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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 千 葉   晋

    学位 論文 題名

  Evolutionary ecology of life history variation in the protandrous shrimp Pa7zdalus latirostris

(雄 性先 熟ホ ッカ イエ ビの 生活 史変異 に関する進化生態学的研究)

学位論文内容の要旨

  ほとん どの 生物 の性 は生 涯を 通し て不 変である。しかし,体が小さい(若令)時に は‥・.方の性での繁殖成功が高く,成長(加令)するにっれて他方の性での繁殖成功が 高 くなる よう な場 合, 一生 涯内 での 性の 逆転,すなわち隣接的雌雄同体(性転換)が 自 然選択 にお いて有利になる。夕ラパエビ科のエビtま雄から雌へと性を変える雄性先 熟 の雌雄 同体 生物 であ る。 この エビ の性 転換のタイミング(サイズ・年令)は個体間 や 個体群 間, 年間 で変 動す るこ とが 知ら れており,古くから進化生態学的説明が試み ら れてき た。 現在 ,こ の現 象に 対し てふ たつの有カな仮説があるものの,どちらにも 明 確な証 拠は ない 。さ らに ,性 転換 の理 論では,雄性先熟生物の大きい雄に進化的メ リ ットは ない と考 えら れて おり ,性 転換 を遅らせたエピが出現する理由も不明のまま で ある。 本研 究で は, ホッ カイ エビ (夕 ラバェピ科)の生活史変異が起こる理由を明 ら か に す る こ と を 目 的 と し ,(1) 生 活 史 ,(2)成 長 と 性 成 熟,(3)性 決 定 機 構 , (4)大型雄の進化的ヌリットについて調べた。

(1)生 活史変 異

  ホ ッ カ イ エピ の生 活史 を調べ るた めに ,北 海道 オホ ーツ ク海 沿岸 の能 取湖 (海 水 湖 ) に お い て, 野外 調査 を4年 間行 った 。能 取湖 のホ ッカイ エピ 個体 群は おお よそ3 つの 年令 群か ら構 成さ れて おり ,そ の生活史には複数のパターンがみられた。ほとん ど の 個 体 は1才 で 雄 と し て 成 熟 し ,2才 で 雌 へ性 転換 した。 しか し, 一部 には0才 で 雄 に な る 早 熟 雄 ,1才 で 雌 に な る 早 熟 雌 ,1才で も成 熟しな い遅 熟雄 ,さ らに ,2才 でも 性転 換し ない 非性 転換 雄も 存在 し,それらの出現率は年間で異なっていた。この

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現象は,他のタラバェビ科のエビ個体群で観察された生活史変異によく似ていた。

  (2)成長と性成熟

  これまで,夕ラノヾエビ科のェピの生活史変異は,エピの性決定機構が原因で引き起 こされると考えられてきた。しかし,一般に生物の体サイズは性成熟に関係している の で , 成 長 の 年 変 動 が 性 成 熟 の タ イ ミ ン グ に 影 響 し て い る か も し れ な い 。   ホッカイエビの成長を野外調査と飼育観察によって調べた。能取湖における本種の 成長に は明確な季 節性がみられ,4月から11月までが成長期だった。成長停滞期は 能取湖の結氷期と密接に対応していた。年令・サイズごとの成長率は若令・小型個体 ほど大きく,各年令群の成長率は体サイズの増加に応じて徐々に小さくぬっていっ た。1才以上の年成長に,前年までの成長は影響していなかった。各年令群の成長量 は 年間 で 大き く 変 化じ , 水温 が 年成 長に強 く影響して いることが 示唆された 。   飼育によって,1才エピの成長を個体別に約4力月間,毎日観察した。その結果,

脱皮当たりの成長率は脱皮前の体サイズによって決まっており,小さい個体ほど大き く成長した。工ピの脱皮t劃固体間で同調的に起こり,潮位周期との間に相関がみられ た。脱皮間隔は成長するにっれて徐々に遅くなっていった。したがって,若令・小型 個 体 ほ ど 性 成 熟 よ り も 成 長 に 多 く の エ ネ ル ギ ー を 配 分 し て い る と い え る 。   成長と性成熟の関係は飼育実験によって確かめた。室内で家系が明確である(同一 母親由来の)幼生をふ化させ,繁殖期までの約4カ月間,餌条件の異なるふたつの実 験区で飼育した。頭胸甲長14nunを越えた個体の一部は精子を形成した。成熟度は家 系間で異なっており,遺伝的要因の影響が示唆された。したがって,ホッカイェビの 0才個体の成熟にはまず成長量が関係し,成熟の個体間変異iま遺伝的要因によって生 じると考えられる。早熟雄の一部は早熟雌になることから,ホッカイエビの生活史変 異の一部には成長と遺伝的要因が関与するといえる。

