あらまし 衛星通信において,将来の大容量伝送のための技術候補である光通信について述べる.これまでに 衛星を用いて行われた実験の成功例を整理し,世界初を冠する三つの実験成果が日本の技術によって得られてい ることを示す.この中で特に,2005 年に打ち上げられた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の光衛星間通信実験衛 星(OICETS)と情報通信研究機構(NICT)の協力で実施した低軌道衛星と地上局間の双方向光通信実験に着 目し,その成果を述べる.大気の影響を被る光通信の実施結果とともに,地上局に備えた大気の影響を低減する 手法の効果を示す.また,世界的にも検討が加速されている宇宙光通信技術について,現在進行中の計画と宇宙 機関の会合で最近始まった標準化の議論について紹介する. キーワード 宇宙光通信,衛星間光通信,衛星–地上局間光通信,OICETS(きらり)
1.
ま え が き
衛星通信システムは,広域性や同報性に優れ,災害
時の緊急回線の提供を可能とするなど,情報通信ネッ
トワークにおける重要な役割を果たしている.また最
近では,衛星によるデータ中継や地球の観測,国際宇
宙ステーションにおける滞在や深宇宙領域の探査など,
宇宙を利用する範囲も広がっている.こうした活動の
進展に伴い,宇宙で取り扱われるデータ量も増加し,
例えば衛星による高解像度の撮像データや高分解能な
観測データを迅速に地上へ伝えるといった要求が高ま
りつつある.このため,衛星と地上及び衛星間を結ぶ
通信ネットワークの高速化が求められている.
高速な衛星通信ネットワークの実現に重要となる
技術要素として,衛星交換技術及び高速データ通信
技術が挙げられる.衛星交換技術については,これ
までに
ACTS
や
iPStar
などの衛星が打ち上げられ,
ベントパイプ型と再生中継型の交換がそれぞれ実証
された
[1], [2]
.また最近になって,情報通信研究機構
(
NICT
)が,衛星交換機能と高速データ通信機能とを合
わせもった超高速インターネット衛星(
Wideband
In-†情報通信研究機構,小金井市National Institute of Information and Communications Technology, 4–2–1 Nukui-kita, Koganei-shi, 184–8795 Japan a) E-mail: [email protected]
terNetworking engineering test and Demonstation
Satellite
,
WINDS
)を宇宙航空研究開発機構(
JAXA
)
と共同開発し,その軌道上実証に成功している
[3]
.
WINDS
をはじめ現在の高速データ通信機能は,主
に
Ka
バンドの周波数帯を利用しているが,将来のよ
り大容量のデータ伝送を行う技術としては,レーザ
光の利用が考えられる.現在,宇宙で実証された光通
信の成果として
5.6 Gbit/s
でのデータ伝送がある
[4]
.
よって,将来は数
10 Gbit/s
への向上も視野に入るも
のと期待される.電波と比べて波長が短いレーザ光は,
小さな口径のアンテナで指向性の鋭いビームを射出で
きる.よって,光の広帯域性も合わせて利用すること
で,アンテナ径が小さく空間伝搬損やシステム間の干
渉を抑えた大容量の回線を提供することができる.ま
た光の周波数帯は,現在の国際的な周波数調整の対象
に含まれていないことも魅力の一つである.
本論文では,超高速衛星通信ネットワークにおけ
る重要な技術のうち,高速データ伝送を行う技術候
補である宇宙光通信について述べる.まず,これま
での宇宙光通信に関する軌道上実証例を整理し,日
本が
1994
年,
2005
年及び
2006
年にそれぞれ世界初
の成果を得た実験を示す
[5]
∼
[8]
.これらの成果から
特に,
2006
年に
JAXA
の低軌道衛星である光衛星間
通信実験衛星(
Optical Inter-orbit Communications
Engineering Test Satellite
:
OICETS
,和名きらり)
図 1 衛星を用いた光通信の軌道上実施例 Fig. 1 Demonstrations of space laser communications.
