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在宅緩和ケアを行っている悪性腫瘍患者に対する歯科衛生士による専門的口腔ケアの影響の臨床比較試験

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(1)2016 年度在宅医療助成(後期) 一般公募 勇美記念財団. 助成研究. 在宅緩和ケアを行っている悪性腫瘍患者に対する 歯科衛生士による専門的口腔ケアの影響の 臨床比較試験. 事業報告書. 研究代表者 共同研究者. 丸山典良(まるやまホームクリニック) 猪原 健(猪原歯科・リハビリテーション科) 平成 30 年3月 29 日.

(2) 1.. 調査研究の目的. 3. 2.. 調査研究の対象. 5. 3.. 調査研究の方法. ① 悪性腫瘍の伴う終末期の在宅療養患者に対し、歯科衛生士が 定期的に訪問し、専門的口腔ケアを行った際の効果の比較研究. 6. ② 悪性腫瘍の伴う終末期の在宅療養患者の、口腔関連 QOL の 経時的調査. 12. ③ 患者の死後に家族アンケートを実施し、得られた文面の テキストマイニングによる、歯科を含めたチーム医療の効果の検証. 14. 4. 調査研究の結果 ① 調査対象者の状況. 15. ② 無作為化比較試験の結果. 17. ③ 悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者の、口腔関連 QOL の 経時的調査の結果 1) 口腔カンジダ症. 18. 2) 口腔乾燥. 19. 3) 口臭. 20. 4) 口腔内出血. 21. ④ 患者の死後に家族アンケートを実施し、得られた文面の テキストマイニングによる調査の結果 1) 各群の症例数ならびに回答割合. 22. 2) 各群の症例数、各群に出現した特徴的な単語. 22. 3) 単語の出現比率 -名詞-. 23. 4) 単語の出現比率 -動詞-. 24. 5) 単語の出現比率 -形容詞-. 25. 6) ネガポジマップ. 26. 5. 考察及び感想. 27. 6. 結論. 29. <巻末> COI 開示、謝辞、引用文献. 30. 2.

(3) 第 1 章 調査研究の概要 1.調査研究の目的 悪性腫瘍に伴う終末期においては、身体的・心理的・スピリチュアルな痛みなど の様々な問題が生じるが、緩和医療の発展に伴い、それらに対し適切な緩和ケアが 実施されるようになってきた。特に口腔に関する問題は、1) がん悪液質症候群のマ ネジメントを目的して使用されるステロイド製剤による副作用や、前進の抵抗力の 低下に伴う日和見感染症としての口腔カンジダ症の発症、2) 苦痛緩和を目的とした 輸液量の減少に伴う口腔乾燥症、3) 口腔粘膜の脆弱化に伴う易出血・疼痛などが挙 げられる。総合病院に設置される緩和ケア病棟においては、歯科医師・歯科衛生士 を含む院内の多職種チーム医療によりこれらの問題に対処することが可能であり、 実際に、平成 26 年度診療報酬改定より、周術期口腔機能管理の一環として「緩和ケ ア」への歯科介入が評価されるようになった。 翻って、悪性腫瘍に伴う終末期において、在宅での療養生活を送っている患者に ついては、在宅医療の普及に伴い増加しているものの、在宅は常に医療従事者がい る環境とは異なるため、上記のような緩和ケア病棟のような対応を行うことは困難 である。 そもそも、在宅医療に従事する歯科医療従事者、特に歯科衛生士が足りておら ず、また専門的口腔ケアを行う歯科衛生士の介入頻度は診療報酬・介護報酬上、月 4 回(実質的に週 1 回)に限られている。 以上のことから、悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者の、口腔関連QOLの現 状について、経時的に行われた調査はほとんどないのが現状であり、まず、実態調 査が求められている。 また、悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者に対する歯科衛生士の介入頻度とそ の効果についての研究もほとんど行われていない。現状、診療報酬・介護報酬にお いて算定が可能な月 4 回(実質的に週 1 回)の介入が適切なのかどうか、経時的に 調査を行い、明らかにすることも求められている。 さらに最近は、上記のような Evidence に基づく医療だけではなく、特に在宅医療 の現場においては、“Narrative Based Medicine(物語と対話による医療)”という概 念が求められるようになってきている。またその中では、患者本人だけでなく、逝 去後の家族に対するグリーフケアも重視されるようになってきた。歯科衛生士は、 患者が言葉を発する「口腔」をケアするプロフェッショナルであることから、ケア 3.

(4) 中に自然に会話が生まれ、また家族とのケア指導の中で、絆が生まれることも多々 経験している。このような役割が、患者の死後に残された家族に対しどのような影 響を与えているか、明らかにすることも重要であると考えられる。 以上の事から、本研究においては、下記の3点を目的とした研究を実施した。 ①悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者の、口腔関連QOLの経時的調査 ②上記患者に対し、歯科衛生士が定期的に訪問し、専門的口腔ケアを行った際の 効果の比較研究 ③患者の死後に家族アンケートを実施し、得られた文面のテキストマイニングに よる、歯科を含めたチーム医療の効果の検証. 4.

