幼児期記憶の想起と語りに関する研究 [ PDF
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(2) 質問紙 ・幼児期記憶について①内容、②当時の年齢、 ③当時の感情の評定、④現在の感情の評定、⑤感想. Table2 家族成員ごとのエピソード特徴 父. 家の外に出された 怒られた 怖かった 物を買ってもらった おんぶしてもらった 自分のために何かをしてくれた 離れてさびしかった、離れられなかった 怒られた 心配かけた、困らせた 幼稚園の送り迎え 一緒に遊んだ けがをした 兄(姉)の真似をした けんかをした 祖父母の家で遊んだ 一緒にお出かけした 自分のために何かをしてくれた. ③・④については堀井・槌谷(1995)を参考に「快感 情」「怒り・嫌悪感情」「驚き・恐怖感情」「悲しみ・ 落胆感情」について 5 段階で評定。. 母. ・Big Five 尺度(和田,1996) 「外向性」 「情緒不安定性」 「開放性」 「誠実性」 「調和性」の 5 因子、60 項目。. きょうだい. 結果と考察 1)内容について:回答のあった 118 エピソードを分析 の対象とした(Table1) 。 Table1 記憶内容の特徴による分類 幼稚園(保育園)にまつわるエピソード 35.6% 家(自宅)にまつわるエピソード 17.0% 友達 27.1% 家族(父、母、きょうだい、祖父母など) 44.9% 一人あるいは人が出てこない 22.0% 特別な出来事 59.3% 日常的な出来事 19.4% 結末 ポジティブ 39.0% ネガティブ 42.4% 不明 18.6% 幼稚園エピソードが家でのエピソードより多いが、登場 人物では家族 (祖父母含む) が友達よりも多く見られた。 その家族の描かれ方は家族成員によって異なっており、 父親は登場することが少なく、登場したとしても恐れや 罰を加える対象として描かれていた。母親に対しては申 し訳なさを感じていたり、母子分離のつらさが述べられ るのが特徴的であった。祖父母はいつも無条件に愛して くれ、きょうだいは大好きだけれどもライバルといった 描かれ方をしていた。また、怪我・病気のエピソードも 多いが、ほとんどは何も手当てをされないまま終わって いたり、その他にもネガティブな思い出が、とくにフォ. 祖父母. 感情よりも現在の感情において有意差の見られたものが 多かった。記憶の感情一致効果,現在の視点から再構成 される記憶などと言われてきた従来の知見と一致する結 果である。 “そのときどう思ったか”ではなく“今どんな 気持ちがするか” , 現在の感情に注目する必要があるとい うことを改めて示したと言えるであろう。 3)先行研究では抑うつや不安といった不適応と関係す るパーソナリティが多く扱われてきたが、本研究では情 緒不安定性よりも外向性、誠実性の高低がネガティブな 記憶及び感情の表出に影響していることを示した(外向 。また, 性 t(117)=2.666,p<.01;誠実性 t(117)=2.215,p<.05) 表出のみならず感情自体も弱まっており, このことから, 自分の感情を表現することに抵抗のない外向性,内なる 誠実さ,自分に対するまじめさを示す誠実性の高さが, ネガティブな記憶・感情の表出を促し,不快感情が弱め られ, 結果的に適応に役に立っているものと考えられる。 やはり,適応的な人ほど不快な記憶を報告するという斎 藤(2001)と同様の結果を得た。. ローされることなくそのままであったりと、エンディン. 12. グの描かれ方、人が全く出てこない記憶など、早期対象 11. 関係を連想させる要素がいくつか見られた。. 10. 2)全体として快適な感情は強まり、不快な感情は弱ま 9. る。記憶に対する感情付加別に検討した結果,たとえネ ガティブな記憶を思い出したとしても,現在では他の群 と同程度に弱まっており,思い出すことで不快になるこ とは少ないようである。ただし不快感情でも「怒り・嫌 悪感情」 「悲しみ・落胆感情」と「驚き・恐怖感情」とで は弱まり方が違うことが推測され、後者は現在でも持続 しやすいようであった(Fig.1) 。また全体的に,当時の. 驚 き ・ 恐 怖 感 情. 8. 7. 6 怒り・嫌悪. 驚き・恐怖. 悲しみ・落胆. 感情付加. Fig.1 驚き・恐怖感情の変化.
