免疫介在性 血液疾患を極める!
~適格な診断と適切な治療を理解する~ 講師:藤野 泰人 先生
1.診断1)IMHA(immune-mediated hemolytic anemia)
赤血球に対する抗体産生によって血球破壊・除去が亢進し再生性貧血を呈する 血管外溶血→主に IgG が作用、 脾臓などでマクロファージに貪食される(球状赤血球になる) 血管内溶血→主に IgM が作用、 補体が活性化し赤血球表面に膜侵襲性複合体が形成され小孔を開ける 年齢:中齢(2~8歳)で多い 性別:♀>♂ 犬:原発性が多い、続発性はワクチン、薬剤、感染症、腫瘍などに由る 猫:続発性が多い(FeLV、FIV、FIP、原虫、腫瘍など) 原発性:自己免疫疾患(IMHA の 60~75%) 続発性:感染症(バベシア、ヘモバルトネラ→ギムザ染色や PCR で鑑別診断、FIP など) ワクチン 腫瘍(特にリンパ・造血系腫瘍) 免疫介在性疾患(SLE、関節リウマチ、天疱瘡、IMTP など) 薬剤(ペニシリン、サルファ剤、メチマゾールなど) 症状:元気食欲低下、頻呼吸など 身体検査所見:チアノーゼ、黄疸、頻拍、発熱、心雑音など X 線所見:肝腫、脾腫(血管外溶血、髄外造血)、心陰影の拡大 *必発ではない 血液検査:再生性貧血(大球性低色素性)、溶血後3~5 日後で顕著 血管内溶血だと正色素性示すことも。 WBC↑、サイトカインの影響 血小板↑or→が多い、↓もあるがエバンス症候群や DIC を併発している可能性 犬)網状赤血球生産指数 PRI>2 で再生性貧血 猫)網状赤血球絶対数を算出(シラバス p18) 溶血所見:ヘモグロビン血症、尿症(血管内溶血)、 ビリルビン血症、尿症、(IMHA の 32%) LDH(1>2)↑ 骨髄検査:赤芽球系=過形成(M/E↓) 巨核球系=正形成~過形成 単球、マクロファージ、形質細胞=増加することある
赤血球貪食像 まとめ:溶血性貧血(再生性貧血、溶血所見) ⇒溶血性疾患の除外(ハインツ小体、寄生体など) ⇒自己凝集反応(9 割陰性)、球状赤血球(3 割陰性)、クームス試験(3 割陰性)、 骨髄検査、その他臨床検査 予後因子:①♂ ②暖候期(4~9月) ③PCV<20% ④血小板<200×103/ml ⑤TP<6g/dl →この 5 項目を合算してリスク評価 0-1 点=低リスク群 2-3 点=中リスク群 4-5 点=高リスク群 血液凝固活性化:肺血栓症 PTE と DIC が致命的 赤血球破壊で放出された ADP、破壊赤血球のリン脂質、 血管内皮細胞障害、低酸素によって臓器障害による放出された組織因子 予防)アスピリン 0.5mg/kg/d 輸血、低分子へパリン持続点滴 100~150U/kg/d
2)NRIMA(Nonregenerative immune-mediated anemia)
赤血球系前駆細胞がいずれかの成熟段階から減少する造血障害 原発性:自己免疫疾患 続発性:感染症、腫瘍、免疫介在性疾患 血液検査:進行性の非再生性貧血(正球性正色素性) 出血、溶血がなければ PCV1ー2%/日↓ WBC=→or w↑ 血小板=→ or w↑ 骨髄検査:細胞充実度、M/E=一定の傾向はみられない 赤芽球系=見かけ上の成熟停止、形態異常はない、 骨髄球系=正形成 巨核球系=正形成〜過形成外科 その他検査:血中 EPO↑ クームス試験:+のことがある まとめ:持続性貧血(非再生性貧血、溶血所見) ⇒非再生性貧血の鑑別(腎臓疾患、慢性疾患、鉄欠乏性貧血、骨髄増殖性疾患は?)