(3)性決定機構

  過去の研究から,夕ラノヾエビ科の性決定機構に関して対立するふたつの有カな仮説 が提言されている。ひとつは,性転換のタイミングが個体群構造の変動に応じて変わ

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るという環境性決定説である(例:大型・老齢の雌が少なくなると,小型・若令の雌 が増加する)。もうひとっは,エビの性転換のタイミングは遺伝的に決まっており,

その遺伝子型頻度の変動があたかも環境に応じた性決定のようにみえるという遺伝性 決定説である。どちらの説にも明確な証拠はない。

  

ホッカイエビの性決定機構を野外調査と飼育実験から明らかにした。野外訓査は能 取 湖で

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年間行われ,個体群構造(繁殖群の平均サイズ,密度,性比)の年変化 と,その時の性転換サイズを調べた。個体群構造は年間で大きく変動していた。繁殖 時の性比は著しく雄に偏っていたがI雄が性転換することで,雄と雌の割合は徐々に

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に近づいた。しかしI繁殖期直前の漁業活動で|ま大型の個体(雌群)だけが漁 獲され,個体群の性比は再び雄に偏った。性転換サイズは同年と前年の繁殖群の平均 サイズ,さらに前年の性比(雄/雌)に応じて減少していた。すなわち,個体群中に 大型の雌(2才)が少なくなることによって,小型の早熟雌(1才)が増加すると推 察された。この推察を飼育実験によって検証した。飼育実験は未成熟(0才:通常の 場合,翌年に雄として成熟)個体を性比(サイズ比)の異なる環境で飼育し,9カ月 後の性相を比較した。実験の結果,雌(大型個体)が存在しなかった実験区でのみ,

早熟雌が出現した。したがって,ホッカイエビは明らかに個体群構造(環境)を評価 して自分の性を決定しているといえる。しかし,飼育個体の中には環境を評価できな い個体も存在し,環境への応答には個体差がみられた。

  

この結果は,これまでの環境性決定説を証明したと同時に,遺伝性決定説をも支持 するものである。すなわち,環境を評価するエピの性決定機構が遺伝的に決定されて いれば,個体群構造の変動が大きくなるにっれ,環境性決定を行える個体が有利にな るだろう。この時,遺伝性決定説の口ジックは満たされることになる。ホッカイエピ の個体群構造の変動|ま漁業活動によってもたらされており,エピの進化的応答が漁獲 によって引き起こされている可能性が示唆される。

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大型雄の進化的メリット

  

ほとんどの性転換現象はサイズ有利性(体長ともに変化する繁殖成功)モデルで説 明することができる。このモデルでは,雄性先熟生物の雄は,雌として十分な大きさ

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に達し た時点で すく゛に性 転換することを予測している。しかし,野外では性転換を避 ら せた 大型の雄が しばしば 観察され る。雄性 先熱生物 において サイズに応 じた雄の 繁 殖成功 を調べた 例は非常に 少ない。

  ホ ッカ イエピ個体 群にみら れる非性 転換雄の 繁殖成功 を調べる ために,野 外観察と 室 内実 験を行った 。野外観 察の結果 ,複数の 雄が一匹 の雌を巡 って交尾順 位を争う こ と が明 らかになっ た。室内 実験にお いて様々 な大きさ の雄と雌 をぺアにし ,交尾成 功 を べア 間で比較し た。その 結果,小 さな雄で も大きな 雄と同様 に雌を受精 させるこ と が でき た 。し か し ,複 数 の雄 に 一 匹の雌を 争わせた 場合I大型 の雄ほど受 精確率を 増 加 させ ていた。し たがって ,雄の繁 殖成功は サイズに 応じて増 加するとい え,これ ま で の 研 究 で は 雄 の サ イ ズ 有 利 性 を 過 小 評 価 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

く結論>

  ホ ッカ イ エピ の 生 活史 の 年変 異は成 長と個体 群構造の 年変動Iす なわち,後 天的な 要 因によ って引き起 こされて いた。ま た,たと え同じ環 境条件で も,生活史 は個体間 で 異 なっ て い たこ と か ら, 遺 伝的 要 因 もま た 生活 史 変 異に 関与 していると 考えられ る 。した がって,ホ ッカイエ ビの生活 史は遺伝 的に異な っており ,後天的な 要因が影 響 するこ とで,多様 な生活史 バターン が個体群 内に生じ ると推察 される。性 転換を遅 ら せる大 型の雄には 進化的メ リットが あり,性 転換のタ イミング の変動は適 応的なも の で ある と い える 。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 助教授

中尾 菅野 五嶋

     泰次 聖治

    学 位 論 文 題 名

  Evolutionary ecology of lifehiStoryVariation intheprotandrouSShrimpf切 刀 d Z s fZ〆 〇 sケ ぬ

