ ん か ら、 これ は 断 念 しな け れ ば な ら な い 。 外 国 の 本 を 手 本 と し て 線 画 を や ろ う とす る人 は 、 大 て い こ の セ ル ロ イ ドに悩 ま さ れ て い る よ うで す 1°。 こ の こ と を 体 現 す る か の よ う に 、 実 際 に 大 藤 は セ ル に よ る描 画 の ア ニ メ で は な く、 切 り紙 ア ニ メ か ら影 絵 ア ニ メ ー シ ョ ンヘ と、 ア ン チ 主 流 、 ア ン チ ア メ リ カ 的 な 作 風 の 流 れ を た ど っ て い る。 つ ま り、 大 藤 の 考 え と して は切 り紙 ア ニ メ や 影 絵 ア ニ メ ー シ ョ ン の ス タ イ ル が 象 徴 す る、 平 面 的 で 限 定 さ れ た 動 き こそ 彼 の 作 品 の最 大 の 特 徴 で あ り、 さ ら に は 当 時 最 も後 進 的 な 技 法 で は あ つ て も 日本 独 自 の 発 達 が 追 求 さ れ た ス タ イ ル だ っ た の で は な い だ ろ うか 。 そ の よ うな 大 藤 と は 対 照 的 に 、 政 岡憲 三 や 瀬 尾 光 世 の 新 た な 世 代 に よ っ て 、 日本 で も セ ル ア ニ メ が 主 流 とな る。 特 に 政 岡憲 三 は 「 日本 の ア ニ メ ー シ ョ ン の 父 」 と呼 ば れ て は い る が 、 そ の 所 以 は セ ル ア ニ メ を 主 体 と し、 トー キ ー の 技 術 開発 や 、試 験 的 な マ ル チ プ レー ン カ メ ラ の 使 用 、集 団分 業 制 作 体 制 の 提 言 等H、 近 代 的 な 、 い わ ば デ ィ ズ ニ ー を 基 準 と し た 制 作 手 法 を 日本 に 定 着 さ せ た こ と に よ る。 見 方 に よ れ ば 皮 肉 な レ ッ テ ル だ が 、 ア ニ メ に 限 らず 明 治 維 新 後 の 日本 の 近 代 化 は 概 ね 欧 米 諸 国 の 模 倣 が 基 盤 とな っ て い る の で 自然 な 流 れ で は あ る の だ が 、 も ち ろ ん 彼 らの ス タ イ ル も ま た 一 言 で い え ば 近 代 的 あ る い は ア メ リ カ 的 と い え る で あ ろ う。 政 岡 は 美 術 専 門 学 校 で 洋 画 を 学 ん だ あ と、 マ キ ノ 映 画 社 に 入 リセ ッ トの 制 作 や 役 者 も こ な して い た が 、 日活 に教 育 映 画 部 技 術 主 任 と して 入 社 した こ とを 機 会 に ア ニ メ 制 作 へ 足 を 踏 み 入 れ る。 彼 の ス タ イ ル と して 、 特 徴 的 な の は 何 よ り も動 き の リ ア リテ ィ で あ ろ う。丸 み を帯 び た キ ャ ラ ク タ ー や そ の 流 麗 な 動 き は 、 単 に セ ル の 使 用 に よ る も の だ け で は な く、 ア メ リカ 的 な 動 き の 感 覚 ま で 取 り入 れ た 彼 の動 画 技 術 の 高 さ を証 明 して い る。例 え ば 、『 ベ ン ケ イ対 ウ シ ワ カ 』(1939
年)で
の 、 天 狗 との 修 行 や 牛 若 と弁 慶 の 対 決 な どで は 、 空 を 飛 ボ 時 は ゆ っ く り と、 ダ イ ナ ミ ッ ク な ア ク シ ョ ン は ス ピー デ ィ に と、 た だ や み く も に動 か す の で は な く推 稿 法 に よ る 空 間 的 な 移 動 や 自 由 自在 な 動 き に加 え 、 そ れ ぞ れ の 演 技 に 合 わ せ た タ イ ミ ン グ とテ ン ポ が 取 り入 れ られ た の も彼 の 作 品 か らで あ る 。 政 岡 の初 期 の 作 品 『茶 釜 音 頭 』(1934年 )で
