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附属静岡中学校「追求」における人間形成のための 国語科書写の追求

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(1)

附属静岡中学校「追求」における人間形成のための 国語科書写の追求

著者 杉? 哲子

雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要

22

ページ 1‑10

発行年 2014‑03‑31

出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター

URL http://doi.org/10.14945/00007793

(2)

静岡大学教育学部附属教育実践総合 セ ンター紀要

No22 p l〜 10(2014)

論文〉

附属静岡中学校「追求」における人間形成のための国語科書写の追求

Pursue the language

杉崎 哲子

arts  Shosha for human being formation dy "Pursuit"of the affiliated Shizuoka junior high school

Sak■ o Sugizaki

概要

:書

写学習は 日常的に文字を正 しく整 えて書 くことをめざして系統的に行われるが、特に毛筆学習が 作品制作に留まっている例 も多 く、 日常化 とい う点では充足 されているとは言えない。また今後の書 写教育が新たな位置づけと存在意義 を見出すために、 「書 く」 ことの本質の解明が急がれている。

筆者は、静岡大学附属静岡中学校 の「追求Jにおいて、生徒が書き文字を通 して 自分を知 り自分の思 いを主体的に表現す るとい う授業 を試みた。静中では、「人間形成のための学力を育む」ことをテーマ に研究を進めてお り、総合的な学習では、大学 との連携によつて教科の学びをよ り発展的に追求 し、

自己の思いをより深 く表現 したい子 どもたちに応 える趣 旨で、「追求」の時間を設定 している。本論で は、この実践を通 して「人間形成のための学力」としての国語科書写を追求 してい く。

キーワー ド 書写

 

人間形成

 

主体的な学び

  

迫求 書表現

中学校 における書写学習の位置づけと課題 中学校国語科書写では、小学校の基礎・ 基本の学習 をもとに書写力の向上を図 り、 日常生活において書写 力を活用す ることが求め られている。 しか し技能的な 個人差が大きく、既 に苦手意識 を持つ生徒の場合は、

躍進的な進歩が望めない限 り主体的な学習 につなが ら ない。仮に展覧会出品を当面の具体的 日標 に据 えた と ころで、腕 に自信のある生徒でない と取組みの姿勢の 高場は期待できず、気乗 りしないまま書いて作品を提 出するだけ とい うのでは、む しろ逆効果である。

書写力の 日常化は学習指導要領で も強調 されてお り、

その実現 を目指 し全国の学校 において主体的な学びが 研 究 されているV。 例 えば 日常的な書写活動 として手 紙を書 く場合には、読み手に向けた判読性 を意識 して 書 く必要が生 じ、コミュニケーシ ョン能力 とい う観点 か ら書写力をとらえることになる。その場合、書 く内 容を切 り離す ことはできないのである。

そこで、前年度に附属島田中学校で実践 した 「小学 校の先生に手紙 を書 こ う」・ の ような、必然性や必要 感のある授業展開 と個々の課題解決への具体的な手だ てが重要になる。今後は、書写学習 を国語料 の単元構 想に参入 させ るなどの積極的な方策によつて、生徒―

人一人の確かな学びを保障 していかな くてはな らない。

「文字を書 く」学習の将来的展望

二つ 日の課題である書写の発展的 とらえについて追 求 してい く。 「心」の問題 を等閑視できない昨今の状 況 をふまえて、今後 目指すべき新たな国語力 としての

「書 く学習」の可能性 を、次のよ うに考えているit

は じめに

国語科の中に位置づけられ る書写学習は、書写力の 向上を図 り日常に生かすことをね らいに系統的に行わ れ る。 しか し日常化 とい う点では取 り立ての通常授業 だけでは時間的に充足 し難 く、殊に毛筆学習について は、例 えば書初めや公募展の出品のために指定 された 課題語句の作品制作を終着点にする場合 もあるなどの 課題が指摘 されている。 これ を松本は、昭和

43年

書写学習指導要領 における毛筆必修化以降の国語科書 写の 「光 と影」 と表現 し、毛筆書写が全国で広 く行わ れ るよ うになつた ことは「光」、作品主義的書写指導が 広まつたのは 「影」であると言及 しているヽ

「書 く」ことの本質の解明が急がれる・ なか、筆者 は、特に中学校国語科書写の課題を二つ挙げ、従前か

らの方向性 を大幅に見直 し「基礎・ 基本Jの定着や向 上に留まらない学習者の立場を重視 した学習内容構築 の必要性 を提言 した・ ヽ 課題 の一つは書写力の 日常化 を一層促進す ることであ り、も う一つは中学生の発達 段階の考慮 に基づ く「書 く」学習への発展である。

一つ 目の課題である書写力の 日常化については、前 年度に附属島田中学校の冨田教論や公立校の協力を得 て「国語科単元構想への参入」 とい う方策を打ちたて 実践を終えている●。

本論では、附属静岡中学校 「総合的な学習の時間/ 追求」での実践をもとに、二つ 日の課題克服の方策 と して、人間形成のための学力を育む授業 とい う観点で 国語科書写のあ り方 を追求 し、主体的な学びについて も検討 を加 える。

静岡大学教育学部

 

国語講座所属 書文化教室

(3)

杉時哲子

(ここでの 「書 く」は、 「文字を書 く=書写」 と「文 章を書 く=作文など」の両方を指 している。

)

中学の時期は、自己の否定的側面に気づかざるを得 なくなると同時に、理想 と現実のギャップに悩み何 と か理想の自分に近づ く努力を始める。 ところが性格は 思い通 りに変え られないとい うパー ソナ リテイの二重 構造が思春期か ら青年期に普遍的に現れ るため、表現 された姿 と同時に背後に隠れた姿や性差への考慮 も必 要になる

11。

真 の 「相手意識 」 を育て るには、形式 的な規範ではな く自己肯定感に基づ く「書 くJ活動 こ そが求められ、それにより主体的な学びが導かれ る。

そ こで 「文字 を書 く

J場

合 に、 自分の文字 を「個 J「自分 らしさ」 とい うよ うに考えるとい う「筆跡 的な とらえ・ 」の導入 を考 えたのである。それは決 し て 自分を現状のまま留ま らせて基礎学習を怠 らせ るこ とではない。 自分の文字を分析 し「もつと整 えたい」