(5) 2.調査研究の対象 本研究では、上記 3 点の調査・研究を計画し実施した。それぞれの研究における対 象患者は全て共通であり、下記の通りである。 ・研究場所 まるやまホームクリニックにて訪問診療を受けている在宅療養患者の自宅、もしく は入所している施設 ・対象患者・検体 以下の選択基準のすべてを満たし、除外基準のいずれにも該当しない在宅療養終 末期患者。 i). 選択基準 (a) 同意取得時の年齢が20歳以上。 (b) 同意取得時に、意識レベルが JCS にて、0もしくはⅠ-1。 (c) 悪性腫瘍による終末期であると診断され、まるやまホームクリニックに て在宅緩和ケア医療を受ける患者。 (d) 初診段階で、予後が2週間以上あると主治医によって推定された患者。 (e) 逝去までに3回以上の訪問診療が可能と判断された患者。 (f) 本試験開始時に歯科治療の必要性が全くないか、もしくは義歯修理・調 整以外の歯科治療の必要がない症例. ii). 除外基準 (a) 本試験開始前に、歯科医師・歯科衛生士による専門的口腔ケアをすでに 受けている患者。 (b) その他、主治医が本試験を実施するのに不適当と認めた患者。. [設定根拠] a)有効性評価への影響、b)安全性への配慮のため. 5.

(6) 3.調査研究の方法 ①悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者に対し、歯科衛生士が定期的に訪問し、専門 的口腔ケアを行った際の効果の比較研究 i) 試験の種類 非盲検単施設並行群間無作為化比較試験 口腔ケアを実施する上で、主治医に対して盲検化を行うことは不可能である。 本試験の性格上、歯科衛生士か否かによる口腔ケアの技術の比較を行うのではな く、歯科衛生士が在宅医療チームの一員として介入すること自体に対する効果を 測る目的があるため、患者・家族が歯科衛生士の介入の有無について事前に知っ ておく必要があると考え、非盲検試験を選択した。 ii) 比較する治療(用法、用量、投与期間) ○A 群:通常の在宅緩和ケアと、日常的な口腔ケアに、歯科衛生士による専門的 口腔ケア※を併用した治療 ○B 群:通常の在宅緩和ケアと、日常的な口腔ケアのみを行った治療 ※専門的口腔ケア 本研究における「専門的口腔ケア」とは、概ね週 1 回もしくはそれ以下の頻度で 患者宅を訪問し、口唇部を含む口腔内の保湿、付着した細菌性プラークや剥離上 皮の除去を、歯ブラシやワンタフトブラシ、歯間ブラシ、舌ブラシ、口腔ケア用 スポンジなどを用いて行うものとした。またケアを行うだけでなく、日常のケア を行う患者本人や家族に対して、ケアの方法を指導したり相談に応じることも含 まれる。 なお、本試験において「専門的口腔ケア」を実施する歯科衛生士は、歯科衛生士 業務5年以上の実務経験を有し、かつ1年以上の在宅医療の経験を有する者に限 るものとした。 iii) 試験のアウトライン 1) 初診もしくは2回目以降の訪問診療の際に、同意取得を行った。 2) 同意取得のあとに、選択除外基準に関する必要な検査を行った。歯科治療の 必要性の有無についての判断は、猪原歯科・リハビリテーション科から派遣さ れた歯科衛生士によって行った。 3) 登録・割り付けの前に、義歯修理・調整のみの歯科治療が必要と判断された 患者については、猪原歯科・リハビリテーション科の歯科医師により歯科診療 が行われ、その治療終了後に試験への登録が行われた。義歯修理・調整以外の 6.

(7) 歯科治療が必要と判断された場合は、除外基準に相当すると判断し、今回の試 験への登録は行わなかった。 4) 登録、治療の割り付けを行った。 5) 治療開始からは、上記の口腔内の検査を、主治医の診察ごとに、同行してい る歯科衛生士によって行った。 iv) 被験者の試験参加予定期間 : 登録から死亡まで v) 併用療法に関する規定 併用禁止療法: 下記の療法、またはそれに類するものは、試験期間中は禁止した。 ・他施設での歯科医師もしくは歯科衛生士による歯科治療を受けること [設定根拠] 有効性の評価上、重大な影響を及ぼすと考えられるため 試験期間中、口腔ケア以外の歯科治療を受ける必要が認められた場合は、中止 基準に該当すると判断し、その症例の試験を中止した。またその際には、速や かに歯科訪問診療へ紹介を行い、歯科治療を開始した。 併用注意療法: 家族や介護職員、看護職員などによる口腔ケアは、日常の口腔ケアの範疇に入 るものとするため、歯科医師・歯科衛生士から指導を受けない限りは通常通り 行って構わないものとした。 vi) 割り付け方法 被験者の各治療群への割付は、中央登録方式とし、猪原歯科・リハビリテーショ ン科の割付担当者が行った。割付担当者はコンピュータよりランダムに発生させ た二進法の数値により無作為化割り付けを実施した。 vii) 登録割付手順 試験責任医師あるいは試験分担医師は、試験対象として選定した患者について、 除外対象者でないことを確認し、文書による同意を取得した後、割付担当者が、 登録、および割付けの申込を行った。割付担当者は、試験対象条件を確認の上、 A、B 群への割付を行い、割付け申込用紙に症例番号、割付群を追加記入し、試 験担当医師宛に返送した。試験責任医師あるいは試験分担医師は、割付担当者か ら適格性の確認を受け、被験者登録番号と割付けられた治療法等が記載された登 録確認書を受領し、指定された治療法にてすみやかに治療を開始した。. 7.

