永星浩一
目次 1.はじめに 2.モデル 2−1期待品質 2−2需要
2−3リザベーション品質 3.利潤最大化条件 4.むすび
1.はじめに
現実の市場では,一般に商品の価格や品質に関する情報が不完全であり, これに即して従来の経済理論は,さまざまな修正を施されてきた。特に価格 に関する情報問題は,数革で正確に表わすことができるため, Stigler の先 駆的論文〔5〕以来,多くの研究者によって詳細な分析が行なわれている。
一方,品質に関する情報問題は,その数量的な取り扱いの難しさによって, 比較的未発達の状態にある。本稿は,この品質問題を分析する。
P.Nelsonの分類によると,商品は買手が店頭でその品質を確認すること ができる「探索財」と,実際にその商品を購入し,消費しなければ品質を知
ることができない「経験財」とに分けられる。しかしながら,調理器具や写 真機のように,購入に先立ってその性能をテストし得る商品であっても,普 通そのようなテストによって獲得できる品質情報は一部分に過ぎない。この
ような商品は,購入後しばらく商品を消費することによって,完全な品質情 報を獲得できると考えられる。また,ビデオソフトや書籍などは,初めから 終りまで通して見ない限り,真の品質を知ることができないという意味で
「経験財」的であるが,買手が視聴あるいは立読みをすることによって,あ る程度の品質情報を獲得できるという意味で「探索財」的でもある。
このような商品の分類には,耐久財か否かとか,購買の頻度とかいった要 素が考慮されるが,結局のところ完全な分類を行なうことはできない。それ は,各商品が商品そのものとしてのハードウェア的側面と,使用価値を生み 出す体系としてのソフトウェア的側面を持つからて、ある1)ソフトウェア的側 面から商品をみると,あらゆる商品は「経験財」である。例えば,内容がつ まらない事を理由に,ビデオソフトや書籍を返品することはできない。逆に,
ハードウェア的側面から商品をみると,あらゆる商品が「探索財」的になる。
家電製品はもちろん,ビデオソフトや書籍もまた,ハードウェア的品質問題 に問題を絞ると,庖頭における品定めや購入後におけるクレームによって,
より良い品質の商品を獲得できることから「探索財」的である。例えば,書 籍は落丁・乱丁がある場合,取替えることができるし,ビデオソフトも製造 上のミスによる破損や画質の乱れは交換(クレーム)の対象になる事など,
このことを示している。
クレームは商品購入後に買手によってなされるのであるが,一般にクレー ム対象となる品質上の問題は,ハードウェア的品質に関するものに限られて おり, クレームにかかる諸経費は売手負担となる。このことから結局, クレ ームは庖頭における品定めの延長と考えることができる。もしも,クレーム がコスト無しに無制限に許されるならば,商品の品質のばらつきは生産上避 けられないことから,最高品質の商品以外はクレームによる交換ないしは修 理の対象となり,当該企業にかかるクレームコストは莫大なものとなるであ ろう。しかしながら,買手にとってクレームは,売手負担となる実費のほか に,商品が戻るまでの閉その商品を消費できない事などの不効用(コスト) が生じるため,回数が限られたものになる。また,一般に売手はクレームを 受け付ける品質の限度,すなわち,それより低い品質のときに限ってクレー
ムに応じるという基準を設ける。例えば,商品の保証期限の設定はこれにあ たる。
商品のハードウェア的品質問題については,典型的な例としてビデオディ スク (VD) ソフトを挙げることができる。 V Dソフトは,近年急速に市場 を拡大してきた分野であるが,その映像品質については,初期の段階におい て技術上の問題によりかなりのばらつきが存在した。しかしながら,これを 購入する買手の側も,どの程度の不良で、あればクレームするかという点でば らつきがあるために,現実にクレームされた不良品は一部分に過ぎない。こ のような例はV Dソフトに限らず,技術的には必ずしも完成の域に達してい ないにもかかわらず,市場戦略上発売される商品について一般的にみられる。
