2レベルゲームについて : 国際間交渉と国内の意思 決定過程の相互関係
著者 米崎 克彦
雑誌名 經濟學論叢
巻 63
号 3
ページ 329‑356
発行年 2011‑12‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013635
* 本稿は,博士論文の第3章を基本にしている.指導教授である河合宣孝先生には多大なご指 導をいただきました.この場を借りて心から感謝の意を表します.また,今井晴雄先生(京都大学)
には様々な助言を頂きました.感謝いたします.
【論 説】
2 レベルゲームについて
―国際間交渉と国内の意思決定過程の相互関係―
米 崎 克 彦
1 は じ め に
ハ バ ナ 憲 章 に お い て ア メ リ カ 政 府 の 主 導 で 提 案 さ れ た 国 際 貿 易 機 関
(International Trade Organization)は,アメリカの議会が批准せず,不成立に終わっ た.また,NAFTAや京都議定書の批准までの道のりなど,国際間交渉を合意・
実行に導くことがいかに難しいかという例は枚挙にいとまがない.国際間交 渉において国の代表として交渉に当たる政府は,国内においてもさまざまな 関係者・団体から直接的または間接的な影響を受ける.よって,交渉担当者 が国際交渉を成立させるためには,国際交渉の場で国内の諸勢力に支持され る合意を作ろうと配慮しながら,国際間の交渉にあたらなければならない.
この状況は,「両刃の外交(Double-Edged Diplomacy)」と呼ばれる.
このような国際間交渉と国内意思決定過程の相互関係を分析するために,R.
D. Putnamは2レベルゲームを構築した.2レベルゲームにおいて,交渉代表
者は国際的な交渉(レベルⅠ)と国内の意思決定過程(レベルⅡ)の2つのゲー ムを同時に解決する戦略を考えなければならない.そしてPutnamはこのよ うな複雑な状況を,ウインセット(Win-Set)という概念を利用して単純化し
ている.ウインセットとは国内意思決定において批准されうる国際交渉の合 意の組み合わせのことである.Putnamによれば,このウインセットは国際交 渉に対し2つの影響を与える.第1にウインセットの大きさが国際交渉の成 立しやすさに関係する.第2にウインセットが小さくなればなるほど国際交 渉においてアドバンテージを持つ,ということである1).
2レベルゲームモデルでは,ウインセットが国内の意思決定を表し,そし て国際交渉に対する制約となり,そのもとで交渉代表者が国際交渉をおこな う.交渉代表者は国内の意思決定主体から制約を受けるが,独立の存在であ る.しかし,このことは果たして妥当であるだろうか2).国内の意思決定主 体の中に様々な意見が存在すると仮定すれば,国内の意思決定主体と交渉代 表者の効用が乖離する可能性は十分に想定される.ただし,国を代表する交 渉代表者が,国内の意思決定主体の意向から完全に独立していることはない.
一般的に,国際交渉における代表者は,政府の一員である.その政府は国民 による手続きを経てその座に存在するため,交渉代表者の効用と国内の意思 決定主体の効用には何らかの相関がある.
本稿では,このような国内の意思決定の影響をより交渉代表者に与える状 況を分析するため,交渉代表者を選ぶ過程を2レベルゲームモデルに導入し て,その影響を検討する3).
以下,第2節では,2レベルゲームについて簡単なサーベイをする.第3 節では,Putnam-Iida-Tararモデルに交渉代表者を選ぶ過程を追加してPutnam の仮説を再検討する.第4節は結語である.
1) この交渉アドバンテージについては,Schelling (1980)においても指摘されており,2レベルゲー
ムの文献では,このことをSchelling Conjectureと呼んでいる.
2) Milner and Rosendorff (1997), Mansfield, Milner and Rosendorff (2000)では,政府と議会の選好 の独立が存在することや政府の制度の違いを前提に通商交渉を分析している.ただし,ゲーム
の基本はPutnamに従っており,批准過程は自国のみの想定である.
3) Schellingは交渉を有利に進めるためのコミットメントの方法として,交渉代理人の利用も1
つの手段として挙げている.
2 2
レベルゲーム国際間交渉と国内意思決定過程の関係の分析を理論分野で包括的におこ なった研究として,Putnam (1988)の2レベルゲームがある.Putnamは国際間 交渉と国内意思決定過程の関係を統合して分析するために2レベルゲームを 構築し考察した.モデルの構成は,レベルⅠとレベルⅡの2つのステージか ら構成されている.レベルⅠは国際間交渉を表し,政府が国家の利益を代表 し行動する.そして,国際間の問題に対し双方が合意することを目指し交渉 する.これに対して,レベルⅡは国内における意思決定の過程を表している.
ただしこの過程は自国のみを扱っている.さらに,国内の意思決定は様々な 状況が想定される.そのためPutnamは,「ウインセット(Win-Set)」を定義し,
レベルⅡ(国内意思決定)における意思決定をレベルⅠにおける国際交渉の制 約として単純化している.アメリカなど大統領制の場合には,政府間の合意後,
議会の批准4)を必要とする5).Putnamは,このようなアメリカの上院におけ る条約の批准過程を想定しているからである.ウインセットとは,国内意思 決定において批准される国際交渉の合意の集合のことである.Putnamはこの ウインセットという概念を使い,以下の2つの仮説(性質)をあげた6). 1.他の事情が一定であれば,大きなウインセットはレベルⅠでの交渉をま
とめやすくする.(ウインセットが小さければ小さいほど,交渉が成立しないリ スクが大きくなる.)
