• 検索結果がありません。

精華大-紀要35号.indb

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "精華大-紀要35号.indb"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

京都近郊におけるアカマツとコジイの近年の成長について

小 椋 純 一

OGURA Jun-ichi

1.はじめに

筆者は,先に京都市北部,岩倉の里山に生育した樹齢100年を超える5本のアカマツ古枯木 の成長履歴について,それらの樹幹解析により明らかにした(小椋 2005)。それによると,そ れらアカマツ古木の成長速度は初期の明治期の頃などは概してとくに遅く,樹高が2m に達 するのに25年前後,樹高が3m に達するのに30年前後,5m に達するのに40年前後もかかる ものが多かった。また,それらの樹木では,胸高直径(胸の高さにおける樹木の直径)が 10cm に達するのに,約50年から70年もかかるものが多かった。近年では,1年間に樹高が数 十 cm から1m 近く伸びるアカマツも珍しくないことから,それらの樹木の成長速度はかなり 遅かったと考えられる。 ただ,近年のアカマツの成長については,成長の速いものが目につくことはあるものの,一 般的な状況についてはまだ詳しく調べているわけではない。古木の成長と比べ,近年のアカマ ツは一般的にどの程度速く成長しているのだろうか。ここでは,古木との比較のために,同地 域において1960年代前期に発生し成長を始めたアカマツ5本の樹幹解析,また近年発生し成長 を始めたアカマツ稚樹の樹高成長調査により,近年におけるアカマツの成長速度の実態把握を 試みた。 一方,近年,京都近郊などでは,アカマツ林が衰退する一方で,コジイ林が急速に拡大しつ つある。そのため,今後の森林の動態予測の基礎として,41年生と45年生のコジイ2本,また 樹高5m 程度までの比較的若いコジイ9本の樹幹解析により,近年におけるコジイの成長の 実態把握を試みた。

2.調査地

今回のアカマツとコジイの調査地は,大まかには京都市左京区岩倉の北部と南部の2つの地 域である(図−1;A と B の円付近)。さらにそれぞれの地域は,いくつかの地域に分けられる。

(2)

図−2は図−1の A 付近を,また図− 3は図−1の B 付近の地域を拡大した もので,図−2の a と b と記した円内に は調査したアカマツの稚樹が,また図− 3の c,d,e と記した円内には調査した コジイの若齢樹があったところである。 また,図−2の a の円内の一部とそのす ぐ北側(上部)は,41∼45年生のアカマ ツ5本とコジイ2本があったところであ る。そのうち,アカマツの位置は図−2 に小点で示した(pn05a∼pn06c)。また,41年生と45年生のコジイのあった場所は★印で示し た(CN-05,CN-07)。それらアカマツやコジイの位置は,先に樹幹解析を行ったアカマツ古枯 木のあった場所とは,直線距離で約50m∼200m ほどしか離れていないところで,標高は約 175m∼195m である。a の円内のアカマツ稚樹があったところ(標高は約165m∼185m)も含 むそのあたりは,岩倉長谷町の北側に位置するため,ここでは「北長谷」とする。 また,アカマツ稚樹の成長を調べたもう一つの場所は,図−2の b の円内に含まれる地点で, 上記「北長谷」の西方約500m ほどにある岩倉北小学校の裏山である通称「岩北山」の南西斜 面中腹である(標高は約155m∼165m)。「北長谷」と「岩北山」は,ともに人里に近い場所で, 丘陵を少し上がったところである。「北長谷」,「岩北山」ともに,かつてはアカマツが主体の 林の見られるところが多かったが,近年ではアカマツの枯死により,アカマツは年々減少傾向 にある(写真−1,写真−2)。 なお,樹幹解析を行ったコジイの若齢樹があった図−3の c,d,e の地点は,すべて宝ヶ池 図−1 調査地 図−2 北部調査地(Ⓐ)と試料木の位置 図−3 南部調査地(Ⓑ)

(3)

公園内の丘陵の尾根部であり,標高は約135 ∼150m のところである。その付近には,ま だアカマツもある程度残ってはいるが,近年 のアカマツの枯死により,やはりアカマツの 割合は減少傾向にある(写真−3∼5)。

