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Title BCG菌体成分搭載脂質ナノ粒子を基盤としたがん免疫療法の構築
Author(s) 増田, 秀幸
Citation 北海道大学. 博士(臨床薬学) 甲第13776号
Issue Date 2019-09-25
DOI 10.14943/doctoral.k13776
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/75827
Type theses (doctoral)
File Information Hideyuki̲MASUDA.pdf
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
博士学位論文
BCG
菌体成分搭載脂質ナノ粒子を 基盤としたがん免疫療法の構築増田秀幸
北海道大学大学院 生命科学院 臨床薬学専攻
薬剤分子設計学研究室
2019
年9
月1
【目次】
【略語表】 ... 2
【序論】 ... 5
【本論】 ... 15
【第1章】マウス膀胱がん同所移植モデルの構築とCWS-NPの抗腫瘍効果評価 ... 17
【緒言】 ... 19
【実験結果】 ... 21
【第1章まとめ】 ... 29
【第2章】CWS-NPの全身投与型がん免疫療法への応用 ... 31
【緒言】 ... 33
【考察】 ... 45
【第2章まとめ】 ... 49
【第3章】全身投与されたCWS-NPの脾臓内分布とCTL活性の関係性 ... 51
【緒言】 ... 53
【実験結果】 ... 55
【考察】 ... 61
【第3章まとめ】 ... 63
結語 ... 65
実験材料・実験方法 ... 69
【参考文献】 ... 85
2
【略語表】
ACTS-GC Adjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric Cancer ALP Alkaline Phosphatase
ALT Alanine Aminotransferase
BBN N-butyl-(-4-hydroxybutyl) nitrosamine
BCG The Mycobacteriumbovis Bacille Calmette–Guerin
BCG-CWS The Mycobacteriumbovis Bacille Calmette–Guerin cell wall skeleton BSA Bovine serum albumin
BUN Blood urea nitrogen CD Cluster of differentiation
CFSE 5-(and -6)-Carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester CHEMS Cholestelyl hemisuccinate
chol Cholesterol
CRE Creatinine
CTL Cytotoxic T lymphocyte
CTLA-4 Cytotoxic T lymphocyte antigen-4
Ctrl Control
DDW Double distilled water DMSO Dimethyl sulfoxide
DOTAP N-[1-(2,3-Dioleoyloxy)propyl]-N,N,N-trimethylammonium methylsulfate
DSPE-PEG 2k 1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N- [amino(polyethylene glycol)-2000] (ammonium salt) EDTA Ethylenediaminetetraacetic acid
ELISA Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay FACS Fluorescence activated cell sorter FBS Fetal bovine serum
FDA Food and Drug Administration
HEPES 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid
IFN Interferon
IL Interleukin
LAG-3 Lymphocyte-activation gene 3 LDH Lactate dehydrogenase
3
LEEL Lipid Evaporated via Emulsified Lipid MHC Major histocompatibility complex MMR Mismatch repair
NLR Nod like receptor
NP Nanoparticle
OVA Ovalbumin
PBS Phosphate buffered salts PD-1 Programmed cell death 1 PdI Polydispersity Index
PD-L1 Programmed cell Death ligand 1 PEG Polyethylene glycol
PLL Poly-L-lysin
Poly I:C Polyinosinic-polycytidylic acid sodium salt
POPC 1-Palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-Phosphocholine QOL Quality of life
RPMI Roswell Park Memorial Institute SD Standard deviation
STR-R8 Stearyl octaarginine
TGF-β Transforming growth factor-β
TIM-3 T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3 TLR Toll like receptor
TNF Tumor necrosis factor Treg Regulatory T cell
4
5
【序論】
6
7
【序論】
