原 著
足浴が生体に及ぼす生理学的効果
― 循環動態・自律神経活動による評価―
Physiological Effects of Footbath on Cardiovascular and Autonomic Nervous Functions
金
Kentaro Kaneko子健太郎
1)熊
Hideki Kumagai谷英樹
2)尾
Yu Ogata形 優
1)竹
Yukari Takemoto本由香里
3)山
Machiko Yamamoto本真千子
2)若年健常男子 19 名(平均年齢 21.3±3.4 歳)を対象に,心拍数と血圧,体表温・皮膚血流量, 心拍変動(heart rate variability:HRV),圧受容器反射感受性(baro-reflex sensitivity:BRS)を 用い,仰臥位による足浴の生理学的効果を検討した.HRV から低周波成分(low frequency:LF)と 高周波成分(high frequency:HF)を算出し,副交感神経活動指標を HF,交感神経活動指標を LF/ HF とした.足浴(湯温 40℃,15 分)は安静仰臥位 15 分後に実施し,足浴前から足浴後 30 分間(足 浴後 0 ~ 15 分 : 足浴後 1,足浴後 15 ~ 30 分 : 足浴後 2)連続して測定値の観察を行った.足浴 前と比べた結果を以下に示す.心拍数は足浴後 1,2 で有意に減少した.血圧は,収縮期血圧,拡張 期血圧ともに足浴後 2 において有意に減少した.HF は足浴後 1,2 で有意に増加した.LF/HF は 足浴中で有意に増加した.BRS は足浴後 1 で有意に増加した.足部,胸部体表温と足部皮膚血流量 は,足浴中から足浴後 1,2 にかけて有意に増加した状態を維持した.足浴は全身循環に大きな負担 をかけることなく,かつ末梢循環を促進,維持させ,自律神経活動に関しては,足浴後に副交感神経 活動を賦活化させ,交感神経活動を抑制することが確認された. キーワード:足浴,循環動態,自律神経活動
The purpose of this study was to investigate physiological effects of footbath (FB) on cardiovascular and autonomic nervous functions. These were evaluated by heart rate (HR), blood pressure (BP), skin temperature (T), skin blood flow (F), heart rate variability (HRV) and baro-reflex sensitivity (BRS), during and after FB in a supine position. Low frequency spectra (LF) and high frequency spectra (HF) were calculated from HRV, and the index of sympathetic nervous activity was LF/HF and parasympathetic nervous activity was HF. Nineteen healthy male students (mean age = 21.3±3.4 years) took FB (40 ℃) after a rest in supine position. Time protocol of FB: 15 min rest → 15 min FB → 30 min rest (0-15 min after FB-1, 15-30 min after FB-2). The results are shown below. HR showed significant decrease after FB-1 and 2. Systolic and diastolic BP showed significant decrease after FB-2. HF showed significant increase after FB-1 and 2. LF/HF showed significant increase during FB. BRS showed significant increase after FB-1. Foot
受付日:2009 年 2 月 16 日 受理日:2009 年 8 月 26 日
