た近時、刑法犯罪率は減少化傾向にあるにも拘 わらず、児童相談所における相談対応件数を見 る限り、データを採り始めた1990(平成2)
年1,101件であった相談対応件数は、2013(平 成25)年には73,765件(平成26年8月時点で の速報値)と、およそ四半世紀で約67倍と 1.緒言(課題の所在)
平成になり「子どもへの虐待」問題が深刻化 し、2000(平成12)年に「児童虐待防止法」
が本邦でも成立したが、これは1974(昭和49) 年にアメリカで「児童虐待防止対策法」が制定 されてから四半世紀も経ってのことである。ま
「乳幼児虐待死」予防のための社会システム構築について
〜事後対応から事前対応へ〜
岡宏
*,森川展男
**Some Suggestions to reconstruct social system to prevent child death caused by Child Maltreatment.
Hiroshi OKA, Nobuo MORIKAWA
In recent times, statistics show the consulting number increase about 67times at the consultation office for children from 1990 to 2013 in Japan. At that time, in Japan,
There was a remarkable increase in population, it resulted in the change of family form as is called today, Unclear Family.
As child abuse is a hard problem, or burden for both children and parents, including people who we consider to be the reserve of the abuse crime assailant in Japan, we must reconsider the social system to aim at the prevention of child abuse.
In this report, if we find a risk factor about an infant abuse death, we can do some suggestions with regard to the policy that local entity is able to take for the prevention of infant abuse death.
Key words: ①infant abuse death ②nuclear family ③prevention ④the social system to aim at the prevention of child abuse ⑤the nurse-family partnership program
受付:平成27年9月30日 受理:平成28年1月26日
*近畿大学総合社会学部・非常勤講師(平和学)
**近畿大学総合社会学部 社会マスメディア系専攻・元教授(犯罪社会学)
1) 拙論参照、「「児童虐待」を構成する要因としてのサイバー犯罪について」『近畿大学総合社会学部紀要』第 4巻第1号、2015/2014(平成26)年の速報値は88,931件(2015年10月発表)である。
2) 山本肇一(奈良県家庭教育係長)「子ども虐待の未然防止に向けた家庭教育の推進―家庭教育の視点から見 た虐待防止への取り組み―」『児童虐待第2論文資料』、www.nps.jp/nara-c/gakushi/kiyou/h20/data/A/
A-10-pdf(参照2015_9_30)
菅野恵「児童虐待と児童養護施設における家族再統合の諸問題」『帝京大学心理学紀要』No.13、2009 千葉喜久也「児童虐待への対応と子育て支援〜子ども虐待は子育て支援のSOS〜」『市町村アカデミー講 座』Vol. 110平成26年夏号、7月1日
谷村雅子「わが国の児童虐待の実態と関係機関の取り組みの工夫」『子どもの虐待とネグレクト』6、2004
なった1)。さらに、この間、幼児・児童への虐 待は、増加の一途というマスコミなどによる報 道、および研究者による報告も後を絶たない。
またそれらの中には、戦後の高度経済成長に 伴って拡がった日本における人口の都市部への 集中によってもたらされた家族形態の変化によ る「核家族化」が、子どもへの虐待件数増加を 招いたとする言説まで聞かれるようになった2)。 近年、一部の小児科医や医療現場において、子 どもへの身体的虐待を早期発見する重要性が指 摘されるようになるとともに、その為の診断 データの蓄積や研修会、さらに、児相との連携 を模索する動きも現れている3)。われわれも子 どもへの虐待について先駆的研究と臨床的対応 を行ってきたアメリカからCarol Jenny教授・
小児科医(MD, MBA, FAAP, Professor of Pediatrics, Warren Alpert Medical School of Brown University, Professor of Pediatrics Seattle Childrenʼs Hospital,(at present))を 招聘し、2会計年度にわたり講演会および研修 会を行ってきた4)。
現在の状況では、確かに早期発見は虐待対策 への重要な道筋であるということができる。た だ、今日の子どもへの虐待防止対策に向けた多 くの取り組みに共通する事柄として、「相談後 対応型」あるいは「虐待確認後連携型」などの
「事後対応型5)」であるということができ、本 邦では特に顕著6)である。子どもへの虐待を判 別することは極めて難しい課題である。それ は、どのような状態を指して子どもへの虐待と 定義するかということとも関連するからであ る。しかし、定義や生活様式、さらには文化の
違いという視点に留まらない難しさがある。特 に一般の人々が、子どもへの虐待を見極めるに は、高度な専門性に加えて、それ以上に勇気
(通報に関する勇気も含む)が必要になってく ると思われるからである。それは、他の家族の 内的状況に憶測を持ち込みかねないからであ る。その意味では、不幸にして初めて虐待とい う被害を受けてからでも、その繰り返し、およ び長期化を阻止するためにも「事後対応型」の 充実は喫緊の課題であろう。そして、これに加 えてより重要な視点は、「子どもへの虐待を起 こさない」つまり、発生を未然に防ぐという視 点である。ただ、この重要にして必要な対応 が、残念ながら十分に進んでいないことも事実 である。どのようにすれば1人の子どもが虐待 という事態に遭遇することを未然に防ぐことが 出来るかを検討することが本研究の動機であ る。
