計画を事例として
著者 永井 真也
雑誌名 社会科学
号 75
ページ 75‑88
発行年 2005‑09‑30
権利 同志社大学人文科学研究所
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000008551
徳島市立高校改築計画を事例として
永 井 真 也
は じ め に
わが国で1999 (平成11) 年に導入されたPFI (Private Finance Initiative) は, 民間 の資金や経営能力や技術能力といった民間活力を用いて社会資本整備を行う手法と して注目を集めている。 これまでの第3セクターにあったような経営責任の不在に よるモラルハザードを排除し, 官民のリスク分担による事業推進手法として期待さ れている。
PFIを導入してから5年が過ぎ, 2005 (平成17) 年6月22日時点の実績で200件 に達した。 これまでのPFIの動向として, 分野別では学校施設の建設に関わる 「教
は じ め に
Ⅰ. PFIの概略 1. PFIの経緯 2. PFIの定義
3. 「民間の資金, 経営能力及び技術能力」 への補足
Ⅱ. PFIの現状
Ⅲ. 徳島市立高校の改築計画 1. 徳島市立高校の概要 2. 市立高校改築PFIに至る経緯 3. 市立高校改築にPFIを用いるメリット 4. 徳島市立高校の事業性の検討 5. 小 括
Ⅳ. 学校PFIのあり方の検討 1. 学校の複合化の方針 2. 複合化の先行事例
3. 京都市御池中学校の事例から 4. 小 括
お わ り に
育と文化」 が多く, 事業形態別ではBTOが多い。 このような特徴に該当する事例 として, 徳島市で計画段階にある徳島市立高校の改築計画を採り上げ, 学校 PFIの研究を行った。
徳島市立高校の事例からは, 学校PFIに自治体が学校債を起債して資金調達して いたり, 事業計画策定後にPFI事業に切り替えたりと, PFIが形骸化している状況 が明らかになった。 学校PFIは, 建物の建設だけになりがちで, PFIらしさが出し にくい分野である。
こうした状況に対して, 平成16年4月に文部科学省から出た指針では, 学校PFI に複合化が求められている。 複合化について検討した上で, 学校PFIの今後の課題 を抽出した。
Ⅰ. PFI の概略
1999年にPFIを推進するための法律が制定され, PFIを用いた社会資本整備が進
められている。 だが, 「日本版PFI」 と呼ばれたり, わが国のPFIはまだまだ軌道 には乗っていないようである。 これまでのPFIの導入に至る経緯を述べた上で, そ もそものPFIの目的を明らかにし, PFIの要件を示しておきたい。
1. PFIの経緯
PFIは1992年にイギリスにおいて始まり, 様々な分野の社会資本整備に用いられ ている。 わが国でPFIの導入の検討が始まったのは, 通産省 (当時) が1997年10月 に 「民間主導型インフラ研究会」 を設置し, 同年11月に 「21世紀を切りひらく緊急 経済対策」 で, 初めてPFIの活用が検討された。 この頃の背景として, バブル崩壊 後の不況下での景気対策のために, 公共事業によって景気を下支えしようとしてい たので, 緊急経済対策の一環としてPFIが採り上げられた。
その後, 1999 (平成11) 年7月23日に参議院本会議で 「民間資金等の活用による 公共施設等の整備等の促進に関する法律」 (平成十一年七月十三日法律第百十七号) (以下, PFI法) が可決成立し, 7月30日に公布された。 続く9月17日には 「PFI法 の施行日を定める政令」 が閣議決定され, 9月24日に施行された。
これまでの社会資本の整備手法は, 税金を基に公共団体が行うものであったが, PFIの画期的な点は, 民間金融機関に社会資本整備の資金を提供させることである。
公共団体の予算制約は税収に縛られていたが, 民間資金による社会資本整備の可能
性が開けたことで, 公共団体の裁量の範囲は拡大し, 住民へのサービスが改善され るはずである。
2. PFIの定義