は 、 月 見 に興 じる寺 の 和 尚 た ち と狸 一 家 の 珍 騒 動 を 描 い た 日本 的 な 内 容 の 中 に も、 欧 米 の 乗 り物 や 擬 人 化 さ れ た 蓄 音 機 、 狸 一 家 の 列 を な して 巣 穴 に 出 入 りす る描 写 な ど は 、 多 分 に 海 外 ア ニ メ の表現 と疎 通 さ せ る こ とが で き る 。 た だ 、 彼 の 作 品 は 総 じて 芸 術 性 を 重 視 した 作 品 とい う見 解 が 多 く見 られ る 。 そ の よ うな 言 説 の 中 で 、 何 を も っ て 芸 術 性 とす る か とい う疑 間 は よ そ に して 、 政 岡 は 単 な る 欧 米 作 品 の 近 代 的 な 制 作 手 法 や 表 現 の 模 倣 で は な く、 独 自 の 表 現 ス タ イ ル を 模 索 して い た こ とは 確 か で あ る 。 彼 の 代 表 作 で あ り戦 中 の 最 高 傑 作 と され る『 く も とち ゅ― りっ ぶ 』
(1934年
)や
戦 後 の 『 桜 』(=『
春 の 幻 想 』、1946年 )は
、 デ イ ズ ニ ー の シ リー・ シ ン フ オ ニ ー・ シ リー ズ を 模 した 音 楽 と動 き の 同 調 が 特 徴 的 だ が 、 前 者 の 引 田 龍 太 郎 の 牧 歌 的 な 音 楽 あ る い は 後 者 の 桜 や 着 物 を 着 た 女 性 の 所 作 に 見 合 つ た ゆ る や か な 音 楽 12は、 当 時 の 時 代 的 な 日本 の 叙 情 性 や 詩 的 感 覚 を 意 識 し、 そ れ に 合 わ せ た 動 き の タ イ ミ ン グ とゆ つ た り と し た テ ン ポ が 政 岡 の 独 自の 表 現 と して 定 着 して い る13。 こ の よ う に 、 た だ 近 代 的 な ア ニ メ制 作 を 確 立 した こ とだ け で は な く、 そ の よ うな 欧 米 と 日本 的 な 要 素 を 上 手 く融 合 させ た こ とが 、 政 岡 の も っ と も評 価 され る べ き 点 で あ ろ う。 そ の よ う な 政 岡 の も と で ア ニ メ 制 作 の 手 法 を 学 ん だ 瀬 尾 光 世 は 、 芸 術 映 画 社 か ら 松 竹 に 移 動 し て す ぐ に 海 軍 か ら大 作 の 発 注 を 受 け る 。 そ れ が 日 本 初 の 長 編 ア ニ メ 映 画『 海 の 神 兵 』(1945年
)で
あ り、 そ の 偉 業 は 政 岡 と並 び 称 さ れ て い る 。 彼 の 作 品 は絵 柄 的 に も、 動 き の 面 で も政 岡 作 品 と とて も似 て お り、 丸 み を 帯 び た キ ヤ ラ ク タ ー が 様 々 な 構 図 と 空 間 的 な 広 が りの 中 を 、 とに か く縦 横 無 尽 に 動 き 回 る 。 そ の 動 か し方 は 政 岡 よ り躍 動 感 が あ り、 彼 の 初 期 の 作 品 『 お 猿 の 三 吉 ∼ 突 撃 隊 ∼ 』(1934年
、 図2)な
どで は 動 き の テ ン ポ や タ イ ミ ン グ も早 い 。 た だ 、 そ の 反 面 過 剰 に 流 麗 な 動 き に 加 え 、 戦 車 な どが ク ニ ャ ク ニ ャ と砲 弾 を 交 わ す ギ ャ グ、 そ して『 海 の 神 兵 』 の キ ヤ ラ ク ター の 多 く が 日本 軍 と外 国 軍 の 区 別 無 く、 日本 人 離 れ した ジ ェ ス チ ャー や ポ ー ズ が 日立 つ な ど、 瀬 尾 作 品 は 政 岡 よ り も明 らか に ア メ リカ 的 な 感 覚 が 強 く浸 透 して い る よ うに 思 わ れ る 。 実 際 に 、 瀬 尾 光 世 は 日本 海 軍 が ア メ リカ 軍 か らの 戦 利 品 と して 回 収 した フ ィル ム の 中 に『 白雪 姫 』(SЛοw″
