1.はじめに
2020 年,新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大は,医療,経済,文化・スポーツ,
そして教育にも深刻な影響を及ぼしている(以下,コロナ禍)。世界全体の感染者数は,
2020 年 12 月 30 日の時点で8千万人を越え,国内でも,初の感染者が1月に確認されて以 来増え続け,年末には 23 万人に達している(東京朝日新聞 2020)。また,海外では,感染 力が強いと言われる変異したウイルスも新たに発見されており,UCLAで医学部教授を 務めたジャレッド・ダイアモンドは,「この新型ウイルスはいつまで人類の前に脅威とし て立ちはだかるのか分かっていない」と指摘している(Jared Diamond 2020)。
このようなコロナ禍において,2020 年8月 11 日「教育職員免許法施行規則等の一部を 改正する省令」が施行された。改正の要点は,「2020 年度限りの特例的な取扱いとして,
新型コロナウイルス感染症の影響により~中略~教育実習の科目の単位を修得できないと きは,課目認定を受けた教育実習以外の科目の単位をもってあてることができることとす る。」(文部科学省 2020a)というものである。
この改正により,教職課程を置く大学や専門学校等(以下,大学等)をはじめ,教育実 習生を受け入れる学校,教育委員会の関係者は困惑し不安を抱えたのではないだろうか。
なぜなら,教育実習は教員免許状を取得するための必修科目というだけでなく,未来の教 育を担う教員の養成には欠かせない,重要な科目だと認識されているからである。
野口(2016 p.11)は,「正規の教員であれ,講師や臨時的任用職員であれ,一旦教員と して教壇に立てば,基本的にはその人は自立した責任のある指導者として,ほかの経験豊 かな教員たちと同等に勤務することになる」と述べている。このような教職という仕事の 特性を鑑みれば,教育実習で学校現場を経験しないまま教壇に立つことには,教員養成に 関わる者だけでなく,教員を目指す学生自身にとっても,大きな不安があるに違いない。
本研究は,コロナ禍において教育実習が置かれた状況を踏まえながら,これからの学校 現場を展望し,新たな教育実習の在り方を検討することを目的とする。今回のコロナ禍を
コロナ禍からの教育実習の在り方に関する研究
小林 力
契機として,これからの教育実習の在り方について,改めて検討することの意味や価値は 少なくないものと考える。
研究の手順は,まず教育実習の必要性を再確認するために,その意義と教育実習が学校 やその設置者である教育委員会にもたらす影響について検討する。次に,コロナ禍におけ る教育実習の取扱いについて文部科学省の通知から整理する。そして,これらを踏まえ,
コロナ禍以後の学校現場を展望した教育実習の在り方を検討していく。その際,より学校 現場の状況を踏まえた実践的な在り方の検討となるよう,コロナ禍における横浜市教育委 員会の対応事例や,同市が設置している横浜市大学連携協働協議会(1)において,コロナ禍 よりも前から,大学等と学校現場が連携して取り組んできた教育実習に関する課題への対 応策を手掛かりとして用いることにする。
2.教育実習の意義と影響
(1)教育実習の意義
教職を目指す学生にとって,教育実習の意義は「教職に対する構え及び教授方法・技術 の修得」と「教育現場の実践状況の理解」に分けられる(米沢 2007)。前者は,教職の意 義や役割を知り教員としての姿勢について学ぶこと(教職に対する構え)に加え,実際に 児童・生徒の前に立って指導することや,現職教員の授業実践を観察することを通して,
教科指導の専門的知識や技術を身に付ける(教授方法・技術の修得)ことである。後者は,
様々な個性をもつ児童・生徒への関わりや,直接児童・生徒には関わらない多くの仕事が あることなど,学校現場の現実を理解することである。
教育実習において学生は,生身の児童・生徒と向き合う中で自分の予想しないような反 応が返ってきたり,学習計画通りに授業が進まなかったりすることに直面する。そして,
自身の課題や弱点に気付いていく。この経験が,「学生自らが教職への適正や進路を考え る貴重な機会となる」(中央教育審議会 2006)のである。つまり,教職を目指す学生にとっ て,実際の学校現場を体験する教育実習は,キャリア選択の上でも重要な機会になってい ると言える。
次に,学生を学校現場に送り出す大学等の立場から教育実習の意義について考えてみた い。教職課程を置いている大学等では,教員として必要な資質能力を確実に身に付けた学 生を育てることを目指して,カリキュラムを編成し指導している。2017 年 11 月には,全 国すべての大学の教職課程において共通して修得すべき資質能力を示した「教職課程コア カリキュラム」(2)が,文部科学省の設置した「教職課程コアカリキュラムの在り方に関す る検討会」より示されている。この中で,教育実習については,教育実践に関する科目(学
校体験活動を含む)として示され,その目標の一つには「大学で学んだ教科や教職に関す る専門的な知識・理論・技術等を,各教科や教科外活動の指導場面で実践するための基礎 を修得する」と掲げられている。このことから,大学等にとって教育実習の意義は,学生 に指導してきた教職に関する専門的な知識・理論・技術等を,学校現場で通用する実践的 な指導力として体得させることにあると言えよう。
(2)教育実習がもたらす学校及び教育委員会への影響
すでに述べたように,教育実習は学生や大学等にとって,学校現場で通用する実践的な 指導力を体得する(させる)大切な機会であり,このことが教育実習を行うことの意義で ある。では,学生を受け入れる学校(以下,実習校)やその設置者である教育委員会にとっ て,教育実習はどのような影響をもたらすものであろうか。
町支(2020)は「働き始めた当初,若手教師がまずもって求められることの一つは,そ の職務に適応していくことである。」と指摘している。そして,職務への適応を社会化(3)
という概念を用いて「職業的社会化」と「組織社会化」の二つに分けて捉えている。ここ での「職業的社会化」は,教員の文化や規範,行動様式を内面化する教員への適応であり,