1)山形大学医学部附属病院 Yamagata University Hospital 2)茨城キリスト教大学看護学部 Ibaraki Christian University 3)宮城大学看護学部 Miyagi University School of Nursing 連絡先:金子健太郎 〒 990-2303 山形県山形市蔵王上野 545
Ⅰ.はじめに
足浴は,看護援助のなかで清潔ケアとして行われて いるが,清潔を保持するだけではなく,循環促進やリ ラクセーション効果,入眠効果もあるとされている (深井・前田 2006).また,広く日常的に足湯として 行われている.足浴に関する先行研究では,全身や末 梢,脳の循環動態の変化や皮膚温・皮膚血流量の変 化,脳波,心拍変動解析,免疫系,主観的な効果など さまざまな観点から検討されている(邑田ら 2005;新 田・川端 1999;佐伯・永井 2002;清水ら 2001;上馬 場・許 2004;植田ら 1998;許・上馬場 2003;楊箸ら 2000). 循環生理ならびに自律神経系の検討としては,38 ~ 42℃の温度依存性による,心拍出量や血圧の上 昇,自律神経活動の変化,脳循環の促進(上馬場・許 2004;許・上馬場 2003),足浴による下肢深部皮膚温 の上昇(植田ら 1998),仰臥位足浴中の一時的な心臓 副交感神経活動の抑制と心臓交感神経活動の亢進の発 生後,逆に心臓副交感神経活動の亢進と心臓交感神経 活動の抑制の発生(清水ら 2001)などがある.また主 観的指標も含めた検討としては,湯温 44℃の足浴が もたらす覚醒効果(邑田ら 2005),自律神経系の指標 のほかに POMS による主観的評価での,足浴による 「活気」尺度の上昇傾向,「疲労」尺度の減少傾向の示唆 (植田ら 1998),などがある. 足浴実践研究を網羅的に集めた文献検討(吉永・吉 本 2005)からは,足浴条件として湯温の設定は 39 ~ 42℃,足浴時間は 7 ~ 30 分,体位に関しては座位や 仰臥位などと,実験研究によって条件だけでも大きな 幅があり,多様な結果を示していることが現状でわ かっている.以上のように,これまでの足浴に関する 研究を概観してみると,それぞれ対象者や足浴条件な どといった測定条件にはばらつきが多くみられ,また 多様な結果となっており,現状では足浴に関する研究 成果は必ずしも一定の方向性が示されているとは考え にくい状態である. 本研究の目的は,看護技術である足浴が生体にもた らす生理学的効果について,末梢循環を含む循環動態 と自律神経活動から包括的に検討を行うこととした.Ⅱ.対象
対象者は,健康診断にて異常が認められない若年健 常男子 19 例(平均年齢 21.3±3.4 歳)とした.すべて の対象者には,文書と口頭により,本研究の主旨,方 法,プライバシーの保護などについての説明を行い, 同意を得た.また,研究協力は自由であり,実験途中 でも中断できること,断っても不利益を被らないこと を保証した. なお被験者には,以下のことを指示した. ・実験前日は激しい身体活動,アルコール飲料摂取を 避け,十分に睡眠をとること. ・実験当日は,実験前にカフェインや煙草などの刺激 物をとらずに,食事に関しては実験 2 時間前までにす ませること. ・実験前,実験室には激しい身体活動をせずに来室す ること. ・実験時の服装は,研究者が準備した T シャツと半 ズボンとすること.Ⅲ.方法
1.足浴 足浴は,図 1 のプロトコールに示すように,ベッ ド上に仰臥位で安静を 15 分間保った後,仰臥位のま まベッド上で膝を立て足浴を 15 分間実施し,再度仰 臥位で安静を 30 分間保持した.実験時間は,計 60 分 間とし,実験中に外気の影響を受けないため終始タオ ルケットをかけることとした.足浴は,正確な生理学 的効果を検討するために,足浴時の湯温低下を防ぐたT, chest T and foot F showed significant increase during FB, and maintained the levels after FB-1 and 2. In conclusion, it was confirmed that FB activated peripheral circulation without over load against the cardiovascular system. Then, FB controlled autonomic nervous balance, and activated parasympathetic nervous activity. These might be cause the effects of relaxation and sleep induction.
