標本資料検索コードとしてのHRAFコードの利用につ いて
著者 松澤 員子
雑誌名 国立民族学博物館研究報告別冊
巻 017
ページ 67‑80
発行年 1992‑12‑25
URL http://doi.org/10.15021/00003556
松 澤 標 本 資 料検 索 コ ー ドと して のHRAFコ ー ドの 利 用 に つ い て
標 本 資 料 検 索 コ ー ドと して のHRAFコ ー ドの利 用 に つ い て
松 澤 員 子*
要 旨
国 立 民 族 学 博 物 館 ではHRAFの 分 類 コー ドを い ろ い ろな 種 類 の 情 報 資 料分 類 に 用 い て きた 。 こ こで は,日 本 の民 具 分 類 に 用 い られ て きた 一 般 的 な分 類 体 系 と比 較 しな が ら,HRAF分 類 の開 発 の プ ロセ ス とそ の特 性 に つ い て 述べ,そ れ を標 本資 料 に適 用 した 場 合 の 有効 性 と今 後 の課 題 を ユ ー ザ ーの 立 場 か ら検討 した。
世 界 の諸 民 族 文 化 を 対 象 に,標 本 資料 だ け で な く,文 献,映 像,音 響 資料 な ど,あ らゆ る情 報 を有 機 的 に 関 連 づ け て 検 索 可能 にす る分 類 体 系 を開 発 す るた め に は,文 献 情報 を対 象 に考 案 され たHRAF体 系 を 越 え なけ れ ば な らな い が,そ れ を適 用 しな が ら補 足 ・修正 す る こ とに よっ て可 能 にな る と考 え られ る。 なぜ な ら,ど の よ うな 分 類 体 系 も,理 論 が先 行 す る の で な く,よ り有 効 な,よ り便利 な 資料 の利 用 とい う経 験 の 蓄 積 に よっ て,絶 え ず 改 良 され て い くべ き もの で あ る か ら で あ る。
1 は 『じ め に
こ の 共 同 研 究 に お い て,私 に 与 え ら れ た 課 題 は,ユ ー ザ ー と し て 研 究 に 必 要 な 標 本 資 料 を 迅 速,か つ 的 確 に 検 索 で き る よ うな コ ー ド体 系 に つ い て 検 討 す る こ と で あ っ た 。 し か し,こ の 課 題 に つ い て は,す で に 国 立 民 族 学 博 物 館(民 博)創 設 準 備 室 が 設 置 さ れ た 時 か ら,梅棹 館 長 の 「民 族 学 情 報センター 構 想 」 の も と で,さ ま ざ ま な 機 会 に 検 討 さ れ,私 もHRAFフ ァイ ル の 専 門 委 員 と し て 提 言 を 行 っ て き た 。 そ し て,梅 樟 館 長 が 「研 究 対 象 が 全 世 界 に お よ ぶ 民 族 学 の 体 系 的 な コ ー ド と し て は,HRAFが 開 発 し たr文 化 項 目分 類 』(Outline of Cultural Materials)とr地 域 ・民 族 分 類 』(Out‑
line of World Cultures)が,た い へ ん 有 効 な も の で あ る と い う結 論 を え た 」 と記 さ れ て い る よ う に1),民 博 で のHRAFの2つ の コ ー ド体 系 の 利 用 は,お お む ね 決 定 し て お り,r地 域 ・民 族 分 類 』 は す で に 図 書 資 料 や 標 本 資 料 に 付 与 され て い る 。 ま た,民 博 で は,こ れ ら2つ の コ ー ド体 系 の 利 用 を 容 易 に す る た め に,『 文 化 項 目分 類 』 とr地
*国 立 民 族 学 博物 館 第1研 究 部
1)梅棹 忠 夫 「『文 化 項 目分 類 』 日本語 版 刊 行 に あ た って 」 国 立 民族 学 博 物 館(訳)『 文 化 項 目分 類 』1988。
国立民族学博物館研究報告別冊 17号 域 ・民 族 分 類 』 と して そ れ ぞ れ 翻 訳 を 出版 した。(但 し,後 者 は 「館 内 作 業 用 」 と し て翻 訳 ・印刷 され た が,公 開 は され て いな い 。)こ の報 告 で は,こ れ ら翻 訳 版 を 引用 して い るが,そ れ ぞ れ の コー ドを い う時 に は,「OCMコ ー ド」,ま た 「OWCコ ー ド」
とい う呼称 が定 着 して い る の で,こ れ を採 用 してい る。
今 後,こ れ らの 分 類 を 実 際 に運 用 して い く上 で,補 足 ・修 正 の必 要 や,ま た コ ー ド 体 系 そ の もの の改 定 の 必要 も生 じるか も しれ な い。 そ うい う意味 で,こ こで取 りあ げ
る課 題 は,新 た な 取 り組 み で は な く,む しろ,標 本 資 料 の検 索 コー ドと して 『文 化 項 目分 類 』 を用 いた 時 の利 点 と欠 点 を実 験 的 に デ ー タ入 力 す る こ とに よ って検 討 す る こ とを 目的 と して いた の で あ る。 残 念 なが ら,時 間 的 制 約 か らサ ソプ ル と して取 りあ げ られ た 標 本 資料 が,地 域 的 に も,種 類 に も限定 せ ざ るを え な か った の で,今 まだ,そ の結 論 を 出せ る よ うな段 階 で は な い。 ここで は,私 がHRAFコ ー ド利 用 の利 点 と考 え て きた 根拠 と,実 際 運 用 に あ た っ ての い くつか の問 題 点 を 纏 め て お こ うと思 う。
2 従来 の民具 の分類