「組織社会化」は,所属する学校組織の文化や規範,行動様式を内面化する学校組織への 適応だと定義されている。また,「職業的社会化」は,長いキャリアを通じて徐々に適応 していくものであるのに対して,「組織社会化」は,ロールモデルの存在や周囲の既存メ ンバーからの支援に加え,自らその組織の情報を知ろうとすることによって,若手教員で も適応可能だとしている。
さらに,脇本(2020 pp.71-76)は,学生の段階における学校現場の経験が教職に就いて からどのような影響を及ぼすのかについて調査した結果,「教師にインタビューを行うと いう経験が組織社会化につながっていることが明らかになった」と述べている。そして,
学校現場で学生が教員にインタビューすることにより,教員という職業や学校現場の状況 を知ることができ,学生が教員になった際に,早く学校に馴染めるという「組織社会化」
につながったのではないかと考察している。
以上のような町支や脇本の調査・研究から,教育実習は新人教員の学校組織への適応に 影響を及ぼすことが分かる。そして,このことは学校現場にとって重要な問題である。な ぜなら,教員の数に余裕のない学校の現状を踏まえれば,たとえ新採用であっても着任し た当初から学校組織に馴染み一定の力を発揮できる教員を求めるのは必定だからである。
さらに,教育実習には,実習生の指導に当たる教員のスキルアップにつながるという効 果も期待されている。横浜市が実施した横浜市立小・中学校,義務教育学校へのアンケー ト結果(4)からは,「実習生を指導・支援する中で職員もまた何かを感じ取り,向上し,ま
た自分を振り返る機会を得 ている」,「指導教員の選定 において,意識的に若手を 登用しているが,実習生を 指導することで自身の取組 を見つめるよい機会となっ ている」といった回答を見 ることができる。ここから は,教育実習が自校の人材 育成にも資するということ を実習校が実感していると 読み取れる。
図1は,横浜市の教育実習指導教員の正規教員としての経験年数を示したものである。
これを見ると,5年から 10 年の経験をもつ教員が,最も多く指導教員を務めていること が分かる。
秋田(2006)によれば,教員は3年を過ぎた頃から,自分の授業行動を意識して選択し,
状況に応じて柔軟に対応できることが可能になってくるという。そして,10 年を過ぎると 直観的に状況を把握して,次を予想しながら授業展開できるようになる。その一方で,身 に付けた授業や生徒指導の知識や技術に頼りがちになったり,学校組織で責任ある立場と なることから,教室で子供と接する時間が減少し,子供の姿を丁寧に捉えられなくなった りするとしている。
横浜市のデータが示すように,教育実習の指導にあたる教員の多くは,一定の経験を積 み学校組織の中で責任ある立場に就く時期を迎えている。このような学校組織内での立場 にある指導教員のスキルアップは,その教員個人にとってはもちろんのこと,学校運営全 体の見直しにもつながる,いわゆるカリキュラム・マネジメントという視点からも意味あ ることである。
以上のように,教育実習は実習生を受け入れる実習校にとって,望ましい影響を間接 的・直接的にもたらしていると言える。
次に,優秀な人材を採用し育成する役割を担う教育委員会にとって,教育実習がどのよ うな影響をもたらすのかについて考えてみたい。優秀な人材を採用するためには,多くの 学生に教員採用試験を受験してもらう必要がある。しかし,全国の教員採用試験の受験者 は,2014 年以降減り続けている。そして,受験者数を採用者の人数で割って求められる競 争率(倍率)についても,2018 年度は全体で 4.9 倍と 1980 年以降の調査において最低だっ
図1 教育実習指導教員の正規教員の経験年数
*横浜市教育委員会(2017)より引用
た 1991 年度の 3.7 倍に近づいてき ている。特に,小学校の競争率 は 2.8 倍と 1991 年度と並んで過去 最低となっている(文部科学省 2019a)。 こ の よ う な 現 状 か ら,
各自治体では受験者の確保に力 を入れているものと思われる。
表1は,横浜市立学校で教育実習を行った学生が,横浜市の教員採用試験を受験した割 合を示している(横浜市教育委員会 2016)。これを見ても分かるように,教育実習校の所 在する自治体を受験する学生の数は,他の自治体を受験する学生よりも3倍以上多い。つ まり,教育実習が地元自治体の教員採用試験の受験者を確保することにつながっているの である。このことから,教育委員会にとって教育実習は,受験者を確保するという点で影 響をもたらしていると言える。
さらに,教育実習は新人教員の離職防止という点からも,その影響を捉えることができ る。表2は,全国の本務教員の離職者数の割合を示したものである。定年を除く離職者を 年齢別に見ると,小学校,中学校,高等学校の全ての校種において,25 歳未満の離職者の 割合が最も多いことが分かる。
表2 定年を除く理由の離職者数(本務教員 1000 人あたり)2015 年 小学校 中学校 高等学校 25 歳未満 22.70 37.20 66.50 25 歳以上 30 歳未満 22.40 29.60 54.90 30 〃 35 〃 13.90 17.20 30.50 35 〃 40 〃 14.10 13.30 17.30 40 〃 45 〃 15.10 15.90 13.80 45 〃 50 〃 12.80 14.80 10.80 50 〃 55 〃 13.30 13.40 10.10 55 〃 60 〃 18.80 13.80 12.10 全年齢区分の平均 16.60 19.40 27.00
*独立行政法人教職員支援機構 2019 年報告書より引用
教員を採用する教育委員会にとって,採用して間もない教員の離職は極めて深刻な問題 である。原因は,個々様々だと思われるが,その中の一つに,大学等で修得する学びと学 校現場で教員に必要とされる複雑な知見とのギャップの大きさによる「リアリティショッ ク」があると考えられている(独立行政法人教職員支援機構2019)。
表1 教育実習後の教員採用試験の受験状況 (横浜市 2016)
横浜市の採用試験を受験した 41%
採用試験を受けていない 47%