景気対策を目的として導入されたPFIであるが, わが国に導入されて5年が経過 した。 しかし, いまだに社会的に浸透しているとは言い難く, PFI自体があまり理 解されていないようにも思える。 そもそもPFIとは何を目的としていたのか確認し ておこう。
PFI法によると, 第1条 目的 には, 「この法律は, 民間の資金, 経営能力及 び技術能力を活用した公共施設等の建設, 維持管理及び運営 (これらに関する企画 を含む。) の促進を図るための措置を講ずること等により, 効率的かつ効果的に社 会資本を整備し, もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」 と 記されている。 すなわち, 民間の資金, 経営能力及び技術能力によって, 公共施設 等の建設, 維持管理及び運営を行って, 効率的かつ効果的に社会資本を整備するこ とがPFIの目的であるといえる。
また, 第三条2項 基本理念 には, 「特定事業は, 国及び地方公共団体と民間 事業者との責任分担の明確化を図りつつ, 収益性を確保するとともに, 国等の民間 事業者に対する関与を必要最低限のものとすることにより民間事業者の有する技術 及び経営資源, その創意工夫が十分に発揮され, 低廉かつ良好なサービスが国民に 対して提供されることを旨として行われなければならない。」 と記されている。 責 任の明確化, 収益性の確保, 国等の関与を最低限にすること等を条件としながら,
「民間事業者の有する技術及び経営資源, その創意工夫が十分に発揮され, 低廉か つ良好なサービスが国民に対して提供されること」 が期待されている。
PFIは, 規制緩和によって民間事業者の資金, 経営能力及び技術能力を取り込ん で, その創意工夫から, これまで国や地方公共団体で出来なかったような社会資本 の整備を目論んでおり, 低廉かつ良好なサービスを国民に提供するための手段であ る。
3. 「民間の資金, 経営能力及び技術能力」 への補足
そもそもイギリスでは, 社会資本に資金供給する民間事業者には事業リスクがと もなっているが, 民間事業者の経営能力及び技術能力によってリスクを克服できた
場合には, 高いリターンが得られるように制度設計がなされている。
民間事業者が, 自ら資金調達をして社会資本整備をすれば, 民間事業者は事業が うまくいくかどうかの事業リスクを抱え込むことになる。 つまり, 事業が失敗した ら, 民間事業者の負担になるので, 自らの責任で事業を成功させようとするだろう。
この事業を成功させようという民間事業者のインセンティブが, これまでの社会資 本整備とPFIの大きな違いであり, 民間事業者は自分の持っている能力を注ぎ込ん で, 事業を成功させようとするだろう。 PFIでは, 民間事業者の資金が事業リスク にさらされることで, 民間事業者の経営能力及び技術能力が引き出される仕組みに なっているのである。
さらに条件整備として, 民間事業者の能力を最大限に引き出すために, 競争的な 環境において入札が行われることと, 実際に計画通りに行わせるために, 民間事業 者が社会資本として適正な水準で公共サービスの提供を行っているかどうかのモニ タリングが必要である。
Ⅱ. PFI の現状
わが国のPFIへの取り組み状況を, 内閣府のPFI推進委員会の資料からまとめて みた。 平成16年3月の状況を, 第9回総合部会 (平成16年6月1日) での配付資料
「PFIをめぐる諸状況及びPFI事業に関する統計データ1」 から, 平成17年6月
22日での状況は, PFI推進委員会のホームページの 「事業情報2」 を元に集計した。
平成16年の集計時点でのPFIの取り組みベースの実績 (基本方針策定以降に実施 方針が策定・公表されたPFI事業数) は138件であり, 国が32件で地方公共団体が1 06件であった。 平成17年6月22日時点では200件 (重複3件) で, 国 (特殊法人そ の他公共法人を含む) が54件, 地方公共団体が149件である。 平成16年3月から1 年3ケ月の間に, ほぼ5割り増しの200件に達し, ここにきてPFIの浸透が進んで いるようである。
