背景 背景 背景 背景
行 動 依 存 知 覚 理 論 (The action-specific perception account; e.g., Witt, 2011) では,人は自分自身の行動能力 に基づき環境を知覚する,言い換えると,知覚は人の行 動能力により異なることを指摘してきた。これまで,行 動能力に関わる複数の要因は知覚を左右することが報告 されている。例えば,知覚は人のスキルに影響される。 壁を登ることを想像する場合には,パルクール (跳ぶや 登るなどの移動をメインとなる運動) の専門家は一般人 より壁の高さを低く知覚した (Taylor, Witt, & Sugovic,
2011)。人のエネルギーも知覚に影響を及ぼす。重いバッ
クパックを背負う人は,山の勾配をより急だと知覚した (Bhalla & Proffitt, 1999)。さらに,タスクの難易度も知覚 を変容させる。ゴルフのパットでは難しいホールはより 小さく知覚された (Witt, Linkenauger, Bakdash, & Proffitt, 2008)。
行動依存知覚理論に関するこれまでの先行研究では, 行動能力による大きさ知覚,距離知覚,速度知覚などの 変容が幅広く検討されている (e.g., Cañal-Bruland & van der Kamp, 2009; Sugovic & Witt, 2013; Witt & Sugovic,
2010)。しかし,ほとんどの研究は単一のターゲットの知
覚について調べていて,複数のターゲットが存在する状 況ではほとんど研究されていない。しかしながら,先行 研究では複数のルートを観察することは距離知覚を変容
させる可能性が指摘されている (Sugovic & Witt, 2013)。 本研究では,これらの可能性を踏まえ,比較のできるタ ーゲットへ行動を行う場合は,大きさ知覚の変容が起き るかどうかについて検討を行った。 実験 実験実験 実験1 実験1では,比較刺激がある場合のもとで行動を行う ことが,大きさの知覚判断に影響を及ぼすかについて検 討を行った。 方法 方法方法 方法 実験参加者 60名の大学生及び大学院生であった。 刺激と手続き 3条件のゴールが設定された。条件1で は単一の大きいゴールのみ,条件2では単一の小さいゴ ールのみ,条件3 (比較条件) では大小2つのゴールが 同時に存在する条件であった (Figure 1)。すべてのゴー ルは正方形で,大きいゴールは辺長が12 cm,小さいゴ ールは辺長が8 cmであった。各条件に20名 (女生:12 名;男生:8名) が参加した。参加者は直径約6.5 cmの ボールを転がしてゴールの中に入れるように教示された。 ボールを転がす練習をした後,参加者は水平距離3 m離 れたところから,ゴールをめざしてボールを10回転がし た。比較条件では,参加者は2つのゴールにボール各10 回 (計20回) 交互に転がした。また,参加者は隣に置か
Size perception arising from action towards comparable objects
Keywords: action-specific perception, size perception, rolling difficulty,
comparable objects, size contrast
行動システム専攻 羅 聞博
Figure 1. ゴールの3条件
れたノートパソコンに呈示された白い正方形の大きさを, マッチング法でゴールのサイズと一致させることも教示 された。参加者はボールを転がす度にノートパソコンで, ゴールのサイズを再生した。なお,実験前に,参加者に 自分の成功率を予測させた。 結果 結果 結果 結果ととと考察と考察考察考察 知覚的サイズにおいては (Figure 2a),ゴールのサイズ と呈示条件の被験者間2要因分散分析を行った結果,交 互作用が有意であった (F(1, 76) = 4.25, p < .05)。さらに, 単純主効果検定の結果,比較条件における小さいゴール は単一条件における小さいゴールより有意に小さく知覚 された (F(1, 76) = 4.66, p < .04)。一方,2つの大きいゴー ルの間には有意差が見られなかった (F(1, 76) = 0.57, p > .45)。 成功予測率に関しては (Figure 2b),ゴールのサイズと 呈示条件の被験者間2要因分散分析の結果,有意な交互 作用が見られた (F(1, 76) = 5.51, p < .03)。単純主効果検定 の結果,大きいゴールにおける成功予測率は小さいゴー ルにおける成功予測率より有意的に高かった (ps < .001)。 また,比較条件における小さいゴールの成功予測率は単 一条件における小さいゴールの成功予測率より有意的に 低かった (F(1, 76) = 5.62, p < .03)。ただし,2つの大きい ゴールの間には,成功予測率は有意な差が見られなかっ た (F(1, 76) = 0.90, p > .34)。 パフォーマンスにおいては,ゴールのサイズと呈示条 件の被験者間2要因分散分析の結果,ゴールのサイズの 主効果が有意であり (F(1, 76) = 29.50, p < .001),大きいゴ ールにおけるパフォーマンスは,小さいゴールにおける パフォーマンスより有意に高かった。しかしながら,呈 示条件の主効果が有意ではなかった (F(1, 76) = 0.19, p > .66)。なお,ゴールのサイズと呈示条件の交互作用も有 意ではなかった (F(1, 76) = 0.00, p = 1.00)。 