がん(悪性新生物)は1981年以降、日本人の死因の第1位を占める疾患として広く知ら れている。平成29 年度において、がんによる死亡者数は全死因の中で最も多い約37万人 であり[1]、死亡率は年々増加傾向にあることから、以前にも増してがんに対する効果的な 治療法の開発の重要性が高まっている。がんに対する治療法は3大療法とされる化学療法・
放射線療法・外科的療法がある。日々これらの治療法は進歩し、多くの患者の延命や治療に 成功しているが、それぞれの治療法には短所も存在する。化学療法や放射線療法では副作用 による生活の質(Quality of life:QOL)の低下が著しい上に耐性がんの出現も問題となっ ている。外科的療法は適応が早期のがんや限局した部位のがんに限定されており、転移した 症例では外科的治療の適応とならないことが多い。こうした欠点を克服できる新たながん 治療法の登場が切望されている。
これらの欠点を克服できる第 4 のがん治療法として現在注目されている治療法が、免疫 療法である。免疫療法は生体内に備わる免疫反応を活性化し、がんを排除する治療法である [2]。他の治療法とは治療メカニズムが異なること、生体内に元々備わる機能を活性化する ことから副作用が少ないという利点が挙げられる。
免疫反応は自然免疫と獲得免疫に分類される。自然免疫は好中球やマクロファージ、ナチ ュラルキラー細胞が関与する外来の異物(病原体など)を排除する抗原非特異的な反応であ る。一方、獲得免疫は樹状細胞が病原体などを貪食し、病原体の情報を抗原として提示する ことでT細胞やB細胞を活性化し、誘導される抗原特異的な免疫反応である。樹状細胞は 病原体などの異物を貪食した際、異物由来の抗原を MHC(major histocompatibility complex)分子によってCD8+T細胞やCD4+T細胞に提示し、活性化させる。この時、活性 化した樹状細胞上に発現するCD40やCD80/86など共刺激分子が必要であり、抗原のみで はCD8+T細胞やCD4+T細胞を活性化できない。この場合、Toll like receptor などの自然 免疫受容体に作用し免疫系を活性化させるアジュバントによって免疫原性を高めることが できる。
活性化したCD8+T細胞は細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)として病 原体に感染した細胞を排除する。一方で活性化した CD4+T 細胞はヘルパーT 細胞として CTLやB細胞を活性化する。活性化されたB細胞は形質細胞となり、抗原特異的な抗体を 分泌する。抗体は標的となる抗原を持つ標的細胞に対して結合し、抗体のFc部分の受容体 を介して好中球やマクロファージによる食作用を促進する(オプソニン化)。この他にも病 原体に対して抗体が結合し感染性を失活させる作用(中和作用)や補体系を活性化し標的細 胞を破壊する作用もある。
がん治療における免疫反応はがん細胞特有の抗原(ネオ抗原)特異的な細胞傷害性 T 細 胞によるものと考えられている[3]。がん細胞から放出されたネオ抗原を樹状細胞が認識、
8
リンパ節内で抗原提示することで細胞傷害性 T 細胞を活性化させる。その後細胞傷害性T 細胞が血管を介してがん組織へ浸潤し、がん細胞を排除する。そして、排除されたがん細胞 から再びがん抗原が放出され、樹状細胞が抗原提示するサイクル(がん免疫サイクル)によ ってがん免疫反応は機能すると考えられている[4](Figure 1)。現在、このサイクルを基に 新たな治療法の構築や新薬の開発が試みられている。
がん免疫療法の始まりは、1891年にニューヨークの外科医であったWilliam Coleyが発 見した治療法とされている。Coleyはがん患者に丹毒(溶連菌による皮膚の化膿性炎症)を 意図的に感染させることでがんが退縮したことを報告した[5]。この報告をきっかけにアジ ュバントや1975年にT細胞増殖因子として発見されたIL-2[6]などサイトカインを用いて 免疫系を活性化させる方法を用いた治療が試みられてきたが患者へ還元できるほどのエビ デンスが得られず、臨床のがん治療において免疫療法があまり注目されない状態が 1 世紀 近く続いた。
し か し な が ら 近 年 、 活 性 化 し た が ん 免 疫 反 応 を 抑 制 す る CTLA-4(cytotoxic T- lymphocyte-associated protein 4)やPD-1(Programed cell death 1)といった免疫チェッ クポイント分子が発見され、それらの分子を阻害する抗体の発売をきっかけに免疫療法は 大きく注目を集めるようになった。2011年に承認された抗CTLA-4抗体であるイピリムマ ブは、活性化したT細胞上に発現するCTLA-4と樹状細胞などの抗原提示細胞上のCD80/86
Figure 1 がん免疫サイクル。がん抗原の放出を起点に樹状細胞による抗原提示、T細胞の活性化を介して
がん細胞を死滅させ、再びがん抗原を放出させる[4]一部改変。
9
が結合することで発生する抑制性のシグナル伝達を阻害し、がん免疫反応の抑制機構を阻 害する[7, 8]。また2014年に承認された抗PD-1抗体であるニボルマブは主に活性化したT 細胞上に発現するPD-1分子とそのT細胞によって産生されるIFN-γに反応してがん細胞 が発現するPD-L1(Programed cell death ligand 1)の相互作用による抑制性のシグナル 伝達を阻害する[7, 9]。これら免疫チェックポイント阻害剤の発売は、これまでアジュバン トやサイトカインを用いて免疫系を活性化させる方法のみであった免疫療法に、免疫反応 を抑制する機構の解除という選択肢を与え、新たな可能性を切り拓いた。実際に、Science 誌のBreakthrough of the year 2013にがん免疫療法が選出され[10]、2017年にはFDAに て小児および若年成人の再発・難治性 B 細胞性急性リンパ芽球性白血病に対する CAR
(Chimeric antigen receptor)-T療法による治療薬としてチサゲンレクルユーセル(商品 名キムリア: ノバルティス)の承認、さらに2018年に免疫チェックポイント分子によるが ん免疫抑制機構を発見した京都大学 本庶佑教授及びテキサス州立大学 MD アンダーソン がんセンター ジェームズ・P・アリソン教授にノーベル賞が授与されたことからもがん免 疫療法への期待の高さがうかがえる。