日本 で も収 集 され た標 本 資料(日 本 では 一 般 に 民 具 とい う言 葉 が 用 い られ る2))の 保 存 とそ の整 理,ま た そ の 活 用 の ため に い くつか の分 類 が 試 み られ,ま た 実 際 利 用 さ れ て きた 。標 本資 料 の 分 類 に は大 別 して4つ の基 準 が あ る。(1)用 途,(2)機 能,(3) 形 態,(4)材 質 な どであ る。 文 化 庁 で編 纂 され たr民 俗 文 化 財 の手 び き』 に あ る分類
(表1),ア チ ッ ク ・ミ ュー ゼ ア ム の 『民 具 蒐 集 調 査 要 目』 に あ る分 類(表2)は,用 途 を主 軸 に分 類 した もの で あ り,こ れ に対 し宮 本 常 一 は 機 能 分 類 を 提 唱 して い る 【宮
本 1969:2】。形 態 や 材質 は,用 途 や機 能 に密 接 に 関連 して い るた め,細 分 類 に 用 い られ て きた が,そ れ らが 分 類 の基 準 に置 か れ る こ とは 稀 であ った よ うであ る。 また, 一 般 に 使 用 され て い る標 本 資 料 の情 報 カ ー ドに は,そ れ ぞ れ の 資料 につ い て標 本 名 以
外 の複 数 の情 報 項 目が つ い て い る のが 普 通 で,「 製 作 法 ・材料 」 は最 も一 般 的 な もの で あ る。 さ らに,最 近 はコンピューター を 用 いた 計 量 デ ー タや写 真 情 報 も利 用 で き る よ うに な って きたた め,形 態 に つ い て も,よ り正 確 な情 報 を別 の項 目に付 加す る こ と が可 能 であ るか ら,標 本 そ の もの の分 類 に形 態 や 材 質 に よ る細 分 を付 加 す る必 要 は な い よ うに 思 う。
まず,私 の知 るか ぎ り日本 で最 も詳 細 な 分類 は,文 化 庁 の 『民俗 文 化 財 の手 び き』
2)民 博 で収 集 され て き た 「標 本 資 料 」 は,日 本 民俗 学 で 一 般 に 用 い られ て い る 「民 具 」 とい う概 念 とは 正確 には 同 一 で な い か も しれ ない が,こ こ では 一 応 同 じ と して取 り扱 って お く。
松 澤 標 本 資 料 検 索 コー ドと してのHRAFコ ー ドの 利 用 に つ い て
(以下 『手 び き』 とす る)に 掲 載 され て い る分 類 で あ る と思 う。OCM分 類 に っ い て 検 討す る前 に,こ れ まで一 般 に用 い られ て きた この民 具 分 類 と アチ ッ ク ・ミュ ーゼ ア ムの 民具 蒐 集 調 査要 目にみ え る分 類 の 大 要 を 以 下 に挙 げ てお こ う。
『手 び き』 は,文 化 財 を無 形 と有 形 とに 分 け,左 頁 に は 無形 文 化 財,右 頁 に は 有形 文 化 財 を,そ れ ぞれ 分類 項 目が対 応 す る よ うに して表 に示 して い る。 無 形 ・有 形文 化 財 の 定 義 に つ い て は,「 文 化 財 保 護 法 」 を 基 準 に して い る よ うで あ るが 【手 び き:11‑
12】,無 形 に は風 俗 慣 習,民 俗 芸 能 が 含 まれ る。 従 って,例 え ば 「5社 会 生活 」 の 項 を 取 りあ げ てみ る と,村 落 共 同体 や 家 族 ・親 族 関 係 に関 わ る習 俗 は数 多 く,そ れ に 関 わ る有 形文 化 財 には 限 りが あ るか ら,大 項 目では 左右 対 応 させ る こ とが で きて も,小 項 目で は対 応 させ られ な い 。 そ れ は 「8‑1民 俗 芸 能 」 の項 に お いて も同 じであ る。 さ らに,無 形 文 化 財 と して重 要 な 口頭 伝 承 に つ い て は,rl1口 頭 伝 承 」 とい う分 類 項 目 を加 え て い る。 そ の他 の分類 項 目で は,有 形 の モ ノに対 して,そ れ に 関 わ る習 俗 や 製 作 法,使 用 法,儀 礼 な どが 無形 文 化 財 と して分 類 され て い る。 本 稿 で は標 本 資 料 を 取 りあ げ て い るの で,と りあ え ず無 形 文 化 財 を 省 略 した。 しか し,標 本 資料 を民 族 学 資 料 全 体 の 中 で位 置 づ け る時,無 形 の資 料 の分 類 との有機 的 関連 を考 慮 しな けれ ぽ な ら な い。 この 問題 は後 に再 び 論 ず る こ とに した い。
次 に,ア チ ッ ク ・ミ ューゼ ア ムの分 類 は,文 化 庁 の そ れ と基 本 的 な差 異 は な い よ う で あ る。 前 者 は 「5儀 礼 に 関す る もの」 とい う大 項 目の 中 に,後 者 の 「8‑1民 俗 芸 能」
「8‑2競 技 ・娯 楽 ・遊 戯 」「9人 の 一 生」 「10年 中行 事 」 を 含 め て い るな ど細部 に おい て異 な るに 過 ぎな い。 いず れ も用 途 を基 本 に分 類 して い る 【宮 本 1969]。
最 後 に,宮 本 常一 が提 唱 した 民 具 の機 能 分 類 に つ いて 簡 単 に触 れ て お こ う。 彼 は22 の項 目に 分 類 す る。 す なわ ち,1農 耕用 具,2漁 猟 用 具,3畜 産 用 具,4養 蚕 用 具, 5雑 穀 ・調 製 用 具,6食 料 加 工 用 具,7食 用 具 ・調 理 用 具,8煮 焼 用 具,9容 器, 10住 用 具,ll灯 火用 具,12着 用 具,13容 姿 用 具,14紡 織 用 具,15切 栽 用 具, 16加 工 用 具,17運 搬 用 具,18計 測 用 具,19意 志 伝 達 用 具,20遊 戯 ・娯 楽 用 具, 22信 仰 ・呪 術用 具 であ る。
