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紅藻スサビノリ (Porphyra yezoeTzsis Ueda) の 生活環を通した細胞微細構造比較、

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Academic year: 2021

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     博 士( 水 産 科学 ) 植 木知 佳 学 位 論 文題 名

紅藻スサビノリ (Porphyra yezoeTzsis Ueda) の 生活環を通した細胞微細構造比較、

および生殖細胞形成と発生に関する研究 学位論文内容の要旨

    紅色植物門、原始紅藻亜網ウシケノリ目に属するスサビノリ(Porphyra yezoensis Ueda)は海苔養殖現場において代表的な種であり、育種を目的とした研究が古くからなさ れてきた。現在でも栄養実験などの生理学的な研究や分子生物学的な研究が盛んに行われ ている。一方、本種の細胞生物学的な分野における研究例は他の紅藻に比べて報告が少な く、核分裂などの基本的な現象も報告されていないのが現状である。本種の基礎生物学的 な知見が欠如している状況は、応用研究を進める上でいくっかの具体的な生物学的知見に 基づぃた研究戦略の立案を困難にしている。したがって、本研究はスサビノりの生活環を 通して起こる諸現象を細胞微細構造レベルで観察することを目的とし、得られた結果は本 種に関わる基礎生物学の分野の充実だけでをく、海藻を用いた応用研究の礎とすることを 目標とした。以下では本研究において行った研究結果(第2章殻胞子嚢形成に関する培養 実験および色落ちの形態学的観察、第3章配偶体の栄養細胞と有性生殖細胞における微細 構造観察、第4章胞子体の栄養細胞に韜ける基本構造およぴ殻胞子嚢における細胞質分裂 過程、第5章細胞壁に関する組織化学)にっいてまとめた。

    第2章では殻胞子嚢の形成条件について温度条件(5〜25℃)、栄養塩濃度条件(標準 栄養強化 培地としてPES培地を 使用、通常海水100 mlにっき2mlのPES原液を添加)に 関する培養実験を行った。その結果、実験開始25日目頃から殻胞子嚢形成が観察され、50 日目には15℃、1/4 PES  (0.5 ml/100 ml)で最も高密度で殻胞子嚢が形成されたことから、

本条件を最適とした。培地交換することで1週間後に殻胞子の放出が観察できた。以上よ り、アマノリ属植物の胞子形成において重要な要因と報告されている水温、光周期に加え

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て、 培地中の栄 養塩濃度 も重要で あること が明らか となった 。また、配 偶体ならぴに胞子 体を 貧栄養条件 下で培養 すること により藻 体の色落 ちを誘導 し、細胞微 細構造を調べた。

その 結果、どち らにおい ても葉緑 体で最も 大きな変 化が観察 され、ピレ ノイドは縮小し、

チラ コイド膜の 不規則な 融合、圧 着が随所 で起こっ た。この ような構造 の変化はクリプト 藻や 単細胞性紅 藻で観察 されてい ることか ら、貧栄 養状態に おいて細胞 が受けたダメージ のーっであると考えられた。

    第3、4章 では 配 偶 体な ら びに 胞 子 体の 細胞微 細構造の 特徴を記 載した後 に、配偶 体 では 核分裂、胞 子体では 細胞質分 裂、ピッ トプラグ 形成、そ して減数分 裂について観察を 行っ た。生活環 を通した 単胞子、 果胞子、 殻胞子の 形成過程 は、液胞の 縮小やデンプン粒 の増 加などで共 通した現 象であっ た。配偶 体の造精 器細胞で は形成初期 から繊維物質が充 満し た小胞が分 裂極付近 に形成さ れ徐々に 大型化し ていった 。また、葉 緑体が縮小し、デ ンプ ン粒が消失 した。さ らに、そ れに伴う 核分裂で は紅藻の 分裂極に存 在する特徴的な構 造、NAO  (nuclear associated organelle)を構成するりングが終期に複製する様子が観察され た こと か ら 、NAOが細胞周 期を通し て半保存的 な構造で あること が示唆さ れた。さ らに、