めに恒温装置を用いた.プラスチック製のベイスンと 恒温装置(TAITEC 社製 CL-80R)を用い,維持された 40℃の湯に足首まで浸漬し,両足底がベイスンの底に 接地するようにした.足浴は湯に足部を浸漬するのみ とし,マッサージ等の刺激を与えずに行った.足浴後 は,タオルで足の水分を拭き取り,両足に 1 枚ずつの バスタオルを使用し下腿を被覆した.湯の温度と足浴 時間の設定については,先行研究(上馬場・許 2004; 許・上馬場 2003)により,足浴の湯温と時間,快適度 の関係に従い,今回の研究では足浴の湯温を 40℃と し,足浴時間を 15 分間とした. 2.生理学的指標の測定 前述の対象者に対し,心拍数,血圧,脈波を測定し た.なお,自律神経の日内変動を考慮したうえで,測 定は午前 9 時~午後 3 時の時間帯とし,室温と湿度 をほぼ一定にした環境のもと(室温平均 22.6±1.6℃・ 湿度平均 61.2±6.1%)で実験を施行した.安静仰臥位 でモニターシステム(フクダ電子社製 DYNASCOPE DS-5300)を装着し,心拍数と左上腕にて血圧を測 定した.右手首上腕橈骨動脈上にトノメトリー(日 本コーリン社製 JENTOW 7700)を装着し,脈波を 測 定 し た. 左 下 腿 外 側 の 湯 面 上 約 5 ~ 7 cm 上 に 一点と,胸骨柄に一点,体表温計(フクダ電子社製 DYNASCOPE DS-5300)とレーザードップラー血流計 (ADVANCE 社製 ALF21RD)を装着し,すべての準 備が完了して,心拍数,血圧,脈波,各体表温,各皮 膚血流量が安定したところでプロトコールを開始し た.測定されたデータは,2 分半ごとに記録し,それ ぞれのパラメーターにおいて,図 1 に示すように,各 期の最も状態が安定している最終 5 分間の平均値を最 終的なデータとして使用した.また,測定開始後 10 ~ 15 分間を足浴前,足浴開始後 10 ~ 15 分間を足浴 中,足浴後 10 ~ 15 分間を足浴後 1,足浴後 25~30 分間を足浴後 2 とした.また,各体表温と各皮膚血流 量については,測定開始の時点で被験者に個人差が存 在するため,実験での変化を増加量で表すこととし, 足浴前の値を 0.0 とし,足浴中,足浴後 1,足浴後 2 のそれぞれの値を,足浴前の値からの変化量で表し た. 3.自律神経指標の解析 心拍変動スペクトル解析は,連続的にモニター した心電図のアナログ信号と,トノメトリーによ る脈波のアナログ信号を,AD 変換器(ネオローグ 社製 PCN2198)を介してパーソナルコンピューター (NEC 社製)に転送し,サンプリング周波数 1,000 Hz で RR 間隔,収縮期血圧を測定し保存した.この RR 間 隔 時 系 列 を coarse graining spectral analysis: CGSA 法(Yamamoto & Hughson 1991)を 用 い て, 調和振動成分のみを算出した.0 ~ 0.15 Hz の成分 を low frequency(LF),0.15~ 0.5 Hz の 成 分 を high frequency(HF)とし,副交感神経活動の指標を HF, 交感神経活動の指標を LF/HF とした.圧受容体感 受 性 の baro-reflex sensitivity(BRS)は Sequential 法 (Watkins et al. 1996)を用い RR 間隔変動と SBP 変動 が 3 連続以上続けて上昇あるいは下降したところを選 び,それらの直線関係の相関係数が 0.9 以上の関係を 求め,それらの傾きの平均値を BRS(msec/mmHg) として算出した.測定したデータを 5 分間ずつ解析 し,それらの中から,前述のプロトコールと同様に, 各期の最も状態が安定している最終 5 分間のものを, 最終的なデータとして使用した.自律神経指標のいず れにおいても,生理学的指標と同様に,測定開始後 10 ~ 15 分間を足浴前,足浴開始後 10 ~ 15 分間を足 浴中,足浴後 10 ~ 15 分間を足浴後 1,足浴後 25 ~ 30 分間を足浴後 2 とした. 以上のようにして得られたデータは,平均値 ± 標準 偏差(図中では,平均値 ± 標準誤差)で表現し,足浴前 と足浴中,足浴後 1,足浴後 2 について比較検討した. 統計処理は,t 検定を用い,危険率 5% 未満を有意と した.
