ドイツにおける「被用者類似の自営業者」について の考察 : 社会保険の適用構造に関する基礎的研究
著者 坂井 岳夫
雑誌名 同志社法學
巻 65
号 4
ページ 961‑991
発行年 2013‑11‑30
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014589
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号四七
ド イ ツ に お け る 「 被 用 者 類 似 の 自 営 業 者 」 に つ い て の 考 察
― ―
社会保険の適用構造に関する基礎的研究坂 井 岳 夫
目 次はじめに第一章 ﹁被用者類似の自営業者﹂の位置付け 第一節 公的年金保険の適用対象 第二節 ﹁被用者類似の自営業者﹂に関する制度の沿革第二章 ﹁被用者類似の自営業者﹂の要件 第一節 要件の構造 第二節 被用者に関する要件 第三節 依頼主に関する要件第三章 ﹁被用者類似の自営業者﹂の効果
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( )同志社法学 六五巻四号四八ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
第一節 保険加入義務 第二節 任意脱退むすびに代えて
はじめに
一 自営業者への年金保険の適用 我が国の公的年金保険は、国民年金制度における第一号被保険者、第二号被保険者、および、第三号被保険者という三つの被保険者類型を前提として構成されている。これらのうち、第二号被保険者に該当するのは、被用者年金各法の被保険者、組合員、または、加入者であり(国年法七条一項二号)、これらの被保険者については、国民年金(定額の基礎年金)および厚生年金、共済年金等(報酬比例の職域年金)が適用されている。他方、第三号被保険者に該当するのは、第二号被保険者の配偶者である専業主婦(主夫)等 )1
(であり(国年法七条一項三号)、第一号被保険者に該当するのは、第二号被保険者および第三号被保険者に該当しない、日本国内に住所を有する者 )2
(である(国年法七条一項一号)。第一号被保険者に含まれる被保険者の属性は多岐にわたるが、自営業者がその重要部分を占めている。第三号被保険者および第一号被保険者については、国民年金(定額の基礎年金)が適用され、報酬比例の公的年金制度は用意されていない。 このような我が国の年金制度の適用構造をめぐっては、第三号被保険者の取扱い、非正規就業者の取扱いなど、複数の政策課題が指摘されているが、これらと並んで今後の重要な政策課題と位置付けられるべきであるのが、自営業者の取扱いである。すでに指摘したとおり、典型的な就労形態のうち、事業に使用される者 )3
((厚年法九条)、すなわち被用 九六二
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号四九 者は、第二号被保険者として、国民年金および厚生年金を適用されているのに対し、自営業者は、第一号被保険者として、国民年金のみを適用されている。ここで、就労形態の違いに起因する年金制度の適用に関する相違については、被用者と自営業者との間における資産および収入の状況の違いのほか、各年金制度の沿革 )4
(、引退過程の相違 )5
(など、様々な観点からの説明が可能である。他方で、就業形態の多様化が進展する現在において、我が国の年金制度における自営業者の取扱いが、公的年金保険による保護の必要性という本質的な観点に照らして、なお妥当なものであると評価できるのかについては、検討の余地がある。 この点、厚生年金の適用対象である被用者に該当するためには、事業主との間に雇用関係が存在することは必要ではなく、被用者が労務を提供し、これに対して事業主が報酬を支払うという事実上の使用関係が存在すれば足りると解されている
)6
(。そのため、法人企業の代表者の地位にある者も、当該法人との間に使用関係が認められる場合には、第二号被保険者として国民年金および厚生年金を適用されることになる )7
(。これに対して、個人企業の事業主は、使用関係の前提となる事業主(法人企業の場合における当該法人)を観念することができないため、使用関係の存在を肯定する余地はないと解されている )8
(。このような現行の法制度は、一方では、被用者該当性を基礎付ける使用関係の存否を就労実態に照らして判断することで、要保護性のある一部の自営業者(法人企業の代表者)にも厚生年金の適用を肯定するものである。しかし、他方では、もっぱら使用関係に着目して厚生年金の適用を規律する場合には、個人企業の事業主について柔軟な対応を行うことは困難となる。そして、企業組織の形態が、租税・社会保険料の負担も含めた事業主の経営判断により決定されることに鑑みれば、企業組織の形態によって社会保険の適用関係が大きく異なりうる現行制度の在り方について、議論の余地もあるものと考えられる。
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( )同志社法学 六五巻四号五〇ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
二 ドイツにおける自営業者の取扱い ドイツにおいては、就業者とは別個に、一定の要件を充足した自営業者が、被保険者類型の一つに挙げられている。すなわち、従来から、特定の職域を対象として、一定の要件を充足した自営業者について、公的年金保険への加入を義務付けるという仕組みが用いられてきた。また、一九九八年の法改正では、職域を限定することなく、一定の要件を充足する自営業者について、﹁被用者類似の自営業者﹂(
ar be itn eh m er äh nli ch e Se lb st än dig e
