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二重スリットによる単一光子干渉の測定装置の開発

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(1)

平成

28

年度

卒業論文

二重スリットによる単一光子干渉の測定装置の開発

広島大学 理学部 物理科学科 高エネルギー物理学研究室

B130664

野口 敬史

指導教員 高橋 主査 飯沼 昌隆 副査 両角 卓也

(2)

1

目次

1

章 序論 ...2

1.1 研究背景 ...2

1.2 研究目的 ...3

2

章 単一光子干渉 ...4

2.1 波の干渉と単一光子干渉の違い ...4

2.2 二重スリットによる単一光子のパターン ...5

2.3 スクリーン上でのパターンの予想 ...8

3

章 実験装置の構築...9

3.1

レーザーによる単一光子干渉実験 ...9

3.2 検出器用光学系の設計と製作... 11

3.2.1 光学系の設計方針 ... 11

3.2.2 対物レンズ...12

3.2.3 工学系の設計 ...13

3.2.4 光学系の製作 ...15

3.3 データの取得のシステムの構築 ...16

3.3.1 データ収集システムの概要 ...16

3.3.2 データ収集システムの概要 ...17

3.3.3 自動 X

ステージ ...17

3.3.4 X

ステージ制御とカウント計測の融合システム...18

4

章 実験 ...20

4.1 全体のセットアップ...20

4.2 光学系の調整 ...21

4.3 コヒーレント光を使った実験...23

4.4 APD

による単一光子の検出 ...24

4.5 APD

によるバックグランドの評価...25

4.6 単一光子状態での測定 ...26

5

章 解析と考察 ...28

5.1 理論計算との比較 ...28

5.2 最適なパラメータの決定 ...29

5.3 考察 ...30

6

章 まとめと今後の展望 ...31

謝辞...32

参考文献 ...33

(3)

2

1 章 序論 1.1 研究背景

量子力学はミクロの世界の現象を定量的に予測するが、その基本的概念は古典物理学と は完全に異なる。大きな違いの一つに粒子の軌道の問題が挙げられる。古典力学では初期 条件を与えれば、粒子の軌道は完全に決定されるが、量子力学では粒子の軌道という概念 が存在しない。それは量子論では不確定性原理が成立し、位置と運動量は同時に測定でき ないからである。ところが自然は明らかに両者を成立させており、粒子の数を一粒子から 増やし多粒子が構成するマクロな物体になれば古典力学的な軌道が現れる。上記の考え方 からすれば、量子力学が記述する運動から古典力学による運動に移行しなければならな い。ではこのとき、量子力学が記述する運動をどのように理解すれば良いのだろう?

一方、ミクロの世界で昔から取り上げられている物理現象の一つに単一光子干渉があ る。光は粒子性と波動性の両方の特徴を持つ光子であり、光子一個が二重スリットを通過 後に干渉を引き起こす。光による干渉が光子による一粒子干渉であることは1986年の アスペらの実験で実験的に確認された。彼らは光子をビームスプリッターに入射させ、二 つの光路に分けてそれぞれに光子検出器を置き、同時計測を行った。もし光子が一粒子で あれば、二つの光路に分かれることはありえないから、二つの検出器が同時に出力するこ とはありえない。彼らはこの非同時性を実験的に確認することで、二つの光路のうち光子 はどちらか一方しか通っていないことを実験的に証明した。さらに同じセットアップを変 更し、二つの光路を交差させたところ、今度は光路長に応じた干渉縞を観測した。このこ とによって、光の干渉も電子や中性子と同様、一粒子干渉であることが実験的に示され た。

では光子が二重スリットを通過中、あるいは通過した後の運動は量子力学的にはどのよう に理解すればよいのだろうか?近年、弱測定によって位置と運動量が同時に測定可能であ ることが明らかとなったために、二重スリット通過後の光子の位置と運動量を同時に測定 する試みが 2011 年にコクシスらによって、2014 年にバンバーらによって行われた。コクシ スらは単一光子の平均の軌道を測定し、それがボームのパイロット波の理論と一致したこ とを確認した。またバンバーらの測定では、位置と運動量は複素数の確率分布であるカーク ウィッド-ディラック分布であることが示された。しかしながら空間的にガウス分布をして いる光子の位置と運動量の確率分布は、ホモダイン測定によって負の値を含むウィグナー 分布であることがすでに実験的に証明されている。しかもこれらは、確率分布は正でなくて はならないことと矛盾する。つまりこれらの実験結果はそれぞれの枠組みで正しい結果を 与えていると思われるが、それらはどれも矛盾しているように見える。また古典力学との整 合性との観点も含めて、位置と運動量の測定の問題をどのように統一的に理解すべきか、未

(4)

3

だに明らかとなっていない。当然ながら光子の運動の問題の解決には至っていないのが現 状である。

1.2 研究目的

我々の研究室では、弱測定に頼らない一般的な測定による光子の位置と運動量の同時測 定を行うとともに、その測定を単一光子干渉の実験に応用することを考えている。基本的 なアイディアは弱測定と同じで、初期状態を完全に壊さずに情報を得るような位置測定の 後に通常の射影測定で運動量を測定するのである。ただし弱測定とは異なり、最初の測定 の射影の強さを全く測定しない状態から完全に射影する測定まで制御できるようにする。

この連続した二つの測定の実現により、位置のみの測定から位置と運動量の測定、運動量 のみの測定まで全く同じ物理系に対して連続的に変えることができるようになる。従来の 位置測定と運動量測定との整合性を確認しながら、位置と運動量の両方の情報を得ること によって、位置と運動量の測定の問題の解決を目指す。さらにこの問題の解決は一粒子干 渉における粒子の運動の問題の解決につながる可能性もある。

そこで最初のステップとして、まずは二重スリットによる単一光子干渉を確認する必要 がある。そのためには単一光子発生源と統計的な縞模様を観測する装置が必要になる。ま たその測定装置は将来の射影の強さを任意に制御できる位置測定装置の開発にも繋がる。