こ う した 分 類 は,い ず れ も便 宜 的 な もの で あ って,目 的 に よ って分 類 内容 が 異 な る こ とは言 うま で もな い。 ま た,そ れ ぞ れ の 分 類 は 日本 で 民 具 を 蒐集 し,そ れ らを整 理 す る過 程 の 中 で考 案 され た もの で あ って,そ の い ずれ も将 来 補 足 ・修 正 の必 要 性 の あ る こ とは,考 案 者 誰 もが認 め て い る とこ ろで あ る。従 っ て,当 然 の こ となが ら 日本 で 考 案 さ れた 民 具 分 類 は,日 本 の生 活 様 式 を 顕 著 に 反映 してい る。 そ れ ら を マ ー ドック らの 『文 化 項 目分 類 』 と比較 す る と,狩 猟 ・採 集,家 畜 飼 育,水 ・陸 ・空 の輸 送 な ど
国立 民族学博物館研究報告別冊 17号 表1 民俗文化財(有 形)分 類 [文化庁1
1衣 食 住 (1)衣
(A)服 物(男 女別,季 節 別,年 令別) (B)結 髪,化 粧用 具
(C)裁 縫 ・洗 濯用 具 (D)そ の 他 手提 げ 袋 な ど (2)食
(A)食 料(品 種標 本) (B)貯 蔵 用 具 (C)炊 事 用 具 (D)調 理 ・調 整用 具 (E)保 存 ・加 工用 具 (F)醸 造 ・製 造用 具 (G)嗜 好 品 用 具 (H)食 品 (1)飲 食 器
(J)そ の他(神 仏 に供 え る器) (3)住
(A)屋 敷 構 え(配 置,施 設) (B)住 居
(C)付 属 建 物 、 (D)家 具 ・調 度 (E)寝 具 (F)建 築 習 俗 用 具 (G)防 護 用 具 (H)そ の他 2生 産 ・生 業 (1)自 然 物 採 集
(A)採 集 用 具,運 搬 用 具 (B)処 理 ・加 工 用具 (C)そ の他
(2)農 耕(果 樹 ・園 芸 な どを 含 む) (A)焼 き畑 の 用 具
(B)耕 作 用 具 (C)管 理 用 具 (D)収 穫 ・調 整 用具 (E)儀 礼 用 具 な ど (F)そ の他 (3)山 樵
(A)山 図 面,入 り会 い文 書 な ど (B)山 小 屋 ・炭 焼 が まな どの施 設 (C)山 樵 用 具
(D)製 品(板 各 種,こ け ら,な ど) (E)搬 出用 具
(F)儀 礼 用 具 な ど (G)そ の他
(4)採 鉱 ・冶 金 (A)施 設 ・設 備 (B)採 鉱 ・冶 金 の用 具 (C)運 搬 用具 ・販 売 用 具 (D)儀 礼 用具
(E)そ の 他 (5)漁 携
(A)漁 場 関 係用 具 (B)漁 携 用 具 (C)船
(D)製 作 ・修理 用具 (E)収 蔵 施設 (F)製 造 ・加 工 関 係 (G)儀 礼 用 具 な ど (H)そ の他 (6)製 塩
(A)施 設 ・設 備 (B)塩 田用 具 (C)釜 屋 用 具 (D)運 搬 ・販 売 用 具 (E)文 書 ・絵 図 な ど (F)そ の他 (7)狩 猟
(A)秘 伝 書 ・絵 図 な ど (B)狩 猟 用 具 (C)処 理 用 具 (D)儀 礼 用 具 な ど (E)そ の他 (8)養 蚕 (A)飼 育 用 具 (B)収 穫 ・処 理 用 具 (C)儀 礼 用 具 な ど (D)そ の他 (9)畜 産 (A)飼 育 用 具 (B)伯 楽 用 具 な ど (C)儀 礼 用 具 な ど (D)そ の他 (10)染 ・織 (A)繊 維 各 種 (B)製 糸 用 具 ・施設 (C)機 織 用 具 ・施設
(D)あ ん ぎん ・組 ひ も とそ の用 具 (E)染 料
(F)染 色 用 具 ・施設 (G)製 品
(H)儀 礼 用 具 (1)そ の他
松 澤 標 本 資料 検 索 コー ドと して のHRAFコ ー ドの利 用 に つ い て
(11)手 細 工 (A)原 料 処理 用 具 (B)細 工 用具 (C)製 品 (D)そ の 他 (12)諸 職 (A)組 合 帳 箱 (B)諸 職 用 具 と施設 (C)そ の他 3交 通 ・運 輸 ・通 信
(A)交 通 ・運 搬 施 設(陸 上,水 上) (B)運 搬 具
(C)車 ・船 ・そ り類 (D)旅 行 用具 (E)通 信 施設 ・用 具 (F)祈 願 ・禁 忌 ・儀 礼 用 具 (G)そ の 他
4交 易 (A)交 易 施 設 (B)商 業 用 具 (C)計 算 ・計 量 具 (D)こ んぼ う用 具 (E)鑑 札 類 (F)看 板 ・広 告 類 (G)証 書 ・手 形 ・貨 幣 類 (H)印 章 ・絵 符 類 (1)そ の 他
5社 会 生 活 (A)共 同 施 設 (B)共 有 道 具 (C)防 災 ・避難 用具 (D)警 防 ・刑 罰 用具 (E)家 じる し ・・印判 類
(F)贈 答 ・社 交 用 具(慶 ・弔 ・ふ だ ん) (G)そ の他
6信 仰
(A)聖 地 ・祠 堂 (B)神 体 ・偶 像 類 (C)石 塔 な ど (D)神 事 ・仏事 用 具 (E)神 札 ・護 符類 (F)奉 納 ・祈 願 品類 (G)縁 起 物 類
(H)信 仰 関 係 の 服 装 ・用 具 (1)愚 霊 関 係 用 具 (J)そ の他
7民 俗 知 識
(A)教 育 施設 ・用 具 (B)医 療 ・衛 生 施 設 (C)薬 品,医 療 ・保 健 具 (D)暦 ・計 時 用具 (E)卜 占 ・ま じな い用 具 (F)規 格 の 基 準 とな る物 (G)計 算 ・計 量具 (H)そ の他 8‑‑1民 俗 芸 能 (A)施 設 (B)道 具 類 (C)装 束 (D)仮 面 類 (E)人 形 (F)楽 器 類 (G)文 書記 録
8‑2 競技 ・娯 楽 ・遊 戯 (A)競 技 ・遊 戯 等 の施 設 (B)競 技 用 具
(C)娯 楽 ・遊 戯具 ・玩 具 (D)衣 装 ・曲 譜類 (E)そ の他
9 人 の 一 生
(A)産 育 な どの 施 設 (B)妊 娠 ・出産 (C)生 児儀 礼 用 具 (D)育 児 用具
(E)七 五三 ・成 人 祝 い の 用 具 (F)恋 愛 中 の贈 答 品 縁 結 び の呪 物 (G)婚 礼 用 具
(H)嫁 の 持 参す る も の (1)婚 姻 関 係用 具 (J)厄 年 ・年祝 い の用 具 (K)葬 送 用 具