(8) viii) 評価項目 1) カンジダ簡易培養ならびに、口腔カンジダ症の発症の有無 [設定根拠] 口腔カンジダ症は、悪性腫瘍による終末期患者に頻繁に認められる 口腔内の問題であり、痛みや不快感の大きな原因となるため、各治療 群間での比較検討が必要となる。 [評価方法]. 患者の口腔内を観察し、剥離可能な白色病変が確認された場合に、 培養同定によって口腔カンジダ症の確定診断を行った。. 2) 口腔乾燥症のレベル測定 [設定根拠] 口腔乾燥症は、悪性腫瘍による終末期患者に頻繁に認められる口腔 内の問題であり、痛みや不快感の大きな原因となるため、各治療群間 での比較検討が必要となる。 [評価方法]. 患者の舌背部を、口腔水分計ムーカス®(株式会社ライフ)を使用 し、測定を行った。. 3) 口臭レベルの測定 [設定根拠] 口臭は、悪性腫瘍による終末期患者に頻繁に認められる口腔内の問 題であり、本人だけでなく家族にとって大切な時間を過ごす際の大 きな障害となるため、各治療群間での比較検討が必要となる。 [評価方法] 口臭については、 「入院患者に対するオーラルマネジメント」 (8020 推進財団)に示されている診断基準である、1度:口臭を認めない、 2度:口腔から 30cm 以内に近づくと口臭を感じる、3度:口腔から 30cm 以上離れても口臭を感じる、の3段階で評価を行った。その際、 評価者の嗅覚に特に問題がないことを事前に確認した。 4) 口腔内出血の発生率 [設定根拠] 脆弱化した粘膜は、口腔ケアによる摩擦により傷つきやすく出血し やすい。そのため、口腔ケアに伴う有害事象としての口腔内出血の有 無について監視する必要がある。 ix) 中止基準 中止基準は、下記とした。 1) 被験者から試験参加の辞退の申し出や同意の撤回があった場合 2) 試験開始後に、口腔ケア以外の歯科治療が必要と判断された場合 3) 有害事象により試験の継続が困難な場合 4) 原疾患の悪化のため、口腔ケアの継続が好ましくないと判断された場合 8.

(9) 5) 悪性腫瘍以外の原因で、患者の状態が変化した場合 6) 登録後に適格性を満足しないことが判明した場合 7) 試験全体が中止された場合 8) その他の理由により、医師が試験を中止することが適当と判断した場合 ※ なお、本研究において、中止例は 1 例存在し、 「2) 試験開始後に、口腔ケア以 外の歯科治療が必要と判断された場合」に該当した。 x) 有害事象発生時の取扱 試験責任医師または試験分担医師は、有害事象を認めたときは、直ちに適切な 処置を行うとともに、カルテならびに症例報告書に記載することとした。また、 口腔ケアを中止した場合や、有害事象に対する治療が必要となった場合には、被 験者にその旨を伝えるものとした。 本研究においては、 「重篤な有害事象」とは、以下のいずれかの定義に該当する好 ましくない事象とした。 1) 原疾患以外での死亡または死亡につながるおそれ 2) 障害または障害につながるおそれ また重篤な有害事象の基準を満たさないが、下記の重要な有害事象の条件を満た す場合は、速やかに重篤な有害事象の報告に準じて報告を行こととした。 1) 歯の脱落・破折 2) 口腔粘膜の出血を伴う深い潰瘍の発生 3) その他試験を中止することに至った有害事象 その他の有害事象については、逐次、症例報告書に記載するものとした。 ※ 本研究においては、上記の重篤な有害事象はいずれも発生していない。 xi) 試験実施期間 試験登録期間:2017 年 4 月~2017 年 12 月 試験実施期間:2017 年 4 月~2018 年 3 月 xii) 統計解析 1) 解析の対象集団 解析対象となる被験者は、試験実施計画書に適合した被験者の集団 (Per Protocol Set, PPS)とした。中止・脱落症例については、比較研究の統計解析対象 として取り扱わないものとし、また欠測値の存在する症例についても、それぞれ の評価項目ごとに解析対象から除外することとした。 9.

(10) 2) 評価項目の解析 ・口腔カンジダ症の発症 試験期間中における口腔カンジダ症の発症率の比較を Fisher の正確な検定を適 用して行うこととした。 ・口腔カンジダ症の発症期間 試験期間中における口腔カンジダ症の発症期間の比較を Wilcoxon の順位和検 定にて行うこととした。 ・口腔乾燥症のレベル 試験期間中における口腔乾燥症のレベルについては、診察ごとに行う口腔水分 計での測定結果のうち、試験終了からさかのぼって3回分の測定値の中央値の 比較を Wilcoxon の順位和検定にて行うこととした。 ・口臭のレベル 試験期間中における口腔乾燥症のレベルについては、診察ごとに行う口臭判定 結果のうち、試験終了からさかのぼって3回分の測定値の中央値の比較を Wilcoxon の順位和検定にて行うこととした。 ・有害事象 有害事象の一覧を作成するとともに、有害事象ごとの発生率の比較に Fisher の 正確な検定を適用するものとした。 3) 有意水準 検定の有意水準は、検定項目ごとに両側5%とした。 xiii). 目標症例数および設定根拠. 1) 目標症例数 A 群 48例、 B 群. 48例、 計96例. 2) 設定根拠 がん終末期患者の口腔真菌症の発症頻度は 30~50%と報告されており(中京病 院緩和ケアチーム 症状コントロールガイド)、歯科衛生士による専門的口腔ケ アによってその発症率を 20%に低減できると想定される。50%から 20%への 減少が想定される場合、両側検定(有意水準 5%)で検出力 80%を保持するの に必要な標本の大きさは、統計ソフトR(ver 3.3.1)を用いて計算した場合、各群 38 例となる。脱落率を 20%とした場合、各群 48 例となり、合計 96 例必要と なる。. 10.