( 雄 性 先 熟 ホ ッ カ イ エ ビ の 生 活 史 変 異 に 関 す る 進 化 生 態 学 的 研 究 )

  本 論 文 は 雄 性 先 熟 の 雌 雄 同 体 種 で あ る ホ ッ カ イ エ ピ に み ら れる 生 活 史 変異 の 実 態 と そ れ が 生 ず る 理 由 に つ い て 成 長 と 性 決 定 機 構 を 野 外 調 査 と 室 内実 験 か ら 検討 し て い る 04章 か ら 構 成 さ れ て お り ` そ の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。

1) 生 活 史 変 異

  北 海 道 オ ホ ー ツ ク 海 沿 岸 の 能 取 湖 の ホ ッ カ イ エ ピ 個 体 群 は お お よ そ3つ の 年 令 群 か ら 構 成 さ れ て お り 、 ほ と ん ど の 個 体 は1才 で 雄 と し て 成 熟 し 、2才 で 雌 へ 性 転 換 し た 。 し か し 、 一 部 に はO才 で 雄 に な る 早 熟 雄 、1才 で 雌 に な る 早 熟 雌 、1才 で も 成 熟 し な い 遅 熟 雄 、 さ ら に2才 で も 性 転 換 し な い 非 性 転 換 雄 も 存 在 し 、 そ れ ら の 出 現 率 は 年 間 で 異 な っ て い た 。

(2)成 長 と 性 成 熟

  本 種 の 成 長 に は 明 確 な 季 節 性 が み ら れ 、4月 か ら11月 ま で が 成 長 期 、12月 か ら3 月 ま で が 成 長 停 滞 期 で あ っ た 。 年 令 ・ サ イ ズ ご と の 成 長 率 は 若 令・ 小 型 個 体ほ ど 大 き く 、 ま た 若 令 ・ 小 型 個 体 ほ ど 性 成 熟 よ り も 成 長 に 多 く の エ ネ ルギ ー を 配 分し て い る 。 ホ ッ カ イ エ ピ のO才 個 体 の 成 熟 に は ま ず 成 長 量 が 関 係 し 、 成 熟 の 個 体 間 変 異 は 遺伝 的 要 因, に よ っ て生 じ る と考 え ら れる 。 早 熟雄 の 一 部は 早 熟 雌に な る こ とか ら 、 ホ ッ カ イ エ ピ の 生 活 史 変 異 の 一 部 に は 成 長 と 遺 伝 的 要 因 が 関 与 す る と い え る 。 (3)性 決 定 機 構

  ホ ッ カ イ エ ピ の 性 決 定 機 構 を 野 外 調 査 と 飼 育 実 験 か ら 明 ら かに し た 。 ホッ カ イ エ ビ は 明 ら か に 個 体 群 構 造 ( 繁 殖 群 の 平 均 サ イ ズ 、 密 度 、 性 比 ) を評 価 し て 自分 の 性 を 決 定 し て い る 。 し か し 、 飼 育 個 体 の 中 に は 個 体 群 構 造 ( 環 境 )を 評 価 で きな い 個

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体も存在し、環境への応答には個体差がみられた。この結果は環境を評価するエビ の性決定機構が遺伝的に決定されていれば個体群構造の変動が大きくなるにつれ、

環境性決定を行える個体が有利になるだろうから、本種の性決定機構には遺伝的性 決定と同時に環境性決定の2つが関与していると言える。ホッカイエビの個体群構 造の変動は漁業活動によってもたらされており、エピの性決定における進化的応答 が 漁 獲 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ る 。

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大型雄の進化的メリット

  

野外では性転換を遅らせた大型の雄がしばしば観察される。この非性転換雄の繁 殖成功を調べた結果、大型の雄ほど受精確率を増加させており、雄サイズ有利性が 明らかとなった。

  

ホッカイエピの生活史変異は成長と個体群構造の変動、すなわち、後天的な要因 によって引き起こされているが、同じ環境条件でも、生活史は個体間で異なってい たことから、遺伝的要因もまた生活史変異に関与していると考えられる。したがっ て、ホッカイエピの生活史は遺伝的に異なっており、後天的な要因が影響すること で多様な生活史変異が個体群内に生じると推測される。漁獲圧の性決定に対する具 体的証明と漁獲量に対する提言のための科学的データや早熟雄が早熟雌になる一連 の過程の証明など残された課題であるが、ホッカイエピの生活史変異が生ずる理由 について環境適応と遺伝的プログラミングの両側面から明らかにした本論文の内容 は高く評価されるもので博士(水産科学)の学位を授与される資格のあるものと 判定した。

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