(3) 4)青年が記憶を想起し,それを記述する際にどのよう. <Ⅱ 直接表現群(4 例)>. な態度をとるか,どのような側面に意識を向けやすいの. 語りの特徴. かを⑤自由記述から KJ 法で分類し,知的理解が高い群. 分の感情を交えて説明する人が多く,出てこなくても説. (知的優位群) , 感情にまつわる表現をストレートに行う. 明を求めれば詳細に答えることができた。. 群(直接表現群) ,感情の言語化が困難な群(言語化困難. 感情体験. 群) ,記憶のなさを訴える,あるいは記憶の正確さを志向. 心」を繰り返すが,その間にも「困る」 「客観的に」 「意. する群(想起困難群)の 4 分類が見出された。. 味なんかあるのだろうか」と自分で距離を取りながら,. 想起内容を尋ねている段階から当時の自. 淡々と「嫌な思い出しかない」 「怖い,恐怖. 話せることと話せないこととを調節していた。繰り返さ *第2研究*. れるうちに怖い感情もその様子が少しずつ変化し, 「今. 目的 記憶内容ではなく、想起体験の様子、意味づけ方. はそこまでひきずっていない」 , 「以前ならこんなこと話. を、感情体験や自己との関連という視点から記述する。. せなかった」 「(この出来事を)忘れたいとは思っていな. また、第1研究で見られた 4 類型についてもその特徴を. い」など,新しい発見を得ている。そして最後には,抜. 明らかにしていく。. け出せていない自分と受け止められている自分の両方に. 方法 質問紙調査の回答者で面接協力の得られた女子大. 気づくことができた。他の被験者も同様に,同じような. 学生 13 名に半構造化面接を行った。臨床心理学専攻大. 内容を繰り返しながらも少しずつ変化していき,最終的. 学院生 3 名に予備面接を行い, 質問項目を選定 (Table3) 。. には葛藤や相反する感情を表現し,さらにはその葛藤を. 結果と考察. 意識して語ることができた人もいた。. 実施手順1の語りを分類対象とし,4 群に被験者をわ けたところ, 想起困難群に該当するものがなかったため,. <Ⅲ 言語化困難群(5 例)>. 3 群でそれ以降の語りに見られる感情変化を比較した。. 語りの特徴. 話す量自体が少なく簡潔に終わっている. タイプと,たくさん話はするものの感情面には触れにく <Ⅰ 知的優位群(4 例)>. いタイプとがある。前者は擬態語や笑いが多いが,その. 語りの特徴 知的で淡々としており,状況への言及など. 反面「親から聞いたんですけど・・・」「母が言うには・・・. はあっても自分の感情に対して感情語を使用する回数は. だった」 と人の言葉を借りて自分の言葉では説明しない。. 多くない。「考えてみると」「推測するに」「∼している. 後者は詳細な情景描写が特徴的である。 要求水準が高く,. ところを見ると・・・のようだ」といった“考えた”表現形. 「全部言葉にする」 「全部解明させたい」 と意欲的でもあ. に特徴がある。. った。両者とも話しているうちに別の思い出を思い出し. 感情体験. たり,他に気になることが出てきたり,連想が膨らみ話. テーマのような感情が存在している。話が進. んでも構えは基本的に変わらないが, 次第に 「うーん・・・」. が移っていくことが多かった。. 「そうですね・・・」という語が増え,当初は自分の理解に. 感情体験. ついて話していたものが,次第にその場で悩みながら話. 描写などはかなり鮮明だが,感情については不思議,印. すスタイルへ変わっていった。そのような行為を通して. 象的の一言にとどまっており,そのギャップの大きさも. か,防衛的な構えも少しずつ緩みだし,恥ずかしい,バ. 特徴である。言語表現そのものが困難というわけではな. カだという感情しかなかったところに,徐々にいとおし. く,感情を擬態語や情景の描写といった比喩的な効果を. いという感情が意識されるようになり,辛くないし何と. 持つ素材を用いて,間接的に象徴的に表現している群で. も思わないと言い切っていたものが,今考えるとつらい. あると思われた。しかし過度に抽象化,一般化されてい. はずの出来事だったと,少しずつ情緒的なものへと変化. る印象も否めず,そこから拡散し,何かに焦点づけられ. していったようであった。このような経過をたどりなが. ていくことは少なかった。. 簡潔で淡々と話しているところがある。情景. らも終了前には,また最初のテーマに戻ったり,別のネ ガティブな話題を持ち出してきたりする傾向も見られた。 感情を体験し,表現することができないのではなく,長. *総合考察* 自己との関連からの考察. く持ちこたえることができないという可能性が考えられ. 自己との関連について,①小さい頃の自分を言い当て. る。知的に理解しようとすることで安定を図っているス. ているエピソードである,②現在の自分との間に連続. タイルの存在が推測される。. 性・共通点がある,③これからの自分の課題であり,そ の指標となる,の 3 つが示され,回想が単なる過去志向.