4) 「批准」とは,条約に対する,当事国における最終的な確認・同意の手続きのことである.批 准以外に国家が条約に正式に同意を表明する方法は,受諾・承認・加入などがある.しかし,
批准は条約への署名,議会における承認,批准書の寄託を経る厳格な手続きを必要とし,重要 な条約では批准を課しているケースが多い.
5) 日本のような議院内閣制の場合,批准が通商交渉に先立って行われる場合もある.この場合,
政府の交渉代表者は合意可能な交渉内容に関し事前に議会多数派の了承を得なければならない.
6) Putnamは1988年の論文において,2つの仮説について以下のように述べている.
1.Larger win-set make Level 1 agreement more likely, ceteris paribus. (p.437)
The smaller the win-sets, the greater the risk that the negotiations will break down.(p.438) 2. The relative size of the respective Level 2 win-sets will affect the distribution of the joint gains
from the international bargain. (p.440)
2.レベルⅡのウインセットの相対的な大きさは,国際間交渉からの利益に 影響を与える.
Putnamはこの時期の国際政治経済論で主流となっていた国家中心主義に対 し,2レベルゲームを用いて国内意思決定を考慮することの必要性を強調し た.また,2レベルゲームを用いて「第2イメージ論」と「逆第2イメージ論」
を融合することを目的としていた7).さらに,国内意思決定が批准プロセスに よって,交渉代表者が合意した国際間合意を破棄してしまう意図せざる裏切 り(Involuntary Defection)の重要性など強調している.
Putnam以降の研究においては,様々な状況に対する2レベルゲームの応用 および,アイデアの拡張がなされている8).2レベルゲームモデルの交渉モデ ルとしての精緻化はIida (1993)においてなされている.Iida (1993)はゲーム理 論を基礎とする非協力交渉ゲームによって2レベルゲームを再定義している9). レベルⅠはRubinstein (1982)モデルを利用し,レベルⅡはBaron and Ferojon (1989) モデルを利用しゲームを構成している.さらにPutnamのゲーム構造に従いレ ベルⅡは,自国の批准過程のみを考察している.そしてIida (1993)はPutnam の仮説を以下のように定義10)し,モデルの結果を用いて仮説を検討している.
(1)ウインセットが小さければ小さいほど,交渉が成立しないリスクが大 きくなる.
(2)小さいウインセットは交渉にアドバンテージを持つ.
Iidaモデルが基礎としている逐次型交渉モデルの性質上11),完全情報であ
7) 「第2イメージ論」とは,国内政治が国際政治を決定するという考え方であり,「逆第2イ メージ論」は,国際政治あるいは国際システムが国内政治を決定するという考え方.詳細は飯 田(2007)などを参照.
8) 国際政治経済の様々な分野に対する議論はEvans, Jacobson and Putnam (1993)参照.その他,
通商政策におけるMilner and Rosendorff (1997)や,国内における利益団体と国際交渉の結果に 関するGrossman and Helpman (2001)などがある.
9) その他Iida (1996), Mo (1994), (1995), Milner (1997), Milner and Rosendorff (1997), Tarar (2001), (2004), (2005),などを参照.
10) Iida (1993, p.405)参照.
11) Iidaモデルの構造は,結果的に外部機会(Outside Option)が存在する交渉モデルと同じ構
造を持つ.
ると交渉は必ず成立する.したがって,(1)の仮説はこの状況の下では成立 しない.そして,交渉力について述べた(2)の仮説については,ウインセッ トの幅を決める現状維持利得の中央値によって,均衡の配分が影響を受ける ことが導かれており,国際交渉における配分の割合を増やすという面から,
小さなウインセットは,交渉力を持つと述べたPutnamの仮説を支持している.
さらにIidaモデルは,(1)の仮説について,以下のような2つの不確実性の 存在に注目している.国際間の情報に不確実性がある場合と国内の意思決定 と交渉代表者の間に不確実性が存在する場合である.国際間の情報に不確実 性があるケースでは,(1)の仮説は成立しない.交渉の成立に遅れが生じる 可能性は存在するが,これも逐次型交渉ゲームの性質上,必ず交渉は成立する.
それに対して,国内の意思決定と交渉代表者の間に非対称情報が存在するケー スでは,仮説が成立することを導いている.このことは,Putnamが指摘した 意図せざる裏切り(Involuntary Defection)のケースが存在することを導いている.
そして,不確実性下において(2)の仮説は,国内の意思決定に関する情報が 当該国の交渉担当者によく伝わっている場合は,小さいウインセットは交渉 のアドバンテージをもつ可能性が高いが,逆に国内意思決定の情報をよくつ かんでいない場合には,交渉が成立しない(1)の効果が存在し,交渉を有利 に進める効果は薄いことを述べている.
モデルの拡張の1つとして,外国の国内意思決定プロセスのモデル化が
Iida (1996)やTarar (2001)で試みられている.ただし,前者においては,互い
に国内の意思決定と交渉代表者の間に非対称情報が存在する状況下での自国 および外国の国内意思決定を考慮する両国制約のケースを対象としている.