スサ ビノリ配偶 体におけ る核分裂 は前中期 から中期 にかけて 紡錘体極で 観察される微細構 造に よって分類 されているPG (polar gap)、PF (polarfenestration)タイプの両方の特徴を 有し ていること が明らか となった 。以上の 結果は、 原始紅藻 亜網と真正 紅藻亜網の中間と い うウ シ ケ ノリ 目 の 系統 的 な位 置 を 示唆 す る分子系 統学的な 報告を支 持するも のであっ た。 本研究では 配偶体の 核分裂期 の微細構 造につい て考察を 行ったが、 今後は胞子体にお いて も核分裂期 の微細構 造を確認 すること で生活環 を通した 特徴付けが 可能になると考え ている。

    胞 子体 で は 栄養 細 胞な ら び に殻 胞 子 嚢の微 細構造を 詳細に記 載した他 に、細胞 質分 裂と ピットプラ グ形成の 過程を観 察した。 細胞質分 裂は細胞 膜が細胞の 内側に向かって陥 入す ることで進 行した。 その後、 細胞質分 裂の途中 にできた 開口部にピ ットプラグが形成 され た。ピッ卜 プラグの縁まで及んでいた細胞膜はキャップ層に沿ってループ状に伸長し、

最終 的にチュー ブ状の膜 とともに ほぼ全体 を覆った 。ウシケ ノりにおい ても同様の構造が 観察 されたこと から、ス サビノり で示唆さ れた細胞 膜の伸長 様式はウシ ケノリ目に共通し た構 造であると 考えられ た。ダル スならび にマキイ トグサで は細胞膜か らニ又分岐したキ ヤ ップ 膜 の 存在 が急速 凍結置換 法を用いて 明らかと なった。 また、胞 子体の細 胞では2種

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類の特徴 的な膜構 造である数 珠状小胞 とロマソ ームが観 察された 。数珠状 小胞は細胞膜が 細胞壁側 に突出す ることで形 成され、 細胞質分 裂時に頻 繁に観察 された。 また、それらが 隔壁に蓄 積したこ とから、細 胞壁形成 への関与 が示唆さ れた。一 方、ロマ ソームは隔壁形 成箇所で はほとん ど観察され なかった が、成熟 した殻胞 子嚢、貧 栄養処理 した胞子体にお いて発達 していた ことから、 細胞の生 存、維持 に関わる 機能を有 している と考えられた。

    次に ス サビ ノ リ 生活 環を 通して染色 体数の計 測を行い 、配偶体 では3本、 果胞子嚢 、 胞子 体 栄養 細 胞 、殻 胞 子 嚢では6本の 染色体が 観察され た。殻胞 子嚢の成 熟過程で 染色体 数が6本 か ら3本に 半 減 し、 殻 胞子 発 芽 体で は 染色 体 数 が3本で あ った こ と 、そ し て 成熟 した殻胞 子嚢にお いて第一減 数分裂前 期に特徴 的な構造 が観察さ れたこと から、スサビノ リ生活環 における 減数分裂は 殻胞子嚢 の成熟過 程におい て起こる ことが示 唆された。しか し、殻胞 子の大き さが均一で なかった ことなど から、殻 胞子の発 芽時にお ける減数分裂を 否定 す るこ と は でき ず 、 今後 は シナ プ ト ネマ 構 造の 出 現時期の 特定をす る必要が ある。

    第5章で は 配偶 体 、 胞子 体 にお い て 細胞 壁 の成 分 と 微細 構 造 が大 き く異 な る こと を 踏まえて 、8種の多 糖染色剤、 レクチン7種を用い た組織化 学的実験 を行った 。その結果、

