訴 訟 要 件 の 審 理 順 序 ⇔
片 野
一
区良
一本稿の目的
二異説の登場(その一)iリンメルスパッハー1
1無効主義(Nichtigkeitsprinzip)から
取消主義(Anfechtungsprinzip)への変化
2訴訟判決と本案判決の既判力
3is法適Qa性(Justizfornigkeit)
4裁判の正当性の保障と法的平和の確保
三異説の登場(その二)ーグルンスキー︑
J・プロマイヤー︑坂口裕英教授1
ーグルソスキーの説
2J・プロマイヤーの説
3坂口裕英教授の説(以上一〇六号)
四個々の訴訟要件の機能と審理順序
1裁判所に関する訴訟要件
2当事者に関する訴訟要件(以上本号)
3訴訟物に関する訴訟要件
4小括
訴訟要件の審理順序⇔三五(38)
一二六(39)
五審理順序の効果
1上訴可能性および控訴審における訴訟要件の審理
2審理順序と既判力の時的限界
六訴訟要件相互間の審理順序
1学説の概観
2個々の審理順序の検討
七結論要約
四 個 々 の 訴 訟 要 件 の 機 能 と 審 理 順 序
前章までにおいて︑訴訟要件と本案要件との審理順序の考察方法として︑訴訟要件の法的性質から一律に決
定する方法が適切でないことを指摘したが︑他方︑従来の研究にはもう一つの考察方法︑すなわち個々の訴訟
ユ 要件の目的・機能にもとついてこの問題を考察するものが存在する︒私も考察方法としては後者の方が適切で
あると考えるが︑しかしながら従来の研究は︑当事者に関する訴訟要件についていずれの当事者側の訴訟要件
が問題となっているかを十分考慮していないこと(ただし竹下守夫教授は︑第三者に判決効が及ぶ場合の当事
者適格についてこの点を考慮されている)︑さらに︑被告の処分に委ねられるべき訴訟要件の先順位性の有無
にっいて二者択一的な解答のみが主張されていた点で︑なお十分でないように思われる︒したがって以下で
は︑個々の訴訟要件の目的・機能を検討し︑かつ右の点を考慮に入れて︑訴訟要件と本案要件との審理順序を
検討したいと思う︒
さて︑訴訟要件は通例︑申立行為に関する要件︑裁判所に関する要件︑当事者に関する要件︑および訴訟物
に関する要件に分けられる︒ところでわが国の通説においては︑訴訟能力・代理権は訴え提起行為および訴状
送達に関するかぎりで訴訟要件になると解されているため︑訴訟能力・代理権を申立行為に関する訴訟要件に
含めるものと︑当事者に関する訴訟要件に含めるものとが存在する︒しかし︑訴訟能力・代理権を訴え提起行
為や訴状送達のみに関する訴訟要件と解するのは適当ではなく︑訴訟手続全体に関する訴訟要件と解すべきで
る あると考えられるので︑これらの訴訟要件は当事者に関する訴訟要件に含められるべきである︒
右のように解するとき︑申立行為に関する訴訟要件にはどのようなものが含まれるのかを確定しておく必要
がある︒﹁訴え提起行為﹂は訴状提出行為と訴状送達行為および訴状受送達行為からなるが︑訴状の送達行為
は職権をもってなされるものであるから(民訴法二二九条︑一六〇条)︑訴訟要件とは解すべきではなかろう︒そ
うであるとすると︑﹁訴状提出行為﹂と﹁訴状の受送達行為﹂が訴訟要件と解されることになるが︑これらか
ら訴訟能力・代理権の問題を除外すると︑申立行為に関する訴訟要件としては︑ω訴状の必要的記載事項(民訴法二二四条)︑㈹所定の印紙貼用をあげうるにすぎない︒そしてこれらの訴訟要件については︑その審理
が本案の審理に先行すべきことは多言を要しないし︑しかもこれらの要件が訴訟要件として問題となるのは︑
裁判長が訴状審査においてその欠敏を看過し︑訴状を送達した後であるから︑極めて稀なことであろう︒
注(1)鈴木正裕﹁訴訟要件と本案要件との審理順序﹂民商法雑誌五七巻四号(昭四三)五〇七頁︑竹下守夫﹁訴訟要件をめ
ぐる二︑三の問題﹂司法研修所論集六五号(昭五六)一頁︑上村明広﹁上告審における訴訟要件﹂小室"小山還暦記
訴訟要件の審理順序⇔三七(40)
三八(41)
念・裁判と上訴(中)(昭五五)二〇六頁以下︑=°J.Sauer,DieReihenfolgederPrtifungvonZul鋤ssigkeitand
BegQrtindetheiteinerKlageimZivilprozeQ,1974,S°76ff.;R.Martin,ProzeLivoraussetzungenandRevision,1974,
S.61ff.