しかしながら抗PD-1抗体ニボルマブの奏効率は主に悪性黒色腫に対して22.9%[11]、非 小細胞肺がんに対して25.7%[12]、悪性胸膜中皮腫に対して29.4%[13]であり、免疫チェッ クポイント阻害剤による有効性は一部の患者のみに限られている。この原因は抗PD-1抗体 などの免疫チェックポイント阻害剤の有効性は患者の腫瘍微小環境やがん細胞の性質に大 きく影響されるためである[14, 15]。先述したがん免疫サイクルはネオ抗原の放出が出発点 とされているが、がん細胞由来のネオ抗原の種類が少ない場合、がん免疫反応は効果的に機 能しないため予後不良になるとされている[16]。またネオ抗原が多く検出される症例でも肺 扁平上皮がんではがん細胞上においてMHC-Iによる抗原提示が機能していないため抗PD- 1抗体による生存率の延長が見られなかった[16]。またDNA複製の際に塩基の誤挿入を修 復するミスマッチ修復機構(Mismatch repair:MMR)[17]が陽性の症例ではネオ抗原の抗 原性が低下し、がん免疫応答が亢進せず抗 PD-1 抗体に抵抗性を示す[18]。この他に PD-
1/PD-L1 以外のがん免疫反応を抑制する機構が働いているため、治療抵抗性を示す場合も
ある。PD-1/PD-L1 以外にも T 細胞の活性を抑制する分子として T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3(TIM-3)やLymphocyte activation gene 3(LAG-3)が あり、これらの阻害剤の開発が試みられている[19]。活性化したT細胞を抑制する免疫細胞 も存在し、制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)や腫瘍随伴マクロファージ(Tumor associated macrophage:TAM)はその最たる例である[20]。これらの細胞は腫瘍内の血管 異常新生による低酸素環境において活性化するという報告もある[21]。また持続的な抗原刺 激により T 細胞が疲弊し活性が低下する[22]など活性化したがん免疫反応を抑制する PD-
1/PD-L1非依存性のメカニズムは数多く報告されている。
免疫チェックポイント阻害剤抵抗性の問題を解決するため、臨床・非臨床において様々な 併用療法が検証されている。ニボルマブとイピリムマブといった免疫チェックポイント阻
10
害剤同士の併用は臨床試験でも生存期間の延長など効果の増強が報告されている[23, 24]。
他に臨床で用いられている化学療法や放射線療法との併用は殺細胞効果によりがん抗原の 放出を促進することで免疫反応を活性化させると考えられている[24]。これらの併用療法は 免疫チェックポイント分子によって抑制されていた、本来進行するはずだったがん免疫反 応を復活させるものである。それに対しアジュバントなど免疫を活性化させる薬剤との併 用は免疫チェックポイント阻害剤によって抑制系を解除し、免疫を活性化させるアジュバ ントによって本来進行する免疫反応をより強化することが期待されている[25]。
現在臨床にて用いられているアジュバントのうち、膀胱がんに対してのみ30年近くゴー ルドスタンダードとして用いられてきた、免疫反応を活性化させてがんを治療する強力な アジュバント製剤がある。膀胱がんは尿路系腫瘍の中で最も多く、60 歳以上の男性に好発 することが知られており、米国では男性において高い罹患率を示している。膀胱がんはがん 細胞の膀胱内組織への浸潤度によって分類されており、膀胱の筋層まで浸潤したものは筋 層浸潤性膀胱がん、浸潤していないものは非筋層浸潤性膀胱がんに分類され、さらに非筋層 浸潤性膀胱がんは表在性膀胱がんと膀胱内上皮がんに分類される[26]。このうち、非筋層浸 潤性膀胱がんに対して弱毒化ウシ型結核菌(Bacille Calmette-Guerin:BCG)(以下BCG 生菌)の膀胱内注入療法が用いられている。この治療法は非筋層浸潤性膀胱がん患者の膀胱 内に直接BCG生菌を注入する方法であり、臨床では経尿道的切除術を行った後にがんの再 発予防目的で用いられることが多い[26]。奏効率は表在性膀胱がんに対して88.7%[27]、膀 胱内上皮がんに対して 90.7%[28]と非常に高い奏効率を示しており、膀胱がんに対する BCG生菌の膀胱内注入療法は最も成功した免疫療法である。
BCG生菌の膀胱内注入療法による膀胱がん治療のメカニズムはまだ完全には明らかにな っていないものの、膀胱内に注入されたBCG生菌が膀胱がん表面のフィブロネクチンを介 して膀胱がん細胞に感染することが最も重要であるとされている[29]。BCG 生菌に感染し た膀胱がん細胞は抗原提示及びサイトカイン放出を行う。このとき分泌されるサイトカイ ン類に反応して免疫細胞は膀胱内へ遊走し、ナチュラルキラー細胞やCD8+T細胞は膀胱が ん細胞を認識する。この時、BCG生菌は免疫を活性化するアジュバントとして機能して膀 胱内の免疫系を活性化し、膀胱がん細胞を排除すると考えられている[29](Figure. 2)。
11
BCG生菌による膀胱がん治療は最も成功した免疫療法として高い奏効率を示してきたが、
生菌を用いるため、排尿痛や頻尿、肉眼的血尿など膀胱内感染に起因する副作用が頻発して いる[30]。このような感染性副作用によるQOLの低下及び膀胱内注入療法の中断が臨床に て大きな問題となっており、またBCG生菌の高い抗腫瘍効果を膀胱内に限定する原因かつ 他のがんへの応用を妨げる最大の要因でもある。BCG生菌の膀胱内注入療法を受ける145 人の膀胱がん患者を対象にした調査では、全患者のうち106人(73.1%)に副作用が見られ、
このうち19人(13.1%)に重度の血尿・発熱・下部尿路症状が確認されたため治療中止と なった。治療中止となった患者群において、膀胱がん再発率が有意に増悪することが明らか になっていることから[30]、BCG 生菌に代わる新たな非感染性製剤の開発が強く望まれて いる。
そのような中、非感染性製剤の候補としてBCG生菌の細胞壁骨格成分であるBCG-Cell
Wall Skeleton(BCG-CWS)が注目されてきた。BCG-CWSはペプチドグリカン、ミコー