配偶体で は内部細 胞壁に中性 多糖なら びに硫酸 多糖が他 の多糖に 比べて多 く含まれている ことが明 らかとな った。レク チン標識 ならびに 多糖染色 剤による 結果から 、胞子体は配偶 体よりも 硫酸多糖 を多く含む ことが示 唆された 。また、 単胞子、 果胞子発 芽体においてカ ルコフロールホワイ卜、コンゴーレッドによる染色濃度検定を行った結果、(1→4)‐p‐グル カンなど のセルロ ース性の細 胞壁成分 に量的な 差がある ことが示 唆された 。さらに、レク チンの標 識パター ンおよび透 過型電子 顕微鏡に よる観察 結果から は、単胞 子ならびに果胞 子が着生 直後に形 成する細胞 壁は組織学的、微細構造学的にも同質であることが示された。

しかし、 果胞子の 発芽管に形 成される 細胞壁は 胞子部分 とは大き く異なっ ており、果胞子 発芽 体 は2種の 全 く 異な る 細胞壁をひ とつの細 胞内で分 泌すると いう特徴 的な発生 過程を 経ることが明らかになった。

    以 上 の よ う に 、 本 研 究 で は 生活 環 を 通し て 観察 さ れ る諸 現 象 につ い て形 態 学 的な 種々の手 法を用い て観察を行 い、新し い結果を 明確に示 した。今 後は本研 究で得られた基 礎的なデ ータをも とに、細胞 壁や葉緑 体に関す る生理学 的な研究 を進め、 細胞形態学、生 理学、そ して分子 生物学的結 果を統合 した新た な展開を 試みたい 。また、 世代間における 細胞壁の 組成の違 いについて 行った組 織化学的 な実験手 法、また 海苔藻体 の色落ち状態に

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おける細胞微細構造の変化にっいては水産科学ならびに育種の現場において応用できるよ うな研究を進めていきたぃ。

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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査    教 授    嵯 峨 直 恆 副 査    教 授    本 村 泰 三 副 査    教 授    都 木 靖 彰 副査   准教授   長里千香子 副査    准 教授    三上 浩司

     学 位 論 文 題 名

紅 藻 ス サ ビ ノ リ (Porphyra yezoensis Ueda) の 生活環を通した細胞微細構造比較、

お よび 生 殖 細 胞形 成 と発生 に関す る研究

    海産紅藻スサビノリ(Porp轟卿閂z舶ぬ嫡Ueda)は海苔養殖現場において代表的な種であ り、育種を目的とした研究だけでなく、生理学、分子生物学的な観点から広く研究が行われている。

一方、細胞生物学の分野では核分裂などの基本的な現象も報告されていないのが現状である。本研 究はスサビノりの生活環を通して起こる諸現象を主に電子顕微鏡を用いた細胞微細構造レベルで 観察することを目的として研究を進めている。

    本論文は6つの章より構成され、第1章では全体における緒言を示し、第2章において殻胞 子嚢の形成条件に関する培養実験、ならびに貧栄養処理することで色落ちさせた配偶体、胞子体の 微細構造の変化について調べた。第3章では配偶体の基本的な微細構造の他に、造精器形成に伴う 核分裂について詳細に観察した。第4章では胞子体の微細構造を記載し、殻胞子嚢形成における細 胞質分裂の過程を詳細に観察した。また、染色体の計測、核分裂像を観察して減数分裂の生活環に おける位置について考察した。第5章では第3、4章の結果を踏まえて、多糖染色剤、レクチンを 用いて細胞壁の組織化学的実験を行った。第6章では本研究の総括を行い、スサビノりを用いた将 来の細胞学と水産科学ーの応用に向けた課題と展望について述べた。以下では第2〜5章の詳細につ いて記す。

    第2章では殻胞子の形成条件について温度条件(5〜25℃)、栄養塩濃度条件に関する培養 実験を行った。その結果、実験開始から50日目には15℃、1/4PES培地で最も高密度で殻胞子嚢 が形成された。培地交換することで1週間後に殻胞子の放出が見られた。また、貧栄養処理を施し た配偶体ならびに胞子体では葉緑体の構造が最も大きく変化していた。ピレノイドは縮小し、チラ     ―12n―

