― 24 ― (252) ゆたクリニック(〒5140837 三重県津市修成町23) ― 24 ― (252) 小児耳 2013; 34(3): 252256
第 8 回
日本小児耳鼻咽喉科学会
シンポジウム1
プライマリー医が悩む小児気道症状
小児アレルギー性鼻炎診療の問題点と対応
湯
田
厚
司
(ゆたクリニック) 小児(特に未就学児)アレルギー性鼻炎の鼻視診には工夫を要する。耳鏡での診察や小児 吸引管の使用も有用である。鼻汁は感染性鼻副鼻腔炎を伴う例が多いので隠れたアレルギー 性鼻炎を見逃さないことが重要であり,鼻汁スメアーを自ら検鏡すると有用である。最近に なり治療薬は増加しているがまだ充分でなく,問題点も多い。剤型,適応年齢での制限があ り,錠剤は 7 歳以上からの適応となる。用量は体重換算と年齢による規定のどちらかであ り,年齢によって効果が不十分になる事もある。成人の鼻閉に効果的な抗ロイコトリエン薬 は,小児での有効性が明確でない。また,抗ヒスタミン薬は服用法で影響を受け,食事や飲 物が血中濃度に影響し得るが,周知されていない。新規治療として舌下免疫療法が保険適応 になるが,小児での適応は先送りとなる。我々は小児スギ花粉症に舌下免疫療法を行ってい るが,効果は良好であり,今後の適応追加に期待したい。 キーワード小児アレルギー性鼻炎,治療薬,抗ヒスタミン薬,舌下免疫療法 小児では,自ら鼻閉を訴えない,幼少時から 鼻閉に慣れていると鼻閉の認識がない,保護者 の印象で判断されやすいという点から,アレル ギー性鼻炎の鼻閉診断が難しい。従って,いか にアレルギー性鼻炎を見つけ出すか或いは見 逃さないかが重要となる。 小児アレルギー性鼻炎診断のポイント 特に未就学児では診察を嫌がり,診察時に動 くため鼻視診所見での工夫も必要となる。私は 未就学児の鼻所見を診る際に鼻鏡でなく耳鏡を 愛用する。先にカットのはいった耳鏡(吉田式) で耳鏡のツバで鼻翼を引っかけるようにして鼻 腔を観察している(図 1)。そのまま耳鏡を介 して鼻処置のスプレーをすれば,確実に鼻内に 噴霧できる。また,吸引管はモリタ社製の小児 吸引管を愛用している(図 1)。ガラスで透明 なため鼻汁の性状(色調と粘稠度)がわかりや すく,シリコン部分をつまんで圧を止めればス メアーや培養用に鼻汁を採取できる。鼻汁をし っかり吸引することが治療にも重要であり,鼻 処置は丁寧に行っている。 小児アレルギー性鼻炎の大きな特徴は,鼻汁 を伴う例が多いだけでなく,感染性鼻副鼻腔炎 を伴う例が多いことである。以前に我々が報 告1)した小児急性鼻副鼻腔炎治療で,鼻所見に よる他覚所見と患者の自覚症状の多くは一致し ていたが一部で他覚所見が改善しているのに自― 25 ― (253) 図 小児診療に用いる器具 表 小児アレルギー性鼻炎適応薬と特徴 商品名 剤 型 発売年 適応年齢 第2 世代抗ヒスタミン ドライシロップ(DS)・シロップ(Sy)・顆粒 ザジテン DS Sy 1985年 (6 ヵ月) ニポラジン Sy 顆粒 2001年 (1 歳) アレジオン DS 2006年 3 歳 クラリチン DS 2008年 3 歳 ジルテック DS 2009年 2 歳 アレロック 顆粒 2011年 2 歳 錠剤 アレグラ 30 mg×2 2007年 7 歳 クラリチン 10 mg 2007年 7 歳 ジルテック 5 mg×2 2009年 7 歳 アレロック 5 mg×2 2010年 7 歳 ザイザル 5 mg (2.5 mg×2) 2011年 7 歳 噴霧ステロイド 小児用フル ナーゼ 2006年 (5 歳) ナゾネックス 2012年 (3 歳) 抗ロイコトリエン オノン DS 2011年 記載無し シングレア・キプレスは15歳から ― 25 ― (253) 覚症状が改善ない例もあった。このような例を 詳しく調べると,アレルギー性鼻炎を合併して おり,しかも事前にアレルギー性鼻炎の診断が されていない例が該当していた。このような気 づかれないアレルギー性鼻炎を見逃さないこと が重要であり,どのように見つけ出すかが重要 である。隠れたアレルギー性鼻炎の診断には鼻 汁スメアー(鼻汁中好酸球検査)が有用である。 アレルギー性鼻炎例が感染性鼻副鼻腔炎を併発 すると鼻汁スメアーを検鏡しても好中球だらけ で好酸球はほとんどみられない。しかし,その 中に数個でも好酸球が混じっていれば,隠れた アレルギー性鼻炎を疑い,急性炎症が改善して から再度検査するか,抗ヒスタミン薬を併用す ると良い。