博士(農学)安 起完 学位論文題名
森林資源造成政策の展開と
山林 計画・山林組合の役割に関する研究
学位論文内容の要旨
本 論 文 は 、6章 か ら な る 総 頁 数189ベ ー ジの 和 文 論文 で ある 。 図24、 表 49お よ び135の 引 用 ・ 参 考 文 献 を 含 み 、他 に 参 考論 文5編 が添 え ら れて い る。
本論 文は、地球規模の環境問題、森林の破壊や減少問題に直面している世界 的現 実に歯止めをかけるとともに、失われた森林の再生をめざす森林政策のあ り 方を 解 明 する た め に、1970年 代初 頭 以 降短 期 間に緑 の回復・ 森林緑化 に 成功 したとぃわれる韓国の姦林資源造成政策の展開を山林計画制度と山林組合 系統 組織との関連で明らかにすることを課題としている。同国で実行された森 林資 源造成政策からいくっかの教訓を導き出すことは、深刻な森林滅少・緑化 問題 に直面している多くの発展途上国に貴重な示唆を与えるものである。そし て現 在様々な問題に直面している韓国の森林政策の今後のあり方について、日 本の 森林資源政策、森林計画制度、森林組合の経験の分析から、提言すること を第2の課題としている。
第1章 では、論文 の問題意 識と研究 の目的を述べるとともに、これまで韓日 両国 で行われた森林資源造或政策、山林計画制度、山林組合に関する研究を整 理・総括している。
第2章 では、アジ ア太平洋 諸国の国 民総生産(GNP)と森林の現状について統 計分 析を行った。経済発展と森林面積の間には、人口増加→耕地面積の増加→
森林 面積の減少→GNPの増加という関連構造がある。特に人口一人当りGNPと森 林面 積の間には強い負の相関関係がみられ、アジア太平洋諸国の発展途上国の 大半 はこの間に 一人当り のGNPを伸ぱ しているものの、一人当りの森林面積を 急減 させているのである。そうした中にあって韓国は、経済発展を実現すると ともに、強カな森林維持・造成政策を実行して、森林減少を最小限に抑えると,
とも に、森林の緑化を積極的に行ってきた国なのである。同国の森林面積に占 め る 無 立 木 地 の 割 合 は1960年 時 点 で51% で あ っ た も の が 、1991年 に は2.6% ま で 滅 少 す る と と も に 、1985年 ま で に200万haに も お よ ぷ 人 工造林地が造成されている。
第3章 で は 、 国 有21% 、 公 有8% 、 私 有71% と いう 現 行 の林 野 所有 構 成 の形 成過程を4期 に区分し て、各時 期の特徴を明らかにした。そして韓国の森 林資 源造成政策は豊富な低賃金労働カの存在と山林庁の内務部への移管を背景 と し て1973年 か ら 本 格 的 に 実 施 さ れ た。 森 林造 成 の 目標 を 第1次・ 第2次 治山 緑化10年計画 として具 体化する とともに 、内務部 が保有す る強カな地方 行政 機能を活用して、全国民参加の上で事業が実施された。しかし事業を実際 に担ったのは山林組合系統組織であり、特に政府カ|半強制的に非山林所有看を 含め て組織した地元組織である山林契の果たした役割は極めて大きかった。な お1993年12月 に 林 業 協 同 組 合 法 が 制 定 さ れて 、 山 林契 を 組合 員 と する 山 林組 合が協同組合組織に改組されている。同法では林業協同組合の組合員は区
‑ 716―
域 内 に 所 在 す る 山 林 の 所 有 者 と 経営 者 な どか ら な ると 規 定し て い る。