対して,後者では,完全情報および国際間の情報に不確実性があるケースに 焦点があてられている.Iida (1996)モデルでは,割引率が非常に小さい場合,
外国の期待利得が,自国のみの国内意思決定プロセスを考慮しているIida
(1993)モデルより高くなるケースが指摘されている.Tarar (2001)モデルでは,
両国の国内制約が互いに高くないのであれば,互いに国際交渉を有利にする
交渉力を持たない(モデルの構造上,交渉結果におけるファーストムーバーアドバン テージは存在).対して,一方の国の国内制約が高い場合,国内制約の高い国 が交渉力を持つ.そして,両国の国内制約が高い場合は,プレイヤー2(セカ ンドムーバー)が交渉力を持つという結果を導いている.
さらに2レベルモデルのフレームワークから離れるが,批准効果に焦点を 当てた研究も存在する(Haller and Holden (1997), Humphreys (2007)).Haller and
Holden (1997)では,過半数を求める単純多数決ではなく過半数以上の特別な
多数決(Super-Majority Rule)を課した時に,批准を行うことを選択した側は交 渉力を改善し,より多くのシェアを交渉から得ることが導かれている.しかし,
このルールは,利益のある合意案件であっても,批准を行う側の内部の少数 派によって否決されるかもしれない可能性が含まれていることも導かれてい る.Humphreys (2007)では,2レベルゲームモデルやHaller and Holden (1997) のモデルを含め先行研究に共通する仮定(合意の空間,選好,合理性)を再検討 している.批准行動が戦略的である時,先行研究の設定では批准行動は効果 を持たないと導いている.そして,批准のタイプと効果の影響力が同一とい う新たな関係,そして代表交渉者は国際間合意をするときに,自国のグルー プの同一性から,また合意ができない場合は,国際間の意見の相違の差から 利益を得ることができることが導かれている.
3 モデルと結果
3. 1 モ デ ル
ここでは,Putnam-Iida-Tararの2レベルゲームモデルに交渉代表者を決める ステージ(第0ステージ)を導入し,その影響を考察する.モデルは,以下の3 つのステージで構成される.第0ステージは,代表者決定ステージである.第 1ステージは,第0ステージで決定した交渉代表者による国際交渉ステージで ある.第2ステージでは,第1ステージで決定した内容に関する各国の批准過 程である.ゲーム全体における流れは第0ステージから始まり第2ステージまで,
第 1 図 2レベル交渉ゲーム
0 1
A国の交渉者の 効用関数 B国の交渉者の
効用関数 B国議員の
効用関数
両国共通の ウインセット
A国議員の 効用関数
0 1
A国の交渉者 の効用関数 B国の交渉者
の効用関数
E
同じタイミングで進むが,第0ステージおよび第2ステージにおけるゲーム自 体はそれぞれの国で独立しており,別々に意思決定が行われていると想定する.
第0ステージではそれぞれの国において同時に,各議員が自国の国際交渉 の代表者を議員の中から選ぶ.ここでは選ばれた議員が,その国の選好を代 表すると想定する.たとえば,選ばれた議員が交渉代表となり,代表の選好 の下で交渉団が交渉を行うと想定する.投票の際,各議員は自分の利得が最 大になるように交渉代表者を選ぶ.各議員の投票には棄権は含まない.交渉 者となるためには過半数の支持を得なければならないとする.もし,誰も過 半数の支持を得られない場合,国際交渉の場に代表者を送り出せないという ことでその交渉自体が成立しないと仮定する.また,ゲーム全体の均衡はサ ブゲーム完全均衡を想定するが,このステージでは,自分の投票が結果に対 して無差別になるような状況では,自分に不利になる可能性がある人に対し 投票しないという基準を採用する.
第1ステージは,第0ステージで決定した交渉代表者同士の国際交渉である.
このステージは,Iida (1993)にしたがい,国際間の交渉案件を大きさ1のパイ とみなし,これらの配分を決定するRubinstein (1982)型提案応答交渉モデルを 利用しモデル化する.はじめにプレイヤーA(A国の交渉代表者とする)がパ イの分割案x=(xA, xB)を提案する.その提案に対し,プレイヤーB(B国の代表者)
が受諾か拒否を選択する.プレイヤーBが「受諾」を選択した場合,両国の 批准過程(ステージ2)へ進む.対して,プレイヤーBが「拒否」を選択した場合,
ゲームは次の期に進む.そして次の期は,プレイヤーBが提案者となる.
第2ステージは,それぞれの国においてステージ1の交渉結果に対し批 准を行う.批准をするためには,過半数の議員の承認が必要となる.これは 各国のプレイヤーが国際交渉の結果を自身の現状維持利得と比べ「承認」す るか「拒否」するかを意味する.現状維持利得とは,それぞれの議員にはそ れぞれ支持者がおり,彼らの力により議員になっていると想定する.そして 議員は彼らの意見を国における政策に反映させるために活動を行う.それぞ
れのプレイヤーはこのステージにおいて国際交渉の結果が批准されることに よって効用を得る.これに対して少なくとも一方の国で批准されなければ,
国際間合意は破棄され,現状維持となる.
