日本 管 理 会 計 学 会 誌
管理会 計 学 1998年 第6巻 第2号
論 文
管
理会
計情 報
シ ス テ ム に お け る デー タ ウエ ア ハ ウス の適 用
可能 性
予 算管理 情 報 シ ス テ ム の 問 題 と可 能性
〈研 究 要 旨〉
佐藤 康男 * 森 淳 †
本 稿は会 計 情 報 シ ス テ ム の う ち, 管 理 会 計 情 報 シス テム の予 算 管 理 情 報シス テム にお ける会 計 情 報 シス テム 上の データベ ース モ デ ル の 問 題 点 に焦 点 を 絞 り
, デ ータ ウエ アハ ウス (Data
Warehouse )の 適用可能性につ い て論述 し てい る.近年の著 しい 情報システムの発達が 会計情 報システ ム に大き な影響を与 えてい る,情報技術の進 歩が特に データベ ース シス テ ム に対 して 決 定 的 に 影 響を 及 ぼす こ とで これ ま で 当 然 と さ れ て い た リ レーシ ョ ナ ル デ ータベ ース
(Relational Database ) を 核と した情 報シス テ ム に疑 問が投 げか け られて い る.会 計 学は財 務 会 計 と管 理 会 計の とい う二つ の分 野 に分 類 するこ と がで きる が , 会 計 情 報シ ス テ ム も また, 財 務 会 計 情 報シ ス テ ム と管 理 会 計 情 報シ ステ ムとい う二 つ の 分 野に分 類 するこ とが で きる.こ の
二つ の大き な違い は,財務会計情報シス テ ムで は財務データを扱 うが ,管理会計情報シス テム
で は財務データ に
加 えて非財務データを含め て扱わ なけれ ばな ら ない 点で ある.した が っ て 予 算管 理 情 報シス テ ムは財 務デ ータ だけで な く
, 非 財 務データ を取 り扱うことがで き な けれ ば評 価 価 値は相 対 的に大 き く低 下す る. 一般に会 計 情 報シ ス テ ム におい て データベ ース はす な わ ち
リレーシ ョ ナル デ ータベ ース が当 然 とさ れてい たが,リレーシ ョナ ル データベ ース に向く業務
は い わ ゆ る OLTP (Online Transaction Process)とし ての業 務で あ り,予算管理 の ような
OLAP (Online Analytical Process)に分類さ れ る業務に リ レーシ ョナル データベ ース を適用 する こ と に関して様々な技術 的 問 題が存在する. 管理会計情報シス テ ム の う ち 特に予 算 管 理 情 報シス テム が多元 的な情 報を必 要 と してお り,これに 適し た データベ ース を考 える と現 在の情 報シス テム にお けるデータベ ース モデ ル と しては データ ウエ ア ハ ウスが最 も適 した データベ ー
ス で ある.データマ イニ ン グツ ール (Data Mining Tool) が まだ十 分に成 熟 して はい ない が, 今 後は この デ ータ ウエ ア ハ ウス が 管 理 会 計 情 報 シス テ ムの 核となる であろ う.
〈 キーワー ド〉
データ ウエ アハ ウス,会計データモ デル ,会計情報シス テ ム,管理 会 計 情 報シス テ ム,OLAP ,
リレーシ ョ
ナル デ ータベ ース
, 予 算 管 理 情 報シ ス テ ム 1998年2月 受 付
1998年8月 受理
*佐 藤 康 男 :法 政大学 経営学 部 教授
+森 淳 :法 政 大学大学院博士課程 経 営 学 専 攻
管理会 計 学 第6巻 第2号
第 1節 会 計 情 報 シス テ ム を取 り巻 く環 境 と問 題
今日の 会計情 報シ ス テム に は大きな変化が起 きて い る. それ はMcCarthy の REA モ デ
ル1の ようなデータベ ース モ デル の 変 化で はな く, 驚異的 なス ピー ドで 進歩する情報技術 面 に お ける変 化で ある.
特 に情 報 を保 持 する た め に か か るコ ス トは近 年 目覚 ま し く低 下 して お り, 当然 制 約 され る と考 えら れ て い た条件が取 り払わ れ る ように なっ て い る. 例え ば, 新 規で 10 ギ ガ バ イ
ト2 ク ラス の 巨大なデー タベ ース を構築す る ケース で ハ ー ドデ ィ ス ク につ い てだ け考 えた 場 合, 10 年 前の 11100 以 下の コ ス トで 且つ 簡単に構 築で きて しま う3. 近 年の マ ル チ メ デ
ィア技術の 進歩によ りテ キス トデ ータ (文字 )だ けで な く画像や音声, さ らには動画 まで もが企 業データ に含ま れる ようにな り, ギガバ イ トク ラス を超 えて, テ ラバ イ ト4, 場 合
に よっ て はペ タバ イ ト5 とい う規 模の 企 業デ ータ を処 理 しな けれ ばな らない 状 況に ある. 無論, 巨 大 なデ ータベ ース に な れ ばそれ を管理 する データベ ース マ ネジメ ン ト シス テム
(Database Management System , DBMS >や オペ レーテ ィ ン グ ・シ ス テ ム (Operating System) もデータ量を見合っ たシス テム を使 用 しなけれ ば な ら ない ため データ管理の た
めの コ ス トは上昇するが, バ イ トあた りデータ管理 コ ス トは劇 的に且つ また確実 に削 減 さ
れ る.つ まり, 想 像できない ほ どの 規模の データ を 処 理 で き る状 況に あ り, ま た処理 せ ざ るを得ない 状況にな りつ つ あるの である. もちろ んハ ー ドデ ィ ス クの バ イ トあ た りの コ ス
トだけで な く, CPU (Central Processing Unit)の 高 速 化や さらに CPU まわ りの バ ス の 高速 化, ネッ トワ ーク帯域の 増 加, オペ レーテ ィン グ ・シス テ ム の 高度 化 などもすさま じ
い勢い で 進んで い る.
