二成分系溶液の組成とそれらの
相互変換式に関する再検討
(3)
— 濃度−比の相互変換 —
Revisiting Compositions of Binary Solutions and Their Interconversion Equations, Part 3
—Interconversions of Compositions in Concentrations–Ratios—
中川
徹夫
NAKAGAWA Tetsuo
神戸女学院大学 人間科学部 環境・バイオサイエンス学科 教授 Department of Biosphere Sciences, School of Human Sciences, Kobe College
[email protected] 要旨 著者はこれまでに二成分系溶液の組成に関して,濃度–濃度,コンテント–コンテント,分 率–分率,比–比,濃度–コンテント,および濃度–分率の相互変換式を誘導した.本研究で は,新たに濃度–比の相互変換式を,それぞれの組成の定義に基づき系統的に誘導した.濃 度として,モル濃度,数濃度,質量濃度,体積濃度を,比として,モル比,質量比,体積 比を対象とした.誘導した式の有効性を検証するため,エタノールの質量分率が 0.500 の エタノール水溶液を例に取り,この組成に相当する水に対するエタノールの質量比1.00 を, モル濃度,数濃度,質量濃度および体積濃度へ,さらに,水に対するエタノールのモル比 0.390 および体積比 1.26(いずれも質量分率 0.500 に相当)を,モル濃度へ変換した.相互 変換式を用いて算出した組成の値は,組成の定義より算出した値と有効数字3 桁で一致し た.以上より,得られた相互変換式の有効性が認められた. キーワード:二成分系溶液,組成,濃度,比,相互変換
1 はじめに 溶液が関与する定量的な議論において,溶液の組成表示やそれらの相互変換に関する知 見は極めて重要である.溶質と溶媒の二成分から構成される二成分系溶液の中でも,溶質 が非電解質でかつ溶媒和分子を含まない系が最も単純であり,この系に関する組成表示並 びに相互変換に関する議論は,化学の各分野の研究的側面に加え,高等学校化学や大学化 学の教材論的な視点からも興味深い. 著者は二成分系溶液の組成を,濃度,コンテント,分率,比に大別し,濃度–濃度1),コ ンテント–コンテント1),分率–分率1),比–比1),濃度–コンテント2),および濃度–分率2)の 相互変換式を誘導した.しかし,濃度−比に関しては未だ検討していない. 本研究では,これまでの検討に加え,新たに濃度–比の相互変換式を系統的に誘導した. 濃度として,モル濃度,数濃度,質量濃度,体積濃度を,比として,モル比,質量比,体 積比を,それぞれ研究対象とした.その際に用いた物理量の記号は,前報1-2)と同様,Cvitaš3), IUPAC の Gold Book4)およびGreen Book5)の表記に準拠した.
2 二成分系溶液の組成の分類 2-1 研究対象と用いた物理量の記号 本研究の対象は,溶質と溶媒の2 成分からなる二成分系溶液であり,溶質を成分 1,溶 媒を成分2 とする.ただし,溶解前の溶質は溶媒和分子を含まない非電解質と仮定し,溶 質(成分1)の組成に着目した. 溶液の組成を表現するのに用いた物理量の記号は,質量を m,体積を V,物質量を n, アボガドロ定数をNA,密度をd,モル質量を M とする.溶液調製前の成分 1 および成分 2 に関する物理量には,物理量の記号の右下に添字1 および 2 を付す.また,調製された溶 液に関する物理量には,添字を付さない . 2-2 組成の分類 2-2-1 濃度 濃度は,溶液の示強性量を体積V で表現した組成である.これには,モル濃度(物質量 濃度)c1,数濃度C1,質量濃度ρ1,体積濃度σ1があり,それぞれ式(1)–(4)のように定義され ている1, 2). c1 = n1/V (1) C1 = N1/V (2) ρ1 = m1/V (3)