とか 「勢いのある字に したい

Jと

い うよ うに向上を目 指 しつつ も、 基盤には「自分 らしさJを認める 「自己 肯定感」に基づ く学習である。道徳の学習指導要領に も「個性 を仲ば して充実 した生き方を追求す ること」

を意識 した言語活動の展開 とい う観点か ら、生徒 自身 の 自己のパー ソナ リテ ィ尊重が求め られている。

中学段階の書 き文字 を 「その人 らしさ=今後変化 し ようのない『 筆跡

X』 Jと

とらえる「文字を書 くJ学

習 とは、いわゆる「手本」を真似 るとい う教え込みの 学習ではな く、生徒の主体性や意欲の高揚が期待でき る五学習になると考える。

さらに筆者は、「文章を書 くJ学習の可能性につい ても、西郷の作文教育論lをセルフカウンセ リングに 照合 して言及 した。 「作文の 目的は人間の真実を認識 す るための方法、ものごとの本質を認識す るための方 法 を身につ けて、人間観や世界視 をつ くつてい くこ と」 と西郷が述べている。筆者の提案 したセル フカ ウ ンセ リング的な 「文章を書 く」 とは、自分をみつめ、

自己課題 として高める 「書 く」学習niiでぁる。 日常 生活 を取 り上げて書いた文章か ら自分の固定概念

(=

モ ノサシ)を見つけ認識 し、あ りのままの 自分を見つ める。 こうした 自己探求に留ま らず、 日常生活の中で、

無意識の うちに朝すれ違つた人や友だち、親や兄弟な どの「他者Jを意識 している自分がいることに気づき、

「読み手Jを意識 して書いていることになる。つま り、

自分のことを自分のために表現 している自分がいるこ とに気づき、 「読み手Jへの意識・ ことによつて、 自 分を見つめ自分 を知ることが可能 になると考える。

静岡中学校 における「国語科」の とらえ

今年度の初め、静岡大学教育学部附属静岡中学校の 内田校長か ら「追求Jの授業を担当 してほ しいとの依 頼があつた。静中では、「教科 と学びの創造

Jと

い う

主題に基づき 「教科で学ぶ

Jこ

とを、「その教科が対

象 とする世界を学ぶ ことを通 して、教材の背後にある 文化的な価値を改めて問い直 した り味わい直 した りし て 自分の中に取 り込み、人間性を育む とい うことであ

Jと

とらえている。そ して「子 どもが 自ら学び続け るために」 とい うサプテーマを掲げ、人間形成のため の学力を育む授業を展開 している。

国語科では「言葉の主体的な使 い手Jを育む学習活 動 を展開 し、学習指導要領 に記 されている国語科の 日 的をふまえなが ら、さらに「言語活動 によつて、『 言 語能力を育むだけでな く、題材 によつて子 どもたちの 心をも耕 し、人間形成に大きく寄与 していく』 ことこ そが大切」であ り、 「言葉 を磨 くことで、 自分 を磨

Jこ

とが国語科に求め られていると考えているXt

4。 「追求」授業の概要 と展開

静中 「追求」のね らいは、 「教科の学びにおいて、

より発展的に追求 し、自己の思いをより深 く表現 した い子 どもたちに応 える」 ことである″ヽ このね らいを ふまえ、書写学習 も「言語や人間、社会 、自然な どに ついて、 自分が どう生きてい くべきかな どを考えるこ とができる教科」国語科 として、総合的な国語力の育 成に貢献できると考えた。 さらに静中が取 り組む「人 間形成のための学力を育む授業」 とは、正 しく筆者が 中学校の書写の方向性 として示唆 した「自分 を見つめ 自分を知 り自分を表現す る」 とい う新 しい国語科書写 に結びつき、主体的な学びの保障にもつながつてい く。

そこで実践では、まず 「書写学習J発展的にとらえ

「文字を書 く

Jこ

とについて追求 させた。その際、字 形要素を教員側か ら提示す る通常の書写の授業のや り 方ではな く、生徒 自らが主体的に取 り組 めるよう、静 中の池田昌史教論の協力を得て次のよ うに展開 した。

 

「追求」国語 (書

)

授業者/杉崎哲子 (静岡大学

)

池田昌史 (附属静岡中学校

)

《ね らい 》

。「書Jによる自己表現 を楽 しむ。

・ 文字 を手書きす ることの意味を追求す る。

《授業計画 》

前期】

 (選

択者

3年

15名

)

は じめの一字・ 自己紹介

題材設定の理由、気を付けた ところを発表す る。

書体の変遷についての知識 を得 る。

書写 と書道について確認す る。

「うまく書くためのポイン ト」の理解 漢字の字形要素 と平仮名の形を確認す る。

「魅力的な書Jの制作 (書きたい言葉 を書き、

カ ッコよく仕上げる。

)

紙面に対す る位置や大きさを考 える。

色や装飾、筆記具や線質を工夫す る。

(4)

附属静岡中学校「追求」における人間形成のための国語科書写の追求

参考】

 

前期

3/「

魅力的な書」生徒作品

≪前期

3:魅

力的な書について ≫

…構成や書 きぶ りの工夫 によつて 「書」 を魅力的 に す るこ とに対す る感想 …

・ 自分の好 きなよ うに表現す るとい うのは初 めてだつ た。 は じめは 「きれいな字」 を書 くことを意識 した。

・ 書道 とい うものはや った ことがあるけれ ど、 こんな に も思 いつき り変化 させ た ことがなかつたので、 と て も楽 しか つた。

・ 「世界の中心で愛 を叫ぶ」 とい う言葉 を、誰かに贈 るプ レゼ ン トの よ うなデザイ ンに した。

・ 「毎 曰くだ らない ことで笑 うこと。 一 日一笑。」 と 書 き、顔 に見 えるよ うに構成 した。

・ 字 を集 めてハー ト型 を作 つた。字 の形 を考 えた時、

同 じ字 で もは らいの長 さや 、へん とつ く りの並び方 に よつて、 よ り字が美 しく見 える。表現 したかつた 感 情 を、 よ り強 く伝 え られ る と思 つた。

【 後期】  (選 択者 3年 生 9名 )

