東京女子体育大学紀要 第39号 2004 47
陸上競技フィールド種目における競技中の コーチのアドバイスについて
A Study on Coaches'Advice f o r t h e F i e l d Event A t h l e t e s 阿 部 征 次
研究目的
スポーツにおいて、競技直前や競技中に選手に対 して行われるアドバイスが、選手のパフォーマンス に大きな影響を与えるといわれている2)。陸上競技 もその例に漏れないが、陸上競技規則では選手にア ドバイスすることが禁止されていた。短距離種目で は 競 技 場 に 入 る 選 手 に 直 前 に 最 後 の ア ド バ イ ス が でき、その効果は認められているが1)、競技中には 声をかけたとしても、聞き取れれないことが多い。
フィールド種目では、試技の間にアドバイスするこ とは可能であり効果があるが、場内司令という競技 役員に厳しく注意された。 2003年 の 競 技 規 則 の 改 訂により、一定の条件の下に選手に対しアドバイス することが認められた。競技中のアドバイスは、選 手への助力と見なされ、一律に禁止されていたが、
フ ィ ー ル ド 競 技 で コ ー チ が 選 手 に ア ド バ イ ス す る ことは、「助力と見なさない行為Jということになっ た`り)。
この改正をうけて、フィールド競技においてどの ようにアドバイスが行われているかを知り、競技中 に お け る よ り 効 果 的 な コ ー チ ン グ 活 動 に つ い て 明 らかにすることを目的に本研究を行った。
研究方法
対象は、全国高校総合体育大会(インターハイ)陸 上競技大会の女子円盤投げの出場選手とコーチとし た。円盤投げは曲走路内側のフィールドで行われ、
選手やコーチの動きが観察しやすいことから取り上 げた。また、高校生であるインターハイ出場選手は、
競技中のアドバイスを必要とする段階であり、アド バイスによって大きく影響されることが多いと思わ れることが理由である。
予選および決勝において、選手に対するアドバイ ス の 形 態 を 4つ の カ テ ゴ リ ー に 分 け て 観 察 記 録 し た。 4つのカテゴリーは次の通りである。なお、これ らの組み合わせよる、 8つ の ア ド バ イ ス の 形 態 が 観 察された。
①ことばでのアドバイス
②手の動きでのアドバイス
③身体の一部の動きでのアドバイス
④身体全体の動きでのアドバイス
また、アドバイスのタイミングを次の 3つに分け て記録した。
① 試 技 直 前
② 試 技 と 試 技 の 間
③ 試 技 直 後
これらの観点で観察して得られた記録を基に、集 計し考察した。
結果と考察
平 成 15年 度 イ ン タ ー ハ イ 陸 上 競 技 は7月29日
8月2日長崎市で開催された。女子円盤投げの予 選は 7月31日33名 ず つ の2組に分け、午前 10時 から 1組、 12時10分から 2組が行われた。予選通 過 記 録39m50であった。予選通過記録を 1回目で 越えた者は3名、 2回目 6名、 3回目 2名の計 11名 であった。決勝は 12名 で 行 わ れ る た め 予 選 通 過 記 録 未 満 の 中 の 最 も 上 位 の 1名が決勝に進出した。決 勝 は 当 日 の 16時40分から行われた。
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{ 1)予 選 に お け る ア ド バ イ ス
66名のうち 1名の棄権者があり、 65名が予選3 回ずつ試技の予定で行い、標準記録突破者は以後の 試技を行わないので、計181回の投揺が行われたこ とになる。コーチ等からのアドバイスは、 75匝観察 された。予選試技181回の41.4%に相当する。
①試技回数とアドバイスの関係
75回のアドバイスと試技回数の関係は次の通り である。
試技前の練習 26回 34. 7 % 1回目の試技 29回 38. 7 % 2回目の試技 18回 24.0 % 3回目の試技 2回 2. 7 %
1回目の試技に係わるアドバイスが最も多く、次 いで、試技前の練習段階でのアドバイスが多かっ た。選手はウオーミングアップの段階でサブトラッ クで投揺し、ほとんどの選手はそれぞれのコーチの アドバイスを受けている。それにもかかわらず、試 技前と試技1回目にアドバイスされる割合が多い ことから、練習時の投掘と試合場に入ってからの動 きに大きな違いがあることが窺われる。また、高校 生段階の選手では 1投 目 が2 ・ 3投目に大きな影 響を及ぼすことからと思われる。サークルに入る直 前の選手にアドバイスすることは、後述のように少 ないので、 3回目の投掘に係わるアドバイスは投櫛 後に行われものと思われるが、 3回投げる選手のほ とんどは予選落ちとなるが、それでも 2例のアドバ イスが観察されたのは、次の大会を考えての指導者 の配慮と思われる。
②アドバイスの形態
アドバイスの形態別の度数と 75回に占める割合 は次の通りである。
ことばで 31回 41. 3 % 手の動きで 4回 5.3 % 身体の一部で 3回 4. 0 % 全身の動きで 8回 10. 7 % ことばと手で 20回 26. 7 % ことばと身体の一部で 6回 8. 0 % ことばと全身の動きで 1回 1. 3 % 手と全身の動きで 2回 2. 7 %
「ことばで」の12回中3回は、コーチのことばを生 徒が伝えた事例である。「ことばで」のアドバイスが 41.3%、これに「ことばと手で」「ことばと身体の一 部で」「とこばと全身の動きで」をあわせると77.3%
となり、アドバイスはことばで伝えることが中心に なっていることが分かる。「ことばと手で」行うアド バイスは、手の動きで身体全体や身体の一部の動き を表すもので、動きの表現の微妙さを示していると 思われる。また「全身の動きで」示すのは、技術の全体 であり、スタンドで円盤投げのターンを実演して示 す指導者の熱意を、文字通り体現しているものと見 ることができる。
