• 検索結果がありません。

普通名詞 に よる二人称指示

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "普通名詞 に よる二人称指示"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

普通名詞 に よる二人称指示

〜間接化 とい うス トラテジー〜

金 井勇人

【 キーワー ド】   二人称名詞   固有名詞   普通名詞   間接化   失礼さの回避

1.は じめに

日本語の二人称指示 においては、二人称名詞 (「 あなた」 「きみ」 「おまえ」

な ど )の 使用が、 とき として指示対象 に対 して失礼 となる。

そ こで代わ りに、固有名詞

(「

山田さん」 「太郎 くん」 「花子 ちやん」な ど )1 や、普通名詞

(「

先生」 「課長」 「お父 さん」な ど )2が 、使用 され ることが往 々 に してある。 なぜ これ らが代用 され るのだろ うか。

本稿 では、二人称名詞・固有名詞・普通名詞 による二人称指示

3に

ついて、それ ぞれの比較・対照 を随時行いなが ら、考察 してい く。

2 1.二 人称名詞 の失礼 さ

先述 した よ うに、二人称名詞 は、指示対象 に対 して失礼 とな り得 る。それ は、

次のよ うな例 において、確認す ることができる。

(1)「 も うか えれ。 おまえの よ うな根性 の くさつた奴 は 日本人ではない。 いな く てもいいから、かえれ」とす人の兵隊がいいました。    『 ビルマの竪琴』

1  固有名詞 は、その場面において最 も自然であるよ うな接尾辞 (ゼ ロも含む )が

後接 した形で、 1つ と捉 える。 この原則は、普通名詞 についても同様 とす る。

2  本稿 で扱 う、人称指示に使用 され る普通名詞 とは、親族名称・職階・称号な ど 身分や肩書 を表す名詞 が、その主なもの となる。

3  本稿で考察の対象 とす る二人称指示は、 「呼びかけ」ではな く、文内における

もの とす る。

(2)

(2)  それ はあき らかに影村 の訊 間であった。加藤 を或 る種 の容疑の もとに取調 べ ようとしている刑事の態度にも見えた。加藤は自分の顔のほてってい くの を感 じていた。いか りが顔 に出て来たのである。

「いったい、あなたはなぜ私にそんなことを訊ねるんです」

「あなただ と

?」

影村 はむつ とした よ うな顔 でいつた。先生 といわず にあなた といつた ことが 影村には不愉快に思えたにちがいない。         『孤高の人』

(1)の 「おまえ」は、指示対象に対して、明らかに失礼な言い方である。そこに は もちろん、 「おまえ」の文体的な乱暴 さも、要因 としてある。

しか し (2)の 「あなた」は、文体的には乱暴ではない。それでも上位者 「影村」

(教 師 )は 、下位者 「加藤」 (生 徒 )に よる二人称名詞 「あなた」を、不愉快 に 感 じてい る。

このよ うに、 「おまえ」のみな らず 「あなた」 も、失礼 さを生 じ得 る、 とい う ことは、 これは文体の問題ではない。二人称名詞 による二人称指示その ものに、

失礼 さを生み出す性質が備 わってい るのではないだろ うか。

結論 を先 に言 うと、二人称名詞 による二人称指示は直示 4で ぁ り、その ことが、

この失礼 さの原因だ と考え られ るのである (二 人称名詞が指示す る 「内容」は、

会話 の現場 で初 めて決定す る )。

こ うした言語 による直示は、人に 「指差 し」を行 うのが失礼であるの と、ま さ に同様の理 由で、失礼 なのだ と考 えられ る。 したがつて二人称名詞 による二人称 指示 は、失礼 とな り得 る (特 に上位者 に対す る場合 )。 それ は、文体的に丁寧 な