1。 「『書』本

(書

から文を紡 ぐ

)」

作 り

書きたい言葉を書き、鑑賞者である各自が主体性 をもつた鑑賞を行 う。

2。

年賀状作成

3。 大字・パフォーマンスに挑戦

≪後期 :「書本つ く り」 につ いて 》

◎手順

①思い思いに「書」を書く。②グループになつて、

その書を各自が文でつなぐ。③読み合つて味わう。

一般的 に学校教育の場 での 「書」の鑑賞 とは、書い た本人が 「題材設定の理 由」や 「工夫 した ところJを

話 し、周 囲の人が感想や改善箇所 について鑑 賞カー ド に書いた り発表 した りす るとい う形式 を用い評価活動 と して実施 され る。 しか しここでは、鑑賞者 が各 々、

主体性 をもつて鑑賞 し、文章化す る方法 を採用 した。

手順②】「一日、咲、華、継続、戦」

・ 一 日一 日を大切 に、向い くる全 ての もの と戦 いつづ ければ、最後はな りた い 自分 になれ る。 はなひ らく。継続 は力 な り。

・ 辛い ことや 苦 しい こ とと戦 い続 けるこ と で、いつか 自分だけの華 を咲かせ るこ と がで きるはず。今 日とい う一 日一 日を戦 い抜 くことで、きつ とその最高の瞬間 と 巡 りあえる、 きつ と。

・ 卒業 してか ら、 も う一年 がたつ。 ふ と思 い返 してみ る と、一 日十 日が華や か に彩 られ て い た。 た く さん の苦 しみ や 戦 い が、そ して 日々続 けてきた努力が 、今 の

後期 1/書本つくリー手順①】

私 を咲 かせ て い る。

(5)

杉崎哲子

池 田教諭 は 「バー スデ ィ・ ガール

(3年

)」 を題材 に取 り上げ、 「人間形成 のための学力 を育む授業 一子 どもが 自ら学び続 けるために一」 とい う考 え方 に基づ く 「読む ほ どに深 まる読み」の研 究実践 を行 つた。

そ こで同 じ

3年

を対象 とす る 「追求」授業では、

「書の鑑賞 を創作文の形 にす るこ とに よ り、 「書 く」

ほ どに深 主

       

をね らつたのであ る。

≪生徒の文例

/書

本一手順② 》

『星、祈 り、涙、月、天体」

・ その場所 では星が よく見えた。夜 にな る と、沢 山の星 た ちを眺 め、月 に祈 る。 それ は少年 の 日 課 だ つた。 いつか らそれ を繰 り返す よ うになつ たのかは、少年 自身 で さえ知 りは しない。少年 は孤独 だつた。少年 は確 かにそ こに居 るのに不 確 かだ つた。少年 の真 つ 白な肌 がそれ を一層感 じさせ た。少年 は時 々月を眺 め、涙 を流 した。

・ あなたは何 を祈 つています か。

涙 を流 しなが ら祈 るこ とは何 です か。

美 しい清 らか な心 で

 

今 日もあ な た は何 か を 祈 つてい る。小 さな天体 の なかで

 

あなたな ら

何 を祈 ることがで きるだろ う。

―字 を書 く時点で、書 き手の生徒 は、思いを込 めて そ の話 を選択 してい る。 「なぜ 、 そ の語 を選 ん だ の か」 とい う問いに、別の生徒は 「単純 にその語が好 き だ ったか ら」 と答 えて い るが 、 「それ を紡 ぐこ とに

よって一字―字 をよ り深 く考 え られ るよ うになつた」

と述べてい る。 ここに 「書 きJの深化 が確認 できる。

また、 自分の書いた 「書」 を、友だちが 自分の思 い とは異 なる意味に とらえてい ることに気づいている。

例 えば 「一 日」 とい う言葉 を、 ある生徒 は 「過去」 に とらえ、別 の生徒 は 「未来」の一 日に思 いを巡 らして い る。 あ る生徒 は、「継続 とい う言葉 は 、 自分 の 中で 大切 に している言葉 だ。何で も継続す る と自分 の もの にで きるか らだ。つないでみて、同 じ言葉 を使 つてい るのに、全 く雰囲気 が違 つた文章になつて、 とて も面 白い と感 じた。 それ ぞれ がその意味 を強 めていた。 」 と記 してい る。他 に も多 くの生徒が 「自分が好 きな語 を もとに して、 自分 も友達 も、それ ぞれ が想像 を膨 ら ませ てお話 を書 くのは面 白か った。 」 と書いてい る。

この よ うに文の紡 ぎ方が分かつた ところで、今後 は、

友達の書いた 「書」か ら文 を紡 ぎ、それ を毛筆 で記 し

1枚

の紙 に収 めた。 文を紡 ぎだす部分 は静 中の池 田 教諭 が支援 に 当た つた。

左 上の作品

Aで

は、 「輝 」 とい う漢字か ら受 けるイ メー ジを、憧れ の人の瞳だ と捉 えて文 を紡 いでいる。

「別 に好 きな ワケ じやない」 とい う言葉 に恋心が感 じ られ る、ほほえま しく魅力的な作品であ る。 下にある 作 品

Bは

、 「挑」 と「戦」 の語 に文 を加 え、優 しい色 合 いが添 え られ た紙 面 に、受験 を控 え努 力 してい る 自 分 を励 ます よ うな動的 な配置 が効 いて い る。

5。 国語科 の学習材 と しての 「書」

静 中では 「教材 」 と言わず 「題材 」 と言 つてい るが、

「教材」 とい う用語 に代わ り「学習材」 とい う用語 が 一般化 して きてい る。 これ に対 し桑原 は、 「これ まで の国語科 の学習 は、教科書の文学教材や説 明文教材 を 価値 あ るもの として絶対視 し、固定的 に捉 え、教師か ら児童

0生

徒 へ と一 方 的 に与 え て い く とい う傾 向が あった。 その場合 、児童・ 生徒 に とつて時 に難解過 ぎ た り、興味0関心や意識 の志 向、学力 の実態 とかけ離 れ て しまつた りして、児童 生徒 の学習 その ものが成 立 して い ない」 とい う状 況 を指摘 して い る。 そ して、