(L)忌 み 明け ・年 忌 の用 具 (M)喪 屋 ・霊 屋 ・墓 な ど (N)そ の他
10年 中 行 事
各 行 事 の用 具,作 り物,飾 り物 な ど
【以 下,1月 か ら12月 ま で に 区 分 され, 各 月 の行 事 に 関 わ る用具 が 細 分 され て い る。 筆 者 注 】
国立民族学博物館研究報告別冊 17号
表2民 具 蒐 集 調 査 要 目 [ア チ ッ ク ・ ミ ュ ー ゼ ア ム 】
1衣 食 住 に 関 す る もの (1)家 具
室 内 器具,寝 具,保 存 用 具 を 含 む (2)燈 火 用具
燈 火 器 お よび発 火 器 (3)調 理 用 具
一 般 台所 用 具 の うち主 と して 調理 に使 用 す る もの
(4)飲 食 用 具
一 般 飲 食器 具,そ の他 茶 道 具,煙 草道 具 を 含 む ,
(5)服 物
一 般 服 物 の うち地 方 的 特 色 を 有 す る様 式 材 料 に基 づ く晴 れ 着,普 段 着,労 働 着 を 含 み,防 寒,日 覆 の類 を 含 む 。 (6)履 物
(7)装 身 具
櫛,笄,そ の他 髪 結 用 具,袋 物 類,文 身 道 具 等
(8)出 産 育 児 用 具 (9)衛 生 保 健 用 具 民 間 療 法 に 必要 な 用具 2生 業 に関 す る もの (1)農 具
(2)山 樵 用 具
山樵 に関 す る もの の うち運 搬 関 係 の 用 具 は 除 く
(3)狩 猟 用 具
現 在 の銃 砲 具 を 除 く。 いわ ゆ る火 縄 銃 な どの銃 器 を 含 む
(4)漁 携 用具
海,湖,川 な どで 使 用 す る漁 携 用 具 で 海 藻 採 取 に 関 す る もの を含 む (5)紡 織 色染 に 関 す る もの (6)畜 産 用具
(7)交 易 用具
(8)そ の 他漆 掻 き,樟 脳 採,砂 金 採,木 地 屋,側 師,杉 皮 剥,岩 茸採,屋 根 葺, 日雇,石 工,大 工,鍛 冶屋 な どの人 達 が使 用す る用 具 等
3通 信運 搬 に関 す る もの (1)運 搬 具
機 械 に依 る もの を 除 き,牽 き,担 い, 負 い,か つ ぎ,提 げ,戴 きな ど の方 法 に よ って用 い られ る用 具 な らび に補 助 用 具 お よび 携 行 具
(2)旅 行 用具 (3)報 知 用具
4 団 体 生 活 に関 す る も の
災 害予 防 のた め の用 具,若 者 宿 の道 具, 地 割 用 具,共 同労 働 用 具 等 を 含 む 5儀 礼 に 関 す る もの
(1)誕 生 よ り元 服(成 年 式)ま で に 用 い る もの
(2)婚 姻 に 関す る も の (3)厄 除 け に用 い られ る も の (4)年 祝 に 用 い られ る もの (5)葬 式,年 忌 に用 い られ る もの 6 信 仰,行 事 に 関 す る もの (1)偶 像
主 と して 民 間卑 近 の偶 像 でい わ ゆ る高 遠 な 芸 術 品 とは 自 ら異 な る もの (2)幣 吊類
(3)祭 供 品 お よび 供 物 (4)楽 器
(5)仮 面
材 料 様 式 と して 木 彫,木 彫 彩 色,木 地 彩 色,樺 皮,瓠,土 型,張 子 な どが 主 で,そ の補 助 用 具 を 含む
(6)呪 具
お祝 いを す る と きに 用 い る道 具 (7)ト 具
(8)祈 願 品
7娯 楽遊戯に関す るもの 8玩 具,縁 起 物
松 澤 標 本 資 料 検索 コー ドと して のHRAFコ ー ドの利 用 につ い て
に 関わ る分 類 は大 まか で あ る のに 反 して,人 生 儀 礼 や 年 中 行事 で は 日本 の 習俗 を反 映 して い て,世 界 諸 民 族 へ のそ れ らの 対 応 が 困難 で あ る こ とは 明 らか で あ る。次 に,世 界 の諸 民族 の文 化 に 関す る資 料 の分 類 を 試 み た 『文 化 項 目分類 』 は どの よ うに して開 発 され た の か。 そ の特 徴 を検 討 してお きた い 。
3 『文 化 項 目分 類 』 と 『地 域 ・民 族 分 類』 の開 発 とそ の特 徴
これ らの 分 類体 系 の特 徴 を知 るに は,開 発 の 過程 に触 れ て お か ね ば な らない 。 以下 May【19711とFord【19711の 論文 を 中 心 に,そ の過 程 を 纏 め て み た い。 r文 化 項 目分 類 』 は,1929年 に イ ェー ル大 学 に 創設 され た 人 間 関 係 研 究所 に関 わ った 研 究者 た ちに よ って,そ の基 礎 が 築 きあげ られ た 。 この研 究 所 は,人 間性 と社 会 秩 序 ・文 化 に関 わ る学 際 的 な基 礎 研 究 を行 うこ と と,ま た そ う した 研 究 に携 わ る専 門 家 を養 成す る こ と を 主 要 な 目的 に設 立 され た 【MAY 1971:142]。 そ こに は 生 物 学,心 理 学,教 育 学, 医 学,精 神 医学,公 衆 衛 生学,法 学,歴 史学,政 治 科 学,経 済学,社 会 学,文 化 人類 学 等 々 の分 野 か ら数 多 くの 研 究者 が 参 加 した の であ るIMAY 1971:144‑46】3)。彼 ら は,自 分 の専 門 以外 の学 問 分 野 か らの知 識 を 蓄 積 しなが ら,人 間行 動 や 社 会 生 活,文 化 に 関 す る基礎 理 論 を 構 築 し よ う と試 み て い た 。 しか し,そ の た め には,ま ず 文化 人 類 学 の対 象 とす るさ ま ざ まな 人 間社 会 の事 実 を 学 ぶ こ とか ら出 発 しなけ れ ば な らな い
とい う結論 に到 達 した の で あ る.
