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幼稚園における文化習得に関する研究:幼児の箸使いを中心に

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(1)平成22年度 学位論文. 幼稚園における文化習得に関する研究   一幼児の箸使いを中心に一. 兵庫教育大学大学院修士課程 学校教育学専攻 幼年教育コース 郷 徳純. MO9014B.

(2)                   目次. 序 章  本研究の目的と方法  第1節 問題の所在と目的・・・・・・・・・・・・・・…         1.  第2節 研究の方法と構成 ・・・・・・・・・・・・・…        2. 第1章  幼稚園における箸使いを取り入れる意義  第1節 日本の箸と箸文化の特色 ・・・・・・・・・・・・・・   ・・… 4.   第1項日本の箸について ・・・・・・・・・・・・…       4   第2項 日本の箸文化について・・・・・・・・・・・…       6  第2節 幼児の箸使いに関する先行研究の検討・・・・・・…         10  第3節 幼稚園における箸使いに関する教育の課題・・・・…         13. 第2章 幼稚園における箸使いの習得過程に関する事例研究  第1節 研究目的と方法 ・・・・・・・・・・・・・・…         16   第1項 研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・…         16.   第2項 研究の方法 ・…  の・・・・・・・・・・…        16.  第2節事例から見る全体の傾向 ・・・・・・・・・・…       17  第3節 個別の事例分析 ・・・・・・・・・・・・・・…         20  第4節 中国の幼稚園における箸使いの実態 ・・・・・・…         31. 第3章 保育者へのインタビュー調査  第1節 研究目的と方法 ・・・・・・・・・・・・・・…        33   第1項 研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・…         33.   第2項 研究の方法・・・・・・・・・・・・・・・…        33  第2節 幼稚園における箸使いの環境構成に関する結果と考察…        34  第3節 保育者の幼児の箸使いに関する考えの結果と考察 ・…        41.  第4節 保育者の考えに関する日中比較・・・・・・・・・・・・ ・…  50.   第1項 研究の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・…  50.

(3)   第2項結果 ・・…  ●・・・・・…. ・ 51.   第3項結果に関する日中比較 ・・・・…. ・ 53.   第4項 考察 ・・・・・・・・・・・…. ・55. 第4章 保護者への質問紙調査  第1節 研究目的と方法 ・・・・・・・・…. ・56.   第1項 研究の目的 ・・・・・・・・・…. ・56.   第2項 研究の方法 ・・・・・・・・・…. ・56.  第2節 日本での調査の結果と考察・・・・…. ・57.  第3節 中国での調査の結果と考察・・・・…. ・67.  第4節 保護者の意識に関する日中比較 ・・・・・・・・・…. ・70. 終 章 本研究の意義と今後の課題  第1節 本研究の意義 ・・・・・・・・・・・・…  第2節 中国の幼稚園における箸使いに対する提言・….  第3節 今後の課題  ・・・・・・・・・・・・…. 参考文献 巻末資料 謝  辞. @ 74 ・・… @ 76 ・・… @ 77 ・・….

(4) 序 章 本研究の目的と方法. 第1節 問題の所在と目的  近年,食文化を見直し,伝承することの重要性が認識されるようになってきた。その中 でも,日本人の食生活にとって,箸は重要な位置を占める。  一色(1998)は,幼児期からの箸使いについて,「食事をするだけでなく,道具を使う手 の動きの基本形になる」1)とし,また,「箸を正しく使用できる子どもは鉛筆の持ち方も上 手で文字も正しく書くことができる」2)と指摘している。さらに,「生活の基本的なしつけ. は,大脳が著しく発達する幼児期に決まる。この段階で手先の使用が十分でないと,大脳 も順調な発達ができなくなることになる」3)と注意を喚起して,「幼児期からの箸使いは日. 本人の脳と手の発達に大きく貢献してきたといえる」4)と述べている。谷田貝ら(2009)の 調査によると,正しい箸の持ち方ができている幼児は,極めて少ないそうである。.  幼児たちにとっての箸とは,使い方を教わることや脳と手の発達に関することや,食事 がスムーズに食べられるようになるだけのものなのだろうか。箸は,1つの文化を伝承させ る役割もあると考えられるが,先行研究では,幼児にとって文化としての箸に関わる視点 からのアプローチは極めて少なく,大人が日本の伝統文化として箸の使い方を次世代に伝 えるという問題意識が薄くなっていると考えられる。.  一方,2006年,60年ぶりに改訂された教育基本法では「教育の目標」の第2条の第5項 に「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国 を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」と定められている。また, 梶田(2008)は「伝統や文化の尊重と,それをはぐくんできた国や郷土に対する愛情,そ してその基盤の上に立って他の国とその伝統や文化を尊重することが,日本の新しい世代 に対して求められているのである」5)と述べており,伝統や文化に関する教育内容の充実を. 図ることが重要であるとしている。幼稚園においても「伝統と文化に関する教育」を扱う ことが必要になることは疑問の余地がない。幼稚園で箸使いを保育の中に展開すると同時 に,箸文化を幼児に伝えることは,教育的に価値がある営為であると考えられる。. 一1一.

(5)  さらに,筆者の母国でもあり,同じ箸文化圏である中国においても,同じような傾向が 窺える。筆者が実際に中国の幼稚園に行ってみると,中国の幼児たちは毎日幼稚園で朝,. 昼の2回食事している。しかし,箸使いの機会すらほとんどなく,まして箸文化を習得す ることはないという幼稚園の職員の話があった。これらのことから,幼稚園における幼児 の箸文化習得について見直す必要があるのではないかと考える。.  そこで,本研究では,幼稚園での文化習得の観点から幼児の箸使いに着目する。その前 提として,幼児の箸使いに関わる幼稚園での状況を調べ,幼児の箸使いの習得を明らかに する。その後,日本の幼稚園における箸文化の伝達の在り方を考察し,中国の幼稚園にお ける幼児の箸使いの習得と比較しながら,検討を進める。さらに,今後の中国の幼稚園で の箸文化を伝える在り方を考えていきたい。. 第2節  研究の方法と構成  本論文の方法と構成は以下の通りである。.  第1章では,日本の箸文化と幼児の箸使いに関する研究文献や論文を収集し,整理する。. 幼児の箸使いに関わる研究の動向と課題を把握し,幼稚園における箸使いを伝える意義に ついて考察を進める。.  第2章では,箸使いの観点で兵庫県H幼稚園において,観察による調査として幼児たち の自然な箸使いの姿を観察し,事例の分析を通して,箸使いの習得過程について幼児同士 の影響と保育者の働きを考察する。また,比較として中国の幼稚園における幼児の箸使い について取り上げ,文化的側面から考察を進める。.  第3章では,観察を行ったクラスの担任保育者を対象にインタビュー調査をする。幼稚 園における箸使いの環境について考察し,さらに,中国の幼稚園の箸使いの環境と比較す る。.  第4章では,第2章と第3章の結果を踏まえて,保護者へ質問紙調査を行う。幼児の箸 使いの習得の実態を調査する上で,保護者の意見を参考とする。  終章では,以上の結果をまとめて,箸を中心とした文化習得について考察するとともに, 今後の課題を探る。. 一2一.

(6) 引用文献 1)一色八郎   『箸の文化史 世界の箸・日本の箸』 御茶の水書房 1998,212頁. 2)同上,212頁 3)同上,212頁 4)同上,213頁 5)人間教育研究協議会編  『伝統・文化の教育 新教育基本法・新学習指導要領の精神の具現化を目指.  して』 金子書房  2008,6頁. 一3一.