現在の相談・対応後の連携ではデータが示す ように相談対応件数のみ増加し、具体的介入が 追い付かず一向に改善の兆しが見られない。そ こで仮に乳幼児の、しかも死亡事例に限定し、
「乳幼児虐待死」に関連する危険な状況を事前 に把握することが可能になれば、乳幼児が虐待 によって死亡するという最悪の事態を回避す る、あるいはその状態を改善するための対策を 提案することが可能になるのではないと考え た。そのため本報告は、「乳幼児虐待死」につ ながる危険な状況の把握を目指しつつ、研究の 最終的目標は、その改善に向けた具体的対策を 検討し、提案してゆくことにある。
3) 山中龍宏;(独立行政法人)産業技術総合研究所、デジタルヒューマン工学研究センター、傷害予防工学研 究チーム長、緑園こどもクリニック院長、虐待など意図的傷害予防のための情報収集技術及び活用技術の 研究、『子どもの誤飲・事故を防ぐ本』(三省堂)、『赤ちゃんの病気&ケア』(日本放送協会)http://
anzen-kodomo.jp/pj̲yamanaka/index.html
4) 第1回「 講演会」虐待からこどもを守るプロジェクト〜虐待の発見・通報・保護 〜 MDTの構築に向けて
〜2013年3月2日(土)、近畿大学総合社会学部G館402教室、第3回「虐待からこどもを守る会プロジェ クト」講演会「虐待か事故かを見分ける・虐待予防に向けて〜ノースキャロライナの取り組み〜Nurse- Family Partnership Initiative in NC〜」日時;2014年12月13日(土)会場;近畿大学総合社会学部G 館401教室、平成24年度文部科学省科学研究費助成事業(課題番号24651181、研究代表者;森川展男)
5)拙論における独自の定義である。
6) 厚生労働省「児童虐待の現状とこれに対する取組」http://www.mhlw.go.jp/seisaku/20.html(参照2015−
9−29)2
2−(1) 先行研究と視点(「子ども虐待」と
「核家族」との相関関係)
子どもへの虐待と「核家族化」との相関関係 を論じる研究7)が存在する一方で、実践女子大 学の広井多鶴子は、「今日の家族、とりわけ
「核家族」や「核家族化」はとても評判が悪い。
国立教育政策研究所の親を対象とした調査で は、「最近の家庭の教育力」が低下したと捉え る人は、45歳から54歳の世代では72%、25 歳から34歳の若い世代でも55%に上る(「家 庭の教育力再生に関する調査研究」調査2001 年)。意識調査だけではない。審議会の答申や 各省庁の出す白書を見ても、家族や教育や福祉 関係の研究書を見ても、核家族化による家庭の 教育機能の低下や親子のコミュニケーションの 希薄化などが、いたるところで指摘されてい る。」、「青少年非行・犯罪、不登校、児童虐待 など、今日の教育問題の要因として核家族化が 挙げられることも多い。」と述べ、「あらゆるこ
とがほとんど根拠も示されないまま核家族
(化)のせいにされることが、どうしても分か らない。」といい、さらには、「まるで近年、一 貫して核家族化が進んでおり、それがあらゆる 教育問題・青少年問題の原因であるかのようで ある。」と問題を提起し、分析資料として厚生 白書、犯罪白書、警察白書を取り上げて論考を 進めて、「悪いイメージが、十分な検証もなさ れないまま、まん延している。」と述べるに 至っている。つまり、現代の日本において「核 家族化」が問題の根源ではないという趣旨の極 めて興味深い報告を為しているのである8)。換 言すれば、子どもへの虐待と「核家族化」との 相関関係は、広く論じられているほどの事実で はないという指摘である。さらに、速水 洋を 引用し白書の罪深さを指摘している9)。この広 井の「核家族あるいは核家族化が問題ではな い」という言説は、本論を進める過程において 確認する意味が充分にある。それは、広井自身
7)先掲註2
8) 広井多鶴子「核家族は 家庭の教育機能 を低下させたか」、『クォータリー生活福祉研究』通巻57号 Vol.15No.1、2006
広井多鶴子「「問題」としての核家族―白書にみる少年非行の原因論―、『実践女子大学人間社会学部紀要』
第三集、2007
9)先掲註8
10) 先掲註2
11) ①RICHARD FRY AND JEFFREY S. PASSEL、The Growth in Multi-generational Family Households、
http://www.pewsocialtrends.org/2014/07/17/the-growth-in-multi-generational-family-households/、(参照 2015−9−29)
②Vincent Iannelli, M.D. Child Abuse Statistics、http://pediatrics.about.com/od/childabuse/a/05̲abuse̲
stats.htm、(参照2015−9−29)
も指摘するように、本邦では、子どもへの虐待 と「核家族化」に関する言説を無批判的に受容 してきた感があるからである。繰り返しになる が、子どもへの虐待増加は、家族形態の変化、
すなわち「核家族化」に原因の一端があるとす る研究は今日でも存在する10)。そして、アメリ カにおける一部の研究者の間では、 3世代同 居 あるいは 多世代同居 が、子どもへの虐 待を抑制する効果をあらわしてきているとする 研究報告も存在するのである11)。同様の提言 は、本邦においても民間の団体によって為され ている12)。ただ広井は「同居こそ子どもにとっ て良いことだといった見方は、一面的で単純に すぎることが分かる。」とも述べている。つま り「核家族化」は問題の根源か、あるいは広井 が指摘するように「核家族化」の進行は急激で はなく、問題の根源に「核家族化」はないの か。この点を確認したうえで本題に入らなけれ ば、問題の性質上、本質を理解することは難し く、テーマがセンシティブなだけに、確かに偏 見を助長しかねないと考えたからである。
そこで、本研究の出発点として、まず「子ど も虐待」と「核家族化」との間に相関関係が存 在するのか否かを明らかにすることから出発す ることにした。それは、広井との関係性という よりも、本課題をより的確に見極める必要性か らである。
2−(2)目的