また,鼻汁スメアーは単に好酸球だ けでなく,好中球に混じって細菌も検鏡でき, ウィルス性の急性鼻炎の発症初期には細胞成分 はないが離した上皮を認めるので,自分で検 鏡することが即時の診断に有用と思われる。 小児アレルギー性鼻炎治療薬の問題点(表 1) 小児アレルギー性鼻炎治療薬は最近になり種 類 も 豊 富 と な っ た が , ま だ 充 分 で は な い 。 2006年にアレジオンドライシロップが発売さ れるまではザジテンとニポラジンなどの抗ヒ スタミン薬が使える程度であった。さらに,錠 剤 は 2007年 のア レグ ラが 最初 の 適応 薬で あ り,以降少しずつ増えているが,小児に適した
― 26 ― (254) 表 アレルギー性鼻炎適応薬の年齢による相違 特に6 歳と 7 歳児を比べて 6 歳と 7 歳の違い 6 歳 7 歳 成 人 抗ヒスタミンドライシロップ アレジオン 体重換算(0.250.5 mg/kg) 20 mg アレロック 2.5 mg 5 mg 5 mg クラリチン 5 mg 10 mg 10 mg ジルテック 2.5 mg 5 mg 5 mg 抗ヒスタミン錠剤 アレグラ 適応外 60 mg(分 2) 120 mg(分 2) アレロック 10 mg(分 2) 10 mg(分 2) ジルテック 10 mg(分 2) 10 mg(分 1) ザイザル 5 mg(分 2) 5 mg(分 1) クラリチン 10 mg(分 1) 10 mg(分 1) タリオン 小児適応無し 20 mg アレジオン 20 mg エバステル 10 mg 抗ロイコトリエン オノン(ドライシロップ) 体重換算(7 mg/kg) 450 mg キプレス・シングレア 小児適応無し 10 mg (注体重換算の場合は最大量は成人量まで) ― 26 ― (254) 小児耳 2013; 34(3) 湯田厚司,他 1 名 アレルギー性鼻炎治療薬のラインアップは最近 になって充実したとしか言えない。未だに 2 歳 未満に適応のある抗ヒスタミン薬は限られてい る。抗ロイコトリエン薬もオノンドライシロッ プのみが適応を有し,錠剤の適応薬はない。 鼻噴霧ステロイドも限られ,最近になりバイオ アベイアビリティーの良い薬剤が適応をとった 程度である。 小児は薬剤代謝が早いので充分な薬剤血中濃 度を保つには,服用法と用量にも注意が必要で ある。特に分 1 の薬剤は成人より代謝が早いた め血中濃度を保てない可能性がある。ザイザ ルは海外成績での検討により,成人では分 1 であるが小児は分 2 となっている。小児は15 歳くらいまで体重あたりの肝臓比重が高いため に代謝も早くなるが,肝臓代謝が優位なアレジ オンやクラリチンが小児でも分 1 であること にも疑問がある。本来なら年齢と体重を考慮し た処方が必要であるが,多くの抗ヒスタミン薬 は年齢により用量が規定され,特に 6 歳と 7 歳児で薬剤選択が大きく異なる(表 2)。ドラ イシロップの多くは年齢により用量が決められ ているため,6 歳と 7 歳では倍量の違いが生じ る。特に 6 歳児では体重あたりの薬剤容量が不 足している可能性もあり得る。同様に,最近の 噴霧ステロイド薬は11歳と12歳で用法が異な る。錠剤は 7 歳以上で適応となり,アレグラ を除く錠剤は成人と 7 歳児で 1 日量では同量 の投与となる。逆に成人の半量となるアレグ ラは小学校高学年児で用量不足にもなりかね ない。適応と用量に関してはもう少し柔軟な対 応が望まれる。抗ロイコトリエン薬は,成人ア レルギー性鼻炎の鼻閉に効果が高く,オノン の第 2 相臨床試験でも80を越える有効性が 確認されている。しかし,小児では暴露室を用 いたスギ科花粉症に対する第 3 相クロスオー バー試験でプラセボに比べて有意に鼻閉スコ アーが改善した2)が,通年性アレルギー性鼻炎 の第 2 相及び第 3 相試験での有効性は証明さ れていない(未公開資料薬剤インタビューフ ォームから)。そのため,小児アレルギー性鼻 炎の鼻閉に対する抗ロイコトリエン薬の効果に