と
NICT
の光地上局の間で行われた衛星
–
地上局間光
通信に着目し,その成果を述べる
[6]
.最後に,欧州,
米国及び日本の計画と,最近に宇宙機関の会合におい
て始まった宇宙光通信に関する検討について紹介する.
2.
軌道上実証例
図
1
に,衛星を用いた光通信の軌道上実施例を整
理する.同図中,
GEO
は静止軌道(
Geostationary
Earth Orbit
),
LEO
は低軌道(
Low Earth Orbit
),
及び
GND
は地上(
Ground
)を示す.
GEO
及び
LEO
と記された枠内には,衛星名とともにその打上げ年を
示している.また
GND
と記された枠内には,光地上
局(
Optical Ground Station
,
OGS
)を保有する機
関の略称を記している.ここで,
CRL
は通信総合研
究所(現
情報通信研究機構,
NICT
),
JPL
は米国
のジェット推進研究所(
Jet Propulsion Laboratory
)
,
DLR
はドイツ航空宇宙センター(
German Aerospace
Center
)及び
ESA
は欧州宇宙機関(
European Space
Agency
)である.なお図中の実線は,光通信実験の組
合せであり,それぞれの組合せで初めて実験を行った
年を付記している.
衛星を用いた光通信は,日本が初めて実験に成功し
た.
1994
年に打ち上げられた
NASDA
(現
宇宙航
空研究開発機構,
JAXA
)の衛星
ETS-VI
(和名,き
く
6
号)には,
CRL
が開発した光通信機器が搭載さ
れており,
CRL
は東京都小金井市に保有する光地上
局と
ETS-VI
の間での双方向光通信を行った
[8]
.ま
た
1995
年には,日米の協力により,同衛星と
JPL
の
地上局との間で光通信を実施した
[9]
.この実験におい
ては,地上から衛星へは波長
0.515
μm
,衛星から地
上へは波長
0.83
μm
のレーザ光を照射し,強度変調直
接検波(
IMDD
)方式を採用した
1 Mbit/s
でデータ
を伝送した.
2001
年には米国が静止衛星
GeoLite
を打ち上げ,
地上との光通信実験に成功したという報告がある
[10]
.
しかし米国軍に関する情報であり,詳細は不明である.
このため同図では,光地上局を表すために
Optical
Ground Station
の略として
OGS
の表記を用いた.同
年には,
ESA
の静止衛星
ARTEMIS
とカナリー諸島
テネリフェ島に設置された光地上局との間で光通信
実験が行われた
[11]
.また,
ARTEMIS
はフランス国
立宇宙研究センター(
CNES
)の低軌道衛星
SPOT4
から光通信によるデータ受信に成功し,これが
LEO
から
GEO
への初の片方向光通信となった
[12]
.
2003
年には,
JAXA
の
OICETS
に搭載された光通信機
器のエンジニアリングモデルをテネリフェ島に運び,
ARTEMIS
との間で光通信試験が行われた
[13]
.これ
らの実験では波長
0.8
μm
帯の
IMDD
方式が採用され,
ARTEMIS
の光通信の仕様に沿ったデータ伝送速度
として,
ARTEMIS
からのダウンリンクは
2 Mbit/s
,
ク光の受信に成功した
[15]
.
その後,
OICETS
は
ARTEMIS
との衛星間光通信
を繰り返し,
2006
年
9
月に実験期間を終了した.一
方,
ARTEMIS
は
2006
年
12
月にフランスの航空機
との間で双方向光通信を実施した
[16]
.
2007
年には米国のミサイル防衛局(
the Missile
De-fense Agency
,
MDA
)の低軌道衛星
NFIRE
と
DLR
の低軌道衛星
TerraSAR-X
が相次いで打ち上げられた.