(11) ※ なお、本研究においては、貴財団より定められた研究期間内に、目標症例数 に達することが困難であり、また想定外に脱落症例が増えてしまっていた。 その為、第 2 種の過誤を避けることが困難であり、xii)統計解析 において実 施を予定していた統計処理を実施することは困難であった。. 11.

(12) ②悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者の、口腔関連QOLの経時的調査 i) 調査の種類 非盲検単施設並行群間無作為化比較試験と同時に行う前向き調査 ii) 調査対象 上記の無作為化比較試験において登録された症例のうち、介入期間や評価回数に 関わらず在宅看取りに至った症例、ならびに、入院のために打ち切りになった症例 のうち、入院先での死亡日が判明している症例 iii) 評価項目 1) 口腔カンジダ症の発症の有無 2) 口腔乾燥症のレベル測定 3) 口臭レベルの測定 4) 口腔内出血の発生 iv) 調査のアウトライン 「①悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者に対し、歯科衛生士が定期的に訪問し、 専門的口腔ケアを行った際の効果の比較研究」において計画していた方法にて得 られたデータを、経時的に解析を行った。解析に当っては、死亡日よりさかのぼり、 死亡 1~3 日前、4~7 日前、8~14 日前、15~21 日前、22~28 日前、29 日より以 前の6つの時期に区分し、各患者ごとに上記の各時期の代表値を1つ定めて解析 を行った。代表値の定め方、ならびに統計解析方法は各評価項目ごとに設定を行っ た。 口腔カンジダ症については、口腔内を肉眼で観察し、白苔の存在の有無を確認し た。また口腔内をスワブにて擦過し検体を採取、簡易培養同定検査を実施した。肉 眼的所見がなく、簡易培養同定検査のみ陽性の場合を、培養陽性とした。肉眼的所 見ならびに培養同定検査が共に陽性の場合に、口腔カンジダ症の有病状態である とした。各時期において最も死亡日に近い日におけるデータを代表値と定め、各時 期ごとに、陽性率、有病率を求めた。 口腔乾燥症については、口腔水分計ムーカス®(株式会社ライフ)を用いて、湿 潤度を求めた。口腔水分計は、7.2mm2 のセンサ表面に組み込んだプラス・マイナ スのくし型電極に 5V の電圧をかけ、共振高周波によるインピーダンスを基に静 電容量を測定するものであり、静電容量は口腔粘膜表面の水分量のみでなく、約 50μm の深度までの粘膜内水分量をも反映するとされている。本研究では、福島 ら 1)の方法に準じ、舌背部にセンサを接触させ、順に測定して得られた 3 回の結果 の平均値をその日のデータとして採用した。上記の各時期において最も死亡日に 12.

(13) 近い日におけるデータ代表値と定め、各時期ごとに解析対象データ全体の平均値 と標準偏差を求めた。 口臭については、入院患者に対するオーラルマネジメント(8020 推進財団)2) に 示されている診断基準である、1度:口臭を認めない、2度:口腔から 30cm 以内 に近づくと口臭を感じる、3度:口腔から 30cm 以上離れても口臭を感じる、の3 段階で評価を行った。その際、評価者の嗅覚に特に問題がないことを事前に確認し た。各時期において最も重度なデータを代表値と定め、各時期ごとに、 「2度:口 腔から 30cm 以内に近づくと口臭を感じる」割合と、「3:口腔から 30cm 以上離 れても口臭を感じる」割合を求めた。 口腔内出血については、評価者が口腔内を観察し、口腔粘膜からの出血の有無を 肉眼で確認した。各時期において出血ありと出血なしが存在した場合は、出血あり と判断することとし、各時期ごとに、出血を認めた割合として求めた。. 13.

(14) ③患者の死後に家族アンケートを実施し、得られた文面のテキストマイニングによ る、歯科を含めたチーム医療の効果の検証 i) 研究の種類 患者死亡後の家族に対する自由記述式アンケート文章のテキストマイニング ii) 調査対象 上記の無作為化比較試験において登録された症例のうち、介入期間や評価回数に 関わらず在宅看取りに至った症例、ならびに、入院のために打ち切りになった症例 のうち入院先での死亡日が判明している症例を調査対象して、患者死亡後に家族 にアンケートを送付した。回答を得たものを解析対象とし、介入群と非介入群に分 けてテキストマイニングによる解析を行った。 iii) 比較する治療(用法、用量、投与期間) ○A 群:通常の在宅緩和ケアと、日常的な口腔ケアに、歯科衛生士による専門的 口腔ケアを併用した治療 ○B 群:通常の在宅緩和ケアと、日常的な口腔ケアのみを行った治療 iv) 試験のアウトライン ②の試験の終了後、家族に対し、切手を貼った返信用封筒入りの自由記述式の アンケートを送付し、回答を得た。送付に当たっては、 「歯科」や「口腔」とい った言葉から連想されるバイアスを排除するために、当研究の表題である「在 宅緩和ケアを行っている悪性腫瘍患者に対する歯科衛生士による専門的口腔ケ アの影響の臨床比較試験」などの表記は行わないようにし、また説明文には 「今回受けられた在宅医療や、看取りについて、よろしければご感想をお聞か せください」とのみ表記した。 回答されたアンケートの文章は、全て文字データとしてコンピュータソフトに 入力された。その際、ひらがなと漢字(例:よい・良い)などは、解析の際に 別の言葉として検出されないように、表現の統一を行った。 また、患者の個人名については、続柄を示す表記に統一して変更を行った (夫、息子など) 。 得られたデータを、クラウド型テキストマイニングツール(株式会社ユーザー ローカル, 東京)に入力し、出現する単語の比率を群間比較した。. 14.