先述したように 子ども虐待の増加は核家族 化の増加が原因 という命題の真偽を考えるた めに、第一段階として統計資料を拠りどころ に、その実態把握に努める。
具体的には、先ず以下の①および②の把握に 努める。次に、③を検討する契機を見つけるこ とである。
①、被虐待児童の実態を統計資料から抽出す
ること。
②、被虐待児童のおかれた家庭環境の実態を 統計資料から抽出すること。
③、上記①②の統計資料から被虐待児童家庭 救済のための方策を検討すること。
3.対象と方法
子どもへの虐待を如何に定義するかは極めて 難しい課題であることは、前節でも触れた。そ こで本報告では、本邦の「児童虐待防止法」に おける児童虐待の定義に従い、検討をすすめ る。ただ、この定義に則れば、児童虐待は家庭 という極めて密室的空間で発生することが多 く、そのため発見や・気づき難さの面で、広く 知られることがより難しくなる。つまり、難し さにおいての二面性を伴っている。そこで、被 虐待児童の死亡事件を検討対象に求め、その統 計資料を分析することで実態把握に近接するこ とを目指した。それは、死亡事件は犯罪におけ る「暗数」の可能性が限りなく低いことを考慮 したからである13)。また、対象児童年齢も乳幼 児期の子ども(主に3歳まで)に限定すること で、課題の明確化を図ることにした。これは、
子育てにおいても年齢別に問題点が異なること や、年齢が上がることで、さらに複合的要因の 範囲を拡げることにつながり、実態の把握をよ り困難にすると考えたからである。よって以上 のことを思えば、18歳未満全体を一様に検討 するよりは、課題の明確化という視点におい て、理解しやすいといえる。
さらに、仮に虐待につながる社会的条件など を把握することが可能になった場合、複合的要 因の範囲を拡大しない低年齢期ほど、親子双方 への、その後のケアの具体策を策定する可能性 を拡げることが出来ると考えるからである14)。 つまり、低年齢期および周産期のうちから虐待 につながる要因を凍結することが可能になれ 12) 健全な男女共同参画社会をめざす会、「家族形態として 3世代同居 の可能性を探る」、『なでしこ通信第
38号』、2011(平成23)年2月1日
13) 浜井浩一編『犯罪統計入門―犯罪を科学する方法』、日本評論社、2006
14) 本報告の斬新性は、子どものみを被害者とし、親を加害者と定式化するのではなく、一般的に加害者であ る親も、救済の対象者としてケアの提供を施すことを目標にしている点にある。ただ、残念ながら本論で は紙面都合上論じる枚数がないため、詳細な報告は別の機会にしたい。
ば、子どもが成長するにしたがっても、その予 防を検討することに資すると考えるからであ る。
そこで主に以下の統計資料の検討を通して、
実態の把握に向かう。
(1)国民生活基礎調査/厚生労働省15)
(2)平成24年 国民生活基礎調査の概況/
厚生労働省16)
(3)児童虐待及び福祉犯の検挙状況等/警 察庁17)
(4)子ども虐待による死亡事例等の検証結 果等について(第9次報告)/厚生労働 省18)
より具体的には、「核家族」と「子ども虐待 死」の相関関係については、(1)および(2)
の平成24年度の厚労省・国民生活基礎調査、
国民生活基礎調査の概要を分析する。また、
「子どもへの虐待」については、(3)平成16 年度以降の警察庁・児童虐待及び福祉犯の検挙 状況、(4)平成15年度以降の厚労省「子ども 虐待による死亡事例等の検証結果について(第 1〜9次報告)」などを分析し、子ども虐待死 事件例の検証を行った。
4.結果(1)児童のいる核家族の割合 厚生労働省が、本邦の世帯及び世帯員の状況 をもとにグラフ化してまとめたものとしての
「国民生活基礎調査」、および「平成24年国民 生活基礎調査の概況」(厚生労働省)をもとに 本邦における「児童のいる核家族の割合」が、
この四半世紀に亘りどのように推移してきてい るかを整理してみたい。但し、この統計資料に は1976(昭和50)、1986(昭和61)年のデー タが記載されているが、児童相談所の児童虐待 相談対応件数データの初出が1990(平成2)
年からであるため、この年に近接する1989(平 成元)年のデータを基点としてその後、四半世 紀間の推移を観察するものである。
まず「(Ⅰ)世帯数と世帯人員数の状況、1 世帯構造及び世帯類型の状況、④児童のいる世 帯の状況」に記載されている(表2)の「世帯 構成別にみた児童のいる世帯数、構成割合及び 平均児童数の年次推移」を観察する。はじめに 注意しておきたい点は、「核家族世帯」の定義 である。同省の統計資料には「主な用語の説 明」が記載されており、いま参考のためにこれ を一瞥すると、「核家族世帯」の用語説明とし て以下の3点を挙げている。すなわち、①「夫 婦のみの世帯」、②「夫婦と未婚の子のみの世 帯」、③「ひとり親と未婚の子のみの世帯」で ある19)。ここで観察する必要があるのは、所謂
「児童のいる核家族」の推移である。つまり、
先の②および③ということである。次に注意し たいことは、実世帯数に注目するのではなく、
世帯全体に占める「児童のいる世帯」の割合を 基準にするという点である。同省の資料でも、
2013(平成25)年資料では、実数は掲載され ておらず、構成割合で処理されている。加え て、総務省の統計資料(図1)によれば、15歳 未満の年少人口は1981(昭和56)年から34年 連続で減少し続けており、児童のいる核家族の 実世帯もこれに合わせて減少の一途である20)。
15) 厚生労働省「(平成24年)国民生活基礎調査」、www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html、(参照2015−9−
16) 29)厚生労働省「平成24年国民生活基礎調査の概況」、http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/
k-tyosa12/、(参照2015−9−29)
17) 警察庁「児童虐待及び福祉犯の検挙状況等」(平成16年から25年までの推移)、www.npa.go.jp/safetylife/
syonen/jidougyakutai̲fukushihan̲ken、(参照2015−9−29)
18) 厚生労働省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第9次報告)」、http://www.mhlw.
go.jp/bunya/kodomo/dv37/index̲9.html、(参照2015−9−29)
19) 厚生労働省大臣官房統計情報部「平成26年 国民生活基礎調査(平成25年)の結果から」、http://www.
mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdf、(参照2015−9−29)
20) 総務省統計局「我が国のこどもの数―「こどもの日」にちなんで― (「人口推計」から)、統計トピックス No. 89、http://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi890.htm、(参照2015−9−29)
婚の子が同居している場合が含まれている。同 様のことは、「三世代世帯」にも言える。よっ て、世帯総数は(表1)を基準にし、「児童の いる核家族」については(表2)を基準に観察 しなければならない。
まず、(表2)における1989(平成元)年の 世帯総数に対する「夫婦と未婚の子のみの世 帯」の構成割合は65.4%、同じく「ひとり親と したがって、本報告においても構成割合を基準
に、その推移を考察する。最後に(表1)に記 載されている「夫婦と未婚の子のみの世帯」お よび「ひとり親と未婚の子のみの世帯」と、
(表2)に記載されている、それとの推計数の 違いについて一言する。(表1)において表現 されている「子」は、必ずしも「児童」という 訳ではない。ここには18歳以上であって、未
表1 世帯構成別、世帯類型別にみた世帯数、構成割合及び平均世帯人員の年次推移
図1 子どもの数及び総人口に占める割合の推移
た78.6%が、世帯総数に対する「核家族」の構 成割合である。(但し、東京電力・福島第1原 子力発電所の放射能漏れ事故の影響を受けてい る福島県がデータから除かれている。)
次に、2013(平成25)年のデータについては、
(図2)(「平成26年、国民生活基礎調査(平成 25年)の結果から」)を参照していただきた 未婚の子のみの世帯」の構成割合は4.1%であ
り、これを合計した69.5%が、世帯総数に対す る「核家族」の構成割合である。参考までに、
2012(平成24)年では、世帯総数に対する「夫 婦 と 未 婚 の 子 の み の 世 帯 」 の 構 成 割 合 は 71.9%、同じく「ひとり親と未婚の子のみの世 帯」の構成割合は6.6%であり、これを合計し
表2 世帯構成別にみた児童のいる世帯数、構成割合及び平均児童数の年次推移
図2 児童の有無別にみた世帯構造別世帯数の構成割合の年次比較(昭和61年、平成25
年)21)
21) 厚生労働省大臣官房統計情報部「平成26年 国民生活基礎調査(平成25年)の結果から」、pp6、http://
www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdf、(参照2015−9−29)
い。この年のデータでは「児童のいる核家族」
を、「夫婦のみ」と「ひとり親」に分けず、ひ とくくりに19.2%と示している。そして、世帯 総数に対する「児童のいる世帯」の構成割合を 24.1%と示している。この数を基に、この年の
「児童のいる世帯」に対する「児童のいる核家 族の世帯」の割合を計算すると、79.66%(概 数で79.7%)である。この結果、1989(平成元)
年から2013(平成25)年までの25年間に「児 童のいる核家族の世帯」は、10.2%増加したこ とが判る。因みに、この間の最低値は1992(平 成4)年の69.1%であり、最高値は2013(平 成23)年の79.7%であり、その差は、10.6%で ある。先掲の広井は、より詳細な統計資料の分 析を試みているが、何れにしても、ここに挙げ た数値は、広井の指摘の正しさを実証している ということが出来る。つまり、この四半世紀の 間に「児童のいる核家族の世帯」は10.6%の増 加割合であるのに対して、児童相談所の児童虐 待相談対応件数は凡そ67倍である。このよう に観てくると、この両者に相関関係を見出すこ
とには疑問がある。つまり、広井が、その分析 結果から指摘したように「核家族、あるいは核 家族化」をして虐待の原因と結びつけることに は問題があるという見解に、我々も結果的に同 調する数値が見えてきたということである。
4.結果(2)− ①子ども虐待死亡事例(警察 庁、検挙事件に係る被害児童数 の推移)
次に、子ども虐待(被害児童数)について、
警察庁発表の「児童虐待及び福祉犯の検挙状況 等」により死亡事件の検挙状況、検挙事件に係 る被害児童数(平成16年から25年までの推 移)を基に検討する。但し、特に「殺人」すな わち、子どもの死亡に至った事案に限定して検 討する。その理由は、先にも論じたが、殺人事 件に関しては「暗数」が低いと考えられるから である。この被害児童数は、子どもの死亡総人 数をあらわし、その死亡罪名には「殺人、傷害 致死、逮捕監禁致死、保護責任者遺棄致死、重 過失致死」を含む総数で表したものが(表3)
図3 児童の有無及び児童数別にみた世帯数の構成割合・平均児童数の年次推移22)
22) 厚生労働省大臣官房統計情報部「平成26年 国民生活基礎調査(平成25年)の結果から」、pp14、
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdf、(参照2015−9−29)
した虐待による子どもの死亡事例等を、厚生労 働省が新聞報道等から抽出し、地方公共団体が 把握した死亡事例と合わせて地方公共団体に詳 細を調査した。第9次報告「本編」より抜粋
(厚生労働省)における死亡人数の推移は、(表 4)に示す通り、第2次報告(平成16年中)
では、48件、被害児童数(以下、同様)50人 から、第9次報告(平成24年中)の56件、58 人である。第5次報告に73件、78人という ピークを見るが、これについては報告期間が平 成19年1月1日から平成20年3月31日の15 ケ月と、他の報告と比べて期間が3ケ月長いこ とが挙げられる。
なお、警察庁(検挙事件に係る被害児童数)
と厚生労働省(調査人数)との間には、調査期 間、数値などに若干の差異を認めることが出来 るが、児童相談所の児童虐待相談対応件数の倍 増、核家族の10%程度の増加との間に明確な 相関関係を見出し難い。
さらに、参考として大阪府における「虐待に である。