(2)兼子一・新修民事訴訟法体系(増訂版・昭四〇)一四九頁︑小山昇・民事訴訟法(四訂版・昭五九)二三〇頁︑斎藤
秀夫・民事訴訟法概論(新版・昭五七)一五七‑一五八頁︑新堂幸司・民事訴訟法(第二版・昭五六)=ハ四頁︒
(3)中野・松浦・鈴木編・民事訴訟法講義(補訂版・昭五五)四二二頁︹鈴木正裕︺︑兼子・小山編・民事訴訟法講義
(昭五四)一九七頁︹竹下守夫︺︑三ヶ月章・民事訴訟法︹双書︺(第二版・昭六〇)三四四頁︑吉村・竹下・谷口編・
講義民事訴訟法(昭五七)四七頁︹本間義信︺︒
(4)柏木邦良﹁訴訟要件と訴訟内紛争﹂民事訴訟雑誌一九号(昭四八)=二二頁注1︑住吉博・民事訴訟読本(第二版・
昭五一)二四〇頁︒
(5)柏木邦良・前掲八五頁注15︒なお︑Rosenberg‑Schwab,Zivilproze6recht,13.Aufl.,1981,ァ9?IIは訴え提起の適
td性(dieOrdnungsm似LiigkeitderKlagqeerhebung)を訴訟要件でなく訴訟行為要件であるとするが︑いずれにして
も取扱い上の差異は存しないので(欠訣の補正が行われないとき︑訴えは不適法として排斥されKaCa.a.O°ァ98III
占)︑ここでは通説の立場に従い︑訴訟要件と解しておく︒
(6)岩松・兼子編・法律実務講座民事訴訟編二巻(昭三三)五一頁は︑﹁ただ︑裁判長が訴状を却下すべき場合でも︑一
旦訴状を被告に送達した以上︑これによって訴訟係属は生ずるから︑爾後は︑訴状を却下すべき場合であったというこ
とが︑訴訟の係属を不適法ならしめる事由として︑訴訟要件と考えられるわけである﹂と述べる︒
なお裁判長による訴状却下命令をなしうる時期については︑ω訴状を被告に送達する前に限る説(兼子一・体系一
七九‑一八〇頁︑菊井・村松・民事訴訟法H︹昭三九︺八二頁︑斎藤・概論一四〇頁︑中野・松浦・鈴木編・講義五六
頁︹中野貞一郎︺)︑㈲口頭弁論期日指定までとする説(河本喜与之・改訂民事訴訟法提要︹昭四〇︺一七一頁)︑㈹
口頭弁論開始までとする説(新堂・民訴法一五四頁︑菊井・村松・全訂民事訴訟法1︹昭五三︺一一五三頁︑三ヶ
月・民訴法︹双書︺三八〇頁)などに分かれるが︑訴状送達により応訴準備を開始するであろう被告の関心を無視しえ
ないので︑被告への訴状送達時を基準とすべきであろう︒
1裁判所に関する訴訟要件
裁判所に関する訴訟要件としては︑民事裁判権︑国際的裁判管轄(従来︑民事裁判権の物的範囲として問題
とされたもの)︑土地管轄︑事物管轄︑および職分管轄がある︒西ドイッでは︑このほかに︑権利救済方法
(Rechtsweg)の選択の適法性が論じられている︒そこでの議論は︑わが国における訴訟形式の選択の問題と関
連すると考えられるので︑本稿では訴えの利益のところ(四・3・③)で論じたいと思う︒けだしこの問題は︑
訴えの利益の一場合である︑解決手段の適否の問題と関連するからである︒
ω民事裁判権
民事裁判権は︑当該人物・団体が民事裁判権免除資格者であるか否かが争われる場合︑およびこれらの者に
よる行為が民事裁判権免除の場合に該当するか否か(外国国家の場合︑主権行為雷6toiureimperii︺と職務行
ね為(actsiuregqestionis︺のいずれに該当するか︑外交官の場合︑外交関係に関するウィーン条約三一条一項掲記
の行為に該当するか否か)が争われる場合に問題となる︒前者については︑最近における国際機関の発達によ
り︑その重要性が高くなっていると指摘されている︒後者の例としては︑外国軍隊に補給するための物資購入
ヨ 契約をめぐる紛争をあげることができる︒当該人物・団体が民事裁判権免除者であり︑かつその行為が民事裁
判権免除の範囲内のものであるとき︑わが国の民事裁判権は制限される(ただし︑民事裁判権免除者が免除を
る 放棄したときは︑わが国の裁判権はこれらの者に対しても及ぶ)︒
