博士論文審査結果の要旨
学位申請者
多 田 浩 之
主論文 1編Reprogrammed chondrocytes engineered to produce IL-12 provide novel ex vivo immune-gene therapy for cancer.
Immunotherapy 9(3);239–248, 2017
審 査 結 果 の 要 旨
免疫調節性のサイトカインを用いた免疫療法は, 通常の治療レジメンでは十分に有効性が得られ ない悪性新生物に対する新しい治療法として注目されている. しかし従来の臨床治験では, リンパ 造血系に対する毒性などの副作用により, IL-12 は限られた有効性しか示すことができなかった. in vivo のサイトカイン投与に換えて, ex vivo 遺伝子導入によりサイトカインを産生するよう改変した 細胞を患者に接種すれば, 比較的低い血中サイトカイン濃度を持続でき, 安全で好ましい免疫療法 となることが期待される. 山中らによる iPS 細胞の報告以来, 体細胞のリプログラミング技術が進 歩してきたが, 分化した体細胞を別系列の体細胞に直接誘導する direct reprogramming(direct conversion)法も多数報告されてきた. 平松らはマウスの線維芽細胞を軟骨様細胞に直接誘導できる ことを報告した. これらの技術は再生医療への応用が期待されているが, 申請者らは体細胞リプロ グラミング技術は再生医療だけでなく, ex vivo サイトカイン遺伝子治療にも有用であろうと考えた.申請者は, direct conversion 法を用いてマウスの線維芽細胞から軟骨様細胞(iChon 細胞)を誘導し, そこにIL-12 遺伝子導入と放射線照射を行って, 上記の条件を満たす理想的な ex vivo サイトカイン 療法用細胞製剤を開発することを目的とした. IL-12 iChon 細胞に様々な線量で軟 X 線を照射したと ころ, 20 Gy 以上で細胞増殖が完全に抑制されたが, 約 2 週間生存し IL-12 を産生し続けた. IL-12 iChon 細胞を放射線照射後にマウスに皮下投与したところ中程度の IL-12 の血漿濃度が 2 週 間以上持続した. マウス大腸癌株を皮下移植した腫瘍マウスモデルに IL-12 iChon 細胞を接種する と, 腫瘍の増殖が抑制され, 生存期間が延長した. また抗 CD31 抗体を用いて腫瘍血管面積を評価す ると, コントロール群に対し IL-12 iChon 細胞投与群では微小血管面積比が低かった. また, CTL と NK 細胞傷害アッセイを行ったところ, IL-12 iChon 細胞接種群では CT26 特異的 CTL が著明に誘導 されており, また NK 活性が上昇していた. 体細胞のリプログラミング技術は, 再生医療への応用が期待されているが, 移植後の細胞は複雑 な生理的機能を果たすことが要求されるため, 放射線照射はそれらの機能を損なう可能性がある. 本法ではサイトカイン産生能さえ保持されればよく, 放射線照射により癌化能を消失させてから移 植することが可能なので, 再生医療よりも安全に実施できるであろう. iChon 細胞は conversion 後 も十分な増殖能があるため, 移植に必要な数を確保しやすく, さらに必要に応じて薬剤選択を行う ことが可能なので, IL-12 を持続的に産生する細胞を得やすいと考えられる. また本手法は, サイト カイン以外の分泌タンパクにも応用できると考えられるが, その際には目的に応じて体内での産生 期間を変えるなどの工夫が必要となると考える. 以上が本論文の要旨であるが, 新しい ex vivo サイトカイン癌免疫療法につながる可能性のある新 技術を提示した点で, 医学上価値ある研究と認める. 平成29 年 4 月 20 日 審査委員 教授 奥 田 司 ㊞ 審査委員 教授 橋 本 直 哉 ㊞ 審査委員 教授 加 藤 則 人 ㊞