(15) 4.調査研究の結果 ① 調査対象者の状況 調査対象として登録された者は、下記となった。 症例数ならびに年齢 症例数. 年齢(Mean±SD). 男性. 25. 75.2±10.4. 女性. 15. 65.8±14.2. 合計. 40. 71.7±12.7. 女性の平均年齢は、男性より約 10 歳若かった。 部位 原発部位. 症例数. うち遠隔転移あり. 大腸. 12. 6. 膵臓. 7. 1. 肝臓. 4. 0. 胃. 3. 1. 肺. 3. 2. その他. 9. 2. 原発不明. 2. 1. 合計. 40. 13. その他の部位は、下記が各 1 例ずつ存在した 食道、乳、卵巣、子宮体、精巣、膀胱、多発性骨髄腫、心膜中皮腫、血液 看取り場所・介入期間など 症例数. 介入日数. (入院~死亡 日数). (Mean±SD) 在宅看取り. 28. 65.3±75.2. 入院. 9. 72.2±79.3. 打ち切り(試験終了時に生存). 3. 212.3±85.7. 合計. 40. 66.9±75.1. (19.3±25.1)*. *入院後の死亡日が判明しているのは 6 名のみ 在宅医療が開始となってから、平均2~3ヶ月で看取りとなっている。 入院移行の場合は、入院後平均 1 ヶ月以内に看取りとなった。(1日~61 日) 15.

(16) 無作為化比較試験の割り付け結果と、解析適合症例数. 介入. 非介入. 症例数. 症例数. 年齢(Mean±SD). うち適合症例数. 年齢(Mean±SD). 男性. 12. 71.3±10.7. 5. 66.8±9.6. 女性. 8. 72.0±10.2. 1. 85. 計. 20. 71.6±10.2. 6. 69.8±11.4. 男性. 13. 78.8±9.2. 7. 81.4±7.4. 女性. 7. 55.0±13.1. 3. 66.7±20.6. 計. 20. 71.8±15.0. 10. 77.0±13.5. 40. 71.7±12.7. 16. 74.3±12.9. 合計. 脱落症例内訳 脱落理由. 症例数. 入院. 9. 打ち切り(試験終了時に生存). 3. 必要評価回数に達していない. 7. 必要評価回数には達しているものの、終末期の評価ができていない. 2. 口腔ケア介入の拒否. 2. 歯科治療の必要性が生じたため試験中断. 1. 合計. 24. 試験実施計画書で想定していたよりも多くの症例が脱落してしまっていた。 理由としては、約 1/4 の症例が入院に移行してしまったことと、在宅医療の開 始から数日以内に亡くなり、必要評価回数(試験実施計画書では、3回と規 定)の口腔内評価を実施できなかった症例が多かったことが挙げられる。 口腔ケアの拒否については、試験への参加に同意を行い、介入群に割り付けら れていたにも関わらず、本人や家族が希望しないという理由で、歯科衛生士の 訪問を断ってきたというものである。2例とも義歯を使用されており、うち1 例は義歯を外すところを他人に見られたくないからという理由、もう1例は上 顎・下顎とも総義歯を使用されているものの、一切外す習慣がないから、とい う理由であった。(もちろん、義歯は着脱して清掃する必要があり、その旨の説 明を行ったが、理解を得ることが出来なかった。 ). 16.

(17) 解析適合症例の詳細 症例数. 介入期間(日). 評価回数(回). ケア回数(回). (Mean±SD) 介入. 6. 51.8±19.8. 9.0±3.7. 5.5±3.2. 非介入. 10. 86.1±79.5. 11.3±11.5. -. 合計. 16. 73.3±64.9. 10.4±9.2. -. 必要症例数を十分に確保することが困難であった。この理由としては、市内に 新たに在宅専門クリニックが開業し、悪性腫瘍による看取り患者の依頼が減っ たことの影響が大きく、また当院の常勤医が昨年冬に退職したためマンパワー 不足に陥ってしまい新患を十分に受け入れることが困難になったことも、理由 として挙げられる。 必要評価回数に達しなかった症例の詳細 症例数. 介入期間(日). 評価回数(回). ケア回数(回). (Mean±SD) 介入. 4. 4.8±1.3. 1.8±0.5. 0.3±0.5. 非介入. 3. 5.0±3.0. 1.3±0.6. -. 合計. 7. 4.9±2.0. 1.6±0.5. -. 全患者のうち2割弱が、在宅診療を開始してからほぼ1週間以内に亡くなって いた。 (2日~8日) 。そのため、患者・家族と十分な信頼関係を築くことが難 しく、口腔ケアの介入もほとんど行うことが不可能であった。 これは、病院から退院し、在宅での緩和ケア医療へ移行する時期が、かなり遅 れてしまっていることが問題として挙げられよう。. ② 無作為化比較試験の結果 前述の通り、必要症例数を確保することが困難であり、また脱落症例も想定以 上に増えてしまったため、このまま統計処理を行っても、第2種の過誤(実際 には有意な差があるかもしれないのに、症例数が足りないためにその差を検出 できず、有意差なしを誤判定してしまうというリスク)を避けることが不可能 な状況となっていまっている。 そのため、今回は無作為化比較試験における検定は行わず、得られたデータを 前向きコホート研究として活用し、記述統計を行うこととした。. 17.