両衛星には波長
1
μm
,データ伝送レート
5.6 Gbit/s
のコヒーレント二値位相変調(
BPSK
)方式で通信す
る装置が搭載され,
2008
年
3
月に低軌道衛星間での初
の光通信を行った.また
TerraSAR-X
は,光地上局を
相手とした実験にも成功した
[17]
.この期間,
DLR
,
ESA
及び
NICT
は,
TerraSAR-X
とそれぞれの光地
上局を用いた国際的な共同実験を企画した.複数の光
地上局が,共通の衛星を相手として光を送受すること
により,レーザ光への大気の影響を測定することが目
的である.この共同実験の中で,
NICT
は
2008
年
12
月に
TerraSAR-X
とのレーザ光伝送実験に成功した.
2006
年
9
月の
OICETS
の定常運用終了に伴い,
JAXA
の地上設備から一部の実験運用機能が取り除か
れた.しかし,その後
NICT
は,実験に必要な機能の
再構築と衛星の実験運用に要する作業を担うことで,
実験再開を
JAXA
と合意した.地上設備の再構築及
び衛星の機能確認が
2008
年
10
月に完了し,
OICETS
と
NICT
光地上局とによる通信実験が
JAXA
との協
力に基づいて再開された.
2009
年
4
月からは,
OICETS
と
JPL
,
DLR
,
ESA
及び
NICT
がそれぞれ保有する光地上局を用いた国
際共同実験が始まり,同年
9
月末までに全ての機関が
衛星との光通信実験に成功した.同じ衛星を相手とし
て異なる環境に置かれた複数の光地上局が実験を行
うことで,大気が伝搬光に与える影響を評価する貴重
なデータを取得できた.
2010
年
5
月には,
OICETS
との実験にかかわった機関が会する国際ワークショッ
プ(
Ground-to-OICETS Laser Communication
Ex-宇宙光通信の特徴の一つに,射出するレーザ光の
鋭い指向性が挙げられる.
OICETS
に搭載した光
通信機器(
Laser Utilizing Communication
Equip-ment
:
LUCE
)を例にすると,射出光の広がり角度は
約
5.5
μrad
と非常に小さい
[14]
.この高指向性に光の
広帯域性を利用することで,高速なデータ伝送が可能
となる.しかし一方で,この非常に鋭い指向性は,光
の射出方向に高精度な制御を必要とする.
LUCE
の場
合,光の射出方向へ約
1
μrad
の制御精度を要求して
いる
[14]
.このため,光アンテナの駆動に加えて,装
置内部の光学系に光の伝搬角度を補正する高速な駆動
鏡を備え,必要とされる精度を達成している.
もう一つの特徴としては,通信相手の高速な移動
が挙げられる.衛星が地球を周回する速度は,低軌
道衛星の場合は約
7 km/s
,静止軌道衛星の場合は約
3 km/s
である.このような移動体と通信を行う場合,
一方から射出された光が到達するまでの,相手の移動
距離を無視できない.この様子を図
2
に示す.同図で
は,
Obj1
に対して
Obj2
が接線方向に速度
v
tで移動
している.
Obj2
からの光が
Obj1
へ届き,
Obj1
の射
出光が
Obj2
に届く間に
Obj1
から
Obj2
の移動前後
の位置を見込む角度
θ
が光行差補正角(
point-ahead
angle
)となる.
指向の鋭い光を用いると,光行差補正角が光の広が
り角よりも大きくなる場合がある.低軌道を周回する
OICETS
と地上との光通信の例では,光行差補正角が
約
50
μrad
,
LUCE
の射出光は広がり角が約
5.5
μrad
である
[14]
.よって,光の射出方向へは角度補正を与え
図 2 光行差補正角
図 3 光通信装置の例
Fig. 3 Sample diagram of a laser communication equipment.
図 4 初期捕そくの手順
Fig. 4 Procedures for the first acquisition.
る必要が生じる.このため,光通信装置の機能として
は図
3
に示すように,光の伝搬方向を制御する三つの
駆動系を組み合わせている.一つ目は,光アンテナの指
向方向を制御する粗追尾(
Coarse pointing
)機構,二
つ目は,内部光学系に導かれた光の微小な角度変化を
補正する精追尾(
Fine pointing
)機構,三つ目は射出
光へ光行差補正角を与える光行差補正(
Point-ahead
)
機構である.
