入院時患者訪問による栄養指導の改善
小笠原加津子1),山田 朋枝1),相馬 愛子1),
池田 雄祐2)
北海道社会保険病院 栄養課1)外科2)
Key Words:
入院時患者訪問・栄養管理・入院栄養指導・NST
要 旨
栄養士による入院時患者訪問は、食事への理解を得ることと要望にそった食事の提供だけではなく、栄 養指導へと展開することができた。
栄養評価、栄養管理を充実し、患者様のQOL改善のためには他部門との連携が必要と考える。より多く の患者様に接して、将来のNST(Nu面on Supp砿Team:栄養サポートチーム)稼動を視野にいれて取り 組んでいきたい。
はじめに
栄養管理はすべての疾患治療の上で共通する基本 医療の一つであり、一般に栄養管理をおろそかにす ると、いかなる治療法も効力を十分に果たし得ない。
山中らは、糖尿病や肥満 、高脂血症など治療として 栄養療法が主となる疾患もあるが、一方で栄養状態 が悪いために褥瘡などの創傷が治りにくい、手術後 の回復が遅い、感染症などの合併症が発生しやすい、
といった問題が生じると報告している1)。
また、病気を単に健康との客観的な対立関係でと らえるのではなく、『病気と共にいきいきと生きる』
生き方も提唱されている。現在の健康状態を認めた うえで生活や人生の満足感、快適さ、充実感、さら に人問としての自己実現の達成度合い等、生き方や 主観的要因も考慮された概念としてとらえた時、 栄 養管理 も『おいしい食事づくりやその方法やコツ
を患者様や家族に教えること』から、『栄養状態を改 善しQOL(生活の質)を向上させること』にあると 中村は述べている2)。
当院においても、栄養状態を把握するとともに『病 院食への理解を深めていただく』、「病状などにあわ せた食事の提供』を目的とした一つの試みとして平 成15年8月より入院時(食事開始時)の患者様への 訪問を始めた。患者様の要望により近い食事が提供
でき、いち早く摂取状況不良の患者様へ栄養介入で きただけではなく、入院時栄養指導へと展開するこ とができたので報告する。
対象と方法
平成15年9月から平成16年10,月まで(以下この期 間)の入院患者様7547名を対象とする。
患者様を把握するために、前日の入院一覧表から 入院患者名簿を作成、給食システム、オーダリング の画面や入院カルテから食事内容、病名、検査デー タ、服薬状況等を確認している。ベッドサイドでは 食事の説明、患者様の要望等の食事相談や指導を行
っており、また食事時に訪問し実際の摂取状況を確 認、食:形態の変更や果物、栄養剤等の付加で栄養状 態の改善を図っている。
結 果
①入院時訪問の人数と割合
この期間に訪問できた患者様は4,336名で全入 院患者様の57.5%にあたる。月毎の変化を図1に 示す。今年5月からは食止めからの食事開始、転 棟転科等による見落しを防ぐためにチェック方法 を変更し、より多くの患者様に訪問することがで きるようになった(平成15年42.8% 平成!6年
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北海道社会保険病院 第3巻 2004
70.1%)。
500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0
人 %
チェンク方法の変更 ロ訪問数(非加算)
■入院時訪問指導数(加算)
一〇一訪問(%)
壱{
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.
≠P
{「 歩
9月 10月11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 一月 10月 平成15年 平成16年
図1 入院時訪問の人数と割合
(平成15年9月〜平成16年10月)
90 80 70 60 50 40 30 20 10 0
②入院指導数の変化と内訳
平成15年4,月からの入院指導課の変化を図2に 示す。入院時患者訪問を始めてからは加算指導が 平均50件、食事相談や3回以上の加算できない指 導を含めると平均82件の増加となり、入院指導件 数の月平均は平成15年度88件、16年は!0月までで 138件となっている。
③入院時訪問で栄養指導をした割合
この期間に入院時訪問で栄養指導をした割合は 訪問患者様4,336名のうち708名16.3%であった (図3)。また、特別食の指示が入院患者様の約1 /4にあり、そのうちの平成15年は35.2%、16年は 39.6%に入院時栄養指導を行えた(図4)。
圃訪問したが揖導までいたらなかった 加算指導 訪問時不在など
60=B% 32鉱
H15年9月一H16年3月 (7ケ月間)
;襲特別食の播示があるのは入院患看の約1/4である
57誌、%
31ζ,.、%
H16年4月〜10月 (7ケ月間)
図4 特食患者さまに入院時訪問指導をした割合 (平成15年9月〜平成16年10月)
件200
180 160 140 120 ioO
80 60 40 20
0
ロ入暁聯弾数(非加算}
箞ヒ頼箋による入院揃導数(加算)
。入院時紡綿指導数⊂加算,
…一一一∴黷P
1