σ1 = V1/V (4) 2-2-2 比 比は,混合前の溶質の示量性量を,混合前の溶媒の示量性量で除した組成である.これ には,モル比(物質量比)τ1, 2,質量比ζ1, 2,体積比ψ1, 2がある1). τ1, 2 = n1/n2 (5) ζ1, 2 = m1/m2 (6) ψ1, 2 = V1/V2 (7) 3 二成分系溶液における濃度̶比の相互変換 3-1 c1と τ1, 2の相互変換 式(1)より, c1 = n1/V = n1 /[(m1 + m2) /d] = dn1/(m1 + m2) = dn1/(M1n1 + M2n2) (8) となる.分母,分子をn2で除すと,式(5)より, c1 = d(n1/n2)/(M1n1/n2 + M2) = dτ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) (9) となる.式(9)をτ1, 2について解くと, τ1, 2 = M2c1/(d ̶ M1c1) (10) が得られる. 3-2 c1と ζ1, 2の相互変換 式(9)と文献 1 の表 4 より, c1 = dτ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) = (dζ1, 2/M1)/(ζ1, 2 + 1) = dζ1, 2/[M1(ζ1, 2 + 1)] (11) となる.式(11)をζ1, 2について解くと, ζ1, 2 = M1c1/(d ̶ M1c1) (12)
が得られる. 3-3 c1と ψ1, 2の相互変換 式(9)と文献 1 の表 4 より, c1 = dτ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) = [(dd1M2ψ1, 2)/(d2M1)]/(d1M2ψ1, 2 /d2+ M2) = dd1ψ1, 2 /[M1(d1ψ1, 2 + d2)] (13) となる.式(13)をψ1, 2について解くと, ψ1, 2 = d2M1c1/[d1(d ̶ M1c1)] (14) が得られる. 3-4 C1と τ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(9)より, C1 = NAc1 = dNAτ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) (15) となる.式(15) をτ1, 2について解くと, τ1, 2 = M2C1/(dNA ̶ M1C1) (16) が得られる. 3-5 C1と ζ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(11)より, C1 = NAc1 = dNAζ1, 2/[M1(ζ1, 2 + 1)] (17) となる.式(17) をζ1, 2について解くと, ζ1, 2 = M1C1/(dNA ̶ M1C1) (18) が得られる. 3-6 C1と ψ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(13)より,
C1 = NAc1 = dd1NAψ1, 2 /[M1(d1ψ1, 2 + d2)] (19) となる.式(19) をψ1,について解くと, ψ1, 2 = d2M1C1/[d1(dNA ̶ M1C1)] (20) が得られる. 3-7 ρ1と τ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(9)より, ρ1 = M1c1 = dM1τ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) (21) となる.式(21) をτ1, 2,について解くと, τ1, 2 = M2ρ1 /[M1 (d ̶ ρ1)] (22) が得られる. 3-8 ρ1と ζ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(11)より, ρ1 = M1c1 = dζ1, 2/(ζ1, 2 + 1) (23) となる.式(23) をζ1, 2について解くと, ζ1, 2 = ρ1 /(d ̶ ρ1) (24) が得られる. 3-9 ρ1と ψ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(13)より, ρ1 = M1c1 = dd1ψ1, 2 /(d1ψ1, 2 + d2) (25) となる.式(25) をψ1, 2について解くと,