「教材 か ら学習材へ とい う用語の変換 は、児童・ 生徒 一人ひ とりの学習 を成立 させ てい こ うとす る視点への 変換 で あ る。」 と続 けてい る

XVii。

書本/生徒作品

A】

書本/生徒作品

B】

フ 、 .│

(6)

附属静岡中学校「追求」における人間形成のための国語科書写の追求

1)書

を、 よ り魅 力的に見せ る

前 期 に取 り組 んだ 「魅力的な書 にす る」 とい う取 り 組み は、書 写学習 と してのね らい を押 さえた うえで、

一層 の主体性 を期待 して実施 した ものである。 もとも と、 この 「追求」 を選択 した生徒 は、 どち らか といえ ば書写の技能 に長 けてい る。 しか し、大学の 「書写基 礎 」 の授 業の よ うな、外形や点画の長短・ 方 向な どの 漢字 の字形 要素 を全 て取 り上 げた体系化 して示す学習 は経験 していない。 そ こで字形要素 と字源 とを含 めて 仮名 の外 (概)形を確認す る ところか らスター トした。

「文字 を書 く」 ことを 「文章 を書 く」 ことの一部 と とらえ る と、 ことばを言語活動の道具 とし文字 を物理 的・ 視覚的な道具 に してい ることにな るわけだが、 こ こでは昨今 の書写教育で強調 され る 「伝 える」ための 判読性 を重視 しつつ 、 「自分 な りの表現 」 に もチ ャ レ ンジ させ た。つ ま り書の 「用」の側 面 を発展 させ 、高 等学校 芸術科書道 のね らいに一歩 近づ けた こ とにな る。

この よ うな先取 り的な内容だけでな く、絵 の具で模 様 を加 えた用紙 に水性 ボールペ ンを使 つて書 いた り筆 ペ ンで左右払いを勢い よく書いた りす るな どの工夫は、

多様 な筆記用具 を用途 に応 じて選択す る とい う小学校 国語科 書写 の第 5・ 第

6学

年 の学習 内容 の延長上 にあ る。 文字の大 き さや線 の大 さ、ペ ンの色 な どは、読む (み)人がその語句か ら受 ける印象やイ メー ジの想 起 に影 響 を及 ぼ し、表現活動 に幅 が生まれ て くる。

日常 的 な言語活 動 を重視 し書 き手 の立場 に立 って

「書 く」 とい う行為その ものの 目的 を考 えると、中学 生 とい う成長段階においては、 「伝 える」だけでな く、

「自分 を表現す るために書 く」 とい うことも含 めるベ きで あ る と考 えてい る。

2)書

本 つ くり

PISAの

調 査結果 か ら、 「連続 型 」 の言語 テ キス ト だ けでな く、 「非連続型テキス ト」が注 目され るよ う にな り、学習指導要領の言語活動例 に も、それ が反映 され るよ うにな つた。 「非連続型 テ キス ト」 とは、文 字言語や音声言語 に とどま らず図表や絵等 によつて表 現 され た メ ッセー ジを さしてい る。 例 えば中学校 では、

第一学年 の 「読む こと」 に、 「イ

 

文章 と図表 な どと の関連 を考 えなが ら、説明や記録 の文章 を読む こと」

の活動例が挙げ られてい るXViit

これ に関 して金子は、身 の回 りにある非連続型テ キ ス トの活用 も奨励 してい る。 「OH!前 に ゴ〜 ッ ト」 の キャ ッチ フ レー ズ とともに 「神様 が見て ござる」 と書 いた看板 と、その背景に何鉢かの植 木鉢 と子 どもたち の姿の写真があると、 「花 を折 らないで」 とい う看板 の設置者 のユーモアに富んだ懇願 が読み取れ る。読み 手 を一瞬 立 ち止 ま らせ るよ うな立て札や標識 な ども、

表現 について考 えさせ る資料 にな る とい う。 さらに、

こ うした非連続型テキス トを活用す る力の育成 を、既

に用意 されている資料の活用 だけでな く、 自ら学び 自 ら考 える課題解決的な学習指導 に位 置づ けるこ とを提 言 してい る

XiX。

PISA型

の読解 力で重要視 され てい る 「読解 力」 と は 、 「情報 を取 り出す こ と」や 「解 釈 」 「熟 考・ 評 価 」 、 さ らに書 き手 の意 図 を読 み 取 つ た うえで 、知 識・ 経験 を活用 して判断 し表現す る とい うよ うな、 こ れ までの読解力 を超 えた ものである。

今回の 「書本つ く り」 は、最初 に書 く 「書」が、図 表や絵 、写真 な どか ら読み取 つた ことを基 にす る 「非 連続型テキス ト」の よ うな役割 を果 たす。 ただ、論理 的 な文章 を正確 に読み取 る場合 とは異 な り、言葉 の力 を感 じ取 るもの といえよ う。

書本

/生

徒作品】

「書」の場合 は文字言語 による表現には違いないの だが、一字の漢字が、まるで 「絵」 をみ るよ うに見る ものの想像 力 を喚起す る。 「書」 をみ てイ メー ジを膨 らませ 、そ こか ら言葉 を紡 ぎだす過程 において、 自分 が大事 に したい言葉 を噛み じめ、主体的 にス トー リー を紡 ぎだす。話 し言葉 での会話 ではな く、書かれ た文 字 を介 した、 これ まで経験 のなかった新 たな コ ミュニ

ケーションによつて、自分を見つめることができると

考 える。

3)大

字 に挑戦

大字 で表現 したか つた ことについて、生徒達 は以下 の よ うに書いている。

・ 今 この時期 に しか書 けない もの を書 きたい。楽 しい こ と辛い こと、感謝 の気持 ちを伝 え残 した い と思 う。

・ 「笑顔」 を主体に して、漢字 と仮名 と強調 した かった。 あま り悩 まず正直な気持 ちを表 した。

・ 「も うす ぐ卒業」 とい うのが 自分の中で一番 な ので、それ を主に した。 「あ りが と う」 とい う 言葉だ けでは伝 えきれ ない溢れ そ うな思 い を伝

えたか つた。

今 な ら に 二 ︑ 澤 す

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h 馨 魂 僣 ■ 一 ■ 一・一 ん ヽ ・縫 封 な い︐ マ 寿

