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金属間化合物の電子構造と化学吸着:第一原理計算に基づく研究

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Academic year: 2021

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金属間化合物の電子構造と化学吸着:第一原理計算に基づく研究

Electronic structures and chemisorption in intermetallic compounds :first-principles studies

物理学専攻 宮脇 佳亨

MIYAWAKI Yoshiaki

1 はじめに

現在、触媒として用いられているのに、Pd、Pt、Ruなどの貴金属が多く用いられている。、しかし貴金属は埋 蔵量が少ない問題点があり、代替触媒の開発が望まれている。Iwasaらによって

Pd

の触媒特性が

Zn

と合金化す ることによって変化し、メタノール水蒸気改質において

Cu

と同等の

CO

2選択率を発揮することが報告されてい る。また、Tsai, Kameoka, Ishiiは、Pd, PdZn, NiZn, PtZn, Cu

d

バンドの位置とメタノール水蒸気改質にお ける

CO

2選択率に相関があることを示した

[1]。しかしながら、触媒反応は一般的に複数の素過程から構成され

るものであり、そうした複雑な化学反応が

d

バンド位置という単一の指標と強い相関を持つことは科学的に興味 深く、触媒開発の指針として確立されれば応用的な重要性も計り知れない。Tsaiらによって指摘された電子構造 と触媒特性の相関を調べるため、触媒として有用な金属の1つである

Pd

と似た電子構造を持つ合金系を探索し た結果、候補として

NiCo

が見つかった。図

1

にバルクの電子状態密度

(Electronic Density of State, Electronic DOS)

を示す。青と紫はそれぞれ

NiCo

Pd

の電子状態密度である。横軸にエネルギー、縦軸に状態密度をとり、

エネルギー原点はフェルミエネルギー

(E

F

)

にとった。NiCo

DOS

Pd

よりも若干高エネルギー側にシフト しているものの、非常に似た構造であることが分かる。Tsaiらによって示された電子構造と触媒活性の相関とい う観点から見れば、NiCo

Pd

の代替触媒となり得る可能性がある。

本研究では

NiCo

Pd

の代替材として利用される可能性を検討する手始めとして、これらの表面における分 子の吸着構造を調べる。多くの触媒反応では、分子が表面に吸着することによって分子内結合が弱まり(ときに は解離し)、結合の組み換えが起こることによって反応が進行する。したがって、表面に吸着した分子の状態を調 べることは、物質の触媒特性を知るうえで重要である。今回は吸着分子として、工業的にも重要であり、これま でに実験的・理論的にも良く調べられているエチレン分子を用いた。第一原理電子構造計算によって

Pd

NiCo

表面の電子構造とそれらにおけるエチレンの吸着構造を調べる。

電子状態と構造緩和の計算には

Vienna Ab initio Simulation Package(VASP)

を用い

[2]、電荷密度、結晶、分

子構造の可視化には

Visualization for Electronic and STructural Analysis(VESTA)

を用いた

[3]。

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

-8 -6 -4 -2 0 2 4

Density of State (state/ev cell)

Total Energy (eV)

NiCo Pd

1: DOS

の比較

(NiCo(青), Pd(紫)

(2)

2 研究方法

Pd

fcc

構造をとり格子定数は

3.95[˚ A]

である。周期構造を持つ物質でないとバンド計算を行えないために、

本研究では

NiCo

の構造を

L

10構造

(a=b ̸ =c)

と仮定して構造緩和計算を行った。a軸方向と

c

軸方向の差が

1%未

満だったので以降は

NiCo

の結晶構造を

a=b=c

と仮定して計算を行った。NiCoの格子定数は

3.49[˚ A]

である。バ ンド計算をするためには周期性がないといけない。しかし表面は表面平行方向に対しては周期性があるが、表面 垂直方向に対して周期性がない。そこでバンド計算で表面を扱う場合、スラブ模型という表面垂直方向に真空領 域を挟み込むことで周期的な薄膜として取り扱う模型を用いる。

本研究では2つの物質の

(100)

面と

(111)

