博 士 ( 歯 学 ) 谷 詰 直 穂
学 位 論 文 題 名
Toll‑like receptor2 シグナルにおけるSrc ファミ1J ーキナーゼ Lck の役割
学位論文内容の要旨
マク ロファ ージ や樹状 細胞栓 どの抗 原提示 細胞(APC)は 細胞表面あるいはエンドソームに発現しているパタ ーン認識受容体のToll‑like receptor (TLR)等でりポ多糖(LPS),ペプチドグリカン,リポタイコ酸,リポタンパク 質,リポペプチドといった病原体特有の分子構造(PAMPs:pathogen‑associated molecular pattems)を認識するこ とにより微生物の侵入を感知する。その後、微生物を貪食し、エンドソームで分解処理した後、生じたペプチド断 片 をMHC分 子 に 結 合 し た 状 態 で 細 胞 表 面 に 発 現 し ,T細 胞 のT細 胞 受 容 体(TCR)に提 示 す る . 抗原 提 示 の 際 には 、 抗 原 ペプチ ドの結 合したMHC分 子のTCRに よる認 識以外 に、補 助刺 激シグ ナルが 必須で あり、 そ のシ グナル 伝達分 子の発 現はTJ̲Rで制 御され ている 。この ように、TLRは自然免疫だけでなく、自然免疫系と 獲 得 免疫 系 と の 橋 渡し を 媒 介 す る重 要 な レ セ プ ター で あ る 。これ までAPC等 に発現 してい るTLRなどの パ ター ン認識 受容体 の機能 に関 しては 膨大な 研究報 告が なされている.しかしながら,APCにより抗原提示を受 けるT細 胞にもTLRが 発現し ている とい う報告 はある ものの ,その 機能 につい ては不明な点が多く残されてい る.
C57BU6マ ウ ス の 脾 臓 か ら 分離 し たCD4陽 性T細 胞を , 抗CD38抗 体 な ら びにTLR2リ ガ ン ド で あるFSL‑1 のそ れぞれ 単独,あるいはその両方で刺激し,3H̲thymidineの取り込みによりT細胞の増殖を検証したところ,
単独 刺激と 比べ, 共刺激 ではT細胞 の増 殖が相 乗的に 増加す るこ とがわ かった .この ことはCD4陽性T細胞に TI.R2が 発現 してお り,そ のシグ ナルがT細胞のTCRシグナルに影響していることを示唆している.また,1℃R を 介 したCD4陽性T細 胞 の 活性 化 に お いて はLckやFynなど の種々 のSrcファミ リー が関与 してい ること が明 らか にされ ている .そこ で、T細胞 の増殖に対する相乗効果の機構を明らかにするため,本研究では、まず,T 細胞 の活性 化にお いて重 要な 役割を 果たしているSrcファミリーキナーゼのひとっであるLckに注目し,TI.R2 とI瓜のクロストークを検証した.
ヒ ト 胎児 腎 細 胞 由 来 のHDQ93細 胞 に1rIR2遺 伝 子とI瓜 遺 伝 子皿ckt)を そ れ ぞ れ 単 独, あ る い は 同時 に導入し,NF_1毋の活性化をルシフェラーゼレポーター法で評価したところ,予想に反して,kビtの導入により Tu也を 介したNF−1毋の 活性化 が有意 に抑制 され ること がわか った.I瓜 はSH3ドメイン,SH2ドメインおよび キナ ーゼド メインの3つのドメインからなる構造をとり,N末端から505番目のチロシン(Y505)のりン酸化によ りSH2ドメインがループを作り,非活性化型となる.また、Y505のりン酸が外れることにより,直鎖状の活性化型 とな るが,Y394のりン酸化によって生じるキナーゼドメインのコンフォメーション変化でArPの結合部位である K273が表 面に あらわ れ,最 も活性 の高 い状態 にたる .そこ で、TU也シグ ナル抑 制にお けるLckの キナーゼ活 性 の 役 割 を 検証 す る た め ,キ ナ ー ゼ 不 活型 点 変 異 体kkK273Rお よ びkkY394F, 恒 常 的 活 性化 型 点 変 異 体