そこで本論文では単一光子干渉を観測するための装置の開発に着目し、光源としてはまず はレーザーを用いて縞模様を確認することを目標とした。具体的には、光子を検出器に導 入する結合光学系の設計、製作、アライメントを行った。さらにその光学系による光子検 出の位置を自動で制御しながら、それぞれの位置での光子を計測するオンラインシステム を作成した。それらを組み合わせて全体のアライメントを行い、レーザーによる単一光子 の統計的な縞模様を確認した。

(5)

4

2 章 単一光子干渉

2.1 波の干渉と単一光子干渉の違い

古典物理学での干渉とは波の現象であり、複数の波の重ね合わせによって新しい波形を 形成することである。光を電磁波と考えれば一つの光源から光を発し、二重スリットにて二 つに分かれ、異なる二つの光路を通った光が重なって干渉する。そのとき、波である光が異 なる光路に“分かれる”ため、その間に位相差が生まれ、スクリーン上で暗い部分と明るい 部分を持った干渉縞がスクリーンに現れる。最も顕著に干渉縞が現れるのはほぼ完全なコ ヒーレント光を出すことができるレーザーであり、光は古典電磁波とほぼ同等の状態で出 力される。

一方の単一光子干渉は、決して“二つに分かれることのない”光子が二重スリットのどち らかを通過してスクリーン上で検出されるときに、位置に対する光子の検出数が統計的な 縞模様のパターンを形成する現象である(序論でも述べたように、光子が二つに分かれない ことは実験事実である)。これは明らかに波の干渉とは異なる現象であり“干渉”現象では ないが、歴史的な経緯で一粒子の“干渉”(単一光子干渉)と呼ばれている。これは電子で も中性子でも観測されており、これらの現象に本質的な差異はないと考えられる。

実験的には単一光子干渉を見るための光源として、コヒーレント光であるレーザーは明 らかに不向きである。レーザーは波動性を示すために最適化された光源であり、数状態の光 子のランダムな重ね合わせになっているために非同時性を示さない。しかしレーザーから 出力される光子も同じ光子であり、光源には依らないはずであって、レーザーでは非同時性 を実験的に確認できないだけである。そこで本論文では単一光子による統計的な縞模様を 観測する装置を開発することに主眼を置き、光源はレーザーを使って単一光子干渉の測定 を試みた。

(6)

5

2.2 二重スリットによる単一光子のパターン

単一光子が二重スリットに入射すると、図

2.1

のようにスクリーン上に統計的なパターン が形成される。

2.1 二重スリットによる単一光子の干渉パターン

スクリーン上での統計的なパターンは、一粒子ならば確率分布そのものになる。そのため シュレディンガー方程式の解に二重スリットの幅やスリットの間隔などの条件を入れれば、

物理的に予測することができる。図

2.2

で示したような条件を定義し、光子1つが入射した 場合を考える。

2.2 ダブルスリットの条件

(7)

6

波動関数Φ(x)はシュレディンガー方程式を解くことで求めることができる。しかし、光 速で移動する光子は質量を持たないため、本来は相対論的な扱いをしなければならない。し かし今はx成分の運動だけを問題にしている。x成分の領域に対してスクリーンが十分に 遠く(無限遠)にあることを想定すれば、光子の速度のx成分は光速に対して十分に小さい と考えることができる。このとき光子のx成分の運動は非相対論的に考えることができる ため、x成分の運動に対する仮想の質量

m

を考えることができる。x方向の光子の運動量 について関係式は次のようになる。

𝑝

𝑥

= ℎ

𝜆 sinθ = mcsinθ (2.1)

仮想の光子の質量について式(2.1)を整理する。

𝑚 = ℎ 𝑐𝜆

(2.2)

x成分についてのシュレディンガー方程式は次のようになる。

𝐸𝛷(𝑥) = − ℏ

2

2𝑚 𝛷̈(𝑥)

(2.3)

この式(2.1)の微分方程式を解く。

𝛷(𝑥) = 𝐴𝑒

−𝑖√

2𝑚𝐸

𝑥

+ 𝐵𝑒

𝑖√

2𝑚𝐸 ℏ 𝑥

(2.4)

このとき

x→∞のとき波動関数が発散してはならないので、 B=0

でなくてはならない。さ

らに規格化条件から

|Φ(x)|

2

𝑑𝑥 =1

、すなわち、

∫ |𝐴|

2

𝑑𝑥

𝑎−𝑑 2

𝑎+𝑑 2

+ ∫ |𝐴|

2

𝑑𝑥

𝑎+𝑑 2

−𝑎+𝑑 2

= 1が成立す

ることから規格化定数が

A=

1

√2𝑎 と求まる。

その結果、波動関数は次のようになる。

Φ(x)={ 0 𝑥 ≤ −

𝑎

2

𝑑

2

,

𝑎

2

𝑑

2

≤ 𝑥 ≤ −

𝑎

2

+

𝑑

2

,

𝑎

2

+

𝑑

2

≤ 𝑥 1 ⁄ √2𝑎 −

𝑎

2

𝑑

2

≤ 𝑥 ≤

𝑎

2

𝑑

2

, −

𝑎

2

+

𝑑

2

≤ 𝑥 ≤

𝑎

2

+

𝑑

2

(2.5)

ここで求めた位置分布の波動関数を無限遠における運動量分布の波動関数に変換するた めに式(2.3)をフーリエ変換する。

Φ(p)=

1

√2𝜋ℏ

∫ 𝑒

−𝑖

𝑝𝑥 𝑥

𝛷(𝑥)𝑑𝑥 = √

𝜋𝑎𝑎𝑝2

𝑥

𝑠𝑖𝑛 (

𝑎

2ℏ

𝑝

𝑥

) 𝑐𝑜𝑠 (

𝑑

2ℏ

𝑝

𝑥

)

(2.6)

と表されるから 、波動関数の二乗は確率密度関数を表すので、

|𝛷(𝑝

𝑥

)|

2

= 𝑎 𝜋 ℏ 𝑠𝑖𝑛𝑐

2

( 𝑎

2 ℏ 𝑝

𝑥

) 𝑐𝑜𝑠

2

( 𝑑 2 ℏ 𝑝

𝑥

)

(2.7)

