博士(医学) 田邉 起 学位論文題名
ABO 血液型不適合移植腎組織における血管内皮 Chimerism の 討
学位論文内容の要旨
【 背 景 と 目 的 】
血 管 内 皮Chimerismと は 移 植 臓 器 の 血 管 内 皮 に お い て ド ナ ー 細 胞 が レ シ ピ ェ ン ト 細 胞 に 置 換 さ れ る 現 象 で 、 古 く に は こ の 現 象 は 寛 容 の 誘 導 と 仮 説 が な さ れ 、 移 植 片 に 良 好 な 結 果 を も た ら す も の と 考 え ら れ て い た 。 し か し 現 在 で は 血 管 内 皮Chimerismの 検 出 と 解 釈 は 困 難 で あ り 、 予 後 と は 無 関 係 と 結 論 づ け ら れ て い る 。ABO不 適 合 腎 移 植 は 容 易 に 血 管 内 皮Chimerismを 検 出 す る こ と が 可 能 で あ る 。 本 研 究 で はABO血 液 型 不 適 合 移 植 の 腎 生 検 検 体 と 抗 血 液 型 抗 体 の 免 疫 組 織 染 色 を 用 い て 、 血 管 内 皮Chimerismを 検 出 し た 。 ま た 、 Chimerismを 起 こ し て い る 症 例 が 血 管 内 皮 障 害 を 受 け た 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 や CalcineurinInhibitors (CNI)に よ る 慢 性 血 管 毒 性 の 症 例 に 多 い こ と を っ き と め 、 そ の 予 後 を 検 討 し た 。
【 対 象 と 方 法 】
ABO不 適 合 腎 移 植 症 例 の A型 か らB型 の 28例 、 B型 か ら A型 の21例 の 計49例 の 移 植 腎 生 検 を 使 用 し た 。 免 疫 組 織 染 色 は 抗A型 抗 体 と し てAbcam社 、Blood Group AAntigen antibody(HE‑193)を 、 抗 B型 抗 体 と し て Abcam社 、 Blood GroupBAntigen antibody(HEB‑29)を 用 い た 。fluorescenceinsitu hybridization (FISH)法 は プ ロ ー ブ と し てAbbott社 、CEP X/Y DNA Probe Kitを 用 い た 。 血 管 内 皮Chimerismの 判 定 は 患 者 背 景 を 知 ら な ぃ2名 の 病 理 医 に よ り 行 わ れ た 。 ド ナ ー の 腎 組 織 に レ シ ピ ェ ン 卜 の 抗 血 液 型 抗 体 陽 性 の 血 管 内 皮 を 認 め た 場 合 にChimerism有 り と 判 定 し た 。 実 際 の 臨 床 病 理 診 断 と Chimerismの 関 係 を 検 討 し た 。
【 結 果 】
49例 の 腎 生 検 採 取 時 期 は 中 央 値21ケ 月 (10月 か ら226ケ 月 ) で あ っ た 。 フ オ ロ ー 期 間 中 に9例 (18.4% ) が 移 植 腎 機 能 を 喪 失 し て い た 。49例 の 最 終 病 理 診 断 は 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 が9例 、 ボ ー ダ ー ラ イ ン のT細 胞 型 性 拒 絶 反 応 が6例 、 再 発 性IgA腎 症 が3例 、 BK polyomavirus (BKV)腎 症 が1例 、CNIに よ る 慢 性 血 管 毒 性 が5例 、 正 常 も し く は 軽 度 の 尿 細 管 問 質 変 化 例 が25例 で あ っ た 。
Chimerismの 頻 度 は48例 中12例(24.5% ) に 血 管 内 皮Chimerismを 認 め た 。12例 中 7例 が 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 の 症 例 だ っ た 。 ま た 、12例 中8例 が 移 植 腎 機 能 廃 絶 を 認 め て い た 。 Chimerismを 認 め た6症 例 にFISHを 施 行 し た と こ ろChimerismを 認 め た 女 性 腎 の 傍 尿 細 管 毛 細 血 管 内 皮 に 男 性 細 胞 の 発 現 が 確 認 さ れ た 。 臨 床 病 理 診 断 とChimerismの 関 係 を 明 ら か に す る た め に 、 全 体 を5群 に 分 類 し た 。 拒 絶 な し 群25例 ( 拒 絶 な し 症 例 、 軽 度 の 尿 細 管 問 質 線 維 化 症 例 ) 、 抗 体 関 連 型 拒 絶 群9例 ( 急 性 / 慢 性 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 ) 、 T細 胞 関 連 型 拒 絶 群6例 ( ボ ー ダ ー ラ イ ン 変 化 、T細 胞 性 拒 絶 反 応 ) 、 薬 剤 毒 性 群5例 、 そ
