急激に無気肺と呼吸不全を呈した肺癌の1例
甲府共立病院 内科 加賀美武 楠真
外科 位田歳晴 高木績 河野仁 内藤恵一
病理科 畑日出夫
はじめに
呼吸不全を呈する痴患として、慢性閉塞性肺疾患がまず考えちれるが、実は肺癌によ るものの方が多いとされている。我々は急激に無気肺が生じ、呼吸不全を呈したため、 緊急手術を要した一例を経験したので報告する。症例
51歳男性、公務員、 主訴:咳漱、左胸痛、呼吸困難 既往歴:特記すべきものなし 家族歴:父親に胃癌、母親に肺癌喫煙歴:20本×28年
現病歴:1992年1月、胸部レン
トゲン健診では異常を指摘されなかっ た。2月20日頃より咳嫌、左胸痛、 呼吸困難が生じ悪化したため、2月27日午前6時40分徒歩にて当院を受
診、胸部レントゲン上異常を認められ、 当日入院, 入院時現症:体温、36.7℃、血圧150/80mmHg;K脈拍51/分、結
膜;貧血(一)黄疸(一)、表在リン パ節触知せず甲状腺腫(一)、胸部; 心音清、左呼吸音減弱、ラ音聴取せず、 腹部;肝脾腫(一)、腫瘤触知せず、 下腿浮腫(一)。 入院時検査所見(表1):白血球数10700/㎜3と増加、血糖157
㎎/dlと高値だった。血液ガス分析では、 室内気吸入下でPco229.8Torr,Po242.9Torrと著明な低酸素血症
とAa −D 02の開大を認めた。 図1は外来受診時午前7時頃の胸部 レントゲン写真である。左下葉の無気 肺と左肺門部陰影の増大、縦隔の左方表1
[入院時検査所見]
血液一般 WBC 10700/㎜3 (N78.8,L14.6,M4.5,EO.4,BO.9%) RBC 491×104/m3 Hb 15.1 g/dl Ht 45.7% 血液生化学TP
AIbTTT
ZTT
T.BilALP
ChE
GOT
GPT
LDH
γGTP
血液ガス分析 7.5g/dl 4.2g/dl 3.7U 7.7U O.72mg/dl 10.1KA O.954PH 141U/1 101U/1 250Wr/1 181U/1 PH 7.477 PCO2 29.8 Torr PO2 42.9 Torr HCO3 22.1㎜o l/l BE O.5㎜ol/l O2CT 17.9ml/dl O2SAT 83.3% Amy 49 U GIc 157 mg/dl BUN 12.9 mg/dl Cr O.77 mg/d l UA 5.Omg/dl Na 142 mEq/lK4.2 mEq/l
Cl 102 mEq/l Ca 9.5 mEq/l chol 156 mg/d l一57一
変位を認める。 図2は入院後午前10時頃の胸部レ ントゲン写真である。無気肺は左上葉 に及び、縦隔の左方変位は進行し、左 横隔膜の挙上が明かとなっている.ま た左主気管支の中断像が認められる, 呼吸困難と左胸痛は増悪していた。こ の頃の血液ガス分析は、酸素分時4L
鼻カヌラ吸入下で、PH7,462,
Pco231,7Torr, Po267,6
Torrだった、 左胸痛と呼吸困難はその後も増悪し、 酸素40%ベンチマスク下で、血液ガス分析はPH7,501,Pco2
30.2Torr, Po252,8Torr、
呼吸回数40回以上で、意識障害も生 じたため気管内挿管し、人工呼吸器を 装着した.図3は、気管内挿管直後午 後10時の胸部レントゲン写真である。 左肺は上下葉とも無気肺になっており、 縦隔変位も進行している。FiO2 ].0で’血液ガス分析は、PH7、342,Pco237,9Torr,
Po238.9Torrとさらに悪化して
いた。 気管支内腫瘤、mucoid impuctionな どを疑い、気管支鏡検査を施行した。 図4は、気管分岐部直下から左主気管 支を観察したものである。左主気管支 末梢部はポリーフ状腫瘍でほli澗塞し ており、表面は粘液て被われている。 近接像(図5)では、粘液の一部に 血液の付着が認められる。急速に進行 した無気肺により、シャントが生じ、 低酸素血症が進行したと考え、緊急手 術を施行した.麻酔開始は翌日の0時 55分、外来初診時より約18時間後 だった, 手術開始時の経皮白繍包和度は 50台だったが、開胸直後80台に回一58一
図1図2
::,.図3
復した 左肺門部に5Ltn大ρ)腫瘍を触 知するも、リンパ節の腫脹は認めなか 一った 左肺摘除術を施行した 切除標本(図b)てーは.左上下葉分 岐部を中心に、乳頭状発育をなす 45・3「〕MrIL大の腫瘍が、気管支腔 を完全に閉塞し、左肺全体が無気肺に 陥っている 腫瘍は肺門リンパ節に直 接浸潤していた
術後のTNM5♪類は、丁3NIMO、
st嶋e皿Aだった 組織標本(図7)では、著明な角(ヒ 傾向を有す高分1ヒ型肩平上皮癌であっ た、 術後の経過は順調て呼吸不全も軽快 し、入院後22日で退院している. 術後入手した、県外の病院で1月に 施行された健診フィルム(図8)では、 左肺門部の腫瘤状陰影と、舌区の一部 に無気肺を認める 考察 本症例はr川・spe〔riveには、約ユヶ 月の経過でL太い気道の閉塞により、無 気肺が進行したものだが、当院初診時 から16時間で左全肺無気肺となり、 18時間後の緊急手術で救命しえた 急速な無気肺の進行は、気管支鏡所 見より、腫瘍によりほぼ閉塞していた 主気管支が、一部出血はあるものの、 主には粘液の貯留によつ、完全閉塞し たと考えられた、このため換気が消失 し、血流のみ保たれたため、著しい シャントが生じ.著明な低酸素血症を 来したと考えられた 藤村らは、本症例と同様左主気管支 を閉塞する腫瘍のため無気肺を来した 患者に、一ヨ貝肺動脈閉塞試験を施行し、 Pζ)2の改善と、呼吸困難の消失を認め ている1’一59一
図.4図r
図6
図7
本症例は、開胸時経皮的酸素飽和度 の改善を認めているが、これは開胸に より胸腔内圧が陰圧から陽圧にかわり、 肺動脈の虚脱が生じ、シャントが改善 したためと考えられた。 厚生省の呼吸不全調査研究班によれ ば、呼吸不全の原因疾患は、慢性閉塞 性肺疾患より原発性肺癌の方が多いと されている2}3)。 一般に肺癌患者の死因では、呼吸不 全が最も多いとされているd)。また巽 らによれば、呼吸不全に陥った肺癌の 予後はきわめて不良である5)。その中 でも呼吸不全から軽快し得るものとし て、組織型としてはノJs細胞癌、増悪因 子としては太い気道の閉塞が指摘され ており、適切な治療で回復し得る可能 性が示されてる6)T}、 急性呼吸不全では、まず肺癌が原因 である場合を考慮し、速やかに手術等 の処置で、病態を改善させる必要性が 痛感させられた。