横浜市とは別の自治体を受験 12%
*横浜市教育委員会事務局教職員育成課の資料をもとに筆者作成
この「リアリティショック」の問題については,新採用教員の研修や職場でのフォロー によって対応することが基本となるが,教育実習(学校体験活動を含む)での経験も「リ アリティショック」を緩和すると考えられる。なぜなら,2の(2)で述べたように,採 用前の学生が教育実習や学校ボランティア等の学校体験活動を通して,教員のリアルな言 動から学校の状況を理解することは,新人教員として着任した際,学校組織に早く適応で きること(組織社会化)につながることが明らかにされているからである。このことから,
教育実習には,採用されたばかりの若い教員の離職に,一定程度の歯止めをかけることが 期待できると言えよう。
3.コロナ禍の教育実習における対応策
コロナ禍において教育実習を実施するに当たっては,文部科学省より大学等及び教育委 員会,都道府県知事等に対して留意点や対応策が段階的に示されている。その中で,2020 年4月3日付けの「令和2年度における教育実習の実施に当たっての留意事項について」
及び5月1日付けの「令和2年度における教育実習の実施期間の弾力化について」,8月 11 日付けの「教育職員免許法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」の各通 知には,コロナ禍での教育実習を特別な扱いとすることが示されている。次に,その具体 的な内容についてみていくことにする。
(1)感染防止対策
2020 年4月3日付けの通知では,感染防止に留意しつつ教育実習の内容,方法等につ いて実習校等と相談するよう大学等に求めている(文部科学省 2020b)。具体的には,新 型コロナウイルス感染症専門家会議が示した三つの条件(換気の悪い空間,多くの人が密 集,近距離での会話や発声)が重ならないようにすることや,実習時期を秋以降に移すこ と,そして卒業年次の学生の実習を優先することなどである。とりわけ,学生に対しての 感染防止に関する事前指導として,次の内容を徹底するよう求めている。
①教育実習の2週間程度前から,毎朝検温及び風邪症状の確認を行うこと。
②感染リスクの高い場所に行く機会を減らすこと。
③手洗いや咳エチケットなどの基本的な感染防止対策を徹底し,マスクを常時着用する こと。
④濃厚接触者に特定された場合,感染者と最後に接触した日から2週間は教育実習への 参加を見送ること。
⑤学校における感染症対策の取組について十分理解させた上で,教育実習に参加させる こと。
⑥実習中に体調不良がみられた場合には,実習校と相談の上,児童・生徒との接触は絶 対に避け,自宅で休養すること。
学校現場にとって,感染防止は極めて重要な問題である。とりわけ,集団感染は是が非 でも避けたい最大のリスクである。そのことを実習前の学生が理解し,自らも感染防止に 細心の注意を払いながら教育実習に臨むことを通知では求めている。
(2)実習時期・期間・内容の弾力化
政府は,2020 年2月 27 日の新型コロナウイルス感染症対策本部会議において,小・中 学校及び高等学校,特別支援学校に臨時休業を要請する考えを表明し,3月2日から年度 末までの実施を求めた。これを受けて全国の学校は臨時休業の措置をとることになった。
しかし,その後も感染は拡大し,4月には特別措置法に基づき緊急事態宣言が発出され たことから,臨時休業の期間は延長されている。5月 11 日の時点で,全国の小・中学校 と義務教育学校の 88%が臨時休業を実施している(文部科学省 2020c)。
臨時休業期間が長期化している現状を踏まえて,4月3日及び5月1日付けの通知では,
教育実習の時期の変更,期間の短縮,内容の弾力化の検討を大学等や教育委員会に求めて いる。特に5月1日付けの通知では「令和2年度に限っては,新型コロナウイルス感染症 の影響を考慮し,教育実習の科目の総授業時間数のうち,3分の1を超えない範囲を大学・
専門学校等における授業により行うことは差し支えない。」(文部科学省 2020d)としてい る。これにより,3週間の教育実習期間は2週間に短縮することが可能となったのである。
しかし,短縮された教育実習の内容については具体的に示されていない。
横浜市立学校においても臨時休業は5月末まで延長され,6月1日から段階的に学校が 再開されている。約3ケ月にも及ぶ学校の臨時休業は,児童・生徒の心身に様々な影響を 及ぼすことが予想され,教職員には慎重かつ丁寧な対応が求められている(横浜市教育委 員会 2020a)。加えて,教育課程の組み替えや行事の調整,そして感染防止対策など,学 校現場はこれまで経験したことのない対応を迫られ,不安を抱えながら教育活動を再開し ていったものと思われる。
このような学校現場の状況を踏まえて,横浜市教育委員会では,4月 27 日付けで「令 和2年度に実施する教育実習の運用について(通知)」を市立学校に向けて発出している。
そこには,「新型コロナウイルス感染症の影響により夏季休業後の学校のスケジュールは 例年になく厳しいものになることが十分予想されます。そのような状況下で教育実習を例 年通りの内容で行うことは極めて困難です。」(横浜市教育委員会 2020b)として,コロナ 禍でも実施が可能な運用例を示している。表3は,その内容を整理したものである。
この運用例の中の「2既存の仕組みの中で可能な効率的な取組」は,コロナ禍において
特別に検討されたものではない。横浜市が設置している大学連携協働協議会の中で,学校 の現状に応じた弾力的な教育実習として 2018 年から議論されてきたものである。
表3 コロナ禍における教育実習の弾力的運用例
1 教育委員会から実習生用のeラーニングを提供(利用は任意)
教育実習の前に実習生にIDを付与して,eラーニングを閲覧してもらうことで,
実習の事前指導や実習開始直後の指導時間を短縮することができる。
eラーニング1:社会人としてのマナー,教育実習の意義,実習中のふるまい 等 eラーニング2:道徳,特別活動,特別支援教育,保健安全 等
eラーニング3:児童生徒向けの「臨時休業期間中の学習保障のための動画配信」
※示範授業の補完として利用できる 2 既存の仕組みの中で可能な効率的な取組(利用は任意)