や が て,社 会 学 者 や人 類 学 者 が 中核 とな って,(彼 らは 後 に 『文 化 項 目分 類 』 の 著 者 とな った の で あ るが),探 検 家,旅 行 者,宣 教 師,人 類 学 者 な どの 記 述 した さ ま ざ まな社 会 の 人 間 生活 の記 述 を 読 み,ど の よ うな文 化項 目が含 まれ て い る か,分 析 す る 作 業 を 始 め た 【FoRD 1971:1751。 そ の 中心 的 役 割 を担 った の が マ ー ドッ ク(George P.Murdock)で あ った。 彼 が,毎 夜 大 学 の 図書 館 で閉 館12時 ま で,民 族誌 資料 を読 ん で い た とい う話 は,今 もイ ェール 大 学 で 語 り継 がれ てい る。 日本 の 民 具 分 類 が 民具 を 実 際 に 収集 ・整 理 す る こ とか ら出発 した よ うに,彼 らは 物 質文 化 を 含 め た 民 族誌 情 報 を収 集 ・整 理 す る こ とか ら,す べ て の人 間 社 会 に 共通 す る よ うな文 化 項 目の 分 類体 系 を作 成 し始 め た の で あ る。1936年 に は分 類 体 系 の概 要 が 完 成 し,パ イ ロ ッ トプ ロジ ェ ク トと して,こ の分 類 を 用 い て無 文 字 社 会 の 民 族誌 資 料 の分 析 を行 い,他 方 で 数 多 く の人 間行 動 科 学 の専 門家 に この分 類 概 要 の チ ェ ッ クを依 頼 し,お よそ100名 か ら意 見
3)Mayに よ れ ば,1931‑32年 の 一 年 間 に,こ の 研 究 所 に 関 わ っ た イ ェ ー ル 大 学 の 研 究 者 は130 人 を 越 え て い た 【MAy 1971:142】 。
国立民族学博物館研究報告別冊 17号 が 寄 せ ら れ た[FoRD 1971:1841。 こ う し て1938年,数 多 く の 分 野 の 研 究 者 の 共 同 作 業 の も と で 『文 化 項 目分 類 』 の 初 版 が 出 版 さ れ た の で あ る。
そ の 後 さ ら に90社 会 を 対 象 に 資 料 分 析 を 進 め,い くぶ ん 修 正 さ れ たr文 化 項 目 分 類 』 が,1945年 にYale Anthropological Studies, Vol.IIIと して 出 版 さ れ た 。1949年 に は イ
ェ ー ル 大 学 の 人 間 関 係 研 究 所 を 解 散 し,こ れ ま で に 収 集 し,分 類 さ れ た 資 料 を よ り多 く の 研 究 機 関 が 利 用 で き る よ う に と,会 員 制 に よ る 任 意 の 大 学 お よび 研 究 機 関 が 相 互 で 運 営 す る 法 人 組 織 と し て のHRAF(Hurnan Relations Area Files)が 設 立 さ れ,人 間 行 動 の 通 文 化 研 究 と そ の た め の 情 報 提 供 は,今 日 に 至 る ま でHRAFに よ っ て 継 承 さ れ て い る4)。
で は,文 化 項 目 の 分 類 と は 何 か 。 マ ー ド ッ ク は,文 化 の 普 遍 的 カ テ ゴ リ ー を 文 化 の 共 通 項(common denominator)と 呼 ん で い る 。 す な わ ち,「 文 化 の 真 に 普 遍 的 な も の は,習 慣 す な わ ち 確 た る形 を も っ た 行 動 上 の 同 一 性 で な い 。 そ れ は 分 類 上 の 類 似 点 で あ っ て,内 容 の 類 似 点 で は な い 。(中 略,下 線 は 筆 者)例 え ぽ,配 偶 者 を 獲 得 す る, 児 童 を 教 え る,病 人 を 取 り扱 う,と い う よ うな 現 実 の 行 動 は,社 会 の 異 な る ご と に 非 常 に 異 な っ て い る 。 け だ し,こ の よ う に 異 な る 行 為 を,結 婚,教 育,医 学 とい う統 一 的 範 疇 の も と に 分 類 す る こ と を 渋 る 人 は い な い だ ろ う。 諸 文 化 の 間 に 真 に 広 範 囲 に,
も し くは 普 遍 的 に 見 ら れ る類 似 点 の す べ て は,分 析 に よ っ て,こ の よ うに 一 般 的 に 認 め られ た 一 連 の 諸 範 疇 に わ け ら れ る 。」1'■ 一 ド ッ ク 1952:136】 従 っ て,ア メ リ カ イ ン デ ィ ア ン の 呪 医 も 現 代 の 精 神 分 析 医 も 〈756精 神 治 療 医 〉 に,ま た は 原 始 的 な フ リ ン トの 切 り出 し も近 代 的 な ア ナ コ ソ ダ銅 精 錬 所 も 〈316鉱 石 採 掘 と採 石 〉 に 分 類 さ れ る の で あ る 【マ ー ド ッ ク 他1988:14]。 こ う し た 考 え 方 を 基 礎 に,『 文 化 項 目 分 類 』 で は 文 化 の 共 通 項 目を,ま ず10か ら88ま で の2桁 の 数 字 で 表 され る79の 大 項 目に 分 け,さ ら に 各 大 項 目 に1か ら9の 数 字 を 加 え て,3桁 の 数 字 で 表 さ れ る637の 小 項
目 に 分 類 して い る5)。
次 に,こ の 分 類 は,ど の よ うな 仮 説 や 理 論 に 基 づ い て,文 化 項 目 を 選 択 し,細 分 し,ま た 配 列 し て い る の で あ ろ うか 。 マ ー ド ッ ク はr文 化 項 目分 類 』の 概 説 の 部 分 で, そ の 理 論 的 背 景 に つ い て,次 の よ うに 指 摘 して い る 。 さ ま ざ ま な 民 族 の 民 族 誌 に は, ど の 著 者 も共 通 に 認 識 し て い る 項 目 が あ る。 そ し て,そ れ ら の 項 目 を 分 析 す る と,7 つ の 基 礎 的 な 分 類 基 準 と な る よ うな 側 面(方 向 性)が 見 出 せ る(詳 し く はr文 化 項 目
4)HRAFは 会 員 で あ る大 学 や研 究所 に よって 維 持,運 営 され て い る営 利 を 目的 と しな い 法 人組 織 で,本 部 は イ ェ ール 大学 の キ ャ ンパ ス近 くに あ る。 主 要 な事 業 は,通 文 化研 究 の た め の資 料 を会 員 に 配 布 す る こと と,通 文化 研 究 を 自 ら推 進 して い く ことで あ る1松 澤 1988】。