(7) 第1章. 幼稚園における箸使いを取り入れる意義. 第1節  日本の箸と箸文化の特色  第1項 日本の箸について.  1 なぜ日本人は箸を使うのか  世界には,食事方法によって三食,箸食,ナイフ・フォーク・スプーン食(以下,フォ ーク食)の三つの基本型に大別できる。日本人が箸を使いフォークを使わない理由は何で あろうか。『全集日本の食文化第9巻』と『箸の文化史』によると,以下の理由が挙げられ る。.  第一に食物や料理そのものの違いが挙げられる。日本は,温暖多湿の気候と肥えた土壌 に合った稲作を選んだ。日本食の基本型は,米に野菜と少量の魚介類を加えて作られ,動 物の肉をあまり食べずに暮らしていた。これに対して欧米人は,遊牧や麦作で,パン類と 肉類を常食している。パンは手食で,肉類はフォーク食が一般的である。  第二の理由は調理法の違いである。食材の違いによる調理法の違いが挙げられ,箸は「は. さむ」ものであり,フォークは「突く,のせる」ものであることから,これに適した食事 法が生まれている。.  第三の理由は宗教と関わっている。日本の箸は,神事儀礼の中で神と共食するための聖 なる祭器として誕生したものである。そのことから,日本人は箸を「生命の杖」と呼んで いる。さらに,日本人は欧米人より手先が器用であると言われており,その器用さの根源 を箸に求める人も多い。.  2 箸の伝来と日本での発展  中国で発明された箸は,周辺の地域に広まった。箸は,中国から日本に伝わった後,日 本も箸で食事をする民族になった。それでは,箸はいつ,どのように日本へ伝えられたの か。.  日本で箸が使われ始めたのは,三世紀から七世紀の問のことであると考えられている。 周知のように,日本の「遣晴使」,「遣唐使」は,中国の文化や学術思想,宗教などの伝播. 一4一.

(8) に大きく貢献した。特に,七世紀の推古天皇の時代に入ってからの日本は,中国の先進的 文化を意識し,意欲的に取り入れようとした。張(2004)は「そのきっかけとなったのは 仏教の伝来に伴う食事法であろうと考えられている。小野妹子をはじめ最初の遣階使が中 国(階)から帰国するまでに日本人はまだ「箸」というものを知らなかったであろう」1) と述べている。.  一色(1998)によると,「日本で初めて新しい箸食制度を朝廷の供宴儀式で,採用したの は聖徳太子である」2)と述べられている。これは,推古天皇一五(607)年,小野妹子を中 国(階)に派遣し(遣階使),一行は箸と匙をセットにした食事作法によって,盛んな歓待. を受け,翌年,妹子は12人の階使と帰国した。階の国使である斐世清は,一緒に日本へ渡 り,中国最初の訪日大臣になった。この時,日本ではまだ手食作法であるが,早速,妹子 らが受けた中国の食事作法を真似て,宮中で初めて正式な箸食作法によって階の国使斐世 清の歓迎レセプションを催した。これによって,日本で箸を用いる端緒を開くことになっ た。.  このようにして,中国の新しい箸食制度は,晴使の帰国をきっかけとして,日本の宮廷 や上流社会に広がり始めた。一色(1998)は「奈良時代になると宮中の儀式や供宴には, 中国式の会食作法が採用され,馬頭盤にのせられた金や銀の箸と匙が用いられるようにな った」3)と述べている。.  そして,八世紀の始め,奈良の都,平城京造営の中で箸食制度も本格的に薦められ,従 来の生活習慣であった二食から箸食へと生活革命が行われた。さらに代表的な寺院におい ても,箸食制度は積極的に取り入れられた。.  3 日本の箸の種類とその作用  初めて日本に箸が伝わった際,太く両端を細く丸く削った「閉口箸」と,先端を細く削 った「片口箸」,また,頭部も先端も同じ形状の「寸胴箸」の三種類があった。現代の日本 の箸の種類には様々なものがあるが,「材質別」によって分類すると表1−1になる。. 一5一.

(9) 表1−1.材質別によって箸の種類 種類. 用途. 材質. 柳・杉檜桑椿紫檀など. 木箸. 片口箸  三口箸  割り箸. 竹箸. 割り箸  菜箸  取り箸. 孟宗竹・真竹. 塗り箸. 一般食事. 木・竹. 一般食事. プラスチック. 象牙箸. 取り箸. 象牙. 金属箸. 真魚箸. プラスチック箸(合 ャ樹脂). 金銀銅・鉄ステンレスなど。.  様々な箸は日本人に精細な区別を加えられ,各自の作用を発揮している。それぞれの主 な用途は,次のようである。.  出口箸は,両端とも使えるようになっているが,片方しか使ってはいけない。一方は神 様のためのもので,神様と共に食事をするという意味があり,正月や結婚式など様々な祝 いの席で使われる。.  片口箸は,日常的に使っている箸である。.  割り箸は,祝い事や神事,家庭で日常的に使う等の用途を兼ね備えている箸である。.  真魚箸と菜箸は,主に調理用として使用する。真魚箸は,その先端が特に細く,魚肉な どの材料を切るときに使用するものである。菜箸は,料理自体の香りの移りを防ぐために, 野菜に使う箸である。.  取り箸は,料理を取り分けるために用いる。.  この他,成人用や子ども,男女別によっても異なる。同じ機能を発揮する箸でも,この ように多くの種類を持つ国は,日本の他にないであろう。.  第2項 日本の箸文化について  箸は,中国から日本に伝えられた後,日本人の風習,思考方法と宗教の信仰によって様々. な変化が起きた。そして,箸は,日本人の心に最高至上の地位を持っている。箸は,日本 の最古の文献である『古事記』に記載されているのみならず,日本人にすばらしい神話と 伝説を与えた。さらに,箸は日本人の宗教礼儀,人の生死と切っても切れない関係があり, 独自の文化を形成していった。. 一6一.

(10)  1 箸の神話と伝説  日本では,昔から箸に関わる神秘的な古代伝説が多く存在する。その中で,最も有名な ものは,日本で初めての文献である『古事記』に出てくる「出雲の流れ箸」という箸の神 話であろう。『古事記』には次のように書かれている。.  「判れ避追はえて,出雲国の肥河上なる鳥髪の地に降りましき。この時しも,箸その河 より流れ下りき。ここに須佐之男命,その河上に人ありと以為して,尋覚ぎ上り往でまし しかば,老夫と老女と二人ありて,童女を中に置えて泣くなり。.  また問いたまわく,汝の実く由は何ぞと。答えてもうさく,我が女は本より八工女あり き。ここに高志の八俣遠呂智なも,年ごとに来て喫うなる。今それ来ぬべき時なるが故に 泣くと。.  ここにその形は如何にと問いたまえば,答えてもうさく,彼が目は赤加賀智なして,身 一つに八頭,八尾あり。またその身に薙また桧,三生い,その長さ肥人谷,門人尾を度り て,その腹を見れば,悉にいつも血燗れたりと。」4>.  そこで娘を助けた須佐之男命は,その娘を回った。本の河上から流れた箸は円満な結婚 生活の証明としてこの新婚夫婦に送ったそうである。現在の日本では,夫婦箸を友人の「結 婚祝い」や両親の「結婚記念日」,還暦などの「ご長寿祝い」に贈るものが多い。  日本には,食事前に箸を手にして「いただきます」と,箸に祈る風習がある。日本人は,. 古くから箸には神や使う人の霊が宿るとする信仰が根強いと考えられる。食物とは,大自 然すなわち神々からいただくものであり,それ故に,食事の時には神々に感謝の祈りを捧 げるとされている。この風習は,一般の家庭で今も残っている。.  2神様と御箸  箸は,日本人にとって宗教と関係していた。二食制度に仏教の色彩を与えたのは,奈良 時代に生まれた空海(弘法大師)である。空海は,中国(唐)に渡り,密教を学び帰国し て真言宗を開き,彼の信奉者に毎日箸で食事しなければならないと定めた。このようにし なければ,衆生を済度することができないそうである。そこで,箸を仏教の祭器として祭 ることになった。.  日本人が祭りの中で,神に接する場合の大きな特徴は,その神々を擬人化して接待し供 養することである。神をお迎えし,神と人を合わせ送るという一連の祭りで,最も大切な ことは,神々に神饅を供え,神と人が同じものを共同飲食することである。. 一7一.