特に注意すべき点は,このような商品は共通して製品差別化が顕著で、,少な くとも発売当初においては,当該商品市場が企業にとって独占的となること である。
本稿は,商品のハードウェア的品質に問題を絞って分析を進めていくこと にする。
〔注〕
1 )ハードウェアはコンビュータ=システムを構成する物理的機械装置をあらわし,ソフ トウェアはプログラムやコンビュータの利用技術をあらわす言葉である。もっとも,前 者が純粋なハードウェア的品質のみから成り,後者が純粋なソフトウェア的品質のみか
ら成るわけで、はないので,これらの用語は比聡的に用いられているに過ぎない。
2 . モ デ ル
分析の対象となる商品は,技術的に不完全で,品質的にかなりのばらつき を持つものである。品質が基数的に取り扱えるものとすると,市場においで ある分布を示す。消費者は, リザベーション品質より低い商品を購入したと きは, クレームを行ない修理・交換を要求する。リザベーション品質は,最 高品質qhと最低品質qlとの間で一様分布しているものとする。また,単純 化のためクレームは1回限りとする。
2‑1 期待品質
市場ピおける品質の累積分布関数を F(q)とする。売手は ,qc以下の品質 の商品に限つだクレームを受け付けるものとする。買手のリザベーション品 質を考慮、に入れず ,qc以下の品質の商品は必ずクレームされるものと仮定す ると,購入時における買手の期待品質は平均品質q以上となる。これを詳し くみるとつぎのようになる。
(1) 企業がクレームを受け付けないとき,すなわちqcくののとき, 期待品 質E(q)は平均品質d仁一致する。
(2) 企業がqc>qなるクレーム受け付け品質を設定するとき,いかなる qc
についても,期待品質はつねにqc=qのケースのそれに等しい。なぜなら ば,(q, qc)の範囲の品質を獲得した買手はクレームによって qの品質し か期待できないので,クレームを行わないからである。したがって,企業 のクレーム受け付け品質qcの範囲は ,qcε(q{, q)と考えることができる。
(3) ひとたびqcモ(q{,q)にクレーム受け付け品質が設定されると,期待品質 はdより高くなり,その単調増加性より ,qc=qのケースにおいて最高と なる。実際,
qc以下の品質の商品は,クレームされるものとすると ,F(qc)の範囲に入っ たものはクレームによって再びdの期待(平均)品質をもつことになる。
r q> qcでクレームしない買手の平均品質は,
E(ω F(qo) ‑F(qc) =1‑F(qo)を満たすら lq三三qcでクレームする買手の平均品質は ,q.
すなわち,
K叫 1‑F(qc)) . F‑1(liアω)+内 c)• q. (1)
以上のことから ,dE(ψ/ぬcミOであることが示される2)よって,期待品質
E(q)は,企業がクレームに応じる品質制限qcが上るにつれて上昇する。
2‑2 需 要
潜在的消費者の総数を nとする。リザベーション品質は,最低品質qlと最 高品質qhとの間で一様分布しているものと仮定したので, 2‑1で考察した 期待品質との関係で,つぎのことがいえる。なお, リザベーション品質の累 積密度関数は G(q)とする。
(1) qc= qlのとき
‑1( 1+F(q1)̲ ¥ 一一一
E(q) = (l‑F(ql))・F‑1¥.l T '2¥Ill/ )+ F(ql) • ij= q すなわち,期待品 質が4であるので, リザベーション品質がd以下の消費者,すなわち n' G(併 す 人 が 買 手 と な る 。
(2) qc= ijのとき
E(q) = (1一時))・ F‑11(7(小F(ij)• ij=ヰ 互 こ こ で , を= Fぺ子)もちろん互>ijで あ る の で , 与 主 > い っ て , リ ザ ベーション品質が与えまでの消費者が買手となる。仮定より,
E(q) ‑
G(E(q) )ー のであるので,
qh‑ql
G(E(q) )一 d+{j‑2qtーよ(g‑=‑q~ +主コ斗
‑ 2 (qh ‑ql) ‑ 2 ¥ qhーの qhーの}.