「あなた」であつても同 じことである。

しか しまた、 日本語 の二人称名詞 は、例 えば英語の youな どと比べて も、失礼 さが強い と感 じられ る。次の 2つ の文 を比べたい。

(3)あ なたはなぜ私 にそんなことを訊ね るんです

(4)(φ )な ぜ私にそんなことを訊ね るんです

日本語では、構文的に、主語 (主 格 )の 表 出が任意であるか ら、 (3)(4)三 様 の 言い方が可能 となる。 (3)は 指示対象 に対 して失礼 とな り得 るが、 (4)は (指 示 と い う点か らは )失 礼 とな らない。

特別 なケー スを除 き、 「あなた」は言 わな くて も済む場合 が多い。つ ま り

(4)

直示 :「 談話 に先立って、言語外世界にあ らか じめ存在す ると話 し手が認 める

対象 を直接指 し示 し、言語的文脈 に取 り込む こと (金 水 1999:68)」

(3)

で、大方は用が足 りる

(こ

こでは例外は考慮外

)。

そ こを、あえて (3)を 選択す る 場合、それ は、それだけ相対的に くどい同定を行 う、 とい うことに等 しい。その 相対的な くどさが、 日本語 の二人称名詞 の持つ失礼 さが強い原 因であろ う。

一方で英語の場合、主語の表 出は任意ではない。それは構文的に必須の要素で ある。したがつて英語 においては、日本語の (4)に 対応す る選択肢がない。だか ら

youの 使用 は必然的であつて、相対的に くどい同定、ではあ り得 ない。 この こと が、英語の youが

(日

本語 と比較 して )よ り失礼ではない理 由である。

以上、 日本語 の二人称名詞 は、強い失礼 さを有す る、 とい うことを確認 した。

それ は 日本語話者 の直観 とも合致す るだろ う。

ただ し、失礼 さの裏返 しとしての親密 さを表現す るため、あえて この失礼 さを 表 出す ることも、往 々に してある。

(5)「 おお、 しばらく見ない うちに大きくなつたな、桃子。おまえ大きくなった ら何にな りたい」         『楡家の人び と』

この よ うに、子供 をは じめ とす る親 しい下位者

(あ

るいは対等者 )に 対 してな ら ば、失礼 さが許容 され る。 しか しそれ は、親密 さを意図 しての ものである。

この (5)の よ うな、親密 さを表すための用法 を除けば、日本語 における人称名詞 は失ネLで ある、 と言つて よいだろ う

(1)(2)。

す るともちろん、それ を回避 しよ う とい う心理が働 く。その とき、人称名詞 に代わるものが、 (4)の よ うな非明示か、

または固有名詞・普通名詞 なのである。

5

非明示 (4)の 場合 は、指示行為その ものを回避す るのだか ら、失礼 とな り得 ない ことが容易に納得 され る。 しか し、固有名詞・普通名詞 を使用 した場合に、失礼 さが回避 され得 るのは、なぜだろ うか。

2。 2.直 示ではない固有名詞 と普通名詞

二人称指示の際に使用 され る固有名詞 0普 通名詞 は、その指示が行 われ る以前 か ら、指示内容が決まつている。次の (6)は 、 (2)を 変更 した、普通名詞 「先生」

による指示である。 (7)は 、普通名詞 「課長」 による指示である。

5「 しか し、英語 な どでは、少な くとも成人相手の言語では、固有名詞や愛称、

相手の職業 な どを呼びかけ位置以外で聞き手 を指すために使 うことは普通でき

ない」

(田

窪 1997:20)

(4)

(6)先 生はなぜ私 にそんな ことを訊ね るんです

(7)「 私が出張 中だつたのがまず かつたのです。課長 は去年 山林課 においでにな ったばか りなので、ナメ られたんです よ。いま資材課 の伝票で見ま したが、