ただし、

sinc(X) =

sinXX とした。

(8)

7

運動量𝑝𝑥は運動量の

x

成分を表している。また式(2.7)の確率密度関数はx方向運動量の 分布、すなわち二重スリットから出てきた光子のx方向へ持つ運動量の確率密度を表して い る 。 こ こ で 、無 限 遠 に スク リ ー ン があ る こ と を想 定 し て いる の で 近 似を 用 いる 。

tanθ~θ, sinθ~θ, tanθ =

𝑥𝑙から sinθ =𝑥

𝑙と近似することができるので、

𝑝

𝑥

=

λ

tanθ =

𝑥

λ𝑙と書き直すことができる。

この関係と式(2.7)を用いると、光子のx方向への運動量

𝑝

𝑥の確率密度は無限遠における スクリーンでの位置𝑥の確率密度として計算できる。すなわち、スクリーンでの位置𝑥を調 べることで運動量𝑝𝑥の分布を調べることできる。

|𝛷(𝑥)|

2

=

2𝑎

𝜆𝑙

𝑠𝑖𝑛𝑐

2

(

𝜋𝑎𝑥

𝜆𝑙

) 𝑐𝑜𝑠

2

(

𝜋𝑑𝑥

𝜆𝑙

) (2.8)

実際の実験において、無限遠にスクリーンを置くことは不可能であるが、スリット幅に比 べ二重スリットとスクリーンの距離が十分に離れていれば近似的に無限遠として見なすこ とができる。十分遠くに離れたスクリーン上では、式(2.8)の確率密度は検出された位置𝑥に 光子の𝑥成分の運動量が対応している。つまり、縞模様の位置情報を調べることで運動量を 近似的に求めることができる。

式(2.8)の

sinc

関数の部分は干渉パターンの包絡線の部分に相当し、その包絡線が初めて

0

になるとき、すなわち、

𝑠𝑖𝑛𝑐

2

(

𝜋𝑎𝑥

𝜆𝑙

) = 0 となる場合を考える。

sin(

𝜋𝑎∆𝑥′

𝜆l

)=0,

𝜋𝑎∆𝑥′

𝜆l

これを整理すると下記のようになる。

∆𝑥′=

𝜆𝑙

𝑎

スクリーンでの位置は運動量に対応するので運動量に直すと下記のようになる。

∆𝑝

𝑥

=

𝑎

スリット幅∆xとおくと∆x = aであるから、∆xと∆𝑝𝑥の積をとる。

∆x∆𝑝

𝑥

= h

光子の位置を決定するのにはスリット幅を十分小さくなければならないが、そのとき運 動量のx成分の幅が発散してしまう。運動量についても同様のことが言える。これは不確定 性関係にあることを意味している。

(9)

8

2.3 スクリーン上でのパターンの予想

先ほど求めた確率分布の式から実際にスクリーンで観測される縞模様のパターンの予想 を行う。実験条件である

b=40μm、 a=150μm、l=31cm, λ=830nm

(実験条件は後述)を 式(2.6)へ代入すると, 図

2.3

のような確率分布が得られる。

2.3 スクリーン上での確率密度の予想

青色の線の曲線は確率P = sinc2

(

𝜋𝑏𝑥

𝜆l

)を規格化したものであり包絡線と呼ばれる。

干渉パターンについて、スリット幅が狭くなるほど包絡線は横に広がり、スリット幅が 広くなるほど包絡線は狭くなる。また、スリット間隔が狭くなるほど干渉パターンの山の間 隔は広くなり、スリット間隔が広くなるほど干渉パターンの山の間隔が狭くなる。

(10)

9

3 章 実験装置の構築

3.1 レーザーによる単一光子干渉実験

レーザーは非同時性が観測にかからない光源であるが、光子を出力していることには変 わりない。そこでレーザーの光量を減らしていくと、時間的、空間的にも離散した個々の 粒子として検出可能となる状態にすることができる。その状態で二重スリットを光路上に 設置すると、光子は二重スリットを通過し、スクリーン上で一つ一つ検出される。沢山の 光子を入射させ、その統計分布を調べると確率分布に対応した度数分布が得られるはずで ある。本論文では、レーザー強度を著しく弱くさせ、単一光子検出技術を利用して単一光 子による統計的分布を測定する。なお将来、レーザー光源の代わりに非線形結晶からの発 生する光子対を利用した単一光子発生源による測定を予定している。既存の非線形結晶は 波長 810nm の光子対の発生に最適化されているため、本論文の実験もその波長に近い 830nm の波長で行うことにした。810nm で行わなかったのは、レーザーを他の実験と共有 しているためであり、特に理由はない。

本実験では二重スリットを通過した光子をスクリーンに相当する位置で横方向(x方 向)に検出位置を移動させ、それぞれの位置での光子の計測を行う。このとき光子を検出 する単一光子検出器は、光ファイバーの一方を検出器に接続して光ファイバー端面からの 光が受光面と結合するように作られている。そのため光ファイバーのもう一方に光子を導 入するための光学系が二重スリットの後ろに設置されることになり、その光学系の設置位 置が光子の検出位置になる。結局、本実験で必要なものは、検出器に導入させる光学系、

光学系の位置を動かすための自動ステージ、さらに自動ステージを動かしながらその位置 での光子の計測数を PC に取り込むオンラインプログラムである。そこで光子を検出器に 導入する光学系の設計、及びオンラインプログラムの整備を行った。

単一光子の検出には単一光子検出器を使用する。単一光子検出器は光子を電子に変換 し、電子の数を増幅させ、パルス信号として出力する装置である。今回の実験で使用する 単一光子検出器はアバランシェフォトダイオード(APD)と信号処理回路が一緒になった単 一光子検出モジュールで、これを使用する。APD には逆電圧を印加し、電子なだれという 現象を利用し、その電子を102

~10

4個に増幅させる素子で単一光子が入射しても十分に高 い電流パルスを出力することができる。その電流パルスは内蔵回路で波形を整形されて、

8nsec の幅を持った TTL パルスとして出力され、そのパルスがカウンティングボードでカ ウントされる。また検出器の性能を示す一つの指標として検出効率と呼ばれるものがあ