ル酸、アラビノガラクタンを主成分とし、BCG生菌の免疫活性化中心として知られており [31, 32]、Toll like receptor 2(TLR2)を活性化させることでがん免疫反応を誘導するとい う報告がある[33]。また非感染性であることから、BCG 生菌に代わる製剤として期待され ていた。しかしながら、BCG-CWS は巨大な分子であり難溶性かつ強い負電荷を有するた め製剤化は困難であった。
それに対して当研究室ではBCG-CWSを脂質ナノ粒子へと内封する新規パッケージング Figure 2 BCG生菌による膀胱がん治療メカニズム。膀胱内に注入されたBCG生菌はがん細胞表面のフ ィブロネクチンを介して感染し、抗原提示やサイトカイン産生により免疫細胞を膀胱内へ遊走させる。
BCG生菌はアジュバントとしても作用することで膀胱内免疫を活性化する。[29]一部改変
12
技術としてLiposomal Evaporated via Emulsified Lipid(LEEL)法を開発した[34]。LEEL 法は疎水性有機溶媒中で粒子径約100 nm程度のコンパクトな構造になるBCG-CWSの性 質を利用し、緩衝液中のリポソームと混合しエマルション化することでBCG-CWSを内封 したO/Wエマルションが形成される。このエマルション中の有機溶媒をエバポレーターに よって除去することでCWSナノ粒子(CWS-nano particle:CWS-NP)が調製される[34]
(Figure 3)。LEEL法によるBCG-CWSの水溶性ナノ粒子化に成功したことにより、非感 染性の膀胱がん治療薬としての可能性及び膀胱がん以外のがんに対するアジュバントとし ての可能性が拓かれた。CWS-NPはマウス膀胱がん皮下移植モデルにおいて、CWS-NPが 膀胱がん細胞に取り込まれる条件でのみ腫瘍組織内に好中球の浸潤が確認され、抗腫瘍効 果を示した[35]。この結果より、CWS-NP による抗腫瘍効果の発揮には膀胱がん細胞への 取り込みが重要であることが示唆された。またBCG生菌による膀胱がん治療が「膀胱がん 細胞への感染をきっかけとする免疫細胞の膀胱内への遊走」を起点としていると考えられ ているのに対し[29]、CWS-NP による膀胱がん皮下移植モデルでは「膀胱がん細胞に取り 込まれ、腫瘍組織内に好中球などの浸潤」が確認されたことから、CWS-NPは膀胱がん細 胞に対し、BCG生菌と類似した誘導開始メカニズムにより抗腫瘍効果を示すことが示唆さ れ、BCG生菌に代わる非感染性の膀胱がん治療薬としての可能性が見出された[35]。
Figure 3 Liposomal Evaporated via Emulsified Lipid(LEEL)法によるCWS-NP調製の概要BCG-CWS は疎水性有機溶媒中で100 nm程度のコンパクトな構造をとる。緩衝液中のリポソームと混合してO/Wエ マルションを調製し、エマルション中の有機溶媒を留去することでCWS-NPが調製される。[34]一部改変
13
一方で、膀胱がん治療薬としての実用化の可能性を評価するためには膀胱内のがん、すな わち同所移植モデルを用いた検討が必要である。そこで第 1 章では、マウス膀胱がん同所 移植モデルの構築とCWS-NP を膀胱内投与した際の抗腫瘍活性評価を行い、CWS-NP の 膀胱がん治療薬としての有用性を検証することを目的とした。
また、CWS-NP は非感染性の分散水溶液であるため、膀胱がん以外のがんへと応用可能 である。BCG生菌が持つ強力ながん免疫誘導能を他のがん種へと応用することができれば、
新しいがん免疫療法として非常に有望であると期待できる。第2 章および第3章では、膀 胱がん以外のがん種に対してCWS-NPの静脈内投与を介した全身投与型がんアジュバント としてのがん免疫誘導能の評価とその免疫活性化メカニズムを脾臓内分布とCTL活性の関 係性から解析することで、新しいがん免疫療法の有用性を評価した。
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【本論】
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【第 1 章】
マウス膀胱がん同所移植モデルの構築と
CWS-NP
の抗腫瘍効果評価18
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【緒言】
CWS-NP は序論で述べたようにマウス膀胱がん皮下移植モデルにおいて抗腫瘍効果を示
し、その誘導開始メカニズムはBCG生菌の膀胱内注入療法と類似したものであることが示 唆され、BCG生菌に代わる非感染性の薬剤としての可能性が見出された[35]。
しかしながらCWS-NPがBCG生菌に代わる膀胱がん治療薬として有用あることを示す ためには、膀胱内のがんに対してCWS-NPを膀胱内注入による抗腫瘍効果の評価を行う必 要がある。実際に皮下と膀胱内では腫瘍を取り巻く環境に違いがあり、特に膀胱内では尿に よる薬剤の希釈・排出が膀胱内投与された脂質ナノ粒子の動態に影響及ぼす可能性が考え られる。
過去に発がんプロモーターとして0.05%N-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)
を含む飲料水と 5%アスコルビン酸ナトリウムを含む食餌を用いた膀胱がん誘発ラットに て抗腫瘍効果を評価したが[34]、膀胱がん誘発ラット作製開始から実験終了まで18週間を 要し非常に効率が悪く、腫瘍の成長がサンプル間で安定しないこともあり、より簡便な方法 による抗腫瘍効果の評価が必要とされた。
本章ではBCG生菌に代わる膀胱がん治療薬としてCWS-NPの有用性を示すことを目的 とし、より簡便な方法であるマウス膀胱がん細胞MB49を膀胱内に移植する方法を用いて 膀胱がん同所移植モデルを作製し、CWS-NP 膀胱内投与を用いて膀胱内のがんに対する抗 腫瘍効果の評価を行った。
20
21
【実験結果】
1-1 CWS-NPの物性