第4章では、全羅南道長城郡を対象にして実施した聞き取り調査の結果を分 析している。山林基本計画は森林資源造成の目標を全国的に、かつ地域的に明 示するなど大きな役割を涜じているが、計画の事業量が山林庁から卜ップダウ ン方式で強制的におろされており、そのために計画量と実績の間に華離が生じ ていること、112所有者の自由な林業活動はほとんど行われていなぃなどの問 題が あ る 。l12の 山林契から なる長城 郡山林組 合は養苗 事業、造 林・保育 な どの資源 造成事業 、椎茸生 産などの 林産物生 産事業を行 っているが、1992 年の総事 業費の中 で資源造 成事業が68%を占め るなど、同 事業が山林組合事 業の中核に位置している。ここで注目すべきことは長城郡の毎年の造林゜保育 面積、林道新設量などが山林庁から具体的に指示されていることである。また 山林 契 の 個別 事 例に つ い てみ る と 、1962年 に設 立された 黙谷里山 林契は山 林所 有 者73人 、 非山林所有 者7人から なってい る。同契 は、これ まで燃料 林 4 9ha、 分収 造 林19 3haの 造林を実行 しており 、また定 期的に輪 番制で山 林 保護のための巡回活動を行っている。
第5章では 、日本に おける森 林資源造成政策の展開を森林計画制度と森林組 合との関 連におい て分析し ている。日本の森林計画制度は第2次世界大戦中及 び戦 後 の 森林 荒 廃を 復 旧 する と と もに 森 林資 源の充 実を図る ために、1951 年の改正森林法におぃて創設されたものである。森林計画では韓国の制度と同 様に、国が主導して民有林を中心とした森林の造成・整備に関する長期の目標 をた て て おり 、 同制 度 は 日本 の 森 林政 策 の根 幹に位 置する。 そして1964年 の林業基本法の制定にともなぃ、森林計画は森林資源に関する基本計画と重要 な林産物の需要及び供給に関する長期の見通しに即して立案されることとなっ た。近年、造林木の聞伐が政策課題となったこと、さらに森林計画が指定した 各種事業の計画量の実行を確実なものとするために、市町村を森林計画制度に 取り 込 む こと が 行わ れ て いる 。 他 方、 日 本の 森林組 合は1951年の 改正森林 法で森林所有者の協同組合として発足しているが、その事業展開は国が行う森 林資源造 成政策と 密接に結 びっいていることが指摘できる。1千万haにもおよ ぷ人工造林地の間伐・主伐が政策課題とされている今日、森林組合の事業の重 点は、造林・保育事業から林産・加工事業に移ってきている。具体的な森林組 合の事例として、北海道音更町森林組合を調査して、その事業内容と組合貝の 森林経営との関係について明らかにしている。
第6章では 、これま での分析 結果から、韓国で実行された森林資源造成政策 の特徴を3点にまと めて、論 文の結論 としてい る。それは 、第1に緑の回復・
森林の緑化が国民経済の発展と公共の福祉の向上にとって不可欠な政策課題で あるとぃう明確な意志のもとに、中央政府が山林計画制度を構築しっつ、強カ な森林資 源造成政 策を一貫 して押し進めてきたこと、第2に地域住民を森林造 成事業に動員するための組織として、山林所有者は勿論のこと、非山林所有者 をも組み込んだ山林契を組合員にするなど、山林組合系統組織の果たした役割 が極めて 大きかっ たこと、 第3に山林緑化計画に対する国民の理解と協力、そ して林業関係公務員の粘り強い努カの存在、を指摘しなけれぱならなぃ。この 3点は同時 に深刻な 森林滅少 ・緑化問題に直面している多くの発展途上国に対 する提言ともなっていることに注意すべきである。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 石井 寛 副査 教授 五十嵐恒夫 副 査 教 授 和 孝 雄
学 位 論 文 題 名
森林資源造成政策の展開と
山林計画・山林組合の役割に関する研究
本 論 文は 、6章 から ナょ る総 頁数189ベ ージ の和 文論 文で ある 。図24、表 49、 弓I用 ・ 参 考 文 献135を含 み 、 他 に 参 考 論 文5編 が 添え ら れ て い る 。 本論文は、地球規模の環境問題、森林の破壊や減少問題に直面している世界 的現実に歯止めをかけるとともに、失われた森林の再生をめざす森林政策のあ り 方 を 解明 するた めに 、1970年 代初 頭以 降短 期間 に緑 の回 復・ 森林 緑化に 成功したといわれる韓国の姦林資源遣成政策の展開を 山林計画制度と山林組合 系統組織との関連で明らかにすることを課題としている。