⇒自己凝集、球状赤血球症、クームス試験、骨髄検査(鉄染色も)
3)赤芽球癆 PRCA(Pure red cell aplasia) 赤血球系のみが前駆細胞から減少する造血障害 赤芽球系細胞への自己抗体 EPO(エリスロポエチン)や EPO レセプターへの自己抗体 T リンパ球や NK 細胞による破壊、分化抑制 アポトーシス 原発性:自己免疫疾患、 続発性:感染症、腫瘍、免疫介在性疾患、慢性腎不全 血液検査:進行性の非再生性貧血(正球性正色素性) 出血、溶血がなければ PCV1ー2%/日↓ WBC=→ 血小板=→or w↑ 骨髄検査:赤芽球系=重度低形成 or 無形性、全有核細胞の<5%、形態異常なし 骨髄球系=正形成 巨核球系=正形成~過形成 その他:血中 EPO↑ クームス試験、抗核抗体:+のことがある
[1)、2)、3)のまとめ] アプローチ:
IMHA NRIMA PRCA
好発犬種 シーズー M.ダックス M.ダックス
性別 ♂<♀ ♂<<♀ ♂<<♀
年齢 6m~11y11m 9m~14y 1y~9y4m
クームス試験陽性率 62% 48% 45% DIC 併発率 12% 4% 1 年生存率 62% 47.4% 75% PCV 約 17% 約 15% 約 10% T-Bil 約 0.8mg/dl 約 0.4 mg/dl 約 0.25 mg/dl WBC 約 23×103/μl 約 13×103/μl 約 10×103/μl CRP 約 5mg/dl 約 3 mg/dl 約 1 mg/dl 血小板 約 100×103/μl 約 300×103/μl 約 500×103/μl FDP 約 5μg/ml 約 3μg/ml 約 1μg/ml *検査は「診断時」における 貧血 非再生性 急性経過 慢性経過 骨髄検査 他の血液 疾患 NRIMA PRCA 腎疾患 再生性 失血 溶血 骨髄検査 IMHA 他の血液疾患 他の溶血 性疾患
4)免疫介在性好中球減少症 IMNP(Immune-mediated neutropenia) 末梢血中の好中球が持続的に減少する疾患 原発性:自己免疫疾患 続発性:感染症(エリヒア症→抗体検査や PCR(IDEXX で可)で鑑別、FeLV、FIV など) 腫瘍、ワクチン接種後、 免疫介在性疾患(SLE、IMHA など) 薬剤(抗がん剤、抗甲状腺薬、 サルファ剤やクロラムフェニコールなどの抗生物質) 毒素(ヘビ毒など) 5)無顆粒球症 AGC(Agranulocytosis) 顆粒球のみが前駆細胞から減少する造血障害 原発性:自己免疫疾患 続発性:感染症、腫瘍、免疫介在性疾患、薬剤、毒素 骨髄検査:骨髄球系の分化停止、細胞形態の異常なし(IMNP との鑑別の為に必要!) 6)免疫介在性血小板減少症 IMTP(Immune-mediatd thrombocytopenia) 末梢血中の血小板が持続的に減少する疾患 マクロファージ系細胞による貪食 補体活性化による直接的破壊(血管内溶血) *ヒト=特発性血小板減少性紫斑病 ITP 原発性:自己免疫疾患 続発性:感染症(エリヒア、FeLV、FIV) 腫瘍、ワクチン接種後、免疫介在性疾患、薬剤、毒素 血液検査:進行性の血小板減少 一次止血障害による出血傾向 50000/ml≧外的刺激によって内出血 30000/ml≧皮下出血(紫斑) 10000/ml≧粘膜出血(鼻出血、血便、血尿、結膜出血、脳出血→神経症状) 出血による再生性貧血 *キャバリアは先天的に血小板数が少ないことがある 7~10 万/μl ならセーフ、<5 万/μl だとキャバリアでも× 塗抹:白血球 1 個当たり 20 個≦○ *キャバリアは 10 個前後なら○ 骨髄検査:巨核球系=正形成~過形成 赤芽球系=正形成~過形成