(11)  神饒には,まず御箸を供える。御箸は,神と人を合わせる手段として大きな意味を持つ ことから,御箸を祭器として崇拝されているのである。また,神と同じ御箸を使い,同じ ものを食べることによって,御箸は神と人との橋であり,神の霊を人の身に呼び込むこと を願い,神の加護を祈ったものである。日本には多くの神社と仏閣がある。祭事に供える 御箸は,祭器としていろいろな祭りと緊密に連係している。また,日本で,各々の神社や 寺院は,各自の授与箸にめでたい名称で命名する。それは,家業の繁栄や延寿,招福等を 祈願するためのもので「福寿箸」,「長寿開運箸」,「縁結箸」等がある。これらの名称から,. 日本人がいかに箸に延命長寿,無病息災,厄除け開運の祈りをこめているのかが分かる。.  一色(1998)によると,日本では毎年の8月4日を「ハシの日」と定められており,毎 年8月4日に箸供養を行う。この箸供養は,多くの恩恵を受けながら捨てられている箸を 供養し,「ハシの日」になると,使用済の箸を火の中に投げ入れ,箸に対する感謝を表し, あわせて諸願成就を祈念し,最後に「火渡り」を行い法要を終える。.  3 箸と日本人の生死観  日本では,「箸折り」の風習がある。昔,山に入った際には,木の枝を箸にすることが多. かったことから,一度使用した箸には,その人の霊が宿り,使用後そのまま捨てると禍が くるとされ,必ず箸を折って捨てていた。この折る行為は,箸に宿る霊を自分の元へ帰ら せるためのものである。.  箸は,日本人の生活とは切っても切れない結びつきがあり,「生命の杖」といわれ,日本 人の生から死までお供をしている。日本人は,正月,誕生日などのような人生にとって“お めでたい”行事の祝いの膳には,よいと幸せを象徴する「白木箸」を使う。.  日本人は,誕生から墓場まで「箸に始まり箸に終わる」といわれているように,生後百 日目の赤ちゃんに「箸初め」という祝いを行うことになっている。この箸初めには,可愛 い茶椀にお椀,柳の白木箸など,全て新しいものを揃え,赤飯に尾頭付の鯛という祝膳で ある。この子が一生食べるものに不自由しないように,という願いを込めたものである。 また,京都の松尾大社では,初宮参りのとき「お食べ初め箸」を授与され,この箸を祝膳 に用いると,なお“めでたさ”が倍増する。  日本には,老人に長寿を祝う一般の行事の中で必ず柳で作る箸を使う。もし,「長寿箸」,. 「福寿箸」,「延寿箸」等が用いれば,さらにすばらしいものを加えることであろう。それ. だけではなく,現代の日本では子どもの進学や就職ための祝い,結婚式のような重大な活. t8一.

(12) 動には箸が欠かせないようになった。.  箸は,日本人の葬儀でも欠かせない物である。葬儀で家族がまず行わなければならない 儀i式は,「末期の水」を死者の口に与えることである。通例では,割り箸の先に脱脂綿を糸. で縛ったもので,血の濃い者から順に水で死者の唇をうるおし,死者がもう一度よみがえ るという願いをこめて行う。そこで,日本人の一生が死水を取る箸で終わると考えている。.  4 箸のマナー  日本のご飯は粘り気があるため,箸で食べることができる。汁物は,器を持って口元に 運べばスプーンも必要ない。この器を持つ行為は,箸だけを使う食文化ゆえのものだ。箸 だけを使う日本だからこそ,つまみやすく繊細な料理が生まれ,周りに不快感を与えずに 食べるための美しい箸使いの作法ができた。.  日本では,代表的な箸使いのタブーとして,以下の表1 一2のようなものがある。.              表1−2 日本の代表的な嫌い箸 直箸. 取り箸を使わずに自分の箸で直接大白の料理を取る. 叩き箸. お替りをするとき,食器を箸で叩いて人を呼ぶ. せせり箸. 楊枝代わりに口をせせる 死者の枕元に供える枕ご飯に箸を突き刺してたてるため,周囲の人に仏事. たて箸. 連想させる 箸と箸で食べ物のやりとりをする。火葬の後で死者の骨を拾うときに同じ 箸渡し. ョ作をするので縁起が悪い そら箸. 食べようとして食べ物を箸でとったが食べずに元にもどすこと. 刺し箸. 料理に箸をつきさして食べること. 迷い箸. どの料理を食べようか迷い,料理の上をあちこち箸を動かす. 指し箸. 食事中に箸で人を指すこと. 違い箸. 異質の箸を一膳にして使う.  世界には,およそ30%の人が日常的に箸で食事している。しかし,日本は世界で唯一, 箸だけで食事を完結させる国として,特異である。さらに,日本人は,箸に感謝の気持ち を持ち込み,独特な箸文化を作っていた。本節では,箸と宗教,神話伝説,日本人の生死. 一9一.

(13) との三つの面から日本において長期にわたって形成された箸文化を簡単に考察した。そし て,現代の日本の箸の種類及び箸文化のマナーとタブーの考察を通して,日本の箸文化の 特色を明らかにした。.  日本の箸文化からは,日本の心や感謝する気持ち,物事を大切にする気持ち,正しく箸 を持ってきちんと和食の美を味わう気持ちなどが感じられる。また,箸文化を大切にし,. それを今の幼児たちに伝えることが大切であると考える。したがって,幼児たちが正しく 箸を使えるように指導するのみならず,箸にまつわる物語や箸のマナー等を伝えられれば, さらに意味がある学びとなるではないだろうか。. 第2節  幼児の箸使いに関する先行研究の検討  幼児の箸使いに関する先行研究は,文献(2件)と論文24件が抽出された。食事規範の. 伝承(1件)と意識の変化の調査(1件)を除いて,他の24件の研究は,全て箸使いに関 する実態研究である。この24件の中に幼児の箸使いについての研究は11件あるが,保育 所・幼稚園の就学前施設の園児を対象とする研究が6件だけある。他の13件の中に,大学 生を対象としての研究が8件で,小学生と小学生以上に関する調査が5件ある。このよう に,今まで,幼児の箸使いについての先行研究は,箸使いの実態と実技にとどまり,「幼稚 園」と「箸文化の習得」を共に関連付ける先行研究は抽出されなかった。.  箸使いの研究として谷田貝ら(1991)は,箸の持ち方と作業量の関係を調査し,小学生 を対象として箸を正しく使える子が,そうでない子より作業量において優れているという. 結果を明らかにしていることから,箸の自立の可能性が6歳以前にあると考えられる。ま た,谷田貝ら(2009)は,幼児から高齢者までの幅広い年齢層を対象として,箸の持ち方・. 使い方の実技調査を実施している。現在,正しい持ち方の幼児が極めて少ないことが明ら かになり,集団生活で指導の時間的制約が正しい持ち方が出来ない要因の一つと考えられ る。高橋(2004)は,視力不良と姿勢の観点から,「箸の持ち方」,「鉛筆の持ち方」と「姿. 勢」の関連について検討し,保護者が丁寧に「持ち方」を教えることが効果的であると指 摘している。.  幼児の箸使いの指導を家庭に求める研究は多いが,正しく箸を使える親が少なく,子ど ものモデルになっていないと考える。岡佐ら(1984)は,小学校の2年生,5年生の児童の. 一10一.