︐ マ ︻

一 一 中 繁 轟 ﹃ ﹄ ︺ 二 が ・

(7)

杉 崎哲子

大 きな画仙紙 に向かつて筆 を運ぶ時、生徒達は 自 分 自身 の心の内 を見つ め る こ とにな る。 心の内 に渦巻 き溢れ そ うになつてい る不安や感謝 な どの思 い を表現

したい と思 つてい る。

ここで注 目すべ きは、教員 が書写学習 と しての 「ね らい」 を提示 していないに も関わ らず 、生徒達が主体 的 に字形や構成 な どの書写的 な学習 内容 を意識 して取

り組 んでい るこ とである。

・好 きな言葉 のイ メー ジが伝 わ るよ うに大 き さや 向 きに気 をつ けた。 「きれ いに書 く」 よ り「伝 える」 こ とを意識 して積極的に取 り組 んだ。

・ 「夢鏡」の 「鏡」 とい う字の 「金へん」 と作 り の大 きさや幅 に拘 つた。 「夢」 では一つ一つの パー ツに注意 して書いた。 自分か ら、 ど うすれ ば一つ一つの文字 が生 きてい るよ うに書 け るの か を考 えた。

さらには、芸術科 書道 に結 びつ くよ うな、線 質や字 形 の捉 え方な どの発 展的 な内容 を意識 してい る生徒 も 見受 け られ た。 高等学校 芸術科書道 では、書 き手の思 い を最 も素直に表現 できるもの として、 「漢字仮名 交 じりの書」の学習が重視 され ている。生徒達はその書 表現 に匹敵す るよ うな魅力 的 な大字作品 を書 き上 げた。

・ 進路の ことで悩み 自分の心が荒れていたので、

「夢」 とい う字 を荒々 しく書いた。初 めて大き い筆 で書 いて、書道 の楽 しさを知 つた。太い筆 の線 で強 さを調整す るの も楽 しかった。

・ きれ いな文字 とい うよ りも、人の思いがそのま ま伝 わる感 じを出 したか つたので、な るべ く文 字 を丸 く し、囲 まれ た部分 の空間 を大 き くし た。 かな り思 い通 りの字 の並びが出来たので満 足 してい る。

「きれ いに書 く」 ことを重視す る と、与 え られた、い わゆる 「手本」の模倣等 の よ うに 自分の感 じ方だけを 問題 に して形 のみの重視 にな りかね ない。 ところが生 徒 は、 「きれ い さ」 よ りも 「伝 わ る感 じ」 を重視 して いた。 自分の中だけで 自分の書いた文字 を見ていた生 徒 た ちが、 自分以外 の相手 を意識 し、他者 とのかかわ

りの中で 自分 を見つ めてい ることが示唆 され る。

思春期 には、 自己像 を中心 と した よ うな個 人的 なア イデ ンテ ィテ ィがまずつ くられ 、 日記 を書 く、親 に逆 ら う、東縛 に対 して 自己主張す る等の行為 を始 める時 期 であ り 自我体験 について考 えるよ うにな る 。 その 時期 に主体的 な表現 に取 り組 ませ るこ との意義 は大 き い と考える。

大字作品と制作風景】

(8)

附属静岡中学校「追求Jにおける人間形成のための国語科書写の追求

6.「

文字 を書 くJことの意味の理解 と感受

今回の静中での r追J授業では、他者 とのコミュ ニケーシ ョンを文字によって拡大 させ、語から文を紡 ぐ中で 自分 自身 を見つめることができていた。 「言葉 の主体的な使い手

Jと

い う「国語科の学びを通 して人 間形成が図 られる姿Jを確認でき、「書 く学習Jの 能性が示唆 された と考えている。 ここでは可能性 とい う消極的な言い方を しているが、静中の国語科の主張 にもあるよ うに、実は、これ こそが国語科が育てるべ き重要な学力ではないのだろ うか。

青木が 「『 書 くこと』を軸に して、読むこと、さら には、作文へ、話す ことへ と、表現活動を広げ、 日常 の学習を通 して、表現力 を育ててい こう

Jと

主張 して いる翼通 り、 自己を見つめ自己を知 つた上で、 自分の 考 えや思いを確かに し、それを相手に うま く伝 えると い う社会生活 を送 るた めの 「コミュニケー シ ョン能 力」育成に 「書 く」学習が有効であると考える。

「書写Jから発展 させた今回の取 り組みにより、生 徒達は、芸術科書道 にも関わる 「表現活動 としての書

Jこ

との意味を理解 し楽 しさを感 じ取ることができ た と考 える。 これは静中のめざす 「教科 を学ぶ」 こと に通 じている。 「学習材」である「教材」の背後にある

「文字や文を書 くこと

Jと

「毛筆書

Jと

い う文化的な 価値を問い直 し味わい直す機会になつたに違いない。

ところで静中では、今年度の教育研究発表会の要項 の中に、 どの教科においても「題材における学力構造 Jを記載 している

XXヽ

国語科では、「育みたい人間 形成のための学力」に 「コミュニケーシ ョンカ」 「思 いを深 める力」 「言語に関す る感性」を挙げてい る。

そ して、 「強化・進化 され る Toolと しての学力」 とし

ては、 「言葉 を直感的にとらえる力J「発信す る力

J

「論理的思考力

J r柔

軟に発想す る力」であるとして

いる。今回の『追求』をこの構造図に当てはめことが

できる。 (下図参照

)

これ を見 ると、今回の 「追求」が 「

Toolと

しての 学力Jであ り、「人間形成のための学力Jを意識 して 展開できたことが分かる。 また、国語料 としての書写: ではあるが、高等学校の芸術科書道への関連性 を含め てい ることか ら、静 中の美術科 の学力構造図にある

「人間形成のための学力

J(=「

造形的に表現 したい ものを もつ力」 「造形的な想像力」 「美 を追求す る 力」 「美的感性」)にも関係 している。

ただ書道の場合には、文字造形 を [用」 と「美」の 両側面で とらえ、特に書写領域では 「用」の側面が重 視 され る。今回は、あくまでも中学校の学習指導要領 をふまえた 「国語科書写」 として、 「整斉 さ」をベー スにおきなが ら語の意味を軸に展開 した。