すなわち ,n‑C(E(q))寸 ( + + 詐τ)人が購買する。
n L ) nfl 万+Oz ¥ F-l の性質(単調増加)より,需要は一ーから一一(一+~ム~l まで,2 I.,/ ' J 2¥2 I qhーの/
qcの増加につれて単調に増加することがわかる。
2‑3 リザベーション品質
前節まで, リザベーション品質を所与とみなしてきたが,本節ではこのリ ザベーション品質について分析を行なう。
一般に, クレームにかかる輸送費などの実費は売手の負担となるが,消費
者には実費以外につぎのような費用が生じる。
①実際に商品を入手し消費するまでに時間がかかる。
②クレームのため販売屈を訪れるなどの手間が生じる。
③売手との対応などで,精神的に不効用が生じる。
リザベーション品質とは, クレームすることによって期待される品質の上 昇とクレームにかかる費用を考慮、した効用が,クレームを行なわないときの 効用と無差別となるような品質である。したがって,買手はリザベーション 品質以上の品質の商品が得られるまでクレームを続けることになる。ここで は,クレームは何度でも繰り返すことができるものとする。また, クレーム 受け付け制限qcはクレーム回数とクレーム費用 Ccに影響を与えるものとす
る。
まず, クレーム制度が存在しないとき,ある個人がこの商品を購買する最 低の品質をqaとする。ここで,qaはこの買手のリザべーション品質 (qaよ
り高い)とは異なることに注意する。この個人の効用Uは獲得された品質q に依存する。こうして,効用Uはつぎのようにあらわされる。
U(q) = q‑qa (2)
すなわち,品質がqaのとき U(qa)= 0で,Uはqに関して単調増加である。
クレーム回数は,得られた品質が,ある品質G以上になる確率の逆数から 1 を引いた(初回の購入はクレーム回数に入れない)ものである3)しかしなが ら,これは q~三 qc である限りであって, q> qcのケースは qc以上となる 確率の逆数から1を引いて求められる。すなわち,
向 山 l ‑ 1
1‑F(a)
(3)
。
>qcのとき l ‑ 1言い換えるならば,クレームは,現在獲得している品質を放棄して新たな品質 の商品を手に入れることであるのてコ価格探索でいっところのリプレイスメ ントによる探索と同じ性質を持つはずで、ある。このことは,試行回数(クレ
ー ム 回 数 +1 )が,買手の希望する範囲に品質が入る確率の逆数1/1‑F(企) で表わされることを意味する。
クレーム費用は,クレーム受け付け制限qcに依存すると考えて,関数Cc
= Cc(qc)であらわされるとする。すると総クレーム費用は,
│仰).壬。qcのとき l‑F(F(q) 企)
Cc(qc)・F(qc)
。>qcのとき
となる。また, クレームを行なう者の期待効用は,
(PF(q)
企亘qcのとき '$ ^. U(q)・LJ ¥11/' 1 ‑F(q)
(qh T rf ̲¥ d'F(q) q> qcのとき ‑, qc1‑F(qc) .‑U(q)・
(4)
(5)
買手がクレームによって獲得することができる最終的品質は,品質が水準
aにあるときの効用 U(q)とクレームを行なうときの効用((5)ー(4)で求まる 効用)とを等しく置くことによって決定される。
l U(q) dF(q)一 C'c(qc)・F(fj)
8壬qcのとき U(q)= ~q
^ JeiqdF(q) Cc(qc)・F(会) q = 1‑F(企)‑ 1‑F(fj)
l U(q) dF(q)一 C'c(qc). F(qc) q> qcのとき U(q)=~q
j;:)F(q)Cc(サ F(qc) q = 1‑F(qc) 1 ‑F(qc)
(6)
(7)
ここで, aが一意的に存在することが確かめられなければならない。実際,
(6)式に関して,
的 )= U(q). (1 ‑F(ω‑lqh U(q) dF(q) + Cc(qc) . F(q)
とおくと,
~'(q) = U'(q)(1‑F(q)) + Cc(qc)・F'(q)> 0
となる。このことは ~(q) が単調増加であること,すなわち,