市価 の三倍 で買わ されてい らつ しゃいますね。 …」       『 パニ ック』

少な くとも当事者 間においては、 (6)の 「先生」や (7)の 「課景」が誰を指すのか とい うことは、 この発話がな され る以前か ら決まつてい る。

ここで仮に、 (7)の 「課長」で指示 され る人物の姓を 「山田」と設定す る (以 下 同 )。 す る と、固有名詞 による指示 も可能 となる (8)。

(8)山 田さんは去年 山林課 においでになつたばか りなので、…

この 「山田さん」が誰 を指す のか、 とい うことも、当事者 間においては、発話の 前か ら決まつてい る。

つま り、 このよ うな固有名詞 0普 通名詞 による指示 には、直示が介在 しないの である。これ ら(6)(7)(8)が 、直示 を介在 させ た (1)(2)と 比べて、よ り失礼でない ことは、明 らかだろ う。固有名詞・普通名詞 による指示 は、 このよ うに、直示 を 介在 させ ないか らこそ、失礼 さを回避 し得 るのである。

2.3.固 有名詞 の失礼 さ

固有名詞 も普通名詞 も、直示 を介在 させ ない ことに よ り、失礼 さを回避 できる ことを、前節で確認 した。 しか しあ らためて両者 を比 べてみ ると、そ こには失礼 さの程度 について、差異が見 られ る。

例 えば、 (2)を 次の よ うに変更す ることは、通常、 とて も難 しいだ ろ う。

(9)影 村 さんはなぜ私 にそんな ことを訊ね るんです

つま りこの場合、教師 を固有名詞 で指示す ることが、失礼 となるのである。 また 前出の (8)も 、上司を固有名詞で指示す る習慣がない会社 では、難 しいであろ う。

さらに、次の (10)も 示唆的である。

(10)婚 約者 となつて も志方は吟子 を先生 と呼んでいた。実際それ以外 に適切 な 呼び方はなかつた。 …

(中

略 )…

「私のよ うな者 と一緒になることに、先生は後悔 していませんか」

『 花埋み』

(5)

「吟子」は女医であ り、 「志方」は 「吟子」 より十三歳年下である。 こうした 事情があれ、二人は婚約 しているのだか ら、 「志方」は 「吟子」を、固有名詞で

「吟子 さん」 と言って も、おか しくはない。 しか し「志方」には、できない。

以上か ら、原則的に、普通名詞 は固有名詞 よ り失礼でない、 とい うことが結論 で きる。次の式において、確認 してお きたい。

(11)失 礼 さの程度  :  二人称名詞  >>  固有名詞  >  普通名詞 (強 >弱 )    (あ なた )   (山 田さん )  (課 長

)

一方、下位者 については、対応す る普通名詞が存在 しない (使 用できない )、

とい う場合が多い。例 えば、役職 のない部下を、普通名詞で指示す ることは、不 可能である。仮 に 「平社員は どう考 える

?」

な どと言 うのは、非常に特別 な意図 が ある場合 を除 き、不 自然 きわま りない。 あるいは 「生徒 は宿題 をや つて きた か

?」

な どとい うのも、同様である。

したがつて下位者 に対 しては、固有名詞 を使用せ ざるを得ない 6(「 山田は どう 考 える

?」

「佐藤君は宿題 をやつてきたか

?」

)。 その とき下位者 は、固有名詞 による失礼 さを、その立場の弱 さゆえに、受 け入れねばな らない ((5)も 参照 )。

また、下位者でな くて も、適切な普通名詞 が存在 しない場合がある。例 えば、

「両親の友人」を意味す る普通名詞 な どは、あ りそ うもない。

この よ うな とき、固有名詞は失ネLで ある、 とい うのは当たつていない。それは 固有名詞の失礼 さとい うのは、あ くまで、対応す る普通名詞 との相対的な関係 に 基づ くか らである。対応す る普通名詞 がなければ、固有名詞 も失礼 とな らない。

それ とは反対 に、対応す る固有名詞 を知 らなけれ ば、普通名詞 を使用す る しか ない

(名

前 を知 らない人百屋 の店員 を 「人百屋 さん」 と言 う場合 )。 したがつて そ こでは、失礼 さの回避 は主要な意図ではない。

2.4。 固有名詞 と普通名詞 の関係

前節で、原則的に、普通名詞 は固有名詞 よ り失礼ではない、 とい うことを確認 した。それでは両者 はいったい、 どの よ うな関係 にあるのだろ うか。

(12)「 この大はテ リヤだ」

とい う文は、ふつ う、眼前にある一匹の大をさしなが ら、 国か ら発せ られ る

他 の選択肢 (非 明示・二人称名詞 な ど )の ことは、ここでは考 えない

(6)