(11)

10

る。これは光子が入射し単位時間あたりに電流パルスに変換される効率で、波長 800nm 付 近でおよそ 40%である。

・減光(ND)フィルター

今回の実験ではレーザー光量を著しく下げる(10

10

乗のオーダー程度)ことで単一光子状 態を実現した。そこで本実験では

ND

フィルターを使用してレーザー強度を下げた。NDフィルタ ーとは別名「中性濃度フィルター」と呼ばれ、所定の波長帯を選ぶことなく、光量を一定量落とすこ とができる。NDフィルターは透過性を透過率で定義するのではなく光学濃度(OD)で定義する。

透過率

T

と光学濃度(OD)の間には次のような関係式が成り立つ。

OD = −log (

𝑇

100

) (2.6)

今回の実験で使用する

ND

フィルターは透過率1%のものと

0.01%のものであるから実験での

光学濃度

OD=11

となる。

・光ファイバー

単一光子検出器は光ファイバーケーブルを介して光子を受け取る。光ファイバーは石英ガラス やプラスチックで形成される細い繊維状の物質で中心部分のコアとその周囲を覆うクラッドの

2

構造になっている。コアは、クラッドと比較して屈折率が高く設計されており、コアとクッラドの屈折 率の差により全反射が起こり、光がコア内に閉じ込められる。

図 3.1 光ファイバーの構造

今回使用するファイバーは

THORLABS

社製のマルチモードファイバ(M31L03)とシングルモ ードファイバー(P1-780A-FC-2)を使用する。シングルモードファイバーは光の伝播を一つのモー ドだけに限定したもので、どんなモードの光を入射しても伝播した光のモードはファイバーで決定さ れる。今回の実験ではレーザーの出射口ではレンズを使ってレーザーを平行光線にしている。そ のためモードが

1

つに限定されるシングルモードファイバーを出射口に使用した。マルチモードフ ァイバーはコア径がシングルモードファイバーよりも大きいため外部との接続時に調整が容易であ り、光を複数のモードで伝播することができる。実験では検出される光は1つのモードとは限らない ため検出器側に複数のモードの光を伝播できるマルチモードファイバーを使用した。

(12)

11

表 シングルモードファイバーのマルチモードファイバーの規格

シングルモードファイバー マルチモードファイバー

コア径(µm)

5.0 62.5

クラッド径(µm)

125 125

開口数

NA 0.13 0.275

・FCコネクタ

FC

コネクタは、ファイバーの終端面の損傷を抑え、ファイバーの回転防止のキーを備えており、

回転アライメントを軽減している。また、キーはファーバーの終端面の損傷が少ない最適化された 位置に来るように設計されている。

3.2 検出器用光学系の設計と製作

3.2.1 光学系の設計方針

今回の実験では検出用の光学系と単一光子検出器の間にマルチモードファイバーを使用 した。一般的に自由空間からファイバーに光子を導入するためには、光の空間伝播モードと ファイバーの伝播モードを合わせなければならない。今回は光子の位置を測定するため、図 のように位置を制限する単スリットを置き、そのスリットから決まる空間モードとファイ バーのモードを結合させることにした。ただし使用したファイバーはマルチモードファイ バーであるため、単スリットのスリット幅がレンズによってファイバー端面に像転送させ る方法をとった。この設計方針では幾何光学の範囲内の計算であるため、基本的には波長依 存性は現れないが、実際には光学素子による波長依存性がある。今回使用する各光学素子の

では

830nm

810nm

での違いはほとんどないため、今回は無視した。将来

810nm

で実

験を行う場合には、810nm用に光学系を最適化する必要はあるだろう。このとき単スリッ トとファイバーとの像転送用のレンズは顕微鏡用の対物レンズを使用した。対物レンズは 空間モードとファイバーモードを結合する用途でよく使われる。今回は対物レンズを一枚 のレンズに見立て、レンズの主点の位置を決定することで単スリット、レンズ、ファイバー 端面の位置を決定した。下記にそれぞれについて述べる。

図 3.2 対物レンズによる像転送

(13)

12

3.2.2 対物レンズ

本実験で使用した対物レンズはエドモンド社製の

EO

顕微鏡用対物レンズで10倍のも のを用いた。カタログからこのレンズは図で定義されているような距離に対して、焦点距離

f=16.6mm,作動距離 WD=6.3mm、光学的鏡筒距離 OTL=146.5mm

である。

図 3.3対物レンズの構成

主点とは、幾何光学において焦点などを決める基準となるものである。そのため、任意の 位置で結像関係を満たすためにはレンズの主点の位置を知っておかなければならない。

対物レンズは

2

枚のレンズが組み合わさったレンズである。そのため、対物レンズのレン ズにはそれぞれ主点があるため、それらの主点を考慮しながら、結像関係を満たす主点位置 を探さなければならない。しかし、2枚のレンズの結像関係を満たされた式から、2枚のレ ンズの条件を満たすような

1

枚の仮想のレンズを想定することができる。つまり、対物レ ンズは

1

枚のレンズとして扱うことができ、カタログなどに載っている焦点距離は仮想の レンズを想定した焦点距離となっている。また、

3

枚以上のレンズの場合でも同じように仮 想のレンズを想定することで

1

枚のレンズとして扱うことができる。

カタログに定義された距離から主点の位置を求める。次の図のように距離を設定する。こ こで、a

b

は物体から対物レンズのそれぞれの主点までの距離であり、𝑠1と𝑠2は物体の位

置 か ら そ れ ぞ れ の レ ン ズ の 端 面 ま で の 距 離 で あ る 。 そ の 位 置 関 係 に お い て 、 結像関係(1

𝑎

+

1

𝑏

=

1

𝑓

)および、倍率が 10

倍(𝑎

b

= 10)を満たしている。

3.2

対物レンズの主点位置

(14)