Ⅳ.結果
1.心拍数(HR) 図 2 に示すように,足浴前では平均 68.0±6.1 bpm, 足 浴 中 で は 平 均 68.7±6.9 bpm, 足 浴 後 1 で は 平 均 61.1±6.0 bpm,足浴後 2 では平均 58.4±5.2 bpm であ り,足浴前と足浴中の間では有意差は認められなかっ たが,足浴前に比べ,足浴後 1,足浴後 2 では有意に 図1 足浴のプロトコール :解析時間5分間 0 15 30 45 60 足浴前 安静仰臥位 (15分) 足浴中 仰臥位 (15分) 足浴後 1 安静仰臥位 (15分) 足浴後 2 安静仰臥位 (15分)減少した(p < 0.01). 2.血圧(BP) 図 3 に示すように,収縮期血圧は,足浴前では平均 111.2±6.2 mmHg,足浴中では平均 111.3±7.4 mmHg, 足浴後 1 では平均 111.2±8.1 mmHg,足浴後 2 では平 均 108.7±8.0 mmHg であり,足浴前に比べ,足浴中, 足浴後 1 では有意差は認められなかったが,足浴前と 足浴後 2 の間は有意に減少した(p < 0.05). また,図 3 に示すように,拡張期血圧は,足浴前 で は 平 均 64.3±4.2 mmHg, 足 浴 中 で は 平 均 64.3± 5.3 mmHg,足浴後 1 では平均 62.4±5.6 mmHg,足浴 後 2 では平均 60.6±4.8 mmHg であり,足浴前に比べ, 足浴中,足浴後 1 では有意差は認められなかったが, 足浴前と足浴後 2 の間は有意に減少した(p < 0.01). 3.HF・LF/HF 図 4 に示すように,HF は,足浴前では平均 352.8 ±238.6 msec2,足浴中では平均 400.6±332.5 msec2, 足浴後 1 では平均 662.3±508.0 msec2,足浴後 2 では 平均 942.2±847.7 msec2であり,足浴前と足浴中の間 では有意差は認められなかったが,足浴前に比べ,足 浴後 1,足浴後 2 では有意に増加した(p < 0.01). 図 5 に示すように,LF/HF は,足浴前では平均 1.6 ±0.8,足浴中では平均 2.1±1.3,足浴後 1 では平均 1.3±0.7,足浴後 2 では平均 1.6±1.3 であり,足浴前 と足浴中の間で有意に増加した(p < 0.01)が,足浴前 に比べ,足浴後 1,足浴後 2 では有意差は認められな かった. 4.BRS 図 6 に示すように,足浴前では平均 16.7±5.0 msec/ mmHg,足浴中では平均 17.8±7.4 msec/mmHg,足 浴後 1 では平均 19.3±6.6 msec/mmHg,足浴後 2 で は平均 18.4±6.6 msec/mmHg であり,足浴前に比べ, 足浴中,足浴後 2 では有意差は認められなかったが, 足浴前と足浴後 1 の間で有意に増加した(p < 0.05). 55 60 65 70 75 足浴前 足浴中 足浴後1 足浴後2 p < 0.01 p < 0.01 n = 19 mean ± SE 0 ∼ ∼ n.s. 図2 心拍数の変化(単位:bpm) 60 80 100 120 140 足浴前 足浴中 足浴後1 足浴後2 収縮期血圧 拡張期血圧 p < 0.05 n.s. n.s. n.s. n.s. p < 0.01 n = 19 mean ± SE 0 ∼ ∼ 図3 血圧の変化(単位:mmHg) 0 200 400 600 800 1,000 1,200 足浴前 足浴中 足浴後1 足浴後2 n.s. p < 0.01 p < 0.01 n = 19 mean ± SE 図4 HF の変化(単位:msec2) 0 1 2 3 足浴前 足浴中 足浴後1 足浴後2 n.s. n.s. p < 0.01 n = 19 mean ± SE 図5 LF/HF の変化