, ql ご(ql)く0, , q2; ~(q2) > 0
であることを意味する。したがって, 。は一意的に存在する。また, (7)式に 関しても同様で・ある。
(6)式は,クレーム受け付け制限qcが買手のクレームを妨げないケースで あり,このような買手はもともと低品質に対して受容的で, クレーム費用
Cc(qc)が高い買手であると考えられる。 (6)式より,買手のリザベーション品 質。は,クレームすることにより期待される品質から期待クレーム費用を差
し引いたものに一致することがわかる。)
また(7)式は,クレーム受け付け制限qcが買手のクレームを妨げるケース であり、このような買手は低品質に対して拒絶的であって, クレーム費用
Cc(qc)が低い買手であると考えられる。 (7)式より,該当する買手の最終獲得 品質は,リザベーション品質がqcであるような買手のそれに一致する。もち ろん ,qC= qhとしてクレーム受け付け制限を除くと,このような買手のリザ ベーション品質も(6)式によって求まる。このリザベーション品質は ,q> qc
となるような買手の,真のリザベーション品質である。
結局, リザベーション品質。は品質分散F(q)と消費者自身のクレーム費 用Ccに決定的に依存する。2‑1節において考察した期待品質の性質から明ら かなように,クレームを繰り返すことによって期待品質は上昇する。しかし ながら,クレーム費用の存在により,クレームは有限回となる。 ((6)式より Cc = 0とすると O=qhとなる。このときクレーム回数は無限回である。)
当該商品が繰り返し購買されるものであるならば,q> qcとなるような買 手は2度目以降購買するか否かの決定を行なつことになる。実際,真のリザ ベーション品質。と最終獲得品質 qcの講離が大きい程 2度目以降は購買
しない(市場から出ていく)確率が高くなるであろう。
しかしながら,当該商品が1度限り購買されるものであるとすれば, リザ べーション品質が企 >qcであるような買手であっても q,;‑玉E(q)である限 り,見かけの期待品質E(q)につられて購買するであろう。このような買手 は,購買した商品に対して不満を持つ可能性はあるが,結果的に購買するの であるから需要の一部を構成することに変りはない。
次節の,企業の利潤最大化条件を分析するにあたっては,簡単化のため購 買は1回限りとし,クレーム受け付け制限qcは事後的にしか買手に知らさ れないものとする。これによって, リザベーション品質は,クレーム受け付 け制限qcに依存しないものと仮定して,分析を進めることができる。
〔注〕
1 )リザベーション品質とは,追加的クレームによる期待効用の上昇分からクレーム費用 を差し引いたものが, クレームを行なわないときの効用と無差別となるような品質。詳 細は 2ー3節参照。
2) qc, ij聞の平均値をqlとする。すなわち 叫 F(ql)‑F(qc) =を‑F(の)をみたす。
上式より~_D‑dl+ 2F(qcL¥
引 A ¥ 4
+ 2F(qc)
」こで, Q(qJ‑ 4 c とおくと,
dql ̲ dF‑l dQ '‑1¥ ( " " dF‑1 '‑1¥ dQ ¥ 一一一一一一一一一一一>dqc dQ dqc ~ 0 ( ":‑一一一一>0 一一一一>0 1
v ' " dQ ~ v, dqc ~ V J
つぎにq2をd以上の平均値とすると,前述ののとあわせて ,ijoの項を2分割して表わ すことができる。すなわち ,E(q)は以下のようになる。
E(q) ~ F(qc) . ij + す‑( F(qc) ) . ql +ド
上式を qcで微分する。
dE(q) ̲ 17"1̲¥ 17"1̲¥ ̲ ,(1 17'1̲¥¥
つ 了 一=F'(qc)・ij‑F'(qc). ql + (τ ‑F(qc) )・め
ι"'1c 、 '
= F'(qc). (ij‑q川を‑F(庇))め>0
3 )平均的に必要とされる試行回数は確率の逆数である。例えばサイコロを振って5以上 の目が出る確率は1/3であるが,この逆数3は5以上の目が出るために平均的に必要と
される試行回数である。