3.方法

樹幹解析を行ったアカマツ5本は,枯死後 間もないものを2005年から2006年にかけて伐倒したものである。2005年には,pn05a,pn05b と名付けた試料木を2本,また2006年に pn06a,pn06b,pn06c と名付けたものを3本伐倒し た(それぞれの試料木の位置は図−2に示す通り)。それらの樹木から,基本的に1m ごとに 樹木円板を採取した。ただし,pn06a,pn06b,pn06c については,基部から0.5m の高さの樹 木円板も採取した。それらの樹木の樹齢は41∼45年で,1960年代前期に発生し成長をはじめた 写真−1 調査地の現況(図−2のa付近) 写真−3 調査地の現況(図−3のc付近) 写真−2 調査地の現況(図−2のb付近) 写真−4 調査地の現況(図−3のd付近) 写真−5 調査地の現況(図−3のe付近)

(4)

も の で あ り, 樹 高 は 約15m か ら19m で あ る。 なお,ここで検討したアカマツは,それぞれの 基部からの長さを樹高とした。基部からの長さ は,厳密には樹高ではないが,試料としたアカ マツは,すべて比較的直立かつ通直であったた め,基部からの長さを樹高としても実際の樹高 と大きな誤差はないものと考えられる。この点 については,下記のコジイについても同様であ る。 採取した樹木円板は,電動の 鉋かんなで削った後 にサンダーで表面を磨き,年輪幅測定用の線を 年輪の中心部から直線状に2方向に引いたあとにスキャナで読み取った(写真−6)。一方, その直線と年輪の中心部で直交する2方向の線をさらに引き,年輪の中心から最も外側の年輪 への4方向の平均的な長さを求め,それによって年輪幅の測定値を調整した。 年輪幅はパソコン上で DataPicker(インターネット上でダウンロードできるシェアウェア) または DendroMeasure(下記 SDA の作者が作成したソフトウェア)により,1年輪ごとに測 定した。その結果を SDA で使えるように Excel 上で整え,樹幹解析図,樹高成長表,材積成 長表を SDA で作成した。SDA は「Stem Density Analyzer」の略で,樹幹解析の手法を用いて 樹幹の容積密度分布を解析することを目的として作られたソフトウェアである(Nobori et al. 2004)。SDA により,1年輪ごとの樹幹解析図を作成し,一部の図については,Photoshop に よりその一部を切り取るなどの加工をした。一方,Excel により,各試料木の樹高変化と材積(樹 幹体積)増加を示すグラフも作成した。 また,アカマツ稚樹の成長については,主幹から分枝するある点とのそれに最も近い上また は下の分枝点の長さが,1年間の成長量を示すというアカマツの特徴から,各稚樹の一年ごと の成長についてメジャーを用いて直接調べた。その結果を Excel に入力し,樹高成長表とグラ フを作成した。 一方,41年生と45年生のコジイ2本は,2005年と2007年に伐倒したもので,2005年に伐倒し たものを CN-05,また2007年に伐倒したものを CN-07と名付けた。それらの樹木から,1m ご とに樹木円板を採取した。それらの樹木は,1960年代前期に発生し成長をはじめたものであり, 伐倒時の樹高は約20m(CN-05)と約17m(CN-07)である。 また,図−3の c,d,e の3地点にあった5m 程度以下のコジイ(ct06a∼ct08a)については, 基本的に0.5m ごとに樹木円板を採取したが,一部の樹木については,樹高1m までは0.2m ご 写真−6 スキャンした試料木の樹木円板の例

(5)

とに樹木円板を採取した。 コジイの樹木円板の処理は,上記アカマツと同様で,年輪幅測定用の線を年輪の中心部から 直線的に2方向に引いたあとにスキャナで読み取った。また,その直線と年輪の中心部で直交 する2方向の線をさらに引き,年輪の中心から最も外側の年輪への平均的な長さを求めること により,年輪幅の測定値を調整した。