ー502 ‑
LckY505Fを 作成 し,そ れらの 遺伝子 をHEIく293細胞 に導入 し,ルシフェラーゼアッセイによりFSL‑1刺激によ るNF‑KBの 活性 化 を 調 べ た .そ の 結 果 ,LckK273Rお よびkでn94Fではn.R2シ グナル が抑制 され るもの の,
その 抑制活 性はkk¨に比 べて弱 く,さ らにkkッ05Fの抑制 活性 はkk叫よ りも有 意に 強いこ とがわ かった .こ のこ とはLckのキ ナー ゼ活性 がTIJ也のシ グナル 抑制 に関与 してい ること を示唆 して いる. 次に、Lckの どの 部 位 がnR2シ グ ナル の 抑 制 に 関与 す る の かを 明らか にす るため に,CD4ある いはCD8と のアン カーリ ングに 関 与 するN末 端 か ら5個 の ア ミ ノ酸 を 欠 失 さ せ た変 異 体 遺 伝 子kKd5およ び各ド メイン の欠失 変異 体遺伝 子 kkdsH3,kゼ 譌比,L捌dP1を 作成し ,n R2遺伝子と共にHEK293細胞に導入し,ルシフェラーゼアッセイを試み た . その 結 果 ,kkむH,kkds比 で はkk帆 よ りも有 意に強 い抑 制活性 がみら れた. また ,キナ ーゼド メイン 欠 失 変 具 体I瓜dPlKは 抑 制 活 性 を 示 す も の の、 そ の 程 度 はL欣Mに 比 ぺて 弱 い こ と が わか っ た . こ の結 果 もI瓜 の キ ナ ー ゼ 活 性 が nR2シ グ ナ ル の 抑 制 に 関 与 し て い る こ と を 示 唆 し て い る . 次 に ,I瓜 がTLI也 シ グ ナ ルを 抑 制 す る 機構 を 明 ら か にす る た め ,n.R2とLckと の 会 合の 有 無 を 免 疫 沈 降 法 で 調ぺ た .HElく293細胞 にFRAGタ グ を 付 き1rI風2遺 伝 子 を 導 入 した 細 胞 , ま た,FRA.Gタ グ 付 きn,R2遺 伝 子 お よ び 鷲 憫sタ グ 付 きkkt貴 伝 子 を 同 時 に 導 入 し た 細 胞 を 、 抗FLAG抗 体 で 免 疫 沈 降 し 、 抗FLAG抗 体 お よ び 抗Xl綴s抗 体 を も ちい て ウ エ ス タン ブ ロ ッ ト 法で 発 現 を 調 べ た. そ の 結 果 ,同 時 導 入 し たHEIく293細 胞 で はFSL.1の 刺 激 の 有 無 に 関 わ ら ず 、TLR2とI瓜 と は 会 合し 、 そ の 程 度は FSL‐1の 刺 激 に よ っ て 増 強 さ れる こ と が わ か った , さ ら に ,I瓜 の ど の 部位 がn風2との 会 合 部 位 に関 わ っ て い るか を 明 ら か にす る た め に ,xp鵝ssタ グ 付 き の 先 の点 変 異 体 遺 伝子 お よ び 欠 失変 異 体 とFRAG タ グ を 付 きn,R2遺 伝 子 をHEK293細 胞に 同 時 導 入 し 、会 合 の 有 無 を免 疫 沈 降 法 で調 べ た . そ の結 果 , キ ナ ー ゼ 欠 失 変 異 体kkd1の み がTI R2と 会 合 し て い な い こ と か ら ,I瓜 は キ ナー ゼ ド メ イ ンを 介 し てn.R2と 会合し てい ること が示唆 された .