ψ1, 2 = d2ρ1/[d1(d ̶ ρ1)] (26) が得られる. 3-10 σ1と τ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(9)より, σ1 = M1c1/d1= dM1τ1, 2/[d1(M1τ1, 2 + M2)] (27) となる.式(27) をτ1, 2,について解くと, τ1, 2 = d1M2σ1 /[M1 (d ̶ d1σ1)] (28) が得られる. 3-11 σ1と ζ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(11)より, σ1 = M1c1/d1= dζ1, 2/[d1(ζ1, 2 + 1)] (29) となる.式(29) をζ1, 2,について解くと, ζ1, 2 = d1σ1 /(d ̶ d1σ1) (30) が得られる. 3-12 σ1と ψ1, 2の相互変換 文献1 の表 1 と式(13)より, σ1 = M1c1/d1= dψ1, 2 /(d1ψ1, 2 + d2) (31) となる.式(31) をψ1,,について解くと, ψ1, 2 = d2σ1 /(d ̶ d1σ1) (32) が得られる. 以上の結果を,表1 及び表 2 に整理した.これらの表を利用すれば,あらゆる場合の濃
度−比の相互変換が可能となる. 表1 濃度から比への変換表 c1 C1 ρ1 σ1 τ1, 2 = M2c1/(d – M1c1) M2C1 /(dNA – M1C1) M2ρ1 /[M1 (d – ρ1)] d1M2σ1 /[M1 (d ̶ d1σ1)] ζ1, 2 = M1c1/(d – M1c1) M1C1 /(dNA – M1C1) ρ1 /(d – ρ1) d1σ1 /(d ̶ d1σ1) ψ1, 2 = d2M1c1 /[d1(d – M1c1)] D2M1C1 /[d1(dNA – M1C1)] d2ρ1/[d1(d – ρ1)] d2σ1 /(d ̶ d1σ1) 表2 比から濃度への変換表 τ1, 2 ζ1, 2 ψ1, 2 c1 = dτ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) dζ1, 2/[M1(ζ1, 2 + 1)] dd1ψ1, 2 /[M1(d1ψ1, 2 + d2)] C1 = dNAτ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) dNAζ1, 2/[M1(ζ1, 2 + 1)] dd1NAψ1, 2 /[M1(d1ψ1, 2 + d2)] ρ1 = dM1τ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) dζ1, 2/(ζ1, 2 + 1) dd1ψ1, 2 /(d1ψ1, 2 + d2) σ1 = dM1τ1, 2 /[d1(M1τ1, 2 + M2)] dζ1, 2/[d1(ζ1, 2 + 1)] dψ1, 2 /(d1ψ1, 2 + d2) 4 組成の相互変換式の有用性の検証 4-1 相互変換式の検証の用いた例ーエタノールと水の等質量混合系ー 誘導した組成の相互変換式の有用性を,具体的に前報 1)に示したエタノールの質量分率 が 0.500 であるエタノール水溶液,すなわちエタノールと水の等質量混合系の例を用いて 検証した.エタノール水溶液中の各種組成(濃度および比)の値を,今回誘導した相互変 換式のうち,質量比ζ1, 2から他の濃度(モル濃度c1,数濃度C1,質量濃度ρ1,体積濃度σ1) への変換およびモル比τ1, 2,体積比ψ1, 2からモル濃度c1への変換に注目し,定義から算出し た値と比較した.計算に必要なエタノール水溶液の密度は,文献6)より引用した. 定義から算出したエタノール水溶液中の水に対するエタノールの比,およびエタノール の濃度の値は,下記の通りである1-2). ζ1, 2 = 1.00 (1.0000···),τ1, 2 = 0.390 (0.39045···),ψ1, 2 = 1.26 (1.2649···), c1 = 9.91 (9.9131···) mol·L-1,C1 = 5.97 (5.9677··· ) 1024 L-1,ρ1 = 457 (457.00···) g·L-1, σ1 = 0.579 (0.57921···)
4-2 ζ1, 2からc1, C1, ρ1, σ1への変換 ζ1, 2からc1へ 式(11)より, c1 = dζ1, 2/[M1(ζ1, 2 + 1)] = (0.914 g·mL-1)·(1.0000···)/[(46.1 g·mol-1)·(1.0000··· + 1)] = 9.9132··· 10-3 mol/mL = 9.9132···mol·L-1 (答)9.91 mol·L-1 ζ1, 2からC1へ 式(17)より, C1 = dNAζ1, 2/[M1(ζ1, 2 + 1)] = (0.914 g·mL-1)·(6.02 1023 mol-1)·(1.0000···)/[(46.1 g·mol-1)·(1.0000··· + 1)] = 