先行研究では難易度の異なるタスクにおいては,成功 予測率とパフォーマンスが異なることが報告されている (Witt et al., 2008)。したがって,本研究では成功予測率と パフォーマンスは難易度の指標として扱うこととした。 これらの結果によると,小さいゴールは大きいゴールよ り有意に難しいことが示され,大きいゴールと小さいゴ ールの間の難易度の比較は十分に可能であると考えられ る。 さらに,比較条件における小さいゴールは単一条件に おける小さいゴールより小さく知覚された。前述したよ うにタスクの難易度は知覚に影響する。それゆえ,この ような知覚の歪みは難易度の違いに関わると考えられる。 つまり,参加者は難易度を比較し,比較条件における小 さいゴールをより難しく知覚した可能性が考えられる。 成功予測率の結果は2つの小さいゴールの間に知覚的難 易度の差が存在することを示唆した。 一方,2 つの小さいゴールの知覚的サイズは異なった が,パフォーマンスは異なる結果とはならなかった。小 さいゴールのサイズはボールよりやや大きい程度であっ (a) (b) Comparison condition Single condition
Large goals
Small goals
Large goals
Small goals
Figure 2. (a) ゴールの知覚的サイズ (b) 成功予測率 error bars: SEM *: p < .05 ***: p < .001
4 6 P e rc e iv e d s iz e ( c m ) P re d ic te d p e rf o rm a n c e (N o . o f p re d ic te d r o lli n g ) 0 2 4 6
***
***
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14 10 12 8***
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たため,小さいゴールへボールを入れることは難しすぎ たと考えられる。そのため,2つの小さいゴールの間に, パフォーマンスの差が出にくかった可能性がある。 実験 実験実験 実験2 比較条件において,大きさ対比が生じ,それがゴール の見かけの大きさに影響を及ぼした可能性に関して検討 を行った。 方法 方法 方法 方法 実験参加者 66名の大学生及び大学院生であった。 刺激と手続き ゴールの条件に関しては,実験1と同様 であった。各条件に22名 (女生:15名;男生:7名) が 参加した。参加者はボールを転がさずに,各条件におけ るゴールの見かけの大きさをマッチング法で再生するの みであった。 結果 結果 結果 結果ととと考察と考察考察考察 ゴールのサイズと呈示条件の被験者間2要因分散分析 の結果,呈示条件の主効果は有意ではなかった (F(1, 84) = 0.25, p > .61)。さらに,ゴールのサイズと呈示条件の交 互作用も有意ではなかった (F(1, 84) = 0.01, p > .93)。した がって,本実験では大きさ対比が知覚的サイズに影響す る可能性を排除できる。 実験2では,ボールを転がさない条件の下で,参加者 はゴールのサイズを再生した。この場合で参加者はボー ルを転がす意識を持たないため,比較条件におけるゴー ルの難易度の比較は生じず,ゴールのサイズが変容しな かったと考えられる。 実験 実験実験 実験3 実験3では,参加者は実際にはボールを転がさず,ボ ールを転がすことを意識しただけでも,大きさの知覚に 変容が生じるかについて検討を行った。 方法 方法方法 方法 実験参加者 69名の大学生及び大学院生であった。 刺激と手続き すべての刺激は実験1と同様であった。 各条件に23名 (女生:18名;男生:5名) が参加した。 ゴールの大きさに対する再生タスクを行ってもらってか ら,ボールを転がしてもらうという教示を参加者に与え た。最初は,実験者はボールを転がすデモを与えた。参 加者はボールを持ち,デモのように転がす姿勢を練習し た。その次,実験1と同じように参加者は自分の成功率 を予測した。予測後は,参加者はサイズの再生タスクを 執行した。実験の最後に,参加者はボールをゴールの中 に転がした。 結果 結果結果 結果とととと考察考察考察 考察 知覚的サイズにおいては (Figure 3a),ゴールのサイズ と呈示条件の被験者間2要因分散分析の結果,交互作用 が有意であった (F(1, 88) = 4.12, p < .05)。単純主効果検定 の結果,比較条件における小さいゴールの大きさは単一 条件における小さいゴールの大きさよりも有意に小さく (a) (b)
Figure 3. (a) ゴールの知覚的サイズ (b) 成功予測率 error bars: SEM *: p < .05 ***: p < .001
Comparison condition Single condition
Large goals
Small goals
Large goals
Small goals
4 14 10 12 8 6
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P e rc e iv e d s iz e ( c m ) P re d ic te d p e rf o rm a n c e (N o . o f p re d ic te d r o lli n g ) 0 2 4 6***