)という類型を設けて、公的年金保険への加入を義務付けるという仕組みが導入されている(以下﹁一九九八年改正﹂とする)。とりわけ、一九九八年改正は、自営業者一般の中から、要保護性が認められる人的範囲を公的年金保険に取り込むものであり、公的年金保険における自営業者の取扱いという問題意識に照らして注目に値するものである。 もちろん、我が国の公的年金保険とドイツの公的年金保険との間には、制度の基本的な構造に違いが存在しており、社会保険の適用構造について論じるに当たっても、この点を看過すべきではない。しかし、この違いに留意しつつ、ドイツにおける自営業者の取扱いについて考察することは、公的年金保険における自営業者の取扱い、ひいては、社会保険制度の適用構造を論じるに当たって、少なくない意義があると考えられる。本稿は、このような認識および関心を前提としつつ、社会保険の適用構造に関する基礎的な研究の一部として、ドイツの公的年金保険における自営業者の取扱いについて考察するものである。三 本稿の構成 以下では、第一章において、本稿が考察の対象とする﹁被用者類似の自営業者﹂の位置付けを明らかにするために、ドイツの公的年金保険における本来的な適用対象者である就業者、および、その他の適用対象者(とりわけ、自営業者 九六四
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号五一 への年金保険の適用に関わる類型)の概念または要件を概観するとともに、﹁被用者類似の自営業者﹂を導入した一九九八年改正等の趣旨および内容を要約する。 つづいて、第二章においては、﹁被用者類似の自営業者﹂の要件をめぐる立法論および解釈論におけるドイツの議論状況を明らかにするために、その要件の構造を明らかにするとともに、とくに制度の趣旨および構成を理解するために有用であると考えられる問題点について検討を行う。 最後に、第三章においては、﹁被用者類似の自営業者﹂の効果に関わる制度の状況を明らかにするために、保険加入義務の取扱い、および、そこから派生する法律問題について検討するとともに、﹁被用者類似の自営業者﹂に関する法制度のいま一つの特徴である任意脱退の仕組みについても検討を行う。
第一章 ﹁被用者類似の自営業者﹂の位置付け
第一節 公的年金保険の適用対象一 概 要 公的年金保険に関する社会法典第六編は、①就業者、②自営業者、③法律に基づくその他の被保険者、④申請による被保険者、および、⑤任意被保険者について、それぞれ被保険者の要件を規定している。 これらのうち、公的年金保険の本来的な適用対象は、①の就業者である )9
(。他方で、ドイツの公的年金保険がさまざまな理由から(本節三・四参照)制度の適用対象に取り込んでいるのが、②~⑤の人的範囲である。以下では、年金保険における自営業者の取扱いを理解するために重要な①・②および⑤について概観する。
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( )同志社法学 六五巻四号五二ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
二 就業者 ﹁就業者﹂(
B es ch äft ig te
)概念の基礎をなすのが、社会保険総則における﹁就業﹂(B es ch äft ig un g
)概念である。ここで、就業は、﹁典型的には労働関係における︹in sb es on de re in e in em A rb eit sv er hä ltn is
︺、非独立的労働である﹂と定義されており(社会法典第四編七条一項一文)、その判断要素は、﹁指揮命令に基づく労働、および、指揮命令者の労働組織への編入﹂であると規定されている(社会法典第四編七条一項二文)。 この条文上の判断要素は、判例における就業該当性の積極的判断要素を成文化したものであり、限定的な評価基準ではないとされている )₁₀(。したがって、就業該当性の判断要素を明確化するには、従来の判例を参照することも有用である。この点、判例 )₁₁
(は、﹁就業関係は、被用者︹
A rb eit ne hm er
︺が使用者︹A rb eit ge be r
︺に人的に従属していることを要件としている﹂とした上で、積極的判断要素(就業該当性を肯定する方向で考慮される要素)として、①事業所への編入、および、②使用者の指揮命令を挙げ、消極的判断要素(就業該当性を否定する方向で考慮される要素)として、③自身の事業者リスク、④自身の事業場の存在、⑤自身の労働力に関する利用可能性、⑥業務および労働時間の形成に関する自由を挙げている。 この就業概念を前提に、法律は、﹁賃金の支払いを受けて、又は、それらの職業訓練のために雇用される︹be sc hä fti gt sin d
︺者﹂が年金保険への加入義務を負うと規定している(社会法典第六編一条一文一号)。ここで、代理商、会社経営者等は、通常は自営業者に分類されるが、その活動実態に照らして就業者に該当する(﹁就業﹂または﹁雇用される者﹂の要件を充足する)場合には、就業者として年金保険における保険加入義務を課されることになる )₁₂(。 九六六
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号五三 三 自営業者 年金保険は、当初、労働者(
A rb eit er
)および職員(A ng es te llt e