4.結果と考察

1)近年のアカマツの成長 (a)41∼45年生のアカマツ 41∼45年生のアカマツ5本(pn05a,pn05b,pn06a,pn06b,pn06c)の樹幹解析図(図− 4∼8)とその樹高成長の推移(図−9)と材積成長量の推移(図−10)は,図の通りである。 これらの樹木は,41年から45年の歳月をかけて樹高15m(pn05a)から19m(PN06C),材積 約133000cm³(PN05b)から約225300cm³(pn05a)に成長している。図−9と図−10には,先 に調べた同地域で生育していたアカマツ古木についてのデータ(小椋 2005)も参考のために 入れている。 近年の41年生から45年生のアカマツは,その成長にそれぞれ違いはあるものの,とくに樹高 成長については,発生間もない頃から40年あまり,さほど大きくない幅の中で成長しているこ とがわかる。また,材積についても,成長を始め てから30年前後の頃までは,pn06c は他のアカマ ツと比べると極端に遅い成長をしているが,その 樹木もその後は他のアカマツ以上に急速に成長 し,43年で平均的な材積を超えるに至っている。 そして,その樹木も含め,調査した5本のアカマ ツの高木は,ある程度の幅はあるものの,とくに 大きな違いのない成長をしてきたと見ることもで きる。なお,発生後42年目には最大材積の樹木が 1本減り,樹木数が少ないために,その時点で材 積の平均値が一時前年よりも下がることになるこ ともあり,図−10では42年以降の平均は示してい ない。 そうした近年のアカマツの成長を,先に調べた 図−4 pn05a の樹幹解析図

(6)

図−5 pn05b の樹幹解析図 図−6 pn06a の樹幹解析図

図−8 pn06c の樹幹解析図 図−7 pn06b の樹幹解析図

(7)

図−9 41∼45年生アカマツの樹高成長

(8)

樹齢100年を超える古木の成長と比べると,近年のものがきわめて速く成長していることがわ かる。たとえば,樹高成長では,近年のアカマツは10年で平均的に3.2m に成長しているが, 古木は平均で0.6m の成長に過ぎない。また,20年では,近年のものが平均で8.7m であるのに 対し,古木のそれは1.6m,30年では近年のものが平均で13.2m であるのに対し,古木のそれは 3.4m,また40年では近年のものが平均で15.7m であるのに対し,古木のそれは5.2m に過ぎない。 とくに10年と20年の時点では,約5倍もの樹高の違いがあることがわかる。なお,30年と40年 の時点では,それぞれ約4倍と3倍の違いがある。 また,材積成長では,近年のアカマツは10年で平均的に990cm³に成長しているが,古木は 平均で97cm³の成長に過ぎない。また,20年では,近年のものが平均で19122cm³であるのに対 し,古木のそれは1492cm³,30年では近年のものが平均で70272cm³であるのに対し,古木のそ れは6676cm³,また40年では近年のものが平均で141504cm³であるのに対し,古木のそれは 17147cm³に過ぎない。とくに20年の時点では,約13倍もの材積の違いがあることがわかる。 なお,10年と30年の時点では約10倍,40年の時点では約8倍の違いである。 これらの結果から,40年生あまりの近年のアカマツの成長は,同地域で明治前期に発生した アカマツと比べ,樹高成長で3∼5倍程度,材積成長で8∼13倍程度の違いがあることがわか る。 (b)アカマツ稚樹 図−2の a と b の円内に含まれる地点,すなわち「北長谷」と「岩北山」において,2005年 12月に10年生までのアカマツ稚樹の成長調査を行った。調査地の項でも少し述べたように,「北 長谷」と「岩北山」は,ともにかつてはアカマツが主体の林の見られるところが多かったが, 近年ではアカマツは年々減少傾向にある。さらに少し詳しく述べると,「北長谷」でアカマツ 稚樹を調べた地点付近には,高木のアカマツはすでにほとんどなくなり,ヒノキが主体の林と なっている。また,「岩北山」でアカマツ稚樹を調べた地点付近にも,高木のアカマツはほと んどなく,調査地付近では高木ではヒノキやコナラの割合が大きい林となっている。ただ,「岩 北山」の調査地付近は,森林の手入れが「北長谷」よりも良くなされており,高木の密度が「北 長谷」に比べてやや小さいことや,コナラなどの落葉樹もあるため,少し明るく感じられる林 となっている。「北長谷」,「岩北山」ともに,アカマツ稚樹のあったところは林縁であったり, 林冠にある程度のすき間のあるところであったりすることにより,ある程度日照があると思わ れるところである。 調査では,「北長谷」で2∼7年生のアカマツ稚樹を24本,「岩北山」では6∼10年生のアカ マツ稚樹49本を調べた。その結果をグラフで示すと図−11∼13のとおりである。なお,図−13