「整斉 さ」を重視することは、必然的に芸術に求め られ る独創性にブ レーキをかけることになる。 しか し、

授業に参加 した生徒達には、既に 「技能」が身につい てお り、筆者 も最初に 「字形要素」の確認や 「書写」

と「書道」の違いを解説す るなどの 「知識」部分を加 えている。 「

Toolと

しての学力」の 「知識・技能」

が保障 され、文字の構築性の しっか り押 さえた書写力 の基盤 の うえに構成や線質の工夫が加 え られたか らこ そ、 「デタラメJにならずに、 この「追求Jが成功 し た と考えられ る。図中の矢印が上下左右の双方向に機 能 していることを示 しているとお り、生徒達は主体的 に作品作 りに取 り組む中で、 自ら基礎・基本の字形を 確認 していたのである。

題材における学力構造日

 (『

追求』書写)】

0コ ミュニケーションカ

O思

いを深める力

主体性

0言

藩に対する感性

・決 定する

メージをとらえる

力´■

0饉

か畷 けコ囁 イメー ,の ユ ヽ き

"る

(配置 、構成を考える

)

や線質を考える

《書本つくり'大字など》

会¨

T 一 ヤ

● ■ 一 ● 一

自己表現(自分の思いを探る

)

るカ るカ

O論

理的思考カ

0柔

軟に発想する力

(9)

杉崎哲子

7.書

写書道学習における主体的な学び

これまで述べた通 り静中の「追求」授業においては、

「主体的な学び」 を意識 して取 り組んできた。

主体的な学び とは、学習者の意欲的な取 り組みが期 待でき、学習者 自身が状況を判断 し、 自らの責任で行 動を決定 していけるよ うな学び とい うことになる。そ れは、単に 自分か ら進んで行動す るとい う「自主性」

とはことな り、 「自己決定」を伴 うものである。な り ゆきや他者の決定に委ねた り左右 された りす るのでは なく、 自分 自身で意識的に決定を下 してい く自己決定 力を身につけ、行動の範囲についても自身で判断 し、

行動に責任 を負 えることになる。今後の人生を柔軟に 切 り拓いてい くために重要な力である。

生徒たちの生き生きとした学習姿勢を見るにつけ、

自己表現 をめざす 「書表現」 こそ 「主体的な学び」で なければな らない との自党が更に強固になつていつた。

文部科学省が

2012年 6月

に発表 した 「大学改革実 行プランJでは、大学が組織的に主体的な学びができ る環境づ くりに取 り組むことが、大学改革の 目標に掲 げ られている。本学で筆者が担 当す る授業について考 えると、教員免許科 目は当然なが ら、書文化専攻生の 履修す る 「書創作演習Jにおいても学生 自らが 自己の 書表現を追求するものでなければな らない と考える。

そのためには先の実践 ように、中学校段階で書写か ら 書道への移行を経て高等学校での書表現を学んだ とい う土壊が備わつてお り、既に主体的な学びを経験 して

いることが望ましい。今回の「追求」の場合、生徒達 の既習学習の技能的レベルが上位であることに加え、

何 よりも静中全体の取 り組みによつて 「主体的な学 び」の姿勢が備わつていたのである。

ところが大学の書文化専攻では、入学時点の高等学 校芸術科書道の履修状況は個々に異なる。芸術コース でしっかり学んできた学生がいるかと思えば、高等学 校の芸術科の科目に「書道」がなかつた、あるいは人

数制限で選択できなかった学生 もいる。 「書道

I」

す らその状態であるため、 「書道 ■・ Ⅲ」の上に大学 の書道の学習を位置づけるとい うことは、到底かなわ ない。入試に実技を課 しているため技能的には問題 は ないが、書塾で学んだだけとい う学生の場合、今 日的 な学校教育での書の学び方を全 く知 らない状況にある。

そのため、個別学習の効率的な方法 として、教員が 範書 しているのを見て学ぶ とい う伝統的な 「教授 」が 継承 され ることが多 く、本学でも、その形態が続いて いた。特に中央展への出品を想定 している場合は、時 間的制約の中でそれ相応の出来栄 えの作品に近づける 都合上、創作指導も「手本」を与え添削を繰 り返す と い う書塾 と同様の手法をとることが決 して稀ではない。

赴任 当初、これまでの伝統的な学びのスタイルに慣 れていた学生は戸惑っていたが、筆者は 「書創作カー Jを作成 し、学生の主体的な学びをサポー トするこ

とに した。そこには、麟 設定は もちろんのこと、表 現 したいことについて最初に言語化 して記す よ うに し、

各 自が自分 と向き合って決定 していくための指針 とし て、教員や友人か らのア ドバイスを聞き取つて書き込 むよう伝 えた。その学びのスタイルが少 しずつ定着 し てきてお り、題材文字について、 自分の書きたい書体 を一字―字辞書で調べ、字面や構成 も検討 している。

悩みなが らも納得がい くまで取 り組むため、学生同士 の意見交換 も多 くな り、結果的に基礎・ 基本の学習に 対す る必要感が強化 されてきた点も特記できる。

国語科における大学 と附属校 との連携

1)実践の成果と連携の今後

静岡大学教育学部の国語科講座では長 く附属校教員 との交流を継承 してきたが、国語 とい う教科では継続 的に取 り組む必要がある関係上、各々の附属学校の研 究テーマを重要視 し、今の ところ教材研究における情 報の提供や助言 とい う形での共同研究が大部分を占め ている。一方、書写教育では、「取 り立て」学習であ ることか ら、連携 の実践例 は多 く報告 されてい る'Xi

ものの、それ らは大学教員の研究に関わる実態調査 と しての関わ りに留まっている。

     1

附属校が「先導的教育拠点」 とな り得 るためには、

研究機関 としての大学の専門の知見や研究成果 を最大 限に生かす必要がある。 とはいえ研究や調査の対象 と して附属校に協力を依頼す るだけの連携では深化が望 めなし`。そ こで筆者は、附属校の研究や教育活動を尊 重 し、 ともに研究課題に向き合 う形で附属校 との連携 を目指 したのである。