)を対象としていたが(現在は、これらの非独立的労働に従事する者は、就業者として保険加入義務を課されている。本節二参照)、その後、一定の範囲の自営業者をも適用対象に含めるに至っている )₁₃(。 自営業者に対する年金保険の適用は、一九九八年改正以前においては、特定の職域の自営業者について、保険加入義務の要件を法定するという方法によって行われてきた。現在は、この法技術を用いて、教師(社会法典第六編二条一文一号)、介護人(社会法典第六編二条一文二号)、助産師(社会法典第六編二条一文三号)、水先人(社会法典第六編二条一文四号)、芸術家および記者(社会法典第六編二条一文五号)、家内工業者(社会法典第六編二条一文六号)、船員および漁師(社会法典第六編二条一文七号)、一定の商人(社会法典第六編二条一文八号)について、保険加入義務の要件が規定されている(個々の職域における保険加入義務の具体的な要件については、社会法典第六編二条一文各号参照)。 他方で、一九九八年改正により(本章第二節参照)、職域を特定することなく、自営業者一般について、保険加入義務の要件が規定されている(社会法典第六編二条一文九号)。この類型が、本稿における考察の対象である、﹁被用者類似の自営業者﹂である。 したがって、現在のドイツの年金保険においては、特定の職域における自営業者に関する保険加入義務(保険加入の要件)と、自営業者一般に関する保険加入義務(保険加入の要件)という、二つの異なる観点から設定された保険加入義務(保険加入の要件)が存在していることになる。
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( )同志社法学 六五巻四号五四ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
四 任意被保険者 以上のような保険加入義務による保険関係の基礎付けに加えて、ドイツの年金保険は、任意加入(
fre iw illi ge
V er sic he ru ng
)を認めている。任意加入は、保険加入記録を補完して保護の欠落を回避するとともに、保険加入義務のない者に年金保険への加入の可能性を与えるものである )₁₄(。 これらの趣旨から任意加入は広範な人的範囲に対して認められており、保険加入義務のない者は、満一六歳に達した後に、任意に保険に加入することができるとされている(社会法典第六編七条一項一文。なお、七条二項も参照)。したがって、保険加入義務のない自営業者も、この任意加入の仕組みを用いて、年金保険に加入することができる。
第二節 ﹁被用者類似の自営業者﹂に関する制度の沿革一 一九九八年改正前 年金保険の適用対象に関する以上の検討からは、ドイツにおける従来(一九九八年改正前)の自営業者の取扱いについて、つぎの特徴を指摘することができる。 すなわち、自営業者は、特定の職域に属する場合を除いて、年金保険への加入を義務付けられてはいなかった。他方で、教師・芸術家等、特定の職域に属する自営業者は、一定の要件を充足する場合に限って、年金保険への加入を義務付けられてきた。なお、保険加入義務のない自営業者は、任意加入によって、年金保険の適用対象になる可能性が認められていた。 九六八
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号五五 二 一九九八年改正 これに対して、一九九八年改正(一九九九年一月一日施行)は、職域を限定することなく、業務に関する一定の要件を充足した自営業者に年金保険への加入を義務付けている。同改正によって導入された新たな被保険者の類型が、﹁被用者類似の自営業者﹂である )₁₅
(。 一九九八年改正は、﹁就業﹂(
B es ch äft ig un ge n
)から﹁被用者類似の自営業﹂(ar be itn eh m er äh nli ch e se lb st än dig e T ät ig ke ite n
)への移行による、被保険者の人的範囲の浸食に対抗することを目的として、所定の要件を充たした自営業者を、公的年金保険に取り込むものである )₁₆(。当初は、﹁被用者類似の自営業者﹂の要件は、﹁その自営業に関連して、家族を除いて保険加入義務のある被用者を雇用しておらず、かつ、通常、一人の依頼主に対してのみ活動している者﹂とされていた。
三 一九九九年改正 一九九八年改正により導入された﹁被用者類似の自営業者﹂に関する法制度は、一九九九年の法改正(一九九九年一月一日に遡及して適用。以下﹁一九九九年改正﹂とする)により、いくつかの重要な事項について修正されている。一九九九年改正は、一九九八年改正に対して指摘された問題点への対応を試みるものである )₁₇
(。 具体的には、﹁被用者類似の自営業者﹂の要件が、﹁その自営業に関連して、通常、当該就業関係からの賃金が月額で通常六三〇マルクを超えている保険加入義務のある被用者を雇用しておらず、かつ、継続的かつ本質的に、一人の依頼主に対してのみ活動している者﹂に修正されている。条文の文言は現行法に至るまでにさらなる改正を経ているが、要件の本質的な内容は、この一九九九年改正によって確立されている(第二章第一節一参照)。
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( )同志社法学 六五巻四号五六ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
また、﹁被用者類似の自営業者﹂に対して認められる任意脱退の要件も、拡大および新設されている(第三章第二節参照)。
第二章 ﹁被用者類似の自営業者﹂の要件
第一節 要件の構造一 概 要 社会法典第六編二条一文各号は、公的年金保険において保険加入を義務付けられる自営業者を列挙している。﹁被用者類似の自営業者﹂に関する社会法典第六編二条一文九号は、次のような条文構造である。
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en ih T en ig d än st lb se r re it ig m g an h en m m sa u Z ät k im er tig ch fli p gs n u er h sic v ei en n ei k ig äß lm ge re t a