13

3.2

からa = 𝑂𝑇𝐿 + 𝑠1、b = 𝑊𝐷 + 𝑠2であるからこれらを結像の関係と倍率の式に代入 する。

𝑂𝑇𝐿+𝑠1

𝑊𝐷+𝑠2

=10

および、 1

𝑂𝑇𝐿+𝑠2

+

1

𝑊𝐷+𝑠2

=

1

𝑓

これの連立方程式を解くと𝑠1

=36.1mm、𝑠

2

=11.96mm

となり、これがレンズの端面から の主点の位置となる。実験で使用する対物レンズからの距離は、すべて求めた主点の位置を 基準にとればよい。

像転送により、光の空間伝播モードとファイバーの伝播モードを一致させることができ たが、像転送させた像をファイバー内に取り込まなければならない。そこで、ファイバーが 像を取り込むことができる範囲は開口数(NA)を使って定義することができる。ファイバー と対物レンズの間の開口数は下記の図のように求める。

図 3.3 開口数のもとめ方

3.2.3

光学系の設計

単スリットのスリット幅を像とし、対物レンズによる像転送を考えることによって、光学 系の設計を行った。像転送であるため、結像公式がそのまま使える。設計した結果の全体像 は下記の図のようになった。

3.4

設計した検出用光学系の全体像

(15)

14

3.5

①の設計図

3.6 ②の設計図

(16)

15

3.7 ③の設計図

検出用の光学系は結像関係を満たす位置に固定したが、その条件においてファイバーが 光を取り込むことができるか開口数を使って計算し、確認した。

3.8 対物レンズとファイバーの位置関係

ファイバーの開口数

NA

が対物レンズとファイバーの間の開口数よりも大きいとき、つ まり

NA≥ sinθ =

𝑟1−𝑟2

𝑠 となるときファイバーは光を取り込むことができる。図

3.8

から

sinθ =

𝑟1−𝑟2

𝑠

= 0.156となり、表 3.1

よりファイバーの開口数

NA=0.275

であるからsinθ =

𝑟1−𝑟2

𝑠

≤ NAを満たしておりファイバーは対物レンズからの光を取り込むことができる。

3.2.4

光学系の製作

光学系のデザインが決まったので、それに従い、単スリット、対物レンズ、ファイバーを 固定して光学系を組み上げた。ただし簡単のため、対物レンズとファイバーとの固定は市販 のファイバー結合器(Edmund 社製の空間フィルタームーブメント)を利用した。これは ファイバー端面と対物レンズが一体となって固定できるようになっており、ファイバー端 面については、上下左右の平行移動と端面の傾きが微調整できるようになっている。対物レ ンズについては、縦方向に微調が可能になっており、計算のズレによる対物レンズの位置を 高い精度で微調できるようになっている。

一方単スリットとファイバー結合器の位置については、設計どおりの位置関係で固定する

(17)

16

ように、両者を固定するためのマウント台、単スリットを固定するためのホルダーをアクリ ルで作成した。その図面が図3.7である。これらは金属工作室に作成を依頼し、各コンポ ーネントが準備された時点で設計どおりに光学系を組み上げた。

3.3 データの取得のシステムの構築

ここでは、本研究で使用したシミュレーションのプログラムとその概要についてそれぞれ 簡単に説明する。

3.3.1 データ収集システムの概要

縞模様のパターンを観測するには、検出用光学系の位置を変えながら、光子計測を行う必 要がある。このとき位置制御には、ステッピングモーターによる自動Xステージを使用した。

これは将来横方向だけではなく、縦方向やスリットの位置を高精度で変えることが想定さ れること、マニュアル操作による不注意をできるだけ避ける等の理由から位置の制御と計 測を自動化しておくのが望ましい。またリモートで行うことができれば、レーザー実験室に 不用意に人が入る必要性もなくなり、安定的に計測できる。このような理由から自動Xステ ージを

PC

で制御し、その位置で光子のカウントを行うプログラムの整備を

Lab VIEW

用いて行った。

LabVIEW

とは、ナショナルインスツルメンツ社から発売されているデータ収集、制御の

開発環境を提供するソフトウェアである。主な使用用途としては、計測を行う際のデータの 計測、処理、表示を行うソフトウェアの開発である。

また、LabVIEWの大きな特徴は

C

C++といった命令文を与えるプログラミング言語で

はなく、あらかじめ機能を持ったオブジェクトにワイヤーを使って配線するグラフィック 言語である。それぞれのプログラムにも得意分野があり

Lab VIEW

は一度の大量のデータ の取得や決まったルーティーンを繰り返すことが得意である。また、もう一つの大きな特徴 はプログラムの作成用のブロックダイアグアムと呼ばれる画面と作成したプログラムを実 際に操作、実行し結果を表示するフロントパネルの画面に分かれていることである。そのた め、ブロックダイアグラムで製作したプログラムがすぐにフロントパネル画面に反映され るため、プログラムのシミュレーションが容易という利点がある。

3.9 LabVIEW

画面の図。

左図がフロントパネルで右図がブロックダイアグラムの図である。

(18)

17

3.3.2 データ収集システムの概要

カウンティングボードは、PCのスロットルに差し込み、パルスの計測数を取得するため に使用する。今回の実験では

NATIONAL INSTRUMENTS

社の

NI PCIe-6320

を使用し た。実験で使用するカウンティングボードは、TTL 入力パルスに対して立ち上がりと立下 りの時にそれぞれ

10nsec

の時間が必要である。つまり、入力パルスに対して最大

50MHz

までのカウントを取得することができる。また、今回の実験では入力パルスの立ち上がりを カウントした。

3.3.3 自動 X

ステージ

自動

X

ステージは駿河精機社製の

X

軸リニアボールガイド(KXL06030)を使用した。自

X

ステージは内蔵されているステッピングモーターによって動作する。1 つの電流パル ス信号に対して

X

ステージが2μm動く、すなわち位置分解能は2μmである。また、全 体の移動量は

30mm

となっている。

LabVIEW

で の 自 動 X ス テ ー ジ の 制 御 は サ ン プ ル プ ロ グ ラ ム が あ る の で 、 そ の 中 の

EASYJOG

を使用した。その中の決められた幅を動かす

Increment

と指定した位置に移動

させる

absolute

という機能を使用した。Xステージの移動の単位が1パルス当たり、つま

り2μm ずつ動くのでそれを位置分解能である単スリットの幅を

1

単位として動かせるよ うに設定した。

3.10 X

ステージの設定画面

(19)