4 )この式は,品質を基数的に取り扱うことができ,さらにクレーム費用 Cc(qc)と同じ 単位で比較できるといっ仮定の下に成り立つ。
3 .利潤最大化条件
1節で述べたように,本稿の分析対象である技術的に不完全な商品とは,
全く新しいタイプの商品であることを意味する。したがって先発企業にとっ て当該商品の市場は初期段階において独占的な状態にあると考えることがで
きる。本節では,このような商品を生産する企業の利潤最大化条件を考察す る。分析にあたって,簡単化のため以下のように仮定する。
(1)リザベーション品質は品質qlから品質qhまで一様分布しており, 外生 的に与えられるものとする。
(2)クレームは,品質がqc以下である限り 1回だけ可能で、あるとする。た だし ,qcの意味としては,消費者による過剰品質の要求,ならびに,た めにする偽装的クレームを排除するための基準と考える。
(3)消費者はすべて危険中立であるとする。
図1のように, クレーム受け付け品質 qcを境にクレームされる確率が 異なる。すなわち ,qc以上のリザベーシヨン品質をもっ消費者は ,qc以下の 品質の商品に対して100%の確率でクレームを行なつが,qc未満のリザベー ション品質をもっ消費者は ,qc以下の品質の商品に対して必ずしもクレーム を行なわない。 リザベーション品質が qc未満の消費者が, クレームを行な う確率は, リザベーション品質がののとき 0で,qcにおける F(qc)まで単 調に増加する。(図1 ‑③)
各リザベーション品質をもっ買手がクレームを行なう確率は,図1‑③に 示される通りである。特にqlqc聞の曲線上の空白部分は,低品質商品を購買 しながらクレームを行なわない部分である。企業にとって元来コストになるべ き部分が,実質上コストにならない1)
当該商品の品質に対するリザベーション品質がq(ε(ql,qC))である買手
図1 ①品質の分布(正規分布の場合)
ql qc q qh
i②リザベーション品質の分布(一様分布)
霞
o ~ E ( q q h
F(qc)
O
F 買手となる消費者 不 買手とならない消費者→:
:
←qc以下て恥も,必ずし一米qc以下の時号
! もクレームするとは 1必ずクレーム!
i 限らない消費者 iする消費者 1
!③クー…ム線部
ql qc E(q)
購買しない
qh
が, クレーム対象となる商品を買う確率は F(q)である。また, リザベーシ ョン品質がq'(ε(qc,E(q)))であるような買手が, クレーム対象となる商品 を買う確率は F(qc)である。もちろん ,q"(ε(E(q), qh))であるような消費 者は買手とはならない。したがって総売上げをZとするとき, クレームされ
る量は次式のように表わすことができる。
z.F(ωL(qC F(q) dq + (E(q)一氏)}
E(q)ーの ここでF(q)三 lとすると(8)式は,
qc‑ql+ E(q) ‑qc
Z ・F(qc). E(q)ーの
=x ・F(qc)
(8)
となる。この仮定は ,qc以下のリザベーション品質をもっ消費者が危険愛好 者で, リザベーション品質に関係なく,クレーム可能な商品を100%の確率 でクレームすることを意味する。このよつなケースは前述の仮定(3)によって 排除される。
次の条件が成り立つことに注意する。
I"qc
'‑‑F(q) dq+ E(q) ‑qc
Oく JHt くl
E(q)ーの
したがって,当該商品の総生産量をUとすると, クレーム補償によって実際 の売り上げzはU以下となる。これを図示するとつぎのようになる。
/ 〆C 7二ニ手ミメ¥
上の図から xとUの関係は次式のよフになることがわかる。
1" qc
l F(q) dq + E(q) ‑qc
y = x. F(qc)・J q Er.(1̲q).¥ ‑ql + X (9) ここで(9)式のqcに依存する部分を新たに関数H(qc)て定義する2)すなわち,
l rqc F(q)dq+ E(q) ‑qc H(qc) = F(qc)・q t FiA ,H
これを用いで(9)式を次のように変形することができる。
Z ‑ U
‑ 1 +H(qc) (10)