(1)「講話・事前指導 等」に関する取組
・他校種の教育実習やeラーニングなどで重複しているのものは割愛する。
(2)「授業」に関する取組
・実習生が一人で授業を行わなくてもよい。(指導教員とのTTも可)
・まとめの研究授業や全日経営を行わなくてもよい。
・実習生のオリジナル授業でなくてもよい。(指導教員の略案を活用することも可)
※示範授業を見て実習生に学習指導案を作成させて授業を行わせる方法も可とする ・一人の指導教員ではなく複数の教員で分担して指導に当たってもよい。
・小学校では,全ての教科等の授業を実習生に行わせなくてもよい。
(3)「実習日誌」の記載に関する取組
・指導教員が文章の体裁を添削することは不要。(記載内容の確認だけでよい)
・指導教員記載欄はPC入力・印刷・貼り付けでもよい。
※大学側が許可すれば実習生も直接PC入力を行うことも可とする
・指導教員のコメントは長く書く必要はない。(忙しい時はサインのみでも可)
3 今年度のみの特別措置(利用は任意)
(1)新型コロナウイルス感染症の影響等,やむを得ない事情により大学から指定され た期間に実施できない場合には,その旨を大学等に伝える。
(2)実習校の事情により実習期間を短縮する場合には,その旨を大学等に伝える。
(3)行事の集中等により授業日数が不足しても調整が困難な場合はやむを得ない。
(4)学習指導案は教育実習期間中に作成させなくてもよい。(略案での授業実践も可)
(5)eラーニングの活用(上記1の内容)
*横浜市教育委員会の通知をもとに筆者作成
(3)教育実習の科目の取扱いに関する特例
2020 年8月 11 日,「教育職員免許法施行規則等の一部を改正する省令」が施行されるこ ととなった。同日付けの通知には,「新型コロナウイルス感染症の影響で学生が教育実習 科目の単位を修得できないときは,課程認定を受けた教育実習以外の科目の単位をもって あてることができる」(文部科学省 2020a)と示されている。
この内容は,それまでの新型コロナウイルスに係る教育実習の対応とは全く異質のもの である。なぜなら,8月 11 日までの通知では,コロナ禍において教育実習を実施するため の対応策が示されていたものが,この通知では,教育実習が実施できなくても教員免許状 は取得できるという,教育実習そのものを行わないことを可とするものだからである。つ まり,学校現場を全く経験していない学生でも教壇に立つことが可能となったのである。
さらに,同通知では,「令和2年度に限り,教育実習の科目の総授業時数の全部又は一 部を大学等が行う授業により行うことができることとする。」とし,5月1日付けの通知 で示した,3分の1を超えない範囲という規定を緩和している。加えて,「大学等が教育 実習の代替として授業を行う場合は,教育実習に相当する教育効果を有することが認めら れるものであり,かつ,学校教育の実際を体験的,総合的に理解できる実習・演習等とし て実施すること等に努めることが強く期待されること」としている。
この通知を受けた,大学等や教育委員会はたいへん困惑したものと思われる。教育実習 を経験しない学生が学校現場に出て行くことには,様々な問題が生じてくると予測される からである。また,コロナ禍によって 2020 年度前期の授業は,全国の大学・高等専門学 校の約6割の学校で対面授業と遠隔授業を併用し,約2割の学校においては遠隔授業のみ という状況(文部科学省 2020e)であった。このように対面での授業が思うようにできな い大学等にとって,同通知が求める「教育実習に相当する教育効果」を有するような代替 授業を実施することは,極めて困難な状況であったと言えよう。
8月 11 日付けの文部科学省通知を受けて,横浜市教育員会では,8月 19 日付けで所管 する市立学校に対して「教育実習の実施に当たって留意することについて」という通知を 発出している。そこには,「教職員の養成(着任前)・育成(着任後)は学校運営の役割の 一つで,人材育成の大切な機会です。学校での実践経験を積まない学生が採用(臨時的任 用職員,非常勤講師等を含む)された場合,採用者が着任した学校の負担はさらに多くな ることが予想されます。」と,教育実習が実施されなくなることへの危機感が示されてい る。そして,可能な範囲で実施することを「原則とする」として,市立学校に教育実習を 行うよう求めている(横浜市教育委員会 2020c)。このように,8月 11 日付けの文部科学 省通知によって,大学等の教員養成機関及び教育実習生を受け入れる教育委員会や学校現 場は困惑し,教員の養成・育成に大きな不安を抱いたものと思われる。
4.コロナ禍以前の教育実習に関する課題と対応策
前章では,コロナ禍における教育実習が,これまでにない特例的な取扱いとなったこと を,文部科学省の通知をもとに確認した。ところで,これまでの教育実習は,どのような 内容と方法で行われ,そこにはどんな課題があったのだろうか。本章では,コロナ禍以前 の教育実習の姿と,それに関して指摘されている課題及びその対応策について,横浜市の 事例から考えていくことにする。
2014 年度の横浜市大学連携協働協議会では,前年の 2013 年度に横浜市立学校と連携大 学等を対象に実施した「教育実習に関するアンケート」を集約し,教育実習に関するそれ ぞれの現状と要望を整理している。表4は,横浜市立学校 416 校(小学校 279 校,中学校 118 校,高等学校 10 校,特別支援学校9校)と 42 の連携大学等から寄せられた回答を整 理したものである(横浜市教育員会 2020d)。
表4 教育実習に関わる横浜市立学校及び連携大学等の現状と要望事項
現状 要望事項
横浜市立 学校
〇多岐に渡る業務(業務量の増加)
〇臨時的任用職員や非常勤講師等 の非正規教員の増加
〇経験の浅い教員の増加
〇教育実習に臨む学生に意欲や真 摯な姿勢をもたせてほしい。
〇 教 育 実 習 に 関 す る 書 類 や 実 習 ノートの記載に係る負担を軽減 してほしい。
連携大学等
〇学生の体験機会の不足
〇コミュニケーション力が不足し ている学生の増加
〇教育実習の枠の確保
〇学生の実態を踏まえて実習校で の指導を充実させてほしい。