購ιθ aЛご油θ SθyθЛ'warFstデ
イ ヴ ィ ッ ド・ ハ ン ド監 督 、1937年
)が
あ り、『 海 の 神 兵 』 の 制 作 前 に 特 別 に 鑑 賞 す る こ とが で き た 。『 白 雪 姫 』を み た 瀬 尾 は そ の 圧 倒 的 な 技 術 の 高 さ に 衝 撃 を うけ 、 設 備 拡 充 とス タ ッ フ の 増 員 の 必 要 性 を 痛 感 した とい う14。 っ ま り、 日本 に 向 け た 戦 意 高 揚 映 画 で あ りな が ら も そ の ス タ イ ル は デ ィ ズ ニ ー の そ れ に も っ と も近 図 2:瀬尾 光 世『 お 猿 の 三 吉 ∼ 突 撃 隊 ∼ 』(出 典:DVD 『 日本 ア ニ メ ク ラ シ ッ ク コ レ ク シ ョ ン 』 第 二 巻 、 デ ジ タ ル 。ミー ム 、2007年) 13づ い た 作 品 で あ つ た 。
1-4
デ ィズニー を基 準 と したス タイル を身 につ け る こ と
この よ う に 、 戦 前 か ら戦 中 に か け て 、 日本 ア ニ メ が 目指 して き た も の は 、 当 時 の 社 会 情 勢 と同 じ く、 面 前 に 立 ち は だ か る 欧 米 作 品 、 特 に デ ィ ズ ニ ー の 存 在 で あ り、 そ れ らの 作 品 が 制 作 手 法 か ら表 現 ス タ イ ル ま で 多 大 な 影 響 を 与 え 、 暗 黙 の 了 解 と して の お 手 本 とな っ て い た の で あ ろ う。 敗 戦 を 迎 え た こ とは 、 社 会 的 な しが らみ か ら解 放 さ れ 、 見 方 に よ れ ば 日本 ア ニ メ に も 自 由 な 表 現 の 場 が 戻 っ て き た か に 思 え た 。 しか し、 現 実 は ア メ リ カ の 占 領 期 に 移 行 し、 再 び 苦 難 の 道 に直 面 す る こ と とな る 。 政 府 や 軍 部 を 通 じ た 生 産 ル ー トの 崩 壊 、 戦 中 の 度 重 な る空 襲 に よ る ス タ ジ オ の 倒 壊 、 セ ル や フ ィ ル ム の 物 資 不 足 、 帰 国 が 遅 れ る復 員 者 、 そ こ に さ らな る追 い 打 ち を か け た の が シ ャ ウ プ勧 告 に 従 つ た 税 制 改 革 に よ る課 税 額 の 増 大 で あ つ た 。 と に か く作 品 を 作 れ る環 境 で は な か っ た 。 た だ 、 こ の ア メ リカ の 占領 期 に 今 ま で に 成 し得 な か っ た 大 き な 改 革 が 行 わ れ る。 そ れ こそ が 、 先 に述 べ た 新 日 本 動 画 社 の 設 立 で あ っ た 。 こ こ で 初 め て 、 日本 で も本 来 の 姿 で あ る集 団 作 業 と して の ア ニ メ 制 作 とい う意 識 が 示 さ れ た こ とは 大 き い 。 しか し実 質 的 に は 個 人 で の ア ニ メ 制 作 は不 可 能 な 状 況 で あ っ た こ と に加 え 、 ア ニ メ ー タ ー を統 合 管 理 した か っ た ア メ リカ の 意 向 に よ り、そ うせ ざ る を え な か っ た の が 事 実 で あ ろ う。 さ らに そ の 結 果 と し て 、 そ れ ま で の 一 城 の 主 と して の ア ニ メ ー タ ー 達 が 直 ぐに 折 り合 え る わ け も な く、 実 際 の と こ ろ ほ とん ど作 品 制 作 が 行 わ れ る こ とが な か っ た 。 この 空 自 の 期 間 に 引 退 した 政 岡 が最 後 に残 した 戦 後 の 作 品 、『 桜 』 や『 トラ ち ゃ ん 』 シ リー ズ 三 本 を み て も、 そ の ス タ イ ル は 戦 前 の 流 れ の 延 長 線 上 に あ っ た とみ え る。実 際 に 、1948年