骨髄球系=正形成 その他検査:凝固系線溶検査(進行に伴い異常) LDH↑(3) 抗核抗体検査:+のことがある 画像検査:肝腫、脾腫 高体温→貯蔵プールに血小板がプール 門脈高血圧→肝臓に血小板がプール 脾腫→脾臓に血小板がプール 7)無巨核球性血小板減少症 AMT(Amegakaryocytic thrombocytopenia) 血小板系のみが前駆細胞から減少する造血障害 巨核球系細胞への自己抗体 TPO(トロンボポエチン)や TPO レセプターへの自己抗体 T リンパ球や NK 細胞による破壊、分化抑制 アポトーシス 原発性:自己免疫疾患 続発性:感染症、腫瘍、免疫介在性疾患 血液検査:進行性の血小板減少 出血による再生性貧血 白血球=→ 骨髄検査:巨核球系=低形成 or 無形性、形態異常はみられない 赤芽球系=正形成~過形成 骨髄球系=正形成 その他検査:血液凝固系線溶系検査で異常 抗核抗体検査:+のことがある 8)再生不良性貧血 AA(Aplastic anemia) 血球 3 系統が前駆細胞から減少する造血障害 造血前駆細胞への自己抗体 造血支持能↓(FIV、FeLV) T リンパ球や NK 細胞による破壊、分化抑制 アポトーシス(エストロジェン、FeLV) 特発性(原発性):自己免疫機序、造血幹細胞の異常 続発性:感染症(FeLV、FIV など) 腫瘍(特に生殖器系腫瘍) 免疫介在性疾患
薬剤(ロムスチンなどの抗がん剤、ST 合剤、CP などの抗生剤) 毒物 ホルモン中毒(エストロジェン→エコーで卵巣子宮チェック、♂は濃度測定) 血液検査:非再生性貧血を伴う汎血球減少 →貧血、感染による発熱、出血傾向 白血球系=特に好中球↓ 骨髄検査:細胞密度↓(脂肪に置換される) 全血球系統が低形成、形態異常はない ドライタップ(細胞が採取されず液体しか採取されない)を起こした時は生検 その他検査:血中 EPO↑ クームス試験、抗核抗体:+のことがある 2.治療 1)コルチコイド 白血球の血管外遊出↓ 好中球の辺縁趨向、遊走↓ 単球、マクロファージの貪食、抗原提示↓ サイトカイン産生↓ 補体経路の阻害 免疫複合体の基底膜透過性の阻害 B 細胞の免疫グロブリン産生↓ ⇒細胞性免疫が強い 寛解導入量:プレドニゾロン2~4mg/kg/day 2 週間以上は継続→2~4週間毎に半量ずつ減量→最終的に休薬を目指す 副作用:医原性クッシング 急性副腎不全 感染症の誘発、増悪 消化管潰瘍 2)シクロスポリン カルシニューリン阻害剤 IL-2 など産生抑制 T リンパ球に対する選択性が高い 薬物動態:脂溶性なので全身へ、血液-脳関門は通過しない P 糖タンパクの基準薬剤
P450 代謝(肝) 寛解導入量:6~10mg/kg/日 維持量:2~5mg/kg/日 or 隔日 4~8 週毎に 30~50%ずつ減量 副作用:消化器症状(慣れるとなくなる) 肝腎毒性(長期投与で) 歯肉の増生、多毛症(長期投与で) 感染症、腫瘍発生 *血中濃度が>500~1000ng/ml だと副作用出やすい 相互作用:シクロスポリン血中濃度↑ (マクロライド系、ニューキノロン系、アゾール系、カルシウム拮抗剤、 性ホルモン剤、高用量メチルプレドニゾロン、グレープフルーツ、 メトクロプロミド、アセタゾラミド) シクロスポリン血中濃度↓ (フェノパルビタール) 高カリウム血症 (カリウム保持性利尿剤) 高尿酸血症 (ループ利尿剤、チアジド系利尿剤 *ダルメシアン注意) 