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の 他4例(IgA腎 症 、BKV腎 症 ) に 分 類 さ れ た 。 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 群 で9例 中7例(78% ) にChimerismを 認 め て お り 、 他 群 に 比 ベ 有 意 に 多 か っ た (pく0.001)。Chimerism群 と No‑chimerism群 の3年 、5年 、8年 生 着 率 は そ れ ぞ れ83.3%vs.97.1% 、74.1%vs.97.1% 、 症 例 で46.3% %vs.97.1% でChimerism症 例 で 有 意 に 移 植 腎 生 着 率 が 低 下 し て い た 。
【 考 察 】
移 植 組 織 片 が レ シ ピ ェ ン ト 由 来 の 細 胞 に 置 き 換 わ る 現 象 は 、 古 く か ら 寛 容 の 誘 導 と の 仮 説 が な さ れ 、 移 植 腎 に 良 好 な 結 果 を も た ら す と 考 え ら れ え て き た 。 こ れ ま で に 肺 、 肝 臓 、 心 臓 な ど 他 臓 器 に お い て も 同 様 の 現 象 が 報 告 さ れ て き た 。 こ れ ま で の 研 究 で は 血 管 内 皮 Chimerism現 象 が 寛 容 の 誘 導 し 予 後 良 好 を 示 す の か 、 ま た 逆 の サ イ ン な の か 、 ま た は 全 く 無 意 味 な も の な の か は 結 論 が 付 い て い な い 。Chimerismの 検 出 が 困 難 な 理 由 の ー っ は そ の 検 出 法 に あ る 。 多 く の 論 文 でFISH法 で のXY染 色 体 の 検 出 が 行 わ れ て い る 。 す な わ ちXX で 構 成 さ れ る 女 性 の 細 胞 群 か らXYで あ る 男 性 の 細 胞 を 検 出 す る 方 法 で あ る 。 本 研 究 に お い て も 一 部 の 症 例 の 確 認 目 的 でFISH法 を 施 行 し た が 、 移 植 腎 、 特 に 拒 絶 反 応 を 伴 う 症 例 で は 、 も と も と 血 管 内 腔 や 問 質 、 尿 細 管 に 多 数 の レ シ ピ ェ ン ト 由 来 の 浸 潤 細 胞 が あ り 、 血 管 内 皮 細 胞 が 仮 に レ シ ピ ェ ン ト 型 に 置 き 換 わ っ て い て も そ れ を 区 別 す る の は 極 め て 難 し か っ た 。 一 方 、 免 疫 組 織 染 色 は 比 較 的 容 易 で 広 い 視 野 で 観 察 も 可 能 で あ り 、 腎 の 血 液 型 抗 原 の 発 現 部 位 は 腎 血 管 内 皮 、 糸 球 体 内 皮 、 傍 尿 細 管 毛 細 血 管 で 一 定 で あ る こ と コ ン セ ン サ ス が あ り 、ABO不 適 合 腎 移 植 で あ れ ば 容 易 に 血 管 内 皮Chimerismを 検 出 す る こ と が 可 能 で 、 症 例 数 、 生 検 数 の 多 い 本 邦 で は そ の 予 後 と の 関 係 を 示 す こ と が で き る と 考 え ら れ た 。 本 研 究 の 臨 床 病 理 診 断 とChimerismの 関 係 で 示 し た よ う に 、Chimerismは 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 の 症 例 に 多 く 確 認 で き た 。 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 は 抗 血 液 型 抗 体 や 抗HLA型 抗 体 に 代 表 さ れ る ド ナ ー に 対 す る 抗 体 が レ シ ピ ェ ン ト の 内 皮 細 胞 を 傷 害 す る こ と が 診 断 の 条 件 と な っ て い る 。 