(9)

図−11 「北長谷」におけるアカマツ稚樹の樹高成長

(10)

には上記の41∼45年生の近年のアカマツと同地域で明治前期に成長を始めたアカマツ古木の初 期成長(平均)のデータも加えた。 結果のグラフでもわかるように,「北長谷」,「岩北山」ともにアカマツ稚樹の成長には個体 差が大きいが,その平均をとれば,「北長谷」と「岩北山」のアカマツ稚樹の成長速度はかな り近いものとなっている。調査を行ったのが冬期であったためか,落葉したコナラなどの広葉 樹が多い「岩北山」の方が,常緑のヒノキ中心の「北長谷」よりもかなり明るく,典型的な陽 樹であるアカマツの成長には好都合かと思われたが,結果としては,むしろ「北長谷」の方が, わずかながら成長が良くなっている。 一方,近年のアカマツ稚樹の成長を,「北長谷」の41∼45年生の近年のアカマツ,また同地 域で明治前期に成長を始めたアカマツ古木の初期成長と比べると,近年のアカマツ稚樹の成長 は近年の41∼45年生アカマツの初期成長と比べるとかなり悪く,「北長谷」と「岩北山」のア カマツ稚樹の樹高成長の平均値が得られる発生後6年までであれば,その成長は近年の41∼45 年生アカマツの2分の1以下である(図−13)。また,「岩北山」のアカマツ稚樹は,発生後9 年で41∼45年生のアカマツが同齢期であったときの樹高に最も近づくが,それでもその樹高は 41∼45年生アカマツの同齢期の3分の2程度である。 また,明治前期に成長を始めたアカマツ古木と比べると,2年目までは,ほぼ同程度の成長 をしているが,それ以降は近年のアカマツ稚樹の方が徐々に成長が速くなり,9年目では,古 図−13 岩倉北部におけるアカマツの初期樹高成長

(11)

木と比べると約3倍の樹高となる。 このように,今回調べたアカマツ稚樹は,明治前期に成長を始めたアカマツよりも初期成長 の速度は速いが,近年の41∼45年生アカマツよりも初期成長の速度が遅いという結果となった。 近年のアカマツが明治前期に成長を始めたアカマツよりも初期成長速度が速いのは,かつての 京都近郊の里山は,燃料としての柴や松葉の採取などが頻繁に行われることにより,過酷とも 言える利用がなされていたためと考えられる(小椋 1994;小椋 2005)。すなわち,かつての森 林は,地表には概して腐植が乏しく,そのために土に水分を保ちにくく,また土中の養分も少 ないため,樹木の成長にとっては条件が悪かったものと思われる。 また,近年のアカマツ稚樹が近年の41∼45年生アカマツよりも初期成長速度が遅いという結 果になったのは,近年のアカマツ稚樹が林内と言ってもよいようなところに生育しているもの が少なくなかったために,光条件が近年の41∼45年生アカマツよりも全般的に悪かったことが 考えられる。なお,近年の41∼45年生アカマツは,それが生育していた森林の状況から,付近 の森林が広範囲に伐採された直後に良い日照条件下で成長し始めた可能性が高い。ただ,今回 調べたアカマツ稚樹の中には,林縁にあり光条件が決して悪くないと思われるものもあったが, それでも近年の41∼45年生アカマツの初期成長に近い成長をしていたのは「岩北山」の1本だ けであった。その1本のあったところは,林道脇で,光条件も良いが,林道の山裾側の盛土部 分ということで土壌条件が他とは異なっていた。近年のアカマツ稚樹は,ふつうやや分厚い腐 葉土のあるところに生えているものが多いが,そのようなところはマツタケなどの菌根菌も育 ちにくく,アカマツにとっては決して良い生育環境ではないということかもしれない。 2)近年のコジイの成長 (a)41年生と45年生のコジイ 「北長谷」(図−2,a の円北側)にあった41年生(CN-05;2005年伐採)と45年生(CN-07; 2007年伐採)のコジイの樹幹解析図(図−14∼15),樹高および材積成長グラフ(図−16∼17) は次の通りである。 図−16の樹高成長を示すグラフでわかるように,コジイは2本とも発生後30年間ほどは,一 部期間を除き樹高成長パターンはかなり近いものとなっている。31年目以降は,しだいに樹高 差が開く傾向にあるが,調べた2本の高木のコジイは,それでも全体的には比較的類似した樹 高成長パターンとなっているように見える。 一方,図−17の材積成長を示すグラフを見ると,2本のコジイの材積成長には,やや大きな 違いがある。すなわち,発生から20年余りの間は,41年生のコジイ(CN-05)は45年生のコジ イ(CN-07)に比べ材積成長はかなり悪い。図−17では発生後約15年ほどの期間は数値が小さ