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九七〇( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号五七 社会法典第六編二条一文九号の文理から導かれる﹁被用者類似の自営業者﹂の要件は、①その自営業に関連して、通常、保険加入義務のある被用者を雇用していないこと、および、②継続的かつ本質的に、一人の依頼主に対してのみ活動していることである。これらのうち、①の要件については、第二節において検討し、②の要件については、第三節において検討する。
二 要保護性の要否 ﹁被用者類似の自営業者﹂の要件に関しては、社会法典第六編二条一文九号に基づいて保険加入義務を課すに当たり、実質的な要保護性が必要かという問題が、訴訟において争われている。 この問題について、有限会社の単独出資者である経営者が﹁被用者類似の自営業者﹂として保険加入義務を課されるかが争点とされた事案において、判例 )₁₈
(は、実質的な要保護性を検討する必要はないという立場を明らかにし、当該経営者が保有する当該有限会社の持分(この資産の存在は、経済的保障の必要性の希薄さを示唆し得るものである)が保険加入義務の存否に関する判断に影響を及ぼすことはないとしている。この立場に依拠する理由として、判決は、保険加入義務が、個々の保険加入義務者の個別的な要保護性を必要とするものではなく、立法者による要保護性の類型化を経た法律上の要件の充足性に基づいて発生するものであるということを指摘している。 判決も指摘するとおり、保護の必要性を問題とすることなく、法所定の要件の充足性のみに依拠して保険加入義務に関する判断を行うという態度は、ドイツの社会保険における中心的な被保険者類型である就業者の要件充足性の判断においても前提とされているものである。このような保険加入義務に関する一般的な法解釈の態度を前提として、保険加入義務のある自営業者について二つの要件を列挙している社会法典第六編二条一文九号の条文構造(本節一参照)を理
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( )同志社法学 六五巻四号五八ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
解するならば、もっぱら被用者に関する要件および依頼主に関する要件によって保険加入義務の存否を判断するという解釈は、説得的なものであると考えられる。
第二節 被用者に関する要件一 問題の所在 ﹁被用者類似の自営業者﹂の第一の要件は、﹁その自営業に関連して、通常、保険加入義務のある被用者を雇用していない﹂ことである。この要件の充足性を判断するためには、①﹁被用者﹂の意義を明らかにすること、および、②自営業との関連性(当該要件は、被用者の雇用が﹁その自営業に関連して﹂いることを前提としている)の意義を明らかにすることが必要である。 まず、﹁被用者﹂(
A rb eit ne hm er
)の意義(①)については、立法による明確化が図られている。第一に、職業訓練において職業上の知識、技能、経験を習得している者は、当該要件にいう﹁被用者﹂に該当するものとみなされている(社会法典第六編二条二文一号)。第二に、僅少就業 )₁₉((
ge rin gf üg ig e B es ch äft ig un g
)に従事している者は、当該要件にいう﹁被用者﹂には該当しないものとみなされている(社会法典第六編二条二文二号)。第三に、会社経営者の地位にある自営業者について要件充足性を判断する場合においては、会社が雇用する被用者も、﹁被用者﹂に該当するものとみなされている(社会法典第六編二条二文三号)。第三の取扱いは、判例および学説による議論を経て、立法による対応が実施されたものであるため、その経緯についてあらためて検討を行うこととする(本節二参照)。 他方で、﹁被用者﹂の意義(①)をめぐっては、他の自営業者を利用して事業を行っている自営業者について要件充足性を判断するに当たって、この場合における﹁他の自営業者﹂が﹁被用者﹂に該当するかという問題がある。この点 九七二( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号五九 について論じている判例は、自営業者の要保護性を判断する際に被用者に関する要件が要求される論拠を明らかにするために、有益な視点を提供していると考えられる。そこで、この問題についても、あらためて検討を行うこととする(本節三参照)。 また、自営業との関連性の意義(②)については、被用者が従事する業務の具体的な種類までが問題とされるものではないと解されている )₂₀
(。例えば、事務所の清掃員も、自営業に関連して雇用されていると評価されるという指摘がある )₂₁
(。
二 法人による被用者の雇用 有限会社の経営者も、法所定の要件を充足する場合には、﹁被用者類似の自営業者﹂として扱われる。ここで、当該経営者がその事業のために被用者を必要とする場合、法人たる有限会社が当事者となって、被用者を雇用するのが通常である。この場合に、当該有限会社が被用者を雇用していることにより、当該経営者の要件充足性が否定されるのかという問題が生じる。 この点に関連して、判例は、﹁被用者類似の自営業者﹂のいま一つの要件である、依頼主に関する要件の充足性を判断するに当たり、有限会社の経営者については、当該有限会社(法人)と契約関係を有する取引先との関係に着目して依頼主に関する要件の充足性を判断するのではなく、当該経営者(個人)と直接の契約関係にある当該有限会社との関係に着目して当該要件の充足性を判断するという解釈を提示していた(本章第三節二参照)。 学説は、この判例を前提とするならば、ここで検討している被用者に関する要件の充足性を判断するに当たっても、有限会社の経営者については、当該有限会社(法人)が雇用する被用者(有限会社の従業員)との関係に着目して被用
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( )同志社法学 六五巻四号六〇ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