地域的には東京に33件が集中しており, PFIの実績のない県が9県あり, PFIが 都市型の社会資本整備手法として定着しつつある感がある。
事業目的別の分類 (図1と表1) では, 「教育と文化」 の分野が件数的にも多く, 伸び率も高いのが目立ち, この分野に該当するのは, 小中学校・高校・大学・給食 センター・図書館などの文化施設である。 次いで多い 「健康と環境」 は, 病院・廃 棄物処理施設・余熱利用施設・水道・斎場などである。
事業形態からの分類 (図2と表2) では, 主にBTO 方式3 (Build-Transfer- Operate) , BOT 方 式4 (Build-Operate-Transfer) , BOO 方 式5 (Build-Own- Operate) , RO 方 式6 (Rehabilitate-Operate) , RTO 方 式7 (Rehabilitate-Trans- fer-Operate), 複合型方式8の6つの形態がある。 一般的なPFI本来の考え方からす れば, 民間事業者の資金を用いているBOT方式やBOO方式はPFI期間の所有権 が民間事業者にあるので望ましく, BTO方式は国や地方公共団体が所有しており, 民間事業者のインセンティブが落ちてしまうので望ましくない。 また, 平成16年も 平成17年もBTOが6割前後で圧倒的に多く共通しているが, 平成17年には複合型 が多くなり, 改修を意味するR (Rehabilitate) を含む形態が増えている。
事業目的別の分類では, 「教育と文化」 と 「健康と環境」 が大きなウエイトを占 めているが, 「教育と文化」 では, 小中学校・高校にあたる17件すべてがBTOであ
表1 事業目的別の分類
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H16 H17 増加分 教育と文化 40 65 25 生活と福祉 11 12 1 健康と環境 24 36 12
産業 6 8 2
まちづくり 21 26 5
あんしん 3 7 4
庁舎と宿舎 17 23 6 その他 (複合) 16 23 7 合計 138 200 62 図1 事業目的別の分類
表2 事業形態別の分類
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H16 H17 増加分 BTO 81 126 45 BOT 38 41 3
BOO 8 9 1
RO 3 5 2
RTO 0 2 2
複合型 8 17 9
合計 138 200 62 図2 事業形態別の分類
り, 大学25件中15件がBTOであり, 総じて教育施設の建て替えはBTOが中心であ る。 一方, 「健康と環境」 では, BTOは36件中14件と多くない。 この違いは, 「教 育と文化」 にあたる単純な学校の建物の建て替えには, 民間事業者の創意工夫は必 要なく, 自治体が起債を行ったほうが安く建設できるからであるが, 「健康と環境」
にあたる病院やプラントは技術的な要因が高く, 資金調達コストが高くても, 民間 事業者の創意工夫を引き出すために, 民間資金を用いる傾向にある9。 この分析は 妥当であるが, 学校PFIにBTOが多い理由として, 学校施設 (学校部分) の管理 者が教育委員会であるほうが, 制度的には馴染みやすいというのもあるだろう。
Ⅲ. 徳島市立高校の改築計画
徳島県下で初のPFI事業と目されているのが, 徳島市立高校の改築計画である。
徳島市立高校の改築にPFIを導入するに至った経緯を, 徳島市議会の議事録等の資 料から整理した。 そして, PFIへの移行は早急であり, 本来のPFIの用件を満たさ ないまま, PFIありきの立て替え計画となっていたことが分かった。 そうした計画 の歪みは, 将来世代までの社会的必要性に欠けていたのではないだろうか。
1. 徳島市立高校の概要