(12)

図−14 CN-05の樹幹解析図

(13)

いため,グラフ上での量的比較が難しいが,表の数値としては,その期間の CN-05の材積は CN-07の2分の1から4分の1程度しかない。しかし,CN-05は発生後24年の頃から急速な成 長に転じ,32年目以降の材積は CN-07を上回ることになる。なお,2本のコジイとも,ある時 点から直線的な材積成長をしている。そのような変化の起点は,CN-05では発生後29年の頃, CN-07では同じく20年の頃である。 材積成長について,2本のコジイでやや大きな成長パターンの違いがあるのは,図−16では ややわかりにくいが,初期の樹高成長を見ると,CN-07の樹高成長が CN-05と比べると極端に 図−16 高木のコジイ2本の樹高成長 図−17 高木のコジイ2本の材積成長

(14)

良いことから,CN-07は萌芽更新による樹木である可能性が高く,一方で CN-05はそうではな いか,萌芽更新でも,かなり小木の萌芽更新である可能性が高いように思われる。 (b)コジイ若齢樹 宝ヶ池の3地点(図−3,c∼e の円内)にあったコジイ若齢樹の樹幹解析図(図−18∼ 26),樹高成長および材積成長グラフ(図−27∼28)は次の通りである。なお,樹高および材 積成長グラフには,上記の高木のコジイの初期成長データ(平均値)も加えた。 図−27の樹高成長を示すグラフでわかるように,コジイ若齢樹の成長には個体差がかなりあ るものの,その平均値は高木のコジイの平均値とかなり近いものとなっている。コジイ若齢樹 はすべて,宝ヶ池公園の丘陵の尾根部付近にあったもので,樹木の生育条件としてはあまり良 くないところのものである。それに対し,「北長谷」の高木のコジイは,山地の谷底に近いと ころと山地中腹にあったもので,今回調べたコジイ若齢樹の生育地と比べると,生育環境は良 さそうに思われるところにあったものである。なお,今回試料とした樹木で最も樹齢が大きく, また発生後5年目以降は最も樹高が低いコジイ(ct08a)は,図−3の e 地点にあったもので ある。そこは,小さな丘陵の最上部で,岩の多い痩せ地のため,樹木の成長にとってきわめて 条件の悪い場所である。 また,材積成長を示すグラフ(図−28)を見ると,樹高成長と同様,やはりコジイ若齢樹の 成長には個体差が大きいものの,その平均値(発生後11年目まで)はコジイ高木の初期成長の 平均値とずいぶん近いものとなっている。そのような結果となっている理由として,樹幹解析 結果では,実生からの成長としては初期成長が急速すぎると思われるものが何本かあるため, 検討したコジイ若齢樹の中にも萌芽更新の樹木が数本含まれている可能性が考えられる。その ことは,樹木の伐採前や伐採直後に,基部をしっかりと観察することでわかったかもしれない が,残念ながらその確認はできていない。ただ,それらのコジイ若齢樹があった場所は,宝ヶ 池公園の丘陵部の主要な歩道に近いところであるため,下柴草の整理や枯れマツ伐採などの森 林の手入れが,歩道から遠いところと比べるとなされやすいことは確かである。なお,宝ヶ池 公園の丘陵部の森林は,歩道沿いを除けばほとんど手入れはなされていない。いずれにしても, コジイ若齢樹の樹高および材積の成長が,やや離れた場所にあり生育環境もかなり異なるコジ イ高木の初期成長(平均値)ときわめて近い結果となったのは興味深い。 (c)今後の京都周辺のコジイの成長予測 京都周辺では,近年カシノナガキクイムシを媒体としたナラ枯れ被害が徐々に目立つように なってきている。樹齢40∼50年を超えるコジイも,中にはその被害で枯れてゆくものがある。