〇教育実習の受け入れ枠を拡充し てほしい。
*横浜市教育委員会事務局教職員育成課の資料をもとに筆者作成
ここで注目すべきことは,学校の現状である。2016 年に国が実施した「教員の勤務実 態調査」(5)では,小学校及び中学校教員の過酷な勤務実態が明らかになっている。小学校 及び中学校の両校種において,2008 年度に実施された前回調査よりも勤務時間は増加して おり,小学校の約 34%,中学校の約 58%の教員が,週当たり 60 時間以上の勤務を行って いた。横浜市においても,2013 年度に「横浜市立学校教職員の業務実態に関する調査」を 実施しており,教職員の約9割が「多忙だと感じている」という実態を明らかにしている
(横浜市教育委員会2018b)。
また,横浜市が実施した 2017 年度の調査では,市立学校教員の約 50%が経験年数 10 年 以下であった。加えて,2の(2)で述べたように教育実習の指導教員を務める教員の経 験年数も5年以上 10 年以下の層が最も多くなっている。さらに,指導教員を初めて務め るという教員の割合は約 40%にもなっている(横浜市教育委員会2018a)。
このような学校の現状を踏まえ,横浜市では 2018 年度の第1回大学連携協働協議会に おいて,それまでの教育実習で行ってきたことを①大学(6)で学べること,②学校体験活動 で学べること,③教育実習で行わなくてもよいこと,④教育実習に残すべきことの四つの 観点から分類・整理している(横浜市教育委員会 2018a)。
その内容は,表5に示す通りである。なお,この分類は教育実習の一部を学校体験活動 に移行することを前提としている。これは,2017 年 11 月の教育職員免許法施行規則の改 正(7)により,教育実習の単位数に二単位まで学校体験活動の単位を含むことができるよう になったことを踏まえたものと思われる。
表5 従来の教育実習で行われてきた内容の分類・整理
①大学で学べること ・人間形成・社会人のマナー・子供との関わり方
・教職の基礎・教科指導・学習指導案の書き方指導
②学校体験活動で学べること ・学校管理職や教員からの講話 ・授業の見学
・行事や放課後の活動 ・子供とのコミュニケーション
・教員の業務の観察 ・教員としての資質への気付き
③教育実習で行わなくても よいこと
・まとめの研究授業(発表)
→日々の授業を大切にした方がよい
・オリジナルの授業の立案
→指導教員の既存の授業アレンジでよい
・実習日誌の記入欄削減
→記入の時間が長い。メモ程度の記録でよい
④教育実習に残すべきこと ・授業の実践・学級経営・教員との対話
・子供とのコミュニケーション
* 2018 年度第 1 回横浜市大学連携協働協議会の資料をもとに筆者作成
以上のように,横浜市では従来の教育実習の内容を分類・整理した上で,2018 年の第1 回大学連携協働協議会において「より弾力的な教育実習のモデル案」として,次の二つの モデルを提示し検討している。
(1)学校体験活動と連動させて教育実習の内容を分散するモデル
学校体験活動と連動させるモデルは,教育実習で行われていた従来の内容を分類・整理
(表5参照)し,その一部を学校体験活動に振り分けて実施するというものである。この モデルでは,学校体験活動と教育実習を同一校で実施するケースと,異なる学校で行う ケースとが想定されている。前者には,実習時間にゆとりが生まれることで,実習校の教 員にとっては負担が軽減し,学生にとっても考察やコミュニケーションの時間が増すとい うメリットがあるとされている。また,後者については,学生が環境の異なる学校を体験 することにメリットがあるとしている。
このモデルの実施に当たっては,学校体験活動の内容が,教育実習と関連した活動とし て相応しいものかどうかの検証が必要となる。加えて,教育実習の単位に含むためには,
大学が課程認定を受けた科目として開設することが,必要条件となっていることにも留意 する必要がある。
(2)教育実習の内容を精選して実施するモデル
もう一つのモデルとして提示されている「教育実習の内容を精選して実施するモデル」
は,表5に示した四つの観点のうち,「④教育実習に残すべきこと」を中心にして,それ 以外のことはできるだけ簡素化・簡略化してしまうというものである。具体的には,学習 指導案の作成を簡略化すること,まとめの研究授業(8)は実施しないこと,部活動や学校行 事への参加は学校体験活動で行うことなどが提案されている。また,表5の「①大学で学 べること」については,連携大学と横浜市とでeラーニングのコンテンツを作成し,教育 実習を直前にした学生に視聴させることも試行されている。
このモデルでは,従来の教育実習において目玉とも言える研究授業を実施しないことと し,その理由として,教育実習の最終段階で実施している研究授業の負担が,指導教員及 び実習生ともに重いということを挙げている。これは,「初めて実習を指導する教員が増 えているため,研究授業までの見通しを立てることが難しい」,「学生のスキル不足で研究 授業まで至らない」(横浜市教育委員会 2018a)という,実習校からの声を踏まえたもの である。
その一方で,研究授業を経験することによって,実践的な授業力の基礎が身に付くとい う意見も,学校現場には根強くあるように思われる。研究授業では,指導教員だけでなく 教科や学年の教員,他の実習生など多くの参観者があり,授業後の反省会では多様な視点 から意見が出される。このことが,実習生にとって貴重な学びの場となるからである。
教育実習の内容を精選するに当たっては,実習校の現状だけでなく,将来の教員を目指 す学生が,実践的指導力を確実に身に付けられるようにすることも十分考慮しなければな
らない。このことが大切にされなければ,教育実習の意義が損なわれてしまうからである。
教育実習で行うべきことの精選は,学生を送り出す大学等と受け入れる学校及び教育委員 会との間で,時間をかけて協議していかなければならない課題だと言えよう。
ところが,今回のコロナ禍において全国の大学等と教育委員会は,内容を精選した教育 実習の対応を急遽求められることになったのである。理由は,3の(2)で述べた通り,新 型コロナウイルスの感染防止と実習校の負担軽減のために,教育実習の時期,期間,内容 の弾力化が文部科学省より指示されたからである。