4月 5月 6凡 7月 8月 9月 10月ロ月 壌月 ,月 Z月 コ月 4月 5月 昌月 7月 8月 9月 蜜D月 平成15年 平成16年
図2 入院指導数の変化とその内訳
(平成15年4月〜平成16年10年)
圃 加算指導
④入院時訪問で食事変更をした割合と内容 入院時の訪問では食種や主食変更などの患者様 の要望にも対応している。9、10月の実績では訪問 数882名のうち13.5%119名に何らかの変更をして いる(図5)。
763
3628
83.7%
人
119
人
主食内容
主食量
23 39
1542
食種
70禦1讐、裏、
vζ
図5 入院訪問時食事変更の割合と内容
(平成16年9・10月)
その他
※入院患者総数7547名のうち4336名に訪問
図3 入院時訪問で栄養指導(加算)をした割合 (平成15年9月〜平成16年10月))
症例紹介
○症例1
食事開始時の訪問にて患者様の食事への不安を受 け止め介入できた症例である(図6)。
46歳、男性。7月22日に急性胃腸炎で食止入院。6 日後の28日昼より5分粥食開始、各1日Upの指示 が出されていた。29日食事開始を受けて栄養士が訪 問。食後の胃のもたれ、痛み、下痢症状から食事に 対する不安を訴えられた。訪問のたびに主食、副食
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入院時患者訪問による栄養指導の改善
食事開始時の訪問で患者様の不安を受け止め介入できた症例
@ 初回訪問 訪悶2回目 訪問3回目 訪問4回目 訪悶5回目
予定 停止 5分粥 7分粥 全粥 一般階食
鶏 阯 ・分粥・分粥 舖 鍛 一蹴
7/22 7/28 7/29 7/30
?院 8/2 8/3 8 4 8/5
@ 退院
主食・副食工2へ
副食全畳へ ゥバン昼メンタ粥 酷羽?止ジュースへ変更
主食全量へ タから 朝から 酷絈J始 軟菜常食へ 一般常食へ
図6 症例146歳 男性 病名 急性胃腸炎
の量、乳製品の提供方法など患者様の希望に沿った 食事に変更、摂取量を確認した。食事摂取できた喜 びと自信から順調に回復、食事開始から7日目には 常食にまで進み、8月5日に退院された。
○症例2
手術後の食事摂取に問題があり、介入した症例で ある(図7)。
手術後食事摂取が困難になった症例
@ 創部からの出血.嚥下時の
@ 痛みなどから訪問の依頼
@ 訪悶3回目初回訪問 訪問2回目 訪問5回目 4回目
一般 OP OP後C食予定 常食 停止 5分目より開始全粥へ〔各1日Up)
実際 一般 OP OP後餓 5分粥 紬 P伽食7分粥全粥 常食 停止 (3分より)
8/3 8/5 8/ 8/10 8/12 8ンイ13 8/15 8/16 8/17
?院 退院 主食のみ7分粥 主食のみ5分粥へ ラかい刻みへ
@ 果物扁摘対応へ 冷奴付(昼)
図7 症例265歳 女性 病名 慢性扁桃炎
65歳女性。扁桃腺摘出手術目的で8月3日入院。
食事は一般常食であり、入院時訪問では問題がなか った。8月5日手術、夕食より術後食開始。8月10日 創部から出血、嚥下時の痛み等から食事摂取への不 安が強く病棟からの依頼により栄養士の訪問となっ た。副食を軟らかい5分粥食に変更し経過をみるこ ととした。しかし、次の訪問時(12日朝食)にはほ とんど摂取できておらず、副食を更に軟らかい流動 食へ変更。昼食時の訪問では8割方摂取できており、
患者様の意向もふまえ食事形態を継続。その後は創 部の回復にともない食事も全粥になり、8月17日退 院となった。
考 察
入院時に訪問することは患者様の摂取状況を知る 方法の一つとして有効だったと思われる。
アメリカにおいて入院患者様の栄養不良(PEN:
Protein Energy Malnutrition)が合併症の頻度、死亡 率を押し上げている要因の一つとされ、この状態を 打破するために1970年シカゴで栄養管理チームが誕 生した。日本においても、小山らは入院患者様の約 40%が栄養不良だと報告している3)。
適切な栄養管理は患者予後を改善する可能性があ り、治癒促進、早期退院は病院の経営面からも効果 が期待できると考えられる。
患者様の栄養状態にあわせたより良い方法で管理 するためには、医師、看護師、薬剤師、検査技師等 との連携が必要であり、より多くの患者様に接して、
将来のNST(Nutrition Support Team:栄養サポート チーム)稼動を視野にいれて取り組んでいきたい。
結 語
入院時に栄養士が直接患者様と面接することで病 状や希望により近い食事を提供することができた。
同時に、栄養や食事についてのインフォームド・コ ンセントが得られ、栄養指導数の増加にもつながつ たと考える。
本論文の要旨は第42回日本社会保険医学会(平成 16年11月!2日)に発表したものである。
参考文献
1)山中英治、東口高志、杉山昌晃ほか:こうして 作る、動かすNST.第1版、日総研、愛知、
2004、 6−24
2)中村丁次ニビジュアル臨床栄養実践マニュアル 第1巻.第1版、小学館、東京、2003、 10−
15
3)東口高志:NSTプロジェクト・ガイドライン.
第1版、医歯薬出版、東京、2QO!、6−17
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