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知覚された (F(1, 88) = 5.78, p < .02)。一方,2つの条件に お け る 大 き い ゴ ー ル の 間 に は 有 意 差 が な か っ た (F(1, 88) = 0.22, p > .64)。 成功予測率においては (Figure 3b),ゴールのサイズと 呈示条件の被験者間2要因分散分析の結果,交互作用が 有意であった (F(1, 88) = 9.48, p < .003)。単純主効果検定 の結果,比較条件における小さいゴールの成功予測率は 単一条件における小さいゴールの成功予測率より有意に 低かった (F(1, 88) = 7.41, p < .008)。2つの条件における 大きいゴールの成功予測率の間には有意な差が見られな かった (F(1, 88) = 2.67, p > .10)。 パフォーマンスにおいては,ゴールのサイズと呈示条 件の被験者間2要因分散分析の結果,ゴールのサイズの 主効果が有意であり (F(1, 88) = 35.75, p < .001),大きいゴ ールにおけるパフォーマンスは,小さいゴールにおける パフォーマンスより有意に高かった。しかしながら,呈 示条件の主効果が有意ではなかった (F(1, 88) = 0.85, p > .36)。なお,ゴールのサイズと呈示条件の交互作用も有 意ではなかった (F(1, 88) = 0.05, p > .81)。 実験3では,実験1と一致した結果が得られた。特に, 成功予測率も2つの呈示条件における小さいゴールの知 覚的難易度は異なることを示された。実験1と3におけ る成功予測率の成果に基づき,知覚的難易度が変容した ことによりゴールの見かけの大きさが変わったと考えら れる。 一方,実験1と同様に,2つの呈示条件における大き いゴールの間にも知覚的な大きさに差が見られなかった。 これらの結果に関しては,参加者は小さいゴールに対し てより敏感であった可能性が考えられる。また,比較条 件の際に大きいゴールは参照の役割を果たし,大きさが 変わらなかった可能性が考えられる。 総合考察 総合考察 総合考察 総合考察 行動依存知覚理論の発展に伴い,行動能力による知覚 の変容は人の行動プランに有益な点をもたらすことが提 唱されている (e.g., Witt, 2011)。例えば,ハンターはター ゲットをより大きく知覚すると (e.g., Lee, Lee, Carello, &
Turvey, 2012),より遠くから狩ることができる。その結 果,獲物に気づかれるリスクが下がる (Witt, 2011) 。本 研究の場合,人が同じスコアを得るに当たって大きさの 異なるゴールがある状況に直面すれば,どちらのゴール を選び,ボールを転がすだろうか?ほとんどの人は大き いゴールを選ぶと考えられる。このような行動プランは, 失敗のリスクが高い小さいゴールを避けることに役立つ。 しかしながら,なぜ難易度の異なるタスクが知覚に影 響を与えるかはまだ解明されていない。先行研究では難 易度の異なるタスクを行うときの注意配分の仕方が異な る可能性が指摘されている (Witt & Sugovic, 2013)。もし この観点が正しいならば,比較条件における小さいゴー ルに向ける注意と単一条件における小さいゴールに向け る注意は異なるのかもしれない。これらの可能性につい てさらに実験的な検討が必要である。 主要 主要主要 主要引用文献引用文献引用文献引用文献
Bhalla, M., & Proffitt, D. R. (1999). Visual-motor recalibration in geographical slant perception. Journal of Experimental Psychology. Human Perception and Performance, 25, 1076-1096.
Lee, Y., Lee, S., Carello, C., & Turvey, M. T. (2012). An archer's perceived form scales the “hitableness” of archery targets. Journal of Experimental Psychology. Human Perception and Performance, 38, 1125-1131. Sugovic, M., & Witt, J. K. (2013). An older view on distance
perception: Older adults perceive walkable extents as farther. Experimental Brain Research, 226, 383-391. Witt, J. K. (2011). Action’s effect on perception. Current
Directions in Psychological Science, 20, 201-206. Witt, J. K., & Sugovic, M. (2013). Catching ease influences
perceived speed: Evidence for action-specific effects from action-based measures. Psychonomic Bulletin & Review, 20, 1364-1370.