ハ さて︑民事裁判権の先順位性を肯定する説からは︑その根拠として︑外国国家の代表者に対する敬意︑国際
訴訟要件の審理順序口三九へ42)
四〇(43)
的関係を有する一定の事件における外国国家の主権の優位があげられている︒これに対し︑民事裁判権の先順
位性を否定する説からは︑ω民事裁判権免除者にとって︑免除消滅後に提起された訴訟において前訴の請求
棄却判決の既判力が役立つこと︑ω請求棄却判決であれぽ外国国家の主権行為に対する侵害にはならないし︑
侵害はもっとも控え目であるべしとのQaQF(dasGebotschonendstenBeeintr胃htigung)の観点からも︑請求棄却
判決を下して手続を可及的迅速に終結することが望ましいこと︑がその根拠としてあげられている︒
ところで︑最近の国際法学の通説は︑外交特権の主要な根拠として外交使節団の職務遂行上の必要を︑附随
リズけ 的根拠として外交使節団が国家の代表機関であることをあげていると指摘されている︒このように外交特権の
根拠づけが︑職務遂行の保護のみでなく︑附随的であるにせよ︑外交使節団が国家の代表機関であることによ
ってもなされていることに注目するとき︑外国国家の裁判権免除の際には外国国家の威信をより一層考慮する
必要があるように思われる︒そうであるとすると︑先順位性否定説の根拠㈹は疑問なしとしない︒けだし︑た
とい請求棄却判決であっても︑本案判決を受けることじたいが外国国家の威信を侵害し︑また訴訟手続からの
迅速な解放が外国国家の威信をより尊重する取扱いであるとはいえないからである︒すなわち請求棄却判決が
へほ どのように外国国家の主権行為を侵害するかは︑具体的に提示しえないとしても︑現在の国際関係において
は︑外国の裁判所が自国に対して本案判決(請求棄却を含めて)を下すことは自国の威信を侵害するものと考
おゾえられるであろう︒したがってまた︑請求棄却判決であったとしても︑これを受容することは稀であろう︒
さらに︑免除権消滅後における前訴判決の既判力の利用の点についても︑外交官等の民事裁判権免除は個人
レ のためではなく︑派遣国のために認められるものであるから︑免除資格を失った時点における個人の利益の保
護のために︑外国国家の威信を犠牲にして請求棄却判決を下すことは︑適切でないといわなけれぽならない︒
以上の点を考慮するとき︑民事裁判権の審理は常に本案要件の審理に先行すべきである(無条件の先順位性)︒
②国際的裁判管轄
国際的裁判管轄は︑渉外事件についてどの国の裁判所が裁判すべきかを定めるものであるが︑国際的裁判管
轄が否定される場合︑当該国の裁判権が欠訣しているのか︑あるいは原則として当該国の裁判権は存在するが
(15)国際民事訴訟法の規律により単に当該国の国際的な﹁裁判管轄﹂のみが欠訣しているのかは︑争われている︒
西ドイッの通説は︑国際的裁判管轄を管轄の問題と解し︑国際的裁判管轄の欠嵌を看過した本案判決は無効で
(16)はなく︑上訴による取消しが可能であるにすぎないとする︒これに対しわが国の通説は︑国際的裁判管轄を物
的裁判権の問題と解し︑国際的裁判管轄の欠訣を看過した本案判決を︑(人的)裁判権の場合と同様に︑無効(17)としている︒
右に述べたように︑国際的裁判管轄の欠訣を看過した本案判決は無効ないし上訴による取消しが可能である
が︑このことから︑国際裁判管轄のすべての場合に無条件の先順位性が認められると解することは疑問であ
る︒なぜなら国際的裁判管轄には︑当事者の合意や被告の応訴により管轄が発生するもの(このような管轄の
( )発生は︑事件が外国の専属管轄に属するものでないかぎり︑認められる)があり︑この場合には︑国際的裁判
管轄の審理を省略することを︑被告の同意を条件として︑認めてよいのではないかと思われるからである︒そ
こで以下では︑国際的裁判管轄の審理順序をこの二つの場合に分けて考えることとする︒