5.体表温増加量 図 7 に示すように,足部体表温増加量は,足浴前か らの変化を増加量として示すと,足浴中では平均 3.4 ±1.4℃,足浴後 1 では平均 2.8±1.1℃,足浴後 2 では 平均 3.0±1.1℃の増加があり,足浴前に比べ,各期い ずれにおいても有意に増加した(p < 0.01). 図 7 に示すように,胸部体表温増加量は,足浴前か らの変化を増加量として示すと,足浴中では平均 0.2 ±0.3℃,足浴後 1 では平均 0.2±0.4℃,足浴後 2 では 平均 0.2±0.5℃の増加があり,足浴前に比べ,各期い ずれにおいても有意に増加した(p < 0.05). 6.血流量増加量 図 8 に示すように,足部血流量増加量は,足浴前か らの変化を増加量として示すと,足浴中では平均 1.3 ±2.0 mL/min/100 g,足浴後 1 では平均 2.1±1.7 mL/ min/100 g,足浴後 2 では平均 2.6±2.2 mL/min/100 g の増加があり,足浴前に比べ,各期いずれにおいても 有意に増加した(p < 0.01). 図 8 に示すように,胸部血流量増加量は,足浴 前からの変化を増加量として示すと,足浴中では平 均 0.8±1.7 mL/min/100 g,足浴後 1 では平均 -0.2± 1.9 mL/min/100 g,足浴後 2 では平均 -0.3±2.3 mL/ min/100 g の増加があり,足浴前と足浴中の間は有意 に増加した(p < 0.05)が,足浴前に比べ,足浴後 1, 足浴後 2 では有意差は認められなかった.
Ⅴ.考察
本実験では,男子学生を対象に,恒温装置を使用し た厳密な方法で足浴を実施し,心拍数,血圧,体表 温,皮膚血流量を測定し,また,自律神経活動の指標 からも,足浴の効果を検討した. その結果,心拍数は足浴後に減少し,血圧は足浴後 にやや減少し,足部体表温と胸部体表温,足部血流量 は足浴中から増加し,HF と BRS は足浴後に増加し, LF/HF は足浴中に増加,足浴後は不変であり,胸部 血流量は不変であった.これらのことから,足浴は全 身循環に関して,足浴中,足浴後もきわめて安定した 状態を保つことがわかった.末梢循環に関して,足部 の体表温と血流量は足浴開始後から増加し,足浴後も 減少することなく,これを少なくとも本研究で測定し た 30 分では維持した.また,温熱刺激から遠位な部 分である胸部においては,わずかな体表温の増加はみ られたが,ほぼ不変であった. これらのことから,足浴は加温している末梢に局所 的に働いていることが考えられ,足浴による温熱刺激 によって足部は加温され,足部の血管拡張を招き,血 流を増加させ,末梢循環が促進され,かつその状態が 30 分以上維持されることがわかった.ただし,足部 16 18 20 22 足浴前 足浴中 足浴後1 足浴後2 n.s. p < 0.05 n.s. n = 19 mean ± SE 0 ∼ ∼ 図6 BRS の変化(msec/mmHg) 0 2 4 6 8 足浴前 足浴中 足浴後1 足浴後2 足部 胸部 p < 0.01 p < 0.01 p < 0.01 p < 0.05 p < 0.05 n = 19mean ± SE p < 0.05 図7 体表温増加量の変化(℃) -1 0 1 2 3 4 足浴前 足浴中 足浴後1 足浴後2 足部 胸部 p < 0.01 p < 0.01 p < 0.01 p < 0.05 n.s. n.s. n = 19 mean ± SE 図8 血流量増加量の変化(mL/min/100 g)の体表温と血流量の維持については,下腿をバスタオ ルにより被覆することが,体表からの熱の放散がバス タオルを温め,体表とタオルの間において熱の対流と 伝導を生じ,足部の加温状態の維持に関係していたと 考えられる.