ことが多い文である。 こ うい う時、 「この大」 とい うことばは、い うまで も な く、その眼前の、一匹の大の ことを指 してい る。 この一匹の大は、また、

個体である犬、 ともいわれ る。       (吉 1977:23)

吉 田の主張を受 け、本稿では暫定的に、上のよ うな文脈 における 「この大」 を 個体 と呼ぶ ことにす る。個体 とは 「集合の元 とはなるが、それ 自身は元 を持たな い もの

(同

書 :159)」 である。 「この大」は、 「テ リヤ」 とい う集合の元 となる が、 「この大」 自身は、唯一無二の具体物であつて、元 を持たない。

さて、仮 に 「この大」の固有名 を 「コロ」 と知 っていれば、次のよ うな言い方 が可能 となる。

(13)コ ロが散歩 している

この固有名詞 「コロ」は、ある特定の 「コロ」 とい う固有名 を持つ犬 (個 体 )に

対応す る

7。

っま り固有名詞 とは、個体に対応す る言語表現である。

一方、 「テ リヤ」の方は、 どうか。

(14)テ リヤが散歩 している

この 「テ リヤ」は固有名詞ではない。 この 「テ リヤ」は、 「この大」 「コロ」 を は じめ とす る、テ リヤ種 に属す るすべての個体 (あ の大・その大・ ポチ… )を 、 表 し得 るか らである。次のよ うな言い方が可能 となるのは、そのためである。

(15)ど のテ リヤ もすべてかわいい。  (× どのコロもすべてかわいい

)

個体の集合 を全体 と呼ぶ ことにす ると、上記のよ うな性質 を持つ 「テ リヤ」は、

全体に対応す る。つま り普通名詞 とは、全体に対応す る言語表現である。

(16)個 体  :  この大

全体  :  この大・あの大・その大

⇔   固有名詞 「コロ」

⇔   普通名詞 「テ リヤ」

以上か ら、普通名詞 と固有名詞 との関係 は、 <全 体 一個体 >と い うものである ことが分かる。 この ことを先の 「課長」の例で図示す ると、次のよ うになる。

7  複数の個体が同名 を有す る、 とい うケースは、記述 が偶然重複 したに過 ぎず、

それぞれは別個の固有名だ と考 えるべ きである。

(7)

(17) (全 体

)

(個 体の集合

)

普通名詞 「課長」一丁 固 有名詞 「山田さん」

卜 固有名詞 「佐藤 さん」 (別 の課長職 にある人

)

卜 固有名詞 「高橋 さん」 (         )

卜 固有名詞 「………さん」 (         )

2。 5。 普通名詞 と間接化

前節で確かめた <全 体 一個体 >と い う関係 を利用 した ものが、普通名詞による 二人称指示 に他 な らない。そのメカニズムは、次のよ うになっていよ う。

(18)階 示主州   →→→   普通名詞 「課長」  ===  課 長 (全 体)│

↓ (推 論

)

:R出

:瞬

:さ :ん

:」

=

指示主体が発 した普通名詞 「課長」は、すべての課長 に対応 し得 る。そ して、

そ こに含 まれ るすべての課長の中か ら、文脈的・現場的な手がか りを元に、最 も 適 当な個体 (眼 前にいる 「山田」 )が 選ばれ る

8。

この時点において初めて、普通 名詞 「課長」が、個体 「山田」 と結びつ く。

この推論は <全 体→個体 >と い うメ トニ ミー

9を

利用 した ものである Ю 。つま り 二人称名詞 による二人称指示は、言わば間接的な指示なのである。

一方、固有名詞の場合は、そのよ うな間接化は、 もちろん介在 しない。それは

<個 体→個体 >と い う直接的な指示である。

固有名詞 と普通名詞 との失礼 さの差異は、ま さに、 この間接化の有無 による。

一般 に間接化は、失礼 さの回避 に貢献す る。例えば、 「この仕事は引き受けた く ない」 と言 う代わ りに、 「今、ちょっと忙 しいので…」な どと言 うの も、間接的 な表現を して失礼 さを回避す るため、 と見ることができる。