3. 2 OICETS
実験
図
4
に,光回線を形成する手順を示す.
OICETS
と
の光通信では,同図における
Obj2
が
OICETS
に相
当する.まず図
4
の
(1)
のように,
Obj1
は,軌道情報
から推定した
Obj2
の方向へ広がり角の大きいビーコ
ン光を照射する.次いで
(2)
のように,
Obj2
は,ビー
コン光を検出するとその到来方向に基づき,
Obj1
へ
向けて通信光を射出する.
Obj1
が
Obj2
からの通信
光を検出すると,
Obj1
からも
Obj2
へ向けて通信光
を返す.その後
(3)
のように,光回線が安定すると,
ビーコン光の照射を止め,通信光のみの送受を行う.
なお実際には,図
2
に示した光行差補正角を加えて光
図 5 衛星–地上局間光通信の様子.2006 年 3 月 30 日, NICT光地上局にて撮像Fig. 5 OICETS-ground laser communication on March 30, 2006.
を射出する.
NICT
の光地上局で
2006
年
3
月
30
日に撮像した
OICETS
との光通信実験の様子を図
5
に示す.同図は
図
4
中の
(2)
の状態であり,地上局からの線状のビー
コン光と,衛星からの通信光が中央部に見える.図
6
は,実験の最中に測定した光の受信電力である
[19]
.
同図
(a)
は衛星側で測定した地上局からのアップリン
ク光,同図
(b)
は地上局側で測定した衛星からのダウ
ンリンク光である.大気の影響による受信電力の瞬時
的な変動が測定データに現れている.また同図には周
期的な瞬断が見られるが,これは
LUCE
の望遠鏡の駆
動特性が原因である
[20]
.地上局と光通信を行う場合,
衛星間光通信の場合と比べて,
LUCE
は望遠鏡を速く
駆動する.その結果,衛星間光通信を対象に設計され
た
LUCE
では,内部光学系に備える精追尾機構が補
正できる角度範囲を超えた誤差が発生したために,光
回線の瞬断が起きたものと考えられる.衛星間光通信
において,
LUCE
の粗追尾による角度誤差は
0.01 deg
以下であり,精追尾機構の視野範囲は
±500 μrad
(約
±0.03 deg
)である
[14]
.従って衛星間光通信において
図 6 2006年 3 月 30 日に測定した受信電力.(a) 衛星で 測定した地上からのアップリンク光,(b) 地上局で 測定したダウンリンク光
Fig. 6 Received power of (a) the uplink from OGS and (b) the downlink from satellite measured on March 30, 2006.
は,粗追尾の角度誤差を精追尾機構が補正できる.し
かし,粗追尾の角度誤差が約
±0.03 deg
の範囲よりも
大きくなると,精追尾機構の視野範囲を超え,図
6
の
ような瞬断が観測される
[20]
.
なお図
6 (a)
と
6 (b)
では,受信のダイナミックレ
ンジの制限から上限値の飽和が現れているが,飽和し
ていない箇所では,検出値の変動幅に差異が認められ
る.この理由として,衛星からのダウンリンクが
1
本
のビームであるに対して,地上からのアップリンクは
4
本のビームの同時照射を行っていることが挙げられ
る.これは,後述する大気影響による強度変動の低減
手法の一つであり,その効果が得られたものと考えら
れる.詳細な解析は文献
[21]
にて行われ,アップリン
クに
4
本のビームを用いた場合,
1
本のビーム照射に
比べて,変動幅が
2
∼
3
分の
1
程度に抑制されること
が示されている.
衛星と地上局では,それぞれ疑似ランダム符号を用
いて通信光を変調しており,符号の誤り数の計測を行っ
ている.例として
2008
年
11
月
13
日の実験について,
1
秒間当りの符号誤り率を算出した結果を図
7 (a)
及び
図
7 (b)
に示す
[22]
.図
7 (a)
は地上から衛星へのアッ
プリンクの場合である.算出値は
0.1
∼
10
−3の範囲に
集中しているが,最小値としては
10
−6に至っている.