循環調節を行っている自律神経系に関し て,足浴中は HF と BRS は不変であり,LF/HF は増 加するが,足浴後は HF と BRS が増加し,LF/HF は 足浴前の値まで減少する.このことは,足浴中は,副 交感神経系が大きく変動することなく,かつ交感神経 系はわずかに活性化し,足浴後には交感神経系は足浴 前に復し,副交感神経系は増加し,BRS の増加から 自律神経系の調節能力も増加したといえる. 先行研究(上馬場・許 2004;許・上馬場 2003)の足 浴の実験は,本実験と方法論が異なり,女性を対象 とした 40℃の湯温で 30 分間の足浴であり,全身循環 に関して心拍数と血圧,末梢循環に関して手の皮膚 温,自律神経活動に関して HF と LF/HF について述 べている.その結果,心拍数は足浴開始後 25 分頃か ら有意に増加し,収縮期血圧は不変である.また HF は足浴開始後 20 分以降から有意ではないが減少し, LF/HF は足浴開始後 15 分以降から有意に増加して いた.手の皮膚温は足浴開始後 15 分以降から有意に 上昇していた.交感神経系の賦活化が足浴開始後 15 分以降から増加しているが,その理由は測定が終始座 位で行われた影響と推測される. しかし,われわれの実験では足浴中 15 分間の交感 神経系は活性化しているものの,それは足浴中のみに みられた.その理由に関しては後述する.また,足浴 は温熱刺激を与えていない末梢の手にも変化をもたら すことが示されているが,われわれは温熱刺激が与え られた部位に近位の足部と遠位の胸部での体表温と血 流量を測定しており,足部の循環促進を示したが,胸 部は変化がなかった.温熱刺激を与えていない胸部で は変化がなく,手では皮膚温の上昇が示されているこ とから,足部の遠位である胸と手では,足部の温熱刺 激による自律神経反応が異なっていることが考えられ る.上馬場・許は,足浴開始後 20 分以降からの HF の減少から,足浴に関して快適度を考慮すると 40℃ の湯温であれば 15 分間がよいと述べていており,そ のことから本実験では 40℃の湯温で 15 分間の足浴と いった方法を用いたが,本実験の結果からもこの湯温 と時間設定は妥当であったと考えられる. 足浴後に関しては,上馬場・許のプロトコールか ら,足浴後の測定は 10 分間のみであったため,本実 験との比較はできないが,われわれは足浴後 30 分 まで観察を続けた.その結果は,HF パワーの増加, BRS の増加,全身循環の安定,末梢循環促進と保温 の維持が明らかにでき,長時間にわたる足浴後の生体 への効果を明らかにすることに貢献した. 一方の先行研究(清水ら 2001)では,女性を対象と し,40℃で 10 分間の足浴を実施した後,60 分間の安 静を設け,足浴による心臓自律神経活動の変化を測定 している.その結果によると,心拍数は足浴中 0.5 分 と足浴後 0.5 分では軽度の上昇がみられたが,全体を 通し有意な低下がみられ,足浴後 28.5 分後に最も低 下した.HF では,全体を通し有意な低下がみられず, 足浴後から上昇傾向にあり,最も上昇したのは足浴後 30.5 分であった.LF/HF では,全体を通し有意な上 昇がみられず,最も低下したのは足浴後 6.5 分であっ た.この実験研究を概観すると,われわれのプロト コールと近似しており,かつ自律神経系に関しては, われわれの実験での結果と似ている点が多いが,末梢 循環のパラメーターに関しては,測定されていないた め比較することができない.以上から,2 つの報告に みるごとく,足浴に関して比較的同様な実験は行われ ているが,今回われわれの行った全身循環,末梢循 環,自律神経活動を指標とし,足浴開始から足浴後ま でを包括的にみた研究はいまだ少ないため,今回のわ れわれの研究は,足浴が生体へもたらす生理学的効果 を明らかにした有意義な検討であったと考えられる. 