ところで、警察庁の統計資料に対応する平成 16年から平成24年までの間に全国の児童相談 所に寄せられた児童虐待相談対応件数は、平成 16年の33,408件から平成24年の66,701件ま で約2倍、およそ3万件増加している。これに 対応する年次の死亡に至った子どもの人数を警 察庁の統計資料から読み取ると平成16年の51 人から平成24年の32人である。その間、平成 18年には59人、20年には45人、平成23年に は39人と複数回のピークがある。但し、この 期間の推移を見る限り著しい増加や急激な増加 というよりは、むしろ全体的には減少傾向にあ る。これは、森川が指摘23)するように、近年の 犯罪件数減少ということとも一致する。
(2)− ②虐待による子どもの死亡事例件数の推 移(厚労省資料)
さらに、平成23年4月1日から平成24年3 月31日までの12か月間に発生し、又は表面化
表3 検挙事件に係る被害児童数
(警察庁生活安全局少年課、2014(平成26)年3月より抜粋)
( )内は、保護者が、児童と共に死ぬことを企図し、児童を殺害(未遂を含む)して自殺(未遂を含む)を 図った場合(いわゆる無理心中)を外数で計上。
[ ]内は、出産直後の殺人(未遂を含む)及び遺棄の場合を外数で計上。
表4 子ども虐待による死亡人数の年次推移(心中以外と心中とに区別した累計)
(「子ども虐待による死亡事例等の検証結果について」第1〜9次報告、厚生労働省より)
23) 森川展男「若年層の犯罪―家族は崩壊したか―」近畿大学「公開講座」,2007
待死と心中による虐待死を含む)についての集 計結果である。その内訳は、心中以外の虐待死 は56件58人死亡し、心中による虐待死(心中 未遂、つまり、親が死亡しなかった場合も含ん でいる)は29件41人である。所謂「子殺し」
が、心中のおよそ1.4倍である。(※今回、死 因や虐待の種別についての具体的検討は行わな い。それは、個々の事例について特殊な背景が 想定され、検討項目が多岐にわたることは、問 題の核心を見え難くすることが考えられるため である。)また留意点として、本資料にも掲載 されていることだが、表中の数字は、断りなき 場合、「有効割合」で示されている。これは、
当該数を総数から不明などを除いた数で除して 算出された数である。また「構成割合」は四捨 五入で表示しているため、合計が必ずしも 100%にはならない。さらに、この「構成割合」
がそれぞれ「累積構成割合」と合わない場合も ある。
では、具体的に第9次報告の【資料編】から 背景に関する図表を抄出、参照し、実際の状況 を確認してみたい。
(3)− ①子どもが死亡に至った家族の祖父母と の同居状況
前述の結果からも分かるように「核家族化」
の急激な進行に伴い、「虐待死」が急増したと いう相関関係は判別し難いが、実際の状況を把 よる子どもの死亡事例件数の推移」が(表5)
である。
大阪府下における、平成21年からの「子ど もの死亡数(「殺人」、「傷害致死」、「保護責任 者遺棄致死」)を合算した数」は、平成21年は 3件(4人)、平成22年は6件(8人)、平成 23年 は 4 件( 7 人 )、 平 成24年 は 4 件( 4 人)、平成25年は3件(3人)と推移してい る。このうち死亡人数を警察庁の統計資料を基 準にした場合の全国比は、平成21年(14%)、
平 成22年(24%)、 平 成23年(18%)、 平 成 24年(13%)、平成25年(12%)である。つ まり、平成22年に一時的なピークを見るが、
この期間の全体的傾向として減少傾向である。
上述のとおり「児童虐待死」という事件性と して見た統計上の数値では、「核家族化」の増 加という言説と「子どもの被害(死亡)件数」
との間に明確な相関関係を見ることはできな い。
(3)子ども虐待死亡事例の検討
ここからは厚生労働省の「子ども虐待による 死亡事例等の検証結果等について(第9次報 告)2013年7月25日【資料編】」をもとに資 料の検討を行う。これは平成23年4月1日か ら平成24年3月31日までの間に、子ども虐待 による死亡事例として厚生労働省が各都道府県 を通じて把握した85例、99人(心中以外の虐
表5 児童虐待事案の認知件数及び通告人員・検挙件数の推移
(「大阪府の福祉犯と児童虐待の概要」大阪府警察本部より)
握する目的で、はじめに「祖父母との同居状 況」について検討したい。
(表6)からも窺えるように子どもが死亡に 至った家族のうち「祖父母との同居なし」割合 は、第9次報告では67.9%である。参考のため に、第3次調査以降の「同居なし」割合を示す と、78.5%(3次)、76.8%(4次)、75.3%(5 次)、63.8%(6次)、86.3%(7次)、78.9%(8 次)という数値である。つまり、所謂「核家 族」といわれる「子どもと両親」、「子どもと1
人親」の家庭では、子どもの死亡割合は60〜 80%台ということが判る。参考として、虐待を 受けている児童の「祖父母との同居割合」を第 9次報告から見ると、心中以外の虐待死56例 中、18例であり、構成割合、有効割合ともに 32.1%であり、心中による虐待死(未遂含む)
29例を見ても、同居あり6例であり、構成割 合、有効割合ともに20.7%(心中の同居なし 23例、構成割合、有効割合79.3%と比較して
も11.4pointの隔たりがあることが判る)であ
表6 祖父母の同居状況
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
24) 平成7年国勢調査、親子の同居等に関する特別集計結果、結果の要約、3世代以上世帯(上位10県―下位 10県)
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/1995/22.htm、
(参照2015−12−9)
「児童虐待相談対応件数ランキング」
http://todo-ran.com/t/kijis/13775
(参照 2015−12−9)
る。
因みに、「祖父母との同居」である所謂「3 世代同居」の多い都道府県では、児童相談所に
おける虐待相談対応件数が相対して低いという データがある24)。さらに、この「3世代同居」
の多い都道府県では犯罪率も低いという結果が
表7 死亡した子どもの年齢(3歳未満のみ)
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
表8 死亡した0歳児の月齢
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