初めに、本論文で用いたLEEL法の手順について示す。本論文のLEEL法は過去の報告 のもの[34]を基に一部改良したものを用いた。改良した LEEL 法の概要としてジイソプロ ピルエーテル中にPOPC(1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)、コレステロ ール(以下chol)、DOTAP(1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane)とBCG-CWS を 、 5 mM HEPES pH 7.4 中 に DSPE-PEG 2k ( 1,2-distearoyl-sn-glycero-3- phosphoethanolamine-N-[amino(polyethylene glycol)-2000])を溶解し、これらを1本の ガラスチューブに入れ、ソニケーションすることでO/Wエマルションを調製した。エマル ション中のエーテルをエバポレーターによって留去し、遠心分離によってBCG-CWSを封 入していない空のナノ粒子を除去することで CWS-NP(POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/5 mol ratio)を調製した(Figure 1-1 A)。CWS-NPの物性をTable 1-1に示 す。LEEL法により緩衝液中で凝集を示すBCG-CWSに高い水中分散性が付与された様子 が観察された(Figure1-1 B)。また粒度分布よりCWS-NPは均一性の高いナノ粒子である ことが確認された(Figure 1-1 C)。
Figure 1-1. 改良したLEEL法によるCWS-NPの調製(A)改良したLEEL法によるCWS-NP調製の 手順(B)5 mM HEPES pH 7.4中にBCG-CWS及びCWS-NPを分散させた様子(C)CWS-NPの粒度 分布
A
B C
22
粒子径(nm) PdI ζ電位(mV)
366±19 0.107±0.069 32.8±0.4
n=3 mean±SD
1-2 膀胱がん細胞MB49へのBCG生菌とCWS-NPの取り込み比較
膀胱がん同所移植モデルの作成に用いる膀胱がん細胞 MB49 に対する BCG 生菌及び
CWS-NPの取り込みの確認を目的とし、蛍光色素DiDで標識したBCG生菌及びCWS-NP
を用いたMB49への取り込み評価を行った。MB49を2.4×105 cells/well播種し、DiD標 識BCG生菌およびCWS-NPを添加し、5% CO2 37℃でインキュベートした。設定した時 間に細胞を20 units/mlヘパリン溶液で洗浄、トリプシン処理にて回収し、フローサイトメ ーターを用いて評価した。
その結果、BCG生菌は4時間経過時点で約16%のMB49に取り込まれ、12時間では約
68%、24時間では約85%のMB49に取り込まれた。最終的に全MB49のうち90%以上の
細胞に取り込まれるまで48時間必要であったのに対し、CWS-NPはわずか1.5時間で95%
以上のMB49に取り込まれた(Figure 1-2)。この結果より、CWS-NPはBCG生菌よりも 遥かに効率よく膀胱内のがん細胞に取り込まれることが示唆された。
Figure 1-2 膀胱がん細胞MB49へのBCG生菌とCWS-NP取り込み比較。MB49を6 well plateに播種 し、DiD標識BCG生菌及びCWS-NPを無血清培地にて100 µg/ml(BCG生菌製剤量として、BCG-CWS として)に希釈し、MB49に取り込ませた。BCG生菌は2時間経過後、培養用の血清入り培地を添加し た。BCG生菌 n=3 mean±SD CWS-NP n=2
Table 1-1 CWS-NPの物性
23
1-3 CWS-NPの膀胱内投与による膀胱がん同所移植マウスに対する抗腫瘍効果の評価
CWS-NP の膀胱内投与による膀胱がん同所移植マウスに対する抗腫瘍効果を評価するた
め、膀胱がん同所移植モデルを作製した。事前に0.01% Poly-L-lysin(PLL)を注入するこ とで膀胱内の粘膜を除去し、15分後膀胱内のPLLを回収してMB49を膀胱内へ移植する ことで作製した。2・4・6日目にCWS-NPを膀胱内投与し12日目に膀胱を回収、腫瘍体 積及び重量を測定した。今回は DOTAP を用いた組成(POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/5 mol ratio)と膜透過性ペプチドであるステアリル化オクタアルギニン
(Stearylated octaarginine: STR-R8)を用いたLEEL法改良前の組成(POPC/chol/STR- R8=70/30/2 mol ratio)も用意した。
結果はいずれのCWS-NP投与群においてもコントロール群と比較して腫瘍体積及び重量 の平均値に減少は見られず、膀胱内の腫瘍への抗腫瘍効果を示さなかった(Figure 1-3)。 この原因を明らかにするため、膀胱内注入したCWS-NPの膀胱内のがん細胞への取り込み の有無を確認する必要があると考えた。また今回の実験において各群の腫瘍の成長にばら つきが見られたことから、これを解消するため、この実験以降は膀胱内移植する際の細胞数 を増やした。
Figure 1-3 膀胱がん同所移植マウスに対するCWS-NPの膀胱内投与による抗腫瘍効果。(A)投与スケジ ュール(B)12日目に回収した膀胱がん組織の重量及び体積 MB49細胞を1.5×105 cells膀胱内に移植し た。移植後2・4・6日目に各CWS-NP(BCG-CWS 300 µg)を膀胱内投与した。12日目に膀胱を回収し、
腫瘍体積と重量を測定した。n=5-6, red bars:mean, one-way ANOVA followed by Turkey-Kramer test, N.S.:not significant, DOTAP CWS-NP:POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/5 mol ratio, R8 CWS-NP:POPC/chol/STR-R8=70/30/2 mol ratio
A
B
24
1-4 CWS-NPの膀胱がん同所移植モデルにおける膀胱内分布
膀胱がん同所移植モデルに対し、CWS-NP の膀胱内投与による抗腫瘍効果を示さなかっ た理由を明らかにするため、膀胱内のがん組織の CWS-NP(DOTAP を用いた組成)の取 り込みの有無を確認した。5.0×105 cellsのMB49を移植し8日経過した膀胱がん同所移植 モデルマウスに蛍光色素DiDを標識したCWS-NPを膀胱内投与し、24時間後に膀胱を回 収、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて膀胱がん組織中の CWS-NP の分布を観察した。
