論文審査の結果の要旨
氏名:石 川 孝 典
博士の専攻分野の名称:博士(生物資源科学)
論文題名:高濃度アスコルビン酸投与によるサケ科魚類の疾病予防法の開発
審査委員:(主 査) 教授 小 島 隆 人 (副 査) 教授 中 西 照 幸
(副 査) 教授 塚 本 勝 巳 (副 査) 准教授 髙 井 則 之
本論文は、ニジマスを主とするサケ化魚類の疾病予防法として、高濃度アスコルビン酸(AsA)投与法 の副作用の確認、最適投与条件の決定、ストレス耐性向上効果、抗病性向上効果、および抗病性向上効果 機構の解明、に取り組んだものである。
副作用の確認では、100~5,000mg/kg dietの濃度でAsAを展着させた市販飼料(100~5,000AsA試験飼 料)をニジマスに100日間にわたり給餌を行った。結果として、成長に異常はなく、5,000mg/kgを与えた 区でも非特異的な免疫活性は有意な増加活性を示し、高水温ストレスに対しても高い耐性が認められるな ど、高濃度のAsA投与による副作用は無いものと判断された。
最適投与条件の決定では、5,000AsA試験飼料をサケ科魚類3魚種に給餌し、AsAの組織蓄積量を指標 に最適投与条件を決定した。投与開始後、いずれの魚種でも肝臓組織ではAsAの蓄積増加が確認された。
そしてAsAを展着していない市販飼料(対照飼料)に切り替えたところ、対照飼料のみの区と比べ1週間 は有意に高い値が認められた。ニジマスでは、5,000AsA試験飼料を与えて 1 週間で肝臓蓄積量は最大値 を示し、以後減少する傾向が認められたことから、7日間投与した後7日間投与休止期間を挟む間欠投与 法が、最も効率的な投与設定であるものと判断された。
そこで、最適投与条件で決定した5,000AsA試験飼料を7日間投与した魚体を用いて、各種ストレス要 因に対する耐性試験を行った。結果として、高水温および低酸素に対する耐性向上効果が認められた。両 ストレスは、サケ科魚類養殖生産において特に夏季に問題となる要因であり、特に同時期における魚体の ストレス減退の手法として有効であるものと考えられた。
更に、同投与法による抗病性向上効果について、サケ科魚類養殖で問題となっている伝染性造血器壊死 症(IHN genogroup U(低病原性), genogroup JRt(高病原性))、サケ科魚類ヘルペスウイルス病(OMVD)、
β溶血性レンサ球菌症(レンサ)、および水腫症に対する有効性について、人為感染実験による生残性から 解析した。結果として、IHN(高病原性)およびレンサにおいて有意な効果が確認された。また、水腫症 も高濃度AsAを投与し、更に注水量を多くした区において有意な生残効果が認められた。この中で、IHN
(高病原性)は東日本地域で最もサケ科魚類養殖において大きい被害をもたらしているウイルス病であり、
本申請研究で確認された5,000AsAの投与による予防効果は、同症の被害の大きい地域における有効手法 1
として期待される。一方、IHN低病原性株およびOMVDにおいては有意な効果は確認されず、高濃度AsA 投与法は感染症の種類や病原体の系統によって有効性が異なることも明らかとなった。これは、AsAをは じめとした魚類の免疫賦活剤の効果が、生産現場において安定性に欠ける理由を見出した成果ともいえる。
最後に、5,000AsA試験飼料の投与機序について解析を進めた。特にIHNなどのウイルス病に対して効 果が認められたため、抗ウイルス因子として報告されているIFNγが高濃度のAsA投与に伴い産生量が増 加するか検討を行った。すなわち、IFNγの測定系を構築した後、これまでと同一手順で 5,000AsA 試験 飼料をニジマスに与え、経時的に血液や臓器を採取して IFNγの血中濃度や産生細胞の動態を解析した。
結果として、AsAの投与開始1日後には有意なIFNγの血中濃度の増加が確認された。また、特に脾臓や 鰓組織において発現細胞の増加が確認され、高濃度の AsA 投与により抗ウイルス因子の一種である IFN γの発現・産生が亢進し、抗ウイルス活性が増強されているものと考えられた。
本研究では、上記成果をとりまとめ、養殖生産現場に普及させるために採算性の面を含む提言まで行っ ており、実用研究として価値ある報告となっている。また、副作用の確認および抗病性向上効果について は、査読付きの原著論文として3編 が既に掲載されており、学術的意義もあると判断される。よって本 論文は,博士(生物資源科学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上
平 成26年6月9日
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