このような緊急的対応を迫られた状況においても,横浜市では,2018 年から検討してき た「教育実習の内容を精選して実施するモデル」を基にして,表3に示したような「コロ ナ禍における教育実習の弾力的運用例」を,所管する学校に対して「利用は任意」としな がらも,具体的に提示することができたのである。
5.コロナ禍からの学校現場を展望した教育実習の在り方
すでに述べたように,教育実習は教員を目指す学生やその学生を指導する大学等にとっ て,学校現場を体験することができる貴重な機会である。また,学生を受け入れる実習校 や教育委員会にとっては,教員の育成に様々な影響をもたらす重要なものとなっている。
このように教員の養成・育成に必要不可欠な教育実習が実施できないという状況は,教 育の未来にとって大きなマイナス要因になることが懸念される。今後も,教育実習が,そ の意義や効果を発揮しながら持続可能な科目として存続していくためには,コロナ禍での 状況を踏まえた新たな在り方について,検討しておくことが極めて重要であると考える。
コロナ禍によって,教育実習の実施が危うくなった要因の一つとして,教育実習で学生 を受け入れることにより教職員の負担が増加することが挙げられる。感染防止等への対応 等で学校現場が混乱している中,教職員の疲弊が心配されていたからである。しかしなが ら,このような教育実習による実習校の負担増加については,前章で述べたように,コロ ナ禍以前から多忙化する学校の現状の中で指摘されている。つまり,コロナ禍によって,
それまで教育実習が抱えていた課題が浮き彫りになったのである。
そこで,横浜市の取組を参考にしながら,コロナ禍以降の学校現場の状況を展望して,
三つの視点から,これからの教育実習の在り方を検討していくことにする。まず,今後も 新型コロナウイルスの感染が続くこと,あるいは,新たな感染症の流行も想定して,これ までの教育実習ではスタンダードだった短期間に集中して実施する方法を見直すこと。次 に,多忙な学校現場の状況を踏まえ教職員の負担に配慮して,教育実習の内容を精選する こと。そして,コロナ禍において大きく前進したオンラインでの授業や会議など,ICTを
活用した新たな学校教育に対応して,教育実習の内容・方法を転換していくことである。
(1)学校体験活動と連動させた長期分散型の教育実習
これからの教育実習は,これまでの短期集中型から長期分散型に転換していくことが必 要である。コロナ禍においては,5月から7月に予定されていた教育実習のほとんどが9 月以降の実施に変更されている。また,実習期間を短縮して実施せざるを得ない学校も あった(9)。このことは,これまでのような短期集中型の教育実習が抱える実施上のリスク を明白にしたとも言える。
原・芦原(2019)は,「教育実習を4週間を超えて長期的に行うことは実質的に不可能 であることを考えれば,長期に行うことが可能な学校インターンシップの機能を明確化し て教育実習の単位として充当することは制度上可能であると考えられる。」と指摘してい る。また,学校インターンシップや学校ボランティア等の学校体験活動は,文部科学省が 設置した「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会」においても,その重要性 が議論され,教育実習の一部に含む場合の到達目標(10)が示されている。そして,すでに 述べたように教育職員免許法施行規則が 2017 年 11 月に改正され,教育実習の単位数に,
二単位まで(高等学校教諭および特別支援学校教諭の普通免許授与の場合は一単位)学校 体験活動を含むことができることになっている。ただし,この場合は大学が事前に教職課 程の変更届を文部科学省に提出して,課程認定を受けた科目として開設することが必要と されている。
今回のコロナ禍で,文部科学省は,大学等の判断により授業目的と密接に関わる場合は,
学校の教育課程の内外を問わず学校ボランティア活動を学校体験活動や大学等で行う教育 実習を補う授業として位置付けることも可能だとしている(文部科学省 2020d)。このこ とについては,前章で述べたように,すでに横浜市において「学校体験活動と連動させて 教育実習の内容を分散するモデル」が検討されている。脇本(2020 pp.65-66)は,横浜市 立学校に勤める経験年数3年目の教員のうち,9割近くが大学時代に何らかのかたちで学 校現場に出かけており,そのうちの3分の2以上がボランティア目的,2分の1近くが大 学の授業の一環で学校現場に行っているという実態を明らかにしている。この現状を踏ま えれば,教育実習と学校体験活動とを連動させることは,環境さえ整えば比較的容易にで きるものと思われる。
しかし,学校体験活動を教育実習の単位数に含めるためには,大学が課程認定を受けた 科目として開設することが必要となっている。そのため,学校体験活動と連動させた長期 分散型の教育実習が可能となるのは,大学等の授業の一環として学校現場とかかわりを持 つ学生に限られてしまうことになる。そこで,今回のコロナ禍での特例として認められた ように,学生の自主的な学校ボランティア活動についても,大学等の判断により学校体験
活動として位置付け,教育実習の単位の一部に加えられる仕組みが必要となる。ただし,
この場合には,学生の学校ボランティアの実績を確認・評価する仕組みを構築しておかな ければならない。これには,改訂学習指導要領から導入される「キャリア・パスポート」(11)
の取組が参考になると思われる。
また,長期に渡って学生を引き受ける実習校の理解に基づく協力体制も,十分整えてお く必要がある。そのためには,学生と実習校とをマッチングさせるための調整作業や,学 校現場の負担を軽減するための講師派遣など,教育委員会による強力なバックアップが不 可欠である。
(2)内容を精選し教職員の負担を軽減した教育実習
前章で述べたように,学校の過酷な勤務実態は教員の健康状態に深刻な影響を及ぼすこ とが懸念されている。このような状況を重く見た文部科学省は,2019 年1月に教員の勤務 時間の上限に関するガイドラインを策定し,教員の勤務時間の上限の目安時間を次のよう に定めている(文部科学省 2019b)。