(14) 母親を対象として,箸の持ち方やしつけ方等に関する質問紙調査を行った。その結果,母 親の意識の変革を促すことが子どもの箸の使い方に大きく影響を与えるものと推定された。 山田ら(1988)は,子どもの箸使いの乱れが指摘されていることから,箸使いは,家庭に おける食事指導の重要な課題として位置づけており,質問紙による調査から幼児の箸使い の実態と両親の箸指導意識について分析している。結果として,箸使いに関する基本的食 生活習慣の形成を幼児期の家庭における食事指導の中心的課題として位置づけることが重 要であるとしている。また,畑中(2002)は,箸を使用している未就学児を持つ保護者を 対象に,子どもの箸の持ち方や家庭での箸使用の実態および保護者の箸の持ち方,箸に関 するしつけ等についてアンケート調査を行い,その実態について検討した。その結果,家 庭における適正な指導と継続的な練習が必要であることを指摘している。しかし,谷田貝 ら(1990)は,親子に対して親と子における箸の持ち方・使い方の実態について実践調査 をし,箸のしつけと意識について質問紙法により調査した。それによると,箸の持ち方が 不正確な傾向が窺える。さらに,モデルとなる親自体が,何が正しい持ち方なのか理解で きていないと指摘していた。また,村越(2009)は小学校以上の人を対象として,三つの 判定基準で各年齢層の箸使いと箸への認識を調査した。現代の子どもだけでなく大人でも,. 箸を正しく使える人は減少していると明らかにした。その原因は,親自身も何が正しいの か理解できず,モデルになっていないこと,子どもの生活経験の不足や親のしつけに対す る意識の希薄さであると述べている。.  その他,大学生を対象とする研究は8件あり,幼児の箸使いの研究に参考となる。吉村 らは,1992年から2001年の問に箸についての研究を5件行っている。大学生の箸に関する 意識,箸の持ち方,作業量との関係,試料の重さ・大きさとの関係と評価,意識の比較に ついて調査した。箸の使い方を教えられた年齢は,小学校就学前後,次いで10歳前後と二 つのピークが見られ,6歳までにすでに教えられたり注意されたりしている傾向であったと 報告している。山田(1998)は,大学生の箸の持ち方の実態を把握することを目的に,箸 についてのアンケート調査と写真撮影による箸の持ち方の調査を行い,考察を試みた。正 しい持ち方をするものは,見た目が美しいばかりではなく,機能的にも優れていることが 明らかになったことから,正しい持ち方に直す意味は大きいとしている。田中(2006)は,. 将来,乳幼児の保育を担当する学生の持ち方の実態を明らかにすると共に,正しい箸の持. ち方ができていない学生に対して,1ヶ月の間,自己の箸の持ち方を自己評価させること によって,正しい箸の持ち方へと変化させることができるかどうかを検証した。その結果,. 一11一.

(15) 自己評価は学生の箸の持ち方を変えるために有効な方法であると考える。そして,自己評 価を親に対する指導法の一つとして適用できる可能性もあるとしている。大和(2010)は,. 保育者志望学生の生活技術レベルの実態,及び正しい生活技術の重要性に対する認識を明 らかにすることを目的として研究した。「箸を使う」についての結果は,伝統的な持ち方の. が3割を下回り,重要性評価が高い傾向にあることから,幼児期における箸使いに積極的 意義を感じている状況であるとしている。また,山内ら(2010)は,若者の箸の持ち方の 実態を明らかにし,その箸の持ち方を決定する要因を検討すると共に,家庭における食事 マナーとの関連を把握し,丁丁を実践する上での指導の一助とすることを目的に女子大学 生を対象として調査研究を行った。それによると,幼児期に伝統的な箸の持ち方を指導し, その持ち方を習慣化させる必要性が強く示唆された。「日本型箸食文化」を次世代に継承し. 発展させていくためには,まず家庭で,そして保育所や幼稚園,さらに小学校などにおい て,身近な大人が子どもと一緒に食卓を共有しつつ,伝統的な箸の持ち方や食事マナーを 根気よく,継続して次世代へ伝えていく努力をすることが重要であると指摘している。  幼児の箸使いの先行研究について,保育所と幼稚園の園児を対象としたのは6件である。. 貴田ら(1987)は,日々の保育を通した箸使いの指導から,子どもたちの変化を把握する と同時に指導方法についても研究した。5歳児に保育者が指導方法を使って指導し,幼児の 個人の行動特性,性格特性の変化を保育者,保護者へ質問紙法により調べた。箸を能率的 に指導するには,一斉指導をし,その上で理解がおそく不器用な子どもには,個人指導も することが良いとし,また,家庭での指導も非常に影響があるとしている。村田(1992) は,箸の持ち方についての実態は調査されたことが少なく,何歳くらいから持てるのか,. 指導した場合としない場合ではどのくらい違うのかも把握されていなかったことから,保 育所の2歳∼5歳の幼児を対象として,箸の持ち方の実態を探り,そして,箸の持ち方の指 導については,統制群と実験群とに分け,その効果の可能性の実態を探っている。結果と して,統制群より実験群は顕著な効果がでている。また,箸の持ち方の指導は4歳から明 確な意図で始めるのが効果的であるといえると報告している。岩田ら(2003)は,幼稚園 児の箸の使用頻度,箸の持ち方について観察を行い,子どもが箸を使い始める時期の発達 過程について検討を行った。結果は,年齢が高まるほど箸の使用頻度は高まり,年長児で は大部分が箸のみを使用していた。また,年長群では,2本の箸を独立に動かし,箸として の機能を発揮させている割合が高く,年齢が上がるにしたがって伝統的な箸の持ち方,ま たは大人の正しい持ち方に近づいて行く傾向が窺えたとしている。廣ら(2007)は,幼稚. 一12一.

(16) 園の幼児の箸使用の実態及び,保護者からみた子どもの箸使用に関わる「意識」及び「行 動」について調査し,それらの相互関連性について検討し,食育実践を開示する。幼稚園 と家庭生活の連続性が確保されることによって,正しい箸の扱い方が定着するものと考え, 幼児に対する視点と保護者に対する視点から食育実践を進めている。宇都宮ら(2008)は, 「伝統型」の習得に影響を与える事項について明らかにし,幼児の箸使いについて保育所・. 幼稚園での観察による調査を行った。幼児を取り巻く周囲の環境や励ましが,幼児の箸使 いや上手に食べることへの関心を高め,「伝統型」の習得につながっていくと指摘した。井 上ら(2008)は,幼稚園児や小学生,中学生を調査対象とし,デジタルカメラを用いて,. 給食時の三つかいを観察・記録した。また,中学生に箸使いについての質問紙調査を実施 し,その結果,学校における適切な教育支援により短期間で伝統型に移行することを明ら かにした。事前学習の際には,伝統型の箸使いを理解させるとともに,その価値について も考えさせることが重要であるとし,正しい箸使いを習得することは,自分の生活に役立 っだけでなく,食文化の継承の観点からも重要であることを理解させたいとしている。.  このように,今までの先行研究は,その多くが幼児及び大学生の箸使いの発達段階と実 態に関わる調査である。そして,多くの研究は,日本の箸文化が優れた伝統文化の一つと して,幼児に伝承させる必要性があると考え,幼児の箸使いの実態を調査して,原因を分 析している。しかし,箸文化の視点から幼児の箸使いの状況を把握する調査はない。また,. 集団保育の場面で行った先行研究は,主に幼児と保護者を調査対象としているため,保育 者の意識などに関する研究は見られなかった。.  そこで,本研究では,集団としての幼稚園の幼児の箸使いを観察し,保育者へのインタ ビュー調査を通して意識を明らかにする。さらに,保護者へのアンケート調査やその日中 比較を通して,幼稚園における幼児の箸文化の習得の状況を明らかにしていきたい。そし て,保育における文化としての箸のあり方について示唆を得たい。. 第3節  幼稚園における牛使いに関する教育の課題  一色(1998)によると,子どもは2歳頃から箸を使えるようになるとしている。山下(1957). は,普通の子どもでは,3歳になると箸を持ち始め,早い子どもは,2歳で持つものもいる と報告している。このことから,幼児期は,箸を持ち始める時期に該当すると考えられる。. さらに,村越(2009)は「小学校就学時には大人並みに箸が使えるはずだからである」5). 一13一.