(19)まず︑専属的な国際的裁判管轄の審理順序について検討したい︒ところで︑国際的民事訴訟法における一般
管轄の規整の基本的な考え方は︑
訴訟要件の審理順序口四一(44)
四二(45)
ω国際管轄の問題は︑国家としての司法権の行使であって︑その決定は国際的配慮に煩わされる必要はなく︑も
っぱら自国および自国民の利益を主眼において決定すべきであるとする国家主義的立場
㈲国際管轄の問題は︑それが民事・商事に関するものであっても︑複数の国家の司法管轄相互の抵触であり︑そ
の問題は対人主権・対物主権という国際法上の原則に従って解決することが妥当であるとする国際主義的立場
㈹各国の裁判機関は国際的に相互に協力して︑国際的私法交通から生ずる民事・商事の事件に関する裁判機能を
分担すべきであって︑国際的裁判管轄の問題はそのような視点に立って決定すべきであるとする普遍主義的立場
の三つに分類されるが︑㈹の普遍主義的立場を正当とするのが︑現在の国際私法学界における通説であるとい
(20)われている︒この普遍主義の立場によれば︑一般管轄の決定も︑裁判管轄の場所的な分配であるという点で
は︑一国内における各地方の裁判所間での土地管轄の決定と本質的に異なるものではなく︑一般管轄に関する
規定の立法においても︑また解釈にあたっても︑民事訴訟法一般の理念たる適正・公平かつ能率的な裁判の運
(21)営が︑いずれの国の裁判所において期待できるかを基準とすべきことになる︒そして︑専属的な国際的裁判管
轄においては︑右の理念の達成がより強く要請されているといえよう︒たとえば︑普遍主義の立場によれぽ︑
不動産事件について不動産所在地に国際的裁判管轄(専属的である)が認められる理由として︑
﹁不動産上の権利は所在地の法制と密接に関連し︑また登記等の公の記録による証明の便宜があり︑更には不動産
(22)に関する係争は多数の利害関係人が存在する場合が多く︑それらの統一的解決をはかることができる﹂
ことがあげられている︒そして︑不法行為に関する事件について不法行為地にも国際的裁判管轄(任意的であ
る)が認められる理由として︑
﹁証拠収集のための便宜︑被害者による起訴の便宜︑加害者側の予見に反しないこと︑更に不法行為と行為の公序
(23)との関連﹂
があげられている︒すなわち︑両者の国際的裁判管轄とも︑適正かつ経済的な裁判の保障を目的としていると
いえよう︒にもかかわらず前者は専属的とされ︑後者は任意的とされる理由︑換言すれぽ不動産事件の国際的
裁判管轄の貫徹性が強く要請される理由は︑不動産がその所在地国の領土を形成し︑それ故裁判の適正︑公
平︑能率性が強く要請されることにあると考えられる︒そして︑右の貫徹性は︑﹁当事者の意思の排除﹂およ
(24)び違反の場合の﹁判決の無効ないし上訴による取消し﹂によって担保されている︒
さて︑このように専属的国際的裁判管轄の貫徹性は右に述べた二つの方法によって担保されているのである
が︑ここで︑審理順序にとってこれらの二点がどのような意義をもっているのかを見ておきたい︒まず︑判決
が後に一定の訴訟要件欠鉄の主張により無効となったり︑取り消される虞れがあるにもかかわらず︑その訴訟
要件の審理を省略して請求棄却判決を下すことが許されないのは︑そのような判決によっては紛争を確定的に
解決しえないし︑また裁判所の威厳や判決の安定性を害し︑場合によっては相手方に二重応訴の負担を課すこ
とになるからである︒したがって︑判決の無効・取消可能性(上訴︑再審による)の効果を有する訴訟要件に
一応の先順位性を認めることに問題はないといえよう︒しかしながら︑この判決の無効・取消可能性は審理順
序を決定するための絶対的メルクマ:ルではない︒なぜなら︑前述したように(三・‑・⑧)︑管轄違反を控訴
審で主張しえない任意的土地管轄についても︑(無条件のものではないが)先順位性が認められるからである︒