(18) ③ 悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者の、口腔関連QOLの経時的調査 口腔カンジダ症. 口腔カンジダ症の経時的変化 100 90 80 70 60. ( % 50 ) 40. 陽性率 有病率. 30 20 10 0 29-. 22-28. 15-21. 8-14. 4-7. 1-3. 死亡までの日数(日). 死亡日よりさかのぼり、死亡 1~3 日前、4~7 日前、8~14 日前、15~21 日 前、22~28 日前、29 日より以前の6つの時期に区分し、データを集計してそ れぞれの時期におけるカンジダ陽性率ならびに、口腔カンジダ症の有病率を求 めた。 (肉眼的所見がなく簡易培養同定検査のみ陽性の場合を陽性、肉眼で白 苔の存在を確認し、かつ簡易培養同定検査で陽性の場合を有病状態とした。 ) 健常高齢者におけるカンジダ陽性率は、64%との報告 3)があり、死亡前1ヶ 月の段階で、既にそれを上回っている状態であった。有病率も、死亡前1ヶ月 における約 20%から急激に上昇し、2週間前で 70%に達していた。その後、 死亡前 1~2 週の時点でいったん陽性率・有病率が共に下がる状況が認められ たが、死亡直前における陽性率は 100%、有病率も6割程度と、かなり高い状 態となっていた。. 18.

(19) 口腔乾燥. 口腔乾燥状態の経時的変化 35. 湿 潤 30. ←. 25. ( ム 20 ー カ ス 15 ). →. 10. 乾 5 燥 0 29-. 22-28. 15-21. 8-14. 4-7. 1-3. 死亡までの日数(日). 死亡日よりさかのぼり、死亡 1~3 日前、4~7 日前、8~14 日前、15~21 日 前、22~28 日前、29 日より以前の6つの時期に区分し、それぞれの時期にお けるムーカス®から得られた数値の平均と標準偏差を求め、グラフとした。 ムーカス®においては、数値が低いほど、口腔乾燥状態であることが示され る。湿潤度が 29.6 以上を正常、27.9 以下を口腔乾燥症、28.0~29.5 を境界 域とすると、敏感度および特異度は、ともに 80%近くになると報告されてい る。そのため、28.0 未満が口腔乾燥状態と判断されるが、すでに死亡前 1 ヶ 月の段階で、平均値は 25 前後となっている。その後も死亡日が近づくにつれ 乾燥状態が悪化している傾向が認められる。ただ口腔カンジダ症と同様に、死 亡前 1~2 週間に、若干であるが数値の改善が認められた。. 19.

(20) 口臭. 口臭の経時的変化 100 90 80. 70 60. ( % 50 ) 40. 30cm以内で感じる 30cm以上でも感じる. 30 20 10 0. 29-. 22-28 15-21. 8-14. 4-7. 1-3. 死亡までの日数(日). 死亡日よりさかのぼり、死亡 1~3 日前、4~7 日前、8~14 日前、15~21 日 前、22~28 日前、29 日より以前の6つの時期に区分し、それぞれの時期にお ける、2 つの口臭レベルの割合をグラフに示した。 口臭レベルは、死亡 4 日前までは大きな変化は認められないが、死亡3日前 から、30cm 以内で感じるレベルの口臭を認める割合が増える傾向となってい る。. 20.

(21) 口腔内出血. 口腔内出血の割合の経時的変化 100 90 80 70 60. ( % 50 ) 40 30 20 10 0 29-. 22-28. 15-21. 8-14. 4-7. 1-3. 死亡までの日数(日). 死亡日よりさかのぼり、死亡 1~3 日前、4~7 日前、8~14 日前、15~21 日 前、22~28 日前、29 日より以前の6つの時期に区分し、それぞれの時期にお ける、口腔内出血の割合をグラフに示した。 口腔内出血は全期間を通じ、1~2 例(5~10%)程度の発生率であった。. 21.

(22) ④ 患者の死後に家族アンケートを実施し、得られた文面のテキストマイニングによ る、歯科を含めたチーム医療の効果の検証 在宅での看取りとなった症例において、看取り後に家族に対して自由記入式ア ンケートを送付し、回答を得た。 2) 各群の症例数ならびに回答割合 回答あり症例数. 回答割合 (%). 介入群. 3. 15 %. 非介入群. 2. 10 %. 合計. 5. 12.5 %. 3) 各群に出現した特徴的な単語 介入群にだけ出現. 皆様 息子 チーム 人生 心配 時代 看護 訪問看護 子 ども 苦痛 終末 歯科 旅立つ 恵まれる 祈る いける いっしょ はじめ 多く 安らか あの世 退院 一生懸命 看病 前々 歯磨き か月 食事 心残り 仕方. 介入群によく出る. 思う 感謝 スタッフ おる 丸山* 不安 迎える 嬉しい 難しい いい 優しい. 両群によく出る. できる 最期 先生 言葉 看取る くれる 気持ち よい 下す 強い 入れる 医療 希望 病院 思い 経験 ベッド 安心 方々 おかげ 痛み ケア 帰る 食べる 亡くなる 接す かける 思い出す しまう 看る. 非介入群によく出る. 自宅 下さる 本人 毎日 言う 在宅医療 過ごせる いた だく. 非介入群にだけ出現. 過ごす 家族 皆さん 大切 見せる 治療 思える 弱み 苦しい 考える 作る 感じる 読む 今回 受ける くださ る 緩和 呼吸 快適 様々 診察 場所 一緒 妹と私 週間 ご飯 必要 チューブ 酸素 手紙. *「丸山」は、在宅医療を行っている当診療所の名称である. 22.