形式的に表現すると,プレイヤー(議員)の集合を,I={1, ..., N, N+1, ... , N+M} で表す.NとMはそれぞれ奇数であるとする.そしてA国の議員はIA={1, ... , N}で表し,B国の議員はIB={N+1, ... , N+M}で表す.
第0ス テ ー ジ に お け る,A国 の プ レ イ ヤ ーiの ス テ ー ジ 戦 略 は,zAi=IA で あ り,戦 略 プ ロ フ ァ イ ル はzA1×・・・×zAN⊂ZAで あ る.投 票 結 果 は 関 数 EA:ZA→{a(1 :z), ... , a(N:z)}で表す.a(1 :z)はz戦略のもとiの得票数を表 す.ここでは,過半数をとらなければ交渉代表者に選ばれない.この状態を φAで表す.よって,A国のこのステージの結果は
i s.t. a(si:z)≥N 2 φA s.t. a(si:z) <N 2 κA(EA)=sA=
と表される.κi(Ei)は,利得に関係する(Payoff Relevant)要因にのみ依存す る結果を表す関数である.ここでは,選ばれる議員を自身の現状維持利得 si(i=1, ... , N:−∞ si ∞, si≠sjj=1, ... , N)で表す12).B国も同様である.そ して,少なくともどちらかの国がφiの状態であるなら国際交渉は成立せず,
それぞれ現状維持利得を得ることになる.よって,第0ステージゲームの結 果は,(sA, sB)∈
(
IA∪{φA})
×(
IB∪{φB})
と表される.第1ステージのゲームの構造は,第0ステージの結果
(
sA(zA,zB), sB(zA,zB))
∈ IA×IB13)を所与としたときに,以下である.ゲームの時間は離散時間で各期は12) 現状維持利得siは,以下の方法で標準化する.議員iにとって,合意の配分(xA, xB)と現状
維持利得siは,同じ価値を持つとする.たとえば,si=zであるなら,議員iにとって,この 合意と現状維持利得の間は無差別の関係にある.ここでは,交渉者は受諾と拒否が無差別の場 合,その提案を受け入れるとする.また,ここでは同じ現状維持利得を持っている議員はいな いとする.
13) 以下,これを(sA, sB)とする.
同じ長さの時間を持つとする.T=1, 2, ...と表され,合意が成立するまで続く.
プレイヤーは第0ステージで選ばれた交渉代表者(sA, sB)であり,可能な合意 の集合は以下のように表される.
X={(xA, xB)∈ 2:xA+xB=1 かつ l=A, Bについてxl 0}
xtをt期の提案とし,拒否された提案の流列を(x0, ... , xt−1)とする.プレイヤー Aのステージ戦略は,提案者である時と応答者である時それぞれについて,
交渉歴史を行動に割り当てる関数の列σA={σAt}∞t=0で表させる.偶数期には パイの配分提案でσAt:Xt→Xで表され,奇数期には相手の提案に対する応答 でσAt:Xt+1→{Yes, No}と表される.プレイヤーBの戦略もプレイヤーAの 戦略の奇数期と偶数期を入れ替えることによって同様に定義される.第1ス テージのゲームの結果は,実現パス関数η(σA,σB)によって表される.
(xA, xB:t) η(σA,σB)=
P
これは,任意のt期において交渉が成立するか,永遠に交渉が成立しない状 態かを表す.よって第1ステージの結果は
(
xA(σA,σB), xB(σA,σB):t)
∪{P}で 表される14).第2ステージのゲームの構造は,第0ステージの結果(sA, sB)および第1ス テージの結果
(
σA(zA,zB),σB(zA,zB))
を所与として,以下のように表される.それぞれの国において批准投票が行われる.ステージ戦略はrAi={Yes, No}
である.戦略プロファイルはr1×・・・×rN⊂RAである.批准結果は,関数 ϑA:RA→{φ(Yes:r),φ(No:r)}で表す.j(Yes:r)はr戦略のもとYesの得票数を,
φ(No:r)はr戦略のもとNoの得票数を表す.
14) 交渉が永遠に成立しない{P}の状態の場合は,第2ステージに進むことができず,また,
交渉が終了しないため互いのプレイヤーの利得は0となる.
RA s.t. φ(Yes:r)≥N DA otherwise. 2
第2ステージの結果は,A国とB国の批准結果の組み合わせで表され,以下 の4つの組み合わせである.
R=
{
(RA, RB),(RA, DB),(DA, RB),(DA, DB)}
そして,どちらかの国においてDiが存在すれば批准されない.