(15)

図−24 ct07d の樹幹解析図 図−25 ct07e の樹幹解析図 図−26 ct08a の樹幹解析図 図−21 ct07a の樹幹解析図 図−22 ct07b の樹幹解析図 図−23 ct07c の樹幹解析図 図−18 ct06a の樹幹解析図 図−19 ct06b の樹幹解析図 図−20 ct06c の樹幹解析図

(16)

図−27 コジイ若齢樹の樹高成長

(17)

しかし,今回の調査地の一つである宝ヶ池公園の丘陵部をはじめ,京都周辺の山地部のかなり 広い範囲で,コジイの若齢樹が目立つようになってきている。そして,その成長が早いため, 10年単位ほどの時間軸で見るならば,京都周辺ではシイ林化が急速に進みつつあるというのが 現状であろう。 今回の京都市左京区岩倉での調査結果では,コジイの若齢樹の平均的な樹高および材積成長 パターンは,41年生と45年生のコジイの平均的初期成長パターンと非常に近いものであった。 そのうち,材積成長のパターンが非常に近いものとなったのは,若齢樹と樹齢40年を超える高 木ともに,萌芽更新による樹木がそれぞれ半数ほど含まれているらしいという偶然も重なった ためかもしれない。そのため,コジイの初期材積成長については,個々の樹木が萌芽更新か実 生更新かをよく見極めながら,もう少し多くの樹木を調べてみる必要があるかもしれない。 しかし,樹高成長については,一部の特別条件の悪い場所などに生育している個体をのぞき, ある程度生育環境が異なっていても,また萌芽更新か実生更新かによらず,コジイは大まかに 見ると比較的均一なパターンで成長しているものが多いと考えられる。その成長パターンが今 回見えてきたことから,京都周辺において現在コジイの若齢樹が存在する場所で,そこにある コジイがその付近の森林の最上木層に達する期間の予測などは,かなり高い精度で可能となっ てきた。 たとえば,宝ヶ池公園の丘陵上部では,40年生以上の樹木が中心の森林であるにもかかわら ず,樹高が10m にも達しない森林が多いが,もしそこに5m ほどのコジイがあれば7∼8年で, また,もしそこに2m ほどのコジイがあれば13∼14年で樹高10m に達し,付近の森林におけ る最上木層の樹木となる。また,今回調べたコジイがあったような,やや明るめの森林環境の ところでは,実生の発芽からでも,20年もすれば10m の樹高となり,最上木層に達するもの と考えられる。森林の樹高が高いところでは,その期間はその1.5∼2倍(30∼40年)ほど要 すると思われるが,宝ヶ池公園の丘陵上部など,森林樹高の低いところで,すでにコジイの若 齢樹が多く侵入しているところでは,かなり速くシイ林化が進むものと思われる。 なお,今回調べたコジイ若齢樹は,遊歩道沿いなど,森林としては光環境がやや良いところ にあったものであるため,密生した常緑樹林下など,光環境がかなり悪いところのコジイにつ いては,その成長パターンは今回の結果とだいぶ異なる可能性がある。