(23) 4) 単語の出現比率 -名詞-. 23.

(24) 5) 単語の出現比率 -動詞-. 24.

(25) 6) 単語の出現比率 -形容詞-. 25.

(26) 7) ネガポジマップ 解析対象の文書に現れる単語がどちらの文書により多く出現するか、またその 単語の意味がどれだけポジティブ・ネガティブであるかを 2 次元でマッピング した図を、ネガポジマップという。単語が左寄りになっているほど「介入群」 により多く現れることを、右寄りになっているほど「非介入群」により多く現 れることを意味している。また、単語が上寄りになっているほどポジティブな 単語であることを、下寄りになっているほどネガティブな単語であることを意 味している。. 介入群に特徴的に出現するポジティブな単語は、下記であった。 (図中に重なって表示されているため、再掲) 左上から:有難い、暖かい、安い、嬉しい、強い 介入群に特徴的に出現するネガティブな単語は、下記であった。 忙しい、古い、動く、心配、無い、祈る、難しい、不安 非介入群に特徴的に出現するネガティブな単語は、下記であった。 苦しい、病気、進行、拭く 以上より、介入群にのみ、ポジティブな形容詞が出現していることが分かっ た。. 26.

(27) 5.考察及び感想 1) 本研究の意義について 在宅医療を推し進めるにあたって、特に悪性腫瘍による終末期患者への対応は、大 きな課題となっている。これは非がんの患者に比べて、短期間のうちに刻々と状況 が変化し、また痛みや不快感などの苦痛が出現しやすいためである。これらに対応 するためには、医療をメインとする多職種による短期集中型の介入が必要となって くるが、在宅医療に関わるスタッフがまだまだ足りていない。もちろん人生におけ る大切な時間を、住み慣れた自宅において、家族と共に過ごすことができるという ことは、本当に素晴らしいことであり、目指すべき道である。しかしながらその反 面、緩和ケア病棟などに比べると医療の手厚さ、という面では課題があることもま た事実である。 多くの悪性腫瘍による終末期患者が直面してしまうこと、その多くが口腔に関わる 問題である。口腔カンジダ症、口腔乾燥症、口臭、口腔内出血・・・。この4つ は、多くの患者において QOL を低下させてしまう大きな問題であると捉えられて きたが、その発症頻度や経時的変化を調査した研究は少なく、また在宅療養患者に フォーカスしたものは皆無であった。この度、悪性腫瘍による終末期在宅療養患者 の、これら口腔関連 QOL の現状と、死亡に至るまでの経過を、専門職である歯科 衛生士の視点で記録することを試みた。これらの記録は、悪性腫瘍終末期の在宅医 療において、どのような介入が必要とされているかを検討するための、重要なデー タになるものと考えられる。 また本研究では、歯科衛生士による専門的口腔ケアの介入の有無により、上記の口 腔関連 QOL が向上するか否かについて、無作為化比較試験を計画し実施した。し かしながら、在宅医療を取り巻く環境は刻々と変化し、想定を下回る登録患者数 と、想定を上回る脱落症例数となってしまった。想定のデータは、昨年度の実績を もとに可能なものと考えており、また実態を把握している地元の医師会からも倫理 審査をうけていたが、市内の在宅医療を取り巻く環境が変わることで大きな影響を 受けてしまった。今研究では、第2種の過誤が予想されるため統計解析を実施せず 無作為化比較試験は終了とし、その代りに得られたデータを、前向きコホート調査 として解析することとした。 2) 調査対象者の状況について 本研究では、調査対象となった40例のうち、在宅看取りとなった症例が28例で あった。生存による打ち切り3例を除いて計算した在宅看取り率は、約 75%であ り、概ね一般的な臨床実態に即しているものと考えられる。その内、7例がほぼ在 宅医療へ移行してから1週間以内に亡くなっており、約2割の患者がギリギリまで 病院での積極的治療を受けられていたことがうかがえる結果となった。このように 27.