ゲーム全体としての歴史は,各ステージの結果からなり,この歴史を行動 に割り当てる関数をSとして,これを全体の戦略とする.均衡概念は第0ス テージの縮約ゲーム(Reduced Game)において,非被支配戦略均衡という精緻 化を含む部分ゲーム完全均衡を想定する.そして,このゲーム全体の歴史を 利得に対応させる関数を利得関数Pとする.この利得を構成するそれぞれの 効用関数は以下のように表される.両国のプレイヤーは一定の割引率を持つ とする
(
δ∈[0,1))
.そして本稿において,単純化のためすべてのプレイヤー の割引率が同一(δ=δA,i=δB, j)で,また効用は配分に対して線形と仮定す る.A国のプレイヤーの効用関数は,以下のように表される.uAi(xt)=δtv(xt−si) s.t. xt≥si uAi(−si)=si s.t. xt<si uAi(Φ)=si
uAi(D)=si uAi(P)=0
同様に,B国のプレイヤーの効用関数は,以下のように表される.
uBj(xt)=δtv(1−xt−sj) s.t. 1−xt≥sj uBj(−sj)=sj s.t. 1−xt<sj uBj(Φ)=sj
uBj(D)=sj uBj(P)=0
3. 2 結 果
3. 2. 1 国際間交渉と批准ステージ
ここで,第1および第2ステージのモデルの解をバックワードインダク ションによって求める.はじめに,批准過程ステージである第2ステージを 考える.それぞれの議員が自分の現状維持利得と第1ステージにおいて決 定された国際交渉の結果を比較し,承認か拒否かを決定する.先に述べたよ うに第2ステージの議会における批准は単純な多数決によって決定される.
よって,中位に位置する議員の現状維持利得sAmを国際間合意xtが上回るこ とによって批准される.B国も同様に批准されるためにはB国における中位 に位置する議員の現状維持利得sBmを国際間合意(1−xt)が上まわる必要があ る15).よって,それぞれの国で批准されるのでこの範囲がウインセットとな る([sAm,1],[smB,1]).そして,両国のウインセットが交差する区間[sAm,1−sBm] において国際交渉が成立すると批准される.この区間をグローバルウインセッ トと呼ぶ.
次に,国際交渉ステージである第1ステージを考える.ここでは,上の結 果を代入した縮約ゲームを想定する.よって,このステージでは,第0ス テージで選ばれる各国の交渉代表者が第2ステージの結果を制約とし国際 間交渉を行う.交渉ゲームの構造は,外部機会(Outside Option)の存在する
Rubinstein (1982)型提案応答交渉モデルに,さらに批准制約の存在するゲーム
である.批准制約とは,第2ステージの均衡が批准均衡になっているという 条件によって定められる制約である.
補助定理
[
max{
smA,sA}
, min{
1−smB,1−sB}]
≠φ という条件を満たすとき,批准制約を15) 批准過程における均衡は,中位投票者定理(Median-Voter theorem)を利用することによって,
各国の中間の現状維持利得を持つ議員に賛成投票を行わせる配分を提案することである.中位 投票者定理については,Black (1948),(1958), Downs (1957)参照.
満たすゲームの冒頭で合意する第1ステージの均衡が存在し,均衡提案x*は 以下に示す提案である.
(sm, jA , 1−sm, jA ) if δ/(1+δ) sm, jA x*=(x*A,x*B)= (1−sm, jB ,sm, jB ) if δ/(1+δ) sm, jB
(1/(1+δ),δ/(1+δ)) otherwise ・・・(*)
ここでは,sm, jA =max
{
sAj,smA}
,sm, jB =max{
sBj,smB}
とする.<proof>
[
max{
smA,sA}
, min{
1−smB,1−sB}]
≠φ であると仮定する.このとき,以下の ような戦略の組(σ*=σ*A,σ*B)を考える.1. プレイヤーAはx*=(x*A,x*B)を提案し,プレイヤーBはy*=(y*A,y*B) を提案する.ただしx*とy*は,y*A=δx*A,x*B=δy*Bを満たす.
2. プレイヤーAは,プレイヤーBの提案y=(yA,yB)に対して,yA≥y*Aな らば受け入れ,それ以外なら拒否する.同様にプレイヤーBはプレイヤー Aの提案x=(xA,xB)に対して,xB≥x*Bならば受け入れ,それ以外なら 拒否するとする.
One-stage deviation principleを利用することにより戦略の組 σ*=(σ*A,σ*B) が部分ゲーム完全均衡であることを示す.はじめに,プレイヤーAが提案と なる情報集合を検討する.戦略の組σ*に従うと,最初のラウンドの情報集合 でプレイヤーAの提案x*が合意される.もしプレイヤーAが戦略 σ*Aから 離脱してx*A 以上を要求してもプレイヤーBに拒否される.プレイヤーBが 戦略σ*Bに従う限り,次のラウンド以降,可能な合意の配分はx(ただしxA x*A)かy*である.y*A=δx*Aであるから,プレイヤーAの利得がx*Aより増加 することはない.もし,プレイヤーBが戦略σ*Bから離脱して,最初のラウ
ンドでプレイヤーAの提案を拒否しても,次のラウンド以降可能な合意の配 分はx*かy(ただしyB y*B)である.x*B=δy*Bであるから,プレイヤーBの 利得がx*Bより増加することはない.以上より,戦略の組 σ*はプレイヤーA の提案から始まる情報集合において提案x*=(x*A,x*B)が最適であることが確 認できる.同様に偶数のラウンド(T=2, 4, ...)のプレイヤーBが提案する情 報集合においても提案y*=(y*A,y*B)が最適であることが確認できる.
また,各ラウンドにおける戦略の組σ*における応答の情報集合を考える.
