訴 訟 要 件 の 審 理 順 序 ⇔
片野
一一 一
β 良
一本稿の目的
二異説の登場(その一)ーリンメルスパッハー1
1無効主義(Nichtigkeitsprinzip)から
取消‑FH義(Anfechtungsprinzip)への変化
2訴訟判決と本案判決の既判力
3is法適Qa性(JustiZfornigkeit)
4裁判の正当性の保障と法的平和の確保
三異説の登場(その二)ーグルンスキー︑
J・プロマイヤi︑坂口裕英教授1
ーグルンスキーの説
2J・プロマイヤーの説
3坂口裕英教授の説(以上一〇六号)
四個々の訴訟要件の機能と審理順序
1裁判所に関する訴訟要件
2当事者に関する訴訟要件(以上一〇八号)
3訴訟物に関する訴訟要件
4小括(以上本号)
訴訟要件の審理順序㊨三九(79㌧
四〇(80)
五審理順序の効果
1上訴可能性および控訴審における訴訟要件の審理
2審理順序と既判力の時的限界
六訴訟要件相互間の審理順序
1学説の概観
2個々の審理順序の検討
七結論要約
四個々の訴訟要件の機能と審理順序(続)
3訴訟物に関する訴訟要件
訴訟物に関する訴訟要件としては︑確定判決の不存在︑二重起訴の禁止︑および訴えの利益(権利保護の資
格と利益)などがある︒この他︑西ドt‑ッt='は',,,求r"能性(Klagbarkeit)があげられるが︑わが国では訴え
の利益ないしは権利保護の資格のところで論ぜられ︑独立した訴訟要件として取り扱われていないので︑本稿
においても︑訴求可能性を別個に論ずることはしなかった︒
ω確定判決の不存在
既判力は再度の弁論および裁判を禁止することにより法的安定性をもたらし︑これにより訴訟目的の達成に
寄与するといわれている︒さらに︑かかる主要な目的のほかに︑矛盾判決を回避することによって裁判所の権
威の失墜を防止し︑また同一事件についての再度の審判による裁判所の負担を回避させる目的をも有している
ヨ と指摘されている︒そしてこのような目的を達成するためには︑請求の理由のないことが判明したときであっ
(4)ても︑当該事件について確定判決がすでに存在しないか否かの審理を行う必要があるといわれている︒なお︑
原則的に訴訟要件の先順位性を否定するリンメルスパッハーも︑既判力を準法律要件(ρ§撃゜q①ω①巳回警①﹁↓卑
(5)bestand)と解し︑確定判決の有無は第一に審理されるべきであると主張する︒
これに対し︑訴えの理由のないことが判明し︑かつ前訴の判決も請求棄却判決を下しているときは︑確定判
決の存否︑つまり前訴判決の既判力が及ぶかどうかの審理を省略してよいとする説が主張されている︒グルン
スキーは次のような例をあげて説明している︒
KはBに対してBGB九八五条(所有権にもとつく返還請求)により物の引渡しを求める訴えを提起した︒訴え
は︑Kは所有権者でない︑との理由で排斥され︑確定した︒その後︑KはBGB八六一条(占有権にもとつく回
収)にもとつく訴えをBに対して提起した︒裁判所は︑Kによって提出された事実は同八六一条の﹁禁止された私
力(dieverboteneEigenmacht)﹂を理由づけることができず︑したがって訴えは有理性を欠く︑と考えた︒この場
合に︑前訴判決の既判力を顧慮することなく請求棄却判決を下すことを︑裁判所に禁じるとき︑裁判所は︑まず先
に︑占有にもとつく請求権はBGB九八五条にもとつく請求権とは異なる訴訟物であるかどうかという︑困難な問
ハ 題に答えなけれぽならない︒その際︑訴訟の結果(つまり訴え排斥)はいずれにせよ確定している︒
右に述べた少数説は︑その論拠を訴訟経済的考慮に求めているが︑この点についてマルティソは︑前訴判決
の内容を再審査するために前訴判決を引用しなければならないのであるから︑保護に価する程の訴訟経済的考
慮は認められないと反対している︒さらにH・J・ザウアーも︑前訴判決が原告の権利の存在を否定している場
訴訟要件の審理順序⇔四一(81)
四二(82)
合に︑後訴裁判所が訴求債権は少くとも支払猶予されているとの理由で既判力の問題を不問に付すとき︑同一
へ の訴訟物について二個の判決が存在することになると批判する︒
まず訴訟物の同一性の判断に際しては︑マルティンが指摘するように︑訴訟資料の法的評価の困難が問題と
0.‑‑ なるにすぎないといえるが︑訴訟物理論および既判力の客観的範囲についての学説の紛糾を見るとき︑訴訟物
が同一であるか否か︑あるいは前訴判決の既判力が及ぶか否かの判断を省略することによる裁判所の負担軽減
は︑保護に価しない程度のものとはいえないように思われる︒したがってマルティンの批判は十分でないとい
えよう︒
これに対し︑前訴判決が原告主張の権利の存在を否定しているときに︑後訴裁判所は支払猶予を理由に請求