結果は腫瘍全体のうち、腫瘍の中心部(Figure 1-4 B橙枠)にのみCWS-NP(赤)の集 積が確認され、他の部位にはごく少量のCWS-NPが観察された。この結果より、CWS-NP の膀胱内投与により、膀胱がん同所移植モデルに対して抗腫瘍効果を示さなかった理由と して、CWS-NPの膀胱がん細胞への取り込みが不十分であったためと考えられた。
Figure 1-4 膀胱がん同所移植モデルにおけるCWS-NPの膀胱内分布。(A)実験スケジュール(B)膀胱 がん組織の顕微鏡画像 MB49 5.0×105 cellsを膀胱内移植し、8日目にDiD標識CWS-NPを膀胱内投与、
24時間後に膀胱を回収し共焦点レーザー走査型顕微鏡にて観察したRed:DiD標識CWS-NP, Green:血 管(アイソレクチン), Blue:核(Hoechst 33342)Bar:1000 µm
A
B
25
1-5 CWS-NP取り込み量と膀胱がん同所移植マウスに対する抗腫瘍効果の関係性
CWS-NP 膀胱内投与による膀胱がん同所移植マウスに対する抗腫瘍効果には膀胱がん細
胞への十分な取り込みが必要であることを確認するため、事前にin vitroにてMB49細胞
にCWS-NPを添加し、十分にCWS-NPを取り込ませた状態で膀胱内に移植し、抗腫瘍効
果を観察した。今回の実験ではSTR-R8を用いた組成にDSPE-PEG 2kを追加した組成R8 PEG CWS-NP(POPC/chol/STR-R8/DSPE-PEG 2k =70/30/2/5 mol ratio)を用いて抗腫瘍 効果を評価した(Figure 1-5 A)。
その結果、CWS-NP を事前に十分に取り込ませることで PBS 群と比較して平均腫瘍体 積は大きく減少し抗腫瘍効果を示した(Figure 1-5 B)。この結果より、CWS-NPは膀胱が ん同所移植モデルに対して、がん細胞に十分に取り込まれることで抗腫瘍効果を示すこと が示唆された。
また今回の実験において、有意差はついたもののPBS群にて腫瘍の成長にばらつきが見 られたことから、抗腫瘍効果を正しく評価できない可能性が懸念された。
Figure 1-5 事前のCWS-NP取り込みによる膀胱がん同所移植マウスに対する抗腫瘍効果。(A)実験ス ケジュール(B)MB49移植後10日目の腫瘍体積7.0×105 cellsを播種し24時間後にCWS-NPを取り 込ませた。1.5時間経過後にMB49を回収し膀胱内へ移植した。コントロールとしてCWS-NPのかわ りにPBS(-)を添加した。n=6, red bars:mean, *P<0.05 Student’s T test
A
B
26
1-6 BCG生菌(イムノブラダー)による膀胱がん同所移植モデルの評価
これまで用いてきた膀胱がん同所移植モデルにおいて、PBS群・CWS-NP処置群どちら にも腫瘍体積のばらつきが確認されており、膀胱がん同所移植モデルはCWS-NPの抗腫瘍 効果の評価に適切か評価する必要があると考えられた。ポジティブコントロールとして BCG生菌の市販品であるイムノブラダー(日本化薬)をMB49懸濁液と混合して移植し、
移植後の生存率にて評価した。その結果、80日目においてイムノブラダー投与群では3匹 が生存し、No treatment群では1匹のみ生存した。生存率について検定を行った結果、有 意差は見られなかった(Figure 1-6)。この結果より膀胱がん同所移植モデルは抗腫瘍効果 の判定に用いるには問題がある可能性がさらに高まった。
Figure 1-6 BCG生菌(イムノブラダー)による膀胱がん同所移植モデル評価 n=7 N.S. : not significant Kaplan-Meier Method
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【考察】
第 1 章ではマウス膀胱がん同所移植モデルに CWS-NP を膀胱内投与することで CWS- NPの膀胱がん治療薬としての有用性について検証を行った。
CWS-NPとBCG生菌のMB49への取り込み比較において、CWS-NPはBCG生菌より
も遥かに効率よく取り込まれた(Figure 1-2)。この効率の差はCWS-NPとBCG生菌の表 面電荷の違いが原因であると考えられる。CWS-NP は正電荷を有するため、細胞膜表面に 負電荷を有するMB49に吸着して取り込まれるのに対し、BCG生菌は自身も負電荷を有し
[36]、MB49と反発したため取り込み効率に差が出たと考えた。またCWS-NPが粒子径約
370 nmであるのに対し、結核菌のサイズは2-4×0.3-0.6 µm程度と非常に大きく、サイズ
の違いも取り込み効率に影響したと考えられる。
BCG生菌の市販品であるイムノブラダー膀注用の用法は「80 mgのBCGを含有してい る希釈液をカテーテルより膀胱内にできるだけゆっくりと注入し、原則として 2 時間膀胱 内に保持するようにつとめる。これを通常週1 回8週間繰り返す」とされており、長期間 の投与が必要とされている。これは BCG 生菌が膀胱がん細胞に感染する効率が悪いため、
膀胱内投与後2時間保持し、8週間も繰り返す必要あると考えられる。それに対してCWS- NPは非常に高効率でMB49に取り込まれたことから、臨床現場においてBCG生菌よりも 短時間及び少ない回数での投与による抗腫瘍効果が期待される。これによりCWS-NPは感 染性副作用の軽減や少ない投与頻度により、膀胱がん治療による患者への負担を減らし、
QOLの向上に大きく寄与できる。
しかしながら膀胱がん同所移植モデルにCWS-NPの膀胱内注入を行い、抗腫瘍効果を評 価した結果、抗腫瘍効果を示さなかった(Figure 1-3)。抗腫瘍効果を示さなかった理由と して、CWS-NP が膀胱がん細胞のごく一部にしか取り込まれていなかったためと考えられ た(Figure 1-4)。in vitroとin vivoの膀胱がん細胞への取り込みの結果に違いが生じた原 因として、膀臓内投与後の尿による希釈及び排出が原因であると考えられる。それ故、CWS- NP(POPC/chol/DOTAP/DSPE-PEG 2k=40/30/30/5 mol ratio)が膀胱内のがん細胞に尿 による希釈などの影響を受けず、より効率よく取り込まれるようにするためにDSPE-PEG 2kの修飾量の調節など脂質組成の見直しが必要である。