5)本 書 資 料 編BrHRAF/文 化 項 目分 類(OCM)コ ー一ド」 参 照 。
松 澤 標 本 資料 検 索 コ ー ドと して のHRAFコ ー ドの利 用 に つ い て
分 類 』16‑17頁 参 照)。 しか し,マ ー ドックは,彼 の見 出 した これ らの7つ の側 面 を, 論 理 的 に配 列 して分 類 体 系 を作 成 す る こ とは理 論 上 可 能 で あ るが,そ れ は極 め て複 雑
な もの とな り,そ れ を用 い て 民族 誌 資 料 を 分 析 す るな ら,そ の 資料 の 内容 を ず たず た に 切 り裂 い て しま う結 果 に な る と考 え た。 そ して,数 多 くの 資料 を分 析 す る うちに, 結 果 と して一 般 的 な配 列 を 作 りあげ て い った の で あ る。 分 類 とい うもの は,そ れ ぞ れ
の研 究 の 目的 に応 じて,便 宜 的 に活 用 され る もの で あ り,理 論 が先 行 す る ので な く, 現 実 に即 した も の で な け れ ば な ら ない 。 そ の 意 味 では 完 全 な 分 類 は な く,絶 え ず 修 正,補 足 され て いか なけ れ ぽ な らな い のは 当 然 の こ とで あ る。
ここで 『文化 項 目分 類 』 とセ ッ トに な っ て い る も うひ とつ のHRAFの 分 類, r地 域
・民 族 分類 』 を簡 単 に紹 介 して お こ う。 これ は 文 化項 目分 類 を 構 築 す る過 程 で,必 然 的 に完 成 した。 なぜ な ら,『 文 化 項 目分 類 』 のパ イ ロ ッ トプ ロジ ェ ク トで世 界 諸 民 族 社 会 の 民 族 誌 資料 を で き るだ け 地域 的 に偏 りな く選択 す る ため に は,地 域 ・民 族 分 類 を作 成 して,す で に分 析 され た 資料 が どの よ うな 地域 や民 族 を カバ ー して い る のか, チ ェ ッ ク して い く必 要 が あ った か らで あ る。 『地 域 ・民 族 分 類 』 は,世 界 を6つ の 地 理 的 地 域 に 分 類 し,さ ら にそ れ ぞ れ を 国や 民 族 に細 分 し,そ の中 に は 歴 史 区分 を含 ん で い る こ と もあ る6)。 しか し地 域 研 究 が 進 む に つ れ て,細 分 の要 請 が 出 され て お り, 近 い 将 来 に改 訂 され る予 定 で あ る。1954年 に 初 版 が 出版 され,修 正 ・補 足 され て,
1983年 に は6版 が 出版 され てい る。
4 『文化項 目分類』 と物質文 化の分類
物 質 文 化(こ こで 標本 資 料 と呼 ぶ もの)はr文 化 項 目分 類』 の中 では どの よ うに取 り扱 わ れ て い る のだ ろ うか。 こ の文 化 項 目分 類 の構 築 に あ た って きた 研 究 者 た ち は, 文 化 の諸 特 性 は 互 い に密 接 に関 連 しあ って い て,物 質 文 化 も文 化 全 体 の 脈 略 か ら切 り
離 す こ とは で き ない とい う文 化 理 論 の 立 場 に 立 って いた か ら,特 に物 質 文 化 を 独 立 さ せ て,分 類 して い な い 。 『文 化 項 目分 類 』 編 纂 の た め の パ イ ロ ッ ト研 究 で,主 と して 物 質 文化 に関 わ る部 分 の 研究 を担 当 した フ ォー ド(Clellan S. Ford)7)は,物 質 文 化 の 研 究 に は2つ の立 場 が あ り,ひ とつ は 全 体 文 化 の枠 組 み の 中で取 り扱 お うとす る立 場
ロ
で,も うひ とつ は 特 に そ の 製 作 技 術 に 注 目 し,特 定 の 製 作 活 動 と他 の 文 化 行 動 の 諸 側 面 と の 関 係 を 無 視 し,特 定 の も の を 詳 細 に 分 類 す る や り方 で あ る 【FOR])1937:2301。
『文 化 項 目分 類 』 は,当 然 前 者 の 立 場 を 貫 い て い る 。 6)本 書 資料 編C「HRAF/地 域 ・民 族 分 類(owc)コ ー ド」 参 照 。
7)彼 は物 質文 化 の比 較 研 究 に よ って,イ ェ ール 大 学 よ り人 類 学 の学位 を 得 た。
国立民族学博物館研究報告別冊 17号
で は,実 際 『文 化項 目分 類 』 では,物 質文 化(標 本 資 料)を どの よ うに,そ の分 類 体 系 の 中 に組 み込 ん で い る の だ ろ うか 。 まず,人 間 行 動 の 普遍 的 類 似 点 を 大項 目 と し て分 類 し(す な わ ち,「 文 化 の共 通 項 」),そ れ ぞれ 大 項 目の 中 で行 動 の背 景 とな る装 置,社 会 的組 織,必 要 な用 具,技 術,結 果 と して の産 物,そ れ に まつ わ る儀 礼 や 信仰 な どの 分 類項 目 と して細 分 して い る8)。
例 えぽ,大 項 目 〈21記 録 〉 の下 に小 項 目 〈212文 字 〉 が あ り,〈212.07筆 記 用 具 〉 が 分 類 され て い る。(但 し,こ の 小数 点 以下 の数 字 を付 した 分類 は,翻 訳 版 に お い て 便 宜 的 に使 用 した が,原 本 で は;(セ ミコ ロ ソ)で 区 切 られ た 記 述 に過 ぎ な い9)。) こ の大 項 目,〈21記 録 〉は 「半 永 久 的 な記 録 に よ り時 間 を超 えた コ ミュ ニケ ーション 」 と い う人 間 行 動 の 分 類 カ テ ゴ リー で あ る。 ま た,発 火 器 具 は,〈37エ ネル ギ ー と動 力 〉,〈372火 〉とい うカテ ゴ リーの 中 に含 まれ て い る。 こ こで も大 項 目 〈37>は,「 自 然 界 に存 在 す る エ ネ ルギ ー資源 の活 用 お よび産 業 動 力 へ の利 用 」 とい う人 間 の 自然 界 へ の働 きか け とい う行動 に 関わ って い る。 〈41道 具 と機 器 〉 だ け は,そ のす べ て の 小 項 目が 道 具 ・機 器 の細 分 類 とな っ て い る が,他 の 分 類 項 目 との重 複 を 避 け る た め に