それ故︑判決の無効・取消可能性は︑かかる効果を有する訴訟要件が一応の先順位性を有すべきことの徴愚で
あり︑一応の先順位性の実質的根拠は︑かかる効果を有しない訴訟要件の一応の先順位性を理由づけるものと
同一の平面に存在するもの︑つまり個々の訴訟要件の機能じたいにあるといわなければならない︒すなわち︑
それは︑その訴訟要件が欠敏するとき何故判決は﹁無効であり︑取消可能であるのか﹂を︑理由づけるもので
訴訟要件の審理順序⇔四三(46)
四四(47)
ある︒換言すれぽ︑判決の無効・取消可能性は︑この実質的根拠たる個々の訴訟要件の機能が重要であること
(したがって一応の先順位性を当然理由づけるものであること)を表わすものであり︑審理順序を直接決定す
る基準ではない︒もっとも︑判決の無効・取消可能性の効果を有する訴訟要件は常に一応の先順位性を認めら
れるのであるから︑審理順序の確定にとってこの規準が便宜であることは否定できない︒ただ︑かかる効果を
有しないからといって即座に先順位性を否定されるわけではないこと︑および︑一応の先順位性の実質的根拠
は判決の無効・取消可能性を理由づける訴訟要件の機能じたいであること︑に注意する必要がある︒なお︑前
述した︑判決が無効となったり取り消されたりすることによって生じる不都合(つまり︑確定的紛争解決の欠
如や裁判所の威厳の失墜など)も訴訟要件の一応の先順位性を理由づけるものであるが︑これらは判決の無
効・取消しの結果生じるものであり︑それ故附随的な根拠であるにすぎない︒
次に︑﹁当事者の意思の排除﹂は審理順序の確定にとってどのような意義を有するかを検討したい︒私見に
よれぽ︑一応先順位性が認められる訴訟要件であっても(この二応の先順位性﹂は︑訴訟結果の正当性の保
障や審理の便宜等︑個々の訴訟要件が有する機能によって理由づけられる)︑その訴訟要件が当事者の意思に
委ねられるものであれば︑被告の同意を条件として先順位性を否定してよいと考えられるものも存在し(す
なわち︑このような訴訟要件は﹁条件付先順位性﹂を有するといえよう)︑そして当事者の意思の排除はこ
の﹁条件付先順位性﹂を有する訴訟要件と︑﹁無条件の先順位性﹂を有する訴訟要件とを区分するためのメル
クマールとして作用する(ただし︑当事者意思の確定が当該手続内では不可能である場合には︑追認のなされ
る確率によって無条件の審理順序が決定される)︒
以上のように解するとき︑専属的国際的裁判管轄は︑その︑適正・公平かつ能率的な裁判運営を保障する機
能および判決の無効・取消可能性によって一応の先順位性を理由づけられ︑そして当事者の意思の排除によっ
て無条件の先順位性を理由づけられるというべきである︒
これに対し︑任意的な国際的裁判管轄については︑国内上の任意管轄の場合と同様に(既述三・‑・③参照)︑
被告の同意を条件として︑裁判管轄の審理を省略して請求棄却判決をすることが許されると解する︒けだし︑
被告が請求棄却判決を下すことに同意した場合には︑一種の応訴管轄を認めてよいと思われるからである︒す
なわち︑この場合には︑適正・公平かつ能率的な裁判運営を保障する機能(および後述の被告の不利益防止機
能)が一応の先順位性を理由づけるが︑﹁当事者の意思の排除﹂が認められていないため︑無条件の先順位性
ではなく単に条件付先順位性が認められるにすぎないこととなる︒
なお︑民訴法三八一条は国際的裁判管轄には適用されないと考えられるので(その理由として︑国際的裁判
管轄における場所的隔たりの大きさ︑さらに訴訟手続︑裁判所の用語︑適用実体法の決定が国際的裁判管轄に
依存していることを︑あげることができよう)︑被告(原告は自分で裁判管轄のない裁判所に提訴したのであ
るから︑欠訣を主張しえない)は︑(原告が本案にもとついて提起した)控訴審においても任意的国際的裁判