頃 か らデ ィ ズ ニ ー 作 品 を 中 心 に ア メ リカ の ア ニ メ の 上 映 が 再 開 さ れ 、 そ れ な りの 技 術 的 達 成 を み た と思 わ れ た 日本 ア ニ メ が 、 ま だ デ ィ ズ ニ ー に は 到 底 太 刀 打 ち で き な い も の で あ っ た と痛 感 し た こ とは 容 易 に想 像 で き る 。 戦 前 の 技 術 を 引 き継 ぎ 、 新 た な 世 代 の 日動 ス タ ッ フ で 制 作 さ れ た 短 編 傑 作 『 こね こ の ら くが き』(森康 二 演 出 、1957年 )は
、 前 期 の 日本 ア ニ メ の 集 大 成 的 作 品 と して 特 別 な 輝 き を放 っ て い る よ う に み え る。 しか し、そ の 日動 ス タ ッフ が 実 制 作 部 隊 と して発 足 した 東 映 動 画 で は あ る が 、 戦 後 に紛 失 さ れ た と思 わ れ て い た 『 海 の神 兵 』 の フ ィル ム が1982年
に発 見 さ れ 、 国 立 近 代 フ ィル ム セ ン タ ー で 上 映 さ れ た 。 そ の 上 映 を 見 た 東 映 動 画 の ス タ ッ フ に よ る座 談 会 で は 、「 現 在 の 技 術 と違 う」 とい う大 方 の感 想 に加 え 、 高 畑 勲 は 「 戦 争 に よ る技 術 の 断 絶 」 を 明 言 して い る の で あ る15。 っ ま り、 東 映 動 画 の 新 しさ とは 、そ れ ま で の 日本 ア ニ メ に 欠 落 して い た も の を 取 り返 す か の よ う に 、 あ る い は 戦 後 とい う新 しい 社 会 状 況 に 対 して 新 しい 日本 的 な ア ニ メ の ス タ イ ル とは 何 か とい う こ とを 模 索 した こ とか ら始 ま る 。2 戦 後 日 本 ア ニ メ の 象 徴 と し て の 東 映 動 画 戦後の空白期間を経て、 東映株 式会社が日動を買収することで発足した東映 動画であるが、東映がアニメ 産業に参入した目的は、テレビ放送開始とともに アニメ e Mフィルムの需要が増加すると見込んだことと、日本映画の海外進出 を進める際に問題となる言葉の障害を、アニメ特有の絵と動きで解決できると 考えたことにある。また、これまで見てきたように戦前から戦後にかけて、デ ィズニーの影響は絶大なるもので、東映動画の発足に関しでも例外ではなく日 本アニメの発展と海外進出を 目的に、 「東洋のディズニー」となることを目標と して出発した。しかし、 実際はそのようなディズニーをお手本として制作する とドう東映の大川社長や本社社員の意向に反して、実制作部隊となる日動から のアニメーターは、芸術的かつ日本的な新たな作品づくりを目指した。このよ うな大きな意見の食い違いがでてくることに、東映動画の本質が隠されている。 ここでは、東映動画が目指した新たなる日本アニメの方向性とは知何なるもの だったのか、その経緯を詳細に見ていきたい。
2-
1 動 き に つ い て まず、アニメの基本である「動 き」についてであるが、 今日の アニメ研究において動きに関す る基本的な視点は、フル・アニ メーションかリミテッド・アニ メーションの違いが主たる焦点 となっている。もちろん東映動 画もディズニーのような上質な 作品作りを目指していたことも 図 3 : 薮下 泰治[/白 川大作/手塚治 虫[演 出 ] 11西 遊 あり、初期の劇場用長編アニメ 記JI (出 典 : DVDII西 遊 記』、 東 映 ビ デ オ、 2 0 0 2 年) に限つては基本的に 2コマ撮り のフル・アニメーションで制作 されている。そのことに関連して、長編第 1作の 『白蛇伝 j] (薮下泰司演出、 1 9 5 8 年)から第 1 4作の 『太陽の王子ホルスの大冒険 j] (高畑勲監督、 1 9 6 8年)の頃 までライブアクションが活用されていたことも念頭に置いておきたい。しかし、 ディズニーと東映動画の双方のフル・アニメーションにも、質的に大きな違い が見られる。具体的に、ディズニーの 『白雪姫 』における白雪姫が小人達と出 会い、様々な楽器による軽快な音楽にあわせてダンスをする場面と、東映動画安零績第 p f下