(4) ではなく,未来,現在を方向付ける役割を持つこと(榎. データなので一般論としては議論できないという課題も. 本,2002)と一致する。群ごとで特筆すべき特徴は見ら. ある。また質的なデータのため評価のばらつきがあり,. れなかった。何らかの形で,いずれかの時点で,自分に. 解釈が分かれることとなった。今後は対象者を増やすと. 関係あるものとの認識はあるが, 実際はよくわからない,. ともに,基準をより確実なものとすること,評定法の工. 関係ないと捉えている人が多く,戸惑い実感を伴ってい. 夫,既存の尺度や投映法の併用などによって,個人の内. ないようすでもあった。自分の中から出てきたものであ. 的世界や対象関係のどのような側面を捉えることができ. るにもかかわらず「わけのわからないもの」という印象. るのか,その可能性について探索していく必要があると. のためか,本人が意図的に理解しようとしても困難であ. 思われる。. った。むしろ筆者のほうには連想がいろいろと浮かんで. また,ばらばらだったものにまとまりをつけること,. きたものだった。このように幼児期記憶は,そこから積. いくつもの出来事を一つのストーリーにして意味づける. 極的に意味を考えるというよりは,投映法的にその人の. ことが自我の成熟にとって重要(佐藤,1998)であると言. 対象関係や認知の特徴を理解するのに適した方法である. われており,ストーリー性やまとまりといった観点も有. と考えられる。. 用であろう。さらに面接調査において,調査者のほうが いろいろと連想を膨らませ,感情的に揺さぶられる体験. ネガティブな記憶と適応との関連 本研究では,斎藤(2001)と同様に,適応的な人ほど ネガティブな記憶を語れるという可能性を示した。青年. が多かったが,そのことについては本論では全く触れて いない。調査方法の精緻化とともに,これらのことを今 後の検討課題としたい。. の想起は必ずしも楽しいばかりではなく,辛くさびしか った経験,助けが得られなかった経験も多く報告され, 面接調査でもネガティブな思い出が多く語られた。その 理由として,実際に調査に協力するまでは思い出すこと. *引用文献* フロイト S.. 井村恒郎・小此木啓吾他(訳)1970 隠蔽. 記憶について フロイト著作集6, 18-35, 人文書院. もなかったほどの記憶であったこと,ネガティブな記. (Freud, S. 1899 Über Deckerinnerungen.). 憶・感情を直視できる健康さ,話すことができるほどに. 堀井俊章・槌谷笑子 1995 最早期記憶と対人信頼感と. 自分なりに解釈されおさまりがつけられていること(再 構成されていること) ,などが考えられる。また,周りに. の関係について 性格心理学研究 3(1), 27-36 2003. 村瀬嘉代子. <特別講演>こころの糧と子ども. 合わせて社会的に振舞う,子どもらしさのない,かわい. 時代―生きられた時間の体験― 児童青年精神医学と. くない子ども像が頻出し,そのことを恥ずかしい,嫌だ. その近接領域, 44(2), 102-112. と思いながらも報告されたが,その背景には受け入れ, 見守ってくれた環境の存在を感じさせられた。幼少期の 回想は両親との関係とともに想起されやすい(長田, 1994)ことも併せると,ネガティブなものを直視できる か,語ることができるかは,自我の健康さや再構成経験 の有無といった本人側の要因のみならず,それを支える 家族や幼稚園,友達など環境の力によるところも大きい と推察される。 本研究の意義と今後の展望 本研究では,内容分析を通して,幼児期記憶から対象 関係・幼少期のスタイルを投映法的に扱うことの可能性 を示した。また,記憶の内容分析が主流の現在の動向に おいて想起と語りの記述という視点を加えることで,感 情の動きが起こり記憶が再構成され,本人にとって意味 のあるものへと変化していく過程を垣間見ることができ たことは意義があると思われる。 しかし,面接調査実施が 13 例と少なく,女性だけの. 1994. 長田由紀子. 老人と回想. 教育と医学 42(11),. 1068-1073 斎藤俊一. 2001. 自伝的記憶の想起における個人差. 新潟大学教育人間科学部紀要 3(2), 267-276.
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