者に関する要件の充足性が判断されるのではなく、当該経営者(個人)が雇用する被用者との関係に着目して当該要件の充足性が判断されると理解していた )₂₂
(。そして、有限会社(法人)の事業のために有限会社の経営者(個人)が被用者を雇用するという状況はおよそ想定し難いため、有限会社の経営者に関しては、(たとえ当該有限会社︹法人︺が多数の従業員を雇用している場合であっても)きわめて広い範囲において被用者に関する要件が充足されることになるという指摘がなされていた )₂₃
(。 しかし、このような判例における判断方法(要件充足性の判断における着眼点)に対しては、学説により批判がなされ(本章第三節二参照)、法改正が行われている。現在は、被用者に関する要件の充足性を判断するに当たり、会社経営者については、会社(法人)が雇用する被用者も、当該要件にいう﹁被用者﹂に該当することが、条文において明らかにされている(本節一参照)。
三 他の自営業者の利用 被用者に関する要件は、その文言に着目する限り、﹁被用者﹂の雇用のみを問題としている。したがって、この要件を文理通りに解釈する限りは、﹁自営業者﹂の利用は、当該要件の充足性を否定する事情にはならない。他方で、被用者に関する要件が、自身の労働力のみに依拠した経済活動という実態から、年金保険における要保護性を導くものであると解するならば、﹁自営業者﹂の利用が当該要件の充足性を否定するという解釈の余地が生じることになる(この場合の法律構成については、ここで紹介する判例における原告の主張を参照)。 この問題は、資産コンサルタント(代理商)が、その業務を遂行するに当たり、営業主から代理店管理者(営業主との間に契約関係を有する代理商。被用者ではなく、自営業者である。また、資産コンサルタントとの間には契約関係を 九七四
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号六一 有していない)を利用することを認められている事案において論じられている。この事案においては、①自営業者である代理店管理者について、当該要件における﹁被用者﹂に該当すると解釈できるか、そして、②資産コンサルタントとの間に契約関係を有しない代理店管理者について、当該要件における﹁雇用している﹂関係にあると解釈できるかが争点となっている。これらの争点のうち、ここで取り上げている①の問題に関する原告(保険加入義務の不存在を主張する自営業者)の主張および裁判所の判断は、つぎのとおりである。 原告は、被用者に関する要件は自身の労働力のみに依拠することにより基礎付けられる社会的要保護性の徴表であるという認識を前提として、被用者のみに言及する現行の文言は社会法典第六編二条一文九号の趣旨を不完全に表現しているという意味において法の欠缺が存在していると理解し、この法の欠缺を補うために被用者に関する要件を類推する(すなわち、自営業者を活用することを、被用者を雇用することと同視する)べきであると主張している。 この主張に対して、判決 )₂₄
(は、①保険加入義務のある被用者の雇用は、自営業者が継続雇用のための資金を調達し得ることを示唆するものであるが、他の自営業者の利用は、その経済的状況を考慮すると、それと同程度の確証を与えるものではなく、②他の自営業者の利用は、例えば、自営業者が自身の事業の機会を単に分割して、他の自営業者に譲渡している場合には、自営業者の労働力が経済的独立性に有利に拡張されているという推定を基礎付けるものではないと判示している。そして、上記の事実関係の評価に関して、判決は、代理店管理者の割当てが被用者に関する要件の充足を妨げるものではないと判断している。 この判示は、﹁自営業者﹂の利用に言及することなく、被用者の雇用のみを問題とするという要件の内容が、実質的な理由を伴うものであると理解するものである。この理解を前提とするならば、被用者に関する要件には、原告が主張するような法の欠缺は存在せず、したがって、文理を離れて類推という解釈を行う必要も存しないことになる。
九七五
( )同志社法学 六五巻四号六二ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
第三節 依頼主に関する要件一 問題の所在 ﹁被用者類似の自営業者﹂の第二の要件は、﹁継続的かつ本質的に、一人の依頼主に対してのみ活動している﹂ことである。この要件の充足性を判断するためには、①﹁継続的﹂の意義を明らかにすること、②﹁本質的﹂の意義を明らかにすること、および、③﹁依頼主﹂の意義を明らかにすることが必要である。 まず、﹁継続的﹂(
au f D au er
)という文言(①)は、活動の継続性を問題とするものであると説明されている )₂₅(。そして、この継続性の評価に当たっては、時間的な評価基準のみならず、経済的な評価基準、および、業種の特殊性も考慮されるべきであると指摘されている )₂₆
(。例えば、あらかじめ期間が限定されている一時的な活動(特定のプロジェクトに関する業務など)は、その期間が一年以内であれば、原則として活動の継続性を基礎付けるものではないし、より長期の期間であっても、活動の継続性が否定される余地があるとされている )₂₇
(。これに対して、期間が限定された活動が同一の依頼主との間で反復継続される場合には、活動の継続性が肯定されると指摘されている )₂₈
(。 つぎに、﹁本質的﹂(
im W es en tli ch en
)の意義(②)については、いかなる観点(契約上の拘束、事実上の拘束など)、および、いかなる基準によって、﹁本質的に、一人の依頼主に対してのみ活動している﹂か否かを評価するかが問題となる。 前者(評価の観点)については、一人の依頼主との間において、契約上の専属的な拘束が存在する場合はもちろん、事実上の拘束が認められる場合にも、﹁本質的﹂な拘束が存在しているという指摘がある )₂₉(。このうち、事実上の拘束に関しては、それがどのような事実関係の下で肯定されるかが問題となる。この点に関しては、例えば、販売用の店舗、車両などが他の商品の販売に転用できない場合、または、業務に従事する時間が完全に一人の依頼主によって利用され 九七六