(25)管轄違反を主張しうると解すべきであるが︑右に述べた同意をしたときは︑もはや控訴審で裁判管轄違反を主
張することは許されない(同意により裁判管轄違反は存在しないことになるから)︒これに対し︑被告がかか
る同意をしない場合は︑任意的な国際的裁判管轄についても先順位性を認めるべきである︒けだし︑(原告が
本案にもとついて提起した)控訴審において被告の主張にもとづき国際的裁判管轄違反を理由とする訴え却下
判決が下され︑その後原告が国際的裁判管轄のある裁判所に訴えを提起した場合︑被告は結局第一審から訴訟
活動をしなければならないことになるが︑そうであるならぽ︑前訴の第一審において訴え却下判決を得て︑早
訴訟要件の審理順序口四五(48)
四六(49)
期に裁判管轄のある裁判所における本案審理に応じたほうが︑被告にとって有利といえるからである(そのほ
か︑前述した適正・公平かつ能率的な裁判運営を保障する機能によっても理由づけられる)︒なお︑任意的国
際的裁判管轄の場合は任意的土地管轄の場合と異なり︑被告は控訴審においても管轄違反を主張しうるのであ
るから︑管轄のない控訴審において本案審理に応じなければならないという点は問題とならない︒
③土地管轄
土地管轄はそれぞれ次のような目的・機能を有している︒
ω被告の応訴の便宜(民訴法二条︹人の普通裁判籍︺)
㈲審理の便宜(民訴法一五条︹不法行為地の裁判籍︺︑一七条︹不動産所在地の裁判籍︺︑一九条︹相続の裁判
籍︺など)
㈹原告の権利実行の便宜(民訴法八条︹財産所在地の裁判籍︺)
(26)㈹裁判所の負担の公平
M社会政策(ZPO二九条a︹使用賃貸借事件における住居地の専属裁判籍︺︑割賦弁済行為に関する法律
(AbzG)六条a︹買主の住所地︑ないし通常の滞在所の専属裁判籍︺)
㈹事件の画一的処理の必要および多数関係者の便宜(商法八八条︑人訴法一条︑二四条︑二七条︑破産法二四五
条︑一〇五条)(専属管轄)
㈲特定の職分との関連の重視(民訴法四二二条︹再審︺︑四三一条︹督促手続︺︑民執法一九条︹執行手続等︺)
(専属管轄)
土地管轄の審理順序については︑争いがある︒先順位性を肯定する説は︑土地管轄が訴訟結果の正当性を保
障するものであることを理由に︑それが専属的であるか︑任意的であるかを問わず︑無条件の先順位性を認
(27)める︒これに対し鈴木正裕教授は︑﹁その不存在を看過すれば判決が無効となる職分管轄⁝⁝を除いては︑そ
の他の専属管轄(たとえぽ︑民訴四三一条︑五六三条︑商八八条など)は︑ここでいうあらかじめ審理を必要
とする事項に数える程︑その重要性は高くない﹂として︑専属的土地管轄も含め土地管轄一般の先順位性を否
(28)定される︒
しかし鈴木教授が︑専属的土地管轄違反の場合に判決が無効とならないことを理由に︑その先順位性を否定
(29)されることは疑問である︒たしかに専属的土地管轄は職分管轄に比し︑重要でないといえるが︑専属的土地管
Cm>轄が専属的とされる理由は︑当該事件における公益性が﹁強度の適正︑迅速﹂を要請することにあり(前掲紛
〜㈲の場合)︑そしてその貫徹性は上訴による取消しによって担保されており(一応の先順位性)︑また当事者
の意思の排除によっても担保されているのであるから︑無条件の先順位性が認められるべきであると思われる
からである︒
他方︑肯定説が︑当該土地管轄が専属的であるか︑あるいは任意的であるかを区別せず︑一律にその先順位
性を認めることにも賛成できない︒任意的土地管轄については︑すでに述べたように(三・‑・③)︑管轄の審
理の省略についての被告の同意の有無により先順位性を決定すべきだからである︒すなわち︑任意的土地管轄
は︑管轄のない控訴審において本案審理に応じなければならない被告の不利益を防止する機能によって︑一応
の先順位性を理由づけられるが︑当事者の意思の排除が認められていないため︑単に条件付先順位性が認めら