前年度の島田中学校 における実践では、冨田教論の 協力により、国語科の単元に組み入れ、 目的意識、相 手意識 を持 つて手紙を書 くとい う「日常に生かすJ視

点へのアプ ローチが可能 にな り、島中の研究テーマ

「多面的・ 多角的な見方・考え方」を育てることを意 図 した授業 も実現 した。今回の静岡中学校の『 追求』

では、毛筆学習を発展的にとらえ、総合的な国語力の 育成 とい う観点か ら「文を書 くJ活動へ と結びつけた。

附属校 との連携により、生徒の主体性を重視 し発達段 階への対応 を考慮 して書写学習の 日常化 を目指す とと もに、総合的な国語力 として とらえる書写の実践を導 き出 したのである。

「書本Jでの毛筆書は高等学校芸術科書道への接続 を意識 した 「表現」のよ うにみえるが、それはあ くま でも基礎的な書写学習の土壌の上に成立 したものであ る。友達が書いた文字の意味内容 を鑑賞 とい う形で主 体的に紡ぎ、国語科の 「書 くJ学習に結びつけ自己を 見つめたことに意味があつた と考えている。

学習者の立場か ら国語科書写の学習内容や授業展開 の方法を見直す必要性が叫ばれている。本実践は、附 属校の研究や教育実践を尊重 し中学生の発達段階を意

(10)

附属静 岡中学校 「追求」 にお ける人 間形成 のための国語科書写 の追求

識 した国語科書写の追求 にな り得 た と考 える。

ただ、島 田中学校 と静岡 中学校 は共 に 「主体性」 を キー ワー ドに して いなが ら、双方 とも独 自に研究 を進 めていたた め附属校相互の結びつ きは難 しかった。 し たが つて、今後は大学 が附属校相互 の関係 をマネー ジ メン トす る役割 を担 うこ とが求 め られ る と考 える (下 図の

*参

)。 それ に よつて、 さらに地域的に も内容 的 に も広 く先導的 立場 となつて研 究 を進 め るこ とが可 能 とな り、県 内各地 の各校 に発信 で きる。 それ は大学 生 に対す る理解 に もつ なが り、教員養成 とい う観 点に お いて重要 にな る と確信 してい る。

以上 の よ うに、附属校 との連携 に よつて国語科書写 の学習内容 を追求 し、今書写が抱 えてい る問題 点 を克 服す る手 だて を導 くこ とがで きた。 附属校 の研 究テー マ をふ まえた取 り組みは、今 日的観 点で書写学習 を補 足 しつつ国語科 と しての総合的な力 を育成 につながつ て い くといえるだ ろ う。

2)課

題共有の提 案

附属校 との連携 に よる実践経験 に よつて教科 の学習 が どんな力の育成 を 目指 してい るのかを根本的に問い 直す契機 にな つた と考 えてい る。

「教科 とは何か」へのアプ ローチに関 して村 山は、

「多 くの学校 の 日常的な授業は、『 人間形成のための

学力』を教えるよりも、『 Toolと しての学力』を教 えることを目的とした授業ではないだろうか」と問題 提起 している

XXiit

国語科 (書

)の

大学と附属校との連携】

書写 の技 能習得 に関 して言 うな らば、正 しく Tool の指導 とい えるだろ う。その重要性 は教科 を教 える身 として 自党 してい る。 しか し、発達段階や学習内容の 系統性 を考慮 した うえで、今 回の よ うに 「人間形成 の ための学力」 を意識 し、主体的に取 り組 める授業 を考 えていかなけれ ばな らないだろ う。

この ことは、地域や校種 の違いを超 えた共通の課題 である。 したがつて、例 えば 「書写 も含 めて、国語科 と して育 てて いか な けれ ば な らない力 とは何 か」や

「文字 を手書 きす ることを『 人間形成のための学力』

と して とらえた場合 、 どの時期 に、 どんな授業が考 え られ るか」、あるいは 「個別教育、学習塾 では出来な い学校 での学習の意義や言語 を介 した人 との関わ りを ど う考 えるか」等、附属の各校 と大学 とが、課題 を共 有 し討議 し合 つて研 究 に取 り組 めることを望 んでい る。

今 日では表現 と しての 「書 く」 よ りも道具 としての

「書 く」が重視 されているが、言葉の意味 を理解 して 人間的で人工的 な発明である文字 を じつ く り取 り扱 う のが書写の学習である。 しか も、ただ 「書 く」だけで な く、意図的・ 意識的に文字 を整 えて書 くことに よつ て、思考力や理解 力、記憶力や表現力 を高 め文字 に対 す る感覚や意識 を養 えるだろ う。

また、伝達手段や コミュニケーシ ョンツール として の 「書 く」 ことと表現 としての 「書 くこと」の両方 を 重視 し、芸術科 の 「自己表現」 を 目指す な らば、表現

としての 「書 く」は 「文学」 にもつながつてゆ く。

附属校 と大学 とが、各 々の立場で課題 に取 り組 むだ けでな く、子 どもた ちが成長 してい く 全 ての発達段 階 をふ まえた うえで、 目 の前 の子 どもたちにつけたい力 を検討

してい く必要がある。

お わ りに

地域連携 プ ログラムで障 がいを持 つ てい る方 を対象 に書道体験 の機 会 を提 供 した ところ、それ を機 に授 産所 内で 会話 が弾 ん でい る とい う嬉 しい知 らせ が届 いた。驚 いた こ とに、他 人の触 つ た物 に一切触れ るこ とがで きず部屋の 隅 で一人作業 していた潔癖 症 の

50代

女性 にお いて は、 こち らが用意 した筆 を皆 と共用で きただけでな く、学生の 手 を握 り感 謝 の言葉 を繰 り返 した。母 親 に送 る 「あ りが と う」 の言葉 を書 き たい一心 が、彼女 に変化 を もた ら した。

そ の後、映画館や ボー リング場 に も出 掛 け られ るよ うになつた とい う。

文字 を書 くことは、本来 、一人一人 の内か ら沸 き起 こる楽 しく自然 な行動

≪附属校 》

《大学 》

書写】

研究テーマ 児童・生徒

(11)

杉峙哲子

であったはずだ。 ところが、 「宇形」や見栄えを気に し過 ぎた結果、書 き手である児童・生徒が、自分の こ ころを置き去 りに して しま うことが、少なか らずある。