面がでるようなスラブ模型を構築し、計算を行なった。それぞれの 面で切断した際に面に平行な方向を

x,y

軸とし、垂直な方向を

z

軸とする。(100)面のスラブ構造は

NiCo,Pd

に、x,y軸方向に格子定数の

2

2

倍、z軸方向に格子定数の

5

(真空層 6

層+バルク層

4

層)とした。1層とは 原子層のことである。(111)面のスラブ構造は

NiCo,Pd

共に、x軸方向に格子定数の

2

2

倍、y軸方向に格子定 数の

6

倍、z軸方向に格子定数の

5

(真空層 5

層+バルク層

4

層)とした。

(100)

面の計算では

k

点を

4 × 4 × 1

とし、(111)面の計算では

k

点を

4 × 5 × 1

とした。収束条件

(EDIFF)

に関し ては

(100)

面は

10

5、(111)面は

10

6とした。エチレン分子及び最下層を除く表面原子層については原子座標の 構造緩和計算を行う。原子は全ての方向に構造緩和出来るようにした。

吸着エネルギーを計算するにあたって、3つのスラブ模型を形成した。例として、NiCo(100)に対しての

3

のスラブ模型を図

2

に示す。左から、金属表面と

C

2

H

4、金属表面、C2

H

4の図である。これら3つのスラブ模型 を使って吸着エネルギーを計算する。吸着エネルギー

E

adは、

E

ad

= (

E

(N iCo+C2H4)

) (

E

(N iCo)

+ E

(C2H4)

)

(1)

と表される。E(N iCo+C2H4)

NiCo

C

2

H

4

)

を合せた系の全エネルギー、E(N iCo)

NiCo

表面を構造緩和し た清浄表面の全エネルギー、E(C2H4)は孤立

C

2

H

4分子の全エネルギーである。このとき吸着エネルギーは負で 与えられ、負の値は吸着状態が安定(吸着が発熱的)であることを意味する。

差電荷密度とは安定構造の電荷密度からこれらと同じ構造の孤立エチレンと清浄表面の電荷密度を差し引いた ものである。その差電荷密度を使って

Pd

NiCo

のそれぞれの

atop

サイト

bridge

サイトのエチレン分子が表面 とどのような吸着をするのか確認した。

2:

スラブ模型

(左:NiCo+C

2

H

2、中:NiCo、右:C2

H

2

)(Ni:灰、Co:青、C:茶、H:桃)

(3)

3 結果

まず

(111)

面の結果について説明する。(111)面では

Pd

NiCo

の安定な吸着構造は異なった。NiCoでは

3

の原子に囲まれるような吸着サイト

3H

が確認できたが、Pdではこの位置を初期構造として計算を行っても別の 構造(atop)に緩和した。図

3

3H

サイトの図である。灰色は

Ni,

青色は

Co

を表していて、大きい球は表面第 一層目の原子、小さい球は表面第二層目の原子を表している。一方の

C

Co

あるいは

Ni

原子の直上にあり、も

1

つの

C

が3つの原子に囲まれる点の直上にある構造である。atop(A)

short-bridge(SB)

の吸着サイトは両 方の表面において確認することができた。

安定な吸着サイトの順という観点からいえば、

Pd

の場合は

Pd-SB, Pd-A, Pd-LB(long-bridge)

の順に安定であっ たが、NiCoの場合は

3H, Co-A, Ni-A, CC-SB, NN-SB

の順に安定であった。Pd-A, Co-A, Ni-Aはそれぞれ

Pd, Co, Ni

上に

C=C

軸の中点が乗る

atop

構造である。CC-SB,NN-SBはそれぞれ

CoCo,NiNi

間の方向に

C=C

の結 合が向く構造である。吸着サイトごとの吸着エネルギーによって分類すれば、

atop

では

Co(-0.96eV), Ni(-0.82eV), Pd(-0.76eV)

の順に安定である一方、

short-bridge

サイトでは

Pd(-0.91eV), Co(-0.81eV), Ni(-0.76eV)

の順であっ た。Pd(111)表面と

NiCo(111)

表面の吸着エネルギーの差はせいぜい

0.2eV

程度であり、例えば

Pt(111)

面への 吸着エネルギーが

atop

で-0.76eV, short-bridgeサイトで-1.21eVであることを考えると、Pd

NiCo

の差はそれ ほど大きくないと言えるのかもしれない

[4]。しかしながら、吸着サイトという観点からは、Pd

では

short-bridge

が最安定サイトであるのに対し、NiCo

short-bridge

サイトは得られた安定サイトの中で最も不安定なサイトで あったことなど、その傾向は大きくことなった。

差電荷密度から

Pd, NiCo

共にエチレン分子が

atop

サイトでは

π

結合、bridgeサイトでは

di-σ

結合を形成す ることを確認した。

次に

(100)