③アドバイスのタイミング
アドバイスの行われたタイミングは次の通りで ある。
試技直前 試技と試技の間 試技直後
4回 5.3%
54回 72.0%
17回 22.7 %
アドバイスは投摘が終了し、選手がトレーニング ウエアなどを着て落ち着いた「試技と試技の間」に 行われたのが72.0 %と多かった。「試技直後」のア ドバイスのなかには、サークルから出てきた選手の 方から、指導者を探してアドバイスを求めるような 様子が見られることがあった。「試技直前」のアドバ イスが少ないのは、選手の集中を妨げる危険性があ ることに対する配慮と考えられる。
(2)決 勝 に お け る ア ド バ イ ス
決勝は12名で行われ、 3回の試技の後、上位記録 者8名によってさらに3回の試技が行われ、計60 回の投揺が行われた。その間に37回のアドバイス が観察された。 60回の試技に対しては 61.7%で あった。
①試技回数とアドバイスの関係
37匝のアドバイスと試技回数の関係は次の通り である。
試技前の練習 1回目の試技 2回目の試技 3回目の試技
8回 5回 6回 4回
21. 6 % 13. 5 % 16. 2 % 10. 8 %
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4回目の試技 6回 16. 2 % 5回目の試技 4回 10.8 % 6回目の試技 4回 10. 8 %
予選においては「 1回目の試技」に係わるアドバ イスが最も多かったが、決勝においては「試技前の 練習」が最も多く、 8回21.6%のアドバイスが行 われた。この日 2度目のウオーミングアップ時に、
それぞれの選手は、予選の投揺の結果から導き出さ れたアドバイスを指導者から十分に受けていたは ずである。試技前の練習時におけるアドバイスは選 手の緊張をほぐすような意味合いを持つ内容と予 想されるが、今回の調査ではアドバイスの内容に立 ち入ることができなかった。予選に比べ、各回のア ドバイス回数が平均化されていることが示された。
4回目の試技を行った8名に対しアドバイスは6 回なので、 3/4がアドバイスを受けたことになる。
5・6回目の試技でもそれぞれ4回ずつと 1/2に 達する。入賞が決まった後の試技は、選手に落ち着き が見られ、さらに記録を伸ばすチャンスでもあるこ とから、一段とアドバイスに熱が入ったと思われる。
②アドバイスの形態
アドバイスの形態別の度数と 37回に占める割合 は次の通りである。
ことばで 10回 27. 0 % 手の動きで 4匝l 10.8 % 身体の一部で 1回 2. 7 % 全身の動きで 1回 2. 7 % ことばと手で 12回 32.4 % ことばと身体の一部で 3回 8.1 % ことばと全身の動きで 6回 16. 2 % 手と全身の動きで 0回 0.0 %
「ことばで」の 10回中3回は、コーチのことばを 生徒が伝えた事例である。予選に比べ「ことばで」の 割合が減少し、「ことばと手で」の割合が増加してい る。予選に比べ選手の数が遥かに少なくなることや、
一度予選を経験していることから、指導者にとって 選手に必要なアドバイスは明確になっているケー スが多いと思われる。指導者は選手に最も理解しや すいアドバイスの方法をあらかじめ決め、それぞれ に伝えていると思われる。それによって、ことばと
手のちょっとした動きで伝えることが多くなった と推測することができる。「ことばと全身の動きで」
アドバイスした6回は、同一の指導者による熱意あ ふれるアドバイスであった。
③アドバイスのタイミング
アドバイスの行われたタイミングは次の通りで ある。
試技直前 1回 2. 7 % 試技と試技の間 30回 81.1 % 試技直後 6回 16. 2 %
決勝におけるアドバイスのタイミングは、全体的 に予選と同様の傾向を示し、「試技と試技の間」が一 段と増えていた。
まとめ
陸上競技フィールド種目において、競技中の選手 への効果的なアドバイスについて基礎資料を得るこ とを目的に、インターハイ女子円盤投の競技中のコ ーチの選手へのアドバイスの回数について調査し、
次のような結果を得た。
(1)試技回数とアドバイスの関係は、予選では 1回 目の試技時が最も多く、決勝では試技前の練習時が 最も多かった。
(2)アドバイスの形態は、予選・決勝とも「ことば」
だけが最も多く、「手とことば」のように、ことばを 使ったアドバイスが中心であった。
(3)アドバイスのタイミングは、予選・決勝とも
「試技と試技の間」がほとんどであった。
今回の調査によって、高校生競技者には競技中の アドバイスは多く行われていることが知られ、常日 頃指導しているコーチは選手の力を発揮させよう
と努力していることが窺われた。
しかし、アドバイスの内容や、アドバイスに対す る選手の反応や、その結果としての競技成績との関 係を示し、アドバイスの仕方への示唆を得るには至 らなかった。これは、当初の予定では、カメラとレコ ーダーによってコーチのアドバイス形態と内容を 記録するとにしていたが、競技場ではコーチの居る 場所が広く点在し、アドバイスする姿をノートに記
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録するのが精一杯であったことによる。
今後は、コーチのアドバイスの内容とそれに対す る選手の反応、そして競技成績への反映の程度を記 録できるように、人員を配置し、研究内容を深める
ことが課題である。
参考文献
1)阿部征次(1998)コーチングの技法としての 一言アドバイス 東京女子体育大学紀要33号 2)阿部征次(1994)コーチングあらかると
ベースボールマガジン社
3)武田健 (1985)コーチング 誠信書房
4)日本陸上競技連盟 (2003) 陸上競技ルールブック 2003年 度 版 あ い 出 版
5)日本陸上競技連盟 (2002) 陸連時報 ベースボ ールマガジン社