こ うし た状 況に おい て, 十 年一 日の ご と く会計情 報シ ス テ ム を論 じる こ とは で きない .
こ れ まで の 会 計 情 報 シ ス テム に お けるデ ータベ ース は
, 基 本 的に メイ ン フ レーム (大 型 汎 用 機)にお ける ISAM (lndexed Sequential Access Method )の ようなシ ーケ ン シャ ル
(順 次)フ ァ イルがベ ース であっ た .フ ァ イル 単 位の デー タベ ース か らリレーシ ョ ナ ルデ ータベ ース (Relational Database, RDB )がデータベ ース の代 表で ある とい う認 識に変 化し た の が やっ とこ こ 10年ばか りの こ と である.確か に リレーシ ョ ナル データベ ース は
に非常に優れ た面が多 く,定型的な業務の ため には依然とし てその 重要な地位を譲るこ と
は ない . し か し,定型的な業務の ため に は最適 なソ リュ ーシ ョ ンである リレーシ ョ ナル デ ータベ ース を,多元 的 な分析の ため に使用 し よ う と した と き非常に効率の 悪い もの と なっ
て しま う.これ はむし ろ リレーシ ョ ナル デー タベ ース の特 性 か らして 当 然 とい えよう.そ こ で リレーシ ョ ナル デ ータベ ース の抱える構造 的な問 題 を解決 する ため にデータ ウエ アハ
管理会 計 情報シ ス テム に おける データ ウエ アハ ウス の適 用可能 性
ウ ス (Data Warehouse, DWH )とい う概 念が提 唱 される ようになっ て きてい る.デ ータ ウエ アハ ウ ス と は, 正 規 化 され た リレー シ ョ ナル デ ータベ ース か ら抽 出 したデ ータ セ ッ ト を多次 元 的に重 複 し た データを保 持 する デ ータベ ース マ ネジ メ ン トシ ス テム で あ り, リレ ーシ ョ ナル データベ ース とデータ ウエ アハ ウス は対 立 的 な概 念では ない , とい う点が極め
て重要である.
本 稿は会計 情 報シ ス テム の うち, 管 理 会計 情 報シ ス テム の予 算 管 理 情 報シ ス テム にお け る会 計 情 報 シ ス テ ム上 の デ ータベ ース モ デ ル の 問題 点に焦 点を絞 り, デ ータ ウエ アハ ウ ス
の 適 用 可 能 性 につ い て 論 述 して い る.
会計学は財 務会計と管 理会計の 大きく二 つ の 分野に分類 する こ とがで きる が , 会計情報
シ ス テム もまた, 財務 会計情 報シス テム と管理会計情 報シス テム に分類 するこ とが で きる. 本論で想定し てい る財 務 会計 情報シ ス テム は全 社 的 な情 報シ ス テム の 中核とし ての 会計 情 報シ ス テム で あ り, 管 理 会 計 情 報シ ス テム は デ ータ ウエ アハ ウ ス シ ステ ム で ある. 目的
が異な るに もか か わ らず 同一の データベ ース
,具 体 的に は リレーシ ョ ナ ル デ ータベ ース を 使用 し てい るため 管 理 会 計の 目的に はあ ま り適 し て おらず使い に く く, 管理会計情 報シス
テ ム が必 要 とする ような機能を十分に満たすもので は な くなっ て い る.財 務デ ータベ ース
の 共有を行っ た た め に非 財 務デ ータ を不 自然 な形で 保 持 して , その結 果 目的に応 じたア ウ ト プ ッ ト を得る た め に相 当な苦 労を せ ざる を得 な くなっ て お り, 異なる目的の た めに は無 理 に同一の
シス テム を使用する 必 要はない もの と思われ る.
財務会計情 報 シ ステ ム は, 外 部の 利害 関係者 に対 する報告を 第一の 目的 とし て お り.制 度 的 な 制 約 を勘案する必 要 が ある とい う特徴 を持 っ て い る.管理 会計情 報 シ ス テム は, 企 業の 内部に対 する報告を目的と して い る点 が大 きく違い , また さ らに原価管理 目的と予算 管理 目的 などに分 けら れ る. よっ て 一般 的に財 務 会計情 報 シ ス テ ム は一様性 を, 管理 会計 情 報シ ス テム は多様 性 を目標 として い る.
これ まで研究の対 象 と しては財務 会計 情 報シス テ ムが選ば れるケース が多い が, 本 稿で はあ まり対象 とならない予算 管理 目 的の 管理会 計情 報シス テム である予算管 理 情報 シス テ ム を 取 り 上 げて い る.な ぜ な ら, 管理会 計情報シ ス テ ム の うち特に予算管理 目的の会計 情 報システ ム は 企業に お ける あ らゆ る情 報シス テ ム の 縮 図 とい える特徴を持ち, 多 くの 問 題 を抱えて い る と 思 わ れ る か らで あ る.企業の あ らゆ る 情 報 はお お む ね会計情報シ ステ ム に集 約さ れ る が,予算管
理情 報システム は財 務 データだ けで な く
, 非 財 務 データを
取 り込 まな け れ ば 評価価値は 相対的
に大 き く低下せ ざる を得ない . 多 くの予 算 管理 担 当者は非常に多 くの 財務 ・非財 務デ ータ を必 要としなが ら,常にその デ ータ の量に埋 もれてい るの が現状で ある .予算管 理情 報シス テ ムに 関する本稿の考察がこ うし た状 況を改 善 し,今 後の 本格 的な研 究の 嚆矢と なる こ と を望み たい .