心の奥にある自分の思いを探 り出 して文に綴 り、それ を書で表現す ることが、 どれだけ楽 しく素晴 らしいこ とかを再認識 している。

今後 も附属校 との連携 を強化 し「文字 を書 く

Jこ

の原点に立ち返つた国語科書写を考えるとともに、主 体性 を重視 した書写・書道の授業 を展開 していきたい。

なお、今回の 「追求Jに御協力いただいた附属静岡 中学校の池 田昌史先生 と、楽 しく取 り組んで くれた生 徒達に、この場を借 りて深 く感謝 申し上げます。

i松 本仁志 「書写・書道教育学における教育課程のこ れから

J『

書写書道教育研究第 20号 別冊 創立 20周 年記念』全国大学書写書道教育学会  2006p16

五豊口和士「『書く』ことに関する基礎研究」『書写 書道教育研究第 19号 』

2004 ,1〜10

● i杉 時哲子「中学校国語科書写における硬筆指導の 方向性に関する考察」『 書写書道教育研究 第

26

号』全国大学書写書道教育学会  201l p 50〜

59

・ 杉峙哲子 「書写学習の国語科単元学習への参入に よる教育現場との連携」『 日本教育大学協会全国大 書道教育部門会紀要 第 18号』

 201l p2〜11

V平 成 25年 度の全国書写書道教育研究会、静岡県小

中学校教育研究会のテーマが「主体性

Jで

ある。

・ 杉 崎・ 冨田「附属校 との連携による言語活動の充 実を意識 した国語科書写の内容指導」『筆岡大学教 育実践総合センター紀要

No 21』 pH〜

20 2013

i杉

綺哲子「書くことの意義 と可能性」 『教科開発学論 集第 1号 』愛知教育大学大学院・静岡大学大学院教 育学研究科共同教科開発学専攻 2013 p.145〜

162

・ ■加藤隆勝 1977「 青年期における自己意識の構 造

J心

理学モノグラフ

14 

東京大学出版会

iX根

田仁『 筆跡から性格がわかる 一文字でできる性 格判断』講談社

1997、

黒田正典 「日本文字の筆跡 心理学に関する基礎的研究

J『

書の心理』

 

誠信書

房教育心理  2007

X原 子朗『 筆跡の文化史』講談社  1997

Xi渡

辺庚麿 「自分を見つめる心理分析―セルフカウン セ リング入門

J講

談社 2001/心 理治療やカウンセ

リングの目的は、クライエン トの症状をなくすだけ でなく、クライエン トのパーソナ リティの変化・成 長を目指す。特に成長モデルでは、カウンセラーは クライエン ト自身が解決法を見出すプロセスを共に し支え、自己洞察に至るまで一緒に考え悩みながら 援助する。この考え方は書写指導でも重要である。

"i  西郷竹彦「作文指導の目的と方法

J『

西郷竹彦文 芸・教育全集』第 19巻

(作

文の指導 I作 文と教 育

)恒

文社 p17〜

100、

大村はま『 教室をいきいき

2』

ちくま学芸文庫

1994 p161、

上掲書

vii等

Hカ ウンセ リングが進展する場合 と同様に、クライ エン ト

(学

習者

)の

パーソナリティは、①見せかけ の自分、② 「べき

(―

すべき )Jと い う考え、③他 者の期待に沿こと、④他者を喜ばすということの 4

つの状態から遠ざか り、①自己指示的、自己責任存 在、②過程的な存在

(固

定的存在の逆

)、

③複雑な 様相を持ちうる存在、④経験に対 して開かれる存在、

⑤他者を受け入れることができる存在、⑥ 自己を信 頼することができる存在とい う状態に近づいていく。

iV石

川九楊『 「書 く

Jと

い うこと』文藝春秋 2002

XV静岡大学教育学部附属静岡中学校『 「人間形成のた めの学力」を育む授業一子 どもが 自ら学び続 けるた めに一』明治図書

 2013

1・

中学校学習指導要領解説 (総合的な学習の時間)に

「基礎的・基本的な知識・ 技能の定着や これ らを活 用する学習活動は教科で行 うことを前提に、体験的 な学習に配慮 しつつ教科等の枠 を超えた横断的・総 合的な学習、探究的な活動 となるよ う充実を図 るこ

Jとある。

X・ i桑

原隆 「学習材の開発への志向」『 月刊国語教育

研究

 No 492』  2013 p2〜3

X五 H町 田守弘「『非連続型テキスト』の教材・授業開 発をめぐつて」 『月刊国語教育研究

No 500』 2013

, 14´‐15

"X金 子守「身の回りの『非連続型テキス ト』を活用 する」『月刊国語教育研究

No 500』

2013,16〜

21 XX青

木幹勇『国語科授業の新展開

9・

表現力を育て

る授業』明治図書 1981 p170

X"静 岡大学教育学部附属静岡中学校『教育研究発表 会要項

/教

科と学びの創造―「人間形成のための学 力」から見える教科のありよう― 』

2013

'di  浦野俊則・松本貴子・津村幸恵・樋 口咲子「中 学校の書字の実態と書写の学習内容との相関性に関 する考察」『書写書道教育研究 第 19号 』p65〜 74、

荒井一浩・加藤泰弘・中村和弘・松本貴子「書写と

書道の一貫性のあ り方に関す る基礎研究―児童・ 生 徒の毛筆への意識 と表現力を中心 として 」

『 同』p21〜

292004、

清水陽一郎・押木秀樹 「中学 生を対象とした書きやすく速く書く力を育成する実 践的研究― 動的学習要素のレベノ イヒおよびマルチメ ディア教材等の効果

J『

同 第 22号』p59〜

68

2007、

樋口・津村・本田容子・畠山侑子「点画のつ

ながりと筆圧に注目した書写授業の改善―教員養成 課程の学生と附属中学校の生徒を対象に一」『 同 第 23号』p59〜

682008、

樋口・本田・津村・自井

さやか『 同 第 24号

p l18〜

123 2009

"in  村山功「 『 教科とは何か』にどうアプ ローチす

るか」上掲書

xv p.185〜

188

10

参照

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