棄却判決をすることができるかは︑疑問である︒前訴において権利の不存在を理由とする請求棄却判決を得た
被告にとって︑支払猶予を理由とする請求棄却判決は︑猶予期間経過後は原告の再訴が認められるという意味
で︑不利なものといえるからである︒もっともかかる不利益は︑判決理由中の判断に相対的既判力を肯定した
けり場合に生じるものである︒ところで︑判決理由中の判断に既判力を認めないのが従来の通説といえるが︑この
場合の既判力は一般的に作用する絶対的既判力を意味し︑特定の場合(つまり同一請求について)に作用する
相対的既判力をも否定したものとは考えられず︑かえって訴訟判決については相対的既判力が肯定されている
(12)ことを考慮するとき︑請求棄却判決についても︑このような相対的既判力は肯定されるのではないかと考えら
C am )
れる︒このように前訴判決(請求棄却判決)と異なる理由にもとつく請求棄却判決が被告に不利益を生ぜしめる場
合があり︑またこのような不利益を裁判所の負担軽減を理由に被告にしいることは妥当でないから︑前訴にお
いて請求棄却判決が下されている場合であっても︑常に確定判決の不存在の審理を省略し請求棄却判決を下し
てよいとは解せられない︒したがって前訴において請求棄却判決が下されている場合に︑確定判決の不存在
(とくに訴訟物の同一性)の審理を省略し請求棄却判決を下すことが許されるのは︑請求棄却判決が被告に不
利益を生ぜしめない場合(請求権の不存在を理由とする場合)に限られると解すべきである︒
ところで︑民訴法四二〇条一項一〇号は︑﹁不服ノ申立アル判決力前二言渡サレタル確定判決ト抵触スルト
キ﹂は再審を認めているが︑前記の場合︑両判決はともに請求棄却判決であり︑絶対的既判力の局面では﹁抵
触﹂は存在しないといえる︒しかし︑右の﹁抵触﹂は絶対的既判力の局面においてだけでなく︑相対的既判力
の局面においても問題となりうるから(前述した既判力制度の目的は︑相対的既判力についても妥当すると考
け えられる)︑確定判決を無視してなされた請求棄却判決に対しては︑被告の再審を認めてよいと考えられる︒
なお︑前記の既判力制度の目的は︑被告の利益保護のみでなく︑公共の利益をも保護するものであり︑被告
の同意は認められないから︑確定判決の不存在には︑右に述べた場合を除き︑無条件の先順位性が認められる
べきである︒
(15)②二重起訴の禁止
二重起訴の禁止は︑不必要な訴訟から裁判所や相手方を保護する機能︑および矛盾判決を防止する機能によ
め って︑その先順位性が理由づけられるといわれている︒
これに対し︑シェンケ・クヒンケは︑﹁同一事件について重複して弁論がなされることは権利保護の必要を
欠くので﹂︑二重に提起された訴えは不適法となるのであり︑矛盾判決の防止は既判力の課題であって二重起
訴訟要件の審理順序⇔四三(83)
四 四 ( 84 )
レ
訴の禁止の課題ではないと主張する︒しかし第一の判決が確定する以前に︑第二の矛盾判決がなされうるのであるから︑二重起訴の禁止も矛盾判決の防止をその課題としていると考えるべきである︒つまり二重起訴の禁
止は訴訟が係属している間の矛盾判決を防止するものであり︑既判力は判決確定後の矛盾判決を防止するもの
( )
といえる︒(19×20)なお︑リンメルスパッハーも︑二重起訴の禁止に本案要件に対する先順位性を認めているが︑﹁第二の訴訟
が確定判決によって終結されうる場合で(控訴審としての地方裁判所︑あるいはBGHの確定判決)︑他方パ
(21)ラレルの手続はまだ始めの段階にあるとき︑第二の手続をストップすることは意味がない﹂とする︒第二の訴
訟が終局間近かであるにもかかわらず︑訴えを二重起訴を理由に却下し︑手続の進行していない第一の手続に
紛争解決を委ねることは︑裁判所や当事者の負担を増やすこととなり︑訴訟経済的な取扱いとはいえない︒む
しろかかる場合には︑第二の訴訟を本案判決(請求認容・請求棄却とも許される)によって終結させ︑確定判
決の存在によって矛盾判決を回避すべきであろう︒したがって︑リンメルスパッハーの主張する取扱いは肯定
されるべきである︒なおわが国では︑控訴審としての地方裁判所の裁判は高等裁判所へ上告可能であるので
(22)(裁判所法一六条三号)︑上告審としての高等裁判所︑および最高裁判所の確定判決が可能である場合には︑二重
起訴の禁止を省略することができ︑さらに二重起訴であることが判明しているときであっても︑これを顧慮す
る必要がないことになる︒
右に述べたように︑上告審における例外的場合を除いて︑二重起訴の禁止は本案要件に対する先順位性を有
するが(上訴による判決の取消しが認められる)︑前記の︑二重起訴の禁止の機能は︑被告を不必要な訴訟か
ら保護する機能を除き︑公共の利益に関することであり︑被告の同意は許されないから︑無条件の先順位性が