25)「都道府県の犯罪発生率ランキング」
http://area-info.jpn.org/CrimPerPop.html、(参照2015−12−9)
ある25)。ただ、先に広井多鶴子も指摘していた ように、これをして所謂「3世代同居」こそ が、解決に結びつくと結論づけるのは拙速であ ると言わざるをえないであろう。しかし、先の アメリカの事例報告からも窺えるように、何ら かの効果があるという意味では、今後も注意深 く観察・検討の必要性がある。
(3)− ②死亡した子どもの年齢、および加害者 の状況
次に、死亡した子どもの年齢についての関連 する表が前の2点(表7、8)である。
調査期間の心中以外の子ども虐待死56件58 人死亡のなかで、3歳未満の子どもの死亡者数 は42人、類型有効割合では72.4%であり、0
歳児未満に限れば25人、その内月例0か月の 新生児は11人、構成割合44%である。この数 値からもわかるように構成割合にして40%を 超える新生児および乳幼児が虐待という行為に より死亡している。参考までに、死因につな がった主な虐待の種別を(表9)で示しておく が、特に3歳未満の子どもについてみたものが 2つ目の(表10)である。42人の死亡者数の うち、24人の子どもが何らかの身体的虐待に より死亡していることがわかる。
次に、主たる加害者の状況(表11、12)で みると、調査期間中に心中以外の死亡事例で実 母による加害により死亡した子どもは33人で あり、そのうち3歳未満の乳幼児が死亡した ケースでは、23人の乳幼児が実母により死亡
※ 日本は「人間関係型社会」であり、個(人)を重視するアメリカ型とは相いれない文化的伝統を有してい る。しかし、そうした家意識を底流に有しながら、スタイル(型)としての西洋化(欧米化)、とりわけ近 年のアメリカ追随の影響からか、良き文化である「人間関係型」から離れつつあるようにも感じられる。反 面、アメリカでも多世代住居により虐待数が激変したかというと必ずしも断言が出来るわけではない現状が あり、アメリカ自身も暗中模索の観があるが、現時点では虐待件数が微減に転じていることも事実である。
ただ、多世代住居ゆえの課題も当然そこには考えなければならない。
※ Victor I. Vieth1、Unto the Third Generation : A Call to End Child Abuse in the United States within 120 Years、http://www.ndaa.org/pdf/unto̲third̲generation.pdf、(参照2015−12−9)
※ アメリカの虐待数、https://www.childhelp.org/child-abuse-statistics/、(参照2015−12−9)
※Cases per 1000 childrenも確に減少傾向を示している。
http://www.childtrends.org/?indicators=child-maltreatment、(参照2015−12−9)
しており、その構成割合は59%であることが わかる。因みに、心中により子どもが死亡した 場合は、実母が主たる加害者になっている場合 が、33人であり(不明が3人あるので)、構成 割合は80.5%という数値である。いずれの場合 も、実母が加害者になる割合が60〜80%に達 することが窺える。
(3)− ③子どもが死亡に至った家族の経済状況
(第9次報告)
ここでは、子どもが虐待死亡した家族の経済 状態に関連する5つの資料(表13、14、15、 16、17)を見ることにする。特に注目したのは、
住宅状況、就労状況、および所得に関連する状 態である。
まず、心中以外で子どもが死亡した家族にお
ける住宅状況(表13)では、毎月家賃の支払 いが必要になる賃貸住宅の割合をみると、一戸 建て3例、集合住宅23例、公営住宅4例、合 計30例、構成割合は53.6%。一方、心中の場 合では、集合住宅9例、公営住宅6例、合計 15例、その構成割合は51.7%。不明の6例お よび3例の、構成割合がともに10.7%と10.3% であることを勘案すれば、賃貸住宅入居者の割 合は、さらに高まることになる。
次に、自治体による生活保護および市町村民 税の優遇措置を受けている割合を(表14)で みると、心中以外の場合では、生活保護世帯が 10例、市町村民税非課税世帯8例、構成割合 は32.2%である。但し、不明24例(その構成 割合、42.9%)であることを考慮すれば、やは りこの数値は高いものである。(※心中につい
表9 死因となった主な虐待の種類(心中以外の虐待死)
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
表10 主な虐待の種類(3歳未満と3歳以上)(心中以外の虐待死)
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
ては、不明の構成割合が51.7%と高値であるの で、ここでは参考にしない。)
また、本児死亡時点での就労状況を(表15) で一瞥すれば、心中以外の場合で、無職の実母 割合は33例、構成割合58.9%、心中の場合で も14例、構成割合48.3%であり、無職である 割合が何れの場合でも高いことがわかる。
さらに、地域社会との接触の割合を(表16) でみると、心中以外では、「ほとんどない」場 合は19例、「乏しい」6例、両者を合算した構 成割合は44.6%である。こちらも不明が17例、
構成割合で30.4%であることを考えると、地域 社会との接触を持たない家族の割合が高いこと がわかる。
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
表11 主たる加害者
表12 主たる加害者(3歳未満と3歳以上)(心中以外の虐待死)
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
表13 住宅の状況
表14 家族の経済状況
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
表15 本児死亡時の実母・実父の就業状況
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