CWS-NP は膀胱がん細胞に十分に取り込まれることで抗腫瘍効果を発揮できることが示
唆された。この抗腫瘍効果は皮下移植モデルと同じく膀胱がん細胞に取り込まれることで 膀胱内に免疫細胞を遊走させるメカニズムが関与していると考えられた。
今回用いた膀胱がん同所移植モデルについて、腫瘍の成長がサンプル間で安定しない状 態が頻繁に確認された。本モデルは事前に0.01% Poly-L-lysin(PLL)を注入することで膀
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胱内の粘膜を除去し、15 分後膀胱内のPLLを回収してMB49を膀胱内へ移植する。この 際、PLLの回収が不十分であると膀胱内でMB49懸濁液が希釈され、生着に影響が出ると 予想される。さらにこの保持中に尿が溜まるとPLLが希釈され、粘膜の除去が不十分にな ることも予想される。またMB49を膀胱内へ移植する際90分間保持するが、この工程でも 保持中に膀胱内に尿が溜まり細胞懸濁液の希釈・漏出によって生着に影響が出ると考えら れる。膀胱内同所移植モデルの改善を行う上で最も障害となるのは膀胱内に溜まる尿の状 態や膀胱内の腫瘍の生着の程度を実験終了まで一切確認できないことである。そのため、皮 下移植モデルのように事前の条件設定(例:6日目までに腫瘍が確認されなかったサンプル は棄却する)による腫瘍が生着できなかったサンプルの棄却や初回の治療薬投与前に各群 の腫瘍体積の平均がほぼ同一になるように調整することは不可能である。以上より膀胱が ん同所移植モデルは腫瘍の生着に影響を与える工程(膀胱内PLL除去の不足、保持中の尿 による希釈、漏出)が多い上に、腫瘍の生着を外部から観察できないため異常な腫瘍体積の サンプルを事前に棄却する方法はない。これは手技の完全な習得や実験工程の工夫をもっ てしても解決できない最大の問題点である。また本実験系は外注にてBCG生菌の抗膀胱が ん効果の評価にも用いられたが、腫瘍の成長がサンプル間で安定しなかった。この結果を受 け、本評価系は尿の影響を受けやすく、腫瘍の生着の経過を一切観察できないという特性の ため、正しく抗腫瘍効果を判定できないと判断し、全身のがんへの応用を試みることとした。
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【第
1
章まとめ】第1章では膀胱がん同所移植モデルを用いてCWS-NPの抗腫瘍効果の評価を行った。
⚫ in vitroの実験系において、CWS-NPはBCG生菌と比較して効率よくマウス膀胱が
ん細胞MB49 に取り込まれた。しかしながら同所移植したマウスに CWS-NP を膀 胱内投与した結果、抗腫瘍効果は確認されなかった。この原因はCWS-NPの膀胱内 投与により、腫瘍のごく一部にのみCWS-NPが取り込まれていたためであると考え られた。
⚫ CWS-NPを事前に取り込ませたMB49を膀胱内に移植することで腫瘍の成長を抑制
できた。この結果より、CWS-NP が膀胱内のがんに対して抗腫瘍効果を示すために は、膀胱がん細胞に十分に取り込まれる必要がある可能性が示唆された。
⚫ 今回用いた膀胱がん同所移植モデルはサンプル間で腫瘍の成長が安定せず、ポジテ ィブコントロールであるBCG生菌を用いても抗腫瘍効果の評価ができなかった。ま たこの評価系は尿の影響を受けやすく、腫瘍の生着の経過を一切観察できないとい う特性のため、抗腫瘍効果を正しく判定できないと判断し、全身のがんへの応用を試 みることとした。
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【第 2 章】
CWS-NP の全身投与型
がん免疫療法への応用
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【緒言】
BCG生菌の膀胱内注入療法は表在性膀胱がんや膀胱内上皮がんに対して90%近い奏効率 を示してきた最も成功したがん免疫療法である[27, 28]。しかしながら、がんは他の部位に も発生し、様々な症状を引き起こすことから、BCG生菌の膀胱内注入による高い治療効果 を他のがんへ応用できれば非常に有効な治療法になることが予想される。他のがんへ応用 するためには膀胱以外への投与を行う必要があるが、BCG生菌を他の部位へ投与すること で菌血症、さらに細菌性髄膜炎、心内膜炎などの感染由来の深刻な副作用が懸念されること から、BCG生菌の他の部位への応用は不可能である。
BCG生菌の免疫活性化中心であるBCG-CWSは鉱物油とTween 80によってO/Wエマ ルション化され、皮下及び筋肉内投与によりがん患者の生存期間が延長したという報告が ある[37-40]。この報告より BCG 生菌だけではなく、BCG-CWS もがん免疫療法に有用で ある可能性は示されている。しかしながらBCG-CWSのエマルションは静脈内投与できず、
全身のがんへの応用は未だ不可能である。
それに対し、LEEL法によって調製されたCWS-NPは非感染性であり、緩衝液中にて安 定した分散性を有することから静脈内投与が可能である。これにより、これまで膀胱がんに 対して高い実績を挙げてきた BCG 生菌の免疫活性化中心である BCG-CWS を内封した
CWS-NP の全身投与により免疫系を活性化させることで、全身のがんを治療するという画
期的ながん免疫治療法を開拓できると考えた(Figure 2-1)。
第2章ではCWS-NPの全身投与型アジュバントとしての有用性の評価を目的とし、CWS-
NP静脈内投与による免疫活性化および抗腫瘍効果の評価を試みた。
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Figure 2-1 本章の研究概要。BCG 生菌の膀胱内注入療法は最も成功したがん免疫療法であるが感染性 副作用のため、膀胱に限られており静注は不可能である。免疫活性化中心であるBCG-CWSも凝集性及 び難溶性のため静注は不可能である。CWS-NPは非感染性であり、緩衝液中にて安定した分散性を有す ることから静脈内投与が可能である。これにより、これまで膀胱がんに対して高い実績を挙げてきた BCG生菌の免疫活性化中心であるBCG-CWSを内封したCWS-NPの全身投与により免疫系を活性化さ せることで、全身のがんを治療するという画期的ながん免疫治療法を開拓できると考えた。