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コイド膜の不規則な融合、圧着が随所で観察され、細胞質中のデンプン粒は増加していた。

    第3章において観察した配偶体の造精器細胞では形成初期から繊維物質が充満した小胞が 分裂極付近に形成され、葉緑体の縮小、デンプン粒の消失が観察された。核分裂では紅藻の分裂極 に特徴的な構造であるNAO (nuclear associated organelle)を構成するりングが終期に複製する 様子が観察されたことから、NAOが細胞周期を通して半保存的な構造であることが示唆された。

    第4章では細胞質分裂ならびにピットプラグの形成過程を観察した。細胞質分裂は細胞膜が 内側に向かって陥入することで進行し、その過程においてピットプラグが形成された。その後、ピ ットプラグはループ状に伸長した細胞膜とチューブ状の膜によってほば全体が覆われた。ウシケノ りにおいても同様の構造が観察され、スサビノりで示唆された細胞膜の伸長様式はウシケノリ目に 共通した構造であると考えられた。ダルスとマキイトグサでは細胞膜からニ叉分岐したキャップ膜 の存在が急速凍結置換法を用いて明らかとなった。次にスサビノリ生活環を通して染色体数の計測 を行い、配偶体では3本、果胞子嚢、胞子体栄養細胞、殻胞子嚢では6本の染色体が観察された。

殻胞子嚢の成熟過程で染色体数が6本から3本に半減し、殻胞子発芽体では染色体数が3本であっ たこと、成熟した殻胞子嚢において第一減数分裂前期に特徴的な構造が観察されたことから、スサ ビ ノ リ 生 活 環 に お け る 減 数 分 裂 は 殻 胞 子 嚢 の 成 熟 過 程 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。     第5章では8種の多糖染色剤ならびに7種のレクチンを用いて配偶体、胞子体の細胞壁の違 いを組織化学的に捉えた。配偶体の内部細胞壁には他の多糖よりも中性多糖ならびに硫酸多糖が多 く、外部細胞壁には種々の多糖が含まれていた。一方、胞子体では硫酸多糖が豊富で、セルロース 性の細胞壁成分が配偶体よりも多く含まれていることが明らかにされた。本研究で行った網羅的か つ詳細な形態学的観察の報告は、水産科学の分野では非常に少なく、今後の応用研究の基礎的な知 見となりうる。また、細胞壁の組織化学的な実験手法の確立により育種の現場への応用が期待され る。

    主論 文 は 平 成20年1月21日13時から14時 まで 第二 研究 棟特 別講 義室 にお いて 、審 査 員および関連教員16名および一般聴講22名出席のもと発表された。一般聴講においては、造精器 細胞に形成される繊維物質を含んだ小胞の内容物が精子外被の粘質多糖の成分になる経緯につい て、造果器細胞に見られる受精突起の位置、そして殻胞子嚢から殻胞子が放出される時にはどのよ うにしてピットプラグから離れるのかについて質疑・応答がなされた。また、審査員および関連教 員においては、受精突起に付着した精子が核分裂が完了した際にいくつの精子核が造果器細胞内に 進入するのか、細胞質分裂の特徴は他の紅藻と比べて系統的に関連性があるのか等について質疑・

応答がなされた。また、本研究は今後進められる様々な研究の基礎的な知見として十分な価値があ り、そして造精器細胞の内部細胞壁で見られた変化について組織化学的な研究を進めることで水産 科学に応用できるなどのコメントがなされた。これらの研究で得られた結果は本種の基礎生物学の 分野の充実だけでなく、今後の海藻を用いた応用研究の発展に資するところ大と判断し、博士(水 産科学)の学位を授与される資格のあるものと判定した。

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