価格が売上量Zに依存するものとし, ρ(x)とおくと, (10)式より総売上額は,
ρ(z).Y 1 + H(qc)
) 4aEA
t ‑A
(
また,費用は総生産量yに依存するので,費用関数を C(y)であらわすと,
利益πは次式で与えられる。
π=ρ(x). x ‑C(ρ(x)・(1 + H(qc)) )
収益Rは(11)式によって与えられる。よって限界収入M Rは, MR=空 =ρ'x'+ρ'x
αy
^. I 1 I X dp 1 ¥
‑ Y ¥ 1 + H(qc) Iρ dx ‑T+ H(qc) )
)
ny λU 4E EA
(
ρ dゅ
需要の価格弾力性を e=一一一・‑Fーとおくと,
x a:ピ
MR=p.{l〆、 1 ,.̲1̲)
¥ (qc) 1 + H(qc) e J
) n 4 υ
eEEA (
(
13)式は,品質問題を包含した形での独占的均衡条件である。 qc= qzすなわ ち売手がクレームを受け付けないとき, (13)式は従来の公式に一致する。
(・.・ F(qc)= 0より H(qc)= 0)
つぎに具体的に図示する。まず需要曲線Dがρ=α‑bxで表わされるよ うな直線のとき,限界収入曲線は,
MR=五手並 d(ax‑bx2)
。y ay
=(α ‑2bx)・ 1 1十H(qc)
︑ ︑ l'
( ‑aaA 仙a nA
よって ,M Rの傾きはー2b.1 + H1 (qc) で 切 片 は¥., ~J Fl icl‑αU ‑・1 + H(qc) である。
πは(12)式より y及 びqcに依存することがわかるので,これらに関して利 潤を最大にするような条件を求める。まず yに関してはつぎのようにな る。
dπ , ( 1 1 1¥ dC
dy ‑j/ ‑ ¥ 1 + H(qc) 1 + H(qc) ‑e } dy ‑V 1(5)
(15)式により, 品質問題を内包した限界収入と限界費用が一致するところで独 占利潤が最大になることがわかる。つぎに, Qcに関して利潤最大化条件をみ るが, その前にH(qc)について dH(qc)/dqc> 0と仮定する。すなわち, ク レーム受け付け品質の引き上げにより, クレーム対象商品中に占める実際に クレームされる商品の割合が増加するものと考える。
dπ ,dρ dx . .I A dx dC dy dx
一一一一一一一・一一一・dqc dx dqc ' "x+I ρY ・一一一一一一一・一一一・一一一‑dqc dy dx dqc
表 (ρ(l‑t)一(1+ H(qc)) C'(y) } = 0 1(6)
(
16)式より,利潤を最大にするような条件において, クレームすなわち H(qc)
の存在は, (1日式のように限界収益を引き下げるような形か, あるいは(16)式の ょうに限界費用を引き上げるような形で関与することがわかる。もちろん(15) 式においてqcは一定であり, (16)式においてyは一定である。結局, クレーム に関してみるとき, これら 2式は実質上同じことを示している。(図3)
図2はクレームが行なわれないケースであり,通常の独占的均衡を図示し たものである。また,
Price a
O
図3はクレーム受け付け制限qcがqのケースである。
図2 (qc= q/ (H(qc) = 0)のケース)
需要曲線
e < 1
G
b
MC
qtωntity
Price 図3 (qc=仰 (qc)=す)のケース) ただし,MC(y) = C'(y)
MC(qc> = (1 + H(qc)) C'(y)
MC(qc) MC(y)
O 1二MR(qc=ij)
2b a b quanti,か
Mddua n p
図4
(qcがql,q E (ql, q), qの3ケース)
船一 町 曲 一用一 費 一 均 一平一 (‑
C一A一
。 qt仰ttlty
このとき限界収入曲線あるいは限界費用曲線のどちらがシフトするかは,
前述のように企業が(y,qc)のどちらについて利潤の最大化を行なうかとい う事にかかっている。図3で示されるように,いずれにしても同ーの価格ん に導かれる。