偶数ラウンドで,プレイヤーAがプレイヤーBの提案y=(yA,yB)を受け入れ れば,利得はδt−1yAである.もし拒否をしたら,利得は δtxAである.したがっ て,yA≥y*A=δxAならば提案yを受け入れ,yA<y*Aならば提案yを拒否する という戦略σ*Aの応答は,プレイヤーAの最適行動である.プレイヤーBに ついても同様である.以上で,この戦略の組が部分ゲーム完全均衡であるこ とが確認された.
(Q.E.D)
(*)のケース(δ/(1+δ)≥sm, jB )は,制約のない提案応答交渉モデルである.
この場合,ゲームの(部分ゲーム)完全均衡利得は,(x*A,x*B)=
(
1/(1+δ),δ/(1+δ))
となる.そして,この交渉モデルのそれぞれの期の幅を0へ収束させるとき 完全均衡利得の極限は,ナッシュ交渉解(Nash Bargaining Solution:NBS)と一 致することが証明されている16).
16) ここで用いられているナッシュ交渉解はTime-Preference型ナッシュ交渉解である.この交
渉解は次の式で与えられている.
arg max
0≤x≤1pA(x)pB(1−x)
利得関数pA,pBが微分可能であるなら,解は以下のようになる.
p'A(x) /pA(x)=p'B(1−x)/(1−x)
Binmore, Rubinstein and Wolinsky (1986)参照.また,Time-Preferenceについては,Fishburn and Rubinstein (1982)を参照.
系1
ⅰ. 区間
[
max{
smA,sA}
, min{
1−smB, 1−sB}]
に1/2が含まれる場合,均衡は制 約なしNBSと一致する.ⅱ. min{1−smB, 1−sB} 1/2であるとき,均衡min{1−smB, 1−sB}は制約さ れたNBSと一致する.
ⅲ. max{smA,sA}≥1/2であるとき,均衡max{smA,sA}は制約されたNBSと 一致する.
ⅰを図示したのが第 2-1 図であり,ⅲを図示したのが第 2-2 図である.
3. 2. 2 代表者決定と交渉結果
代表者決定ステージにおいて,それぞれの国の各議員は自国の国際交渉の 代表者を議員の中から選ぶ.単純多数決により交渉代表者を選ぶ.議員には 棄権はない.過半数を取った議員が存在しない場合は代表者を決定できず国 際交渉が成立しないとする.
ここでは,第1ステージの結果をもとに第0ステージのみの縮約ゲームを 考察する.均衡概念は,小選挙区制(Plurality Voting)の文献で使われる非被支 配戦略均衡である17).ただし,このステージでは互いの国が同じタイミング で交渉代表者を選ぶが,それぞれの国の行動は独立に決定されており,相手 の国の決定は所与と想定するため,条件付きとする.
第0ステージの縮約ゲームの利得関数をUで表す.A国のプレイヤーiの ステージ戦略ziが弱支配戦略であるとは,任意のz'i∈Ziについて,UAi(z1, ... , zi−1, zi,zi+1, ... , zN;ZB)≥UiA(z1, ... , zi−1, z'i,zi+1, ... , zN;ZB)が成り立つことであ る.Zi(i=A, B)はi国の所与の戦略である.非被支配戦略とは戦略siに対して,
17) ナッシュ均衡を想定すると,この第1ステージにおいて,すべての交渉者の組み合わせが均
衡となってしまう.よって,相手国の代表者を所与とし,自国内における非被支配戦略均衡を 考えることにより精緻化をする.これらについては,Austen-Smith and Banks (2005)参照.更 なる精緻化として強均衡なども考えられるが,この場合は,相手国内の議員との提携も考察す る必要があり,これについては次の課題としたい.
第 2-1 図 制約なしNBSと一致するケース
0 sA 1 A国の利得
sB
E Nash Bargaining Solution(NBS)
1
B国の利得
第 2-2 図 制約つきNBSと一致するケース(max{smA,sA}≥1/2)
0 sA 1 A国の利得
sB Restricted Nash
E Bargaining Solution
1
B国の利得
弱支配するような戦略が存在しないことである.よって,各プレイヤーの均衡 戦略が弱支配される戦略を含まない戦略の組み合わせを非被支配戦略均衡と 呼ぶ.
以下のような命題が導かれる.
命題
1. グローバルウインセットが非空の場合,以下のような2ケースが存在する.
(1)現状維持利得が一番高い議員が互いの国で選ばれ,その交渉者同士で 合意が形成されるケース.そのもとで国際間交渉は成立し,その合意は 各国において批准される.それが上で定義される均衡であり,唯一の均 衡である.
(2)現状維持利得が一番高い議員が互いの国で選ばれた場合に,その交渉 者同士では合意が形成されないケース.このケースでは,グローバルウ インセット内にステージ2の均衡が存在する交渉者の組は複数存在する.
そのもとで国際間交渉は成立し,その合意は各国において批准される均 衡が複数存在する18).
2.上記の均衡が達成されない場合,ゲームにおけるグローバルウインセッ トは空となる.
<proof>
A国におけるプレイヤーiのステージ利得は,UAi(zi, z−i, ZB)である.ZBは B国の所与の戦略をあらわす.