18

3.3.4 X

ステージ制御とカウント計測の融合システム

実験には、Xステージ制御とカウント計測の両方を制御し、移動→計測→移動を繰り返し 行わなければいけない。それぞれのプログラムの繰り返しにはそのループ内を繰り返し実

行する

While

ループという命令を使った。

While

ループの中で、移動→測定→移動のように実行するように、決められた動作を

1

ずつ動かすシークエンスストラクチャを導入した。シークエンスストラクチャで

1

つずつ 実行し、それを

While

ループで繰り返し実行させることで移動→計測→移動を連続で行う プログラムを作ることができた。次に示す図が出来上がったプログラムの操作画面である。

画面1

画面2

(20)

19

画面3

画面

1

ではその位置での測定回数および、一回の測定時間と測定する際の時間の幅を決 めている。今回の実験では信号の計測を

1

秒ずつ行っているが、実際に表示されるカウン トレートは

0.1

秒当たりのカウント数を出力するように設定している。また、グラフには実 験中の現在カウントされているカウント数がリアルタイムで表示される。

画面2では測定で使用するチャンネルを設定する画面である。今回の実験では

1

チャン ネルしか使用しないが、将来的には単一光子発生源の構築のために光子対を使用し、コイン シデンスカウントを取る。非線形結晶に光子を入射すると光子対が生成され、それぞれの光 子が計測されるチャンネルが

2

つと、光子対の同時計測数を計測するチャンネルの3つの チャンネルが設定できるようにしてある。

画面3は

X

ステージの設定画面である。そこでは、検出範囲、検出の間隔を設定する。

また、Xステージの現在位置もリアルタイムで確認することができる。

(21)

20

4 章 実験

4.1 全体のセットアップ

本実験は、単一光子の二重スリットによるパターンを計測するために次のようなセット アップで実験を行った。

4.1 単一光子の干渉縞を計測するセットアップ

今回使用した光学素子等は下記のとおりである。

・二重スリット:スリット間隔

150µm、スリット幅 40µm

・検出用光学系

・レーザー光を出射するためのシングルモードファイバー(出射口)

・出射用ファイバー結合器(使用した対物レンズ:エドモンド社製: EO 顕微鏡用対物レ ンズ×10)

・自動

X

ステージ:

・減光(ND)フィルター

これらを組んで全体の調整を行った。

なお実験条件としては二重スリットと検出用光学系(単スリットの端面)までの距離

l=31cm

とし、検出用光学系の移動距離を

1.0cm

にした。

(22)

21

4.2 光学系の調整

まず光学系の全体の調整は下記の番号順に行った。

レーザー出射側の調整

光学系は光軸を中心に組み上げるため、まず光軸の調整を行う。実験で使用する

Ti-Sa

レーザーは波長が

830nm

の赤外線であるため目視することができず、光軸の調整が難し い。そこで、光軸の調整には調整が容易な可視光である

He-Ne

レーザー(波長

635nm)を

用いた。He-Ne レーザーをシングルモードファイバーに入射し光源として用いるが、シ ングルモードファイバーから出てくる光は拡散し、急激に強度が低下してしまう。そこで 対物レンズを用いて拡散する光を集光し平行光線になるように対物レンズとファイバー の距離を調整した。具体的には、ミラーを使ってレーザーの光学的距離を伸ばし、そのレ ーザー径がどこでも一定になるように調整を行った。

② 検出器用光学系の調整

検出器用光学系の調整はレーザー出射口である上流側からアライメントを行うのは難し いため、本来レーザーの受光口であるファイバーからレーザーを入射し実験セットアップ の下流側から次のようにアライメントを行った。

③ ファイバーの位置とあおり

受光口であるファイバーは次の図のようにレーザーの中心を正面から受光する必要がある。

そこでファイバーの位置とファイバーのあおりのアライメントを行った。

4.2 レーザーとファイバーの位置とあおりの関係

④ 対物レンズとファイバーとの距離

本来実験条件では単スリットとファイバーにおいて結像関係が成立する位置に対物レン ズを固定するが、単スリットの位置を調整するためファイバーから出てくる光が平行光線

(23)

22

になるように対物レンズの位置を調整し、ミラーを使って光学手的距離を伸ばし平行光線 になっていることを確認した。

⑤ 単スリットの調整

ファイバーから出てくるレーザーが平行光線になっているためそのレーザーが中心に来 るように単スリットを置いた。単スリットとファイバーの位置は結像関係が成立するよう に決めているので、単スリットから出てくるレーザーの強度が最大となるように単スリッ トと対物レンズの位置を調整する。それは実際の実験では、単スリットを通過してきた光子 を最大限取り込めるようにしているのと同義である。対物レンズと単スリットの位置を調 整し次の図のように単スリットから出てくるレーザーの強度をパワーメーターで測定し、

レーザーの強度が最大になるようにアライメントを行った。

4.3 パワーメーターでの強度の測定

⑥ 自動ステージの調整と固定

自動ステージに検出用の光学系を固定し、出射口から出てきたレーザーを検出器が検出 できるように出射口と検出器の光軸が一致するように自動ステージの位置と検出器の高さ を調整し、固定した。

⑦ 二重スリットの固定

出射口と検出器の光軸に二重スリットを置いた。二重スリットを通過し検出器から出て くるレーザーの強度をパワーメーターで計測しながら、二重スリットの位置と傾きを調整 し、レーザーの強度が最大となる位置で二重スリットを固定した。

⑧ レーザーの切り替え

v光軸の調整ができたので、実験用の

TiSa

レーザー(波長

830nm)に切り替えた。実験用の

レーザーとは波長が異なるためファイバーと対物レンズの位置関係が少し変わってくる。

そこで出射口のレーザーが平行光線になるように再び調整し、検出器側のファイバーと単 スリットは幾何光学から求めた結像関係であるから位置関係はほとんど変わらないはずだ が、実際は少しズレが生じるため再び調整した。

(24)