徳島市立高校は, 昭和37年に徳島市内に4つめの普通科高校として設立され, 既 に40年が経過している。 その他の公立普通科高校は徳島県立であり, 徳島市立高校 は唯一の市立による普通科高校である。 設立当初に校舎2棟と小体育館が建設され, 昭和49年に一部7階建ての本館, 昭和55年に新体育館が建設されている。 平成16年 度の生徒数は, 各学年9クラス (各40人) の1080名で, うち各学年1クラスは 「理 数科」 と呼ばれる県内の優秀な生徒が集まる場所として有名である。
現在の徳島市立高校を取り巻く状況は, 徳島市内に公立普通科高校6校 (城東高 校, 城南高校, 城北高校, 城ノ内高校, 徳島北高校, 徳島市立高校)10と私立高校 3校 (香蘭高校, 徳島文理高校, 生光学園高校)11あり, 城東高校, 城ノ内高校, 徳島北高校は校舎を改築する必要はなく, 城南高校は17年度から新校舎の建設中で, 城北高校は市立高校と同様に校舎が老朽化しているが, 徳島県では城南高校の工事 終了後に改築を予定している。 一方, 徳島県下の高等学校の状況としては, 平成16 年の入試から総合選抜制が廃止になり, 高等学校間に競争が導入され, それぞれ独 自性を出そうとしており, 学校の改築にも積極的である。
2. 市立高校改築PFIに至る経緯
前小池徳島市長の3期目に政策的なPFIへの舵取りが行われ, 徳島市立高校の改 築工事をPFIによって行う方向性が示された。 現在の原市長も, 選挙公約で 「文化 芸術・音楽ホール」 をPFIによって実施すると述べており, 現首長はPFIに前向き であると考えられる。
徳島市議会の議事録から徳島市立高校改築PFIの経緯を探ると, 平成11年第5定 例会で岡南議員から, 同一質問の中で, 徳島市立高校のあり方の質問とPFIに関す る質問が行われている。 この頃は, 徳島市立高校の建て替え計画もなく, またPFI 法が成立した年でもあった。
徳島市立高校改築の基本構想が策定されたのが, 平成12年から平成14年の間であ り, 具体的にPFIとして出てくるのは, 平成15年第1回定例会の瀬戸総務部長の答 弁からである。 瀬戸総務部長によると, 徳島市立高校改築がPFI事業に選ばれた理 由を 「コミュニティーセンター, 音楽・芸術ホール, リサイクルプラザ, 市営住宅, 市立高校の五つの事業を選定いたしました。 ……中略……。 六つの視点から, PFI 導入の可能性を検討いたしました。」 と述べており, この答弁の内容から, PFIを行うために適当な事業を探していたところ, 消去法で市立高校が選ばれたと いう感がある。
また, 同定例会の桑原議員質問では, そうした徳島市立高校の改築の話が, 「教 育委員会からではなく市長部局から出てきた話であった」 とあり, 学校の改築計画 が教育委員会から出てくるはずなのに, 市長部局から改築計画が出てきていること が不自然であると指摘している。 このやりとりから, 全国の地方公共団体と同様に, 徳島市としても徳島市立高校の改築をPFIの実績作りに利用した節があり, PFIに 対する批判をかわすためにも, 教育関連なら反対はされないだろうという見込みが あったのであろう。 また徳島市の状況として, 徳島市民病院の改築時期に重なった ために財政的に窮屈になり, 病院を優先した結果として徳島市立高校がPFI事業へ と変更になったようである。
そして, 市立高校改築の基本構想が出来上がった平成14年度には, そのままPFI の導入可能性調査が日本経済研究所によって行われている12。 だが基本構想を策 定する段階では, PFI方式による事業実施は念頭になく, 従来通りの公共事業とし て市立高校の改築が行われる見通しであった。 その後, PFI事業として計画を立て 直していないので, 今回の案件では民間事業者の創意工夫を引き出す余地はなかっ
たのではないだろうか。
この導入可能性調査での市立高校の改修工事の概算は約70億円であるが, これを 従来通りの公共事業で行うのか, それともPFIを用いて行うのかの選択において, PFIによって 「VFM (Value for Money)13が出る」 (安くつく) と判断されている。