① 1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時 間が,45 時間を超えないようにすること。
② 1年間の在校時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間 が,360 時間を超えないようにすること。
このガイドラインは,2019 年 12 月の法改正により,ガイドラインから「指針」に格上 げされ,2020 年4月から上限を踏まえた業務量の適切な管理の実施が,学校の設置者であ る教育委員会に義務付けられることになっている(文部科学省 2020f)。これにより,各学 校では業務の見直しが図られ,会議等の精選及び時間の短縮,部活動における外部指導 者・指導員の活用等が進められている。学校現場は,限られた時間の中で最大限の教育効 果を上げるという難題に取り組んでいるのである。
このような学校現場の状況を踏まえ,横浜市教育委員会では,学校の現状に応じた弾力 的な教育実習に向けた取組を進めてきた。その取組は,コロナ禍においても表3に示した ように弾力的な教育実習の運用例として,市立学校に提示されている。これからは,教職 員の負担にも配慮して,横浜市で実践されているような「内容を精選した教育実習」への 転換を図っていくことが,より一層求められると思われる。なお,内容の精選にあたって は,教育実習の意義を踏まえ,その効果が十分に発揮されるよう,学生を送り出す大学等 と受け入れる学校,そして教育委員会の三者による協議が必要である。
(3)対面とオンラインを併用したハイブリッド型の教育実習
コロナ禍において,学校の児童・生徒や教職員の感染が確認された場合には,「学校の 設置者は,濃厚接触者が保健所により特定されるまでの間,学校の全部又は一部の休業を 実施する。」(文部科学省 2020g)ことになっている。この場合は,教育実習も中断又は中 止の対応を取らざるを得ない。つまり,学生の都合ではなく,実習校の事情により教育実 習が実施できなくなるということである。このことは,コロナ禍で学んだリスクマネジメ ントとして,今後に生かしていくべきだと考える。具体的には,教育実習の直前あるいは 実施途中で,実習校側の事情により中止又は中断しなければならない事態になった場合の 対応策を,予め準備しておくことである。
とは言え,急遽代替の実習校を見付けることは困難である。そこで考えられるのは,対 面での実習ができないことも想定したオンラインでの教育実習の検討である。例えば,横 浜市がコロナ禍で実施したようなeラーニングの活用,あるいは,全国の学校で臨時休業 中に実施が広がったオンラインでの授業や研究会等の導入である。
横浜市で実施したeラーニングは,その活用が任意であるにもかかわらず,対象となる 学生約 1100 名のうち 400 名以上が利用している(12)。このようなeラーニングは,人と人 との接触による感染症の感染リスクを減らすだけでなく,実習校の負担を軽減するという メリットもある。例えば,これまで実習校が対面で行っていた実習中の注意事項や教育活 動に関する講話等を,eラーニングに代えることにより,実習前のオリエンテーションの 時間はかなり削減できると思われる。
さらに,オンラインでの授業や研究会は,対面での教育実習ができなくなった場合の応 急的な措置だけでなく,教育実習の充実につながることも期待できる。例えば,大学の教 員が日程等の都合で遠方の実習校を訪問できない場合でも,オンラインでつなげば実習生 の授業参観や研究会への参加が可能となる。加えて,学校体験活動と連動させた長期分散 型の教育実習を想定した場合,異なった学校や日程で学校体験活動に参加している学生達 が,一堂に会して大学等や実習校の教員から指導を受けることも,オンラインでは可能と なる。
これまでは,教育実習は対面で行うことが当然のこととして了解されていた。それは,
教育実習が実践を通して体験的に学べる機会だからである。しかし,これからの学校教育 は速いスピードでオンライン化が進むと予測される。このような近未来の学校の姿を展望 すれば,これからの教員を目指す学生が学ぶべき内容として,オンラインでの授業実践や 会議等を体験することも含まれるようになっていくものと考えられる。
文部科学省は,「1人1台端末は令和の学びの『スタンダード』」とするGIGAスクール 構想を 2023 年度までに実現するとしている(13)。そして,この構想はコロナ禍により一気
に加速されている。このことを踏まえれば,これまでのような対面だけの教育実習ではな く,オンラインも取り入れたハイブリッド型の教育実習についての検討も,必要になるで あろう。
6.おわりに
今回のコロナ禍において,文部科学省は「教職員については,勤務環境や業務内容が通 常時とは異なる中で職務に従事していますが,こうしたことが精神的な緊張や心身の過度 な負担につながることも懸念されるところです。」(文部科学省 2020h)として,教職員の メンタルヘルス対策を講じるよう全国の教育長に求めている。こうした学校現場の状況を 踏まえれば,教育実習の実施が見送られたとしてもやむを得ないことである。
しかし,コロナ禍においても,学校は教育実習生を受け入れている。それは,これまで 述べてきたように,教育実習が,実習に臨む学生やその学生を指導する大学等だけでなく,
受け入れる実習校や教育委員会にとっても,必要不可欠なものだからであろう。このよう な教育実習という科目を持続可能なものにしていくためには,コロナ禍においても様々な 対応や配慮のもとに実施された教育実習の経験を生かして,これからの在り方を考えてい くことが大切である。
本研究では,横浜市教育委員会がコロナ禍以前から,「学校現場の状況は大きく変化し ているにもかかわらず,教育実習の在り方は変わっていない」という問題意識のもと,大 学等や学校現場と連携・協議しながら「効果的・効率的でより弾力的な教育実習」の実現 に向けて進めてきた取組に着目した。そして,その取組からヒントを得て,「学校体験活 動と連動させた長期分散型の教育実習」,「内容を精選し教職員の負担を軽減した教育実 習」,「対面とオンラインを併用したハイブリッド型の教育実習」を,これからの学校現場 の状況を展望した持続可能な教育実習の在り方として示した。しかし,これらはいずれも 教育委員会の関与がなければ実現は難しい。今後は,市町村の教育委員会と私立学校等を 所管する都道府県教育委員会との連携のもと,教育実習をめぐる環境整備をより一層進め ていくことが必要である。