足浴の入眠への効果について以下に論ずる.睡眠へ の影響を調べた足浴実践研究を網羅的に分析した文献 検討(吉永・吉本 2005)では,総合的な足浴効果とし て,足浴は不眠の有無にかかわらず,睡眠を促す効果 のある可能性が考えられた,と述べており,また,足 浴が睡眠を促す効果の機序として,足浴により皮膚血 流量が増加すると,深部体温と皮膚温の温度差が小さ くなり,そのことで睡眠が起こりやすいと推定してい る. 本実験においては,主観的なデータとして測定はし ていないが,足浴を実施した後に入眠する被験者が多 くみられたことから,実際に足浴は入眠効果があると 考えられる.その根拠として,本実験での足浴後の変 化は,副交感神経活動の指標である HF の増加,自律 神経系の調節能力を示す BRS の増加,足部の皮膚温 の上昇と血流量の増加,その維持といったものをあげ ることができる.他の先行研究でも下腿皮膚温・皮膚 血流量が足浴後に有意に上昇しており,足浴の温熱刺
激により皮膚血管が拡張していることが示され,足浴 が睡眠導入に効果的なケアであることを示唆している (竹本ら 2007).また,夜間の入眠は,①脳内物質で あるメラトニンの分泌,②ベッドに入り横臥する,③ 室内照明をおとす,④リラックスするなどを準備状態 とし,circadian ペースメーカーとしての深部体温の 低下とともに睡眠状態に入るとされている(Krauchi et al. 2000).そしてこれらの key factor としての役 割は皮膚領域の末梢血管拡張が担っているという.こ の考えを支持するならば,本実験での足浴では,まさ に入眠への条件をつくり出したということが考えら れ,40℃の湯温で 15 分間の足浴は入眠に十分貢献で きると考えられた. 足浴の実施中で,交感神経活動の LF/HF が上昇し たことに関しては,15 分間の足浴の間,仰臥位で膝 を立てていることが,苦痛と感じていた可能性が考え られる.また,実験中に膝を立てると足浴に用いたベ イスンの縁に脚が当たり苦痛である,と訴えた被験 者もいたことから,このことも LF/HF の上昇につな がったと考えられた. 今後の課題として,女性や高齢者,有疾患患者を対 象者とした検討,さらに主観的データについても科学 的なスケールを用いた主観的効果の検討をしていく必 要があると考えられた.また,今回は正確な生理学的 効果を検討するため恒温装置を用いたが,通常臨床の 場で行うような湯温の低下が発生する条件では,どの ように本実験の結果が修飾されるかについても検討す る必要があるかもしれない.一方,入眠効果について は,足浴を施行しない仰臥位維持のみでも,副交感神 経系が優位になり,傾眠効果が得られるのではない か,といった疑問も否定できない.しかし,本研究の 準備実験で,若干名の被験者に行った,安静臥床中の 足浴の有無による同パラメーターの比較では,足浴を 施行しない場合,足浴を施行した場合と同様な生理学 的効果は少なくとも確認できなかった.この点につい ても今後,検討の継続が必要であると考えている. 足浴は,全身循環に対し大きな負担をかけることな く,かつ末梢循環を促進,維持させ,自律神経活動に 関しては,足浴後に副交感神経活動を賦活化させ,交 感神経活動を抑制する,明確な生理学的効果のある看 護技術であり,このことから,足浴はリラクセーショ ン効果や入眠効果に貢献する看護技術であることが明 らかとなった. 本研究の要旨は,日本看護技術学会第 7 回学術集会にて口 演したものである. 文献 深井喜代子,前田ひとみ(2006):基礎看護学テキスト EBN 志 向の看護実践,227,南江堂,東京.
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