つまり学校の規模等は現状維持のままで, 校舎建て替えのコストについてのみ, 従 来方式で行うかPFI方式で行うかの検討を外部の機関に委託しただけであって, 高 校運営という視点から 「徳島市立高校」 の事業性を問うたのではなかった。
3. 市立高校改築にPFIを用いるメリット
市長部局からの提案によって, 徳島市初のPFI事業として計画されている市立高 校の改築計画であるが, PFIを用いた場合のメリットとしてコスト面の有利性が強 調されている。
議会議事録からの市立高校改築に関する見通しでは, 建設費が約60億円, 年間維 持管理費2100万円, 維持管理期間を15年とした場合に, 従来方式に比べてPFI方式 のほうが7億3000万円安くつく試算である。 また, 従来方式であれば建設時に一般 財源が9億円必要だが, PFIならば3000万円で済むというメリット (平成15年第5 定例会・柏木教育長答弁より) や, 財源に起債充当率95%の臨時高等学校整備債を 用いれば, その償還金の40%に交付税措置がある (平成14年第4定例会・後藤財政 部長答弁より) というメリットがある。
徳島市であげられているPFIを用いるメリットは, 財政難の折りに, 交付税措置 を受けて起債し, 準備積立金がなくても事業実施ができる点である。 そして, 民間 事業者にサービス料を支払うという形式をとりながら, 起債分以外の建設と維持管 理費を繰り延べ払いにできる点である。 すべては徳島市のPFIありきの財政問題と して検討されているのである。
一方, 議会の議事録からも, 市民に必要な市立高校の特性を活かして継続をする 方向の議論しか行われておらず, 少子化等の将来の事業性については触れられてい ない。 本来のPFIのメリットである事業性の検証は何処にもなされていない。
4. 徳島市立高校の事業性の検討
全国的な少子化の傾向にあるが, 徳島県でも急速な少子化が進んでいる。 高等学 校の必要性を計る上で, 徳島市立高校のある徳島県の第三学区の人口動態に着目し
てみた。
平成15年度までに出生した子供の数を計算すると, 平成31年までの生徒数のおお よその見込みが立つので, 各地方公共団体別の一学年の人口を中学生の生徒数とし て, 徳島市立高校のある第三学区の人口動態を平成16年と平成31年で比較すると表 3のような結果になる。
第3学区で生徒が多いのは徳島市で, 全体の約75%を占めている。 この徳島市だ けをみても696名もの生徒が減少するわけであるから, 一学年360名 (9クラス×40 名) の徳島市立高校を改築しても, 15年後には同規模の高校が2校不要になる計算 である。 こうした少子化問題という政策課題が明らかな中で, 生徒数を現状維持で 見込んで, 改築計画が進むことに疑問を持つのは当然の成り行きであろう。 さらに 徳島県では, 城南高校の改築に着工しており, その後に城北高校の改築も順次進め ていく計画であるので, わざわざ徳島市立高校を改築する必要性は薄らいでいる。
なおPFI契約が終了する平成33年度には, 表3に示した平成31年よりも生徒数は 少なく, (平成14年度の) 基本計画策定の頃からでは (平成31年度の) 生徒数は約3 5%減少しているので, 無理に改築しても市立高校に生徒がどの程度在籍している かは疑問である。 「徳島市立高校」 の事業性を考えるならば, まずは9クラスの計 画を縮小し, 徳島県の他校の動向と歩調を合わせつつ, できれば改築ではなく改修 に特化し, 少子化にあわせた規模縮小の計画を立てるべきであろう。
いうならば, 現在の改築計画にアカウンタビリティという合理性が備わっている かが問題である。 特に重要な少子化の影響が考慮されておらず, 現状維持でやっと 採算があうようなPFI計画では, 将来世代から見た場合に問題があるだろう。 PFI の場合は契約の長期化によって, 少なくとも債務負担行為の間は確実にアカウンタ ビリティという行政責任がついてまわるはずである。