「他 の カ テ ゴ リー に 情 報 が な い 場 合 に の み 以 下 で 扱 う」 とい う説 明 が つ い て い る。 従 っ て,〈413特 殊 な道 具 〉の 中に 〈413.01筆 記 用 具 〉が あ るが,こ れ は上 に述 べ た 「記 録 」 とい う目的 とは異 な った 目的 のた めに 使 用 さ れ る特 殊 な 筆 記 道 具 を指 して い る の で あ る(今,そ の具 体 例 が 思 い つ か な いが)。
r文 化 項 目分類 』 の 重要 な特 徴 の ひ とつ に,そ れ ぞ れ の項 目に ク ロス レフ ァ レ ソス が つ い て い る こ とで あ る。 例 え ば,〈293服 飾 雑 貨 〉 に 分類 され る もの の 中 に は,次 の項 目に 分 類 され る べ き もの も あ る の で,参 照 して ほ しい とい う意 味 で 「次 を も参 照 」 と記 され て い るの で あ る10)。この ク ロス レ フ ァ レ ンスはHRAFで の 長 年 に 及 ぶ 民族 誌 資 料 の分 析 の経 験 か ら考 案 さ れ た も の で,r文 化 項 目分 類 』 改 訂 の 際 に は 新 た に検 討 を 加 え,必 要 な項 目が 追 加 され て い る。
ここで は 対 照表 を示 さ ない が,私 の個 人 的 な 試 み で は,日 本 の民 具 分類 に あ る諸 項 目で,OCM分 類 の い ず れ の カテ ゴ リーに も対 応 しな い もの は な い。 た だ,さ らに分 類 を進 め る過程 で,よ り詳 細 な 分 類項 目が 必 要 に な る こ とも あ るか も しれ な い。 しか
8)本 書 資 料 編B「HRAF/文 化項 目分 類(OCM)コ ー ド」 参 照 。
9)『OCM』 で は 「小 数 点 以下 」 の分 類 は され て い な い 。そ れ ぞ れ の カ テ ゴ リー の 内容 の説 明 で あ る。 しか し,カ テ ゴ リー を さ らに 細 分 す るた め に,;(セ ミ コ ロ ソ)で 区 切 られ た と こ ろ に小 数 点 を 加 え て細 分 す る方 法 は,Dr. Hesung K. Koh(元HRAF研 究 部 長)が 韓 国 に関 す る 文 献 の分 析 にOCM分 類 を 用 い た際 に工 夫 した もの で あ る。民博 で は 『OCM』 翻訳 にあ た って, そ の方 式 を 採 用 した。
10)本 書 資 料 編B「HRAF/文 化項 目分 類(OCM)コ ー ド」,"2内 容 抜 粋"参 照 。
松 澤 標 本 資 料 検索 コー ドと してのHRAFコ ー ドの利 用 に つ いて
し,そ の 汎 用 性 は,HRAFが こ れ ま で300以 上 の 社 会 を 対 象 に 約77万6千 頁 に も 及 ぶ 民 族 誌 資 料 を こ れ に よ っ て 分 析 し て き た い うHRAFの 実 績 が 証 明 して い る と 思 う。
ま た,標 本 資 料 に 関 し て は,ニ ュ ー メ キ シ コ 州 立 博 物 館(The Museum of New Mex‑
ico, the Museum of lnternationa 1 Folk Art)の 館 長 で あ っ た イ ン バ ラ リテ ィ(Robert B.
Inverarity)が 行 っ た 実 験 結 果 で も 明 ら か で あ ろ う。 彼 は,『 文 化 項 目 分 類 』 を 用 い て 博 物 館 に 所 蔵 さ れ て い た 視 覚 資 料(民 芸 品 の 写 真 資 料)を 分 類 整 理 し,研 究 者 が そ れ ら の 資 料 を 研 究 の た め に 利 用 で き る よ うに し た い と考 え て,プ ロ ジ ェ ク トチ ー ム を 組 織 した 。 こ の プ ロ ジ ェ ク トで は,保 存 さ れ て い る一 枚 一 枚 の写 真 資 料 にOCMコ ー ド を つ け,HRAFフ ァ イ ル の 方 法 で 検 索 で き る よ う に し た 。 そ の 結 果 は 『Visual Files Coding lndex』 と して,1960年 に 出 版 され て お り[INvERARITY 1960】,か な りの 成 果 が あ っ た と報 告 し て い る 。 しか し,こ の 資 料 の ほ と ん ど は 民 俗 芸 術 品 で あ っ た た め, OCMカ テ ゴ リー 〈531装 飾 美 術 〉 と 〈532具 象 的 な 形 を 表 現 し た 美 術 〉 で は コ ー ド が 不 十 分 で あ っ た と して,ま だ 使 用 さ れ て い な い コ ー ド89を 用 い て,次 の よ うに 新 た な 分 類 項 目 を 追 加 し て い る 。89民 芸 品:891材 料,892技 術,893デ ザ イ ン の 様 式, 894デザイン の 要 素,895作 品,896特 質 。 こ こ に 追 加 され た 項 目は,民 俗 芸 術 品 と い う資 料 に と っ て 重 要 な 情 報 項 目 で あ っ て,マ ー ド ッ ク が 「文 化 の 共 通 項 」 と呼 ぶ も の で は な い 。 従 っ て,こ う した 情 報 は,取 り扱 う資 料 に 合 わ せ て 設 け る べ き情 報 項 目 で あ る と,私 は 考 え る 。 民 博 で 使 用 し て い る 情 報 カ ー ドで は,「 製 作 法 」 「材 料 」 と い
う項 目が 設 け ら れ て い る 。
さ ら に 同 じ よ う な 試 み は,民 族 誌 フ ィ ル ム の 主 題 分 析(topical classification)に も 適 用 さ れ て い る 【MuscHlo 1980;KREIss and STocKToN 19801。 い ず れ も,上 述 の よ うな 補 足 を 加 え て は い る が,OCMコ ー ドに よ っ て 検 索 が 可 能 で あ る こ と を 証 明 し て い る。
イ ェ ー ル 大 学 の 人 間 関 係 研 究 所 やHRAFが こ の 分 類 体 系 に か け た 時 間 と人 材,ま た そ の 規 模,さ ら に そ れ を 用 い た 資 料 分 析 の 実 績 を 考 え,るな ら,世 界 の 諸 民 族 の あ ら ゆ る デ ー タ を 分 類 し,検 索 す る た め の コ ー ド体 系 と して は,こ れ を 除 い て 他 に 適 切 な 分 類 体 系 は な い の で は な か ろ うか 。
5 民 博 に お け る 標 本 資 料 検 索 の 実 験 結 果