(17) と指摘している。.  今までの研究の多くは,幼児の箸使いの教育を親の指導に求めている。畑中(2002)は,. 家庭での箸の教育の大切さを痛感し,家庭における箸を取り巻く教育がますます大切であ ると述べている。しかし,村越(2009)の調査によると,現代の子どもだけでなく大人で あっても,箸を正しく使える人が減少していることを明らかにした。その原因は,「子ども. のモデルとなるべき親がモデルになりきれていないこと,また親自体も何が正しいのか分 からなくなってきていることであろう」6)と指摘している。また,谷田貝ら(2009)は,「働. く女性が増え結婚後も共働きすることから,家庭でゆっくり時間を取って教えることが難 しいのではないか」7)と述べている。このように,幼児の箸使いの教育を家庭だけに求める. ことは不十分であるため,幼稚園と家庭が連携し,幼稚園の日常の保育の中に取り込む必 要があると考える。.  宇都宮ら(2008)は,調査を通して,保育者が指導者となって意図的な指導を行うこと が効果的であり,幼児期から指導していくことが大切であると指摘している。また,一色 (1998)は,「多くの学校で箸使いを学習の中に位置づけて,計画的に展開していることは 価値あることであり,その成果として多くの事例が報告されている」7)と述べていることか ら,集団保育の食事場面で正しい箸使いを訓練する必要があると考えられる。.  また,現在の子どもが正しい持ち方ができていないもう一つの要因として,「食事の欧米 化により小さい頃からスプーンやフォークで食事をする機会が格段に増えた」9)ということ を谷田貝ら(2009)は提示している。また,村越(2009)は,「子どもの生活体験の不足や 親のしつけに対する意識の薄れも大きな要因の一つと言えるであろう」10)と述べている。. これは,幼児の箸使用の乱れとともに,文化継承の弱化に繋がることを呈している。幼児. に正しい箸の使い方を教えることは,生活の必要を満足することだけではなく,最も重要 な目的は箸使いを通して,日本文化の1つを次の世代に伝えることではないだろうか。.  このように,幼稚園の保育場面を利用して,幼児たちが食事を楽しみながら,食事のマ ナーを守ることから始め,箸の文化を伝えながら徐々に正しい箸使いができるようになる ことが必要であると考える。これは,これからの課題として直面するものと考えられる。. 一14一.

(18) 引用文献 1)張慧栄   「中国“箸”奈渡日本」  『日浩知恢』  2004,39頁. 2)一色八郎  『箸の文化史 世界の箸・日本の箸』 御茶の水書房 1998,54頁. 3)同上,54頁 4)上田正昭 井手至 『古事記』 角川書店 1978 5)谷田貝公昭監修 村越晃著  『子どもの生活習慣と生活体験の研究 教育臨床学入門』 一芸社 2009,.  77頁. 6)同上,77頁 7)谷田貝公昭・高玉和子・村越晃・高橋弥生・生駒恭子・早瀬百合子・斉藤恵子・青柳正彦・野口智津子・.  室矢真弓   「箸と鉛筆の持ち方・使い方に関する調査研究2」 『日本保育学会第62回大会発表論文.  集』 2009,306頁 8)同2),213頁 9)同7),306頁 10)同5),77頁. 一15一.

(19) 第2章 幼稚園における箸使いの習得に関する事例研究. 第1節 研究目的と方法  第1項 研究の目的.  現行の幼稚園教育要領(2008)において,「健康」の領域に「先生や友達と食べることを楽. しむ」ということが加えられた。幼稚園で,保育者と他の幼児と一緒にご飯を食べること を通して,幼児はその楽しさを味わうことだけでなく,保育者と友達の支えを得ながら, 箸文化や箸の使い方などを習得することができる。そして,集団保育の場面における幼児 の箸使いは保育者と他の幼児たちから刺激を受けることができると考える。.  そこで,本研究は幼児の箸使い習得に対して,保育者の働きかけと幼児同士の影響を明. らかするため,兵庫県H幼稚園で自然な幼児の箸使いの姿を観察して,幼稚園における幼 児の箸使いの習得方法を考察した。また,中国の幼稚園でも観察を行い,幼児の箸使いの 実態を明らかにした。. 第2項 研究の方法 1 日本の幼稚園での観察. ① 第1次観察.  時期:2009年11.月∼2010年1月(週2回,計14回)11時30分∼13時00分.  対象:兵庫県H幼稚園3歳児2クラス43名  方 法:お弁当の時間に幼児たちの自然の箸使いの姿を観察して,記録に書き留め,     観察直後にエピソードを作成する。. ② 第2次観察.  時期:2010年5,月∼2010年7月(週2回,計17回)11時30分∼13時00分.  対象:兵庫県H幼稚園4歳児2クラス60名  方 法;お弁当の時間に幼児たちの自然の箸使いの姿を観察して,記録に書き留め,     観察直後にエピソードを作成する。. 一16一.

(20) 2 中国の幼稚園での観察. 時期:2010年3月(計3回)8時00分∼12時30分 対 象:中国青島市A幼稚園 3歳半と4歳児(3回),B幼稚園 4歳児(1回) 方 法:幼児たちの食べる様子を観察し,記録に書きとめて整理する。. 第2節 事例からみる全体の傾向  兵庫県H幼稚園で2次の観察を通して,計34件(3歳児16件,4歳児18件)の事例を 収集した。この34件の事例は,幼児同士の影響や保育者の働きかけ,箸に対する興味,箸 を正しく使えない幼児の特徴や鉛筆の持ち方との関係などに関わっている。全体として, 保育者の働きかけについての事例と幼児同士の影響に関する事例に分けると,13件と12件 であり,全ての38%と35%を占めている。このことから,幼稚園における箸使いの習得は,. 保育者と幼児同士に関係するところが多いと考えられる。そこで,本節では保育者と幼児 同士を対象として,全体の傾向を考察してみたい。.  まず,保育者の働きかけと幼児同士の影響に関わる事例を年齢別に分けると,表2−1と 表2−2のようになる。()内は本論文の20∼30頁に後述した。. 表2−1保育者の働きに関わる事例と数 年齢と日時. 保育者の働きかけ. 3 歳 児. ll/lO. 模範を示す,箸使いを励ます. ll/lO. 一緒に食べる,言葉で箸を勧める. ll/26. 箸を勧める,言葉で励ます          (事例1). 12/03. 言葉で箸を使わせる,幼児の手を持って模範を示す(事例2). 12/10. 箸を使わない幼児に気が付く,幼児の手を持って模範を示す,. 事例の量. 8事例 セ葉で励ます,隣に座って食べる,他の幼児を褒める @                     (事例3) 12/17. ござに座って食べるが箸使いを勧める. 1/14. お弁当の歌を歌う,箸について話す. 1/28. 言葉で箸使いを励ます,他の幼児にも影響する  (事例4). 一17一.