(28) ごく短期間の場合、患者・家族と在宅医療チームとの間に信頼関係を築くための十 分な時間を取ることができないという問題に直面する。もちろん、在宅療養への移 行時期を早めるようにすることが最も重要なことであるが、それだけでなく、入院 中の段階から、在宅医や訪問看護が患者に関わりを持ち、スムーズに在宅移行でき るような仕組みを整えることも重要と考えられる。 またこのように、在宅移行後に早期に看取りになってしまうことが高頻度であるこ とが判明したが、このような方々の口腔関連 QOL の維持・向上のため、在宅医の 介入と同時の歯科介入が出来るよう、制度や体制を整えていく必要があると考えら れる。具体的には、在宅療養支援診療所に歯科衛生士が勤務するようになること や、在宅療養支援診療所と在宅療養支援歯科診療所の強固な連携関係の構築が挙げ られよう。前者については、具体例として千葉県松戸市にあるあおぞら診療所に歯 科衛生士が常勤勤務している例がある。歯科衛生士法により、医師は歯科衛生士に 対し歯科保健指導を指示することが可能であり、これを根拠として歯科のない診療 所に歯科衛生士が勤務することが可能となるが、歯科衛生士業務の多くは歯科医師 の指示のもとに行われることと規定されているため、おのずと業務範囲に制限が出 てきてしまう。これらの問題は、後者の医科歯科連携の推進によってある程度、解 決可能であると考えられる。本研究においても、在宅療養支援診療所と在宅療養支 援歯科診療所の連携により実施することが可能であった。このような取り組みを全 国に広げていく必要があると考えられる。 3) 口腔関連 QOL について 在宅医療の世界では、患者の予後について「月単位」「週単位」「日単位」という言 葉がよく使われる。臨終のときが近づくについて、上記の時間単位で状況が刻々と 変化していく、という意味である。本研究においては、臨床的に重要ととらえられ ているこの時間単位に合わせて、患者の口腔内の様子がどのように変化するか解析 を行った。もちろん、患者がいつ亡くなるかは分からないため、本研究では、前向 きに調査を行ったデータを、患者の死亡日から逆算して後から集計するという手法 を用いている。その為、全ての患者について全ての期間のデータが揃っているわけ でなく、その期間内に採取することができたデータのみを解析対象とした。以上が 本研究の解析上の制約である。 結果からは、口腔カンジダ症と口腔乾燥については、死亡1ヶ月前から死亡日にか けて、徐々に悪化していく様子が記録された。しかし直線的に悪化するのではな く、いい時期と悪い時期を繰り返しながら変化していくようであった。また、ベー スラインとした死亡前1ヶ月の段階で、既に健常者より数値は悪化していた。さら に、死亡の数日前には、極度の口腔乾燥状態と、高率でのカンジダ発症が認められ た。口臭に関しては、死亡の数日前に悪化が認められた。これらより、死亡日が近 28.

(29) づけば近づくほど、口腔関連QOLは急激に悪化することが分かった。これらを解 決するためには、より頻回に歯科専門職が介入することを考慮する必要があると考 えられ、診療報酬・介護報酬上、月 4 回と制限されている歯科衛生士による訪問衛 生指導(居宅療養管理指導)の頻度については、より柔軟に訪問が可能になるよう 改善を図っていく必要がある。 なお、口腔内出血については全期間においてほとん ど変わりなく、5~10%程度の割合で認められた。 3) 遺族アンケートについて 調査対象者の死亡後に、患者アンケートを送付し、12.5%から回答を得た。これ は、類似の調査に比べるとかなり低くなってしまっている。今回は、テキストマイ ニングによる解析を予定していたことから、調査に影響を与えない様、自由記述式 のみのアンケートとしており、これが結果として家族にとって書きにくい内容にな ってしまったことは否めない。 テキストマイニングの解析結果では、歯科衛生士の介入群の方が、ポジティブな形 容詞が多く出現していた。またチーム、看護、歯科、スタッフなど、チーム医療を 連想させる単語がより多く出現していた。歯科がチームの中に関わることによっ て、多職種によるチームアプローチが、より「支えられている」という雰囲気を醸 し出し、穏やかな時間を過ごす一助となっているのかもしれない。今回は、ごく少 数のアンケートより導き出された結果であるため、さらに追加の研究が求められ る。. 6.結論 悪性腫瘍に伴う終末期の在宅療養患者に対し、歯科衛生士が継続的に関わり、死亡 に至るまでの口腔関連QOLを経時的に調査を行ったところ、ほぼ全例で口腔カン ジダ症が認められ、口腔乾燥と口臭が死亡前数日より急速に悪化していた。また死 亡に至る過程では、口腔関連QOLの悪化と改善を繰り返しながら徐々に進行して いくことが明らかになった。患者の死亡後に行った家族アンケートでは、回答数の 制限があるものの、歯科衛生士介入群の方が、よりポジティブな形容詞が多く出現 していた。. 29.

(30) COI 開示 本研究は、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団に助成により実施した。研究代表 者、実施責任者ならびに研究に関わった者と、当該財団との間に、上記の助成金以外に特 別な関係はない。また本研究を実施するに当たり、その他の財団や企業からの資金提供等 は一切受けていない。 謝辞 本研究を実施するに当たり、被験者として協力して下さった患者の皆さまに厚くお礼申し 上げるとともに、ご冥福をお祈りいたします。また大変な時期に研究にご協力して下さっ たご家族の皆さまにも感謝申し上げます。 さらに、通常の在宅医療を行う以外に専門的口腔ケアに伺うという研究の性格上、医療・ 介護サービスのスケジュール管理を行って下さったそれぞれの患者の担当ケアマネジャー の皆さま、研究に協力・理解をくださった訪問看護ステーションの皆さまなど、多くの方 にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。 引用文献 1) 福島洋介他,「口腔乾燥症診断における改良型口腔水分計を用いた口腔湿潤度の評価」, Oral Science International, 14: 33-36, 2017 2) 8020 推進財団, 入院患者に対するオーラルマネジメント, 2008 3) 後藤隼他,「在宅自立高齢者における口腔カンジダ菌の保菌状態に関する調査」, 北海道歯誌, 32: 210221, 2012. 30.

(31)

参照

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