民 博 で は,情 報 カ ー ドに 基 づ い て,標 本 資料 にOCMコ ー ドを 付 す とい う作 業 を 行 った 。 しか し,こ の作 業 は 決 して容 易 な こ とで な い。 第 一 に,そ れ ぞれ の資 料 は,博
国立民族学博物館研究報告別冊 17号
物 館 に収 蔵 され る以前 には,人 々の 生 活 の 中で さ ま ざ まな用 途 を もち,そ の文 化 の脈 絡 の 中で 意 味 を与 え られ て,生 きて い た ので あ る。 民具 収 集 に あ って,情 報 カ ー ドの 記 入 が最 も大 切 な 作業 で あ る のは,そ うした 情 報 を で き るだけ 正 確 に 記 して おか なけ れ ば な らな い か らで あ る。 ま して や 収 集 者 で な く,使 用 民 族 の 文 化 に精 通 しな い人 が,コ ー ドを 付与 す る な ら,情 報 カ ー ドに頼 る しか 方 法 が な いか らで あ る。今 回 の実 験 で は,仮 面657点,刃 物 類389点,容 器類759点,玩 具 類920点 とい う選 択 を した が, 情 報 の少 な い もの が多 か った 。 従 っ て,OCMコ ー ドが 検索 に どれ ほ ど有 効 で あ った の か を実 証 す るに 至 って い な い。 む しろ十 分 な情 報 記 入 の あ る資 料 を 選 択 す るべ きで あ った と思 う。
第二 に,多 くの 資料 は,上 で述 べ た よ うに,多 種 多 様 な用 途,多 岐 に わ た る機 能 を もつ か ら,あ る特 定 の分 類 項 目に 固 定 す る こ とが 困 難 で あ る とい う問 題 が あ る。 この こ とに 関 して は,HRAFフ ァイル の シス テ ム を取 り入 れ て,複 数 の カ テ ゴ リー コ ー ドを 与 え る こ とで 解 決 で きる と考 えて い る。 例 えぽ,仮 面 を考 え よ う。 仮 面 は,民 族 美 術 に も宗 教 儀 礼 に も用 い られ,呪 物 で もあ る。 イ ソバ ラ リテ ィの 分 析 結 果 で は,仮 面 は 次 の8つ の カ テ ゴ リー に 関 連 して い る とい う 【INvlERARITY 1960:11]。 す な わ ち,〈532具 象 的 な形 を 表 現 した 美 術 〉〈535舞 踊 〉 〈536演 劇 〉 〈301装 身 具 〉 〈293 服 飾 雑貨:防 護 用 具 〉〈782慰 撫 〉〈754邪 術〉 〈714制 服 と装 具 〉(彼 の独 自の コー ド 895と892は 〈532>に含 む)。 もち ろ んす べ て の仮 面 が8つ の側 面 を も って い る わ け で は な い。 今 回 入力 され た 資料 の 中か ら,情 報 カ ー ドの情 報 の一 部 とOCMコ ー ドの 付 与 され た例 を挙 げ て み よ う。
標 本 番 号 HOO68132 標 本 名 仮 面(木 製)
使 用 地 メ キ シ コ 合 衆 国Guerrare州
用 途 ・使 用 法 秋 に 作 物 の 実 る時 の ダ ソ ス に 使 用 。 虫,動 物 の マ ス クを つ け た 人 々 と 共 に 踊 られ る 。
OCM 532.08;535.12;241.15
(こ こ で 〈241.15農 耕 儀 礼 〉 の コ ー ドが 付 さ れ て い る。)
こ う して 複 数 の コー ドが 付 され る こ とに よ って,ユ ー ザ ーが ダ ソス に用 い られ る仮 面 とか,呪 物 と して の仮 面 とか,い くつ か の属 性 を もった 仮 面 を コー ドの組 み 合 わ せ で検 索 す る こ とが可 能 とな る と考 え て い る。
第 三 は,OCMカ テ ゴ リー と研 究者 の付 与 した 標 本 名 との相 関 関 係 に つ い て の 問 題
松 澤 標 本 資 料 検 索 コー ドと して のHRAFコ ー ドの利 用 に つ い て
で あ る。 す で に 指摘 した よ うに(74頁),そ れ ぞ れ の カテ ゴ リー に は分 類 上 の類 似 点 を も った ものが ク ラス タ ー を作 るの で あ って,あ る特 定 の名称 で呼 ば れ る もの が み な 分 類 上 の類 似 性 を もつ の で は な い。 名 称 を 与 え る人 は,そ の名 称 に 対 して,そ の人 が 一 般 的 と思 うイ メ ー ジな り概 念 を も っ てい るが ,そ れがOCM分 類 の カ テ ゴ リー と一 致 す る とは 限 らな い 。 そ れ 故 に,「 用 途 ・使 用 法 」,ま た 「製 作 法 ・材 料 」 「使 用 者 」 な ど の情 報 か ら,OCM分 類 の 適 切 な コrド が付 与 され るの で あ る。 「仮 面 」 とい う 言 葉 が複 数 の カ テ ゴ リーに 現れ る のは そ の た め で あ る。 未 だ,わ れ われ の実 験 デ ー タ が 不 十 分 で,具 体 例 を 挙 げ る こ とは で き な い が,「 仮 面 」 は,戦 闘 の 身 体 防 護 具 や, 人 が 身 に つ け られ な い小 さな 呪符 に も用 い られ る。文 化 の異 な る諸 民 族 を対 象 にす る 時,こ の こ とは念 頭 に 置 い て お か なけ れ ば な ら ない 。 『文 化 項 目分 類 』 の 著 者 た ち は, そ れ ぞ れ の カテ ゴ リー に便 宜 上 英語 で語 彙 を与 え なけ れ ば な らず,そ の 語彙 に よっ て 分 析 者 に 歪 ん だ イ メ ー ジを 与 え な い か と苦 慮 した ので あ る[FORD l971:1781。
最 後 に ユ ーザ ー の立 場 か ら,情 報 カ ー ド記 入 に関 して 希望 を述 べ て お きた い。 標 本 の命 名 が 自由 で あ って も,そ の 中 に 材料 や 使 用 者 が含 まれ る場 合 には,再 度 そ れ ぞれ の項 目に 記 入 す る こ とで あ る。 そ うす れば 材質 や 使 用 者(一 般 的 な男 性,女 性,子 供 な ど)の 検 索 も可能 に な る。 特 に 後者 に は,祭 司,首 長,未 婚 者,兵 士,奴 隷 な どの 情 報 が あ れ ぽ,情 報 検 索 の幅 が 広 が るで あ ろ う。
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