プレイヤーiの投票によって,利得が変化するのは,プレイヤーiの一票に よって,交渉代表者が決定する場合である.すなわち,2人の候補者が同点 でありプレイヤーiの投票によってどちらかが代表となるような場合とある 代表候補者を選ぶのかそれとも代表を送らないのかという場合である.前者
18) 効率性を満たす均衡は純戦略均衡である.混合戦略均衡は常に非効率である.
の投票の場合,以下の3つのケースが想定される.
1.両方の候補者が[si, sBj]の範囲の議員であるケース.
2.片方の候補者が[si, sBj]の範囲の議員であり,これに対してもう1人の
候補者が[0, si]の範囲の議員であるケース.
3.片方の候補者が[si, sBj]の範囲の議員であり,これに対してもう1人の 候補者が[sBj, 1]の範囲の議員であるケース.
プレイヤーiの利得UAi(zi, z−i, ZB)が現状維持利得UAi(si)より大きくなる範 囲は,[si, sBj]である.よって1.の場合,より高い利得をもたらす候補者に投 票する.2.または3.のケースでは,[si, sBj]の範囲の議員に投票をおこなう.
2.のケースでは,[0, si]の範囲の議員は,自分の現状維持利得よりも高い利 得を生み出さない.3.のケースでは,[sBj, 1]の範囲を選ぶことによって,国 際間交渉が成立せず,結局は現状維持利得を得ることになるからである.
交渉代表者としてその候補者を選ぶのかそれとも代表を選ばないのかとい う場合でも,上と同様のケースに分けられる.
1 .候補者が[−si, sBj]の範囲の議員であるケース.
2 .候補者が[0, s−i]の範囲の議員であるケース.
3 .候補者が[sBj, 1]の範囲の議員であるケース.
1.のケースでは,プレイヤーiが候補者に投票することにより得る利得 UAi(zi, z−i, ZB)が現状維持利得UAi(si)より大きくなるためその候補者に投票す る.2.のケースでは,投票を行うことにより得る利得は現状維持利得より小 さくなるので投票は行わない.3.のケースでは,投票しても国際交渉が成立 しないため,現状維持利得を得るのと同じ結果となるので,その候補者に投 票するかどうかという選択に関して投票者は無差別になる.
以上の議論の結果,[si, sBj]の範囲にいる議員を選ぶ戦略は,他の範囲を選 ぶ戦略によって支配されない.また,プレイヤーi自身が最後の決定権を持っ ていないケースであっても,上と同じ行動をとるため,[si, sBj]の範囲にいる 議員を選ぶ戦略は,他の範囲を選ぶ戦略から支配されることはない.
よって,命題1.-(1)のケースでは,グローバルウインセットが非空であり,
この中の候補者は外の候補者を選ぶ戦略に支配されることはない.(その区間 に属しているプレイヤーの任意の組み合わせでは,補助定理により国際交渉ステージに おいて均衡が成立し,その均衡はそれぞれの国内で批准される.)ただし,グローバ ルウインセットの中において,それぞれのプレイヤーが自分の利得を最大に しているから,代表候補者は一番現状維持利得の高いプレイヤーとなり,そ のケースがゲーム全体の唯一の均衡となる.(この状況を図であらわしたのが第2 図である.)
命題1.-(2)ケースも命題1.-(1)同様,グローバルウインセットが非空で ある.しかし,互いに現状維持利得が一番高い議員が互いの国で選ばれた場 合に,交渉は成立しない.なぜなら互いに現状維持利得を加えると1を超え てしまうため(sA1+sB1>1),グローバルウインセットの範囲に入らない.ただし,
グローバルウインセットは空ではなく,現状維持利得をたすと1以下となる(sAi
+sBj 1)組み合わせは複数存在する.よって,各国で批准される国際交渉を 成立させる交渉代表者の組み合わせに帰着する均衡が複数存在する.(この状 況を図であらわしたのが第 3 図である.)
命題2.のケースでは,グローバルウインセットが空である.この場合,国 際交渉ステージでは,任意の交渉代表者は,どのような合意をしたとしても,
批准制約を満たさないため現状維持利得しか得ることはできない.ただし,
永遠に提案応答を繰り返していたとすると,互いに0利得しか得ることがで きない.よって,直ちに任意の合意をし,互いに現状維持利得を得ることが 均衡をもたらす.したがって,代表者決定ステージにおいてプレイヤーはど の交渉代表者を選んだとしても現状維持利得を得ることとなり,結果に対し て行動は無差別となる.よってこのゲームの均衡は無数となる.
(Q.E.D)
命題および系1より,以下のようなケースに分けられる.
(a)互いの国の一番タフな議員が交渉者に選ばれ,国際交渉が成立し,そ れぞれの国内で批准されるケース.
(b)批准可能な国際交渉が成立するような議員の組み合わせは存在するが,
互いの国の一番タフな議員が交渉者に選ばれると国際交渉が成立しない ケース.
(c)どのような国際交渉が成立したとしても,批准されないケース.