(21) 4 歳 児. 5/20. 言葉で勧めてエジソン箸で食べさせる. 6/03. 食べる姿勢を言葉で調整するので,箸の使用が易くなる. 6/15. 言葉で箸を勧める              (事例6). 6/22. 言葉で褒める,模範を示す,他の幼児の箸使いの意欲を影響. 5事例 キる                   (事例7) 6/28. 隣に座る,言葉で箸を勧める,持ち方を調整する (事例8). 表2−2 幼児同士に関わる事例と数. 年齢と日時. 事例の量. 幼児同士の影響. 3 歳 児. 同じテーブルで食事する5人が箸を使って,食べ終わるも ll/26. ャくてほとんど同時である. 3事例. 4 歳 児. 12/03. 箸の持ち方を教える,箸の使用を励ます. 1/28. 隣の幼児が保育者に褒められたので,刺激を受けて頑張る. 5/18. 他の幼児に自分の箸を見せる         (事例9). 5/20. 見本を示して,使い方を教える. 6/01. 箸や箸箱を遊具として遊ぶ,箸を見せる    (事例10). 6/08. 箸で遊ぶ. 6/10. 箸使いの経験を分かち合う. 6/15. 相手の箸を使ってみる           (事例11). 6/17. 箸の持ち方を討論して評価する        (事例5). 6/24. 箸で遊ぶ,箸の話題をする. 7/13. 9事例. 5歳児と箸使いについて討論する. 次に,表2−1と表2−2から年齢別の特色を比較して,表2−3と表2−4のように示す。さ らに,全体の傾向を考察する。. 表2−3保育者の働きかけの年齢別の違い 年齢. 3歳. 4歳. 事例数と比率. 8件,50%(n=16). 5件,28%(n=18). 一藍8一.

(22) 同左①,③,④,⑤. ①箸で食べることを勧める。 ②幼児の手をとって教える。 ③自分が模範を示す。 ④幼児と一緒に食べる。 主な働きかけ ⑤言葉で褒めて,励ます。 ⑥お弁当の歌を歌う。 ⑦箸について話す。 ⑧他の幼児を褒める。. 相違点. 保育者に何回か言われていたが,箸. たまに箸使いについて注意され. を使っていない。. る。また,保育者に言われた後も 自分で続けて箸使いを頑張る。.  表2−3を見ると,3歳児を対象として取る事例は8件あり,全16事例の50%である。4 歳児を対象とすれば,5件になるので,減少する。3歳の時期は,その多くが箸を使い始め る段階にあるので,箸を使用して食べる幼児の姿があまり見られない。そして,その段階 において,幼児は箸をあきらめやすいため,保育者が繰り返して,熱心に指導することな どが重要である。4歳になると,保育者からの注目が少なくなり,幼児同士の影響力が強く なる傾向が見られる。. 表2−4 幼児同士の影響と年齢別の違い 年齢. 3歳. 4歳. 数と比率. 3件,19%(n=16). 9件,50%(n=18). 他の幼児が保育者に箸使いを教える. ①自分の箸を他の幼児に見せる意. ことによって,影響を受ける。これ. 欲を持つ。. をきっかけとして,自分の箸使いに. ②箸を遊具として遊ぶ。. 気付くようになり,模倣する。. ③自分の箸使いの経験を他人と分. 主な影響 かち合う。. ④他人の箸や箸使いを気にする。. 幼児は自発的に箸に興味・関心を持 相違点. 保育者に注意される場合が多い。 つようになる。. 一19一.

(23)  表2−4を見ると,3歳の時は,幼児同士の影響が少なく3事例が見られる。4歳になる と大きな変化が見られ,9事例になる。3歳の時に,保育者が箸について言い出すと,幼児 は自分の箸使いを注意して,保育者が教えた使い方を模倣する。また,箸を使わない幼児 は箸を使ってみたくなる。4歳になると,保育者に言われなくても,他人の箸と箸の持ち方 に関心を示すようになる。自分と他人の異なる所を見つけることができ,幼児同士の関わ りも多くなると考える。. 第3:節  個別の事例分析.  筆者は2009年から2010年にかけて,幼稚園でお弁当の時間中,幼児の箸使いの状況に 着目し,2次の観察を通して34事例を収集した。本節では,この34事例から具体的な事例 を抽出して,幼稚園における幼児の箸使いに対して,保育者の働きかけと幼児同士の影響. を考察する。この中でよく保育者に注意されるF児は3∼4歳にわたり,箸使いの変化が窺 える。F児を中心とした観察による保育者の働きかけと幼児同士の影響の事例が5事例(事 例1∼5),S児による保育者の働きかけの事例が3例(事例6∼8),幼児同士の影響につい. てB児とその他の事例を3例(事例9∼11)示す。. 【事例1 保育者が箸を勧め,励ます】. 時期:2009年11月26日(木) 11:30∼12:30 場 所;兵庫県H幼稚園 3歳児M組保育室内 対 象:3歳児男児 F児を中心に  この日,F児は,箸とフォークとスプーンを持っていた。 F児は,最初からフォークを選 んでご飯を食べ始めた。担任保育者は,F児の近くにいて, F児の様子を見てから, F児の. 隣にきて,F児に「お箸をチャレンジして」と言って,箸を勧めた。担任保育者は,そのよ うに言うとすぐに離れた。すると,F児は,担任保育者が言われた通りフォークを箱に置い て,箸を使うようになった。F児は,自分のお弁当から箸で小さいブロッコリーを挟んで, 同じテーブルに座っている副担任の保育者と隣で観察している筆者に見せた。F児は,力を 入れてブロッコリーを挟み,手を高く挙げて,箸先に近すぎるところを持っている。持ち. 方が正しくないが,副担任の保育者はうれしそうに「上手に使ってる!」と言ってF児を 励ました。F児もとてもうれしそうに続けて箸を使い,お弁当を食べていた。. 一20一.

(24) 【事例2保育者の勧めと三児のかかわり】. 時期:2009年12,月3日目木) 11:30∼12:30. 場所:兵庫県H幼稚園3歳児M保育室内 対象:3歳児男児F児を中心に  お弁当の時間になった。F児は,最初フォークで食べていた。担任保育者は, F児に「お 箸を使ってください」と言って箸の使用を勧めた。しかし,F児はフォークを箱に収めたが,. 箸を使わずにスプーンを持って食べ始めた。このような状況を見て,担任保育者は,もう 一度F児に箸を勧めた。しかし,F児はウインナーを食べているということを理由にして箸. 使いを断った。その時,担任保育者はF児の箸をとって,正しい持ち方を示して,ウイン ナーを箸で挟み,F児に見せた。保育者は箸を使っても,ウインナーを食べることができる ことを証明した。そこで,F児は箸を使うことに応じた。この後,担任保育者は他のところ に行った。しかし,F児は少し箸を試した後,箸をあきらめていた。それからは,最後まで 箸を使わなかった。.  F児の向かいに座っている女児は,担任保育者がF児を教える問ずっと保育者の話に関心 を持っていた。また,保育者が離れても,F児の箸使いを続けて注目していた。1本の箸で 食物を刺してみるF児の様子を見て,女児は自分の箸を持ち,2本の箸を一緒に使うことを F児に教えた。そして,F児を励ましていた。. 【事例3保育者が模範を示し,励まし,他の幼児を褒める】. 時期:2009年12,月10日(木) 11:30∼13:00. 場所:兵庫県H幼稚園3歳児M組保育室内. 対象:3歳児男児F児を中心に  あまり箸使いが好きではなく,以前から注目されるF児のことである。予想通り,最初 からF児は,スプーンを選んで食事していた。担任保育者は,これに気が付いた後,すぐF 児に箸を使うことを勧めた。さらに,F児の手を握って,箸で食物を挟むことを示した。ま た,保育者は「ほら,使える」と言って励まし,F児に箸を使わせた後,そこから離れた。.  以前と違うのは保育者が離れてもF児が箸を使い続けていたことである。しかし,間も なくF児は箸を握ったり,箸で食物を刺したりするようになった。この時,担任保育者は 戻ってきており,F児と同じテーブルに座ってご飯を食べていた。保育者とF児の真ん中に. 一21一.