せっかく建設した校舎に空き教室が出るようでは困るので, 財政難の公共事業と して優先順位をもっと下げてもいいのではないか。 さもなければ, 現在において
「現状の計画を合理的だ」 と考えても, 将来世代からみた場合に 「合理的でない」
と判断される可能性があり, 将来世代から少子化要因の検討を怠ったとして, 行政 の経営責任を問われたとしても致し方ないであろう。
5. 小 括
今回の市立高校の改築の基本構想は, そもそもは従来方式での実施をもくろんで 策定されたが, 途中からPFI方式に変更されている。 改築の基本構想が既に出来上 がっていた後では, 複合化等の民間事業者の経営能力及び技術能力を取り入れる余 地は残っておらず, ただ財政的な理由からPFIで事業を推進したのであった。
特に資金面では, 民間資金に頼るのではなく, 起債充当率95%の臨時高等学校整 備債 (償還金に40%の交付税措置) を用いることで, 有利な条件で資金調達を行う 予定であり, 地方公共団体自らが資金調達を行うならば, なぜPFIにしたのか疑問 が残る結果であった。
計画策定後に地方公共団体が起債によって建設するならば, 民間の資金や経営能 力や技術能力の導入といったPFIの目的が消えてしまっており, 徳島市議会での瀬 戸総務部長の答弁から察せられるように, PFIに取り組んだという実績だけが残る ように思える。
こうしたPFIありきの計画は, 徳島市立高校そのものの事業性を考慮していない。
徳島市立高校設立当初は, 徳島市内の普通科高校不足に対応しており, 理数科を設 けるなど独自性が発揮されていた。 その後, 徳島市内に県立の2つの普通科高校と 2つの私立高校が設立されたので, 少子化の時代背景からも市立高校に設立当初ほ どの社会的な意義があるかどうか疑わしい14。 PFIで行うならば, こうした市立高 校を取り巻く社会的背景も, 事業環境として考慮しておくべきである。
Ⅳ. 学校 PFI のあり方の検討
市立高校の事例のような問題点を克服するために, 学校等の社会資本整備におけ 表3 第三通学区域の中学3年の生徒数の推移
平成16年 平成31年 増減数 割合
徳島市 2963 2267 ▲696 23.50%
佐那河内村 27 17 ▲10 37%
神山町 65 24 ▲41 63%
松茂町 158 161 △3 1.90%
北島町 241 218 ▲23 9.50%
藍住町 409 376 ▲33 8.00%
合計 3863 3063 ▲800 20.70%
るPFIのあり方を検討する。 平成16年3月に文部科学省から出されている方向性を 踏まえて考察を進めたい。
その方向性とは, 学校の複合化であり, 様々な施設を学校を一体的に整備しよう というものである。 これまでの事例では, 保育やデイサービスへの余裕教室の有効 活用などによって, 学校複合化に取り組み成果をあげている。 同様に学校PFIでも 複合化の流れをくみ入れようとしており, 具体化している事例としては京都市の御 池中学校の建て替えがある。
1. 学校の複合化の方針
平成16年3月に文部科学省から発表された 「複合化公立学校施設PFI事業のため の手引書」15や, PFI推進委員会・第6総合部会 (平成16年3月29日) での配付資料
「公立学校施設整備PFI事業のための手引書」16から, 公立学校の改築事業にPFIが 積極的に推進されている。
複合化の手引書によると, 複合化は 「学校施設とは別に他の公共施設を一体的に 整備することを指すこととし, 学校施設を他の目的に使用する場合 (学校施設の地 域開放など) を含まないこととします」 と規定されており, 併設施設として社会教 育施設や社会福祉施設を念頭においている。
学校以外の機能を学校内に併設することで, 住民の利便性を高め, 学校施設の改 築を機会に公共事業としての価値を高めようとしている。 複合化のメリットとして は, 施設を一体的に管理できること, 設備の重複を省けること, 複合化の組み合わ せパターンによって従来と異なる施設ができるので民間事業者の創意工夫の余地が 大きいことなどがあげられる。 こうした複合化の流れは, 高度経済成長時代を支え た 「規模の経済」 の発想から, 低成長型社会における 「範囲の経済」 への転換とい えよう。