5.おわりに

今回検討した樹木は,京都市北部の限られた地域に生育していたものではあるが,それによ り近年におけるその地域のアカマツとコジイの成長の実態がかなり明らかになった。また,近

(18)

年のアカマツの成長を明治前期に成長を始めたアカマツと比べると,その成長がかなり急速で あること,また,コジイの成長はその近年のアカマツよりも材積成長では数倍速いことなどが 明らかとなった。さらに,今回の研究から,近年進行しつつある森林のシイ林化の予測も,よ り根拠をもった形でできるようになってきた。今回の調査にはまだ不十分なところもあるとは いえ,今回の調査結果が,過去から未来への森林の変化・動態などを考える上で,各方面でい ろいろと参考にしていただくことができれば幸いである。 なお,ここで樹幹解析を行った樹木が生育していた山林のうち,図−2の a 付近は,地元岩 倉在住の金田光雄氏所有のものである。先に,その地の樹齢100年を超えるアカマツ古枯木5 本の樹幹解析をさせていただいたが,それらの古木との比較地として最適な場所で,また樹幹 解析用の樹木を伐採させていただいたり,アカマツ稚樹の成長調査をさせていただいたりした のは,たいへん有り難いことであった。ここに金田光雄氏に深く謝意を表したい。 また,図−2の b 付近,岩倉北小学校の裏山である岩北山の調査にあたっては,岩倉北小学 校ならびに京都市教育委員会にお世話になった。また,図−3の c∼e の地点のある宝ヶ池公 園でのコジイの調査にあたっては,京都市公園緑地課にお世話になった。それらの関係者の方々 にも深く謝意を表するしだいである。 一方,本研究では,SDA という樹幹解析図も描いてくれるソフトウェアとパソコン上で年 輪幅などを読み取るのに便利な DendroMeasure というソフトウェアを使用した。それらは, 研究・教育用にはフリーソフトとして公開されているものである。樹幹解析図の作成や細かい 年輪の読み取りは,かつてはかなり面倒な作業であったが,それらのソフトのおかげで作業が 大幅に軽減されることになった。それらのソフトウェアの開発・提供者にも感謝したい。 また,本研究では,平成17年度∼平成20年度科学研究費補助金(研究課題名:「世界文化遺 産(京都)の背後にある森林景観の回復」,研究代表者 : 安藤信 京都大学準教授)の一部,ま た龍谷大学里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センター予算の一部も使わせていただく ことができた。このところ,学内外のさまざまな仕事が山積する中で,なんとかこの時期に一 応の結果をまとめることができたのは,それらの研究費によるところが大きい。それら関係の 方々にも,ここに深くお礼を申し上げるしだいである。

(19)

文献

小椋純一(1994):絵図から読み解く人と景観の歴史,238pp,雄山閣出版 .

小椋純一(2005):京都近郊山地の里山に生育したアカマツ古木の成長履歴,京都精華大学紀要 第29号, 115-135.

小椋純一(2005):古都の町を支えてきた里山,エコミュージアム研究 No.10, 75-82.

Nobori Y, Sato K, Onodera H, Noda M, Katoh T (2004): Development of stem density analyzing system combined X-ray densitometry and stem analysis, Journal of Forest Planning, 10 (2), 47-51.

参照

関連したドキュメント

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

現時点の航続距離は、EVと比べると格段に 長く、今後も水素タンクの高圧化等の技術開

 保険会社にとって,存続確率φ (u) を知ることは重要であり,特に,初 期サープラス u および次に述べる 安全割増率θ とφ

彼らの九十パーセントが日本で生まれ育った二世三世であるということである︒このように長期間にわたって外国に

そのため、夏季は客室の室内温度に比べて高く 設定することで、空調エネルギーの

明治 20 年代後半頃から日本商人と諸外国との直貿易が増え始め、大正期に入ると、そ れが商館貿易を上回るようになった (注

・ ○○ エリアの高木は、チョウ類の食餌木である ○○ などの低木の成長を促すた

この延期措置により、 PM 排出規制のなかった 1993 (平成 5 )年以前に製造され、当 初 2003 (平成 15