(25) 座っている男児は箸で食物を挟みながら,大声で「できた!」と言った。保育者も「でき た!」と返事した。すると,F児は正しく箸を使えるようにもっと努力する姿が見られた。  保育者は頑張って箸を使っているF児の姿を見て,「お箸,頑張ってるなあ∼」とF児を 褒めた。その時,F児は箸で食物を挟めるようになった。保育者は「お一,やった1できた ね。もっと,頑張るか」と言って続けてF児を励ましていた。  しばらくすると,保育者は再び男児を褒めて,「じょうずや∼できた,できた,○君!」. と言った。すると,男児は興奮して楽しくそうに箸を使いながらご飯を食べていた。男児 の隣にいるF児は,男児の影響を受けたのか,箸を使い頑張っていた。. 【事例4保育者の励ましと他児のかかわり】. 時期:2010年1月28日(木) 11:30∼12:30. 場所:兵庫県H幼稚園3歳児M組保育室内 対象:3歳児男児F児を中心に  その日,幼児らはござに座ってお弁当を食べた。F児のお弁当の中に,ウインナーに小さ い爪楊枝を挿しているものがあり,F児はそれを直接,手に取ってウインナーを食べていた。. 担任保育者はその様子を見ると,F児に箸を使用させたいので「お箸はどこですか」と聞い た。しかし,F児は返事をせず,また手で直接におにぎりを取って食べた。その後,フォー. クを箸箱から選んで使い始めた。その時,保育者はF児のお弁当を指しながら「これ,お 箸で頑張るな」,「お箸,頑張ろう」,「これ,お箸使う?」と続けてF児を励ましていた。. 隣に座っている女児は保育者の話を聞いて,箸箱から箸を取り,大声で「お箸挑戦」と言 って箸を使い始めた。. 保育者の働きかけに関するF児の事例1∼4の考察  幼稚園教育の中で保育者の役割について「幼稚園教育要領解説」は次のように述べてい る。「幼稚園における人的環境が果たす役割はきわめて大きい。幼稚園の中の人的環境とは,. 担任の保育者だけでなく,周りの保育者や友達すべてを指し,それぞれが重要な環境とな る。特に,幼稚園教育が環境を通して行う教育であるという点において,保育者の担う役. 割は大きい。幼児の主体的な活動を直接援助すると同時に,保育者自らも幼児にとって重 要な環境の一つである。」1)このように,幼稚園における幼児の箸使いに対して,保育者は. 一22一.

(26) 幼児一人ひとりの発達段階に応じて幼児の箸使いを協力して指導にあたることが必要であ ると考えられる。.  事例1と事例2のように,箸を持ってくるが箸二を使えないF児に対して,担任保育者は いつも積極的に箸使いを勧める。それに,担任保育者も副担任の保育者も言葉でF児を励 ます。何回言われても箸使いにあまり興味を示さないF児に,保育者たちは根気よく一回 一回繰り返してF児に箸を勧め,箸の使い方を教える。3歳児のF児にとってはまだ正しい 箸の持ち方が習熟できていないので,箸の機能を発揮できない。そのため,F児は達成感が. 少なく,いつも箸を拒否して箸の練習をあきらめやすい。このようなF児は箸使いを習得 するために,保育者から絶えず熱心に指導して励ますことが欠かせない。.  保育者が熱心にF児を指導する際,周りの幼児たちも強い刺激を受ける。事例2のよう に,F児の向かいに座っている女児は何も言われなくても,保育者がF児に教えた通り,自 分で箸の持ち方をチェックする。さらに,保育者が離れた後に,F児の箸使いに注目して,. 自分の経験からF児に「2本の箸を一緒に使う」と教える。また,事例4の女児は,保育者 がF児を励ます言葉を聞いて「お箸チャレンジ」という考えが生まれた。このようなこと から,直接的な指導だけでなく,保育者が知らず知らずの内に他の幼児の箸使いへの認識 に対しても影響を及ぼしていると考える。.  さらに,事例3のように,保育者は幼児たちと一緒に食べるため,保育者自身が幼児た ちのモデルになる。箸使いについて何も言わなくても,保育者自身が正しく箸を持って食 べることは幼稚園における箸使いの環境の一つになるであろう。そして,事例3の中に,. 保育者が直接にF児を教えても,F児はまだ箸に興味がなさそうである。すると,保育者は 大声で積極的にF児の隣にいる男児の箸使いを褒める。楽しみながら頑張って箸を使って みる男児の姿を見たF児は,男児を真似して箸を頑張って使うようになる。そこで,保育 者は他の子を褒めることを通してF児のために楽しく箸を使う環境を作るだろう。  このように,保育者は幼児の箸使いについて,箸を勧めること,言葉で褒めて励ますこ と,模範を示すこと,幼児の手を取って教えること,他の幼児の箸使いを褒めること等を 通して働きかけをしている。. 一23一.

(27) 【事例5他の幼児らの話を聞いてから影響を受ける】. 時期:2010年6月17日(木) 11:30∼12:30 場 所:兵庫県H幼稚園 4歳児H組保育室内. 対象:4歳児男児F児を中心に  F児が4歳になると,大きな変化が起きたことにと筆者は気がついた。4歳になって以来, エジソン箸を使い始め,フォークとスプーンを幼稚園にほとんど持ってきていない。また,. 以前よりも積極的に保育者を手伝うF児の姿を筆者はよく見かけた。当日,幼児らは自分 の席に座り,話し合いながらお弁当を待っている。F児は,水筒が置いてある棚に行き,他 の幼児の方へ向かって「まだ,水筒残ってるよ」と大声で何度か繰り返し言った。.  お弁当が始まる際,幼児らは自分の好きな友達と一緒にいくつかの円になり,ござに座 って食べた。F児はいつもと違い,スプーン,フォv一一・一・ク,箸のセットを持ってきていた。サ. ンドイッチのお弁当だったので,F児はとても嬉しそうな顔で,箸を使わず,直接手に持っ て食べ始めた。他のおかずはフォークを使って食べていた。.  しばらくすると,F児の周りに座っている何人かの幼児たちは,箸の使い方についての討 論会を始めた。「違う。この指!」と言って,右手の中指を指し,中指を2本の箸の間に入. れて,幼児たちは互いに模範を示して教えていた。この何人の幼児たちは,言えば言うほ ど声が大きくなっていった。最後は,正しく箸を持てていると判断できる男児K児が右手 で箸を正しく持ち,右手を高く挙げながら,「この指!正解は○○ちゃん,OO君」と大き. い声で説明して,正しい持ち方かどうかを判断した。すると,周りの幼児たちがみんな箸 を持ち,手を挙げて自分の持ち方をK児に評価された。この時,K児の隣にいるF児も振り 返ってK児に箸の使い方を聞いた。そして,F児は左手で箸を持ち,サンドイッチを挟んで みた。しかし,左手を使ったことや間違った持ち方をしていたことから,箸の機能が十分 に発揮できなかった。結局,箸が使いにくいのでF児は再び手でサンドイッチを持って食 べるようになった。.  また,ずっとフォークで食べていた女児W児も討論会の後,箸を使い始めた。. 幼児たちの影響に関わるF児事例5の考察  4歳になると,手先が器用になり,箸でお弁当を食べる幼児の姿が増えている。事例5の ように箸使いについて,保育者から指導することが段々減っておりながら,幼児たちは互 いに幼児同士の箸使いに気付き,興味を持つようになる。. 一24一.