それ とまつた く同様 に、普通名詞 による指示 は、間接化の介在 によつて失礼 さ を回避 し得 るのである。

8「 山田」ではない課長を指示 したいのであれば、 「あの課長」な どとい う有標 な言い方 をす るだろ う。 (2.6.も 参照

)

9メ トニ ミー :「 (現 実 )世 界のなかで隣接関係 にあるモ ノとモ ノとの間で、一 方か ら一方へ指示がずれ る現象 (瀬 戸 1997:105)」

Ю <課 長 一山田 >と い う関係 を、シネ ク ドキ関係 として捉 えることも可能である が、その場合 も本論の枠組みは変わ らない。

シネク ドキ :「 よ り大きなカテ ゴリー とよ り小 さなカテ ゴリー との間の包摂関 係 に基づ く意味的伸縮現象 (瀬 戸 1997:166)」

=  山田 (個 体

)

(8)

2.6.固 有名詞 +普 通名詞

例 えば会話の場 に、課長職 にある人物が複数名いるときの、普通名詞 「課長」

は、 どの課長を指 してい るのかについて曖味 とな り得 る。そ うした曖昧 さを回避 す るためには、 「山田課長」 と言えばよい。

この 「山田課長」のよ うな、 「固有名詞 +普 通名詞」 とい うパ ターンも、 ごく 日常的に使用 され る。 これについては、以下のよ うに考えるべきだろ う。

候補が複数い る ときの 「山田課長」において、前半部の 「山田」は、曖味 さを 回避す るために必須である。それは もはや 固有名詞ではない

11。

それ は言わば、

弁別のためのマーカー となるのである。 「課長」 とい う「全体」に、 「山田」 と い うマーカーが付加 された、 と考えて よいだろ う。

(マ

ーカー ) (全 体 )   (個 体の集合

)

「山田」 +「 課長」一丁 「 山田さん」

卜   「佐藤 さん」 (別 の課長

)

トー「高橋さん」 (   )

ト ー「…… さん」 (   )

マーカーである 「山田」の役割は、最終的な指示対象 「山田」を検索 しやす く す る、 とい うことである。それ以上の ものではない。 したがつて、 この場合 も、

<全 体→個体 >と い う枠組みは変わ らない。 このよ うに して、 「山田課長」 も、

間接化を経て、失礼 さを回避 し得 るのである。

もつ とも候補が、は じめか らその場 に 1人 しかいない場合で も、 「山田課長」

ど言 うことはできる。 しか し、その よ うな場合、言わば押 し付 けがま しい感 じが 生 じるだろ う。

その原因は、 2.1。 で述べた と同様、それが相対的にくどい同定だか らである。

つま り、候補が最初か ら一人な らば、マーカー 「山田」を付加す る必要がない。

そ こをあえて付加す る くどさが、押 し付 けがま しいのである。

以上か ら、次の よ うな式を表す ことができるだろ う。

(20)失 礼 さの程度 :  固有名詞  >  固有名詞 +普 通名詞   ≧   普通名詞 (強 >弱 )  (山 田さん )    (山 田課長 )     (課 長

)

H「 山田さん課長」 とは言えない ことか らも、普通名詞 に前接す る固有名詞が 固有名詞 として完結 していない ことが、察せ られ るだろ う。

20

(9)

2。 7。 適切 な普通名詞の条件

例 えば、 Aに とつて Bは 、父であ り、同時に学校の教師で もあるとす る。 Aは

原則的に、授業 中の教室内な ど 「学校」 (に 関連 した場面 )で 、 Bを 「先生」 と 言 う。授業中、他の生徒の前で 「お父 さん」 と言 うのは、や は り不 自然である。