未来の社会を担う子供たちを育てるのが,学校教育の果たすべき役割である。その根幹 を担う教員を養成・育成するのは,大学等の教職課程を置く高等教育機関,地方教育行政 を担う教育委員会,そして教育実習生を受け入れる学校に共通する使命である。この三者 が,コロナ禍を契機として教育実習の意義を改めて見直し,社会の変化や学校の現状に対 応した持続可能で,より効率的・効果的な教育実習の実現に向けて連携を強めていくこと は,これからの学校教育の充実・発展につながる重要な取組の一つになるであろう。
【注】
(1) 横浜市では,2013 年9月に 42 大学の参加を得て「第1回大学と横浜市教育委員会と の連携・協働のための会義」を開催し,翌 2014 年には神奈川県内及び東京都の 50 大 学と協定を締結して,年3回の協議会を開催している。その後,2018 年時点で協定を 締結している大学は 52 大学となっている。
(2)文部科学省は,中央教育審議会答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向 上 に つ い て ~ 学 び 合 う 高 め 合 う 教 員 育 成 コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 構 築 に 向 け て ~」
(2015.12.21)を受けて,2016 年8月に「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する 検討会」を設置した。翌 2017 年 11 月には,検討会にて取りまとめられた「教職課程 コアカリキュラム」が公表されている。
(3)町支は,社会化を「個人が自己の属する集団ないしは,社会規範・価値・習慣的行動 様式を学習し,内面化していく過程」と捉え,その対象を「職業」と「組織」の二つ に分けて説明している。
(4)2018 年6月の第1回横浜市大学連携協働協議会では,横浜市立小・中学校,義務教 育学校から教育委員会事務局に寄せられた「教育実習に関する意見」が集約され資料 として配布されている。その中には,「教員の人材育成としての教育実習」という項 目がある。
(5)文部科学省は,全国の小学校 400 校,中学校 400 校を抽出し,そこに勤務する教員(校 長,副校長,教頭,主幹教諭,指導教諭,教諭,講師,養護教諭,栄養教諭)を対象 として,2016 年 10 月から 11 月の連続する7日間の勤務状況を調査している。その結 果と分析は,2018 年9月に「教員勤務実態調査(平成 28 年度)の分析結果及び測定 値の公表について(概要)」で明らかにされている。
(6)横浜市大学連携協働協議会の資料における大学とは,大学,大学院,短期大学,高等 専門学校を含むものとされている。
(7)2016 年 11 月に教育職員免許法,翌 2017 年 11 月には同法施行規則の改正により,教職 課程で履修すべき事項が約 20 年ぶりに全面的に見直されている。その中で,学校体 験活動については,教育職員免許法施行規則第2条表備考第8号等において,二単位 まで(高等学校,特別支援学校,養護教諭の場合は一単位まで。栄養教諭は除く。) 教育実習の単位数に含めることが可能としている。
(8)研究授業については,「教育実習生が行うのは,授業そのもののあり方や進め方,指 導法や指導技術を極めようとするものであるから『授業研究』である。」(野口 2016,
p17)という見方もある。本稿では,横浜市教育委員会の資料において,「研究授業」
という表現を用いていることから,野口の指摘する「授業研究」についても「研究授 業」と表現している。
(9)神奈川大学において 2020 年度に教育実習を行った学生 77 名のうち,当初の予定を短 縮して実施された学生は 10 名であった。
(10)2017 年 11 月 17 日に公表された「教職課程コアカリキュラム」では,教育実習の一部 として学校体験活動を含む場合には,学校体験活動において「学級担任の役割と職務 内容を実地に即して理解している」,「教科指導以外の様々な活動場面で適切に児童又 は生徒と関わることができる」という到達目標が達成されるよう留意するとともに,
教育実習全体として全ての目標が遺漏なく達成することを求めている。
(11)キャリア・パスポートとは,小学校・中学校・高等学校及び特別支援学校における改 訂学習指導要領特別活動第2「学級活動・ホームルーム活動」の3内容の取扱い(2)
に示されている「児童・生徒が活動を記録し蓄積する教材等」のことを指している。
文部科学省からは,その資料や指導上の留意点が示されており,これらが教育実習の 一部として行う学校体験活動のポートフォリオを作成する際の参考になると思われる。
(12)横浜市教育委員会事務局教職員育成課の集計によれば,eラーニングの利用者は 2020 年 11 月 16 日時点で対象者約 1100 名のうち 403 名であった。また,事前指導編や授づ くり編などのコンテンツによって利用人数には違いが見られるものの,延べ 3586 名 に利用されている。
(13)GIGAスクール構想は,2019 年 12 月に発表された文部科学大臣メッセージ「子供たち 一人ひとりに個別化され,創造性を育む教育のICT環境の実現に向けて~令和時代の スタンダードとしての1人1台端末環境~」に基づく5年間の計画である。国は 2020 年度の補正予算として 2292 億円を計上し,ハード・ソフト・人材を一体とした整備 を加速することで,災害や感染症の発生等による学校の臨時休業等の緊急時において も,ICTの活用により,全ての子供たちの学びを保障できる環境を早急に実現すると している。
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