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【実験結果】
2-1 CWS-NPの血中安定性評価
CWS-NPの全身投与型アジュバントとしての有用性を評価するため、最初にCWS-NP静
脈内投与後の血中安定性の評価を目的とし、血清中での凝集の有無を調べた。CWS-NP を 分散させた5 mM HEPES pH 7.4を用意し、マウスから採取した血清と体積比1:1で混
合し2時間37℃でインキュベートし波長660 nmにおける吸光度の変化を濁度として算出
した。凝集を示すポジティブコントロールとしてDSPE-PEG 2kを抜いた空のリポソーム
(Control NP)を用意した(Figure 2-2 A)。濁度変化量は血清中の濁度をHEPES中の濁 度で除算して計算した。その結果、Control NPでは血清中において約8倍の濁度変化を示 したのに対し、CWS-NPはマウス血清中でもほぼ濁度に変化を示さなかったことから、血 中での凝集を回避でき、安定である可能性が示唆された(Figure 2-2 B)。
Figure 2-2 CWS-NPのマウス血清中での濁度変化。(A)実験手順の概要(B)CWS-NPおよびControl NP の血清中、HEPES中の濁度比較。CWS-NPを分散させた5 mM HEPES pH 7.4とマウス血清を体積比 1:1で混合し2時間37℃インキュベートした。波長660 nmにおけるCWS-NP分散による吸光度の変化 を濁度とし、血清中の濁度÷HEPES 中の濁度=濁度変化として算出した。凝集を示すポジティブコント ロールとしてControl NP :POPC/chol/DOTAP=40/30/30 mol ratioを用いた。n=3 mean±SD **P<0.01 Student’s t test
A
B
36 2-2 CWS-NPの生体内分布
CWS-NPを静脈内投与した際、肺、肝臓、脾臓への分布の割合を調べるため、蛍光色素DiD
で標識したCWS-NPを尾静脈内投与し、1時間後に肺、肝臓、脾臓を回収しそれぞれへの 分布量を蛍光強度より算出した(Figure 2-3 A)。その結果、全投与量のうち、肝臓に約70%
分布し、脾臓に約 14%分布した。一方で肺には殆ど分布が確認されなかった(Figure 2-3 B)。リンパ組織である脾臓へと分布したことから、CWS-NPによる免疫活性化が期待され た。
Figure 2-3 CWS-NP尾静脈内投与による臓器分布。(A)実験の概要(B)各臓器あたりの移行量DiD標 識CWS-NPを尾静脈内投与1時間後に各臓器を回収しホモジナイズした。蛍光強度(λex = 641 nm λem
= 685 nm)を測定し臓器あたりの移行量を算出した。n=3 mean±SD A
B
37 2-3 CWS-NPの脾臓内分布
次に脾臓に分布したCWS-NP の脾臓内細胞への分布を調べるため、CWS-NP投与1時 間後の脾臓内に存在する細胞への分布の割合をフローサイトメトリーにて解析した。本実 験では MHC-II+細胞を抗原提示細胞、MHC-II+CD11c+細胞を樹状細胞とした。その結果、
CWS-NP は全脾臓細胞のうち約 3.3%に取り込まれ(Figure 2-4 A)、そのうち約 96%が
MHC-II+細胞であり、さらに樹状細胞CWS-NPを取り込んだ脾臓細胞のうち約9%であっ
た(Figure 2-4 B)。またMHC-II+細胞のうち、CWS-NPを取り込んだ割合は約6%であっ た(Figure 2-4 D)。それに対し、樹状細胞のうちCWS-NPを取り込んだ割合は約54%と 効率よい取り込みを示した(Figure 2-4 E)。
Figure 2-4 CWS-NPの脾臓内分布。 DiD標識CWS-NPをマウスに尾静脈内投与し1時間後に脾臓を回 収した。脾臓から細胞を取り出し抗体染色しフローサイトメーターで脾臓内の CWS-NP を取り込んだ細 胞の割合を解析した。(A)CWS-NPを取り込んだ脾臓細胞のヒストグラムプロット(B)CWS-NPを取り 込んだ細胞のうち、MHC-II+細胞と樹状細胞(CD11c+ MHC-II+)の割合 (C)脾臓細胞のDensity plot
(D)MHC-II+のうちCWS-NPを取り込んだ細胞の割合 (E)樹状細胞のうちCWS-NPを取り込んだ細 胞の割合n=3 mean±SD
A
B
C
D
E
38
2-4 CWS-NPによる脾臓内樹状細胞の活性化評価
CWS-NP を効率よく取り込んだ樹状細胞は強力な抗原提示細胞であり、自然免疫と獲得
免疫の橋渡しを行う[41]。樹状細胞が抗原提示する際、樹状細胞の表面にT細胞を活性化さ せるために活性化マーカーを発現することが知られている[42]。CWS-NP 投与による脾臓 内樹状細胞の活性化評価を目的とし、CWS-NP、CWS-NPと同組成の空リポソーム(Ctrl-
NP)及びVehicle(溶媒のみ)を静脈内投与し、24時間後に脾臓細胞を回収し、樹状細胞
表面の活性化マーカー(CD40、CD80、CD86、MHC-I)をフローサイトメーター用いて評
価した。Vehicleにおける蛍光強度の幾何平均値を1として各サンプルにおける変化量を算
出した。その結果、ヒストグラムプロットにおいてCWS-NP投与により各種マーカーのピ ーク(赤)が右側にシフトした(Figure 2-5 A)。それぞれのピークの蛍光強度の幾何平均 値を基に変化量を算出した結果、CWS-NP投与によりCD40とCD86において有意に発現 が亢進した。またCD80とMHC-Iにおいて有意差は確認されなかったがCWS-NP投与に よって増加傾向が観察された(Figure 2-5 B)。この結果より、CWS-NP投与によって脾臓 内樹状細胞を活性化できることが示唆された。
A B
Figure 2-5 CWS-NPによる樹状細胞活性化評価。(A)各活性化マーカーのヒストグラム(B)各活性化マ ーカーについて、Vehicleを基準とし蛍光強度の幾何平均値の変化量を示したグラフ。CWS-NPをマウス に尾静脈内投与し 24 時間後に脾臓を回収、樹状細胞に発現する活性化マーカーの変動をフローサイトメ ーターにより解析した。n=3 mean±SD *P<0.05 **P<0.01 ANOVA followed by Tukey-Kramer test N.S.:
not significant