複合化以外にも少子化時代への対応として, 複数校を一校に統合して効率化をめ ざす学校統合型のPFI事業もある。
2. 複合化の先行事例
PFIによる公立学校施設の複合化に先だつ総合学習への流れの中で, 学校開放に よる地域の教育の中心として学校施設の活用が進められ, 公立学校では余裕教室を 利用した複合化の取り組みが行われている。 少子化によって発生した余裕教室の有
効活用を地域単位ですすめるために, デイサービスや保育などへ余裕教室を転用し ている。
筆者が2003年8月に 「保育政策と余裕教室の活用 地域経営の視点から 」17 と題してまとめた結果として, 学校施設の中に保育所といったこれまでにない施設 を持ち込むことで, 学校と保育所のあいだの相互作用から交流が生まれ, 新しい試 みが発生していることを紹介した。 こうした交流の発生を 「場」 と表現し, 「場」
づくりの一環として複合化を取り扱った。 実際に東京都世田谷区の中学校では, 家 庭科の実習のなかに保育実習が取り組まれるようになった。 その他にも, 学校と保 育所の交流活動が起こっている。
余裕教室での成功をもとに, PFIで新しい学校施設を建設する際に, 複合化への 道を選択肢として残しておくことは, 長期的な視点からは重要であろう。
3. 京都市御池中学校の事例から
京都市の御池中学校は, 平成15年4月に城巽中学校・柳池中学校・慈野中学校の 3校を統合して誕生した。 現在は元城巽中学校の校舎を利用しているが, 元柳池中 学校と東側の隣接地帯を含めた敷地に, 新しい校舎を建設することになった。
この中学校の建て替えに際して, 中学校の他にも, 乳児保育所, 老人デイサービ スセンター, 在宅支援介護センター, 将来教室に転用可能な京都市のオフィススペー ス, 拠点備蓄庫, 商業施設等が入る賑わい施設が, 一緒に入居できる建物を建設す ることになった。 こうした複合施設を建設するために, 民間の創意工夫を活かそう とPFIによる入札を行った。
BTO方式を用いた事業計画で, 総合評価一般競争入札方式によって落札業者を 決定した。 民間企業の提案した計画を価格だけではなく総合的に評価して入札を行 い, 実際に5グループが入札に参加し, ダイヤモンドリースグループが落札した。
学校債等は使わずに, ダイヤモンドリースが資金調達し, 建設期間込みで17年の契 約である。
御池中学校のPFI事例の特徴は, 中学校と保育所やデイサービス等を同じ建物に 入れるという先行事例の実績を踏まえている点と, 将来の人口動態の変化を考慮し て転用可能なオフィススペースを配置してある点, 防災拠点としての学校の機能も 考慮に入れている点, また民間の商業施設を取り組むという新しい試みも行われて いる点である。 資料では表れないが, PFIの取り組み段階で, 落札業者が近隣の住
民との話し合いを重視して事業内容を決定している点も評価できよう。
建物自体は建設中であるが, 学校PFIのモデル事業として注目出来るのではない だろうか。
4. 小 括
PFI事業の対象として最も多かった公立学校施設の改築PFIであるが, 今後の方 向性として施設の複合化が重要であるとされている。 特に複合化した場合には, い わゆる 「範囲の経済」 による施設間の相互作用が発生しやすく, そうしたほうが民 間事業者の経営能力や技術能力も引き出しやすい。
複合化の効果に関しては余裕教室の有効活用事例からも実証されており, 文部科 学省も公立学校の改築に際して, 民間事業者の経営能力の導入による社会的価値の ある社会資本の整備を推進しており, 御池中学校の事例は今後の参考になるであろ う。
お わ り に