5.9677··· 1021 mL-1 =5.9677··· 1024 L-1 (答)5.97 1024 L-1 ζ1, 2から ρ 1へ 式(23)より, ρ1 = dζ1, 2/(ζ1, 2 + 1) = (0.914 g·mL-1)·(1.0000···)/(1.0000··· + 1) = 0.457 g·mL-1 = 457 g·L-1 (答)457 g·L-1 ζ1, 2から σ1へ 式(29)より, σ1 = dζ1, 2/[d1(ζ1, 2 + 1)] = (0.914 g·mL-1)·(1.0000···)/[(0.789 g·mL-1)·(1.0000··· + 1)] = 0.57921··· (答)0.579 4-3 τ1, 2 ,ψ1, 2からc1への変換 τ1, 2からc1へ 式(9)より, c1 = dτ1, 2/(M1τ1, 2 + M2) = (0.914 g·mL-1)·(0.39045···)/[(46.1 g·moL-1)·(0.39045···) + 18.0 g·moL-1]
= 9.9131··· 10-3 mol·mL-1 = 9.9131··· mol·L-1 (答)9.91 mol·L-1 ψ1, 2からc1へ
式(13)より,
c1 = dd1ψ1, 2 /[M1(d1ψ1, 2 + d2)]
= (0.914 g·mL-1)·(0.789 g·mL-1)·(1.2649···)/[(46.1 g·moL-1)·((0.789 g·mL-1)·(1.2649···)+ 0.998 g·mL-1)]
= 9.9132··· 10-3 mol·mL-1 = 9.9132··· mol·L-1 (答)9.91 mol·L-1 いずれの場合も,定義から算出した組成の値と相互変換式から算出した組成の値は,有
効数字3 桁以内で完全に一致した.これより,このたび誘導した相互変換式の有用性が認
5 おわりに 本研究では,二成分系溶液の組成に関して,濃度–比の相互変換式を系統的に誘導した. そのうちの数例に関して,エタノールと水の等質量混合系を例に検証したところ,いずれ の場合も,定義から算出した組成の値と相互変換式から算出した組成の値は,有効数字 3 桁以内で完全に一致した.これより,本研究で誘導した相互変換式の有用性が認められた. これまでの議論と同様に,これらの相互変換式を誘導する際,使用した数式はいずれも 単純な多項式のみである.したがって,自然科学を専門としない大学生や高校生でも,容 易に誘導することが可能である.平素の高等学校や大学の化学の授業や,二成分系溶液が 関与する研究に従事する際に活用できるものと推察する. 文献と註 1) 中川徹夫,「二成分系溶液の組成とそれらの相互変換式に関する再検討(1)—濃度, コンテント,分率,および比の相互変換—」,神戸女学院大学論集,66(1),1-13 頁, 2019 年. 2) 中川徹夫,「二成分系溶液の組成とそれらの相互変換式に関する再検討(2)—濃度 ‒コンテントおよび濃度‒分率の相互変換—」,神戸女学院大学論集, 66(2),51-62 頁, 2019 年.
3) T. Cvitaš, “Quantities describing composition of mixtures,” Metrologia, 33(1), pp. 35-39, 1996. 4) https://goldbook.iupac.org/ (IUPAC Gold Book), 2020 年 1 月アクセス.
5) E. R. Cohen, T. Cvitaš, J. G. Frey, B. Holmström, K. Kuchitsu, R. Marquardt, I. Mills, F. Pavese, M. Quack, J. Stohner, H. L. Strauss, M. Takami, and A. J. Thor, “Quantities, Units, and Symbols in Physical Chemistry,” in IUPAC Green Book, 3rd Edition, IUPAC & RSC Publishing, Cambridge,
2007.
6) J. R. Rumble (Editor-in-Chief), “Density of Ethanol-Water Mixtures,” in CRC Handbook of Chemistry and Physics, 99th edition, Section 15, CRC Press, Boca Raton, p. 40 , 2018.