図
7 (b)
は,範囲衛星から地上へのダウンリンクであ
り,算出値は
10
−4∼
10
−5辺りに集まっている.なお
図 7 2008年 11 月 13 日に計測した 1 秒間あたりの符号 誤り率.(a) アップリンク光,(b) ダウンリンク光 Fig. 7 Bit error counts measured on Nov. 13, 2008. (a) for the uplink, and (b) for the downlink.同図には,受信装置の試験として大気影響を受けずに
測定した符号誤り率の曲線を
back-to-back
として示
している.
3. 3
大気影響による強度変動の低減
衛星
–
地上局間光通信においてデータ伝送の品質を向
上するには,伝搬する光への大気の影響を低減する必
要がある.この方法は二つに大別され,一つは大気の
影響を被る光の波面を補正する方法
[23], [24]
,もう一
つは大気の影響を受けた複数の光を重ね合わせること
により,平均化の効果を利用する方法である
[21], [25]
.
OICETS
を相手とした実験では,
NICT
光地上局
の送信系に平均化の手法を導入し,その効果を検討し
た
[21], [26], [27]
.図
8
は,
2006
年
9
月
19
日に複数の
レーザ光を地上局から
OICETS
へ向けて照射し,衛
星で検出された受信強度の確率密度分布である.
1
∼
4
本のレーザ光を互いに大気のコヒーレンス長よりも空
図 8 複数のレーザ光を伝送した場合に検出される確率密 度分布
Fig. 8 Probability density of received laser power.
間的に離して平行に射出し,得られた受信電力を平均
値で規格化している.記号による点は実験による測定
結果,曲線は文献
[26]
に示す理論式に基づく数値計算
結果を示している.
実測値に基づく結果と理論に基づく計算とはよく一
致しており,同時に照射するビーム数の増加に伴い確
率密度の分布幅が小さくなることが確認できる.よっ
て,この方法の適用により,大気中を伝搬することに
よる受信電力の変動を抑制し,データ伝送の品質を向
上させることができると考えられる.なお同時に照射
するビーム数について,文献
[26]
では,ビーム数
16
まで用いた検討が行われ,ビーム数の増加に伴い平均
化の効果が高まる傾向が確認されている.しかし,光
学系の構築などについて実用性を考慮すると,図
8
に
おいても効果が確認できたビーム数
4
本が妥当な重ね
合わせの数と考えている.
3. 4
大気影響により変動する到来角の補正
衛星
–
地上局間光通信におけるデータ伝送の品質を
向上するには,大気の影響によって生じる光の到来角
の変動を抑制する必要がある.この変動は数
kHz
に
達するため,光の伝搬角度の補正に用いる駆動鏡にも
高速な動作が求められる.
図
9
は,地上局で受けた
OICETS
からの光をシン
グルモードファイバへ結合し,高速駆動鏡による角度
補正の効果を確認する実験の構成である
[28]
.衛星か
らの光を駆動鏡で反射し,四分割光検出器(
QD
)の
中心を照射し続けるように閉ループが組まれている.
QD
の中心部は,駆動鏡と
QD
の間で分岐された光路
上に配置した光ファイバの中心位置に対応しており,
光ファイバを通過した光は光センサで検出される.
衛星からの光を受けている間に,駆動鏡の動作と停
図 9 到来角変動の抑制Fig. 9 Compensation of arriving angle.
止を繰り返したところ,光センサからの出力には,駆
動鏡の動作により
11 dB
以上の増加が得られた
[28]
.
これにより,駆動鏡を採用する効果を確認した.しか
し,大気の影響を被った波面はひずみ,光学系の集光
面上においても光焦点が散在している.これをシング
ルモードファイバへ効率的に結合するには,例えば,
可変形鏡などの波面の補正機構を導入し,高速駆動鏡
との併用が考えられるが,これは今後の課題である.