23

4.3 コヒーレント光を使った実験

単一光子干渉を測定する予備実験として、レーザー光をそのまま入射したときの二重ス リットでの干渉縞の観測を行った。光量を落とさずにレーザー光を用いると、古典電磁波 として扱うことが可能となる。したがって図のような波による干渉縞が観測できるはずで ある。

4.4 コヒーレント光による干渉

この図でのスクリーン上に対応する場所に、検出用光学系と

x

ステージが設置されてい る。検出用の光学系に結合した光ファイバーの出射側をパワーメーターに導入させること で、光学系の位置を動かしながら、その位置での古典光の強度を測定することができる。

その結果をまとめたのが次のグラフである。

(25)

24

4.5

パワーメーターの値から得られた干渉縞

このときの

X

ステージはスキャン幅

8mm、一つのステップ 0.2mm

と設定して行った。

古典光による干渉縞が確認することができたので、単一光子の状態にすれば単一光子干渉 が観測されるはずである。二重スリットの前に

ND

フィルターを複数取り付け、単一光子 状態になるまで強度を下げる。

4.4 APD による単一光子の検出

単一光子の検出にはパワーメーターの代わりに

APD

を用いる。入射光の強度が弱すぎ るとバックグランドの影響を受けやすくなるが、強度が強すぎると

APD

が飽和するた め、線形性が悪くなる。カタログ値によると線形性が保障されるカウント数は毎秒107 程度である。安全ファクターを見て、最大検出数が105

~10

6程度になるように、NDフィ ルターを複数挿入して入射光の強度を調整した。

検出前の入射光(二重スリットの前で測定)の最大強度は

1.1µW

であった。波長

830nm

の光子

1

つ当たりのエネルギーはℎ𝑐

𝜆

=2.39×10

−19

(J)であるから、その強度での光

子数は毎秒約

4.18×10

12個である。105

~10

6個にするためには入射光強度を7桁程度下げ る必要がある。そこでまずは7桁以上減光するだけの十分な減光フィルターを複数枚挿入 してから、検出用光学系と

APD

とを接続し、光子の検出数が毎秒

10

5個程度になるように 減光フィルターの枚数を調整した。

(26)

25

4.5 APD によるバックグランドの評価

APD

での検出には、二種類のバックグランドが必ず混入する。一つは光子が入射しなく ても熱雑音で発生するカウントで、ダークカウントと呼ばれている。二つ目は外部環境か ら混入する迷光によるバックグランドで、レーザー光の一部が反射し、混入する場合も含 む。それらを実験結果から取り除かなければならない。使用する

APD

モジュールのダー クカウントは、カタログ値から約

100

カウント/secである。それを確認するために、まず

APD

の受光面を完全に遮光した状態で

APD

を動作させた。実際に得られた結果を次の 図のようにまとめた。

図 4.6 ダークカウントの計測

今回使用した

APD

のダークカウントは

132

カウント/secであったため、使用可能であ ると判断した。またレーザー由来ではない外部環境によるバックグランドは、レーザーを 遮断することによって測定した。なおレーザー由来のバックグランドは測定がかなり困難 であること、またレ-ザーの強度に比べてそのバックグラウンドの強度は小さく減光フィ ルターによってその強度が弱められレーザー由来のバックグラウンドは十分に小さいと考 えられるため、今回は無視した。

(27)

26

また、レーザーを入射せず計測を行った結果をまとめたのが次のグラフである。

図 4.7 バックグラウンドのカウントデータ

1

秒当たりの平均バックグランドのカウント数は

7237/sec

であった。実験で得られたデ ータからバックグランドを引くと、単一光子干渉による検出数が得られる。

4.6 単一光子状態での測定

レーザー光を二重スリットに入射させて、検出用光学系でスキャンさせた。全体のスキ ャン幅は

10mm

で、一回のステップの移動距離は

40µm

である。検出光学系を一ステップ 動かした後、10秒間の計測を行ってから、次の一ステップ動かした。計測結果をグラフに まとめたのが下記の図である。

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000

0 5 10 15 20

グラウンド

(

カウント

/s ec

測定回数

バックグラウンド

(28)

27

図 4.8 計測された光子の度数分布

縦軸は1秒間の平均の計測数を示す。この結果から、単一光子計測でも縞模様のパター ンが見えており、単一光子干渉は観測できているように見える。続いてこの結果を解析 し、理論計算と比較する。

(29)

28

5 章 解析と考察 5.1 理論計算との比較

実験結果は度数分布になっているので、全体を規格化して確率密度に直したのが次のグラ フである。

図 5.1 実験データの確率密度

実験から得られた確率密度と理論計算から導いた確率密度を比較したグラフを下記に示 す。

図 5.2 理論と実験データから得た確率密度の比較

(30)

29

実験結果を理論計算と比較すると、中心の隣の山の確率に差があり、また左右で干渉の山 の間隔に差があり左右非対称となっている。また、中心からずれるほど干渉の強度が実験値 では理論値よりも大きく落ちていることからコヒーレンスが悪いことがわかる。

そこで、これらの原因を考察するために、実験データのフィッティングを行った。

5.2 最適なパラメータの決定

フィッティング関数は確率密度

P

について次のような式に定義した。

P=𝛼

1

𝑠𝑖𝑛𝑐

2

(𝛼

2

𝑥 + 𝛼

3

)(1 + 𝑐𝑜𝑠(𝛼

4

𝑥 + 𝛼

5

)) + 𝛼

6

𝛼

1

~𝛼

6をフィッティングパラメーターとして実験データを最小二乗法でフィッティング すると、スリット幅やスリット間隔、

sinc

関数と

cos

関数の位相のずれが求まる。このとき 光子の波長は波長計で測定した結果、830.006nm であり、検出器の光学系と二重スリット

の距離は

31.0cm

であったため、波長

830nm

検出器の光学系と二重スリットの距離を

31.0cm

に固定し、フィッティングを行った。結果を下記の図に示す。

図 5.3 実験値とフィッティング結果の比較

フィッティング結果から、この実験データに対して最適な実験パラメータが求まる。波長

830nm

および検出器と二重スリットの距離

31cm

で一定値であるとし、得られたパラメー

タからスリット幅、スリット間隔、sinc関数と

cos

関数の位相のずれを求め、既知の値と比 較すると次の表のようになった。

(31)