れるに留まる︒
訴訟要件の審理順序⇔四七(50)
四八(51)
働事物管轄
事物管轄は︑第一審訴訟を︑これを職分とする地方裁判所と簡易裁判所のどちらに分担させるかの定めであ
cM る︒簡易裁判所では︑単純軽微な事件が簡易迅速に処理され︑地方裁判所では︑そのほかの事件が処理される
(裁判所法一三二条一項一号︑二四条一号)︒地方裁判所の事物管轄の先順位性の根拠として︑西ドイッでは︑複数の
(32)裁判官の関与による訴訟結果の正当性の保障が主張されている︒しかしわが国においては︑第一審としての地
方裁判所が合議体による審理を行うのは︑その旨の決定がなされた場合に限られるので(裁判所法二六条)︑こ
の点は十分な根拠とはいえない︒地方裁判所の事物管轄の機能としては︑ω慎重な訴訟手続による訴訟結果
(33)の正当性の保障︑ω最高裁判所の判断を受けうる被告の利益の保護︑㈹特定の職分との関連による訴訟結果
の正当性の保障(民訴法四二二条一項︑民執法一三二条二項︑三四条三項︑三五条三項)が考えられる(ただし︑㈹の機
能は専属的なものにだけ認められる)︒なお︑簡易裁判所の事物管轄に属する事件であっても︑裁量移送によ
り(民訴法三一条ノニ)︑あるいは必要的移送により(民訴法三一条ノ三)︑最高裁判所の判断を受けうることにな
るが︑これらは常に認められるわけではない︒
地方裁判所の事物管轄が専属的である場合は︑無条件の先順位性が認められるべきである︒けだし︑前記の
機能が一応の先順位性を理由づけ(上訴による取消しが認められる)︑そしてその機能の貫徹性は当事者の意
思の排除によっても担保されているからである︒これに対し︑地方裁判所の事物管轄が任意的である場合は︑
被告の同意を条件として︑先順位性を否定すべきである︒けだしこの場合には︑前記ωωの機能が一応先順位
性を理由づけるが︑当事者の意思の排除が認められていないため︑単に条件付先順位性が認められるにすぎな
いからである︒
次に︑簡易裁判所の事物管轄の機能としては︑ω簡易迅速な処理の必要︑㈹裁判所への近さによる審理の
(銅)促進︑㈹特定の職分との関連による訴訟結果の正当性の保障をあげることができる(ただし︑㈹の機能は専
属的なものにだけ認められる)︒簡易裁判所の事物管轄が専属的である場合は︑無条件の先順位性が認められ
るべきである︒けだし︑前記の機能が一応の先順位性を理由づけ(上訴による取消しが認められる)︑そして
その貫徹性は当事者の意思の排除によっても担保されているからである︒これに対し︑簡易裁判所の事物管轄
が任意的である場合は︑いかなる先順位性も認められるべきではない︒けだし︑地方裁判所は簡易裁判所の管
轄に属する事件でもみずから審判できるのであるから(民訴法三〇条)︑前記ω㈹の機能は一応の先順位性をも
理由づけることができず︑したがって条件付先順位性をも認めることができないからである︒
なお︑事物管轄の基準となる訴額は印紙貼用との関係で本案判決の前に明らかになっていなければならない
(35)ので︑事物管轄の先順位性が問題となることは稀であろう︒
⑤職分管轄
職分管轄には︑受訴裁判所の職分管轄(その事件についての証拠保全︹民訴法三四四条︺︑仮差押仮処分︹民訴
法七三九条︑七六一条︑七六二条︺など)︑執行裁判所の職分管轄(執行裁判所の執行処分のほか︑執行官の執行
処分等に対する異議︹民執法=条︺︑急迫な場合の執行停止︹民執法三六条三項︑三八条︺など)︑簡易裁判所の職
分管轄(督促手続︹民訴法四三一条︺︑証拠保全︹民訴法三四四条︺︑起訴前の和解手続︹民訴法三五六条一項︺など)︑
地方裁判所の職分管轄(不動産執行︹民執法四四条︺︑船舶執行︑航空機執行︹同一一三条︑民執規則八四条︺︑破産
手続︹破法一〇五条ー一〇七条︺など)︑高等裁判所の職分管轄(高等裁判所が発令裁判所である場合の仮差押え
訴訟要件の審理順序⇔四九(52)