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号六三 ている場合に、事実上の拘束が肯定されると指摘する見解がある )₃₀
(。 後者(評価の基準)については、業務から得られる収入、業務に従事する時間などを基準とした複数の評価方法が提案されている )₃₁
(。このうち、有力な見解は、事業から得られる収入を基準として、自営業者が事業収入の六分の五以上を特定の依頼主から得ている場合に、﹁本質的﹂な拘束が認められると解している )₃₂
(。 さらに、﹁依頼主﹂の意義(③)については、会社経営者の地位にある自営業者について要件充足性を判断する場合においては、会社の取引先を﹁依頼主﹂とみなすという規定が置かれている(社会法典第六編二条一文九号b)。この取扱いは、判例および学説による議論を経て、立法による対応が実施されたものであるため、その経緯についてあらためて検討を行うこととする(本節二参照)。 また、﹁依頼主﹂の意義をめぐっては、代理商として活動する自営業者について要件充足性を判断する場合に、当該代理商が取引を媒介する相手方(当該代理商の依頼主が契約を締結する相手方)を﹁依頼主﹂と評価すべきであるかという問題が、判例において争われている。この議論は、特定の職域における取引実態を前提としてはいるものの、﹁依頼主﹂の外延を画するための着眼点を提供するものであると考えられるため、この点についてもあらためて検討を行うこととする(本節三参照)。
二 有限会社と取引先との関係 すでに指摘したとおり、有限会社の経営者も、法所定の要件を充足する場合には、﹁被用者類似の自営業者﹂として扱われる。この場合、依頼主に関する要件の充足性を判断するに当たって、当該経営者(個人)と直接の契約関係にある当該有限会社との関係に着目して当該要件の充足性を判断すべきか、当該有限会社(法人)と契約関係を有している
九七七
( )同志社法学 六五巻四号六四ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
取引先との関係に着目して当該要件の充足性を判断すべきであるのかという問題が生じる。 この問題について、判例 )₃₃
(は、コンサルティング会社(有限会社)の経営者(単独出資者かつ単独経営者)が﹁被用者類似の自営業者﹂に該当するかが争われた事案において、当該経営者の唯一の﹁依頼主﹂は当該有限会社であり、有限会社のその他の外的関係が意味を有するものではないと判示して、依頼主に関する要件の充足性を肯定していた。 判例の見解は、依頼主に関する要件の充足性を判断するに際して、経営者と直接の契約関係にある有限会社を﹁依頼主﹂と解するものである。換言するならば、有限会社とその経営者との関係を企業内部の関係として捉えるとともに、有限会社の取引先を﹁依頼主﹂と解することにより、当該取引先との関係に着目して依頼主に関する要件の充足性を判断するという理解を退けるものである。この場合には、ある経営者が同時に複数の有限会社において経営者の地位にあるという事例を除いて、有限会社の経営者に関しては、きわめて広い範囲において依頼主に関する要件が充足されることになるという指摘がなされていた )₃₄
(。 しかし、このような判例における判断方法(要件充足性の判断における着眼点)に対しては、学説により、依頼主に関する要件が顧客との間における外部関係に着目するものであるという理解を前提として、有限会社の経営者についても、当該有限会社(法人)の取引先との関係に着目して当該要件の充足性を判断すべきであるという主張がなされていた )₃₅
(。当該要件に関しては、その後、上記の判例における判断方法を修正する法改正が行われており、現在は、依頼主に関する要件の充足性を判断するに当たり、会社経営者については、会社(法人)の取引先を、当該要件にいう﹁依頼主﹂とみなすことが、条文において明らかにされている(本節一参照)。 九七八
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号六五 三 契約関係にない相手との関係 依頼主に関する要件は、典型的には、自営業者が請負契約、委託契約などの契約関係に基づいて取引を行うに当たっての相手方との関係を問題とするものである。これに対して、特定の営業主の取引(商品、サービスの販売など)を代理または媒介する代理商に関しては、代理商がその業務を遂行するに当たって関係する(当該営業主の)取引相手を、依頼主に関する要件の充足性を判断するに当たって、当該要件にいう﹁依頼主﹂と評価すべきであるか否かが問題となる。 具体的には、資産コンサルタント(代理商)が、特定の営業主(一社のみ)と、当該営業主の取引相手である銀行、住宅金融金庫、保険会社、投資会社(以下﹁取引相手﹂とする)との間における金融商品の販売を媒介している事案において、当該資産コンサルタントについて、依頼主に関する要件の充足性が争われている。当該資産コンサルタントは、営業主との間に資産コンサルタント契約を締結し、当該営業主から報酬を受け取っている。他方、当該資産コンサルタントは、取引相手との間に契約関係を有しておらず、また、これらの取引相手から手数料その他の報酬を受け取ってもいなかったが、取引相手に媒介する金融商品の選択などに関しては、一定の裁量をもって活動していた。 この事実関係の下で、判決 )₃₆
(は、資産コンサルタントが自身の媒介業務によって営業主との関係でのみ契約上の義務を履行している場合には、当該資産コンサルタントが金融商品の種類および分量に関して自身の責任で決定をし、そのことによって事業者としての危険を発生させ得るという事情が考慮される余地はないと判示して、依頼主に関する要件の充足性を肯定している。 この判示自体は、事例判断の形式で行われており、契約関係のない他の法主体との関係に関する一般的な判断枠組みを提示するものではない。他方、学説の中には、上記の判断を一般化して、ここで問題としている自営業者と依頼主と