― 27 ― (255) 図 抗ヒスタミン薬の食事による影響(各薬剤インタビューフォームから改変) 図 アレグラの果汁による影響(文献 3 より) ― 27 ― (255) はまだ疑問も生じる。 服用時間にも注意すべきであるが,意外と知 られていない。食事は薬剤の吸収に大きな影響 を及ぼすが,服薬指導がされているケースが少 ない。クラリチンは空腹時服用時に吸収率が 大きく減弱する。他の抗ヒスタミン薬は逆に空 腹時に増加する(図 2)。これらの情報は薬剤 のインタビューフォームに掲載されているが, 添付文書には記載されていない。 さらには,小児では薬剤を服用しやすくする ために果汁で薬を服用することもあるが,服用 時の媒体にも大きな落とし穴がある。アレグ ラを100グレープフルーツジュースで服用 すると吸収率が低下する3)(図 3)。他の果汁で も同様で100オレンジジュースとリンゴジ ュースでも AUC や Tmax が 1/3 程度となる。 但し,低濃度の果汁では吸収率阻害も少なくな る。これは吸収にかかわるトランスポーター (organic anion transporter protein ; OATP)の 阻害によるとされ,多くの薬剤で同様の吸収率 低下があると想像される。OATP による吸収 阻害は非特異的な阻害とも考えられるので他の 薬剤でも同様の現象が予想されるが,他の薬剤 では全く検討されていない。 新しい治療 舌下免疫療法への期待 スギ花粉症に対する新しい治療・舌下免疫療 法に期待が寄せられている。我々は2005年よ り成人スギ花粉症の舌下免疫療法を開始し,さ らに2006年から本邦で唯一の小児スギ花粉症 に対する舌下免疫療法を検討し,良好な成績を 残している4,5)。 スギ花粉が大量飛散した年の61例の小児例 の検討では,大量飛散にもかかわらず良好な成 績が得られ,全体の 1/3 の例が無投薬で花粉 期を過ごすことができた。成人スギ花粉症の舌 下免疫療法は2013年度内の保険適応が見込ま れ,大きな期待が寄せられているが,新しく認 可される同治療の適応年齢に小児はまだ含まれ ない予定である。増え続ける小児スギ花粉症に 対して,痛みが無く安全で効果も期待できる舌 下免疫療法の早期適応を期待したい。
― 28 ― (256) ― 28 ― (256) 小児耳 2013; 34(3) 湯田厚司,他 1 名 ま と め 小児のアレルギー性鼻炎の診断は成人よりも 盲点が多く,治療も複雑である。難治例にはち ょっとした診断方法や投薬法の気遣いで改善す る例もあると思われ,治療の参考としていただ きたい。 (本稿では薬剤名について一般名でなく先発商 品名で記載した) 文 献 1 ) 湯田厚 司,中本 節夫,増 田佐和子, 他アレ ル ギー性鼻炎を合併した小児急性副鼻鼻腔炎の治療.日 鼻誌 2007; 46(1): 610.
2) Wakabayashi K, Hashiguchi K, Kanzaki S, et al.:
Pranlukast dry syrup inhibits symptoms of Japanese cedar pollinosis in children using OHIO Chamber. Al-lergy Asthma Proc 2012; 33(1): 102109.
3) Dresser GK, Bailey DG, Leake BF, et al.: Fruit juices inhibit organic anion transporting polypeptide-mediated drug uptake to decrease the oral availability of fexofenadine. Clin Pharmacol Ther 2002; 71(1): 1120. 4) 湯田厚司,宮本由起子,荻原仁美,他小児スギ 花粉症に対する抗原特異的舌下免疫療法.アレルギー 2009: 58(2); 124132. 5) 湯田厚司,大久保公裕,服部玲子,他当科にお けるスギ花粉症に対する舌下免疫療法の現状と2 年 間 の治 療成 績 .耳 鼻免 疫ア レル ギー 2008; 26 (4 ): 285289. 別刷請求先 〒5140837 三重県津市修成町 23 ゆたクリニック 湯田厚司
Pediatric upper airway diseases that may encounter in our primary care practice
Resolution of clinical issues in pediatric allergic rhinitis
Atsushi YutaYuta Clinic
Key words: pediatric allergic rhinitis, pharmacological treatment, antihistamine, sublingual im-munotherapy