<総 説>
線虫C. elegansにおける運動と学習を指標とした 放射線影響解析
1)日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 量子生命・バイオ技術研究ユニット マイクロビーム生体影響研究グループ 坂下哲哉*1)、鈴木芳代1)
1.はじめに
私たちにとっての線虫(Caenorhabditis (C.) elegans)の放射線生物研究材料としての魅力は、
ユニークなin vivoモデル生物であるという点にある。全ゲノムが解読された初めての多細胞生 物、全細胞系譜が明らかであり、全神経細胞の位置と結合が明らかである唯一の生物、など線虫 の魅力を語るときには、全(すべて)の形容詞をつけることが多い。ノーベル生理学・医学賞受 賞者であるシドニー・ブレンナー博士に始まる線虫の研究者たちの「生命現象のすべてを最初か ら最後まで明らかにしよう」という想いが、そこには詰まっているように思う。線虫のモデル生 物としての紹介については、放射線生物研究誌等において複数の先生が総説を書かれているので、
そちらを参照されたい(1, 2, 3, 4)。本総説で扱う学習と行動(運動)の観点からみたin vivoモ デル生物としての魅力であるが、簡単にまとめると、以下の3点となる。
① 全ての神経細胞の解剖学的な位置と神経細胞同士の結合が明らかである(5)。
② 様々な行動と学習の能力を持っている(6, 7)。
③ 個々の行動と学習に対して責任ある遺伝子がある程度同定されている(6, 7)。
これらは、なんと分子(遺伝子)、細胞、組織、個体レベルの現象を一貫して扱うことができ る魅力を線虫に与える。まだ、完全にすべてのレベルが繋がるわけではないが、分子レベルから 個体レベルまで全体を見通して(総合システムのように考えて)影響を考えなくてはならない放 射線生物研究には、とてもFitした材料と考えられる。
行動(運動)と学習は、神経あるいは神経系の働きの結果が個体としての現れたものと考える ことができる。行動や学習に比べて、神経細胞自身への放射線影響の研究は非常に多くの研究が なされている。行動と学習の観点で、それらの研究を捉えると、
キーワード:モデル生物、神経毒性、活性酸素種、ドーパミン、化学走性学習
放射線生物研究 46(1),2011 P30 ~ 46
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