最後に、子どもと関連した地域社会との関わ りの一つとして、「乳幼児検診」という関わり がある。そこで、どのくらいの受診割合である かを参考までにみておきたい。(表17)では心 中以外の場合で、未受診の人数は「3〜4か月 児検診」9人、「1歳6か月児検診」8人、「3 歳児検診」6人であり、有効割合は、それぞれ 順に25.0%、33.3%、42.9%と次第に高くなっ ていることがわかる。つまり、地域社会との接 触、および検診の割合からわかることは、次第 に社会とのつながりが無く、孤立している様子 を見ることが出来る。
(3)− ④子どもが死亡に至った家族の経済状況
(第1〜8次報告より抽出)
最後に、参考のために第1〜8次までの報告 を概観しておきたい。
まず【①三歳児以下の死亡割合】では、1次 80%、2次77.6%、3次69.2%、4次73.8%、
6次74.7%、7次66%、8次84.3%、(このう ち0歳児未満の割合は、44%、41.4%、38.5%、
32.8%、58.2%、40.8%、45.1%)であった。
【②1人親割合】は、1次50%、2次34%、
3 次25%、 4 次27.6%、 6 次29.3%、 7 次 9.3%、8次30%。
表16 家庭の地域社会との接触
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
表17 乳幼児健康診査及び予防接種(複数回答)
(厚生労働省、平成25年7月25日【資料編】より抜粋)
【③経済不安割合(生活保護、住民税非課税 割 合 )】 は、 1 次33.3%、 2 次43.3%、 3 次 38.9%、4次57.9%、6次45%、7次56.5%、
8次62.5%。
【④地域からの孤立割合】は、1次54.2%、
2次67.7%、3次69.5%、4次53.1%、6次 66.6%、7次76%、8次62.5%。
【⑤育児不安割合】は、1次33.3%、2次 40%、3次38.8%、4次30.7%、6次31.3%、
7次25%、8次38.1%であった。(※第5次報 告は、調査機関が他の年次と異なり3か月長い ためこれを除いている。)
(4)「ひとり親」でない家庭での児童虐待 ここでは、厚生労働省の「ひとり親家庭等の 現状について26)」を参照しつつ、直近のデータ からオッズ比の産出を試みることで、統計デー タとしての正確性を考えてみたい。「ひとり親」
で虐待死あり38例、「三世代同居」で虐待死あ り(ひとり親でない世帯)18例、「児童のいる ひとり親世帯数」798,000、「児童のいる三世代 同居数(ひとり親でない世帯)」2,156,000、こ れによりオッズ比を算出すると、その値は5.7 である。
同様に「家族の経済状態」についても、「児 童のいるひとり親世帯母子家庭」821,000、「父 子家庭」91,000、合計912,000世帯、生活保護 受給率母子家庭14.4%、父子家庭8.0%、合計 22.4%(世帯数約204,228世帯)、生活保護で虐 待死18例、それ以外(全体56例−不明24例
−18例)14例で算出したところ、そのオッズ 比は、4.45である。
以上のことから、「母子家庭」、「父子家庭」
の所謂「ひとり親」家庭においては相対危険度 があることが判る。
(5)―結果のまとめ
確認のため、結果について簡潔にまとめる と、およそ以下のとおりである。
子どものいる「核家族」の増加については、
広井の指摘するとおり、その増減は概して緩や かであり、著しい増加と言えるようなものでは ないことが確認できた。また、虐待死亡件数に ついても児童相談所の相談対応件の増加に見ら れるような激増も、急増も確認することが出来 ない。しかし、子どもの虐待死亡件数の6割は 3世代同居ではない「ひとり親」を含む家庭で あり、その内4割が、3歳未満(殊に0歳児)
の乳幼児の死亡者数が多い事実が明らかになっ た。これはオッズ比の産出からも窺い知ること が出来る。これにより、所謂「ひとり親」の家 庭は、乳幼児を死亡に至らせる事件につながる 危険の可能性がある。但し、その要因は経済的 貧困、社会からの孤立など複合的である。特に 0歳児未満の子どものいる家庭で経済的不安を 抱え、地域から孤立した状況が多いことも明ら かになった。
5.考 察
以上、統計資料の分析結果から明らかなよう に、「核家族化」の進行は極めて緩やかであり、
広井も指摘するように「核家族化」をして、子 ども虐待の原因であると断定するには根拠に乏 しいと言わざるを得ない。しかし、所謂「ひと り親」家庭では、虐待を引き起こしかねない複 合的要因を複数内包しており、子どもへの虐待 に関して極めて相対危険度が高い可能性がある ことは統計資料から明らかになったとおりであ る。
冗長になるが、上記統計からも判るように子 どもへの虐待という事態の原因は複合的可能性 がある。例えば、乳幼児を抱えての就労問題か ら派生する低所得家庭に陥りやすいという経済 的貧困の問題や、あるいは シングルマザー という言葉に象徴されるように母親独りで出 産・育児を行うことへの社会の充分な理解が得 られていないことによる母親がひとりで抱え込 んでしまうという社会からの孤立などの様々な 複合的要因が考えられる。そのような複合的要 因が重なり合い、結果として子どもを死亡に至 26) 厚生労働省、「ひとり親家庭等の現状について」、平成27年4月20日、http://www.mhlw.go.jp/file/06-
Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000083324.pdf、(参照2015−9−29)
らせる虐待と呼ばれる行為へと結びついた可能 性が指摘できる。
以上のことから、0歳児未満の乳児を育てな がら、経済的不安要因を抱え、地域から孤立し た状態の「ひとり親家庭」を中心に支援が急が れる。これらの家庭は、生活保護あるいは市町 村民税の非課税措置あるいは半額免除などの優 遇措置を受けている割合が高く、自治体として も把握に努めようとすれば把握することが可能 な家庭であると考えられる。また、乳幼児健診 の未受診割合が次第に高くなる傾向があるな ど、支援対象にする家庭は絞り込みやすい状況 であるといえる。このように「乳幼児虐待死」
につながる危険因子を内包する家庭の把握が可 能になれば、当該家庭へ向けた具体的支援の方 途が開かれるようになると考える。つまり、