一方、 「家庭」

(に

関連 した場面 )で は、 Aは Bを 「お父 さん」 と言 う。家庭 で他の家族 を前に、 「先生」 と言 うことは、やは り不 自然 と言わ ざるを得ない。

つま り指示に利用できる普通名詞 は、あ らか じめ指示対象の側で決まっている のではない。指示主体が、指示対象 を、 どの よ うな 「全体」に所属 させ るか、 と い う意思によつて、決まるのである。 「学校」の Aに とつては、 「先生」 とい う

「全体」に Bを 所属 させ るのが、 自然である。一方、 「家庭 」の Aに とつては、

「お父 さん」 とい う「全体」に Bを 所属 させ るのが、 自然 なのである。

(21)         (全 )        (個

)

学校での A    普通名詞 「先生」 →→→  B

II

家庭での A    普通名詞 「お父さん」 →  B

「人間

(さ

ん )」 「哺乳類

(さ

ん )」 とい うような普通名詞 も、特別 な文脈が ない限 り不 自然である。 「全体」の設定が、不必要に大 き過 ぎるか らである。

また 「容疑者」な どとい う普通名詞 は、失礼 さを回避 し得 ない。意味的に失礼 さを有す る場合は、そち らが優勢 となるよ うである。

2。 8.普 通名詞か固有名詞か

実際の場面で、普通名詞 と固有名詞の どち らかが選択 され るメカニズムは、次 の よ うになつていると考 え られ る。

(22)指 示対象 =上 位者 ・疎遠 な者  /  場面 =公 的  etc…

→   よ り失礼 さが許容 されない   →→   普通名詞 を選択す る方 向ヘ

指示対象 =下 位者 ・親 しい者  /  場面 =私 的  etc・ …

→   よ り失礼 さが許容 されやすい     固有名詞 を選択す る方向ヘ

上記の 2つ の力、つま り、普通名詞へ向か う力 と、固有名詞へ向か う力 とが、

せ めぎ合った結果、普通名詞か固有名詞かが決定 され るわけである。

対話の場面において、指示主体が、指示対象の固有名 を知 つてい るな ら、直接

(10)

的な固有名詞による指示の方が、指示の精度が、明 らかに高い (8)。 しか し様々な 理 由か ら、失礼 さを回避 した方が よい と判断 した場合には、指示の精度 を犠牲に

して、間接的な普通名詞 による指示 を選択す るのである (7)。

こ うした判断を、瞬時にかつ総合的に行い、  1つ の結果 を出す ことは、 ときと して非常に難 しいだろ う。 (23)で は、 このよ うなせめぎ合いに起因す る混乱を、

見 ることができる。

「純子 さん。尾島 さんにコピー させたの

?」

「ええ、だってあそこの仕事です ものね」

と澄ま している。

「でも一一気の毒よ。い くら何でも」

「社長 も少 し冷酷にな らなきゃだめですわよ」

× × × × ×

「伸子さんだって美人よ。ただ、あんまり構わなすぎるんだわ。一―あら、

社長、すみません」        『 女社長に乾杯

!』

「伸子」は大抜擢 された若い女性社長で、 「純子」はその部下である。 しか し 同時に、二人は元 「お茶 くみ仲間」でもあ り、今で もとて も仲がよい。 「純子」

は普段は、 「伸子」を普通名詞で 「社長」 と言 う。   しか し話が盛 り上がって くる と、 ときに、固有名詞で 「伸子 さん」 と言つて しま う。

ここには、上下親疎関係や場面の公私 な ど、様 々な要素2が 複雑 に絡み合 って い る。それが 「純子」による選択を混乱 させた原因である。

そ うした諸要素を通 して、指示主体は最終的な選択 を行 うわけだが、 (23)の 例 も含 めて、その選択が (故 意か否かを問わず )適 切でなかった場合 には、何 らか の表現効果が生 じることと′ 思われ る。