徳島市立高校の事例からは, 事業計画の策定後にPFIに移行し, 資金調達も徳島 市が起債によって行う予定である。 この問題点は, 民間事業者には資金調達のリス クがないので, 事業リスクが低く, さらに民間の経営能力や技術能力を活かす素地 がない点であり, PFIが形骸化している点であった。
しかし, 京都市の御池中学校の事例では, 同じPFIでも学校施設の複合化に取り 組み, 民間事業者の資金と経営能力・技術能力を引き出せるようなPFI事業のあり 方を模索していた。 特に, 将来の不測の事態に対応できるように複合施設として建 設しておくことが重要であり, そのほうが長期的な視野から社会資本として, 長く 有効活用されるだろう。
そうした考察から今後の課題を4点あげておく。
第1の課題として, 資金調達を民間事業者の分担とし, 民間事業者に事業リスク を負わせることで, 経営能力や技術能力を引き出すようにすること。
第2の課題として, 導入可能性調査の段階で, PFIありきのコスト比較ではなく, 社会的な必要性も含めて考慮できるようにするべきである。
第3の課題として, 文部科学省が提案している複合化施設案によって, 事業性を 高めるよう複合化を検討すること。
第4の課題として, 当初の計画段階から, 住民へのアカウンタビリティを備える ために将来性の検討をしておく必要がある。
以上の4点の課題に配慮しながらPFIを進めることで, 本来のPFIで何をするの かという 「目的」 が明確にされるであろう。 そうすれば, 景気対策や財政措置から, 従来方式の公共事業を維持するための方便としてPFIが用いられることを避けられ るのではないか。
注
1 http://www8.cao.go.jp/PFI/shiryo_sb_9.htmlを参照せよ。
2 http://www8.cao.go.jp/PFI/iinkai6.htmlを参照せよ。
3 民間事業者が施設を建設し, 施設等完成直後に管理者等に所有権を移転し, 民間事業者が維持・管 理及び運営を行う。
4 民間事業者が施設等を建設し, 維持・管理及び運営し, 事業終了後に管理者等に施設所有権を移転 する事業方式。
5 民間事業者が施設等を建設し, 維持・管理及び運営し, 事業終了時点で民間事業者が施設を解体・
撤去する等の事業方式。
6 民間事業者が, 施設を改修した後, 維持管理・運営を事業終了時点までに行う方式。
7 民間事業者が, 施設を改修した後, 施設の所有権を公共に移転し, 維持管理・運営を事業終了時点 までに行う方式。
8 BTO方式やBOT方式やRO方式など, 複数のPFI形態を部分ごとに分けて契約した方式。
9 特集 全国市区調査 「足踏みするPFI」 日経グローカル, No. 6, 2004.6.21, p. 1819
10 それぞれの校舎の建設時期は, 城北高校が昭和45年, 城ノ内高校が昭和55年, 徳島北高校が平成9 年, 城東高校が平成16年, 城南高校は平成17年春からの改築着工である。
11 徳島市内の私立高校として, 香蘭 (普通, 150), 徳島文理 (普通, 300), 生光学園 (普通, 240) がある。 カッコ内は平成16年度生の学科名と定員である。
12 http://www.nira.go.jp/icj/tt-sric/dat/2002/259445-547.htmlを参照せよ。
13 VFMとは従来方式とPFI方式の割引現在価値における費用の差である。
14 市立高校の建て替えを少子化問題の視点で検討したものに, 筆者が作成した 「学校PFIと人口動態 徳島市立高校の改築計画を事例として 」 四国大学経営情報研究所年報 第10号 2004/12/25, p. 2533を参照せよ。
15 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/04041901.pdfを参照せよ。
16 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/03082701.pdfを参照せよ。
17 同志社大学人文科学研究所 社会科学 第71号2003/8を参照せよ。