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 に 対 し て 、 尿 細 管 炎 や 問 質 炎 が 拒 絶 反 応 の 指 標 と な るT細 胞 性 拒 絶 反 応 でChimerismは 認 め な か っ た 。 今 回 対 象 と な っ たT細 胞 性 拒 絶 反 応 は い ず れ も ボ ー ダ ー ラ イ ン 変 化 程 度 の 比 較 的 軽 症 が 拒 絶 反 応 に 多 く て 一 概 に 比 較 で き な い が 、 ド ナ ー に 対 す る 抗 体 を 持 た ず 内 皮 細 胞 が タ ー ゲ ッ ト で は な い こ の 拒 絶 反 応 で は レ シ ピ ェ ン ト 細 胞 に よ る 置 換 が 起 こ ら な い 可 能 性 が あ る 。 ま た 、 有 意 で は な ぃ がCNIに よ る 薬 剤 に よ る 慢 性 血 管 毒 性 症 例 に お い て もChimerismが 確 認 さ れ た 。CNIの 長 期 大 量 投 与 は 、 腎 の 輸 出 入 細 動 脈 の れ ん 縮 を 惹 起 し 、 そ の 結 果 、 細 動 脈 の 障 害 、 細 動 脈 内 皮 の 硝 子 様 変 性 を 起 こ す こ と が 報 告 さ れ て い る 。 こ れ はCNI慢 性 血 管 毒 性 症 例 にChimerismを 認 め た 原 因 と 関 連 す る か も し れ な い が 、CNIの 至 適 投 与 量 が 確 立 さ れ て き た 現 代 に お い て 薬 剤 血 管 毒 性 の 症 例 は 少 な く な っ て お り 、 今 後 の 症 例 の 蓄 積 が 難 し い 。 レ シ ピ ェ ン ト 細 胞 に よ る 置 換 の メ カ ニ ズ ム は ま だ 解 明 さ れ て い な い 。 メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 に お い て は 少 数 の 報 告 で 骨 髄 由 来 細 胞 に よ る り モ デ リ ン グ が 報 告 さ れ て い る が 、 内 皮 細 胞 に お い て は 、 骨 髄 由 来 の 内 皮 前 駆 細 胞 が 内 皮 の 修 復 に 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 さ れ て い る に 過 ぎ な い 。 そ も そ も 対 象 と な る 症 例 が 少 な く 、 診 断 も 難 し い 現 象 に 関 し て 、 ヒ ト 検 体 で の 研 究 に は 限 界 が あ る 。 一 方 、 ラ ッ ト 腎 移 植 の 慢 性 障 害 モ デ ル を 作 成 し 、 平 滑 筋 細 胞 や 小 葉 間 レ ベ ル の 腎 動 脈 内 皮 は ド ナ ー 細 胞 で り モ デ リ ン グ さ れ 、 糸 球 体 内 皮 や 傍 尿 細 管 毛 細 血 管 内 皮 は レ シ ピ エ ン ト 細 胞 に よ ル リ モ デ リ ン グ さ れ る と い う 報 告 が あ る 。
【 結 論 】
血 管 内 皮Chimerismは 寛 容 の 誘 導 を 示 す も の で は な く 、 抗 体 関 連 型 拒 絶 反 応 や 慢 性 血 管 毒 性 に よ る 血 管 内 皮 障 害 の 痕 跡 と 考 え ら れ た 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ABO 血液型不適合移植腎組織における血管内皮 Chimerism の検討
本研 究はABO 血液型 不適合腎 移植に おける血 管内皮細 胞キメ リズムと 移植成 績の関連 を検討したものである。ABO 血液型不適合腎移植は我が国で最も実施数が多く、わが国で本研究 を実施するメリットは高く、臨床への還元も比較的容易な研究領域である。本研究は世界で最も
ABO不適合腎移植の実施数の多い東京女子医大泌尿器科の症例を用いて実施された。症例は解析 が可能 なA 型 からB 型、あ るいはB 型から