図4は3つの水準のqcについて企業の利潤最大化をみたものである。こ こでqcの3つの水準とは ,(q ,z qε(qtq), q)を表わす。限界収入曲線は傾 きが大きい順にこれらに対応する。さらに 2ー2節でみたように qcの上昇 につれて期待品質が上昇し,需要曲線は上方にシフトする。当該企業は独占 企業として行動し,限界収入曲線M Rと限界費用曲線M Cとが交わる点で販 売量を決定する。図4から明らかなように,クレーム受け付け品質qcがの から dに近づくにつれて,価格水準はhからんへ上昇する。またこれにつ れて販売量は小さくなる。このょっに,クレーム補償により生じる費用は価 格に転嫁されることがわかる。
図4で示される例については,クレーム受け付け水準が互 ε(qt,q)のとき 独占利潤が最大となる。このときの価格は ρFで,販売数量は x'である。こ のように企業は独占利潤が最大となるようにクレーム制限qc刊の,q)を決 定するが,この水準は需要曲線と限界収入曲線のシフトの程度に依存する。
すなわち,最適クレーム水準は品質分布とリザベーション品質の分布に決 定的に依存する。
ここまでは市場が当該企業にとって独占的な状況にある段階のみを分析し てきたが,さいこ、に競争関係についても言及する。
前述の独占利潤は,新たな企業の参入に伴なう需要曲線の下方へのシフト によって,長期的には消滅することになる。しかしながら先発企業と新規参 入企業との間に技術的な格差が存在する限り,先発企業はクレーム制限qcを 引き上げることによって増加する需要を独占的に獲得することができる。も ちろん,それに際して先発企業は,平均品質の上昇が自社商品に限られるこ とを充分フ。ロモーションする必要がある。
〔注〕
1 )このような「低品質に甘んじる」消費者の存在は,企業がクレーム制度を採用する上 でのメリットの1つである。逆に後述の, リザベーション品質が(qc,E(q))にあって 品質に不満を持つ可能性がある消費者の存在は,悪評による需要の減少を招くという点 でデメリットとなる。もっとも,本稿はこの需要の減少効果を考慮、しない。
2) H(qc)はクレームされる割合を示し ,qcが高くなるにつれて増加も減少もしうる。実
際図1及 び(8)式より ,qcが高くなるにつれて,クレーム対象商品および需要が増加する 一方, クレーム対象商品でありながらクレームされない商品も増加するため, クレーム 対象商品全体に占めるクレームされる商品の割合の増減は,品質の確率分布とリザベー
ション品質の分布に決定的に依存することがわかる。
4 . む す び
本稿は,市場において商品の品質にばらつきが存在し,売手も買手もこの 品質情報を不完全にしか把握できないときの消費者行動および企業の最適化 行動を中心に分析を進めてきた。
消費者は,商品を購入し消費することによって品質を知ることができ,低 品質商品についてはクレーム(修理・交換の要求)を行なう。消費者はクレ ームの機会費用において異なるので, クレームを行なう品質水準も異なるこ とになる。この品質水準(リザベーション品質)の決定公式は 2‑3節(6)・(7) 式によって示される。ただしこれらの式は,品質を基数的に取り扱うことが でき,さらにクレーム費用と同じ単位で比較できるという仮定を必要とす る。
ひとたびリザベーション品質の分布が確定すると,品質に対する評価にお いて異なる全ての消費者はこの分布に置き換えることができる。さらに,商 品の品質分布はサンプリングによって知ることができるのてv企業は3節に おいて分析されたょっな利潤最大化行動をとることになる。計算の都合上と られた簡単化のため,この分析において示された例からは,利潤最大化行動 の詳細な検討を行なうーことはできない。もっとも 3節の目的は品質のばら つきによって企業の最適化行動が受ける影響の一般的傾向を確かめることで あり,その意味では十分な例といえる。
企業の利潤最大化行動については,商品品質の分布およびリザベーション 品質の分布のさまざまな例に関してコンビュータによるシミュレーションを 行ない,詳細に検討することができるであろう。この問題は,本稿において 取り扱わなかったソフトウェア的品質の問題とともに今後の研究課題とした
しE。