例 えば指示主体が、失礼 さが許容 されないよ うな場面で、固有名詞 による指示 を行 えば、それ は失礼 さとか、ぞん ざい さな どといった表現効果 を生 じる (9)。

逆 に、ある程度の失ネ Lさ が許容 され る場面で、普通名詞 による指示 を行 えば、

それは疎遠 さや水臭 さな どといった表現効果 を生 じるだろ う (そ の よ うな場面 と 仮定 しての (10))。

大まかには、上記の 2方 向の表現効果が考え られ る。 さらに下位 区分的な表現 効果 についての考察は、別項 に譲 りたい。

2こ うした選択 を左右す る場面的要素 には、様 々な ものがあるだろ う。   しか し、

それ らを列挙す ることは本稿 の 目的ではないので、指摘す るに とどめる。

22

(11)

3。   おわ りに

本稿では、普通名詞 による二人称指示は、 どうして失礼 さを回避 し得 るのか、

とい うことを考察 した。その理由は、以下の 2点 にま とめ られ る。

・第一に、人称名詞 との関係で言えば、固有名詞・普通名詞 による指示は、直示 を介 さないために、 よ り失礼ではない、 とい うことである。

・第二に、固有名詞 との関係で言えば、普通名詞による指示は、間接化を介す る ために、よ り失礼ではない、 とい うことである。

そ して、指示主体は、指示対象に対す る失礼 さを回避す るために、二人称名詞⇒

固有名詞、固有名詞⇒普通名詞、 とい うよ うな選択の変更 を行 うのである。

参考文献

金水   敏 1999「 日本語の指示詞 における直示用法 と非直示用法の関係 について」

『 自然言語処理』 vol.6‑4,67‑91  言語処理学会 小泉   保  1997『 ジ ョー クとレ トリックの語用論』大修館書店

近藤泰弘  1990「 構文的 に見た指示詞の指示対象」『 日本語学』vol.9‑3,31‑38 明治書院

鈴木孝夫  1973『 ことばと文化』岩波書店

瀬戸賢‑ 1997「 意味のレトリック」『文化と発想とレトリック』 94‑177 研究社

田窪行則 1997「 日本語の人称表現」『視点と言語行動』13‑44  くろしお出版 中村   明 1991『 日本語レトリックの体系』岩波書店

三上   章 1972『 現代語法序説』くろしお出版

(初

1953) 吉田夏彦 1977『 論理と哲学の世界』新潮社

Levinson, S.Ce  1983  Prag″ ′ι ゴθs Cambridge University Press

金井 勇 人 「日本語 にお け る定記述 に よる二人称指示 〜 メ トニ ミー の観 点 か ら〜」

日本 言語 学会 第 124回 大会 (東 京外 国語大学

2002.6。

16)発 表原稿

引用 資料

赤川次郎『女社長に乾杯 !』   開高   健『パニック 中裸の王様』

北   杜夫『楡家の人びと』   竹山道雄『 ビルマの竪琴』

新田次郎『孤高の人』     渡辺淳一『花埋み』     以上、新潮文庫。

(か ない はやと /文 学研究科 日本語日本文化専攻 博士後期課程 2年

)

参照

関連したドキュメント

うのも、それは現物を直接に示すことによってしか説明できないタイプの概念である上に、その現物というのが、

る、関与していることに伴う、または関与することとなる重大なリスクがある、と合理的に 判断される者を特定したリストを指します 51 。Entity

tiSOneと共にcOrtisODeを検出したことは,恰も 血漿中に少なくともこの場合COTtisOIleの即行

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

層の積年の思いがここに表出しているようにも思われる︒日本の東アジア大国コンサート構想は︑

大村 その場合に、なぜ成り立たなくなったのか ということ、つまりあの図式でいうと基本的には S1 という 場

現を教えても らい活用 したところ 、その子は すぐ動いた 。そういっ たことで非常 に役に立 っ た と い う 声 も いた だ い てい ま す 。 1 回の 派 遣 でも 十 分 だ っ た、 そ

これも、行政にしかできないようなことではあるかと思うのですが、公共インフラに