A型 への腎移 植の49 例 である。検体は術後腎生検の 組織標本を用いた。キメリズム解析は抗A 、抗B 抗体を用いた免疫組織染色によって行った。ま た性不一致移植例では標準的な性染色体FISH 法も併用された。その結果、血管内皮細胞血液型 キメリズムが12 例に認められ、その部位は糸球体係蹄、傍尿細管毛細管などであった。この結果 は、性染色体FISH 法を同時に施行した例での結果と合致した。次いで血管内皮キメリズムの有 無と移植成績の関連が検討された。その結果、キメリズムの存在は抗体関連拒絶と薬剤毒性の例 で高頻度に認められ、キメリズム陰性例と比較し、腎生着率の有意な低下と関連した。とくに拒 絶原因のうち、抗体拒絶例でABO 型血管内皮細胞キメリズムが高頻度に認められたの対し、一 方で、T 細胞性拒絶例ではキメリズムが認められず、拒絶のメカニズムとの関連が示唆された点 は興味深い。最後に、多変量解析を行うことによって、血管内皮キメリズムは拒絶のりスクであ ることが統計的に確認された。
キメリ ズムと免 疫寛容 の関連性 につい ては1960 年代 から議 論されてきた古典的な研究 課題である。本研究は、ABO 不適合移植という従来にはなかった新しい腎移植技術が臨床応用に 至った現代に、申請者らが開発した新たなキメリズム解析方法を用いることによって、新たな知 見をもたらした。その意味において、臨床に還元できる価値ある研究であると認められる。本研 究によって導き出された結果は、キメリズムはむしろ寛容の破綻に関連するという、最近同様な 成 果 が 報 告 さ れ 始 め て い る も の の 、 従 来 の 概 念 を 覆 す も の で あ っ た 。
今まで のキメリズム研究においては、性染色体FISH 法を用いた方法が標準的であるが、
その精度については従来より疑問視され、移植成績との関連性は不明な点もある。本研究は、世
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界 に 先 駆 け て 血 液 型ABO抗 原 を キ メ リ ズ ム 解 析 に 用 い る 新 技 術 を 駆 使 し た も の で あ り 、 高 い 独 創 的 が 認 め ら れ る 。 性 染 色 体FISH法 に 比 較 し 、 結 果 が 明 瞭 で あ る 点 や 、 性 一 致 移 植 に お い て も 適 応 可 能 な 利 点 が 認 め ら れ た 。 ま たABO型 血 管 内 皮 細 胞 キ メ リ ズ ム の 有 無 に よ っ て 、 移 植 成 績 と の 高 い 関 連 性 が 認 め ら れ 、 臨 床 的 に 意 義 の あ る 成 果 で あ る 。 さ ら に 、ABO不 適 合 腎 移 植 は 国 際 的 に も わ が 国 で 最 も 実 施 数 が 多 い こ と か ら 、 本 研 究 は 申 請 者 の グ ル ー プ に し か 成 し え な い も の で あ る 点 に お い て も 、 国 際 的 に 極 め て 独 創 性 が 高 く 、 世 界 を り ー ド す る 研 究 で あ る と い え る 。 今 後 は こ の 成 果 を さ ら に 展 開 し 、ABO不 適 合 腎 移 植 に お け る 拒 絶 の メ カ ニ ズ ム 解 析 へ と 展 開 す る こ と が 期 待 さ れ る 。 す な わ ち 、 キ メ リ ズ ム の 存 在 が 拒 絶 の メ カ ニ ズ ム 、 と く に 抗 体 拒 絶 に ど の よ う に か か わ っ て い る の か 、ABO不 適 合 腎 移 植 に お い て 特 徴 的 な ア コ モ デ ー シ ョ ン と い う 寛 容 導 入 の メ カ ニ ズ ム と ど う か か わ っ て い く の か な ど 、 今 後 の 研 究 課 題 は 多 い 。 ま た こ の よ う な 臨 床 例 で の 観 察 を よ ル メ カ ニ ス テ ィ ッ ク な 研 究 へ と 昇 華 さ せ る た め に は 動 物 モ デ ル で の 研 究 の 展 開 も 必 要 で あ ろ う 。 こ の よ う な 研 究 の 展 開 はABO不 適 合 腎 移 植 の 成 績 向 上 に 寄 与 す る も の と 考 え ら れ 、 ま た こ こ か ら 得 ら れ る 知 見 は 腎 移 植 分 野 に 留 ま ら ず 、ABO不 適 合 肝 移 植 な ど に も 貢 献 す る も の と 期 待 さ れ る 。 審 査 員 一 同 は 、 申 請 者 の 研 究 計 画 の 立 案 か ら そ の 実 施 に 至 る 過 程 を 含 め 、 本 研 究 の 成 果 を 高 く 評 価 し 、 大 学 院 課 程 に お け る 研 鑽 や 取 得 単 位 な ど も 併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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