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事 考 号
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デ、イズ、ニーと東映動画の双方のフル・アニメーションにも、質的に大きな違い が見られる。具体的に、ディズニーの f白雪姫 』における白雪姫が小人達と出 会い、様々な楽器による軽快な音楽にあわせてダンスをする場面と、東映動画 の長編第 3作 『西遊記 j] (薮下泰司/白川大作/手塚治虫演出、 1 9 6 0年、図 3 ) における悟空が小さくなって沙悟浄の口から胃の中に入りドラムを叩き、その リズムに乗って沙悟浄がもがき苦しむダンスをする場面を比較してみると、ド ラムを叩いたり踊ったりするという同じ演技でも、ディズニーの場合は諸処の 所作において全身が常に流動的に動いているように描かれているのに対し、東映 動 画 の 場 合 は 一 貫 した 流 動 性 とい う よ り も 、 抱 を 叩 く悟 空 の 腕 な どは 少 し減 り張 りの つ い た 動 き で 描 か れ て い る。 こ の 減 り張 りの 違 い は 、 次 章 で 詳 述 す る が 、 中 割 りの 枚 数 と配 置 、 つ ま リア ニ メ ー ト技 術 の 動 画 の タ イ ミ ン グ と ス ペ ー シ ン グ の 違 い に よ る も の で あ る 。 ま た 、 沙 悟 浄 の ダ ン ス は 、 明 らか な リ ミテ ッ ド技 法 で描 か れ て い る こ とに も注 目 した い 。 この 違 い に 関 して 、 基 本 的 に は 東 映 動 画 の 技 術 不 足 な らび に 制 作 期 間 や 予 算 不 足 とい う要 因 が 考 え られ る が 、 戦 前 の 政 岡憲 三 や 瀬 尾 光 世 の 作 品 は どち らか とい う とデ ィ ズ ニ ー 的 な 質 感 の 動 き で あ る た め 、 や は り東 映 動 画 の ア ニ メ ー タ ー の 意 図 的 な 作 画 と考 え られ る 。 実 際 に 、 高 畑 勲 は 「 ア メ リカ ア ニ メ の 特 徴 で あ る過 剰 な 流 動 感 や 、 台 詞 と結 び つ い た 誇 張 の 大 き な 動 き は 、 日本 に は合 わ な い の で 、 や ろ う とお も え ば で き な い こ と で も な か っ た が あ え て 取 り入 れ る こ と は な か っ た 」 と当 時 を 振 り返 つ て い る16。 で は 、 東 映 動 画 が 目指 して い た 動 か し方 とは 如 何 な る も の か 。 そ の簡 潔 な 答 え は 、 大 塚 康 生 の 「 現 実 の 生 き写 し"で は な く“現 実 を 連 想 さ せ る"動き」 とい う言 葉 に象 徴 さ れ る17。 っ ま り、 ラ イ ブ ア ク シ ョ ン を 下 地 に して 現 実 の 動 き 、 あ る い は そ れ 以 上 の も の を創 出 さ せ る の で は な く、 ラ イ ブ ア ク シ ョ ン を 参 考 に しな が ら、 現 実 的 な 動 き を 感 じさ せ る演 技 を 目指 して い た の で あ ろ う。 この ラ イ ブ ア ク シ ョ ン に 関 し て は 、 発 足 直 後 の 東 映 動 画 が 抱 え て い た 大 き な 問 題 を 露 呈 して い る 。そ の 具 体 的 事 例 と して 、『 白蛇 伝 』で は ヒ ロ イ ン の 自 娘 (パ イ ニ ャ ン