九七九
( )同志社法学 六五巻四号六六ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
の関係は法的に根拠付けられたものでなければならず、したがって、依頼主に関する要件の充足性を判断するに当たって重要なのは、誰に対して、自営業者が契約上の義務を履行しているか、および、誰によって、自営業者に報酬が支払われているかであると指摘するものがある )₃₇
(。
第三章 ﹁被用者類似の自営業者﹂の効果
第一節 保険加入義務一 概 要 ﹁被用者類似の自営業者﹂は、年金保険における保険加入義務を課される(社会法典第六編二条一文九号)。 この場合の保険料は、その全額を自営業者自身が負担する )₃₈
(。なお、自営業の形式で業務に従事する者も、その活動実態に照らして就業者に該当すると評価される場合には、自営業者としてではなく、就業者として保険加入義務を課される(第一章第一節二参照)。就業者として保険加入義務を課される場合における保険料は、就業者・使用者の双方が負担する。保険加入義務の類型(就業者として保険加入義務を課されるか、自営業者として保険加入義務を課されるか)の違いは、このように保険料負担の方式の違いに結び付いている。したがって、有限会社の経営者が﹁被用者類似の自営業者﹂として保険加入義務を課される場合にも、当該有限会社に保険料の使用者負担は発生せず、当該経営者が保険料の全額を負担することになる )₃₉
(。 他方、﹁被用者類似の自営業者﹂は、年金保険に固有の被保険者類型である。したがって、﹁被用者類似の自営業者﹂であっても、医療保険、介護保険、および、雇用保険については、保険加入義務は発生しない )₄₀
(。 九八〇
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号六七 二 合憲性 ドイツの年金保険は、公的年金保険による保護を必要とする自営業者について、法所定の要件に基づいて保険加入義務を課すものである。この制度は、保険加入義務を課される人的範囲の要件に基づいて、自営業者について保険加入に関する異なる取扱いを妥当させるものである。この取扱いは、基本法三条一項に規定される平等取扱原則との抵触の問題を発生させることになる。 この問題に関しては、資産コンサルタント(代理商)が業務遂行に当たり他の代理商(独立的な補助労働力)を利用するという階層的な代理商関係が存在していた事案において、当該資産コンサルタントにより、被用者(非独立的な補助労働力)を雇用する自営業者との間で基本法三条一項に反する不利益取扱いがなされているとの主張がなされている。このような主張に対して、判例 )₄₁
(は、個々の職域に照らした、より詳細で、保険加入義務要件の類型化に関する立法者の裁量をより厳格に制限するような細分化は、基本法三条一項によっては要請されていないとして、当該資産コンサルタントによる憲法違反の主張を退けている。
三 他の自営業者類型との関係 すでに指摘したとおり、ドイツの年金保険における自営業者の保険加入義務は、従来から存在していた特定の職域への帰属に基づく保険加入義務(社会法典第六編二条一文一号~八号)、および、一九九八年改正により導入された業務の遂行における特徴に基づく保険加入義務(社会法典第六編二条一文九号。﹁被用者類似の自営業者﹂)という、二つの異なる観点から画定されている。その結果、自営業者の活動が、外形上、複数の保険加入義務の要件(すなわち、社会法典第六編二条一文一号~八号のいずれかに基づく保険加入義務の要件、および、社会法典第六編二条一文九号に基づ
九八一
( )同志社法学 六五巻四号六八ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
く保険加入義務の要件)を充足することも想定される。 ここで、保険加入義務の根拠規定がいずれであるかによって、社会保険をめぐる法律関係に関して異なる取扱いが行われる場合には、複数の保険加入義務の要件を充足しているかにみえる自営業者について、いずれの規定に基づいて保険加入義務が根拠付けられているかが問題となる。具体的には、社会法典第六編二条一文九号に基づいて保険加入義務を課される﹁被用者類似の自営業者﹂に関しては、一定の要件の下で任意脱退が認められているが(社会法典第六編二三一条五項。本章第二節二参照)、社会法典第六編二条一文一号~八号に基づいて保険加入義務を課される自営業者に関しては、この任意脱退の適用はない。そのため、ある自営業者の保険加入義務がいかなる規定に基づいて根拠付けられているかにより、当該自営業者の任意脱退の可能性が左右されることになるのである。 なお、いままでの説明からも明らかなとおり、ここで論じている保険加入義務の根拠規定をめぐる問題は、自営業者の保険加入義務に関するドイツに固有の条文構造と密接に関連するものである。しかし、他方で、この問題は、自営業者に関する保険加入義務の拡張をめぐるドイツの法政策について理解するに当たっても、一定の意義を有するものであると考えられる。ここでは、このような関心から、保険加入義務の根拠規定をめぐる議論を紹介する。 この問題は、自営的な教師の保険加入義務の有無に関する事案において、争われている。当該教師が、自営的な教師の保険加入義務の要件について規定する社会法典第六編二条一文一号に基づいて保険加入義務を課されるのであれば、社会法典第六編二三一条五項に基づく任意脱退は認められない。これに対して、当該教師が、﹁被用者類似の自営業者﹂について規定する社会法典第六編二条一文九号に基づいて保険加入義務を課されるのであれば、社会法典第六編二三一条五項に基づく任意脱退をする余地がある。 このような事案において、判例 )₄₂