なお,可変形鏡の適用に向けた検討は多数報告されて
おり,理論と実験による測定結果との比較が行われて
いる
[29], [30]
.
4.
現状と展望
宇宙光通信に関する国内外の動向として,
ESA
で
は,
1
μm
帯の光通信機器を次期の静止軌道衛星へ搭
載する検討を進めており,数
Gbit/s
での衛星間光通
信を予定している
[31], [32]
.また深宇宙通信について
は
NASA
による火星と地球を結ぶ光通信が挙げられ
る
[33]
.火星を周回する衛星に搭載する光通信機器を
作製した後,プログラムは中断している.しかし,こ
の技術は,月を対象とした宇宙利用において,有効
な技術候補として継承されている
[34]
.欧州において
も深宇宙通信のための光通信の検討が進んでいるほ
か
[35]
,衛星から地上への量子鍵配信の実験も計画さ
れている
[36]
.
日本の活動としては,
JAXA
が低軌道衛星とデータ
中継衛星との衛星間通信に用いる光通信装置の開発が
挙げられる
[37]
.
JAXA
は使用する波長として
1
μm
帯に着目し,欧州のデータ中継衛星に搭載される光通
信機器との相互運用性を確保することを目指している.
また,
NICT
では,波長
1.5
μm
帯による光通信及び
波長
0.8
μm
を用いた量子鍵配信に着目している.現
在,これらの光源を用いて,小型衛星に搭載可能な光
図 10 衛星通信ネットワークにおける光通信の利用例 Fig. 10 Conceptual drawing of the use of satellite
laser communications.
通信装置の開発を進めており,衛星
–
地上局間光通信
の実施を計画している
[38]
.図
10
に,衛星通信への
光通信の適用例を示す.大気の影響を被ることのない
衛星間は,大容量データをレーザ光で送受する.一方,
衛星と地上を結ぶ場合は,雲による回線遮断を避ける
必要が生じる.そこで,雲による影響が少ない
RF
リ
ンクの併用,及び地上ネットワークで接続した複数の
光地上局を分散配置する.これにより,実効的に雲を
避ける手法などを検討している.
また,宇宙光通信の相互運用を目指し,
2009
年
10
月には宇宙機関の会合の一つである
The Consultative
Committee for Space Data Systems
(
CCSDS
)にお
いて,技術検討を行うグループとして
The Optical
Channel Coding and Modulations Special Interest
Group under the Space Link Services Areas
(
SLS-OCM
)が設立された.ここでは,衛星間,衛星
–
地上
局間及び深宇宙
–
地上局間をレーザ光で結ぶ三つのシ
ナリオを想定し,そこで用いられる通信方式や符号技
術などの議論を行う予定である.
1
年間に
2
回開かれ
るもので,第
4
回目の会合が
2011
年
5
月に予定され
ている.
5.
む す び
本論文では,超高速衛星通信ネットワークにおける
重要な技術のうち,高速データ伝送技術の採用候補で
ある宇宙光通信技術について述べた.これまでの衛星
を用いた光通信に関する軌道上実証例を整理し,その
中から特に世界初の成果となった
OICETS
と地上局
間による光通信実験について述べた.光の非常に鋭い
の更なる発展を期待するものである.なお,本論文で
示した
OICETS
を用いた実験における測定データは,
JAXA
と
NICT
が実施した次世代の宇宙光通信技術
に関する共同研究の成果である.
文
献
[1] R.J. Krawczyk and L.R. Ignaczak, “The advanced communications technology satellite - Performance, relaiability and lessons learned,” Proc. 6th Ka Band Utilization Conference, pp.3–11, Cleveland, June 2000.
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[3] 門脇直人,吉村直子,高橋 卓,鈴木龍太郎,“超高速イ
ンターネット衛星(WINDS)における衛星搭載交換技術 の開発,”信学論(B),vol.J93-B, no.8, pp.1035–1042, Aug. 2010.
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