以上 の結 果から ,TCRを介し たT細胞の 活性化 に関 与するI瓜 は,そ のキナ ーゼド メインでn,R2と会合し,
n.R2の下 流シグ ナル を負に 制御す ること が示唆 され た.I瓜はTCRシ グナル の伝達 に関与し,T細胞の分化,
増殖 などの 調節に 関与 する重 要なSrcファ ミリー キナ ーゼで ある. 本研究 結果 はT細胞の分化,増殖などの調 節 に お け るTI風 とIぷ ;kと の ク ロ ス ト ー ク を 示 唆 す る も の と し て 意 義 深 い も の と 考 え る ,
‑ 503 ‑
学位論 文審査の要旨 主 査 教 授 鄭 漢 忠 副査 教授 柴田健一郎 副 査 教 授 田 村 正 人
学 位 論 文 題 名
Toll‑like receptor2 シグナルにおけるSrc ファミ1J ーキナーゼ Lck の役割
審査は、 上記担当 者による 申請者に 対する提出論文と関連事項についての 口頭試問 により執 り行われ た。審査 を行った 論文の概要は以下の通りである。
TLR
は 自然 免 疫 系で 病 原 体の 侵入 を関知す るだけで なく、T細 胞が中心 的な役 割 を果 た す獲 得 免 疫の 誘 導に お い ても 重 要 な役 割 を果 た し てい る。これま でT
細 胞自 身 もTLR
を 発 現し て いる こ とが明ら かになっ ているが 、T
細胞の 機能にお け るTLR
の 役割 は 不 明な 点 が多 く 残されて いる。本 研究では 、T
細胞受 容体を介 し たT
細 胞 の 活 性 化 にお い て 重要 な 役割 を 果 たし て い るSrcフ ァミ リ ー キナ ー ゼ の ひ と っ で あ るLck
に 注 目 し ,TLR2
とLck
の ク ロ ス ト ー ク を 検 討 し た .C57BL/6
マ ウ ス のCD4
陽 性T
細 胞 を 抗CD3E
抗 体 お よ びTLR2
の り ガ ン ド で あ る りポ ペ プチ ドFSL
−1で刺 激 する と、抗CD3E抗 体またはFSL
―1で単独 刺激した も の と 比 べ 、 共 刺激 し た もの で はCD4
陽 性T
細 胞の 増 殖 が相 乗 的に 増 加 した 。ヒ ト 胎児 腎 細 胞由 来 の
HEK293
細胞にTLR2
遺伝子とLck
野生型遺 伝子(Lck t冫 を それ ぞ れ単 独 , ある い は同 時 に 導入 し ,NF‑EB
の活 性 化 をル シフェ ラーゼレ ポ ータ ー 法で 評 価 した と ころ , 予想に 反して,TLR2
遺伝子を 単独導入 したもの と 比較 し 、TLR2
遺 伝 子 とLck
野 生型 遺 伝 子を 同 時に 導 入 した も のではFSL
−1
刺 激 によ るNF‑
にB
の 活 性 化が 有 意に 抑制され ることが わかった .そこで 、TLR2シ グ ナル 抑 制に お け るLckの キナ ー ゼ活性の 役割を検 証するた め,Lckの各 種欠失 変異体(キナーゼ不活型点変異体LckK273R船よぴLckY394F,恒常的活性化型点変異 体LckY505F
) を 作 製し , それ ら の 遺伝 子 をHEK293細 胞に 導 入し , ル シフ ェ ラ ー ゼア ッ セイ に よ りFSL−1
刺 激に よ るNF
ー だB
の活 性 化 を調 べ た結果, キナー ゼ 活性がLck
によるTLR2シグ ナルの抑 制に部分 的に関与 するとい う結果を 得た。―504―
次 に,
Lck
がTLR2
シグ ナ ルを 抑 制 する 機 構 を明 ら かに す るため,TLR2
とLck との会合 の有無を免 疫沈降法 で調べた .その結 果,キナーゼ欠失変異体LckdPTK のみ がTLR2
と会 合 し てい な いこと から,Lckは キナーゼ ドメイン を介してTLR2
と会合し ていること が示唆さ れた,以 上の 結 果 から ,
TCR
を介 したT
細 胞の活性 化に関与 するLckは, そのキナ ー ゼドメイ ンでTLR2と会合 し,TLR2
の下 流シグナ ルを負に 制御する ことが示 唆さ れた.論 文審査にあ たっては 、申請者 による学 位論文要 旨にっい ての説明後 、担当 者により研究内容および関連事項にっいての質問を行った。主な質問事項は、1) 自然 免疫と獲 得免疫の クロスト ークの意 味、2)抗
CD3E
抗体を用 いた意味、3
)Tcell
にはTLR4
は出てしヽなしヽのか、4)SH2,SH3ドメインをブロックするとNF―kB の活性は なぜ下がる のか、5)TLR2
とLckの会合 はどのように証明されたのか、6
) TcellにTLR2があ ることを証 明してい るのかな どであった。これらの質問に 対し ては申請 者から適 切かつ明 快な回答 およぴ説 明が得ら れ、研究の 立案と遂 行な らびに結 果の収集 とその評 価にっい て、申請 者が十分 な能カを有 している こと が 確認 さ れ た。 本 研究 結 果 はT細胞 の 分化 , 増 殖な ど の 調節にお けるTLR
とLckと のク ロ ス トー ク を示 唆 す るものと して意義 深いもの であること が高く 評価 された。 申請者は 、関連分 野にも幅 広い学識 を有し発 展的研究に も意欲的 であ り、今後 の研究に ついての 将来性も 期待され る。本研 究業績は口 腔外科領 域の みならず 免疫学領 域に寄与 すること 大であり 、博士( 歯学)の学 位に値す るものと認められた。‑ 505―