30

5.1

フィッティングパラメーターの理想的条件とフィッティング結果 理想的な条件 フィッティング後

スリット幅

40µm 40µm

スリット間隔

150µm 147.9µm sinc

関数と

cos

関数の位相のずれ 0mm

0.183mm

この結果から、スリット幅に関しては実験データとコンシステントであるが、スリット間 隔、

sinc

関数と

cos

関数の位相のずれについては合わない。これらの結果も踏まえて考察を 行う。

5.3 考察

得た確率密度と理論計算から得た確率密度を比較すると(図

5.2

参照)、実験結果は非対 称性が現れていること、ピークから離れるほど確率密度が減少していることがわかった。

原因としては実験のセットアップのアライメントが不十分であったことが考えられ、フィ ッティングにより最適化した条件の下で得たフィッティングパラメーターと実験条件を比 較した(表

5.1

参照)。cos関数と

sinc

関数に位相のずれが生じており、その原因は実験前 のアライメントにあると考えられ、特に二重スリットが光軸に対して斜めになっているこ とが大きかったのではないかと考えられる。なぜなら、二重スリットが光軸に対して少し 斜めになっていれば、2つのスリットの間に位相差が生じ、sinc関数と

cos

関数の位相が ずれたと考えられる。またスリット間隔のフィッティング結果が実験条件よりも狭く出て いるが、実験データの縞模様の間隔はフィッティング結果により広いと考えられる。この ことを考慮すると、スリット間隔は

147.9μm

以下であろう。しかし

150μm

と比較する と、このスリット間隔を説明するためには、9.6度傾いていないといけない。したがって 二重スリットと光軸との相対関係がこれだけの角度であった可能性がある。しかしこの場 合は単スリットの幅も変わってしまう。したがって二重スリットのアライメントだけでは 説明できない。そこでまずは二重スリットの表面を観測し、実際のスリット幅、間隔を確 認すべきであろう。

得られた実験データから二重スリットも含めて全体のアライメントが十分でなかった可 能性がある。次回の実験ではスリット表面の確認と、他のアライメントも含めての精度を上 げて実験する必要がある。

(32)

31

6 章 まとめと今後の展望

今回の実験では単一光子干渉を計測できるオンラインプログラムの整備と検出器に光子 を導入する光学系を構築し、単一光子によるパターンを観測することを目標に実験を行っ た。検出器に光子を導入する光学系の設計・製作・調整・動作の確認、オンラインプログラ ムの作成、さらにセットアップ全体のアライメントを追い込んで、単一光子レベルでの縞模 様の観測に成功した。今回は実験の都合でレーザーの波長

830nm

で行ったが、810nm の測定も十分に可能だと思われる。しかし実験から確率密度を求めることはできたが、理論 計算による結果と比較すると、左右対称性の点で一致しなかった。これは二重スリットが斜 めになっていることが一つの原因と考えられるが、原因の特定には至っていない。

今後の展望としては、まずは理論計算と一致しなかった原因を特定することが先であろ う。その際に検出用の光学系を

810nm

での測定に最適化させ、レーザーを

810nm

に切り 替えてアライメントに気をつけながら、同じ測定を行う。理論計算との比較を行って、理想 的な測定に近づけるようにアライメントを追い込む。またこの実験では将来的にはレーザ ー光源ではなく、単一光子発生源を用いるのが望ましい。また入射光子数をきちんとモニタ ーすることも大事であろう。そのためには非線形結晶による光子対発生源を組み上げて、二 つの光子の同時計測を行う予定である。また今後の実験では、射影の強さを任意に制御する ために偏光の自由度の利用や、光子の時間発展を見るために横方向だけではなく縦方向の 位置測定も行うことを計画している。その場合には縦方向や偏光などの自動制御も合わせ て行うための複雑なオンラインシステムが必要となるので、その状況に合わせた

LabVIEW

の整備が必要となる。将来的には上記の整備を行って、位置と運動量の測定に実験的にアプ ローチしたいと考えている。

(33)

32

謝辞

論文作成にあたりこの場を借りて感謝の意を示したいと思います。指導教員である高橋 徹先生と飯沼昌隆先生大変お世話になりました。特に飯沼先生には卒業論文のテーマの決 定から研究へのアドバイス卒業論文の作成では大変なご迷惑をおかけしてすみませんでし た。そんな中でも優しく様々指導をしてくださり本当にありがとうございました。研究室 の先輩である川居さん、中野さん、石川さん、渡壁さん、宮園さんには先輩の立場から 様々なアドバイスをいただきありがとうございました。また、田口さんには自分の研究の 原理から解析まですべてで大変お世話になりました。ほんとにありがとうございます。同 じ研究室で同期であるジョン君、泉さん、坂田さんのおかげで卒論の時期はしんどくはあ りましたがとても楽しく研究室での時間を過ごすことができました。来年みんな別々の道 に進むのは残念でしたが大変お世話になりありがとうございました。

また、4年で卒業予定でしたが大学院進学に決め、それを後押ししてくれた両親には本 当に感謝しています。あと2年学生を続けますがその分成長をしようと思います。本当に ありがとうございました。

(34)

33

参考文献

[1] 道垣内龍男 広島大学先端物質科学研究科 修士論文(2009) [2] 山口月 広島大学理学部 卒業論文(2016)

[3] ソーラボジャパン総合カタログ

[4] エドモンド・オプティクス・ジャパン マスターソースブック(2015

年度春版)

[5] 大津元一 現代光科学Ⅰ(1994)

[6] K. Vogel and H. Risken Physical Review A 40, 2847, (1989) [7] Sacha Kocsis, et. al., Science 332, 1170, (2011)

[8] Charls Bamber and Jeff S. Lundeen Physical Review Letters 112, 070405, (2013)

[9] ジョージ・グリーンスタイン アーサー・G・ザイアンツ 量子論が試されるとき

(2014)

図 3.6  ②の設計図
図  4.8  計測された光子の度数分布

参照

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