面の結果について説明する。(111)面と同様に

(100)

面も

Pd

NiCo

の安定な吸着構造は異なった。

Pd

の場合は

(111)

面と同様に

short-bridge

サイトが最安定であり、続いて

atop

サイトが安定であった。一方で

NiCo

では、atopサイトや

short-bridge

サイトも準安定サイトとし存在するものの、それらよりも

3fold

サイトや

4fold

サイトが安定であり、安定な吸着サイトの傾向は

Pd

とは異なった。図

4

3fold

サイトの図である。図

3

と同様に灰色は

Ni,

青色は

Co

を表していて、大きい球は表面第一層目の原子、小さい球は表面第二層目の原子を 表している。3H

3

つの原子で構成される直角二等辺三角形の中に

C=C

軸の中点があり、C=C軸が斜辺に平 行な構造である。short-bridge

atop

サイトよりも

3fold

サイトが安定であるという傾向は

NiCo(111)

面でも見 られた傾向であり、この観点から言えば

NiCo

Pd

はエチレンに関して異なる吸着特性を持つ表面であるといえ る。こうした違いは、1つには格子定数の違いに関連すると思われる。NiCo

3fold

サイトに置いた時の

C=C

間の距離は

1.46[˚ A]

であった。NiCoの原子間距離と

C=C

間距離の比を

Pd

の場合に換算すると、C=Cの距離が

1.65[˚ A]

と計算できる。このような格子定数(原子間距離)の大きな違いによって軌道間の相互作用も大きく異な

り、その結果吸着構造の安定性にも影響したものと考えられる。

差電荷密度から

(100)

面でも、Pd, NiCo共にエチレン分子が

atop

サイトでは

π

結合、bridgeサイトでは

di-σ

結合を形成することを確認した。

4 まとめ

第一原理計算を用いて

Pd

NiCo

Pd

NiCo

(111), (100)

面の

C

2

H

4分子の吸着サイトと吸着エネル ギーについて計算を行った。次の結果が得られた。

(4)

3: NiCo(111)

3H

4: NiCo(100)

3fold

サイト

これまで多くの報告がある

Pd

表面のエチレン吸着について、既存の計算よりも高精度な計算を実行した。

特に吸着エネルギーについては、面積にして既存の計算の4倍の単位胞を用いたことにより、吸着子間相互 作用がほぼ無視できる低被覆率極限の吸着エネルギーを得ることができた。

NiCo

Pd

(111), (100)

面で

π

結合と

di-σ

結合を確認できた。これまで報告されていた

Pd

についての 結果を再現しただけでなく、合金である

NiCo

についても

Pd

Pt

などと同様のこれら

2

つのモードを確 認することができた。

NiCo

では

3H(hollow)

サイトを確認できたのに対して

Pd

3H

は不安定なサイトである結果が得られた。

Pd

ではこれまで報告されていたように、di-σ結合をとる

short-brige

サイトへの吸着が安定であったが、NiCo では

atop

short-bridge

よりも、Pd

Pt

等では不安定サイトであった

3fold

サイトが最安定となった。

NiCo

Pd

における吸着構造の違いを、局所状態密度を用いて電子構造の観点から議論した。atop吸着の 吸着エネルギーは局所状態密度の

d

バンド構造との間に単純な相関が見いだされた。一方で

short-bridge

イトの安定性については、d軌道成分に分解した詳細な検討の必要性を指摘した。

参考文献

[1] An Pang Tsai, Satoshi Kameoka and Yasushi Ishii : J.Phys.Soc.Jpn. 73(2004) 3270 [2] http://cms.mpi.univie.ac.at/vasp/

[3] http://www.geocities.jp/kmo mma/crystal/jp/vesta.html

[4] Ramchandra M. Watwe, Randy D. Cortright, Manos Mavrikakis, Jens K. Nøskov, and James A. Dumesic

: J.Chem.Phys. 114(2001) 4663

図 1: DOS の比較 (NiCo(青), Pd(紫)
図 2: スラブ模型 (左:NiCo+C 2 H 2 、中:NiCo、右:C 2 H 2 )(Ni:灰、Co:青、C:茶、H:桃)

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