ケース(a)とケース(b)のそれぞれについて,国際交渉点Eが制約のない NBSと一致する場合と,制約つきNBSに一致する場合とがある.ケース(a)
第 3-1 図 ケース(b)―制約のないNBSと一致するケース グローバルウインセット
A国のウインセット
A国の利得
0 smA sA maxsi 1
B
sm
sB
Nash Bargaining Solution
1 maxsj
B国の利得
グローバルウインセット
B国のウインセット
は,第2-1図および第2-2図で示した状況と同様だが,ただし交渉者が互いに 最大の現状維持利得を持っているケースである.ケース(b)は,第3-1図お よび第3-2図で表されている.第3-1図は国際交渉点EとNBSが一致するケー スである.対して第3-2図は国際交渉点Eが制約つきNBSと一致するケース である.これらのケースではグローバルウインセットの範囲に含まれるプレ イヤーが選ばれることによって均衡が成立し,複数存在する.
ケース(c)は,第 4 図であらわされている.このケースではどのような交渉 者の組み合わせにおいても,両国で批准される合意を形成することはできない.
第 3-2 図 ケース(b)―制約つきNBSと一致するケース グローバルウインセット
A国のウインセット
A国の利得
0 max 1
E
Restricted Nash Bargaining Solution
1 max
B国の利得
A
sm sA si
B
sm
sB
sj
グローバルウインセット
B国のウインセット
系2
グローバルウインセットが非空であれば国際交渉は合意され,批准される.
また,本モデルでは,グローバルウインセットの大きさは国際交渉に直接的 に影響は与えない.しかし,命題1.-(2)のケースでは,グローバルウインセッ トの大きさは均衡の集合のサイズに影響を与え,間接的に交渉代表者の交渉 力が影響を与える.
Putnamは第1仮説において「他の事情が一定であれば,大きなウインセッ トはレベルⅠ交渉をまとめやすくする」と指摘している.本稿のモデルでは,
1.-(1)の範囲では,先行研究同様,逐次交渉モデルの性質上,批准制約を満 たす唯一の国際交渉均衡が必ず成立するので,この仮説は成立しない.ただし,
1.-(2)のケースにおいては,複数均衡が存在し,交渉が成立するケースが増 第 4 図 ケース(C)
A 国の利得
0 R 1 smA
R
Nash Bargaining Solution
E 1
B
sm
B 国 の利得
えるという可能性の点から,この仮説を支持する可能性がある.ただし,複 数の均衡が存在するということは均衡に至るコーディネーションの問題があ り,逆にまとめにくくする可能性も否定できない.第2仮説については,命題1.
-(1)では,グローバルウインセットが変化をしたとしても,両国とも互いの 一番現状維持利得の高い議員を代表者に選んでいるので,影響を受けない(第 5-1 図).対して,命題1.-(2)のケースにおいては,均衡の集合のサイズに影 響を与え,自分らのとり分が相対的に少なくなる可能性のある均衡の集合範 囲がなくなることにより,間接的には交渉力に影響を与えることがわかる(第 5-2 図).
第 5-1 図 ウインセットの変化と交渉力(1)
0 smA smA' maxsi 1 A国の利得
B
sm
maxsj
E Nash Bargaining Solution
1
B国の利得
4 結 語
本稿では,国際政治経済学の分野で発展した2レベルゲームモデルに交渉 代表者を選ぶ過程を追加することにより,国内の意思決定が,交渉代表者に 影響を与えるモデルを考察した.先行研究において,2レベルゲームは様々 な形で拡張や応用が研究されている.理論面ではPutnamの2つの仮説に対 し様々な形で検証が行われている.本モデルでは,Putnam-Iida-Tararの結果 に対し,両仮説についてこれまでと違う含意が得られた.第1仮説について,
複数均衡が存在する条件が導かれ,より交渉が成立するケースが増えるとい う可能性の点から,この仮説を支持する可能性が導かれた.また,第2仮説
第 5-2 図 ウインセットの変化と交渉力(2)(間接的影響)
0 smA sA smA' sA 1
sB
Eʼ E 均衡の変化
1
B国の利得
'
について,交渉のアドバンテージはウインセットの大きさではなく誰を選ぶ かという部分に変化している.ただし,ウインセットの変化が均衡の集合の サイズに影響を与え,自分らのとり分が相対的に少なくなる可能性のある均 衡の集合範囲がなくなる場合があり,間接的に交渉力に影響を与える可能性 は残されている.
さらに,モデルの拡張として,それぞれ国の議員が異なる選好を持ってい る場合が想定される.本モデルでは,それぞれのプレイヤーの持つ効用関数 の形状は交渉範囲外に理想点を持つモデルとみなすこともできる.本分野で は,交渉範囲内に様々な理想点を持つモデルに拡張することにより,代表者 選択の影響がさらに重要になる可能性がある.次の課題としたい.
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第1仮説 第2仮説
One-side (Iida) × ○
Two-side (Tarar) × ○
本稿 △ △(間接効果)
第 1 表 各モデルの結果のまとめ
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(よねざき かつひこ・同志社大学経済学部)
The Doshisha University Economic Review Vol.63 No.3 Abstract
Katsuhiko YONEZAKI, The Two-Level Game: The Interrelationship of International Bargaining and Domestic Decision Processes
I examine the two-level games model with a negotiation process for the selection of representatives. Putnam (1988) has proposed two-level games and has advanced hypotheses on international bargaining with domestic constrains.
Iida (1993/1996) and Tarar (2001) have examined the hypotheses using a game- theoretic model. They stressed that asymmetric information plays an important role in the hypotheses. Even if complete information is available, our model leads the conditions of the hypotheses.