3)アザチオプリン 代謝拮抗薬、肝で6-PM に代謝されて核酸合成を阻害 細胞性免疫を強く抑制 効果発現遅い(2~4 週間) 投与量:犬)2mg/kg/d or 50mg/m2/d→EOD へ 猫)0.3mg/kg/EOD *猫は毒性強い 副作用:消化器症状 肝機能障害 骨髄抑制 4)ビンクリスチン ビンカアルカロイド類 細胞周期特異的 微小管形成阻害による細胞分裂阻害 軽度の免疫抑制作用、血小板放出刺激作用 肝臓で代謝なので肝疾患、L-アスパラキナーゼ併用時は注意
毒性:血管周囲の組織反応(血管外漏出時) 骨髄抑制(特にL-アスパラキナーゼ併用時) 血小板機能障害(凝集能阻害) 便秘(特に猫) 神経、筋障害(稀、アゾール系抗真菌剤) P-糖タンパクや MRP の発現により耐性 寛解導入:*IMTP に対して 0.02mg/kg iv bolus (2~3 日で血小板が上昇、血中半減期が 12 時間くらい) 持続点滴0.5mg/m3 4~8 時間かけて 事前に血小板とビンクリスチンを体外で反応させてから投与(無菌操作) 5)レフルノミド 抗リウマチ薬 活性化B,T リンパ球の DNA 合成を得的に阻害、リンパ球増殖抑制 比較的早く作用発現 シクロスポリンなどと併用可能 使用報告:犬)ステロイド抵抗性の免疫介在性疾患 (IMHA、IMTP、天疱瘡、多発性筋炎) 全身性組織球症 臓器移植後の拒絶反応 投与量:1.5~4mg/kg/d 副作用:消化器症状 肝機能障害 間質性肺炎→肺線維症→tod!(稀) *維持には使わない方が良いかも… 6)ミコフェノール酸モフェチル 加水分解産物MPA がリンパ球に特異的なプリン合成系を阻害して DNA 合成を阻害 B、T リンパ球の増殖を選択的に抑制 MPA は 90%以上尿排泄=腎障害あるものは注意 シクロスポリンなどと併用可能 投与量:20~40mg/kg/d 副作用:少ない 消化器症状 肝機能障害
血球減少症 7)IVIG(ヒト免疫グロブリン)療法 1~2 回の投与で速やかに(1~3 日)免疫抑制効果 投与量:犬)0.7~1.0g/kg/6~12hr iv 0.5ml/kg/hr で 30 分→TPR チェック→1ml/kg/hr で 30 分→2→3→4ml/kg/hr まで 副作用:アナフィラキシー、血液凝固誘導(血栓、DIC) 予防策:プレドニゾロン、H1ブロッカー 適応の目安:PCV<20%、Plate<50000/μl 8)免疫介在性血液疾患の治療指針 寛解導入 ①プレドニゾロン IMHA、IMTP=効果発現まで 3~10 日 NRIMA、PRCA、AMT、AA→効果発現まで 1~2 週 ②IVIG 重篤なIMHA、IMTP→効果発現まで 1~7 日 適応の目安:PCV<20%、Plate<50000/μl ③シクロスポリンかアザチオプリン IMHA、IMTP→効果発現まで 2~4 週 NRIMA、PRCA、AMT、AA→効果発現まで 3~6 週 ④その他(レフルノミド、MFM) IMHA、IMTP→3 カ月改善なければ併用 NRIMA、PRCA、AMT、AA→半年改善なければ併用 支持療法 酸素吸入、輸液、輸血など 合併症の治療・予防 感染症→広域スペクトル抗生剤(第一世代AMPC、CEZ など、 ニューキノロン系はとっておく) 血液凝固活性化→アスピリン、DIC の治療 赤芽球系の抑制PRCA、NRIMA、IMHA →エリスロポエチン製剤(ダルベポエチン2μg/kg) 維持療法 まず減量すべきはプレドニゾロン! 免疫抑制剤やできるだけ低用量、休薬しない方が良い(再発することがほとんど)