「相談対応後型」「虐待確認後連携型」などの事 後報告や相談後対応ではない、より早い時期か ら乳幼児を虐待死に至らせる可能性をより低く するための支援を行う家庭を絞り、より具体的 な働きかけを行うことが可能になる。そして、
そのことは極めて重要な支援体制であるという ことが出来る。
6.まとめにかえて
流通科学大学の加藤曜子は、「児童虐待予防 に向けた県と市町村の取り組み―ある自治体例 からの一考察―27)」と題した論文の冒頭で、先 進国および日本の現状を「児童虐待問題の取り 組みは先進国においては減少傾向にあり、地域 中心の虐待予防に舵が取られつつある。また虐 待対応では多職種多機関連携が強調され、それ ぞれの時点で協議する必要性が説かれている。
英 国 に お い て は1989年 以 降 のWorking Togetherの理念のもと、2003年には「どの子 も大切に」(Every Child Matters)が出版さ れ、児童保護から予防と地域における組織づく りが一段と強調されている。そのきっかけに なっているのは、虐待死亡事例検証報告書であ る。日本においては、児童虐待防止法が2000
年に成立し、その取り組みは10年を超えたと ころである。児童虐待件数が急増したため、
2004年に市町村の児童相談の強化が法制化さ れた。また有効だとして任意で立ちあがってい た市町村児童虐待防止ネットワークをモデルに 要保護児童対策地域協議会が法制化され、児童 相談所と市町村の連携体制の強化が図られた。
(中略)中心となる機関(調整機関)の進行の もとに支援ネットワークを組み、連携をしてい けば、それが発生予防や再発防止につながるだ ろうという先行事例から得られた提案である。
その背景には死亡事例検証結果からの学びがあ る。」と述べ「特定妊婦として妊娠期から支援 することや、リスクが高く虐待発生が危惧され る家庭も、要保護児童対策地域協議会事例の対 象となった。」と現状を分析的に論じているが、
「市町村として急速に対象が拡大し、協議会と して取り組むことが期待される」なかでの課題 を論じている。これは従来の内外の傾向を的確 にまとめている。そして「虐待の予防や支援の 資質向上には職員配置や人員、保健・医療領域 との連携の充実が必要である。」といい、課題 を抽出している点においては、優れてまとめら れた論考である。それを理解したうえで、喫緊 の課題は、予防に向けたプログラムを作成する ことが焦眉の急ということである。
本報告の目標は、現在の日本(「相談対応後 型」、「虐待確認後連携型」)スタイル(前出の 加藤のそれ)28)の充実ではなく、子どもへの虐 待を起こさない、つまり発生を未然に防ぐとい う視点を基軸として、特に、新生児および乳幼 児が虐待という事態に遭遇することを可能な限 り防ぐための検討にある。その為、仮に「乳幼 児虐待死」に関する危険因子を事前に把握する ことが可能であれば、乳幼児が虐待によって死 亡するという最悪の事態を回避する、あるいは その状態を改善するための対策を構築すること が可能になるという考えを論じてきた。これは 同時に、子どものみを被害者として、その親あ るいは親権者を加害者と定式化して課題を解決 27) 加藤曜子「児童虐待予防に向けた県と市町村の取り組み―ある自治体例からの一考察―」、『流通科学大学
論集―人間・社会・自然編―』第26巻第2号、2014
していくのではなく、一般的に加害者であると 見做される親あるいは親権者も、救済の対象者 としてケアの提供を目指すことを最終的には目 標に据えているものである。そこで必要になる ことは、多職種の専門職が、チームを形成して ケア、あるいはサポートに就くシステム29)の構 築である。多職種専門職によるチーム・ケアは、
既に「緩和ケア」の領域では、本邦においても 次第に一般化しつつある。そして欧米では、既 にチャプレンと呼ばれる宗教専門職がチームの 一員を形成している。児童虐待については、
キャロル・ジェニー教授(小児科医・ブラウン 大学医学部小児科教授、Carol Jenny, MD, MBA, FAAP, Professor of Pediatrics, Warren Alpert Medical School of Brown University、 Professor of Pediatrics Seattle Childrenʼs Hospital,(at present))が提唱する The Nurse- Family Partnership Initiative が、これに類 似するシステムを運用し始めているが、博士の システムではチャプレンを配置していない。こ の点、我々が提唱する日本版「ナース・ファミ リー・パートナーシップ・プログラム(仮称)」
では「Medical Social Worker(MSW)、保健 師、助産師、看護師、臨床宗教師30)(女性)」の
多職種による専門職が、教育、妊娠、出産、育 児にわたりサポートするステムの構築をすす め、運用することで、新生児および乳幼児期の 年齢層での虐待死の減少、ひいては予防を目指 すものである。その詳細については、別の機会 で具体的な報告を行いたい。その際、上に論じ た加藤曜子の分析との差異性についても、より 詳細に報告したい。ただ、多くの検討要素を残 しており、さらに積み残した課題もある。今 後、幾分でもその間隙を埋めたい。
※本研究は、平成24年度文部科学省科学研究 費助成事業(課題番号24651181、研究代表 者;森川展男による)を受けています。
28) 厚生労働省「児童虐待の現状とこれに対する取組」http://www.mhlw.go.jp/seisaku/20.html(参照2015−
9−29)
29) これは前出の多職種多機関連携とは内容を異にする。従来の「多職種多機関連携」は、後述のC・ジェ ニー博士のいうMDT(Multi-Disciplinary Team)を指す。これは本来の職場を持ちながら、児童虐待の 発生に対して、連携して対応するもので、同一の施設において対応に当たるというものではない。この点、
我々は医療における「チーム・ケア」の思想を取り入れた点が異なる。
30) 2011年の東日本大震災以降、東北大学「実践宗教学寄附講座」で「臨床宗教師」養成プログラムが開設さ
れた。国立大学での取り組みということもあり、多くの注目を集め意義深い取り組みである。既に、数十 名の「臨床宗教師」が認定され臨床で活動している。