第1章では、論文の研究目的を述べるとともに、これまで韓日両国で行われ た森林資源造成政策、山林計画制度、山林組合に関する研究を整理している。
第2章では、アジア太平洋諸国の国民総生産(GNP)と森林の現状について統 計分析を行った。経済発展と森林面積の間には、人口増加う耕地面積の増加う 森林面積の減少→ GNPの増加という関連構造がある。特に人口一人当りGNPと森 林面積の間には強い負の相関関係がみられ、アジア太平洋諸国の発展途上国の 大半はこの間にー人当りのG¥Pを伸ぱしているものの、一人当りの森林面積を 急減させている。そうした中で韓国は経済発展を実現するとともに強力凝森林 維持・造成政策を実行して、森林の緑化を積極的に行ってきた国詮のである。
同 国 の 森 林 面 積 に 占 め る無 立 木 地 の 割 合 は1960年 時 点 で51% で あ ったも のが、1991年には2.6%となっている。
第3章 では 、現 行の林 野所有構成の形成過程を4期に区分して、各時期の特 徴を明らかにした。韓国の森林資源造成政策は豊富な低賃金労働カの存在と山 林 庁 の 内務 部への 移管 を背 景と して1973年か ら本 格的 に実 施さ れた 。森林 造 成 の 目標 を第1次・ 第2次 治山 緑化10年 計画 とし て具 体化 する とと もに、
内務部が保有する強カな地方行政機能を活用して、事業が実施された。しかし 事業を実際に担ったのは山林組合系統組織であり、政府が半強制的に非山林所 有者を含めて組繊した地元組織である山林契の果たした役割は極めて大きい。
第4章では、全羅南道長城郡を対象にして実施レた間き取り調査の結果を分 析している。山林基本計画は森林資源造成の目標を全国的に、かつ地域的に明 示するなど大きな役割を演じているが、計画の事業量が山林庁からトップダウ ン方式で強制的におろされており、そのために計画量と実績の間に華離が生じ
‑ 718 ‑
ていること、森林所有者の自由な林業活動はほとんど行われていないナょどの問 題 があ る 。 長城 郡 山 林組 合 では 、1992年 の総事業 費の中で資 源遣成事 業が 68% を 占 め て お り 、 同 事 業 が 山 林 組 合 事 業 の 中 核 に 位 置 し て い る 。 第5章では、日本にお!ナる森林資源造成政策の展開を分析している。日本の 森林 計画制度は 第2次世界 大戦中及び戦後の森林荒廃を復旧するとともに森林 資 源の 充 実 を図 る た めに 、1951年の 改正 森林法に おいて創設 されたも ので ある。韓国の制度と同様に、国が主導して民有林を中心に森林の造成・整備に 関する長期の目標をたてており、同制度は日本の森林政策の根幹に位置してい る。 そして1964年の 林業基本 法の制定 にともナ ょい、森林計画は森林資源に 関する基本計画と重要な林産物の需要及び供給に関する長期の見通しに即して 立 案さ れ ることに なった。 他方、日 本の森林 組合1ま1951年の 改正森林 法で 森林所有者の協同組合として発足しているが、その事業展開は国が行う森林資 源造成政策と密接に結ぴついている。
第6章 では、韓国 で実行さ れた森林 資源造成 政策の特徴を3点にまとめてい る。 第1に森林の 緑化が国 民経済の発展にとって不可欠な政策課題であるとい う明確な意志のもとに、中央政府が山林計画制度を構築しつつ、強カな政策を ー貫 して実行し たこと、 第2に地域住民を森林造成事業に動員するために山林 所有者は勿論のこと、非山林所有者をも組み込んだ山林契を組織するなど、山 林組 合系統組織 の果たし た役割か極めて大きかったこと、第3に山林緑化計画 に対する国民の理解と協力、そして林業関係公務員の粘り強い努力、である。
以上、本研究は短期間で森林緑化に成功したと世界的に評価されている韓国 の森林資源造成政策の実施過程を実証的に分析しており、そこから導き出され る教訓は深刻な森林減少・緑化問題に直面している多くの発展途上国に貴重な 示唆を与えるものであ,る。よって審査員,同は、最終試験の結果と台わせて、
本論 文提出者の 安起完は 博士(農 学)の学 位を受け るのに十分な資格がある ものと認定した。
−719―