(28)  おおむね4歳の幼児は噛分と他人の区別がはっきりと分かり,自我が形成されていく と,自分以外の人をじっくり見るようになる」2)とあることから,保育者の介入がなくても,. 幼児たち自身は箸の持ち方について自分と他人の違うことに気をつけるようになった。幼 児は,自分の持ち方をチェックする上に,正しい持ち方かどうかに対してある程度判断で きる。事例の中のK児のように,K児は正しく箸を持てるため,積極的に自分の持ち方を周 りに教え,そして主動的にみんなの持ち方を評価する。K児は,他の幼児から肯定感をもら うと同時に,自分が正しく箸を使えるための誇りとするだろう。K児をはじめ,盛んに討論 している幼児たちの影響を受けて,F児と女児W児は箸を使いたくなり,積極的に箸を使う ようになる。しかし,F児は4歳になってから,ずっとエジソン箸を使っている。フォーク とスプーンを頼らず,エジソン箸だけで順調に食べるようになるが,その日にいきなりフ ォーク,スプーン,箸のセット箱に変えた。そして,サンドイッチを食べるので,F児は普 通の箸を使いにくくなってしまった。最終的には,箸使いをあきらめた。.  幼稚園では「子ども同士の遊びが豊かに展開していくと,子どもは仲間といることの喜 びや楽しさをより感じるようになり,仲間とのつながりが深まっていきます」3)とある。F. 児は,4歳になってからよく保育者を手伝い,他の幼児同士のつながりも密接になる。事例 のように,F児はK児たちの話を聞いて,自発的に箸にチャレンジした。  このように,F児の変化から見ると,現在のF児は他の幼児の話を聞いたり,認めたり, 受け入れるようになった。幼児同士はF児を影響しやすく,F児の箸使いの意欲を高める。.  幼児期は周囲の行動を模倣しながら自分でやろうとする気持ちが芽生えてくる時期であ る。一人ひとりの幼児の箸使いは発達段階と使う意欲がそれぞれ異なっている。幼稚園で の集団生活を通して,保育者から援助したり,友達の良さを真似したり,互いに励んだり,. 認め合うことは箸使い等の様々な基本的生活習慣を身に付けることに大きな影響があると 考える。. 【事例6保育者が箸を勧める】. 時期:2010年6,月15日(火) 11:30∼13:00. 場所:兵庫県H幼稚園4歳児Y組保育室内 対象:4歳児男児S児を中心に  「S君,お箸使ったら,お箸」これは,担任保育者がフォークで食べているS児に話した ことであった。保育者はこれだけ言ったが,再び言うことはなかった。S児は当日,スプー. 一25一.

(29) ン,フォークと箸のセット箱を持ってきた。保育者の話を聞いてから,フォークを置いて 箸で食べ始めた。しかし,S児の持ち方を見てみれば,中指が遊んでいて,ペン箸のようで ある。その時,弁当箱にご飯だけばらばら残っているので,正しくない持ち方で箸を使うS 児は使いにくそうに食べていた。しかし,S児は最後まで箸で食べた。. 【事例7保育者が言葉で励まし,褒める】. 時期:2010年6月22日(火) 11;30∼12:30 場 所:兵庫県H幼稚園 4歳児Y組保育室内 対 象:4歳児男児 S児を中心に  当日,S児は最初から箸を使用してお弁当を食べた。前回,保育者に言われたからであろ う。保育者はS児の様子を見てから,「お箸,だんだん使えるようになったじゃない」とS. 児を褒めながら,人差し指と親指でS児に模範を示した。正しくない持ち方であったS児 は,保育者が教えた通りに箸を持ち保育者に見せた。保育者は,大きい声で喜んで「S君, 上手!使えるようになる」と他の幼児たちに向かってS児を褒めた。すると,他の幼児た ちも自分の箸を持ち,手を高く挙げて,先を争って保育者に見せていた。S児も箸を使いな がら,「先生,OOもお箸でつかめる」と喜んで返事をした。. 【事例8 保育者が箸を勧め,箸使いの姿勢を調整する】. 時期=2010年6,月28日(火) 11:30∼13:00 場 所:兵庫県H幼稚園 4歳児Y組保育室内. 対象:4歳児男児S児を中心に  当日,お弁当を食べ始めた時,S児はフォークで食べていた。しばらくすると,保育者は S児の隣に入り,幼児らと一緒にお弁当を食べた。保育者は,直接口でデザートを食べてい る男児H児の食べにくそうにしている様子を見て,H児に「お箸使ったら」と言って箸を勧. めた。保育者がH児に言ったことを聞いたS児は,ヒントをもらったようにすぐにフォー クをしまい,箸を出して食べ始めた。しかし,S児は右手で二本の箸を一緒につかみ,手の ひらが下に向いている状態で箸を使っていた。このような持ち方では箸の機能が全然果た せないため,食べにくそうであった。この時,保育者はS児の手を握って,彼の手のひら を上に向けてS児の姿勢を調整した。手のひらを上に向けていたが,S児はペン箸のように 箸を使い食べ終えた。. 一26一.

(30) 保育者の働きかけに関わるS児の事例6∼8の考察  ペン箸とは「文字通り,上下2本を一緒に鉛筆を持つようなフォームである」4)。したが. って,ペン箸は作用箸が不安定で,箸先があまり開かないため,いろいろとアレンジされ た持ち方の一つである。.  S児はフォーク,スプーン,箸のセット箱を持って幼稚園に来る。しかし,保育者がS児 に箸を勧めなかった場合,S児はこれからも継続してフォークで食べるだろう。また, S児. の箸の持ち方は,事例8のように「右手で二本のお箸を一緒にっかみ,手のひらが下に向 いた状態」で箸を使っていた。このことから,S児は正しく箸が使えず,家庭でも箸を使う 機会が少ないと考えられる。幼児たちは,幼稚園に入ってから家族以外の人と一緒に食べ る体験ができる。家庭の雰囲気と違うことは,幼稚園で食事すると,周囲の幼児が頑張っ て箸を使い,保育者たちと一緒に食べながら,自分に温かく接して箸使いを教えてくれる。. 事例6では,保育者は,S児に箸を勧めるだけである。事例7では,保育者はみんなの前で. S児を褒めて,S児に正しい持ち方の模範を示した。事例8では,保育者はS児のペン箸を 調整していた。保育者の指導などに関わる事例は4歳児Y組からこの三つを抽出できる。  4歳になると,自分で箸を使う幼児が増えるので,保育者はほとんど箸について話さない。. まれにS児のような幼児がいれば,保育者は少し注意を与える。しかし,3歳児に対するよ うに繰り返して何回も教えることはしない。4歳児は3歳の時と違い,保育者に言われた後 も保育者の話を守ることができる。そこで,S児はこの3回を経て,その後もずっと箸を使. 用している。また,ますますよく使えるようになるS児の姿を筆者は観察していた。この ように,幼児が箸使いのために一所懸命に努力する時,保育者等の大人は少しサポートす るのがよいのではないだろうか。. 【事例9 幼児同士に箸を見せる】. 時期:2010年5月18日(火) 11:30∼12:50 場 所:兵庫県H幼稚園 4歳児Y組保育室内. 対象:4歳児男児B児を中心に  お弁当を取りに行く前に準備できた幼児たちは,箸をかばんから取り,いすに座って待 っていた。その時,B児は自分の箸箱を持って,向かいに座っている男児に「ぼくの箸見 せてあげようか。かっこいいよ」と言って見せた。男児がまだ返事をしないうちに,B児は 自分の箸箱から箸を取って,「見て,かっこいい?」と続けて聞いた。肯定的な答えをも. 一27一.

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