(は、社会法典第六編二条一文九号の立法理由が、﹁被用者類似の自営業者﹂について、 九八二
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号六九 社会法典第六編二条一文一号~八号の対象とされている自営業者よりも要保護性が低いとは解されないとしていることを指摘して、社会法典第六編二条一文九号が、その施行時に社会法典第六編二条一文一号~八号によって根拠付けられていた保険関係に対して影響を及ぼすものではないとしている。この理解を前提として、判例は、具体的判断においては、仮に、社会法典第六編二条一文九号に基づく﹁被用者類似の自営業者﹂の要件が充足されていたとしても、原告である教師については社会法典第六編二条一文一号に基づく自営的な教師に関する保険加入義務が優先されるのであり、﹁被用者類似の自営業者﹂に関する社会法典第六編二三一条五項に基づく任意脱退は適用されないと判断している。 ここでの判決の理由付けは、社会法典第六編二条一文九号の立法理由から、社会法典第六編二条一文一号~八号に基づいて保険加入を義務付けられている特定の職域の自営業者について認められる年金保険における要保護性を前提として、それらの人的範囲と同等またはそれ以上の要保護性が認められる人的範囲について、社会法典第六編二条一文一号~八号に基づく保険加入義務を補完するための被保険者類型としての﹁被用者類似の自営業者﹂に対する保険加入義務を導入するという趣旨を読み取るものである。この趣旨を前提とする場合には、従来から存在していた社会法典第六編二条一文一号~八号の要件が充足される場合には、これらの各号に基づく保険加入義務のみが成立し、社会法典第六編二条一文九号に基づく保険加入義務が成立する余地はないものと考えられる。
第二節 任意脱退一 概 要 ドイツの年金保険は、保険加入義務のある就業者、自営業者などのうち、一定の人的範囲を対象として、申請による任意脱退(
B ef re iu ng
)を認めている(社会法典第六編六条など)。この任意脱退は、他の老齢保障による保護が予定さ九八三
( )同志社法学 六五巻四号七〇ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察
れている場合、年金保険による保護の必要性が欠如している場合などのように、年金保険の適用を排除すべき理由がある場合について規定されている )₄₃
(。 任意脱退の各類型のうち、とくに﹁被用者類似の自営業者﹂を対象として設けられているものとして、①経過規定としての任意脱退、②起業時における任意脱退、および、③高齢期における任意脱退がある。ここでは、これら三類型について、任意脱退の要件、任意脱退を認める趣旨などを中心に整理しておく。
二 経過規定 一九九八年改正の施行前(一九九八年一二月三一日)に保険加入義務のない自営業に従事しており、同改正の施行後に﹁被用者類似の自営業者﹂として保険加入義務を課された自営業者は、下記の①~③のいずれかの要件を充足した場合に、申請により年金保険から任意脱退することができる(社会法典第六編二三一条五項)。その要件とは、①一九四九年一月二日より前に生まれていること(社会法典第六編二三一条五項一文一号)、②一九九八年一二月一〇日より前に、法所定の基準に適合する、生命保険契約または年金保険契約、あるいは、企業年金に関する約束を締結していること(社会法典第六編二三一条五項一文二号・二文)、または、③一九九八年一二月一〇日より前に(または他の法所定の時点までに)、法所定の基準に適合する、老齢、障害、死亡に備える資産を保有していること(社会法典第六編二三一条五項一文三号)である。 この経過規定の趣旨は、信頼保護(
V er tr au en ss ch ut z
)である )₄₄(。すなわち、①に該当する自営業者は、一九九八年改正の施行時に五〇歳に達しており、通常は公的年金保険以外の方法で老齢、障害、死亡への備えを行っていると想定される )₄₅
(。このような自営業者、および、生命保険・年金保険・企業年金または自己資産によって公的年金保険の保障事由 九八四
( )ドイツにおける﹁被用者類似の自営業者﹂についての考察同志社法学 六五巻四号七一 に相当する事態に備えてきた自営業者(②および③)は、従来の制度において年金保険への加入が義務付けられないことを前提として上記の備えを行っている。そこで、これらの行動の前提である従来の制度に対する信頼を保護するために、任意脱退が認められているのである。
三 起業段階 ﹁被用者類似の自営業者﹂として保険加入義務を課される者は、﹁被用者類似の自営業者﹂の要件を充足する自営業の第一回目および第二回目の開始から三年間について、任意脱退することができる(社会法典第六編六条一a項一文一号・二文、四項)。 この規定は、一方では、起業段階(
E xis te nz gr ün du ng sp ha se
)においては、いまだ保険加入義務に適合する実態が固定されていない(すなわち、その後ただちに、被用者を雇用し、または、複数の依頼主と取引することにより、保険加入義務の要件が失われる可能性がある)という事情に、配慮するものである )₄₆(。また、他方では、自営業者が事業資金を事業の構築に集中させることを可能にすることにより、起業段階の特殊性に配慮するものでもある )₄₇
(。とりわけ、後者の趣旨は、自営業者の要保護性(本節一参照)とは区別される、起業段階における資金需要への配慮から任意脱退を認めており、特徴的な任意脱退の論拠であるということができる。
四 高齢期 ﹁被用者類似の自営業者﹂として保険加入義務を課される者は、それ以前に従事していた自営業が﹁被用者類似の自営業者﹂としてはじめて保険加入義務を課される場合には、五八歳に達した後について、任意脱退することができる(社
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